元帝王はありふれた世界で暴れまくる   作:紙の子

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第20話

 

 

 

 

「倒壊した建物二十二棟、半壊した建物四十四棟、消滅した建物五棟、死亡が確認されたフリートホーフの構成員九十八名、再起不能四十四名、重傷二十八名、行方不明者百十九名……で? 何か言い訳はあるかい?」

 

 

「カッとなったから計画的にやった。反省も後悔もない」

 

 

「はぁ~~~~~~~~~」

 

 

冒険者ギルドの応接室で、報告書片手にジト目で王牙を睨むイルワだったが、出された茶菓子をハジメの膝に載せた海人族の幼女に譲りモリモリ食べている姿と隣で反省の欠片もない言葉に激しく脱力する。

 

 

「まぁ、やりすぎ感は否めないけど、私達も裏組織に関しては手を焼いていたからね……今回の件は正直助かったといえば助かったとも言える。彼等は明確な証拠を残さず、表向きはまっとうな商売をしているし、仮に違法な現場を検挙してもトカゲの尻尾切りでね……はっきりいって彼等の根絶なんて夢物語というのが現状だった……ただ、これで裏世界の均衡が大きく崩れたからね……はぁ、保安局と連携して冒険者も色々大変になりそうだよ」

 

 

「まぁ、元々、其の辺はフューレンの行政が何とかするところだろ。今回は、たまたま身内にまで手を出されそうだったから、反撃したまでだし……」

 

 

「唯の反撃で、フューレンにおける裏世界三大組織の一つを半日で殲滅かい? ホント、洒落にならないね」

 

 

苦笑いするイルワは、何だか十年くらい一気に年をとったようだ。流石に、ちょっと可哀想なので、王牙はイルワに提案してみる。

 

 

「一応、そういう犯罪者集団が二度と俺様達に手を出さないように、見せしめを兼ねて盛大にやったんだ。支部長も、俺様の名前使ってくれていいんだぞ?…いや、俺様は異端者扱いされてるから… 何なら、支部長お抱えの〝金〟だってことにすれば……相当抑止力になるんじゃないか?」

 

 

「おや、いいのかい? それは凄く助かるのだけど……そういう利用されるようなのは嫌うタイプだろう?」

 

 

王牙の言葉に、意外そうな表情を見せるイルワ。だが、その瞳は「えっ? マジで? 是非!」と雄弁に物語っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、そのミュウ君についてだけど……」

 

 

イルワがはむはむとクッキーを両手で持ってリスのように食べているミュウに視線を向ける。ミュウは、その視線にビクッとなると、またハジメ達と引き離されるのではないかと不安そうにハジメやユエ、シアや王牙を見上げた。

 

 

「こちらで預かって、正規の手続きでエリセンに送還するか、君達に預けて依頼という形で送還してもらうか……二つの方法がある。君達はどっちがいいかな?」

 

 

誘拐された海人族の子を、公的機関に預けなくていいのかと首を傾げる王牙に、イルワが説明するところによると、王牙の〝金〟と今回の暴れっぷりの原因がミュウの保護だったという点から、任せてもいいということになったらしい。

 

 

「王牙……ミュウを預かってもいいかな?」

 

 

「王牙さん……私、絶対、この子を守ってみせます。だから、一緒に……お願いします」

 

 

ハジメとシアが王牙に頭を下げる。どうしても、ミュウが家に帰るまで一緒にいたいようだ。

 

 

「最初からそのつもりで助けたんだろ?ならハジメが責任を持ってミュウを母親まで連れて行けよ」

 

 

「ああ、ありがとう。王牙」

 

 

「あぅ、ありがとです。王牙お兄ちゃん」

 

 

ミュウの頭を撫でる王牙は、どこか嬉しそうだ。

 

 

海上の都市エリセンに行く前に大火山の大迷宮を攻略しなければならないが、王牙は「まぁ、何とかするさ」と内心覚悟を決めてミュウの同行を許す。

 

 

「ただな、ミュウ。そのお兄ちゃんってのは止めてくれないか? 普通にハジメでいい。何というかむず痒いんだよ、その呼び方」

 

 

 喜びを表に抱きついてくるミュウに、照れ隠し半分にそんな事を要求するハジメ。元オタクなだけに〝お兄ちゃん〟という呼び方は……色々とクルものがあるのだ。

 

 ハジメの要求に、ミュウはしばらく首をかしげると、やがて何かに納得したように頷き……ハジメどころかその場の全員の予想を斜め上に行く答えを出した。

 

 

「……パパ」

 

 

「………………な、何だって? 悪い、ミュウ。よく聞こえなかったんだ。もう一度頼む」

 

 

「パパ」

 

 

「……そ、それはあれか? 海人族の言葉で〝お兄ちゃん〟とか〝ハジメ〟という意味か?」

 

 

「ううん。パパはパパなの」

 

 

「うん、ちょっと待とうか」

 

 

ハジメが、目元を手で押さえ揉みほぐしている内に、シアがおずおずとミュウに何故〝パパ〟なのか聞いてみる。すると……

 

 

「ミュウね、パパいないの……ミュウが生まれる前に神様のところにいっちゃったの……キーちゃんにもルーちゃんにもミーちゃんにもいるのにミュウにはいないの……だからお兄ちゃんがパパなの」

 

 

「何となくわかったが、何が〝だから〟何だとツッコミたい。ミュウ。頼むからパパは勘弁してくれ。僕は、まだ17なんだぞ?」

 

 

「やっ、パパなの!」

 

 

「わかった。もうお兄ちゃんでいいから! 贅沢はいわないからパパは止めてくれ!」

 

 

「やっーー!! パパはミュウのパパなのー!」

 

 

その後、あの手この手でミュウの〝パパ〟を撤回させようと試みるが、ミュウ的にお兄ちゃんよりしっくり来たようで意外なほどの強情さを見せて、結局、撤回には至らなかった。こうなったら、もう、エリセンに送り届けた時に母親に説得してもらうしかないと、奈落を出てから一番ダメージを受けたような表情で引き下がったハジメ。

 

 

イルワとの話し合いを終え宿に戻ってからは、誰がミュウに〝ママ〟と呼ばせるかで紛争が勃発し、取り敢えず、ハジメはミュウに悪影響が出そうなティオだけは縛り付けて床に転がしておいた。当然、興奮していたが……

 

 

結局、〝ママ〟は本物のママしかダメらしく、ユエもシアも一応ティオも〝お姉ちゃん〟で落ち着いた。

 

 

王牙は腹を抱えて大笑いしながら隣の就寝部屋に向かって行った。

 

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