王牙達はオルクス大迷宮内を走りながら移動する。
明らかなステータスの違いで最後列の遠藤は息を切らしながら走る。
「おい遠藤!チンたら走るな!」
「お、お前達のステータスが可笑しいんだよ…」
王牙はイライラしながら遠藤の元に走り首元を掴み先頭に戻る。
「チッ……これだからゴミは」
最前線を走る王牙は前回来た時の罠がまだあると分かりわざと起動させ全員ベヒモスがいた橋に転移される。
「ま、待て紅月!またベヒモスが現れるぞ!」
遠藤がそう言うと魔法陣からベヒモスが現れ咆哮を轟かせる。
遠藤は終わりのような顔をしているが
「邪魔だァ!!!」
王牙はベヒモスの顔面を殴ると回転しながらベヒモスは吹き飛び奈落の底に落ちて行った。
迷宮内を走り続けると突然王牙が足を止める。
何故と思ったハジメと遠藤だったが王牙は険しい表情をしている。
「チッ!もう少しで到着だが、真下だからいいか」
王牙はそう言いベリアルの姿に変身、紅黒いエネルギーを右拳に集める。
何をするのか察した遠藤は焦り始める。
「お、おい紅月?!
ま……まさか……」
「そういう事だァ!!」
王牙は地面を殴り大穴を開けて目標地点まで到達した。
香織は怪我をした雫を抱えながら魔物に襲われる寸前、天井が崩壊した。
眼前にいた香織と雫はもちろんのこと、光輝達や彼等を襲っていた魔物達、そして魔人族の女までもが硬直する。
戦場には似つかわしくない静寂が辺りを支配し、誰もが訳も分からず呆然と立ち尽くしていると、崩落した天井から人影が飛び降りてきた。その人物は、香織達に背を向ける形でスタッと軽やかにアハトドの残骸を踏みつけながら降り立つと、周囲を睥睨する。
そして、肩越しに振り返り背後で寄り添い合う香織と雫を見やった。
振り返るその人物と目が合った瞬間、香織の体に電撃が走る。悲しみと共に冷え切っていた心が、いや、もしかしたら大切な人が消えたあの日から凍てついていた心が、突如、火を入れられたように熱を放ち、ドクンッドクンッと激しく脈打ち始めた。
「相変わらずだな……香織、雫」
苦笑いしながら、そんな事をいう彼に、考えるよりも早く香織の心が歓喜で満たされていく。
「……王牙君!」
「王牙くん……」
王牙は雫の傷具合を見て流石に放置できないと亜空間から神水を2本取り出し香織に渡す。
「香織と雫、1本ずつ飲め」
香織と雫はすぐに神水を飲む。
そして穴からハジメ、ユエ、シアが順に飛び降りて来る。
最後に降り立ったのは全身黒装束の少年、遠藤浩介だ。
「あ、紅月ぃ! おまっ! 余波でぶっ飛ばされただろ! ていうか今の何だよ! いきなり迷宮の地面ぶち抜くとか……」
文句を言いながら周囲を見渡した遠藤は、そこに親友達と魔物の群れがいて、硬直しながら自分達を見ていることに気がつき「ぬおっ!」などと奇怪な悲鳴を上げた。そんな遠藤に、再会の喜びとなぜ戻ってきたのかという憤りを半分ずつ含めた声がかかる。
「「浩介!」」
「重吾! 健太郎! 助けを呼んできたぞ!」
〝助けを呼んできた〟その言葉に反応して、光輝達も魔人族の女もようやく我を取り戻した。
「ユエ、悪いがあそこで固まっている奴等の守りを頼む。シア、向こうで倒れている騎士甲冑の男、容態を見てやってくれ。
ハジメは香織と雫を見てくれ」
「ん……任せて」
「了解ですぅ!」
「分かった」
ユエは周囲の魔物をまるで気にした様子もなく悠然と歩みを進め、シアは驚異的な跳躍力で魔物の群れの頭上を一気に飛び越えて倒れ伏すメルドの傍に着地した。
ハジメも王牙の後ろで香織と雫の傍に立つ。
「なぁ〜赤毛の魔人?
悪い事は言わねぇから帰ってくれないか?」
「……何だって?」
もっとも、魔物に囲まれた状態で、普通の人間のする発言ではない。なので、思わずそう聞き返す魔人族の女。それに対して王牙は、呆れた表情で繰り返した。
「戦場での判断は迅速にな。死にたくなければ消えろと言ったんだ。わかったか?」
改めて、聞き間違いではないとわかり、魔人族の女はスっと表情を消すと「殺れ」と王牙を指差し魔物に命令を下した。
その直後背後にキメラが突如姿を現し王牙に襲いかかる。
ぐちゃ!
「オイオイ……こんなものか?」
だが、振り向きざまに裏拳一発で頭を破裂させて吹き飛ばした。
その光景を見た他の魔物達は、一斉に王牙に向かって突進した。
「てめぇーら……邪魔だ!!」
ドガァアアン!!
王牙が地面を殴りつけた瞬間、凄まじい衝撃波が発生し魔物達を吹き飛ばす。
その時、「キュワァアア!」という奇怪な音が突如発生した。王牙がそちらを向くと、六足亀の魔物アブソドが口を大きく開いて王牙の方を向いており、その口の中には純白の光が輝きながら猛烈な勢いで圧縮されているところだった。
周囲数メートルという限定範囲ではあるが、人一人消滅させるには十分以上の威力がある。
その強大な魔力が限界まで圧縮され、次の瞬間、王牙を標的に砲撃となって発射された。射線上の地面を抉り飛ばしながら迫る死の光を王牙は軽々と弾き砲撃を魔人族の女にむけた。
予想外の事態に、慌てて回避行動を取る魔人族の女。
と同時に右頬を衝撃と熱波が通り過ぎ、パッと白い何かが飛び散ったからだ。
方に乗っていた白鴉は胴体を破裂させて一瞬で絶命し、その白い羽を血肉と共に撒き散らした。
王牙は余裕と周りを見るとユエは蒼龍で無詠唱で容赦なく倒し、シアはパイルバンカーで魔物をピンボールの如く吹き飛ばす。
また、香織と雫を狙ってキメラや黒猫が襲いかかった。殺意を撒き散らしながら迫り来る魔物に歯噛みしながら半ばから折れた剣を構えようとする雫だったが、それを制止するように、周囲で浮遊していたソードビットがスっと雫とキメラの間に入り八つ裂きにする。
更に別の場所ではビームを放つビットが魔物の頭を狙い撃ちして浮遊する。
魔物を倒し終わるとビットはハジメの周りを回りながら浮遊していた。
その光景に知識がある香織と雫は驚いた顔をしている。
「雫ちゃん。ハジメ君がニュータイプになっちゃった」
「本当に何機動かしてるのよ……」
どうやら無事みたいなので王牙は魔人族の女の元に向かう。
「さて、誰の命令で動いている?」
「あたしが話すと思うのかい? 人間族の有利になるかもしれないのに? バカにされたもんだね」
王牙はムカついたのか魔人族の女の顔面を殴る。
女は咄嵯に障壁を張って防ごうとしたが、障壁ごと粉砕されて口から血を吐き出す。
「俺様は嘘が嫌いでなぁ〜
もう一度チャンスをやる、誰の命令で動いている?」
再度聞くが口を開く気配がない魔人族の女に王牙は興味を無くし鋭い爪を突きつける。
「いつか、あたしの恋人があんたを殺すよ」
その言葉に、王牙は口元を歪めて不敵な笑みを浮かべる。
「なら次はお前の彼氏を地獄に叩き落としてやるよ」
いざ突き刺そうという瞬間、大声で制止がかかる。
「待て! 待つんだ、紅月! 彼女はもう戦えないんだぞ! 殺す必要はないだろ!」
勇者(馬鹿)の天之河だった。