ようキャ   作:麿は星

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 今日は少し急いで書き上げたので、文章が乱れているかもしれません。
 後日確認した時、あまりにひどい箇所があれば訂正するかもしれません。



9、努力

 

 ホームルームの間は、一之瀬に謝った方がいいのだろうか?とかグルグル考えていたりしたが、条件反射というものか1限目が始まる頃にはすっかり頭が切り替わっていて授業に集中していた。

 ちなみに一之瀬と一緒にいた神埼に関しては、昼に事務所へ行った帰りに外へ食べに行ったファミレスでようやく思い出したが、野郎に謝罪する分にはそこまで問題ではないので、なんかの機会に一度話せば何とかなるだろうと放置することにした。

 結局一之瀬には次に話す機会があれば開口一番で謝罪しようと決め、気が楽になった僕は茶をすすった。3年間同じクラスのままらしいから、いつかはまた話す機会が訪れるだろう。

 

 午後の授業からは憂いがなくなった為、合間の休憩時間でもボーっとすることができて四方や東風谷に声をかける余裕も出来ていた。

 四方はともかく、東風谷と連絡先を交換するのを忘れていたことにもこの時に気づいてすぐ交換できたのは後の事を考えるとよかったのだろう。こういうことは時間が経つごとにやり難くなっていくから、早く済ませておくに越したことはない。東風谷も思い至っていなかったらしいので、二人して抜けていたなと笑いあってこの件は終了した。尤も東風谷の方は相変わらずの表情であったが。

 

 

 

 放課後、佐倉と待ち合わせして生徒会へバイト申請の書類を提出しに行く約束をしていたので、遠回りなDクラス方面を横切りながらゆっくり歩いて生徒会室へ向かう。一人で向かってもよかったが、佐倉の内弁慶っぷりを知っている身としては、彼女が話すどころか生徒会室に入ることすら成功判定が必要なレベルだと思っていたので、たいした手間でもないし僕の精神安定のためにも一緒に行くのは都合がよかった。

 

「左京君!」

 

 そうしてゆっくり歩いていると、背後から声をかけられた。佐倉が小走りにやってくるのは階段を上っている時に一度見えていたので、僕は特に何を思うでもなく振り返って挨拶した。

 

「やあ佐倉。お疲れ様」

「はぁ、はぁ……ふぅ。……やあ、じゃない、よ。気づいたなら、待ってくれても」

「目的地は一緒なんだし、そこまでに合流できればいいかな、と。それに面倒だし」

 

 今の佐倉は内弁慶モードなのか、乱れた息を整えると文句を言ってきた。

 どうせ生徒会室に着いたら、引っ込み思案へとシフトチェンジするだろうと思っていたので適当に返す。実際、到着まで合流できなかったら生徒会室の近くで待っているつもりだったのだ。

 

「それって面倒なのは5割だよね!」

「うんうん、佐倉も僕をわかってきたようでなにより」

 

 まぁ、面倒と思っているのが5割なのも間違っていない。事務手続きなどというものは、たらい回し前提で考えて効率重視に素早く面倒事を進めてしまうのが比較的に楽なのだ。

 

「わかったというよりも、わからせられた気がするんだけど」

「……佐倉、わからせ、はマズイ。 二度と口にするんじゃない」

「…………なんで?」

 

 そのワードを聞いてどこからともなくメ○ガキ風佐倉のイメージが飛んできたが、彼女には似合わないことこの上ない。しかし詳しく説明するわけにもいかず、注意だけをするに留めた。

 佐倉はわけわからないと顔に出ていたが、そのままわからない期間をなるべく延長させたいと汚れている自覚のある僕は思った。

 

 

 

「ノックは3回でよかったっけ?」

「た、たぶん?」

 

 思わぬところで自分を振り返る機会が訪れていたが、生徒会室が見えてきたあたりで目的を思い出して、ちょっとした疑問を口からこぼす。佐倉もよく知らないようだったが、間違えてもたいしたことではないので気にせず扉をノックした。

 

「えっ!? まだ心の準備が……」

「入れ」

 

 すると即座に、生徒会室の中から許可が出たので、まごまごしている佐倉の背中を軽く叩いて扉を開く。

 

「失礼します」

「し、しちゅれいしみゃす」

 

 不覚にも、佐倉のなんかふにゃふにゃしてる「失礼します」に噴出しそうになった。何とか下を向いて笑いを堪えたせいで、用件を切り出すのが少し遅れてしまった。

 僕に不意打ちトラップを仕掛けてきた張本人は、真っ赤になって俯いているので怒るに怒れない。

 

「……1-Bの左京夢月です。本日は、アルバイト申請に来ました。よろしくお願いします」

 

 そう切り出し佐倉を見てみるが、まだ言葉を出すのは無理だろう。でも何も言わないのも印象悪くなりそうだ。

 代わりに紹介するべきか迷っていると、入室許可を出した声の男が口を開いた。

 

「生徒会長の堀北学だ。申請なら書記の橘に言うといいだろう」

 

 目線で指された先にいたのは、軽く手を振っている温和そうなお団子髪の女子だった。おそらく彼女が橘書記だろう。

 これはフォローされたのだろうか。

 入室早々に噛んでしまったこともあるだろうが、佐倉が僕の想像以上に萎縮している。自分よりも人当たりのいい同性に対応させることで落ち着かせる算段のような気がする。

 もし違ったとしても僕はそう感じたのだから、一言お礼を言っておくのは礼儀だろう。

 

「お心遣い、ありがとうございます」

「……ほう」

 

 堀北生徒会長は、意外そうにこちらを見たがそれ以上は口に出すことなかったので、僕は生徒会長に目礼した後でいまだ萎縮している佐倉の背中を押しながら橘書記のところまで進んでいった。

 

 

 

 それは突然のことだった。

 でも僕の見るところ橘書記のとったその後の対応は最善に近いものだったのだろう。

 萎縮して俯いて大人しくしていた佐倉は、僕が背中を押して移動している時に唐突に顔を上げたかと思うと、何故か必死そうに涙目で自分の名前を叫んだのだ。

 

「わた、わたしは佐倉です! 佐倉愛里です!」

 

 本当に唐突過ぎて僕はフォローどころか動くことすら出来なかった。そもそも何で佐倉こんな行動に出たのか全く理解できなかったのだ。その為、再び静寂が訪れても僕は何らかの行動に出ることが出来なかった。

 

 出会って数日。僕が佐倉について知っていることはそう多くない。というか少ない。

 当然だ。佐倉や他の友達に限らず、誰かに口にしない不安や悩みなどがあったとしても、僕は基本的に気にしないし深入りもしない。そんな僕が、その誰かの押さえつけているものが噴出した時に何かが出来るわけがない。

 そんな関係あるのかないのかわからないことで頭を空転させていた僕だったが、橘書記は違った。

 

「佐倉さん、少し向こうで話しませんか? 大丈夫です。なんとなくわかるような気がするんですよ」

 

 佐倉にそう言うと、生徒会長へは目線かなにかの方法で、僕にはここで待つように言ってから、奥の部屋に一緒に行ってしまった。

 橘書記に任せておけば大丈夫。

 初対面だし、根拠もないが僕の勘はそう教えてくれていた。

 一見では頼りなさそうにも見えていたが、僕などよりもよほど有能だったということだろう。

 

 

 

 佐倉が落としていった書類を拾い集めて、待てと言われていたテーブルと椅子のところでそれぞれの書類をまとめていく。とはいっても、バイト関係が僕と佐倉でそれぞれ3枚、天文部の創部申請書・屋上の使用許可申請書と入部届け3通なので、合計でも11枚の紙切れだ。すぐに集め終わった。

 

「バイトもそうだが、うちの学校で新入生が創部とはな」

 

 自分で思うより注意力が落ちていたのか、いつの間にか生徒会長が近くに来ていることに気づいていなかった。どうやら佐倉と行ってしまった橘書記の代わりに書類の受理をしてくれるつもりのようだ。

 生徒会長が仕事をするというのに、僕がいつまでも混乱していてどうする。

 一度深呼吸すると、普段の自分をイメージして無理やり落ち着いて口を開く。話をしていれば、きっといつもどおりに振舞えるだろう。

 

「バイトはともかく、創部は部活動説明会に行った時に天文部がなかったので苦肉の策ですよ」

「そうか」

「ああ、そうだ。生徒会長に聞いておこうと思った事があるんですが、今言っちゃってもいいですか?」

「なんだ」

 

 返事は単語だが、書類だけでなく僕にも意識を向けているのはわかるので、気にせず聞いておこうと思う。ここにくる機会はそうないはずだから、少ない機会を逃せばもったいない。

 

「CPで部活の顧問を雇うことって出来ますか?」

「……なに?」

「いや、CPってのが残高照会ページにあったんで担任にも聞いたけど教えてくれなかったんです。で、少し気になってここ何日か観察していたんですけど、少しずつ減ってるんですよ」

「……」

「僕が思いついたのは、学校や資格関係の権利かなにかを買ったりするポイントなんじゃないかなぁって」

「……」

 

 生徒会長は早くもチェックや受理作業が終わったのか、バイト関係の書類を持っていたファイルに挟んで、部活関係の書類を僕の前に置き───少し探るようにこちらを見てくる。

 

「例えば、入学から2日登校して20CP減ってたのはバイトの申請に消費されたんじゃ、とか思えて。多少飛躍してますけど、この推測が正しければCPで天文部の顧問を雇ったりもできたりするかも、と」

「ひとつ聞きたい」

「何でしょう?」

「その考えを誰かと共有したか?」

「いえ。正直、入学から数日色々動き回りすぎてて、じっくり誰かと話すことすらほぼしてなかったことについ先ほど気づかされました。情けないことに」

「だろうな。……お前の発想や観察力は面白いし、推測も完全に間違っているというわけではない」

 

 僕は自分の前に置かれた書類を片付け、生徒会長との話を続けたがこの流れは……。

 

「だが、お前は個人に視点が偏りすぎている。視野を広げることが出来ていれば、気づくことは他にもあっただろうな」

 

 うん。途中から薄々感づいていたが、どうやら顧問雇用は出来ないらしい。しかし流れが読めてきたので出来れば変えたいが……おそらく無理だ。僕は諦めた。

 

 生徒会長の反応から、CPではなくPPなら場合や交渉によっては可能性があると新しく推測できるようになったのが収穫ではあるが、これもやはり四方とかの頭良い奴に確認を取ってからがいいだろう。僕のような凡人の自覚が強い者は、所詮ただの思い付きだという考えがどうしても湧いてくるのだ。まぁ、相談や確認を実現できるかは僕の気分次第なのがなんともいえない現実なのだが。

 

 それにしても話してて改めて思うのだが、この学校は生徒会長といい、先生といい、思わせぶりな事ばかりで面倒臭い。

 もっとはっきり、これは○○だよ、とか言ってほしい。

 

 まぁ、それはともかくだ。

 この生徒会長が努力家なのは十二分に伝わりすぎてきたが、佐倉と橘書記が戻ってくるまで二人で話しながら雑用を手伝うことになった僕の身になってみてくれ。

 そうだよ、生徒会長が忙しそうにしてるの見て、つい佐倉たちが戻ってくるまで手伝いますって言ったのは僕だよ。だけど、普通に遠慮なくこき使ってくるし、助言という名の説教で精神攻撃することないだろう。

 特に初対面の後輩に、言葉や表現を変えて次々に努力の押し売りしてくるのはやめてほしい。僕は努力なんか嫌いだと何度口から出そうになったことか。更にはその押し売り品の中に時折玉を混ぜるのだから、話すのと考察でめちゃくちゃ頭を使う羽目になるのだ。

 きっとこの人、友達いないだろ。

 佐倉達が戻ってくる頃には、この見立ては確信に変化しているだろうと確信していた僕が死んだ目で雑用をこなしていたのだった。

 

 

 

 

 

 そう僕は努力が嫌いである。

 普通の人間には努力できる環境にも時間にも限界や制約があるし、失敗も挫折もある。努力という意外と限界点が低い行為を他人がするのを否定はしないし応援も一応するが、僕には必要ない。

 また何か失敗したときに努力が足りないという奴もいるが、失敗=努力不足と考えている奴は努力=成功と考えている事が多いように見える。生徒会長はそういう輩ではないが、努力そのものよりそういう奴が僕は何より嫌いだ。

 

 ただ、僕自身が努力が嫌いなのは変わらなかったが、この厳しいが優しい努力家とこの時に話せたのは良かったのかもしれない。

 まぁ馬車馬にされた上で念仏聞かされたかのような一時を過ごすことになっても、このなんとなく良かったような予感がするせいで、この生徒会長を嫌いになれなかったのが少し悔しかったのも嘘偽りのない本心なのだが。

 

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