冒険者専門弁護士   作:マスターBT

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今度の事件は、前後編になる予定!さっくり感覚で楽しんでくださいな


金は天下の回りもの 前編

「……先生」

 

「言いたい事は分かる。けど、言うなよ」

 

 かつてないほどの書類の束が散見されるリカルド弁護士事務所にて死んだ魚の様な目をしながら、書類を捌いているアルトとリカルド。仕事人間の二人なので、普段は書類が溜まりに溜まって埋もれるという事態は早々起きないのだが、とある理由がありこの様な惨状となってしまっている。

 

「ここ最近、軽度な事件が多すぎませんか…!なんですかこれに至っては、『他人の家に堂々と入り込んで壺やら箪笥を漁る冒険者からの弁護依頼』とかする訳ないじゃないですか。どう考えても依頼主が有責ですよね!?」

 

「そういう分かりきったのも一応、本人の下調べをしなきゃならないんだ。本当に……ギルドは人手が足りんからな」

 

「多分、先生が真面目すぎるだけですって……」

 

「仕方ないだろ……規則で『弁護士は信用の足る冒険者の味方であれ』ってのがあるんだから。信用できるかどうか調べなければ仕事にならん」

 

「壺漁りや、落とし物漁り、依頼無視冒険とかもう犯してる罪が信用に足らない証明じゃないんですか……」

 

 口を動かしながらも手を並行して動かしている為、書類を捌く速度は下がってはいないが代わりにメンタル的なものがゴリゴリと削られていく音を幻聴するアルト。このままじゃ不味いと喝を入れる為に淹れておいた珈琲に手を付けるが、見事に冷めきっており美味しくない苦味が口に広がり思わず顔を顰めた。

 ──そう、彼等が書類地獄に陥っている要因はここ最近、やたらと軽度な事件が多い為だ。明らかに有責がどちらか分かりきっている事件なのだが弁護士という立場上、有罪という判決が出るまでは弁護依頼が出されればその冒険者がどの様な人間が調べなければならず結果的に仕事を拒否するにしてもギルドから取り寄せた書類なので忙殺されるのだ。

 

「そう言えばアイゼンベルク辺境伯が、今度パーティを開くから是非参加してくれって言ってましたよ」

 

「そうか。あんまり得意ではないが、参加しない訳にもいかないだろう。アルト、お前もパーティーに着ていく服を見繕っておけよ」

 

 死んだ魚の目こそしているがアルト以上の速度で書類を捌きながら返答するリカルドは、今度は何を雑談という形で相談させられるのか考え更に目が死んでいく。オーロラから端を発した事件を解決してから一週間後には呼び出され、お礼を言われた後にこう相談されたのだ。

 

『ものは相談なのだが、俺はあまり内政や書類仕事は得意ではない。然りとてこの地域の連中は大分俺に心酔してる奴らが多くてな何を問うても、はいと返す事が多い。故に外部協力者として相談に乗ってくれんか?』

 

 法を遵守する立場として国が敷いた仕組みを頭に入れているリカルドは、この願いに一つ返事で了承したもののアイゼンベルク辺境伯の言葉に偽りはなく一週間に一度の割合には書類が届き、彼の相談事の相手をしていたのだ。そんな事を二ヶ月もしていればパーティーがその名を利用した物だと容易に察する事が出来る。

 そんな時に事務所に訪ねてくる者が現れた。

 

「えーと……すまんのだが、ちょいと話いいかのぅ?」

 

 ゆっくりと扉が開かれ、入ってきたのは背の小さくずんぐりとした所謂寸胴の様な体格をし黒い着物を着ているドワーフの女性だった。部屋に広がる紙の束を見て、黄色の瞳を丸くしながら問うと、死んだ魚の様な目をした二人と目が合い思わず後ずさる。

 

「あー……その、忙しい様ならまた明日でも構わんのじゃが」

 

「……構いませんよ。ちょっと散らかってますがどうぞお座りください」

 

 勾留中の依頼者ならまたかと頭を抱えていたが、こうして直接来てくれるのならまだマシとリカルドが促すと書類を踏まない様に気をつけながらドワーフはソファに座り、ふぅと一息を吐く。

 

「どうぞ、珈琲です」

 

「おぉ、感謝致す。ミルクと砂糖も貰えるか?」

 

「良いですよ」

 

 アルトがミルクと砂糖を持ってきて彼女が混ぜ、一口付けてほっこりとした顔になるのを待ってからリカルドは問いかける。

 

「本日はどの様なご用件で?」

 

「っとそうじゃった!そのー、儂は趣味の範疇でな少々賭博を嗜んでおるのだが……」

 

 趣味、少々という単語から似つかわない賭博という言葉にピクっと頬が引き攣るのを感じるリカルド。彼の弁護士としての直感が告げていた──これは、きっと碌でもない要件が出てくると。

 

「借金が膨れ上がってな!助けてくれんかの?」

 

「お帰りは彼方ですよ」

 

 食い気味に彼女が入ってきた入り口を指し示すリカルド。その方向を一度見てから再び、リカルドの方を見てにっこりと笑顔を返された彼女は、もう一度入り口を見て、リカルドを見直し驚きと共に口を開いた。

 

「なんとぉぉ!?た、頼む……せめて話だけでも聞いてくれい!!」

 

 キーンとした高音で叫びながら土下座をする。それを見て、はぁ、とため息を零しながら聞くだけの体制をとるリカルド。

 

「力になれるかは約束しませんからね」

 

「おぉ……それだけでもありがたい。ンンッ、確かに儂は借金を多く背負っておる。もとより、借金を返す為に冒険者になってる身だしの。報酬で借金を返し、また賭博して借金をしておるのじゃがそれ故賭博業界の賭け金の扱いは少々詳しいぞい」

 

 何処に誇るところがあるのか胸を誇らしげに張りながら話す彼女にどんどん呆れていくリカルド達。そんな空気にも気にせず、彼女は話し続けていく。

 

「それで今回、まぁ負けは積んでおったのだがそれにしても借金の膨らみ方が狂っておるのじゃよ。いやぁ、まさか一日返すのが遅れただけで五倍に膨らみ上がっておるとは思わんかったぞ」

 

「それは……借用書は持ってきてますか?」

 

「うむ、あるぞ!」

 

 着物の袖からスッと取り出された紙を受け取り、その中身を読み進めていく。『リュウール・ドレ殿に以下の金額を貸し出す。金貨十枚。なお、返済期限は無期限とする』……明らかに書かなければならない情報量が足りていない。

 

「……疑問には思わなかったのですか?」

 

「いやぁ、すっかり酔っておっての!何せ、酒が飲み放題の賭博であった故!」

 

「色々言いたい事はありますが……分かりました。明らかに違法ではありますので対応致しましょうリュウールさん」

 

 眉間に皺を寄せながら目頭を摘むリカルドがそう言うと、座っていたソファから飛び降り、グイッと顔を近づけるリュウールの顔には満面の笑みが浮かんでおり、彼女が喜んでいるのが分かる。

 

「おぉ、有難い!!いやぁ、何処行っても自業自得と話を聞いてくれんのでなぁ……む?」

 

 リカルドの後ろにある窓に視線を向けるリュウールに釣られる様にアルトも窓から外を見ると顔を青ざめていく。それに疑問を覚えたリカルドが立ち上がり、同じように窓の外を見ると冒険者というには目つきと雰囲気が些か悪すぎる男達が数人、ギルドの前に集まっておりそれに気が付いた冒険者で何やら揉め事を起こしている様だ。

 

「なんだ、お前ら。俺らのギルドを睨み付けやがって、喧嘩なら買うぞ?」

 

「あぁ?テメェんらとこにウチの島で借金こさえた馬鹿が入って行ってんだよ。とっとと、出せや!」

 

 冒険者というのは程度の差はあれ、誰もが屈することのない精神と反骨心を持っているものでまるで威圧するかの如く、立っている男達に黙っているなどという受け手な選択が取れるわけもなく、槍使いの男が食ってかかるとその彼の胸を平手で叩き睨み付ける男。どちらも短気な様で一触即発の空気が両者に流れ始めたのを理解したリカルドが外に出ようとした時、袖を掴まれる。

 

「少々、付き合って貰うぞ弁護士殿。そちらの愛らしい顔の助手よ、お主は自分の足で着いて参れ」

 

「え、ちょ!!待ってください!!」

 

 アルトの返事を聞かず、窓からリカルドを引っ張りながら飛び出すリュウール。弁護士事務所はギルドの二階にある為、このまま落下すれば怪我は間逃れないのだが、落下していく二人は悲鳴をあげる事もなく冷静なままだ。

 

「うぉっ!?」

 

 槍使いの男がいち早く、上から降ってくる二人に気がつき慌てながら下がる。

 

「来たれい、我が駿馬『白詠』!!」

 

 リュウールとリカルドは仲良く地面に叩きつけられる──という事はなく、リュウールの命により此処とは異なる世界に住むとされる霊体の生物が二人のその背に乗せる。白馬と形容するのが正しいその生物の立派な鬣にリュウールとリカルドが掴まると、甲高い咆哮と共に冒険者と男達を置き去りに走り出すのだった。

 

「召喚士……って!待ってくださいよ!!」

 

 その光景に呆気に取られていたアルトも慌てながら風に乗り彼らを追いかける。

 

「クソ……あの女、先に弁護士を確保しやがったか。おいお前ら!戻って頭に報告だ!!」

 

 その光景を見た男達が走ってギルド前から去っていく。ただ一人、何が起きたのかさっぱり分からない槍使いの男がその場で取り残されるのだった。




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