ようキャ   作:麿は星

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90、平穏

 

 8月24日。

 同人ゲーム・小東方高育桜がついに完成した。

 僕含む学生のみでの制作だが、ゲームとして成立するくらいには自信がある。時間の制限と、適任がいなくて音楽だけはフリーの物にアレンジを加えただけになっているが、今できる事はやりつくしたといえるだろう。

 

 完成する直前には勝負用PCを貸し出し申請して、昨日のうちに関係者へ連絡も入れた。

 呼んだメンバーは天文部員に、清隆、椎名、絵を描いてくれた数人、最終盤プログラムを手伝ってくれたAクラスの吉田、計画発表時にいた櫛田、姫野、葛城・戸塚。

 

 先日の件から現状を考えるに、Aクラス組はおそらく来られないだろう。

 他も椎名、姫野、櫛田は来てくれるかわからない。

 それでもメイン対戦者の清隆は来てくれると思う。基本暇してる印象があり、なりより誘って断られた試しがない。ついでに昨日、一人で完成を祝う宴会をする為の買い出し先で、なんかどこかの女子とエレベーターに嵌ってたので、雑談話の種もある。

 

……エレベーターに同級生(多分)女子と二人で閉じ込められるとか、それってなんてエ○ゲ? と。

 

 そんな羨ましいシチュエーションに遭遇すれば、普通は邪魔するだろう。

 だから事態が発展する前に阻止するのは友達として当然のこと。

 アイツだけ幸せになるのも不幸になるのも、どっちでも飯が不味くなる。不愉快極まりない。

 ぶっちゃけ、僕もおこぼれに与りたい所存である。

 

 また僕はこの件があった影響か、ささくれた衝動を抑えきれず、つい迷惑行為予告をやってしまった。

 自分から勝負参加を言い出した四方と早苗にも、来てくれなければイタズラしちゃうぞ、とハロウィン的な脅し文句を送っているのだ。抜かりなく愛里に部屋番号は聞いているので、怒涛のピンポンダッシュをされたくなければ来るはず。

 

 余談はともかく、愛里が参加スルーするとも思えないので、これで最低限の出席者は確保できただろう。

 高円寺は気まぐれを起こすかもだが、協力者達にはなるべく来てほしいと思っていた。せっかく色々準備したし。

 あ、準備で思い出した。

 ほとんど貸し出しだが、四方用のマウスやキーボードだけは自前で用意した。彼はキャットルーキー原作でゲームに熱中して、ゲームコントローラーを破壊していたので念の為だ。

 

 それと何人か連絡先を知らなかった(絵を依頼した美術部の金田と一之瀬の絵を描きたいと自ら現れた白波、発表の時にいた姫野)ので、知ってそうな奴に言伝も頼んだ。友達の誰もが連絡先を知らなそうな金田以外は、まぁなんとかなるだろう。

 下準備して時期を選べばもっと多く揃えられるかもしれないが、僕は完成した今こそやりたい。

 ただそれだけが今日にした理由である。

 

 今日までに、学校関係のアレコレに、バイトやAクラスの集まりに呼ばれたりとちょっとした事もあったが、何事もなく完成までこぎ着けることができたのは何かが僕の味方をしている気がするからだ。だから、この勢いは逃せない。

 あとは思う存分に清隆…と四方・早苗で遊んで禊を済ませ、最後にはクリアされて全てを水に流すだけだ。

 

 来られるかわからない者もいるが、こんなお遊びを手助けしてくれた愛里や高円寺、他の協力者などの者達には感謝している。

 9月1日に払う報酬以外に、どこかの鳥居越しに見える湖と桜が描かれた絵。その絵をプリントしたDVD(ゲームを入れてある)を関係者と対戦者全員に渡すつもりだが、これで足るだろうか?

 アイドル・雫のサインやブロマイドとかも頼めば付けられそうだけど、秘匿する必要もあり、なにより呼んだ半数以上はあんまり興味なさそうなんだよなぁ。

 

 できればオープニングの絵を悩んでいた約一週間前。絵をくれたカエルみたいな丸い目?の付いた帽子を被った金髪の女の子にもなにかあげたいところだが、生徒会に頼んで調べても該当する生徒がいなかった。

 なんで僕はこう謎が多いモノに接触してしまうのか。なんとなく『畏れ』を感じる存在だったのが、考えをややこしくしてくる。

 

 なので、こちらもなんとなく鳥居繋がりで巫女の早苗に3枚渡すことでお茶を濁すことにした。神様のぶんだと言えば、疑いなく受け取ってくれるだろう。

 しかしあまりに素晴らしい絵だったので、出処とかシチュエーションとか気にせず採用してしまったのは我ながら少し早計だった。

 

 このモヤモヤは、また打ち上げ的な宴会を行うことで解消するのがいいかもしれない。そうするのがいい気がしている。

 というかゲーム制作に結構苦労したので、僕自身のご褒美に誰も参加しなくても打ち上げを決行することにした。

……コイツ、宴会ばっかやってんな、というツッコミは黙殺である。

 

 無人島ではただ食材を焼いただけで、正式なバーベーキューができなかったのでやりたいのだ。やはりバーベーキューは燻製あってこそというもの。

 場所もガチャをやった守矢神社に開けたスペースがあったので、そこで準備してもらうよう早苗に頼んでおいた。早苗に断られて一人になったとしても、それはそれで気楽だろう。

 

 あとついでに、本場の人?っぽいアルベルトにも声をかけてくれるよう椎名に伝達しておいた。来てくれるか、そもそも誘えるかは不明ながら、音楽対決の時といい、何故か縁を感じる巨人である。

 

 ともかく僕は、申請しておいた余分なパイプ椅子を運び入れるなど各種下準備を整えていき、軽く部室の掃除を済ませる。

 そして学校から借りておいたモニターを設置・設定し、PC3台を並べてゲームをインストールすれば、あとは人が来るのを待つだけだ。

 しかし8時頃に来たのは、流石に早すぎたかもしれない。だいぶ時間が余りそうである。

 

 とりあえず勝負は本日10時に天文部部室と伝えている。急ではあるし、夏休み中の登校になるので無理のない時間設定を選んだ。誰も来なかったら寂しいなんてもんじゃないからな。

 僕は独り誕生会や独りクリスマスみたくならないよう祈りながら、一息入れることにした。

 

 

 

 

 

 現在時刻は9時。

 準備はほぼ完了した。

 時間が早すぎるので当然だが、僕以外まだ誰も来ていない。でもやることはとりあえず終わったので、しばらくゆっくりできるだろう。

 

 そのまま校舎の外れなせいかそこそこの広さを有する静かな部室にて、外から僅かに聞こえる部活の声を聞きながら、コーヒーで一服しているとノックがあった。

 気の早い誰かがもう訪れたのかもしれない。

 

「いるのか夢月?」

「珍しい。一番乗りは清隆だったか。小腹が空いている僕の素敵な胃袋はここだぞ」

 

 先制代わりに自分の腹を指しながら、言葉の一撃をかます。

 不意に遭遇すると、いつも違う女子といる清隆への妬みの篭もった一撃だ。

 正義は我にあり。

 

「……オレが最初なのか。まあ1時間も早いしな」

「ふむ。見たところ食い物とかも持ってないみたいだし、もう帰っていいよ」

「おい! 夢月にとってオレは差し入れだけの存在か!? だいたいお前が呼び出したんだろっ!」

「冗談だ」

「まったく。最近、ますます遠慮がなくなってきたな」

 

 まぁ本当は清隆が最初に現れるのは少し意外だったので、なにかあるのかと変化球な挨拶を放っただけなのだが。

 すると、安定の反応が返ってきた。無視しようとしても、ボケにはツッコんでしまう悲しき芸人の性である。

 

 しかし最近ことごとく先回りされてるように感じていたので、久しぶりにおちょくれて一安心だ。うん、まだ遊べる。

 ただ、まだ話したそうな感じだったので聞いてみた。

 

「で、こんな早く来て僕になんか用か?」

「ん、ああ。昨日の礼を一言言おうかと思っただけで特にないんだが、なんとなく」

 

 それにしても、相変わらず意味のわからない嘘を吐くものだ。

 聞きたいことの予想はいくつかできているが、清隆から聞いてくるまでのらりくらりと遊ばせてもらおう。

 

「ふ~ん。ま、ゆっくりしていってね」

「それ、何かの定番挨拶なのか? 前もどこかで聞いた気がするんだが」

「そうだな。丁度いいから、コーヒーをもう一杯淹れてくれない?」

「って、さっきから全然話が繋がってないじゃないか! なんでオレが」

「ふっ。違うぞ。僕は『友達』であるお前の淹れたものが飲みたいんだ。前にお前の淹れたコーヒーを飲んで以来、自分のものだけでは満足できなくなってな」

「と、友達?

……仕方ないな。淹れてやるよ」

 

 こんな安いエ○ゲーみたいな台詞で、本当にやってくれる清隆がチョロすぎる件について。

 

 でも流石に友達って言葉に弱すぎやしないか? 普段の冷静さや思考力・洞察力はどこへやら。清隆特攻のIQが著しく落ちる魔法の言葉だったりするのだろうか?

 もし誰か他の奴がいたら、哀れみや共感の表情を浮かべるのが容易に想像できる。だって前も何も、清隆にコーヒーを淹れてもらったことないし……。

 僕もこれにはツッコミ入れられると思ってたから、内心ビックリである。

 

 ちなみに共感すると思われるのは愛里と椎名。

 何気にあの二人も、意味は違えど友達という言葉に強く反応する。中身おじさんは心配になってくるので、機会があったら知らない人について行かないよう注意を促しておこう。

 

「あっ、そうだ!」

 

 清隆が出しっぱなしのカセットコンロでやかんに火をかけるのに目をやりつつ、僕は清隆に持っていた邪念を浄化して切り替えた。

 そして、いつまでも本題を切り出してこないので改めて遊んでみようかと考えていると、ふとした思いつきが浮かんだ。

 せっかくだし、提案してみるか。

 

「清隆の誕生日っていつ? もう終わってたりする?」

「? オレの誕生日? 10月20日だからまだだが……」

「あー、10月かぁ。なら、なんとか誤差にできるか」

「なんだ誤差って」

「うん。誕生日を今日にズラしてくれ」

「……ズラせるものなのかそれは」

「人生80年として2ヶ月くらいなら、やってやれないこともないんじゃないか? 別に戸籍変えろとかでもなく、今日ってことにしといてっていう自己満足だし」

「それならまぁ……いいのか?」

「大丈夫だ。世間では好きな日を誕生日に変更するのはよくあることだからな」

「へぇ、そういうものなのか」

「んじゃ、決定。ちょっと待ってな」

 

 いくつかの意味で少しフライング気味だが、清隆のブラックっぽい背景的生い立ちと世間知らずな面を考えるに、細かいことは飛ばしてもいいだろう。反応的に正式な誕生日じゃなくても、自信ありげに世間ではこういう事もあるとか言っとけば、バレるまでは意味もなく騙せそうな気がする。

 ともあれ清隆からの承諾を得た僕は、船のレストランへ騒いだ詫びを入れに行く時に貰った包装紙の残りでそれっぽく装いブツを作成した。

 

「Happy Birthday清隆」

「え゛」

「はい、誕生日プレゼント」

 

 そして鳩が豆鉄砲を食ったようになってる清隆に、手早く包装したゲームDVDを手渡した。驚いて見えるが、あらかじめ誕生日変更の承諾を貰った上でなので、こうした流れになるのは予想済みだろう。

 最初に来訪した清隆へのちょっとしたサプライズである。

 

「中身は今日の勝負するゲームだから、またやりたくなった時にでも開ければいいと思うぞ。インストールとかでわからない点があったらいつでも聞いてくれ」

「あ、え? オ……」

「発声練習でもしてるのか? なら抜けてるのは「い」と「う」だな。

 それと後でバーベキューを予定してるから、よかったらそっちにも参加よろしく」

「う…い?」

 

 お? 少しは喜ぶかと思ったけど、フリーズしてしまった。

 チョロい部分はあるくせして反応が読みにくい奴である。

 ふむ。再起動スイッチはどこだろうか? わかりやすい場所には見当たらないので、放っておくしかないか?

 まぁ清隆は強い子なので大丈夫だろう(適当)。

 

 なんにしろ、湯が沸いてきたのにこの様子ではコーヒーを淹れてくれるまで時間がかかりそうに思え、しかたなく自分で淹れる事にした。

 

 

 

 清隆は最近起こった学校関係の情報とかを聞きにこんな早く来たんだろうに、コーヒーを淹れ直し、平常運転に戻っても話を切り出してくることはなかった。

 なので、僕は代わりに直近で出会ったヤバ気な坂柳さんを遠回りに伝えることで、丸投げの下準備をしておく。きっと清隆なら面白い結末に導いてくれることだろう。

 

「つまりだ。坂柳さんはかなりの美少女だったし、清隆も面白く感じる……かもしれないぞ。葛城達に頼んで紹介してもらったらどうだ?」

「夢月がそう言う時は、なにか面倒事をオレに投げようとしている時だ。その手にはもう乗らない。オレの平穏を簡単に崩せると思うなよ」

 

 甘い。歯が溶け落ちるほど甘いピーカンパイに激甘チョコレートソースを練り込んだかのように甘すぎる。

 頭の出来と策略に関してはともかく、会話力はいまだ発展途上というわけか。僕に遊ばれない為には、それでは足らないとわかっていないと見える。

 

「ふっ。お前の平穏。

―――いつから崩れていないと錯覚していた?」

「なん・・だと?」

「最初からだよ。最初から清隆に平穏などというものは存在しない。平穏とか事なかれ主義だとか言うくせに、不審者ムーブする奴に平穏の二文字は似合わない」

「不審者ムーブ!? いやっ! そ、それでもオレは……!」

 

 しかしさっきもそうだったが、こういう意味のない会話になると途端に遊ばれてくれるとか対人能力が偏りすぎではなかろうか?

 極まったボッチ・椎名と内弁慶ボッチ・愛里は別枠としても、僕や早苗より部分的にコミュ力が低そうに見えるんだけども。それなりに話す友達になった所見からも、なんでそうなったと聞きたくなる驚きの低さ。正直、僕の想像力の限界を超えている。

 

……これまでどんだけボッチだったんだコイツ。

 

 そう疑問に思う間に、どこまで本気なのか清隆の演技にだんだん熱が篭もってきた。

 まぁ僕としては都合が良い。面白くなってきたぞと更なる追撃を撃ち込もうとしていると、入口の方から呆れたツッコミが入った。

 

「何をやってるんだお前らは……。意味のない寸劇で無駄にシリアスな雰囲気出しやがって。まったく」

 

 四方だ。

 気づくと9時半を回っていて、そろそろ早めに来る奴が集まり出したのだろう。時間切れである。

 

「四方……?」

「ちわー。四方もやる? 清隆イジリ」

「おぉいっ、夢月! いつの間にさっきの話題からそんなモノにすり替えてたんだよ!? 思わず乗ってただろうが!?」

 

 え? 素で乗ってたの? おちょくりには気づいてると思ってた。

 顔を見てもいまいち本気か読めないので、念の為に注意喚起しておいた方がいいかな。

 

「……清隆。お前…飴ちゃんあげるから、とか言われても知らない人についてくなよ? いくら清隆でも危ない場合はあるからな?」

「し、しないわっ! オレは子供か!?」

「いやー。綾小路なら、ちょっとしそうではある」

「四方まで!?」

 

 流石に飴ちゃんは冗談だが、友達だろう?とか、奢ってやるから来いよ(条件付き)!とか誘われたら、どこでもホイホイついていきそうだ。さっきのコーヒーの件からして。

 いや、反論にちょっと詰まった感じからして、経験済みなのかもしれない。社会勉強付きで。

 

 ともあれ清隆を軽く流した四方は机に並べてあるPCの起動画面とDVDを見て、少し感心したように零した。

 

「しかし実質1ヶ月くらいで、よくゲームなんか完成させたものだな」

「ふははっ。もしもできなかったら、全面白一色の部屋で過酷な強制労働を課せられると思い込めば本気になることは実に容易い「ブフォッ!?」のだよ……なんだ清隆? 相変わらず奇妙なツボしおってからに」

「ゲホッ、けほっ…ゴホッ!」

「え、マジで大丈夫か? 風邪…とかじゃないよな」

「き、気管に…ゴフッ」

「……大丈夫みたいだな。大方、コーヒーが変なところに入ったんじゃないか」

 

 四方の称賛を受けて自慢気に嘯いたら、その間に一旦落ち着こうとしたのか、ちょうどコーヒーカップに口を付けていた清隆が咳き込んだ。

 驚愕した顔付きで本気で咳き込んだように見えたので心配になって背中をさすったが、ただむせただけのようだ。まぁ、驚くようなことはなにも言ってないしな。

 たまに変に爆発力を持って騒ぐ奴なので問題ないだろう。

 

 

 

 それでも少し不思議に思いながら四方と挨拶を交わしていると、なにやら微妙に清隆から警戒したかのような視線を向けられた。

 疲れたため息とともに僅かな時間で警戒は解除されたが……また清隆が天然マッドメイトの本領を発揮しやがったかもしれない。

 こういうところだよ。四方が警戒する雰囲気を向け出していたし、順当に不審がらせたようだ。

 

『深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ』

 

 これは有名な哲学者であるニーチェが著書内で記したフレーズだが、今の清隆にも当てはまる。なぜなら不自然な挙動をする者を警戒するのは当然のことだからだ。なんてことない場面で警戒してくる奴がいたら、そりゃ逆にソイツ…清隆が警戒対象になるだろう。

 

 これからゲームするというのに、何がしたいのかわからない。自分を警戒させて、いったい何になるのか。

 時々、天才じゃなくて紙一重の方じゃないかと思わせてく……。

 

……思わせてくる? まさか自分を馬鹿だと思わせるのが目的か?

 いやでも、すでに強力な手札を何度も見せている僕や四方にそれをしても無意味だろう。現に四方には不審がられている。皇居や都庁付近でも歩かせたら、一発で職質されるくらいには挙動が怪しかったからしかたない。

 

 でも清隆への敵意が確定気味な早苗はアレだが、四方ならもうそろそろコイツのアレさをわかってきてるんじゃないか?

 そう考えて、これは一回聞いてみるのもありだろうと、僕はカマをかけてみた。

 

「だけどそろそろわかってきただろう、四方?」

「ああ。綾小路の不審さは天然なんだな?」

 

 やはりわかっているようだ。

 

「不審……天然……これはオレに向けられている…のか?」

「その通りだ。知り合って以降、清隆が不自然・不審じゃなかった試しがない。だから、いちいち気にするだけ損だぞ四方」

「……」

「なんて紛らわしい。つまりこれまでの綾小路の怪し気な言動は―――」

 

 清隆の発言を肯定気味にスルーして、思うまま答える。

 四方も薄々勘付いていたのだろう。核心に迫っている感触がある。

 これなら解答を出しても問題ない。

 僕は頷くと四方の言葉を引き継ぎ、明快に言い放った。

 

「―――いつもの発作だ」

 

「それは……おいたわしいな」

 

 見解を語ると、清隆を見る四方の表情からみるみるうちに敵意みたいなものが消え、手の施しようがない患者を見る目に変わる。

 残念なナマモノへの理解が進んだのだ。

 人騒がせな変人でもいいかもしれない。

 

「待ってくれ! それじゃまるで病気みたいじゃないか!? 流石にそこまでじゃないはずだ! オレがそんなに不審だったとでも!?」

 

 一方、清隆はというと、不本意に思っていることを前面に出しつつ主張するが、もはや本人以外の誰もが彼の残念さを疑っていない。

 

「当然だろ? むしろなんで不審じゃないとか思えるんだよ。都合の良い妄想もそこまでいくと才能かもな」

「は?」

「本物は知らないけど、ところどころであからさまに工作員みたいだもんなぁ。こんなに怪しい奴はなかなかいないぞ」

「…………っ。オレは……オレは、それほどまでに浮いて『いた』というのか?」

「それを気にするんだったら、陰キャムーブな普段まではともかく、ブラックな背景を匂わせるきな臭い言動をなんとかしろ。僕達以外にも、お前のクラスメイトだって少なからず変に感じてるはずだ」

「言っとくが、綾小路は夢月以上にアレな部分があるからな?

 というか基本無表情なのに、なんでそんなにポーカーフェイスに感じないんだよ。しかも変なところだけだから余計にたちが悪い」

「む、夢月…以上……に?」

 

 ただ四方。

 実際にそれがわかるのは同格付近の奴だけだ。少なくとも僕は普通にわからん事の方が多い。

 ついでになにかは不明だが、僕をアレなボーダーみたく設定してるんじゃない。自分をイロモノと認識してないイロモノはこれだから困る。

 それに、どこにショック受けてるんだよ清隆も。それじゃあ僕が普通の高校生じゃないみたいに聞こえるだろうが。

 

 二人の言い分を僅かに不服に思ったが、清隆にはできるだけ自覚を持ってもらうのが先かもな。この際だから、前から思っていたことを言ってやろう。

 と思ったけど、四方が言ってくれるみたいだから任せた方がいいか。多分、思ってたことに差はないはずだ。

 

「そ、んな…まさか、夢月より……!? オレは…ただ、普通の高校生として」

「だからな? そもそもそれがおかしいって事にいい加減気づけっ! 普通の高校生は『普通』を意識して振る舞わないんだよ。近くで見ると、普段は普通な…ちょっとアレな夢月より不自然極まりないんだって」

「!!?」

 

 もはや清隆には言葉もなかった。

 無理もない。

 自分が不審人物だったと突きつけられたのだ。

 

 おそらく今の清隆には、夜のランニングの休憩中に通りがかりの女性に悲鳴を上げられた上で、一目散に逃げられたかのような衝撃が走っていることだろう。客観的に、はぁはぁと吐息を荒げつつ俯いて休んでいたから女性視点でヤバ気だったのは理解できるが、あれは昔の『俺』にとってとてつもないショックだった。逃げられた際に折れたハイヒールの残骸から立ち去った後、飲んだ缶コーヒーはとても苦かった。

 

 てか、さっきから僕にも流れ弾が飛んできてんだけど。

 嫌な思い出まで想起されたんだけど。

 ふむ……四方が僕をどう見てるのかよくわかった。覚えてろよ?

 

「ふぅー。

……こんな時だが、綾小…いや、これからは俺も友として清隆と呼ばせてもらう。お前も二三矢と呼んでくれ。少しはこっちから胸襟を開かないと、言いたいことも遠慮してしまう」

「ふ、二三矢……」

 

 一方、景気よく言いたい放題した四方は一息入れ、トーンを通常に戻し清隆へ語りかけた。

 こんな状況でも四方に友と呼ばれたのが嬉しいのか、清隆は一瞬口元を緩めて、ぎこちなく名前を呼び返す。

 おお……! これは、清隆のあまりの残念さを見かねたのか麗しき友情が生まれたのかもしれない。

 

「その上で指摘しよう。

 清隆。お前は浮いて『いた』じゃない。常時浮いて『いる』の間違いだ」

「……………………お」

 

 即座に過去形と現在進行系の違いを指摘されて撃沈されてるけども。 

 そして僕には清隆が小さく呟いた言葉が聞こえてきた。

 

「Oh My Got」と。

 

 いや、コイツ。ショック受けた感じの裏で、実は余裕あるだろ。

 なんで唐突にアルベルトみたいなキャラになってんだよ。

 

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