冒険者専門弁護士   作:マスターBT

15 / 18
後日談的なイチャイチャ


愛するが故に8

「……そのなんだ、色々と悪かったなオーロラ」

 

 無事に恩赦が通り罪を清算したエレンはその後、まだ色々と知っているんじゃないかと暫く聞き込みをされたが知っている事は全て話していた為全てが終わってから二日後には、完全に自由の身となっていた。そんな彼は今、久しぶりにオーロラと一緒に仲良さげに腕を組みながら街中を歩いており、左腕から感じる圧力に無言だったのだが、堪えきれず謝罪を口にする。

 

「怒ってないと言えば嘘になりますけど……でも、こうして隣に戻ってきてくれたからそれで良い」

 

 それを証明するかの如く、より強くエレンの左腕に抱きつくオーロラとその豊満な胸が当たり、暴走しない様に男の理性を総動員するエレン。自分より歳上なのに初心な反応を見せるエレンが可愛く、オーロラは揶揄う様にスルリと更に腕を絡めていく。

 

「歩き辛いから……離れてくれると嬉しいんだが」

 

「や」

 

「……そうか。まぁ、それだけ寂しい思いをさせたのは俺だもんな。存分に甘えてくれ」

 

 エレンにとってオーロラは自分を果てのない暗がりから光へと出してくれた恩人である。戦う事しか知らなかった自分に、誰かと話す楽しさを、誰かと一緒に食事をする楽しさを……生きるという美しさを教えてくれた掛け替えの無い人だ。

 

「あ、うん……」

 

 そんな初心ではあるが真っ直ぐ過ぎる反撃を喰らい顔を真っ赤にするオーロラ。それでも離れる事はなく、むしろ擦り寄る姿は大変可愛らしくそして周囲にいる独り身の男達に血涙を流させ、近くの喫茶店ではブラックコーヒーが飛ぶほど売れていく。

 

「……まぁ、片方は分かる。お前はほぼ俺と同じ歳だろ、十代か?うん?」

 

 そんな中、偶々彼らの進行方向にある大きな時計台の下にリカルドが立っており、思わず彼らを見て呆れた表情を隠そうともせずエレンを見た。すると、エレンは顔を真っ赤にして完全に沈黙する。どうやら、年相応の態度ではない事は自覚していた様だ。

 

「先生、この間はお世話になりました。お陰様で、ワタクシはこうしてエレンと一緒にいられますわ」

 

「おう。騙す形になって悪かったな、貴女が一人になる様に仕向けるにはアレが一番だった」

 

「結果的に全部が解決しましたから構いませんわ。でも、次からはちゃんと説明してくださいね?」

 

 今度はウィンクをしながら楽しげに言うオーロラを見て呆れた顔を浮かべるリカルド。その言葉を発する意味をちゃんと理解しているのか?してないんだろうなと一人で納得しながらも注意という意味で話す。

 

「俺に関わる機会は二度と無い方が良いんだよ。軽度な事件なら別に担当しても構わんが、誰かを騙したりする様な策略を必要とする事件にもう二度と、巻き込まれるなよ。漸く、真っ当に得た幸せだろ」

 

 今回は上手く行ったが、次同じように上手くいく保証はない。今回、オーロラとエレンは仲慎ましく手を繋ぎデートを満喫しているが何か一つでもボタンが掛け違えばその手を繋ぐ相手は居なかったかもしれないのだ。だから、弁護士として楽しい時間に水を差してでも話す必要がある。

 

「確実に助けてやれる保証はない。俺の様な仕事は、進んで助けるのではなく差し伸ばされた手を掴んでから初めて成立する。もしも、お前らが手を差し伸ばす事が出来ない状況になってしまえば、俺は助けてやる事が出来ない。良いか、オーロラ嬢、そしてエレン。今回の事を教訓にしてどうすれば事件や人の悪意と関わらずに済むかよく考えて生きろ、それでもどうして無理だってなったら手を伸ばせまた掴んでやるから」

 

 貴族令嬢と元奴隷の冒険者。

 この先も運命を共にし寄り添いながら生きていくのなら様々な問題が降り掛かる事になるだろう。その時に悪意を避ける事を考えずに動いていれば待ち受ける未来は破滅でしかないとリカルドは思っている。だからこそ、初めから頼るのではなく自らの力で回避する術を身に付けろと空気も読まずに伝えたのだ。

 

「……折角、楽しい時間に説教なんてして悪かったな」

 

 故に次の反応をリカルドは予想していなかった。

 

「ふふっ、本当に良い人ですねリカルドさん。エレンもそう思うでしょう?」

 

「あぁ。目付きと口は悪いが、本心から他人の事を考えてくれる良い人だ」

 

 オーロラとエレンは笑っていた。決して聞いていて面白くも楽しくもない話をした自覚のあるリカルドはその反応にポカンとしてしまうが、ちょうどそのタイミングで彼が待っていた人物がやってくる。

 

「ごめーん、リカルド!ちょっと遅れたー……って、あなた達はオーロラさんにエレンさん?」

 

 突然の追加仕事というなんともギルド職員らしい理由で遅れたフィッシュテールになっている薄い青色のドレスを着たミライが、少し走ってきたのだろう。ほんのり頬を赤くしながらリカルドの横に並ぶ。大きな時計台という待ち合わせがしやすい場所にリカルドが一人で立っていた理由が彼女だったのだろう。

 

「ミライさん!?え、お二人はそういうご関係でしたの!?」

 

「あまりそういうのは聞くものではないと思うぞオーロラ」

 

「だって!エレンだって気になるでしょう?ミライさんと言えば、うちのギルドで一番人気のある受付嬢でしてよ!浮ついた話なんて全然聞かなかったんですけど、まさかまさかですわ」

 

 盛り上がっていくオーロラを見てリカルドとミライは一瞬視線を交差させると、口を開く。

 

「違うぞ、彼女にはお前らの事件の時に調べる事柄を任せてな。そのお礼に食事を奢るだけだ」

 

「そうですよ。しなくて良い仕事をさせられたからそのお詫び。それ以上の意味はありません」

 

 間違った事は言っておらず、リカルドは真顔でミライは受付嬢として培った笑顔で返答すればお互いに男女として相手を見ていると思われる事はないだろう。現にオーロラはすっかり騙されたようで勘違いしましたーと言っており、それをエレンが怪訝そうな顔で見ていたがリカルドは軽く睨んで黙らせるという一幕があった。

 

「デートの邪魔をする訳にもいかんな。じゃあな、もう二度と厄介事に巻き込まれるなよ」

 

「はい!お世話になりましたわ!」

 

 歩き出したリカルドの背を追い、二人に一礼をしてミライが追いかけていく。とは言え、走るというよりほんの少しだけ早足になった程度でリカルドの横に並び、また楽しげに話し出す姿を見ながらエレンが呟く。

 

「……あれで付き合ってないのは嘘だろ」

 

「え?本人達も否定していましたよ。って、そんな事よりワタクシ達はワタクシ達のデートを楽しみましょう!」

 

「うおっ!?急に引っ張るなって!分かった分かった、ちゃんと行くから」

 

 相変わらずの馬鹿力に引き摺られるように彼らは街の喧騒の中へと消えていくのだった。それはきっと、当たり前の様に過ごせる人には何一つとして有り難みのない時間かもしれないが、普通にただ寄り添いながら街中を歩く。ただそれだけで、彼等には特別で輝く宝石の様な時間と言える事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、そうだ。本当は店に着いてからと思ったが、彼等と会った事だし今ここで礼を言おうか。今回の事件は助かったよ、ありがとう」

 

「えぇ、今回はそのお礼だから構わないけど。どうして今それを?」

 

 情報のお礼ならこれから行く場所で十分の筈だし……彼等に会ったからってのが特別な理由になるお礼ってなんだろ。んー、分かんない。そんな事を考えていると彼は何処となく悪戯っぽい笑みを浮かべながらってえぇ!?

 

「きゅ、急に手を取ってど、どうしたの??」

 

 スルッと私の左手を取って指一本一本を触れていくリカルドにどんどん体温が上がっていくのを自覚して恥ずかしくなってくる。

 

「お前に言われて指輪の意味、調べたんだ。薬指くらいしか意味は知らなかったが、男避けになる場所とか調べてる内に詳しくなったよ。お陰で、エイダン辺境伯の合図にも気付けた、だからありがとうミライ」

 

 そう言ってフッと微笑むリカルドの顔は普段の悪人面とは違って柔らかい顔だった。ズルいなぁ……本当にそういうところが狡いよ君。私が男避けを頼むまでその意味すらもよく理解していなかった事に怒りたい気持ちもあるけど、そんな顔で微笑まれたらなんか全部どうでも良くなっちゃうじゃん。

 

「どーいたしまして♪ふふっ、やっぱり顔に似合わず真面目だねリカルド」

 

「おうこらどういう事だ」

 

 ジトっと睨みつけてくる彼の視線を独り占めしたくてタタっと前に走ると僅かに遅れながら後を追いかけてくるリカルド。彼等みたいに寄り添うほど、距離は近くないけど私と彼の距離はこれが今のところ一番しっくりくると思う。

 

「ほら、早く行こー。予約した時間に遅れちゃうよ!」

 

「遅れたのはお前だろうに。転けるなよ」

 

 ──人の時間は決して長くない。だからこそ、愛する人と過ごすその時間は何物にも変えられない宝になるのだろう。




感想など待ってます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。