元帝王はありふれた世界で暴れまくる   作:紙の子

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第16話

「結局飯食えなかったじゃねぇかぁ!!」

 

王牙は空腹が限界なのかイライラして森林に潜む魔物を殴り倒していく。

ハジメ達は「今は王牙をそっとしておこう」と後ろで王牙の後を着いて行く。

 

 

 

 

その後、満足した王牙が山で遭難している男を見つけたのでさっさと回収して翌日にはフィーレンに帰そうと移動している。

 

「人の気配は感知している。あの滝壺の中にいる」

 

「滝壺の中に?」

 

王牙はユエに指示をして

 

「〝波城〟 〝風壁〟」

 

すると、滝と滝壺の水が、紅海におけるモーセの伝説のように真っ二つに割れ始め、更に、飛び散る水滴は風の壁によって完璧に払われた。高圧縮した水の壁を作る水系魔法の〝波城〟と風系魔法の〝風壁〟である。

 

その空間の一番奥に横倒しになっている男を発見した。傍に寄って確認すると、二十歳くらいの青年とわかった。端正で育ちが良さそうな顔立ちだが、今は青ざめて死人のような顔色をしている。だが、大きな怪我はないし、鞄の中には未だ少量の食料も残っているので、単純に眠っているだけのようだ。顔色が悪いのは、彼がここに一人でいることと関係があるのだろう。

王牙は青年の腹を蹴り上げる。

 

「ぐわっ!!」

 

悲鳴を上げて目を覚まし、腹を両手で抑えながらのたうつ青年。

 

「お前が、ウィル・クデタか? クデタ伯爵家三男の」

 

「いっっ、えっ、君達は一体、どうしてここに……」

 

 

状況を把握出来ていないようで目を白黒させる青年に、王牙はデコピンの形を作って額にゆっくり照準を定めていく。

 

「質問に答えろ。答え以外の言葉を話す度に威力を二割増で上げていくからな」

 

「えっ、えっ!?」

 

「お前は、ウィル・クデタか?」

 

「えっと、うわっ、はい! そうです! 私がウィル・クデタです! はい!」

 

「俺様はベリアル。フューレンのギルド支部長イルワ・チャングからの依頼で捜索に来た」

 

「イルワさんが!? そうですか。あの人が……また借りができてしまったようだ……あの、あなたも有難うございます。イルワさんから依頼を受けるなんてよほどの凄腕なのですね」

 

尊敬を含んだ眼差しと共に礼を言うウィル。

ハジメは何故滝壺にいるのかウィルに質問する。

要約するとこうだ。

 

 

 

ウィル達は五日前、王牙達と同じ山道に入り五合目の少し上辺りで、突然、十体のブルタールと遭遇したらしい。流石に、その数のブルタールと遭遇戦は勘弁だと、ウィル達は撤退に移ったらしいのだが、襲い来るブルタールを捌いているうちに数がどんどん増えていき、気がつけば六合目の例の川にいた。そこで、ブルタールの群れに囲まれ、包囲網を脱出するために、盾役と軽戦士の二人が犠牲になったのだという。それから、追い立てられながら大きな川に出たところで、前方に絶望が現れた。

 

漆黒の竜だったらしい。その黒竜は、ウィル達が川沿いに出てくるや否や、特大のブレスを吐き、その攻撃でウィルは吹き飛ばされ川に転落。流されながら見た限りでは、そのブレスで一人が跡形もなく消え去り、残り二人も後門のブルタール、前門の竜に挟撃されていたという。

 

ウィルは、流されるまま滝壺に落ち、偶然見つけた洞窟に進み空洞に身を隠していたらしい。

 

「さて、ウィルは見つかったはいいが……邪魔者が来たみたいだな」

 

「グゥルルルル」

 

低い唸り声を上げ、漆黒の鱗で全身を覆い、翼をはためかせながら空中より金の眼で睥睨する……それはまさしく〝竜〟だった。

 

 

 

 

 

 

 

「おいハジメ!竜だぜ!捕まえてようぜ!」

 

王牙は目の前の黒竜を捕まえようと腕を回す。

ハジメはまた無茶をとため息しながら警戒する。

 

「グルァアアッ!!」

 

竜が、空気を震わせるような強烈な雄叫びを上げた。

ビリビリと肌を刺激するような凄まじいプレッシャーが周囲に撒き散らされる。どうやらこの竜は普通ではないようだ。

ウィルが怯えたように後退りする。

 

「いいねぇ〜!益々欲しくなった〜」

 

王牙は嬉々とした表情で戦闘態勢を取る。

竜は口を開き火炎が玉になっていく。

そして、その炎弾は勢いよく撃ち出された。

 

「おぉ~!すげぇ威力!」

 

しかし、それを王牙はベリアルの姿に変身して掴み取った。

 

「あぁ?こんなもんか」

 

そのまま握り潰すと、手のひらから煙が出ている。

ウィルは唖然と…と言うか気絶しておりハジメは平然と見つめていた。

 

「さぁこいよ。俺様が相手になってやる」

 

王牙は挑発するように手招きをする。

 

「ガァッ!!」

 

それに呼応するかのように、再び火炎球を撃ち出す。

今度は数個同時に放たれた。

 

「ふぅん、まあまあってところかな」

 

王牙は軽く避けると、竜に向かって走り出した。

 

「はっ!」

 

王牙の拳は黒竜の顔面にクリーンヒット。

 

「ギュラォオ!!」

 

「おっと」

 

王牙は竜の顎を掴み、地面に向けて叩きつける。

 

「こいつをプレゼントしてやる」

 

王牙はそのまま踵落としを決め、地面に突き刺した。

その衝撃で地面が大きく揺れ、亀裂が入る。

 

「グルルル!!」

 

「ほれ、もう一発」

 

王牙が飛び上がると、竜の頭に蹴りを入れる。

 

「…なるほどな…」

 

王牙は竜から距離を取る。竜の頭にはヒビが入っていた。

 

「さ〜て、目を覚ましただろ?」

 

『う〜顎が痛い…』

 

「俺様に喧嘩を売ったんだ、催眠されてようが容赦しねぇ」

 

突然喋りだした竜に驚きながらもユエだけはすぐに戻る。

 

「…まさか竜人族」

 

『……如何にも。妾は誇り高き竜人族の一人じゃ。色々事情があってのぅ』

 

竜人族のティオの話を要約するとこうだ。

 

 ティオは、ある目的の為に竜人族の隠れ里を飛び出して来たらしい。その目的とは、異世界からの来訪者について調べるというものだ。詳細は省かれたが、竜人族の中には魔力感知に優れた者がおり、数ヶ月前に大魔力の放出と、何かがこの世界にやって来た事を感知したらしい。

 

竜人族は表舞台には関わらないという種族の掟があるらしいのだが、流石にこの未知の来訪者の件を何も知らないまま放置するのは、自分達にとっても不味いのではないかと議論を重ね、その末に遂に調査の決定がなされたそうだ。

 

ティオは、その調査の目的で集落から出てきたらしい。本来なら山脈を越えた後は人型で市井に紛れ込み、竜人族である事を秘匿して情報収集に励むつもりだったのだが、その前に一度しっかり休息をと思いこの【北の山脈地帯】の一つ目の山脈と二つ目の山脈の中間辺りで休んでいたらしい。当然周囲には魔物もいるので、竜人族の代名詞たる固有魔術“竜化”により黒竜状態になって。

 

暫くして。睡眠状態に入ったティオの前に、黒いローブを頭からすっぽりと被った一人の男が現れた。その男は、眠るティオに洗脳や暗示等の闇系魔術を多用して徐々にその思考と精神を蝕んでいった。

 

当然、そんな事をされれば起きて反撃するのが普通だ。だが、ここで竜人族の悪癖が出る。

 

 そう。例の諺の元にもなった様に、竜化して睡眠状態に入った竜人族は、まず起きないのだ。それこそ尻を蹴り飛ばされでもしない限り。それでも竜人族は精神力においても強靭なタフネスを誇るので、そう簡単に操られたりはしない。

 

では何故、ああも完璧に操られたのか。それは……

 

『恐ろしい男じゃった、闇系統の魔法に関しては天才と言っていいレベルじゃろうな。そんな男に丸一日かけて間断なく魔法を行使されたのじゃ。いくら妾と言えど、流石に耐えられんかった……』

 

「……何となく察したが俺様には関係ない事だ」

 

王牙は気絶して倒れているウィルを担ぎ下山の準備をする。

 

「あっ!お前そろそろ人の姿になれ!魔力切れるだろ?」

 

『うむ?そうじゃの』

 

途端、ティオはその体を黒色の魔力で繭の様に包まれ、完全に体を覆うとその大きさをスルスルと小さくしていく。そして丁度人が一人入る位の大きさになると、一気に魔力が霧散した。

 

 黒い魔力が晴れたその場には……両足を揃えて崩れ落ち、片手で体を支えながら、驚愕に顔を染める黒髪金眼の美女がいた。腰まである長く艶やかなストレートの黒髪が薄らと紅く染まった頬に張り付いていて、なんとも艶めかしい。

見た目は二十代前半くらい、身長は百七十センチ近くあるだろう。見事なプロポーションを誇っており、息をする度に乱れて肩口まで垂れ下がった衣服から覗く二つの双丘が激しく自己主張し、今にも零れ落ちそうになっている。シアがメロンなら、ティオはスイカであろう。

 

「……面倒をかけた、本当に申し訳ない。改めて、妾の名はティオ・クラルス。最後の竜人族クラルス族の一人じゃ」

 

「おう。俺様は紅月王牙。後ろにいるのは南雲ハジメ。ユエ、シアだ」

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

「……ん」

 

「よろしくお願いします!」

 

3人は挨拶を済ませる。

そしてハジメは何故か赤くして視線を外している。

 

「ははぁ〜なるほどな〜」

 

ハジメを見て王牙は良いこと(ハジメからしたら余計な事)を思いついた。

 

「ハジメ、手を貸せ!」

 

「え、は、はい!」

 

ハジメの手首を掴みティオの右手を無理やり掴む。

するとハジメとティオの手の甲が光り謎の紋章が浮かぶ。

 

「よし!これでティオはハジメの使いとなった」

「はい!?」

 

突然の事に驚くハジメ。

ティオも手の甲を見て驚いている。

 

「ちなみに言うがお前らだけでその紋章を消す事は無理だからな〜」

 

ハジメはなんでこんな事したのか聞く。

 

「いいじゃねぇかハジメ〜

ドラゴンメイドが手に入ったんだぞ!」

 

王牙は完全にハジメの好みの女性だと理解した上で従者の契約をさせた。

更にティオは何故かハァハァと息を荒くしている。

…いや違うか、興奮しているのか?

 

「従者の関係……即ち妾はハジメにあんな事やこんな事を……従わないとムチで叩かれるのかぁ〜!!」

 

王牙はティオを見てコイツはやばいのを拾ったかもと少しだけ後悔し、ハジメに任せようと先に下山を始める。

その後を追う様にシア達も続く。

ティオは未だに妄想の世界に入っている為、置いて行かれた事に気づかなかった。

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