冒険者専門弁護士   作:マスターBT

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凶険無道

「なに、ギルドから正規の金額が支払われない?」

 

 それはとある一つの依頼だった。相変わらず、なんとも言えない事件依頼が多かったがリュウールという人手が増えた事で書類の山を処理することが出来、それまで滞っていた事務所内の掃除などをしていた時に現れたのが今回の依頼者、ブロンズ等級ソロ冒険者となったユウリ・アーノルドだった。ソフィ・リズレイの解雇事件以降、彼は陰鬱な雰囲気になった元パーティメンバー達と共に命じられた賠償金を稼いでいたのだが手元に残る金が僅かばかりという状況に次々と、仲間達は雲隠れ。恐らく、警察組織に捕まったのだろうが結果的に今彼は一人で賠償金の用意に明け暮れていた。

 その事実に初めこそ、機嫌が悪そうな顔をしていたアルトだったが話が進むにつれ同情的な視線へと変わっていきその様子をリカルドに見られ、感情を向け過ぎだと叱られるのだった。

 

「……あぁ。さっきも話したが今、僕は完全なソロで賠償金と日銭を稼いでいる。元々、計算はそんなに得意じゃないんだがそれでも、あの日アンタに言われた様にいつか真っ当に歩ける日が来ると信じてその辺の飯屋で働きながら、短い時間で終わる冒険依頼も熟した。だから、気づいちまったんだ……馬鹿なままだったら分からなかったけど、明らかに冒険の報酬が安いって」

 

 賠償金のシステムとして罰せられた当人が持ち逃げしたり、雲隠れするのも阻止する為に依頼を発注した時点でその報酬の七割が返済金として自動的に充てられる事になっている。これは、冒険者ギルドが事前に報酬金を依頼者から預かり達成報告を受けると共に支払う形式である為可能な事だ。更に冒険者の多くは満足のいく教育を受けていない為に簡単な計算方法すら知らない者達が多く英雄になる夢を純粋に信じていたユウリもこの例に漏れていなかった。

 事実、自分達で計算する必要がないからと多くの冒険者達に受けいられておりギルドを全面的に信用している者達などは泊まっている宿屋の支払いすらギルド経由をしている始末だ。その為、リカルドはもしこれが本当であるのならかなり大きな問題になると理解した。

 

「受けた依頼の証明書は持ってきているか?」

 

「ある。なにを使うか分からなかったから書類関係は全部持ち込んで来た」

 

「賢い判断だ。見してくれ」

 

 リカルドに賢いと言われた事が嬉しかったのかユウリは僅かに笑みを浮かべながら、鞄から丁寧に折り畳まれた書類を手渡す。リカルドが依頼者に対して、敬語を使わず素の状態で話しているのはユウリが此処を訪れた際、自分にその資格は無いと伝えた為だ。ちゃんと事件を受け心を入れ替えた様だ。

 

「なぁ、アルトよ。ギルドが上前を撥ねるとはあり得るのか?此処で、会計士を務めて初めて知ったが随分と面倒な作りになっておる。報酬金などの金はまず全て、ギルド職員のみしか開けられぬ金庫に回収され一時間置きに見張りを入れ替え、朝と夜の二回で金額に変化が無いか三人で確認。無論、次の日はまた別の三人で。そして、払う時も金庫から持ち出した時にその時の見張りが確認し報酬を受け渡す受付嬢が最後の確認をして渡しておる。これを掻い潜る方法なぞ妾には分からんぞ」

 

 リカルドが読み進めていく間、リュウールは叩き込まれた知識から得た疑問点をアルトにぶつける。とは言え、アルトも未だ見習いの身であり即座に返答出来る知識が無いのかしばらく考えてから自信なさげに答えた。

 

「考えたくはないですけど……複数犯の可能性でしょうか。見張り、運び出し、受付の最低三人が共犯であれば可能かと思います」

 

「そうだな。あとは、お前やリュウールの様に魔法の類を悪用しているかだ。視線逸らしとかならまだ良いが、洗脳や成り済ましとなってくると面倒だ。極端な話しだが、犯罪がバレた事を予想し捨て駒を用意し全てそいつの責任にし真犯人は洗脳されていたからと罪を逃れるとかな。……ギルド法第二十一章、第五節『洗脳及びそれに類する魔法により、自我が喪失していた場合その者は無罪とする』これがある以上、逃げ道に使われたら有罪にする事は出来ない」

 

 魔法は大抵の事が出来る万能な力ではあるのだがそれ故、悪用されやすい。洗脳という言葉は聞こえが悪いが戦いの中で、モンスターを混乱させモンスター同士の潰し合いをさせるにはとても有用な魔法ではあるのだ。害があるから禁止するとすれば、そもそも魔法全般が使えなくなってしまう。味方の力を強化してくれる魔法だってその力を悪用すれば、か細い女性でも男性を一方的に殺害する事だって出来てしまうのだから。

 

「……少なくとも言える事は今回の犯人は悪知恵が使えるという事だ。アーノルド、書類を確認したが確かに必要以上に持って行かれている。こちらで関わった受付嬢などは調べるが、君は今まで通りの生活を送ってくれ。もし、俺が想像している様な犯人である場合生活が変わった事や此処に足を運んだ事で逃げ出す算段を立てているかもしれない。そうなってしまえば、犯人を捉え騙し取られた金を回収する事が出来なくなる」

 

「だが、僕の生活はどうすれば良い?これ以上、質を下げるとなると路上生活しか無くなるぞ」

 

「あぁ、その事だが」

 

 そう言ってリカルドは机の引き出しを開ける。その行動に全員が、首を傾げていると彼は財布を取り出しそこからと銀貨五枚と銅貨十枚を取り出し、机の上に並べた。

 

「ざっくりと計算した君の取り分だ。少し、色は付けたがまぁ良いだろう受け取れ」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!?なんで、アンタが……」

 

 まさか自己負担で金を支払われるとは思っていなかったユウリが慌てながらリカルドとの距離を詰める。そんなユウリを見ながら、リカルドは当然といった顔で口を開いた。

 

「今回の事件は我々、ギルド側の不手際だ。俺も同じ、職員である以上無関係と言い切るのは筋が通らん。だが、この悪質さはすぐに解決すると断言は出来ない以上、君の生活を支援するのは当たり前の事だ。安心しろ、事件が解決した時には今回の金額と達成報酬も含めた賠償金を犯人に支払わせる。だから此処は黙って受け取るが良い。これは本来、君が手にしていた筈の金なのだから」

 

 その言葉に反論しようと口を開けたユウリは、すぐに口を閉じた。彼は知っているのだ、今目の前にいる男が今にも道を踏み外そうとしていた己にも手を差し伸べるほどのお人好しである事を。この金を断るには時間でも改変して、生活が苦しいという事を隠し通すしかないだろう。そんな力はユウリにはない。

 

「……分かった」

 

 それでも、底辺な生活をしているとは言え一冒険者として譲れないプライドくらいはある。ユウリは、銀貨四枚と銅貨二枚を受け取りリカルドに背を向けた。

 

「忘れているぞ」

 

「忘れてねぇよ。言ったろ、アンタが色を付けたって。僕だって馬鹿じゃないんだ」

 

 銀貨四枚と銅貨二枚。これが本来のユウリが受け取るべきだった報酬だ。それ以外は、リカルドが色を付けた部分でありそれは一切受け取らないとユウリは示したのだ。プライドという一銭にもならない物の為に受け取れる金を受け取らないその背中を見ながらリカルドはため息を溢しながらも、笑みを浮かべた。

 

「なるほど。確かに、賢くなった様だなユウリ・アーノルド」

 

「保護者面すんな。……兎に角、僕は普段通りにすれば良いんだな?」

 

「あぁ。進展があればアルトか、リュウールから伝える。今日のところは帰ってくれて大丈夫だ」

 

 ずっとリカルドに背を向けたままユウリは外へと歩いて行き、入り口のところで一度立ち止まり右手を落ち着きなく動かした後、決心したのかリカルドの方に向き直る。何か忘れて物でもしたのか?と首を傾げるリカルドを見ながらユウリは一度、大きく深呼吸をした。

 

「……よろしくお願いします。リカルド先生」

 

 そう言って頭を下げる姿にリカルドは目を見開く。困った時に頼る相手だと思われてはいても、嫌われていると思っていたのだからあのプライドの高い、ユウリが頭を下げるとは微塵も予想していなかった。

 

「……えぇ。本件は任せてください、必ず貴方の権利は私が守ってみせます」

 

 弁護士としての言葉で返すとユウリは再び深く頭を下げて出て行った。それを見送ったリカルドは体重を背もたれに大きく預け、ふぅと小さく息を溢す。

 

「汚職……まさか、俺がいるギルドで起きるとはな。忙しくなるぞ、覚悟しておけアルト、リュウール」

 

「はい!」

 

「了解じゃ」

 




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