元帝王はありふれた世界で暴れまくる   作:紙の子

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第15話

フォーレンの街に着いた王牙はハジメ達に買い出しを任せて外でのんびりしていると、何故か疲れたような顔をして戻ってきた。

 

理由を聞くと、街中で問題事を起こし一応キャサリン(婆ちゃん)の手紙を使い支部長と話をして一命を取り留めた。

その後、支部長直々に依頼を頼まれ受けたハジメ達は王牙の元に戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

向かう先は湖の街”ウル”

 

 

 

 

 

 

 

ウルに着いたハジメ達は宿に入り宿泊の手続きをした。

その後食事場の方に向かい歩いていく。

 

「もうユエさん!偶には私と変わっても良いじゃないですか!」

 

「…ダメ!”ハジメ”の彼女は私」

 

「ねぇユエ。僕はまだ恋人になるとは言ってないよ」

 

「…ベリアルは言ってた。混じりあったらそれは恋人だって」

 

「またベリアル変な嘘を……」

 

「……私は信じてる。ハジメは私の彼氏になるって」

 

「いや、ならないからね?

シアも」

 

「えぇーっ!!どうしてですか!?」

 

「どうしてと言われても……」

 

するとカーテンが勢いよく開き目の前には見覚えのある人がいた。

 

「…南雲くん?!」

 

「あ、先生…」

 

「やっぱり…南雲君なんですね…」

 

「いえ、人違いです。では」

 

「へ?」

 

もう会えないと思っていた教え子と奇跡のような再会。感動して、涙腺が緩んだのか、涙目になる愛子。今まで何処にいたのか、一体何があったのか、本当に無事でよかった、と言いたいことは山ほどあるのに言葉にならない。それでも必死に言葉を紡ごうとする愛子に返ってきたのは、全くもって予想外の言葉だった。

 

「ちょっと待って下さい! 南雲君ですよね? 先生のこと先生と呼びましたよね? なぜ、人違いだなんて」

 

ハジメはここでやらかしたと後悔する。

更に周りには生徒もいるのでここまで来たら逃げる事は不可能だと諦める。

 

「……離れて、ハジメが困ってる」

 

「な、何ですか、あなたは? 今、先生は南雲君と大事な話を……」

 

「……なら、少しは落ち着いて」

 

 

冷めた目で自分を睨む美貌の少女に、愛子が僅かに怯む。二人の身長に大差はない。普通に見ればちみっ子同士の喧嘩に見えるだろう。しかし、常に実年齢より下に見られる愛子と見た目に反して妖艶な雰囲気を纏うユエでは、どうしてもユエに怒られる子供(愛子)という構図に見えてしまう。実際、注意しているのはユエの方で、彼女の言葉に自分が暴走気味だった事を自覚し頬を赤らめてハジメからそっと距離をとり、遅まきながら大人の威厳を見せようと背筋を正す愛子は……背伸びした子供のようだった。

 

 

「すいません、取り乱しました。改めて、南雲君ですよね?」

 

今度は、静かな、しかし確信をもった声音で、真っ直ぐに視線を合わせながらハジメに問い直す愛子。そんな愛子を見て、ハジメは、どうせ確信を得ている以上誤魔化したところで何処までも追いかけて来るだろうと確信し、頭をガリガリと掻くと深い溜息と共に肯定した。

 

「はい…久しぶりですね先生」

 

「やっぱり、やっぱり南雲君なんですね……生きていたんですね……」

 

再び涙目になる愛子に、ハジメは特に感慨を抱いた様子もなく肩を竦めた。

 

「まぁ。色々ありましたが、何とか生き残ってますよ」

 

「よかった……本当によかったです!」

 

「ええと、ハジメさん。いいんですか? お知り合いですよね? 多分ですけど……元の世界の……」

 

「まぁね。あっ、注文いいですか?」

 

「南雲君、まだ話は終わっていませんよ。なに、物凄く自然に注文しているんですか。大体、こちらの女性達はどちら様ですか?」

 

愛子の言い分は、その場の全員の気持ちを代弁していたので、ようやくハジメが四ヶ月前に亡くなったと聞いた愛子の教え子であると察した騎士達や、愛子の背後に控える生徒達も、皆一様に「うんうん」と頷き、ハジメの回答を待った。

 

「先生…僕たち丸一日移動してご飯もろくに食べてないんですよ。

せめて食後にしてくれませんか?」

 

ハジメは少し面倒そうに眉をしかめるが、どうせ答えない限り愛子が持ち前の行動力を発揮して喰い下がり、落ち着いて食事も出来ないだろうと想い、仕方なさそうに視線を愛子に戻した。

ハジメが視線をユエとシアに向けると、二人は、ハジメが話す前に、愛子達にとって衝撃的な自己紹介した。

 

「……ユエ」

 

「シアです」

 

「ハジメの女」「ハジメさんの女ですぅ!」

 

「お、女?」

 

愛子が若干どもりながら「えっ? えっ?」とハジメと二人の美少女を交互に見る。上手く情報を処理出来ていないらしい。後ろの生徒達も困惑したように顔を見合わせている。いや、男子生徒は「まさか!」と言った表情でユエとシアを忙しなく交互に見ている。徐々に、その美貌に見蕩れ顔を赤く染めながら。

 

「ねぇ!僕はまだ恋人にするとは言ってないよ?」

 

「……ん。私は妻にすると言われた」

 

「わ、私だって負けていません!ハジメさんにファーストキスだってあげてますから!」

 

シアの〝ファーストキスを奪った〟という発言で、遂に情報処理が追いついたらしく、愛子の声が一段低くなる。愛子の頭の中では、ハジメが二人の美少女を両手に侍らして高笑いしている光景が再生されているようだった。表情がそれを物語っている。

 

顔を真っ赤にして、ハジメの言葉を遮る愛子。その顔は、非行に走る生徒を何としても正道に戻してみせるという決意に満ちていた。そして、〝先生の怒り〟という特大の雷が、ウルの町一番の高級宿に落ちる。

 

「女の子のファーストキスを奪った挙句、ふ、二股なんて! 直ぐに帰ってこなかったのは、遊び歩いていたからなんですか! もしそうなら……許しません! ええ、先生は絶対許しませんよ! お説教です! そこに直りなさい、南雲君!」

 

愛ちゃん先生、激おこである。

 

 

 

 

その後部屋を変えて愛子はハジメに質問をする。

帰ってくる答えはどれもあやふやな答えで愛子からまたもお叱りを受けた。

 

その様子にキレたのは、愛子専属護衛隊隊長のデビッドだ。愛する女性が蔑ろにされていることに耐えられなかったのだろう。拳をテーブルに叩きつけながら大声を上げた。

 

「おい、お前! 愛子が質問しているのだぞ! 真面目に答えろ!」

 

ハジメは、チラリとデビッドを見ると、はぁと溜息を吐いた。

 

「食事中だよ? 行儀よくしてよ」

 

全く相手にされていないことが丸分かりの物言いに、元々、神殿騎士にして重要人物の護衛隊長を任されているということから自然とプライドも高くなっているデビッドは、我慢ならないと顔を真っ赤にした。そして、何を言ってものらりくらりとして明確な答えを返さないハジメから矛先を変え、その視線がシアに向く。

 

「ふん、行儀だと? その言葉、そっくりそのまま返してやる。薄汚い獣風情を人間と同じテーブルに着かせるなど、お前の方が礼儀がなってないな。せめてその醜い耳を切り落としたらどうだ? 少しは人間らしくなるだろう」

 

侮蔑をたっぷりと含んだ眼で睨まれたシアはビクッと体を震わせた。ブルックの町では、宿屋での第一印象や、キャサリンと親しくしていたこと、ハジメの存在もあって、むしろ友好的な人達が多かったし、フューレンでも蔑む目は多かったが、奴隷と認識されていたからか直接的な言葉を浴びせかけられる事はなかった。

つまり、ハジメと旅に出てから初めて、亜人族に対する直接的な差別的言葉の暴力を受けたのである。有象無象の事など気にしないと割り切ったはずだったが、少し、外の世界に慣れてきていたところへの不意打ちだったので、思いの他ダメージがあった。シュンと顔を俯かせるシア。

 

よく見れば、デビッドだけでなく、チェイス達他の騎士達も同じような目でシアを見ている。彼等がいくら愛子達と親しくなろうと、神殿騎士と近衛騎士である。聖教教会や国の中枢に近い人間であり、それは取りも直さず、亜人族に対する差別意識が強いということでもある。何せ、差別的価値観の発信源は、その聖教教会と国なのだから。デビッド達が愛子と関わるようになって、それなりに柔軟な思考が出来るようになったといっても、ほんの数ヶ月程度で変わる程、根の浅い価値観ではないのである。

 

あんまりと言えばあんまりな物言いに、思わず愛子が注意をしようとするが、その前に俯くシアの手を握ったユエが、絶対零度の視線をデビッドに向ける。最高級ビスクドールのような美貌の少女に体の芯まで凍りつきそうな冷ややかな眼を向けられて、デビッドは一瞬たじろぐも、見た目幼さを残す少女に気圧されたことに逆上する。普段ならここまでキレやすい人間ではないのだが、思わず言ってしまった言葉に、愛しい愛子からも非難がましい視線を向けられて軽く我を失っているようだった。

 

「何だ、その眼は? 無礼だぞ! 神の使徒でもないのに、神殿騎士に逆らうのか!」

 

思わず立ち上がるデビッドを、副隊長のチェイスは諌めようとするが、それよりも早く、ユエの言葉が騒然とする場にやけに明瞭に響き渡った。

 

「……小さい男」

 

それは嘲りの言葉。たかが種族の違い如きで喚き立て、少女の視線一つに逆上する器の小ささを嗤う言葉だ。唯でさえ、怒りで冷静さを失っていたデビッドは、よりによって愛子の前で男としての器の小ささを嗤われ完全にキレた。

 

「……異教徒め。そこの獣風情と一緒に地獄へ送ってやる」

 

無表情で静かに呟き、傍らの剣に手をかけるデビッド。突如現れた修羅場に、生徒達はオロオロし、愛子やチェイス達は止めようとする。だが、デビッドは周りの声も聞こえない様子で、遂に鞘から剣を僅かに引き抜いた。

 

その瞬間、

 

 

ドパンッ!!

 

 

乾いた破裂音が〝水妖精の宿〟全体に響きわたり、同時にデビッドは右腕を抑え剣が床に落ちる音が響く。

 

誰もが、今起こった出来事を正しく認識できず硬直する。視線は、跪いているデビッドに向けられたままだ。と、そこへ、大きな破裂音に何事かと、フォスがカーテンを開けて飛び込んできた。そして、目の前の惨状に目を丸くして硬直する。

 

代わりに、フォスが入ってきた事で愛子達が我を取り戻した。デビッドに向けられていた視線は、破裂音の源へと自然に引き寄せられる。

 

其処には、愛子達にとって知識にはあるが、実際には見たことのない、異世界にあるはずのない物、騎士達にとっては完全に未知の物、〝銃〟を座席に座ったまま構えるハジメの姿があった。ドンナーからは白煙が上がっている。

 

「僕はね。君達が何しようが関係ないけど、ユエやシアに危害を加えるなら教会だろうが帝国だろうが、元クラスの生徒だろうが……そこにいる人みたいに容赦なく撃つから」

 

わかったか? そう眼で問いかけるハジメに、誰も何も言えなかった。直接、視線を向けられたチェイス達騎士は、かかるプレッシャーに必死に耐えながら、僅かに頷くので精一杯だった。

 

ハジメは、続いて愛子達にも視線を転じる。愛子は、何も言わない。いや、言えないのだろう。迸る威圧感のせいだけでなく、ハジメの言葉を了承してしまったら何も分からぬまま変わってしまった教え子を放置してしまうことになる。それは、愛子の教師としての矜持が許さなかった。

 

ハジメはため息を付きながらシアの方に視線を向ける。

 

「いいかシア。これが亜人族に向けられる現実だ。気にしていたらキリがないぞ?」

 

「はぃ、そうですよね……わかってはいるのですけど……やっぱり、人間の方には、この耳は気持ち悪いのでしょうね」

自嘲気味に、自分のウサミミを手で撫でながら苦笑いをするシア。そんなシアに、ユエが真っ直ぐな瞳で慰めるように呟く。

 

「……シアのウサミミは可愛い」

 

「ユエさん……そうでしょうか」

 

「……それにハジメはウサミミ大好きだから時々シアの耳を触ってる」

 

「ユエッ!? それは言わない約束だろ!?」

 

「ハ、ハジメさん……私のウサミミお好きだったんですね……えへへ」

 

シアが赤く染まった頬を両手で押さえイヤンイヤンし、頭上のウサミミは「わーい!」と喜びを表現する様にわっさわっさと動く。

 

 

ゾクッ!!

 

 

 

突如扉の方から異様な気配を感じた騎士団と生徒たち。

ハジメ達は気にする気配もなく話をしている。

扉が開き中に入るものがいる。

 

「……戻ったぞハジメ」

 

「あっお帰り……”ベリアル”」

 

ベリアルと言う男はハジメの方に近づき空いている席に堂々と座る。

しかし愛子は顔を見て1人の生徒と気付く。

 

「……もしかして……紅月君?!」

 

『?!』

 

愛子が口にした瞬間騎士団達は慌てて剣を構える。

王牙はそんな中気にせずメニュー表を見て何を食べるか悩んでいる。

 

「……ん?何の用だ?」

 

「貴様!何故ここに居る!!異端者、紅月王牙!!」

 

騎士団長のデビッドが叫ぶ。

しかし彼は右腕から血が流れており使えない状態である。

 

「……なぁハジメ。どちらさん?」

 

「……シアをバカにした聖教騎士の団長だってさ」

 

「ふ~ん……」

 

ベリアルは興味なさげに返事をする。

 

「おい。答えよ!」

 

デビッドは剣を突きつけながら言う。

 

「……おい……黙れ!」

 

王牙の威圧にデビッドは震え剣を落とす。

それはデビッドだけでなくクラスのメンバーや愛子にまで向けられている。

 

「……まぁいいや。ハジメ、ユエ、シア。席を立つぞ。話はそれからする」

 

「分かった。行こうか」

 

ハジメは立ち上がり会計を済ませ余った金は修理費に使ってと言い、ユエとシアもそれに続き出口に向かって歩いていく。

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