早苗が去ってからも相変わらず水の上で揺蕩っていると歓声が聞こえた。一之瀬の時とは違い、今度は主に女子の注意がそちらに流れているのがわかる。
とこぞにいけすかないリア充がいるのだろう。よって見に行く価値なし。不愉快極まりないからだ。
まぁ他人がモテている現場を見なければ、どうということはない。
こちらにも、一応バラエティー豊かな綺麗どころは友達に揃っている。扱いが難しい点とイロモノ揃いな点を除けば、目の保養に不自由はしない。早苗……と鬼龍院先輩もか? はマジで危険物っぽい匂いがあるけども。
気を紛らわせる為に、なんとなく女友達の性格難をなんとか容姿で打ち消せないか試みていると、本日三度目のどよめきが上がった。
立てば悟空、座ればネテロ、歩く姿はシン・ゴジラな東風谷早苗、堂々の再登場である。愛里も共に歩いているということは、無事盗撮の件の後始末は片付けたのだろう。
それにしても、早苗の例えがほぼ男キャラで、なんなら巨大怪獣が混ざっていてもまったく違和感がない。それこそがヤツに抱く僕の印象を物語っている。
そして一緒にいる愛里は、普段どおりの見事な気配断ちと猫背にラッシュガード?の合わせ技により、注目をほとんど早苗へ流している。愛里が元々の素養に加えて橘書記の薫陶で特殊な処世術を会得したように、早苗は櫛田の人気取り技能を自分流にアレンジしたのだ。
それにより、この状況ができ上がっているのだろう。
確信はできずとも、前々からその節は見え隠れしていた。
単独なら人を寄せ付けないのに、こういう場で愛里もいる時にあえて早苗が目立つように振る舞っているのは、隠さない性格ゆえでもあるが愛里を守る意味が大きいと思う。
あれだけ美少女でなおかつアイドルなのに引っ込み思案な内弁慶だと、色々と面倒事を引き寄せるはずだからな。櫛田や交流を作りにくる一之瀬などの人気者にもそれをするあたり徹底している。
彼女達は、メリットとデメリットをお互いに補い合っているのだ。
また早苗が愛里のぶんも注目を惹き付ければ、信仰が得られる可能性もあるし、友達同士であることを除いてもWINWINになるようできている。
ただ現在、この仕組みになっているのは多分早苗だけの考えじゃない。あの『悪い部分』も抱き参らせるようなやり方からは、もっとなにか器が大きい……そう。船で見た早苗の神様っぽい感じを受ける。きっと助言かそれに類する手助けがあったのだろう。こういう点を見るに、革新的かつ早苗への情の深さが垣間見えて興味深い。
四方と合流し、僕の方へ向かってくるいつもの3人を眺めながら、そんな事を考えていた。
うん。二度目の歓声がした中心に向かって、3人に連れてこられた時点で予想はできていた。
「よう。ちゃんと来たな左京」
そして今、確信に至った。
先程のリア充は南雲だ。
よろしい。まずは僕の敵認定をくれてやろう。
「来たくなかったんだけど、南雲の打ち込んだ釘が思いのほか深く刺さってたみたいでな。朝、呼びに来られたよ」
「お前が昨日きちんと対処してたら、ここには来なくて済んだかもな」
「ここには、って別で仕掛ける気満々じゃないか。それなら一之瀬や葛城、あるいは会長あたりを絡ませられるよりマシだろう」
「くっくっく。お前は気づくんだな、嬉しいぜ」
上機嫌に笑う南雲だが、逆に僕の抱く落胆と憤りは相当なモノ。
自分が何をしてしまったのかわからせてやる。
「僕は嬉しくない。友達で野郎混じりとはいえ、女子が起こしに来てくれる夢のシチュエーションの直後、面倒事になる予想しかできないんだぞ。折角なら、もっとこう…色っぽい展開になって欲しかった」
「そう言うなって。お前にも利益がある話だぞ」
「利益があったとしても僕には必要ないんだよ。今日一日、寝て過ごす予定が台無しになったじゃないか」
「インドアにも程があるな。夏休み最後の日に先輩が思い出作りしてくれるんだぜ? ここは泣いて嬉しがるところだろ」
「ははは。抜かしおる。南雲自身の見極めと退屈しのぎ目的の『決闘ごっこ』なのは割れてるっつーの」
「……へぇ。なるほどな。学校や会長でさえ出し抜くわけだ。ま、俺には及ばないだろうが」
「それは単なる事実だ」
「……………………あっさり認めるのかよ」
甘酸っぱい青春イベントか、だらけきった伝説を打ち立てる計画。
僕のそれを全て台無しにした上で、自分のモテモテなリア充現場を見せつけるとか、羨ましくて妬ましいなんてレベルじゃない。もはや南雲雅という存在を、全人類・全同士達の敵認定したいくらいだ。
つまり僕の言いたいことは、だ。
南雲は失敗を犯したということ。
たった一つのシンプルな失敗。
―――お前は僕を……僕達を怒らせた。
盗撮事件も起きて内心落胆していた僕の目の前で、リア充っぷりを見せつけることで!
僕のみならず、陰に生きる者達を煽り散らしてきた極悪非道の輩!!
こんな煽りカスは断じて許しておけない!!!
だから条件と道筋が整ったら、勝負をうっちゃってでもおちょくり倒して恥をかかせてやる。
気を取り直してニヤニヤ言い出してきた勝負内容に軽口を付けて聞き流しつつ、コスモを燃やせ、とばかりに内心で何パターンかの想定をした。
「ほう? 水中バレー? ならば後輩側の人数が足らないな。私にも一枚噛ませてもらおうか」
「なるほど。天文部の一員としては私も参加すべきだろうねぇ。最後の一枠は、この私が見事こなして魅せよう」
「鬼龍院に……高円寺か。お前の事は聞いてるし、何度か見て知ってるぜ。そのわりには付き合いがいいじゃねぇか」
「フッ」
「……」
したんだけども……鬼龍院先輩も高円寺もどっからわいてきたんだよ。
どこかで登場タイミングでも図ってたの? 勝負自体は人数を理由にタイマン勝負を選ばせ、適当にやって負ける気満々だったのに、勝ち筋が見えてきちゃったじゃないか。そうなると僕も大変になるから、口だけ番長ムーブで終わらせるのが楽だったんだけどなぁ。
しかも話に割って入ってきたくせして、言うだけ言ったら南雲どころか周囲を笑って無視するとか、なんでこう規格外な奴らは理解不能な行動原理なんだ。
特に、僕を引っ張ってきた四方達が珍しく話が終わるまで大人しく?してた間に、いつの間にか当たり前のような顔してメンバー入りしてる部分がワケわからなすぎる。早苗が増えたみたいで、頭痛が痛い(誤りにあらず)。
いやバレーだと人数足りなかったから、ありがたいといえばありがたいんだけど、気分で計算外の天才が乗ってくると凡人の処理能力では追い付かない。
……でもこの二人を無様な負け試合に巻き込むわけにもいかないし、ここは難しく考えずに初心を貫徹しつつ、いっそ取ってしまった方がいいか。
僕が人知れず方針転換している間。
自由人が半数を越える僕達のメンバーに華麗にスルーされていた南雲だが、器を大きく見せる為か肩を竦めて流す事にしたようだ。口元が小さく引き釣ってるが。
思わぬ援護射撃になったので、せっかくなら軽く一撃入れるついでに初心ノルマをこなしておこう。
「フッフッフ。喜べよ左京。俺に真正面から挑んできた後輩はお前が初だぜ。敵として潰されるのもな。せいぜい俺を退屈させないでくれよ?」
「南雲……その「フッフッフ」って、もしかしてプレッシャーのあまり過呼吸を起こしたのか? 僕達が怖いなら後ろで震えててもいいんだぞ? 無理せず安静にしておけ、お坊ちゃん」
「―――あ?」
先制のデバフ付きジャブだ。
というか、むしろ僕が挑むように仕組んできたのは南雲なんだが。ほぼ連戦な疲れが出てきたのか、また痴呆モードに突入したのかもしれない。これはラッキー。
「…………てっめぇ! 誰が過呼吸で恐怖に震えてるだ!? 煽り返しのつもりか!?」
挑発には挑発、と来るとは思わなかったのか一瞬、絶句した南雲。
やはり見立て通り、攻撃力は高いが防御力に難ありなパターンSか。これならなんとかできそうだ。
「おっやおやぁ~? も・し・か・し・て~、図星を突いちゃいましたぁ? でもそれじゃあ器の小ささが露呈しますよ。自称! 自称・次期生徒会長なら、これくらい軽く流していただかなくては―――わたくしめは、自称・次期生徒会長をおめでたいおつむだと勘違いしてしまいます」
「ブッ。さ、流石にそれは失礼なんじゃないですか、夢つk……部長殿」
早苗が吹き出しかけたのをなんとか思いとどまり、ナイス相づちを打ってくれた。なので僕も、流れに即した丁寧で慇懃無礼な口調で執拗に上乗せする。
「いやいや。早苗君こそ、なに失礼なこと言ってるのだね。こちら現職の生徒会副会長で自称・次期生徒会長ですよ? この程度でお怒り遊ばすことなどありえないでしょうに。ねぇ、自称・次期生徒会長殿?」
「や、野郎!! 黙って聞いてれば1年のくせに上から目線で調子に乗りやがって……! それが目上の俺に対する態度か!?」
ハマった。
南雲の視界から、吹き出すのを堪える為か俯いてしまった早苗すら外れ、僕に注意が集まったのを確認した。
もちろんアドバンテージになるので、ニチャりながら揚げ足を取りにいく。
「はぁ~やれやれ。自称・次期生徒会長のどこが黙ってるんですか? 図星を突かれた程度で支離滅裂になるなんて、先が思いやられますなぁ」
「図星なわけねぇだろうがっ!」
「それに目上というのは立場が上の者を言うのですよ? 年齢差と生徒会副会長だと加味しても、南雲のそれは実に生意気極まりないふてぶてしい態度なんじゃないですかねぇ~?」
「なっ……! だったら、そういうお前はなんなんだ!? 自分のことを棚に上げてんじゃねぇぞゴルァ!!!」
「ははっ。ところで、何が「な」なんですか? 言葉に詰まって余裕を失うようでは、一流からは程遠いですよ。カルシウムを多めに摂ってはいかがでしょう」
「っんの野郎! 話をコロコロ逸しやがって! てめぇこそ―――」
「な、南雲っ! 落ち着け! いつもの冷静なお前に戻れ! 後輩程度、勝負前から乗せるのも簡単だから安心しろ、って言ってただろ!? お前が乗せられてどうする!?」
僕と南雲の言い合いに、呆気に取られていた向こうのチームメイトらしき数人がいきり立つ南雲を抑え込む。
当然、後ろで見下しから唖然へと変化していった彼らの存在は確認済みである。だからこそ安全に向こうのエースに感情デバフをかけられた。
自信家で攻撃的な奴は自分が攻撃されたくないから、少しでも気にしてるところを突かれると激高するのは定番である……と『僕が思ったと』思ってもらえただろうか?
まぁ流石に途中から演技が混じっていたのには気づいている。
少し特殊な経験値効率をしているのか、この年齢で南雲は場の盛り上げ方をわかっているな。演技が上手くて、まるで本気で怒ったかのようだった。僕があの域に到達したのは、おそらく前の20代後半。かなりの潜在スペックである。
しかしなんであれ南雲が乗ってくれた以上、これで僕に攻撃を集中されても不自然には写らないだろう。
……勝負を面白くする演技だよな? 迫真すぎてなんか心配になってきた。
「コイツ、やっぱりとんでもないな」
「あはははっ! 夢月…夢月さんって、煽る時だけ丁寧言葉になることありますよねぇ。ぷふっ。イキイキしてます」
「あ、あわわ。夢月君、副会長の先輩になんてことを……。でもちょっとスカッとしたこの気持はいったい」
でも四方と愛里にはなんか少し引かれてるみたいだが、コラテラル・ダメージだろう。差し引きで言えば得だし、万が一演技じゃなくても問題ない…と思うことで精神の安定を保とう。
ちなみに高円寺と鬼龍院先輩には何故かメッチャ受けていた。鬼龍院先輩など、前かがみになり腹を抑えてビクついているほどだ。
ただその態勢と位置だと、意外と着痩せしていた先輩の凶器が揺れまくる様と、時々ビクンッとなる綺麗な身体が僕の目に飛び込んでくる。慌てて目を逸さなければ「モッコリしていってね」な事態に発展したことだろう。
これからスポーツするのだし、敵味方の男子を行動不能にしないよう気をつけてほしい。
南雲がチームメイトに引きずられていき、残ったのは向日葵?の髪飾りを着けた明るい雰囲気の女子。僕の苦手なタイプなので、当然の権利で素早く早苗と鬼龍院先輩の後ろに逃げた。
すると呆れた風に「雅は行っちゃったけど、コートが空くまでお互いに作戦タイムねっ」とだけ僕達に告げて、南雲が引きずられた方向へ去っていった。
ケッ。名前呼びのバランサー美少女が付いてるイケメンには、勝敗関係なく敗北感を与えてやる。妬みの感情を舐めるなよ。
というわけで、確認してから作戦タイムだ。
先輩と高円寺は聞くまでもなく…なんなら無粋だが、他は状況から察せられるだけでしっかり意思を聞いてないからな。
「えーと、参加してくれる面子はこの場の僕含めた6人でいいんだよな?」
「ああ、最初から俺達はそのつもりだ」
「運動苦手だけど、わたしも頑張ってみたい。足手まといになると思うけど、メンバーに入れてもらってもいい…かな?」
「勿論ですよ、愛里さん!」
「ふっ。我がチームの足手まといナンバーワンはおそらく僕になる。愛里には譲らんから無用の心配だ」
「……威張って言うことじゃないだろ夢月」
いやぁ、表向きあれだけ南雲を挑発したんだから、少なくとも序盤の失点の大半は僕になるだろう。推定される南雲の統率力なら、集中砲火を浴びてもおかしくない。そして僕にそれを捌ききる能力はない。
尤も、それを逆手に取る配置は考えている。
「ま、じゃあそれでいいとして、僕の方針はこれ。
作戦名:好きにやろうぜ! だ」
「好きにって……」
「具体的な基本配置は、まず先輩と高円寺、早苗が前衛・アタッカー。そして僕と愛里が後衛・レシーバー、四方がセッター……でいいのか? 水中バレー、てかバレーのルールもよくわからん」
「とりあえずそれでいいんじゃないか? 俺もよく知らんし」
ルール的なものを知ってる奴か、上手く統率してくれる奴がいれば、そいつに臨時のまとめ役を頼みたかったけどどうもいなさそうだ。先輩や高円寺は条件満たしてる気がするけど、やってはくれないだろう。
「今言ったことから察せられるように、基本は身体能力の劣る僕か愛里が狙われるだろう。だから愛里のフォローには四方が付いてくれ。僕の方はギリギリまではなんとかしてみせる。
それらを踏まえた上で、意見や質問があれば言ってほしい」
とは言うものの、特に反論されなさそうだ。
もっと面白い作戦があれば、誰かが言ってくれるだろうしな。
勝つ事だけを目的とするなら別だけど、これはあくまで決闘『ごっこ』である。それなら投げる先を四方二三矢にして、南雲に異才というものを見せつけてやる、というのが作戦の趣旨だ。
つまり今回の肝は、主に四方のプレーヤーとしての能力以外を頼りにしている点。四方はスポーツにおいて、プレイ以外での攻略法とそれを発見する洞察力・思考力でも真価を発揮するのだ。
やる気を見せている四方の集中力からして、愛里を守りながらでも洞察や分析の能力をフル活用してくれるだろう。身長もあるが、その為の後衛・セッターだ。
そして、どこを狙ってくるかなどを先読み・フォローできるレベルまで四方が達すれば、その頃までに僕がボコボコになっても問題ない。どこにボールが上がろうと、頼りになるスタンドプレーヤー達がなんとかしてくれるだろう。
あとは愛里にも、自分の守りを意識してくれるよう促せば必要充分である。
「愛里の方にボールが来たら、とにかく怪我しない事だけ考えて。んで、余裕があったらボールを打ち上げてな。この面子なら見当外れの方に飛んでも、他がなんとかしてくれるさ。な?」
「はい! 任せてください! どんな弾道でも相手コートにぶち込んでやります」
「あっ、あと参加してくれるなら、危ないから眼鏡は外してくれ」
「う、うん。ありがとう。それくらいならなんとか……なるといいな」
「失敗しても気にするな。この面子だと愛里がいないと僕の持ち場以外は狙いが分散する。そうなったら四方がヤマを張れなくなるから、最低限の守りの為に必要な役目だと認識してほしい」
なぜなら、四方が作戦を実現可能にする為の鍵は愛里以外あり得ない。僕以外の塞げる穴がないと、下準備した意味が薄れてしまう。
運動ができなくとも、洞察と分析の面から四方を最も効果的にサポートできるのは愛里ただ一人だ。
「必要……わたしが」
「もちろん。僕には愛里の助けが必要だ。そして愛里にも僕の助けが必要だったら嬉しい。
心を通わせる親しい友達、親友ってそういうもんだろ?」
「ぁ」
誰がどう思っていようと、愛里だけじゃなく僕はこの場にいる仲間をこう思っている。
なら正直に気持ちを伝えておくのも、たまにはいいだろう。
特に愛里は珍しく自分から参加を表明したのだから、目一杯頼らせてもらう。
そして愛里が頑張ってる中で、僕だけダウンするなんて矜持が許さない。
……なんだこの背水の陣を応用した作戦、完璧か? と、ボロクズ同然にされる前に、内心で自画自賛して自己防衛しておいた。
「はは。夢月らしい激だな」
「……うっはー。くっさいセリフですねぇ」
「うっせぇ。これから格好悪いところ見せる予感があるんだから、少しは僕にも格好つけさせろや」
最低でも四方が読み切るまでは格好悪い所を見せるし、最後まで僕が立ち続けるには仲間に頼らなければ立ち行かない。
「まぁ、格好良いこと風に聞こえたかもだけど、ぶっちゃけ僕自身も愛里も囮扱いなわけだが。愛里には悪いが、僕と一緒に引き立て役の枠を埋めてくれ」
「おい」
「……い、一緒に」
愛里はなんか…変な感じの状態になってそうだが、それ以外の4人は小さく笑いと冗談を零したので、理解して受け入れてくれたのは間違いないはずだ。
なぜなら助け合いたいのは嘘ではない。
チームスポーツにおいて囮というのは、周りに人材が揃っている場合に限り効果的だ。四方の能力と組み合わせれば、本職じゃない身体能力ごり押し集団に刺さる可能性は高いだろう。
「それに何度も言うけど、副会長の性格的に多分僕が最もミスが多くなるはず。なんせ、なんとかボールを上げて、前衛3人で攻撃しまくる作戦だ。ハマれば強い代わりに、ハマるまで耐え忍ぶのは主に僕の役目になる」
「ですがそれでは守りが薄くなりませんか? 私と夢月さんの位置も交換した方がいいのでは?」
「いや、前衛は守りもコンビネーションも最初から捨てて好きにやれ。やる気にならないなら、居てくれるだけで…棒立ちでも構わない。それでも前衛全員、『条件が整えば』試合を支配できる奴で揃えたい。そしてそれが最も楽しく美しい勝ち筋だと思う。負けても僕がなんか手伝うだけみたいだし、気楽なお誘いだから楽しんでいこうじゃないか」
実際、南雲は命名決闘の条件を満たしていないので、先述通りこれはただの決闘ごっこだ。負けても強制力はなく、申し訳程度の手伝いでもこなせば、それで終わりにできるだろう。
おそらくこの事も愛里がわかってるか微妙かな、って程度で全員承知していると思われる。そうでなかったら、とっくの昔に早苗あたりがなんらかの動きを見せているからだ。
「クックック。安心しろ後輩。私が付いていて負けるなどありえない。今日は祝杯でも上げるとしようではないか」
「ははは。そうだねぇ。サウスクラウドボーイに私の暇つぶしが務まる程度の実力があればいいのだが」
また普段周囲に関心を向けない二人が相手方を見下すように……すでに勝っているかのような発言をしてるあたり、南雲のしたナニかが実は部員達の気に障っていた可能性もある。僕も大概イラッと来ていたが、ナチュラルに敵を作る性質っぽいから憶測くらいはできる。
しかしこれでは、四方が間に合わなかった場合、自分から動きそうな雰囲気である。
「……この二人が異様に頼もしいのは置いといて、最初に全員に言っておきたい事がある」
ともあれ、プールまで来てるんだし、作戦が決まったらあとはスポーツを楽しむだけだ。
その前にチーム結成のお礼を言っておくべきだろう。
「勝負に付き合ってくれてありがとう。こういうチームスポーツだと、僕だけじゃどうにもできなかった」
「うふふっ。楽しそうだったから乗ったまでですよ。でも攻撃に手は抜きませんが、愛里さんが危なくなったら勝手に後ろに回りますからね!」
「そこらへん含めての「好きにやろうぜ!」だ。僕達みたいなスタンドプレーヤーの集まりには、スタンドプレーしか求めないよ」
思惑通りにいけば、『個』の規格外4人で蹂躙できる。それまでに僕が潰れない条件付きで、勝利も付いてくる。そして南雲は僕を口だけの凡人と評価し、他に目を向けるだろう。
そうするには、衆目の中でどんな無様を晒そうと笑っていよう。
天才達の道筋を整える事ができたなら、勝ち負けなんかどうでもいい。誰か一人でも、十全に実力を発揮させられれば目的達成だと今決めた。
「んじゃ、紳士淑女諸君。
面倒くさい事は考えず、自分の好きにやろうじゃないか。僕と愛里が汚れ役を引き受けたから、整った合図と同時に暴れまわれ」
僕の道しるべは用意した。
戦いは始まる前に結果が決まっていると言うが、望む結果の為にはギリギリまで粘るしかない。彼ら彼女らがそこを変数に置き変えれば、入力されるモノ次第でいくらでも改変する余地ができるだろう。
例えば、初手は僕の耐久力が試されることで。四方が本気を出すかどうかで。
そう。もう人事は尽くして天命を待つ段階。
要点はシンプルに、後ろがボールを上げられれば、前が決めてくれると信じるだけでいい。
だから信頼できる面子が助けにきてくれた事実に、僕はこの場でできる限りの感謝を伝えた。
夏休み最終日、オマケのお誘いを気楽に気の合う奴らと楽しもう。