バーストアーツ?いいえブラッドアーツです。   作:MKeepr

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仲間を失った日

『新しい灰域濃度はどんな気分だ?  狂犬』

「どうもこうも無いけど。神機の回収の為ツーマンセルが最低単位じゃなかったの? ティーチャー」

『気にするな。お前達AGEの死ぬタイミングは俺が決める。お前は死にそうに無いからな。特別講習というわけだ』

 

 懲罰房に一週間ほどたたき込まれ、そこから出されてしばらくはユウゴ達と一緒に資材集めをしたりしていたが、今は別の仕事につかされていた。そうしてアレックス、本人に言うと嫌がられるからティーチャーと呼ぶべきか、主体で探査ビーコンの設置を行っていた。安全なルートを構築するためのミナト同士の間にある灰域濃度の高い地域を避ける意味もある。だが私の進むルートは灰域の濃い地域だ。

 

『この先は未踏領域だ。探査ビーコンを設置したらさっさと帰還しろ』

「了解」

 

 AGEになる前の私だったら全身使っても運べなかったであろう、神機と大きな荷物を引いて目的地に向かう。灰域濃度が濃いという割にはまだ周辺は多くのペットボトルのゴミや小物が残っていた。最近灰域に飲まれたのだろう。

 

『その辺りだ。設置しろ』

 

 灰域からの保護用カバーを剥がしてスイッチを押すと、ドリルが動作し地面を掘削、ビーコンが灰域の影響の少ない地下へ潜っていく。

 

『お散歩は終わりだ。帰還しろ』

「いや、まだだよ」

 

 咆哮が辺り一帯に響きわたる。喰灰に侵され溶けたようになった瓦礫が振動でべちゃりと崩れ落ちた。紫電が私めがけ飛来するのを神機の装甲を展開して受け止める。

 

『この反応は大型アラガミ……ヴァジュラだ。ぼさっとせず尻尾巻いてさっさと逃げてこい』

 

 その通信を聞いて私は声に出さず笑みを浮かべた。ティーチャーは私やユウゴが求める人材の一人だ。今のペニーウォートには私たちAGEの味方をしてくれる人はいない。消耗品以上の認識はされていないだろう。だがティーチャーは"撤退を促した"のである。灰域濃度が高めとは言えミナト近傍、私が撤退すればヴァジュラもついてきてしまう可能性が高い。普段わたしたちを管理している看守ならそのまま食われろとでも言うだろう。

そしてティーチャーは看守達より立場が上なことは看守達の言葉から盗み聞きして把握している。

 そしてヴァジュラはチャンスでもあると私は確信していた。記憶の中にある知識の一つが告げている。"ヴァジュラを倒せば一人前である"と。ならば一人前と認められればやれることが増えるかもしれない。やれることが増えればごまかしもより効く。

 

「ティーチャーへ、問題なし」

『おい! 貴様命令違反────』

 

 騒がしい通信を切ってヴァジュラと相対する。不意打ちのつもりの雷撃を防がれたのを警戒しているのか、高台から飛び降りて獣らしく低い姿勢をとった。

 神機を構える。背が伸び切ればもっと合理的な隙のない、記憶で見た構えを取れるだろうがけれど、切先が地面に擦らないように少し姿勢を変える。

 再び大気を震わせるような咆哮を合図に発電機関を全開にし、ヴァジュラが赤いマントのような部分を輝かせる。臆せず駆け出し、地面を砕きながら跳躍、インパルスエッジの反動で空中で方向転換、重力加速を混ぜて神機を振り抜く。ヴァジュラの尾を結合崩壊させ両断、悲鳴を上げながら身体を振り回しそのままの勢いを持った固い前足と爪が横薙ぎに振るわれる。

 当たれば大怪我は免れない質量差と切断の効きにくい硬質な前足なら避けるべきだ。だけれど私は避けなかった。その攻撃に合わせ縦一閃、神機を振り下ろす。狙うのは硬質な前足先端ではなくそれを動かす肘関節側。

 ヴァジュラの攻撃の速度と私の神機の性能が合わさり狙った攻撃は見事にヴァジュラの右前足を切り落とした。振っていた質量のままにロケットパンチのように飛んでいきそうになった腕を捕食形態でそのまま食うと神機から流れ込むエネルギーで体が火照るような感覚に襲われた。AGEになって初のバーストモードへの移行だった。

 ヴァジュラは攻撃に振るった腕を切り落とされバランスを崩して転倒、起き上がる前に空中に飛び上がり空からヴァジュラの頭頂部に着地すると共に神機が頭と顎を突き抜け地面まで貫通、血が噴き出す。吹き出して飛び散った血を浴びながらもそのまま神機を捻り首を切り落とした。

 死亡したヴァジュラの腹部に捕喰形態でもう一度噛みつき、食い破った胴体の中からコアを摘出する。どうやらレア物は無いらしい。

 

「終わったよティーチャー」

『確かにオラクル反応は消失している。単独でヴァジュラの討伐だと?』

「これで一人前と認めてくれる?」

『……馬鹿なことを言うな。ハウンド1、命令違反で懲罰房送りだ。覚悟しておけ』

「了解」

 

 無線越しでわかりにくいが努めて冷静に話しているような印象だった。少なくとも一人前の強さはあると認められただろう。しかし命令違反も事実なのでペニーウォートに戻ればまた両手を拘束されて神機が得たアラガミ素材を吐き出させて回収を行なった後はそのまま懲罰房送りにされた。技術者連中は私がいるのも構わず喜んでいた。というより私が存在していないかのような対応だったのを覚えておく。

 それからしばらくしてまた新たに孤児達が無理やりAGEにされて牢獄に放り込まれた。ジークとキースの二人だ。ペニーウォートの孤児狩りに兄弟三人で捕まったらしいが、一人足りなかったのは彼だけ別のミナトに売り飛ばされてしまったらしい。私たちの牢獄にやってきたのは彼らだけだが、他の牢獄にも結構な人数が放り込まれたそうだ。

 神機の数はそう簡単には増えない。AGEを作る為神機が必要な以上放り込まれた数だけ損失があったことを意味する。この数ヶ月でティーチャーに戦闘訓練を受けたAGE達は私とユウゴ、ジャック以外は皆アラガミに喰われるか、灰域に適応できず文字通り灰になった。知ったのは全て事後処理、神機を回収するという仕事をさせられた時だった。

 

「ねえ、それは何やってるんだ?」

「勉強会だよ」

「んげ、勉強かよ……俺はパス」

「俺は興味あるな! 参加させてもらってもいい!?」

 

 私がやっている勉強会に興味を示したのはキースだった。元から機械いじりが得意で、私の話した知識からどんどんと一人応用の先に飛び立っていってしまった。私は記憶から得た知識があるから答えられているだけなのでそれを何に使うかという応用ができない。例えば"励起オラクル細胞における因子透写の基礎研究"の内容は説明できてもどういう事に使うのか全くわからない。ジークとジャックはそもそも覚えられない感じなので本来なら私もそっち側である。ユウゴも私から聞いた知識から独学に発展させられる頭の良さがあったがキースのそれは群を抜いていた。紙やペンなんて上等な物をもらえるはずもなく、廃材や布を拾ってきてそこに書き込んだり口頭で説明したりと粗末な勉強法にも関わらずである。キースの灰域への適応力の低さからこのまま行けばジークを残して死ぬという危機感が一層知識と技術を貪欲に吸収する助けになっていたのかもしれない。後に彼はペニーウォートでも唯一無二の人材になる。

 

『ハウンド1から3まで拘束解除処理を開始、今回のお前らの仕事は近隣の灰域濃度変化調査だ。しっかりやれよ、お前たちのミナトの未来がかかってるんだ』

 

 私とユウゴとジャックの三人はおそらくペニーウォートでのエース部隊になっていた。だからといって何が変わるかといえば主に駆り出される仕事の量が増えただけだ。それに見合わない少しだけの食糧の支給が増えた。が、お陰でまだ技術者として関わらせることを拒否されているキースの分の食事は問題なく賄えた。というわけでハウンドは今日も仕事である。灰域濃度の変動の原因調査だ。無線の相手は今日は看守だがやることは変わらない。アックスレイダーやザイゴートを倒しそこから抜き出したコアの情報から原因を探るというもので、エリア内にいるアラガミたちを次々と撃破していく。市街地が近く帰り際にいろいろな廃棄品が拾えるここはペニーウォートのAGE達の中では人気の任務地だった。私たちも同じようにさっさと仕事を終えて同じように廃品あさりをしようなどと考えていた。最近背が伸び始め服が小さくなってきているのだ。

 

「実はフェンリルの物資保管庫っぽいの見つけたんだよ。なんか良いモノあるかも」

「そりゃいい。牢屋に土産も用意できそうだ」

「……これもレア物なし」

 

 本来の目的からすれば関係ないが、狩った成果は微妙である。

 

『灰域濃度の変動を検知……狂犬共その場で待機しろ帰還は認めん。こちらから通信を送るまでその場を動くな

「おい? クソ、灰域の影響が出てるな……看守のやつはああ言ってるが撤退するぞ」

「そうだな……濃度が上がってるんじゃ俺たちだって長く居たら良くねぇ」

「待って……何かくる!」

 

 無線の不調なんてよくある事で、しかし未だに遭遇したことがない事態が私たちを襲った。何かが崩れる音が高速でこちらに迫ってくる。そして音源の方角にある建物がみじん切りになるように切り裂かれ、そこからアラガミが姿を現した。記憶の中にあるアラガミで一番近いモノを挙げるならサリエルだろうか。美しい彫刻のような女体の頭と胴体、しかし下半身は上半身と違い竜鱗を満遍なく纏った不釣り合いに隆々とした獣の脚が四本生え、二の腕から先は私の持つ神機のブレード部分のように細く鋭い刀のような形状をしていた。建物をたやすく切り刻んだのがその切れ味の鋭さを証明している。

 

「見たことない大型だ! 警戒しろ!」

 

 突進してくる不明アラガミの斬撃をスライディングで避け脚に一撃を叩き込むも、硬い。多数の竜鱗が積層した鎧のような構造体が切断攻撃に対して高い防御性能を示していた。ユウゴと私は刀身パーツがロングブレードで構成されている為相性が悪い。銃身パーツはショットガンの為スラッグ弾の破砕が有効ではあったがこの状況でショットガンに切り替えて射撃を差し込む余裕はなかった。

 

「ジャック、俺たちが引きつける! その隙をついて足をぶっ壊せ!」

「ユウゴ、合わせて!」

 

 ジャックの刀身パーツはバスターブレード。破砕性能が高く鎧の結合崩壊が狙える。ユウゴと私が同時に装甲を展開しながら突進。両腕の刀で迎撃してくる不明アラガミの斬撃を装甲で受け止め、AGEとしての身体能力で刀を弾き上げた。万歳するような状態になったアラガミの足に向けジャックがチャージクラッシュを叩き込んだ。足を切断するには至らなかったが、目論見通り竜鱗の鎧が結合崩壊を起こした。

 アラガミは女体部分が咆哮するわけでもなく、金属の擦れるような不快な音を発し始める。跳躍して距離を取ったアラガミに私と二人で突貫、ジャックが銃形態に変形させスナイパーで援護を行おうとする。その時私は見た。まるで居合のような構えをとったその両腕の刀が半ばからメキメキと割れ、まるで口のように開いていくのを。

 

「ユウゴ!」

「ああ!」

 

 私の呼びかけをユウゴは意図を理解し、左右で挟むように位置取りを行い相手が何をしてきても互いにフォローでき、ジャックの射線の邪魔をしないように動く。

 そしてジャックの狙撃弾が直撃した瞬間、アラガミが動いた。

 

「がっ!!⁉︎」

「なっ」

 

 一瞬で居合を振り抜いたような姿勢に変わったアラガミと、明らかに斬撃が届く範囲でない遠距離で攻撃を受け倒れるジャックの姿があった。

 

「ジャック!」

「ハティ! 早くリンクエイドを……あまり持ちそうに無いからな!」

 

 アラガミが活性化を超えた更なる活性化を起こす。氷でできた二つの剣が背中からせりだし四刀流になったアラガミの攻撃をユウゴがギリギリのところで逃れ時間稼ぎをする間に私はジャックに駆け寄って生命力を分け与えるリンクエイドを行使した。しかし、発動しない。強く握っても、どうやってもジャックに生命力を渡すことができない。胴体を半ば抉られ致命傷を負っているジャックにリンクエイドができなければ待っているのは死だ。

 

「なんでできないの!? お願いうまくいって……!!」

 

 ジャックに押し当てていた手を、ジャックが払った。

 

「おい……俺の事はいいユウゴを助けてやってくれ」

「ダメだよ、私たちの夢はまだ叶ってないでしょ」

「ああ……だから、俺の夢……ハティ、お前に託すよ。こんなところで止まるな……元々お前に助けてもらった命なん………行けハティ……行け!!」

 

 押しのけられて、私は立ち上がる。ユウゴを助ける。神機を構えた。そして思わず振り返った。そこにはもう、ジャックの体は残っていなかった。灰域に喰われたのだ。そこにあるのは神機だけだ。

 どうなるのかは知っていた。回収任務をするのは辛かった。だが、目の前で親友がそうなって平静でいられる程私の理性は強くなかった。

 

「ぁぁぁァァァアアアア!!!」

 

 私は啼いた。視界が怒りで赤く染まった。神機から赤いオラクルが溢れ出し、私のなにかと繋がった。そしてここにいない誰かと、赤いエンゲージが発動する。

 

「誰とエンゲージしてるんだ……!?」

 

 ユウゴを狙っていたアラガミが異様な様子に目標を切り替え、私めがけ斬撃を纏った突進をしてくる。私は赤いエンゲージから流れ込む何かに身を任せ、神機を上段に構える。脳裏に技の名が浮かぶ。

────ブラッドアーツ、落花ノ太刀・紅。

 

「ハティ!!」

 

 ユウゴの叫びとアラガミの斬撃、そして私の攻撃が放たれたのは同時だった。吹き出したオラクルが刀身を赤く輝かせ、神速で振り下ろされた一撃はアラガミの左腕と左前足をまるでバターのように切った。一刀に込められたオラクルが切断と共に飛び散り、まるで花が散るかのように一瞬輝き、交錯したアラガミがそのまま逃走に転じた。赤いエンゲージも途切れ、どっと疲れが体を襲う。

 

「驚いた。今のはバーストアーツか?」

「ううん違うよ。ブラッドアーツ」

「まぁ、今はそんな事はどうでもいいな」

 

 ユウゴと言葉を交わしながら隣に立つ。そこにはジャックの神機が銃形態で地面に落ちていた。それをじっと見つめていると、ユウゴは神機を放り出して、私を抱きしめた。

 

「どうしたのユウゴ」

「……泣いていいんだぜ。ここにはもう俺しかいない。牢屋の仲間たちを不安にさせる心配もない」

 

 そう言われて、私の視界は堰を切ったように歪んで、ポタポタと涙が頬を伝った。

 

「…………う……ぅ……うわぁぁぁぁぁ……!」

 

 ユウゴの胸に縋りついて泣く。泣いたのは両親を失って以来、久しぶりだった。

 この日私たちは非公式に灰域種から生還したAGEとなった。しかしそんなものはどうでもよかった。ジャックを失った痛みがただそこにあった。

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