ようキャ   作:麿は星

101 / 198
91、前日談

 

 ペンは剣よりも強し。

 

 時の権力者・リシュリューが使った権力者のサインは武力よりも強いという意味の格言である。

 これにはもう一つ、言葉は暴力に勝るという使い方もあるが、僕としてはこちらよりもしっくりくる。適切な使い処を見極められるなら、職権濫用は最強の手札の一角だと考えているからだ。

 僕も一度は使ってみたいものである。

 

 

 

 四方が来てからしばらく経った現在時刻は、10時ちょい前。

 元々そこまでの人数は予定していないが、ポツポツと訪れて来た。朝の挨拶を交わし、好きな席で待ってくれるように案内する。

 もう10名くらい来ているというのに、かなりの割合が単独風味な空気を醸してるあたり、とても我が天文部らしい。

 

 予想通りAクラス組、それと椎名含むCクラス組は来ていないが、僕が呼んだほとんどの者が来てくれた。それに予定外の者も何人か来訪している。鬼龍院先輩と一之瀬だ。鬼龍院先輩はともかく、一之瀬は白波か四方経由だろう。

 てか、どこから情報を仕入れているのかはまぁいいが、この二人がいると部屋内の美少女率が上がるので微妙に緊張するな。

 

……さて、それはそうと。

 僕自ら購入した専用の一人掛けソファーを高円寺が使っているのはいい。どうせゆっくりできないことは目に見えているからな。

 雫の撮影用に購入したお洒落?な椅子を鬼龍院先輩が使っているのも愛里が許してるからいい。

 この二人はいつもいつの間にか来ていて、常にギリギリ怒れないラインで好き勝手するのでもう諦めた。それで彼らが満足するなら安いものだ。恩もあるしな。

 

 でも早苗。お前は許さん。

 来てくれた全員に渡した絵とDVDを見た前後?で驚きと動揺をあらわにしたかと思えば、突然上機嫌になって何故か愛里を抱き上げた上で女子連中を囲いだしたのだ。

 現在、早苗が座っている場所自体はもう一つの普通のソファーだけど、膝の上に愛里を乗せ、左右に姫野と櫛田を侍らせ、一之瀬と白波まで近くに寄せている。つまり部室内の女子ほぼ全員だ。

 

 前フリもなくハーレムの主人を気取るなんて、女の風上にも置けぬ奴である。こういう奴がいるから、男余りなどという悍ましい状態ができてしまう。

 もはやモテない野郎に喧嘩売ってるとしか思えない。

 

 コイツは部屋内のモテない男子…主に僕が、幻の血の涙を流してるのが見えないの? 羨ましすぎて真顔になったのも?

 見えてないんだったら、人として必要な想像力が欠如してるだろ。

 愛里以外はノーセンキュー女子とはいえ、少しの間でいいからそこ替われよ。

 

 しかもだ。

 何が楽しいのか僕に向かって「ふふんっ♪」と言わんばかりの笑顔で煽ってきやがる。

 

「ふふんっ♪ ねえ夢月さん。羨ましいですか? ねえねえ、羨ましいですよね? うふふ」

「羨ましいに決まってんだろっ! なに気軽に男の夢を叶えてんだよ!?」

「嫌ですねぇ男って。ただのスキンシップじゃないですか。というか夢月さんもこういうのって憧れたりするんですか?」

「そりゃ……一度はやってみたいだろ。男として。実践し続けるにはかなりの度胸・耐性が必要で、なにより関係の調整が面倒くさすぎるとは思うけども」

「ああ、女心がわからない朴念仁ですもんね! 何人も侍らせるなんて夢月さんには不可能でしたか。それは見せびらかしてごめんなさい♪ あははっ!」

「コ、コイツ……!」

 

 訂正。口に出してきやがった。しかも僕を的確に見透かした上でだ。

 これには流石に温厚な僕もカッチーンときたね。

 完全にスイッチが入り、邪神を討伐する決意を固めた。

 

 日本全国、一億人のモテない男女諸君よ。

 ちょっとずつでいい。

 オラに力を分けてくれ。

 

 そうして見えない同士達から勇気と力を借りた僕は、元気玉をぶつける時のクリリンのように、早苗へ思考と集中力の大半を割いた。

 

「ハンッ、上等だ。ゲーム前の前哨戦としてちょうどいい。その喧嘩、買ってやろう」

「ほう。今度はなにをするつもりです?」

「早苗を弾劾してやる。ちょうど櫛田と、呼んでなかった一之瀬も何故か来ていることだしな」

「え、私? 私も早苗の弾劾に関係あるの?」

「桔梗ちゃんと同じく、私も心当たりないんだけど……」

「というかその前に、私を呼んでおいて帆波ちゃんを呼んでなかったのが驚きなんですが」

 

 ちょうどこちらを見ながら何か話していた悪魔と聖女、それに白波がなにか言ってるけど、今の僕の目と耳には入らない。

 否。入れない。

 

「はははっ! 早苗よ。泣け! 叫べ! 面倒くささに頭抱えて(説教から)逃げ惑うがいい!

 聖女・一之瀬の怒りを買って無事で済むと思うなよ?」

「本当になに!? 来て早々、聖女とか怒りとかツッコミ処が多いんだけど!?」

「あー、後にしましょ『帆波ちゃん』。左京君ってこうなると、なに言っても無駄だから」

 

 なんか最近、僕ばかり受けている気がする一之瀬の説教を、お前にもおすそ分けしてくれる。勝負が終わった後にでもな。

 思い知るがいい。

 これが同士一億人の妬みと聖女の威を借りた僕の力だ!

 

「ククッ。年貢の納め時だ、早苗。

 一之瀬、そしてこの面子の前で、傍若無人なお前とお前にいらん知識を与えた奴を明らかにして、まとめて矯正してやろう。一之瀬がな!」

「なんかまた私が登場した!? そして安定のスルー!」

「はて……知識? 何のことです? 以前のことがあるので一応考えましたが、全く思い当たりません」

「下手なとぼけ方をすると、墓穴を掘るお前の面白い姿が露呈するぞ? まぁ、しなくても僕がさせるわけだが」

 

 とは言うものの、どうやら早苗は本当に思い至っていないようだ。

 なんか一瞬それに嫌な予感はしたが、まずは前提条件を整えようと、僕は勢いに任せることにした。

 

「ただ僕も鬼じゃない。正直に言えば手心を加えてやってもいい。

 その為には―――手始めにお前にNDKとメスガキに「メスガッ……!」ついて吹き込んだ奴の名前を吐け。前に一之瀬もこの件については頭を抱えていたし、味方を増やせるかもしれないぞ? まぁ僕は櫛田だと」

「夢月さんですけど」

「確信してるんっ―――ぬえ?」

 

 聞き間違いか? あり得ない名前が出てきたんだが?

 

「え……は…………なんて?」

「夢月さんですけど」

「???」

 

「「―――左京君?」」

 

 あまりの予想外に言葉が認識できなかった。

 そして強制的に素へ戻されれば、突如として冷や汗が吹き出てきて止まらない。更には櫛田と一之瀬が名前を呼んできた時など、体が勝手に大きくビクンッと揺れた。

 勿論、まずは自分の耳と嘘を疑ったが、早苗に嘘を言っている気配が一切ない。考えてみると、とぼける理由もない。再度聞き返えした返答もバッチリ僕の名前だった。

 

「くふっ! 後輩が何をやらかすのか期待していれば…ふふ、これはまた無駄に盛大な墓穴を……ふ、ふははは!」

「夢月さん……嗚呼、夢月さん。ふひっ…く、くぉれはやってしまいましたねぇ~? 策士、策に溺れるとはまさにこの事。最高ですね!うひっ、ひはははっ!!」

 

 皮肉かてめぇ。

 って、鬼龍院先輩と早苗が笑いだしたが、それどころではない。

 指摘されるまでもなく、なんかとんでもなく下手を打った気がする。具体的には投げたブーメランが自分の後頭部に直撃したような……。

 

「ああ~、なるほどね? 自分が吹き込んだのをすっかり忘れて、私のせいだと思い込んだと。

……左京君って、実はバカなんじゃないの?」

 

 更に櫛田から呆れた表情と言葉を向けられ、ようやく以前に早苗と櫛田へ面白半分に吹き込んでいた微かな記憶も蘇ってきた。

 そんな意味不明な状態でありながら、思考に残った冷静な部分は現状を分析し。

 

―――これは孔明の罠だ!

 

 と、叫んだところでどうにもならないと、カラカラと空回りする脳内計算機は導き出す。

 気づくと、出鼻をくじかれるどころか、櫛田も状況を把握した途端に輝かんばかりの笑みを浮かべだしている。邪悪な者共にとって、僕が墓穴を掘ったと思われる今は大好物な状況なのだろう。

 なんてイイ性格してやがるんだ。そんなだから邪悪なんて言われるんだよ。

 

「…………そっか。やっぱり左京君が元凶だったんだね。なるほどー」

 

 しかも味方につける予定だった一之瀬まで、敵に回りかねない声色で極めて不利な方面の納得をしている。その声とほぼ同じタイミングで背中を伝った冷や汗の悍ましき感触に、動揺が増幅されてしまった。もはや彼女の方を見られないレベルだ。

 

 何故か一瞬で四面楚歌になった現状は、僕に大混乱を齎していた。

 

「さ、さぁ~て。では夜も更けてきたし、そろそろ寝ようか。おやすみ」

「まだ朝の時間で、これから左京君が作った楽しいゲームをするっていうのに?」

 

 く、櫛田!

 某猫が某ネズミを追い詰めた時のような笑みしやがって……!

 邪悪なる悪魔め! 滅せよ!

 

「……でででは早速ゲームを始めようか」

「弾劾はどうしたんです? ぶふっ…それに見たところまだ人も揃ってなさそうですし、10時にもなっていませんが?」

 

 早苗ぇ……!

 元はといえば、お前がハーレムもどきを見せびらかしてニヤニヤ煽ってきたのが原因だろう!? それなのに歯向かった僕は許早苗ってか!? 少しは手心を加えたらどうなんだ!

 この笑顔のまま暴風で全てをなぎ倒す自然災害が! 鎮まり給え!

 

「…………と、友達を弾劾するなんてイケないことダヨネ? 僕にはそんな事、とてもできない!」

「左京君のどの口がそれを言うの」

「おそろしく調子の良い手のひら返し。オレでなきゃ見逃しちゃうね」

 

 一之瀬はともかく、清隆までだと!? こんの坂柳さんの類似生物、ネタ好き妖怪KY野郎! 僕になんか恨みでもあるのかよ!?

 てか、みんなに言ってるから見逃されるわけないだろ! 気づいても口に出さない気遣いがあるだけだというのに……!

 

 櫛田も早苗も笑顔を黒光りさせて嬲ってくるな! 冤罪ふっかけそうになったことはマジで悪かったから! お願いだから許してください! 対応人数が多すぎてもう無理!

 どうすればいい? なにか……なにかないか。

 

 !

 

 そ、そうだ! 四方は呆れを顔に出し、愛里も怯えてるだろうが、という方向は……駄目だ。方向転換するには無理矢理すぎるし、弱すぎる。

 かくなる上は―――他の面子も笑ってないで助けてくれ。予期せぬ事態なんだぞ、と助けを求め……僕が一応女子相手に下手打ったこの状況で助けてくれるわけがない。高円寺や鬼龍院先輩も笑いを抑えたくらいだ。他は言うに及ばず。

 

 ヤバい。策が何も思いつかない。言葉が出てこない。逃げられない。僕の知識と経験の泉もついに枯渇したか!?

 何がヤバいって、特に対抗札がない「にゃはは」とかを付けない真顔の一之瀬がヤバい。

 僕は説教してくる一之瀬に詳しいんだ。今回逃げられても、次の機会を虎視眈々と狙ってきてなかなか忘れてくれないだろう。聖女のくせに執念深い奴である。

 

 いや、でも! 仮にも僕は天文部部長で、このゲーム勝負の開催者という権力者でもある。強権を振りかざし、アホのフリをすることで、何事もなかったかのような勝負への移行を可能にできるかもしれない。

 リシュリューも言っている。

 ペンは剣よりも強し、と。

 自分を信じろ―――ポカやらかした直後の自分以上に信じられない者がいるわけないだろ!?

 

 嗚呼。弁解や打開策っぽいモノが、浮かんでは口から出す前に消えていく。

 万策尽きたか……!?

 

 

 

 しかし万策尽きて詰んだ事を悟り混乱状態に陥った僕を、天は見捨てなかった。

 

「おや、こんなに大勢……。

 もしかして私が最後でしたか? そうでしたらお待たせしてすいませ」

「し、椎名ぁーーー!!! よく……本当によく来てくれたぁー!」

「えっ?」

 

 なんという圧倒的天運!

 椎名ひより大明神のご来臨である!!

 やはり僕には幸運を司るナニかが付いている!!! 

 

 思わず叫ぶような声で歓迎してしまった。

 

「助かったよぉ。来てくれてよかった。ありがとう椎名さん!」

「え、ええ。どういたしまし……椎名、さん?」

 

 困惑する椎名に最大限のおもてなし。

 彼女の存在が全てを塗り替えてくれた事への返礼である。

 

「ささっ、どうぞこちらにお座りくださいませ。我が天文部で3番目の良い椅子ですよ!」

「は、はぁ。何故遅れた私がこのような待遇に……」

「何を仰る椎名大明神。わたくしが接待するのは当然ではないですか。なんといっても腐っても部長ですぞ? 最後にご来臨なされた椎名様のご案内とゲーム勝負の開幕合図はわたくしの役目であり権利でもあるのです!」

「今度は大明神? それにさ、様付け……。いったい何が起こって」

「立て板に水のごとく、よく出てくるな」

 

 勢いだけで椎名を……ひいては部室内の流れを押しきろうとしてる最中なんだから、清隆はいい加減ちょっと黙ってくれ。

 この際、椎名への借りが更に加算されることさえも許容できるほどの幸運。決して無駄にできないのだ。

 大歓迎ムードを壊せる奴なんてここにはいないと、僕は固く信じている。

 

「さあっ! お呼びしていた皆様が揃ったところで早速始めるとしましょう!」

 

 ゆえに強引に話を水に流しても、それを止めようとする者も存在しえないだろう。

 

「小東方高育桜、お披露目です!」

 

 椎名を特等…1等席に案内した後、僕はスリープ状態にしてあったPCを確認しながら、ゲームのオープニング画面にしていった。

 誰が呆れてようと。誰が笑っていようと。

 

「それじゃ話は今度にしようか」

「そうだねっ!」

 

 誰にロックオンされようと。

 

 そして―――『ナニ』に視られていようと……。

 

 

 

 

 

 僕は一瞬だけ目を閉じ、『それまで』を無理矢理忘却して切り替えた。

 

「清隆、四方、早苗。

 まずPC前に座って、画面中央のメニューにある「START」ボタンを選択してくれ」

「き、切り替えが……早すぎる!」

「この空気のまま、しれっと説明に入るんですか!?」

 

 いきなり説明を始めたからか、僕は穴が開くほど注目されているな。

 早苗が席に着いた為、膝から降りた愛里や白波が慄いたように何か零してるが、今はスルー安定である。他の訓練された客人達は大なり小なり切り替えているみたいだから、コイツらが少数派だろう。

 

「難易度選択画面になっただろ?

 梅がイージー、竹がノーマル、松がハードになってる。違いは梅の弾幕量を1とした場合、竹が3、松が9。

 だけどゲームに慣れてない清隆には悪いが、今回のお前らは全員「松」を選んでもらう。ちゃんと救済措置は用意してあるから、大丈夫…だと思う」

「救済措置?」

「クリアまでコンテニューを1回だけOKにしてある。自機が落とされても大丈夫な回数は1UPアイテムで増やせるが、初期のままだと4回落とされたらゲームオーバーなんだ。これはその場で1回だけ落とされた回数をリセットできるシステムってところ」

「なるほど。1UPについては」

「そういうアイテムがある。後で軽く説明するけど、多分説明するよりやった方が早いな」

「わかった」

 

 清隆も理解してくれたようなので次だ。

 流石といえる切り替えの早さである。

 

「難易度を選ぶと、次は自機選択画面になるから、それぞれ選んでくれ。自分のでも他人のでも問題ない。ただ決定ボタンを押すのは、説明が終わるまで待ってくれ」

「自分以外でもいいのか?」

「お試しで色々選ぶのも、こういうゲームの定番だ。一応勝負だから1機に絞って熟練度を上げる方が得策な気はするけどな」

 

 アドバイスのついでに、清隆はゲーム初心者みたいだから、口頭で軽く性能差もしておくことにしよう。

 

「また各自機の特性も説明しておく。

 綾小路機はスタンダードな連射型でサブウエポンに誘導弾付き。癖もないから初心者向けといえる」

「……おい夢月。オレのボムの説明部分。櫛田『リア充大爆発』ってなんだ」

「技名は気にするな。画面全体攻撃の弾消し…使ってる間は自機が落とされないし、攻撃力もそれなりの回数制限がある切り札だ」

「そういう事じゃないんだが」

「…………はい。追加」

 

 でも愛里や白波は普通にスルーできるけど、横からボソッと呟かないでくれ櫛田。寒気を伴ってくるせいでスルーに精神力を消費する。

 それに何をナニに追加したんだ? 気になってくるだろうが。

 

「次に四方機は回避特化型の誘導弾メイン機体。当たり判定が他2機の半分ほどしかなく、速度も綾小路機の1.5倍。更にどの位置からも弾が命中する代わりに、攻撃力も控えめになっている。上級者向けかもな」

「使いにくいのか?」

「人によるとしか言いようがない。ただ、性能は四方の集中力には合ってると思う。

 ちなみにボムは風水『陰陽の幻想』。通常攻撃の強化版って感じで弾消し回避に使うのが賢いかも?」

「集中力……」

「あっ、それと四方のPCだけマウスとキーボードを変えてあるから、スタートする前にテストしてくれ。具合が悪かったら交換する」

「……いや、これでいい」

「そうか。使いにくく感じたらいつでも言ってな?」

「ああ」

 

 物理的に破壊される懸念については、言う必要もないだろう。

 借り物さえ無事ならいいので、自前のものも予備としていくつか用意してあるしな。

 

「最後の東風谷機は攻撃力集中型。誘導弾はないが、ただ直線レーザーを敵にぶち当てて3機中最高の攻撃力でねじ伏せろ。

 この自機のテストプレイで高円寺が叩き出したハイスコアを僕はいまだに超えられない。癖は強いが、使いこなした時の最強機体はこれだろう」

「わかってますねぇ。これで…これがいいんですよ!」

「早苗ならそう言ってくれると思ってたよ。偉い人にはわからんらしいからなぁ。

 いよっ、ロマンを解する女!」

「ふふっ。もっと言ってください!」

 

 はぁ。今は好都合だけど、機嫌が山の天気のようにコロコロ変わる女、とか言ってやった方がよかったかな。どうしてか今日は平均のテンションがいつもより高いが。

 

「そんな早苗が使うだろう東風谷機のボムは、奇跡『海が割れる日』。画面半分を覆う極太レーザーの照射で、全てを呑み込む使い方がベストだろう」

「くっふふ。ブレ○トファイヤー……」

「どっちかというとハイ○ガキャノンだったんだが、まぁ喜んでるならいいか」

「……夢月君も早苗さんも古いロボット系が好きだもんね」

 

 少し駆け足気味な自機説明だったが、この3人なら理解できたはずだ。

 ついでに微妙に慌ててたせいで説明が前後してしまったものを加えれば、大まかなシステムはだいたい説明できるだろう。

 

「で、基本操作は8方向2ボタン。移動とショット、ボムになってる」

「ボムってのが、夢月が言っていた切り札でいいんだよな?」

「うん、あってる。ボムは落とされるまでに3個持ってるから、抱え落ち…使わないまま撃墜されないのが最初の鉄則になるだろう。

 あとアイテムは3種、赤色がショット強化。青色がボム増加。緑が1UPだ。といっても、緑はクリアまでいっても2個しかないけどな」

「そういえば、シューティングにありがちなエクステンドはどうなってるんですか?」

「ノーマルの竹までは10万エブリだけど、松はなし。だから今回はスコアでの1UPはないと思ってくれ。なくてもクリア可能と判断させてもらった」

 

 質問でこういう用語が出てくるってことは、多分早苗が3人の中で最も経験豊富だろう。

 ちなみにエクステンドとは点数などによる残機UPで、10万エブリはスコア10万点ごとに1UPという意味である。

 

「……ああ、これは高円寺がテストプレイでなんかやったな」

「フッ」

 

 うんまぁ、これは四方の言う通り。

 あいつクラスだと残機が溢れるヌルゲーになる、とまでは言わないが、緊張感が損なわれるので削った。初心者の清隆には悪いけども。

 

 ともかく一通りゲーム説明は終わったので、僕は自分のPCでモニターとその他のテストをしながら最後に条件の確認をしておく。

 

「最後に挑戦者の勝利条件は、30回ゲームオーバーになる前にゲームクリアをすること。勝利報酬は僕にできる範囲のなんでも。ただし他人や権利が関係する場合は拒否権付き。

 これについてなにか異論反論に質問はあるか?」

「夢月が勝ったら……俺達の誰かがクリアできなかったらどうなる?」

「え? あー、お前らが手加減しない限りないと思うけど、その場合は今日の飯奢りでいいや。考えてなかったし」

「……自分が勝った時の事を考えてないとかコイツは本当に」

「まぁ夢月さんですしねぇ」

 

 3人を高円寺と同等クラスと仮定すると、ゲームに慣れてない清隆と機材を壊しちゃった時の四方が僅かに落とす確率があるかな、って程度にしか考えてなかった。モニターで観戦してれば、無駄な手抜きや不慮の事故対策もできる。

 

 だから正直言って、僕の勝ちはほぼないと思っていたのだ。

 てか、こういうゲームで製作者が勝ったらつまらんと個人的には思うのだが。その為に、愛里用のイージーや僕用のノーマル難易度機能を付けたわけだし。

 と、清隆からも質問が飛んできた。

 

「ゲームオーバーってことは、さっき言ってたコンテニューはどうなるんだ?」

「当然カウントする。だから15回『最初からSTART』してゲームオーバーになるまでってことになるな」

「……了解だ」

 

 あまりに回数が嵩むと、腹ペコになるくらい時間がかかるかもしれないが、清隆の学習能力・適応力なら悪い癖さえ出さなければ問題ないだろう。

 というか、アイテムを取り逃さずいった場合でもコンテニュー合わせて10機×15回のハードモード。普通なら初心者にやらせる試行回数や難易度じゃないが、こいつらならなんなくクリアすると何故か確信している。

 

 ちなみにゲームに使わないPCとモニターは観戦用だ。

 チャンネル1が早苗。2が四方。3が清隆。デフォルトでは早苗の1番に合わせてあるが、勿論切り替えることも可能。

 観戦する者が僕以外にいてもいなくても、いちいちゲームしてる後ろに回られるのは気が散るかなと思ったので、最低限の配慮はしておいた。

 

「よし。これで説明は終わりだ。他になにか質問はあるか?」

 

 軽く見回してみるが、ただ静かな視線を返されるのみ。

 

「ん、なさそうだな。

 キャラ選択して決定にカーソルが合ってれば、Enterキーでゲーム開始になるわけだが―――そろそろ全員準備できたか?」

「ええっ! どんとこいですよ!」

「できたぞ」

「問題ない」

「んじゃ、1回目は操作確認の為、落とされても気にするな。カウントには入れない」

 

 早苗はともかく、他二人には必要だろう。

 正直、ひとまず目的は達成したので、楽しんで遊んでもらえればそれでいい。

 もしこれでクリアされたら諦めるしかないが、調整なしとはいえ高円寺でさえ7回もかかったのだ。だから僕は楽観している。

 

「今日はいっちょ楽しんでいってくれ!」

 

 不具合なく音楽がオープニング&最初の道中曲に変わったのを確認して、僕は3人の挑戦者へ発破をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところで僕はちょっとした遊び心と我儘で、暗転に挟んだ自己満足がある。

 ゲーム開始直後に5秒間だけ。

 ストーリーどころか四方や清隆、愛里にすら関係なく浮かび上がる『僕以外には』意味不明だろう文字列。

 

「あれ? なにか暗くなりましたよ? 変な文章も出て」

「ああ、そういう仕様だ。すぐにゲーム開始になる」

「なんだこれ。キャットルーキー? 前日談?」

「おう。ブラックルームとかホワイトルームとかが、何故か清隆に評判が悪かったからな。あんまり自分以外に従わない新人って意味で、変更を加えた」

「へぇ、猫みたいな新入生ってことだな。いいんじゃないか」

「ありがとう。僕も結構良い感じのサブタイトルにできたと思ってるよ」

 

 僕だけの為に、オープニングの隠しタイトルに遠回しな意味を入れておいた。

 

『ようこそキャットルーキーの前日談だと思っている学園へ』

 

 今を生きる現実とキャットルーキーという物語を混同しないように戒めを。

 





 早苗のボム。奇跡『海が割れる日』ですが、一撃で海を割る威力のレーザーって意味で、東方原作の開海『海が割れる日』とは違うモノに設定しています。まぁ早苗版のマ○パだと思っていただければ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。