バーストアーツ?いいえブラッドアーツです。   作:MKeepr

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過去編
AGEになった日


 将来の夢はゴッドイーター。サテライト拠点の一つで私はそんなことを言った覚えがある。両親は「危ないけれど、そんな勇敢なあなたを誇りに思う」そう言って誉めてくれた。慎ましくも幸せを感じる。それが私の世界の全てだった。でも、あの日全てが崩れた。

 災厄だ。今でもその正体が完全には解き明かされていない灰域が私の世界を覆い尽くした。人々は灰となり、父も母も、私の目の前で焼け焦げまるで空気に喰われるかのように消えてしまった。私は何故生きていたのか、わからない。アラガミに襲われて、でもそこにいたゴッドイーターに助けられ、私は現象の中心だったフェンリル本部から逃げる移動要塞の一つに乗せてもらった。当時の子供の私だろうと見捨てなかった欧州の人々にはまだ義があった。でもフェンリルの統治が破綻してそれが消えたのはすぐだった。

 

「クソ、逃げるぞ!」

 

 偶然ユウゴと出会ったのもその頃だった。孤児になった私は、まだ灰域の及んでいない地域で私とユウゴはガラクタの取り合いで取っ組み合いの喧嘩になり、最終的に親友になった。ミナトと呼ばれる灰域からの避難シェルターが完成し人間狩り、正確には孤児狩りが発生した。Adaptive God Eater、対抗適応型ゴッドイーターを生み出す為だ。

 

「大人しくしろ。チョロチョロと逃げ回りやがって」

 

 孤児狩りをしていたゴッドイーターの手は暴れる私とユウゴを万力のように微動だにせず掴んでいた。

 そして、最悪の形で私の夢は叶うことになった。大混乱により持ち主のいない神機を片っ端から検査し、僅かでも適合の可能性があれば即適合試験を実行する。アルコールパッチテスト程度の気軽なものだった。気軽なのは試験ではなく、孤児たちの命だったが。

 

「次はPW01408、お前だ」

 

 引きずられて無理やり座らされたのはバガラリーで出てきた悪役が使う処刑椅子のような代物だった。

 

『AGE適合試験を開始します。気を楽にしてください』

 

 全くもって気を楽にできなさそうな機械音声がそう告げる。

 

『第一段階、喰灰による侵蝕を実行』

 

 左腕に激痛が走る。体の内側から焼き尽くされる細胞一つ一つが悲鳴をあげているかのような痛みで、私は叫ぶこともできなかった。

 

『侵蝕開始を確認。続いて第二段階、神機を実装』

「本部周辺の灰域で発見されたレア物だ。壊すなよ」

 

 神機が迫り出してくる。様子を観察するゴッドイーターが何か言っていたが私にそんな余裕はなかった。少しでも早くこの苦しみから逃れたい、そんな藁にもすがる思いで神機を手に取り、腕輪が右腕に装着され神機と私が接続される。その時異変は起きた。私の視界に赤い稲妻が走り、神機から何かが流れ込んできた。記憶。そう記憶だ。私のものじゃない記憶が私を塗りつぶそうとしていた。身を任せてしまおうか、それこそ脳髄が焼き切れてしまいそうな記憶の濁流の中で諦めかけた私は怒りを覚えた。私以外の全てを全部奪ったのに、私から"私"まで奪うのかと。"私"は渡さない。濁流を意志の力で跳ね除け口の中に血の味が広がった。鼻から血が滴っていた。

 

『最終段階────対抗適応型────細胞を────適性────ございます。あなたは────』

 

 チカチカと視界に星が飛ぶ中、処置はそのまま進んでいき、拘束が解除されて私は椅子から崩れ落ちた。

 

「判定不能……甲判定超えの超レア物だな。おい死ぬなよ、お前の命はミナトの為に使うんだ」

 

 私を気遣っているのではない。このゴッドイーターは希少だから勿体無い程度であることを言外ににおわせていた。一瞬視界が暗転する。

 

【エイジスへの避難は?】

 

 ここではない何処かの景色が見える。神機を持った誰か、焼けた大地で指示を飛ばしていたそれがこちらを向いて目を見開いた。

 

【君は?】

 

 そう一言だけ聴こえて、その景色は消えた。

 

「ボーとするな、早くサインしろ。お前一人に時間をかけてる暇はないんだ」

 

 突きつけられた契約書にサインする以外の手はなかった。

 

「良く生き残ったな。流石だ」

 

 意識を混濁させながら牢屋のような場所に放り込まれる。床と変わらないベットに座らせてもらいしばらく介抱されていたようで気が付いたらユウゴは嬉しそうにいつものように手を合わせようとして、手錠のようになった腕輪を見て悔しそうな顔をした。私はユウゴの腕輪にコツンと自分の腕輪をぶつけて、ユウゴが嬉しそうな顔をして私も思わず笑みが出た。

 その日は固いトウモロコシの塊みたいなのが一つだけ出されて、牢屋の中の面々で分けあった。ベッドも床も変わらないと、足りないベッドを私より年下の子に譲って床に寝転ぶ。

 

「こんなんじゃ腕は貸せないけど、腹なら枕に貸してやるよ」

 

 ユウゴがそう言うので私はありがたくユウゴの腹を枕にして眠りについた。夢の中では今日神機から流れ込んできた記憶を頭が整理しようとしているのか、色々な夢を見た。名前も知らない誰かとの交流や、名前も知らないアラガミたちとの戦い。出会い。別れ。そして緑に溢れ、青々とした空。

 あそこまで素晴らしい景色を、私は知らない。

 

「今日は戦闘訓練だ。全員ついてこい」

 

 翌日、乱雑に神機の保管されたケースを持たされた後私たちはゴッドイーターに連れられペニーウォート近くの平原に放り出された。

 

「こちらアレックス。こいつらの拘束を解除しろ」

『了解。拘束解除を行う』

 

 手錠のようになっていた腕輪が外れ両手が自由になる。一人がそのまま走って逃げようとして、アレックスの神機に撃たれた。怪我はないようだが体が痺れ動けなくなっていた。

 

「誰が勝手に動いていいと言った。今回の訓練はアラガミ退治だ」

 

 痺れて動けないAGEを担ぎ上げると、崖の下へ向けて放り投げた。崖の下の広場には、白い二足歩行のアラガミ、オウガテイルが徘徊していたが、落下してきたAGEを見て咆哮を上げる。構う様子もなくアレックスは話を続ける。

 

「あのアラガミはオウガテイル、小型アラガミだ。あれを倒せた奴にはほうびをや────」

 

 私は神機を引き抜いて走り出した。身の丈に不釣り合いな大きさのロングブレードの切先を地面に擦らせながら、アレックスは切られると思ったか咄嗟に装甲を展開したが私はそれを一瞥することさえなく飛び降りる。体が何故かどう動けばいいのかわかる。神機が与えた記憶が私に力を与えている。私を塗りつぶそうとしたことは忌まわしいが、力として使えるならなんでも使うつもりだ。

 噛みつかれそうになっていたAGEを抱え上げてそのまま横一線、オウガテイルを真っ二つにしてそのまま捕食し破損したコアを摘出する。

 そのまま飛び上がってユウゴ達のところに戻る。

 

「倒した。ご褒美は何?」

「気に入った。そこまで骨のある奴は初めてだ。ご褒美に今日は切り上げていいぞ。ただし────」

 

 神機の装甲部分で頭を思いっきりぶん殴られた。視界がぐらつき、また誰がが神機を握った瞬間が脳裏に浮かぶ。

 

「────命令完了前の独断専行で懲罰房送りだ」

 

 しかしその後はなく、私の意識はそこで途切れた。

 気がつけばほぼ真っ暗闇の懲罰房の中、また手錠になった腕輪を鎖で上に吊るされていた。痛む頭を二の腕で擦ってみればコブができていた。ガチャガチャと鎖が鳴ったのに気がついたのか扉の覗き窓が開いて光が差す。

 

「起きたか」

 

 さっき私を殴ったアレックスの声だった。

 

「アレックス、他のみんなは?」

「その名前で呼ぶな狂犬」

「じゃあなんて呼べばいいの? 教官殿? 私以外のあなたの可愛らしい教え子達はどうなりましたか?」

 

 ガチャンと乱雑に鍵とドアが開けられ、アレックスに顔面を殴られた。元々破れてダメになりかけていたフードが肩に落ちる。

 

「ほう、女だったか。良かったな、化け物とやる趣味のある奴はここにはいない」

「で、なんで呼べばいいの?」

「好きに呼べばいい。だがふざければまたここ送りだ」

 

 ペッと血の混じった唾を吐き出して問い掛ければ、アレックスはまたすぐ扉を閉じて捨て台詞のように呟いて居なくなってしまった。せっかくなら暗闇にしてくれればいいのに覗き窓から光が差し込みっぱなしである。

 目を閉じて思考に耽ろうとして、私は神機を持って記憶が流れ込んだ時あの時歪められてしまったのだと気づく。だけど私は私だ。

 

「おい大丈夫か?」

「ごめん……俺のせいで」

「大丈夫、私がやりたいからやっただけ、でもどうして二人が?」

「アレックスの奴がお前の世話をしたい奴はいるかって聞いてきてな。ほら」

 

 差し出されたコップには水が入っていた。口をつけて、傾けてくれるのに合わせて飲み込む。ぬるい水が胃袋に収まると不思議と活力が湧いてきた。

 

「ありがとう。そういえば名前聞いてなかった」

「俺はジャックだ」

「私はハティ。ユウゴにジャック、他のみんなにも生き延びてって伝えて。今の状況を変える突破口はどこかにあるから、ユウゴやジャックには準備をしてほしい」

「準備ったって何を」

「そりゃもう勉強」

 

 ユウゴはそれを聞いて苦笑して、ジャックはげんなりした顔をした。

 

「知識は力だよ。どうにか勉強して知識をつけないと。私が教えるだけじゃ限界がある」

「いやお前の方が頭悪かったろ」

「今は違うから」

「……まあわかったよ。それじゃお互いまた無事に会おう────死ぬなよ、ハティ」

 

 私は頷いて、ユウゴがゆっくりと扉をしめた。その日、まだ形を持たない願いが、私たちの中で生まれた。

 

「……覗き窓閉めて貰えば良かった」

 

 そう呟いて私は得た記憶を知識に変えるため目を閉じて今度こそ思考に耽った。それが最善の未来に向けてと当時の私は信じていた。

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