ようキャ   作:麿は星

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 今回で4・5章は終了です。



95、願い(前半、佐倉視点)

 

 2つあるコートの片方で3年生の試合が終わり、ついにわたし達の出番がやってきた。

 ちなみにもう片方のコートでは、1年生のB・Dクラスの人達が試合している。あっちでは、色々入り混じった複雑な目で見てしまう櫛田さんや須藤君が活躍しているようだ。あ、あと綾小路君もいつもの不思議な挙動で参加している。

 

 それよりわたし達だ。

 わたしが属する夢月君チームと南雲先輩率いる2年生チームで、水中バレー勝負。ルールは15点先取で、サーブは2回ずつで交代。

 

 こんな勝負の片隅に、運動の苦手なわたしが参加することになるなんて思いもしなかった。けど、早苗さんに言われて夢月君が取られるかもと思ったら、つい自分から進んで参加していた。

 こうなった以上は、みんなに迷惑かけたくない。

 

「オラァ!」

 

 そうして始まったわたし達の試合だったが、南雲先輩の独壇場と言ってもいいくらい。

 今の時点で、すでに1対8の点差がついている。

 勿論、わたし達が1の方だ。試合前に夢月君が言っていたように、夢月君を集中攻撃されているのが要因の一つだろう。

 

 なんとかボールに触れても、他がフォローできるようには上げられていない。更には四方君が綺麗に拾っても後が続かないし、わたしなんて夢月君以上にまともに前や上に飛ばない。

 しかもサーブも簡単に拾われてしまう。

 

「どうしたんだ左京? 早くコイツらに手を打たないと取り返せない点差のまま決めちまうぞ」

 

 また南雲先輩が言うように、前衛の3人がほぼ棒立ちしているのも大きいかもしれない。しかもそれを夢月君も四方君もわかっているはずなのに、注意すらしない。

 作戦通り(早苗さんと一緒にこっそり四方君から補足してもらった)とはいっても、本当に攻撃以外何もしないなんてものすごい強心臓だ。わたしだったら、絶対オロオロしてしまう。

 

 一方、四方君はずっと真剣な顔してわたしをフォローしてくれてるけど、そのぶん夢月君には何度もボールを打ち込まれて失点を積み上げられている。

 ただ二人共、何かを狙っているのか珍しく無言のまま。夢月君など笑みを浮かべてはいるものの、バシャバシャともがいているだけのように見える。

 この時のわたしには作戦があるとはいえ、圧倒的劣勢の上にチームワークも皆無に見えて、理性では負けちゃうんじゃないかって思ってしまっていた。不思議と感情は真逆だったけども。

 

 逆に2年生の先輩達は声を出し合って、明らかに図抜けていた存在の南雲先輩をバックアップ。そのコンビネーションを上手く使われて、次々と得点を重ねている。

 すごい迫力のスパイクをブロックして唯一得点した早苗さんは警戒されているけど、ジャンプしても届かない山なりの軌道なら、早苗さん含む前衛は動かないともう見切られていた。

 

「うぶっ」

「なんだよ、意外と歯ごたえねぇな。口だけだったのかよ」

 

 早くも疲労が表に出始め、受けそこなったボールを顔面に受けて背中から水の中に倒れた夢月君に、失望したような声を漏らす南雲先輩。

 向こうは試合が終わったのか、ちょうど観戦していたわたしと同じクラスの山内君が「顔面レシーブ! カッコわりぃ~」と叫んで、普通の声援に混じって一部の観客と大きな笑い声を上げる。

 

 あっさり1対9になったから、つまらないのかもしれないけど。

 コントみたいに滑稽に見えたのかもしれないけど。

 彼の精一杯の頑張りを否定され、嘲笑われてるようで。

 それらの声が聞こえていたわたしにも、だんだん沸々としたモノが湧いてくる。

 が、その時―――。

 

「けほっ……ハッ。たかが8点差だろ」

「俺の方は1失点なんだがな。頼りの仲間は半分以上棒立ちで動かない。後衛の一人はマシだが、短時間で疲労を隠せないお前ともう一人は穴だらけ。見てわかるほど惨憺たる有様じゃねぇか。お前、このままじゃ本当に何もできずに負けるぜ?」

 

「―――それがどうした」

 

 そんな空気を変えるのは、いつも呑気で迂闊な―――でもいざという時はけして焦らず頼りになるわたしの『親友』だ。

 咳き込みながらようやく口を開いた夢月君は、この劣勢を最初から予見していただけとは思えないほど自信と不敵さに満ちた笑顔で、あろうことか南雲先輩を挑発しだした。

 

「左京、夢月……!」

「まだ『僕』が弱いって…負けたってのが確定しただけじゃないか」

 

 カメラを持ち込めない状況なのが本当に惜しい。

 こんな時に呑気な話だけど、この日最高の一枚候補だったかもしれないのに。

 

「能書き垂れてないで、トドメを刺しにかかって来いよ。なるべく早くな。

 南雲こそ早く仕留めないと―――蹂躙劇が始まるぞ?」

「……っ」

 

 咳き込み、肩で息しているくらい疲弊しているのに、夢月君はなんでもないことみたいに反撃の狼煙を上げ、南雲先輩をナニかで圧倒して出そうとしていた言葉を中断させる。

 外見の特徴だけで見たら、何かを成し遂げる期待なんかできないかもしれないけど。あっさり自分を弱いとか負けたなんて断言する人だけど。

 

 わたしは夢月君が『強い』と知っている。

 

 だって絶望的ともいえる状況だ。勝利に至る道筋はあまりに細い。諦めるか、焦って動けなくなるか。わたしなら、多分この二択。

 なのに夢月君は第三の選択肢を作り出し、仲間が諦めない限りは諦めないだろう。それくらいの付き合いと理解はある。

 

 たとえどれほど可能性が低くても、彼は信じた道を突き進む。

 そしてそれをみんなが助けるって断言できる。

 まだ出会って半年も経ってないけど、これまでの彼の在り方がわたしにそう確信させる。

 きっと『わたし達』の部長は、0を1にすることだってできるのだ。

 

「ははっ。よく言ってくれた。もう大丈夫だ。俺に8割は任せてくれ」

「サンキュー四方! 結構ギリギリだったから助かった!」

「速攻を目指すから、あと少しだけ踏ん張ってくれ夢月」

「へっ。軽いもんよ」

 

 疲労からかよろけながらも、飄々とした中に確固たる意思を持って気高さを感じる笑顔。

 その在り方を間近で見て軽口を叩き合ってる四方君が。気づけば早苗さんが。高円寺君が。鬼龍院先輩が。わたしまで。

 夢月君のその独特な雰囲気としかいえないモノで心を動かされ、笑みが浮かんでくるのを止められない。

 

「待たせたな、天文部諸君。

 このまま素直に順当に負けてやることはない。そろそろ好き勝手にやろうじゃないか。『僕達』の勝ちへの道筋は整えた…いや、四方が整えてくれた」

 

 言っていた合図。

 合図と同時、真剣に試合に集中しつつも、心配の為か緊張した面持ちだった四方君の雰囲気が本気のそれへと変わっていく。前衛の3人も笑い声を零して、後衛に信頼を向けてくる。あの高円寺君までだ。

 

 鬼龍院先輩以外は、あの素晴らしい音楽を奏でたみんな。

 夢月君とわたしとで曲がりなりにも競い合い―――勝ち負けのないハッピーエンドに持ち込まれてしまった人達。普段がどうであれ、夢月君ならやる時はやってくれるとみんなが信頼している。

 絶望的な状況には変わりないはずなのに、我ながら単純なことにそれに思い至っただけでもう…わたしには負けるなんて思えない。

 

 いつも夢月君は人をワクワクさせてくれる。楽しませ、癒してくれる。

 わたしを癒し枠だって言うこともあるけど、誰かが悩んだり困ったりしてる時に吹き飛ばしてくれるのは大抵は夢月君だ。

 それは焦がれることすらある彼の持つナニかがそうさせるのだろう。

 

「―――あの調子に乗ったいけ好かないクソイケメンをぶっ倒すぞ」

 

 ただ、なんでこの人は最後まで格好良く決めきれないのだろう。これと特定の人への逃げ癖さえなかったら、南雲先輩にだって負けてないのに……。

 わたししか気にしてないかもしれないけど、妬みの籠りまくったそれで一気に身体から余計な力が抜けるのを感じていた。

 

 ともかく、それからは四方君の指示の下、後衛の3人でかなりボールを前衛に回す事ができた。

 2回だけだけど、わたしも成功と言っても良いトスを上げられて貢献できた。

 本気になった四方君の読みは的確で、ぜぇはぁ言ってて疲労困憊な夢月君も指示された着弾地点に間に合いさえすれば、きちんとボールに手が届く。勿論、四方君本人が最も多く拾っていた。

 

 そして多少無理矢理でもボールを上げさえすれば、前衛の誰かが決めてくれる。明後日の方向に飛んでも後方でなければ、どうしてかドンピシャな場所に誰かがいる。

 なにより仲間を信じ切り、役に立てないわたしだって動けば誰かが応えてくれると思えた一体感がそこにはあった。

 ついでにその一員となることで、最近のわたしが見失ってた本当にやりたかったことも思い出せた。

 後で思い返せば、この日はわたしにとって重要な分水嶺になったのかもしれない。

 

 15対13。

 一時はあんなに負けそうだったのに、終わってみるとわたし達が勝っていた。

 予想外の大盛り上がりな展開に歓声を上げる観客。

 信じられない、というように呆然とする2年生。それと憑き物が落ちたように、何かを吹っ切ったように笑う南雲先輩。

 

 それに対し、わたし達の誰もが静かな自然体のまま。

 人の間を抜くようなフィニッシュを決めた鬼龍院先輩。誰もが諦めたコート横の審判台?の裏からスナイプした早苗さん。大胆不敵に南雲先輩の上からスマッシュを叩き込んだ高円寺君。途中から試合を動かし続けて勝利に導いた四方君。

 わたしから見た『4人』は誰も彼もが飛び抜けたスターだった。

 

「ほう。それは珍しい食べ方だな」

「餡子とコーンフレーク…ですか」

「バニラアイスにこれをかけるのが俺のジャスティス。夏といえばこれしかない」

「なるほど。テイルマンも定番にひと味加えるのだねぇ。庶民とはそういうものなのか、夢月も似たようなアレンジをしていたよ」

「ああ、当たらずとも遠からずってやつだな。俺は夢月が船でやっていたのを見てから、マイブームになった。それまではそのままが多かったよ」

 

 尤も、そんなみんなは試合が終わるとすぐに対戦相手も歓声も放って、夢月君の奢りという昼食…おやつの話してる。なんというか普通は人が群がって来そうなものなのに寄せ付けない。

 改めて思うけど、マイペース極まりない人達だ。

 

 それとなによりこの曲者だらけのスター達とわたしを率いて、最後まで立ち続けた夢月君。

 一人でいても孤独を感じさせない彼の傍は、不思議な心地好さがある。本人はそんなに望んでなさそうなのに、変わった人が集まるのはその彼特有の空気みたいなモノのせいかもしれない。

 ふとそんな事を考えた。

 

 

 

 活躍した他の仲間達が談笑する所にお邪魔するのは目立ちそうなので、プールから上がって一人で座り込んだ夢月君のところへゆっくり向かう。体力や心に余裕がない時、何故か吸い寄せられるようについ彼の近くへ行ってしまうのだ。

 

 その途中、初めての心地よいスポーツの疲労を感じながら、なんとなく試合が始まる前に夢月君から言われた言葉が頭に浮かんでくる。

 

―――僕には愛里の助けが必要だ。そして愛里にも僕が必要だったら嬉しい。

―――心を通わせる親しい友達、親友ってそういうもんだろ?

 

 そう言われた。

 そう求められた。

 夢月君にとっては、何気ない言葉のつもりだったかもしれない。

 でもわたしにとっては、最高に嬉しい誘い文句になった。

 早苗さん達と寝ていた夢月君を強引に連れ出した先で、わたしの望んでいた言葉が貰えるなんて夢にも思わなかった。

 頑張って踏み出して本当によかった。

 

 今まで嫌な目を向けられたことはある。

 もうだいぶ前な気がするストーカーのように、気持ち悪い目を向けられたこともそれなりにある。

 好意寄りの視線を向けてきて、付き合いたいと言われたことも一応ある。

 

 比べるようなモノじゃないけど、夢月君は……こういう女の子として嬉しい部分よりも、ずっとずっと嬉しい信頼を向けてくれる。

 内容は夢月君と一緒に囮役だったけど。

 勉強でも。運動でも。こんな役に立たないわたしを仲間として見てくれて……頼りにしてくれるなんて。

 そして―――わたしが心から求めていたモノを一緒に探してくれた。

 

 それだけでも充分だったのに……。

 真っ直ぐな目でわたしを見て、わたしが必要だと…わたしにも必要とされたいって、言ってくれた。

 出会った頃から、夢月君にはそういうところがある。

 いつもわたしが欲してるモノを、本心からとわかるやり方で渡してくれる。

 

 正直、踊り出したいくらい、泣き出したいくらい。

 胸一杯にナニかが満たされていくようで、たまらなく嬉しい。

 心の底から欲しいと思っていたわたしの願いは。

 きっとわたしに見えていなかっただけで、こうして渡される前から叶っていたのだろう。

 

……困った。明日から学校なのに、今晩は寝られないかもしれない。

 でも今は───。

 

「夢月君、お疲れ様。みんなのとこ行こ?」

「……あー。ちょっとだけ休ませてー。てか、おかしい。めっちゃ丸投げたのに、なんで僕がこんなに疲れてるんだー」

「だって……ふふふ。あんなに頑張ってたから」

「はぁ~~~。どうしてこうなった」

 

 もっとこの人と話していたい。

 お月様みたいに道しるべを照らして……心を通わせてくれるわたしの親友と。

 このやる時はすごいけど、いつもはちょっと情けなくてどうにも締まらないのに、時にすごく嬉しいモノをくれる―――。

 

「あっ、愛里。疲れてるトコ悪いけど、後で天文部の集合写真を頼めるか? 愛里じゃないと、高円寺が納得する出来にならない気がしててさ」

「……っ。うんっ、いいよ! 任せて!」

 

 夢月君といるだけで、楽しくてしかたないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだろう?

 試合が終わってから、妙にいろんな奴に見られてる気がする。目立って活躍したのは僕と愛里以外の4人だから、僕達が足引っ張ってなきゃもっとすごい試合になったかも? とか仲間以外からは思われてんのかな。

 

 でも少し待ってほしい。

 僕は精一杯やった上でボコボコだったからしかたないけど、愛里は本領が運動と全く噛み合っていないんだし、そっちは大目に見てくれ。

 格好悪いところを見せたばかりなのに。その上、ちょっとした頼み事をしたというのに。まして助けられておいて。

 休んでいた僕に笑顔を向けてくれる愛里を悪く思われたくない。

 

 てか、今日はなんか周囲の視線を気にするどころじゃなくなるくらい愛里が可愛い。

 なんというか、こう……嬉しさ? が目に見えて溢れんばかりの状態になっているっていうか? いつになくそれを前面に押し出してて、テンションが上がってる。

 

 それが伝わってくるので、お互い疲労が目に見えてるのに、思わず「ちょっと僕の部屋に行こうか」とか言いたくなる。もしも彼女ができたらしたい夢を叶えたくなる。

 愛里が知らないとはいっても、流石に盗撮事件があったばかりでそんな真似はしないが。

 

 でもその理性が残ってるとはいっても、この状態はマズい気がする。

 誘うこと自体もそうだけど、勢いでエロいこと頼んだらOKしてくれそうに思える錯覚がマズすぎる。順当に断られた場合は勿論、万が一…億が一、本当に押し切れてしまったら、自分と『もう一人』が元気になりすぎてしまう自信がある。

 言葉に詰まりながらなのに楽しげなのがわかる愛里と話しながら、十代半ばの性衝動という制御が極めて困難な男の本能を僕は今更ながらに実感していた。

 

 いやでも……そもそも愛里の上機嫌っぽい雰囲気はどうしてだ?

 さっきは終始やられっぱなしで僕自身は負けを認めた発言をし、四方と前衛3人が一気に盛り返したわけだが。特に試合前半らへんでは、南雲や観客から笑われてるくらい無様だったというのに……。

 そう考えると、愛里のこれは優しさによる慰めか活躍できなかった者同士の共感、か? 微妙に違和感あるけども。

 

 しかし、こういう時こそ先輩や他の部員の出番だろうに、何故か少し離れた場所で雑談しつつ、僕達を微笑ましげに見て近寄ってこない。

 早苗、愛里の分水嶺は多分これじゃないから、今こそお前の空気読めなさを遺憾なく発揮してくれ。いや、いっそ誰でもいいから―――。

 

「よう左京。お楽しみのところ悪いな」

 

 誰でもいいとは思ったが、お前じゃない。

 

「去れ、リア充。

 僕は今、役得を感じつつも、変なことにならないよう考えるのに忙しい」

 

 嗚呼。確かにどうするか少し困ってたけど、闖入者が現れたことで愛里が気配絶ちしてしまった。もはや今更どうしようもないだろう。

 グッバイ。僕の甘酸っぱい青春イベント。

 そしてこんにちは死ね。面倒事を予感させるトラブルメイカー。

 

「ククッ。わけのわからないことを……。勝利報酬はいらねぇのか?」

「決めてもなかったし、元々何かを要求する気なんかない。欲しい物もない。けじめとかつけたいって言うなら負けを認めた僕個人じゃなく、活躍した他の奴らに聞け」

「つくづく欲がねぇなお前。もっと勝ち誇って煽り散らすと思ってたぜ」

「必要も功績もないのに、わざわざ煽るわけがない」

「つまり試合前と最中は、その必要があったってことか」

「当たり前。僕から注目が逸れるのをなるべく遅らせないと、盤面を整える前に狙いを分散されるからな。負けに巻き込むには気が引ける面子だったから、あいつら次第で試合には勝てるようにしておきたかった」

「……」

 

 これだけだとどうも納得しきれてないみたいなので、話を終わらせる為にしかたなくあのやり方を採用した真の理由を明かす。

 

「あと単純にモテまくってる南雲がムカついた。それだけ」

「ふっははははは!! それが本音かよ!? くはっ…おまっ、お前! 直球にもほどがあんだろ! ムカついたって、それだけって……くっくっく、こんだけ素直でよくもまぁ。はーはっはっは!」

 

 モテ男の余裕か? 馬鹿笑いしやがって。だから言いたくなかったんだよ、クソが。

 

 とその時、笑いを収めて雰囲気を変えた南雲がチラリと僕の後ろへ視線を向けたので、遮るように顔を伏せた愛里の前に立つ。こんな男に眼鏡を外した状態の素顔を覚えられるなど、目立ちたくない愛里にとっては不幸でしかない。

 僕? 目立つ・目立たない以前にどうでもいい。目立たない方が面倒事は少ないと思うが、本意じゃない友達の矢面に立つ役くらいならやってもいいかな、程度。

 

「そっちはお前の彼女か? 大事にしてやれよ」

「ほっとけ。関係がなんであれ大事にするのは確定してるっての。……っ。てか、なんのつもりか知らないけど、南雲が仕組んだ事は終わっただろ。もうあっち戻れよ」

 

 南雲と話してる最中に、まさかの愛里から背中を触られてちょっとビクッとしたが、なんとか持ち直して取り繕う。

 そしてこちらを見ている2年生の方を指す。話を優先したのか意外にも南雲には見逃された。

 

「ハッ。せっかく俺から報酬の件を詰めに来てやったってのに、可愛げのねぇことで」

「僕にそんなものを求めるな。それと何もいらんって言ってるだろうが。これで借りは返したからな」

「借り? なんのことだ?」

「わからないなら一之瀬か葛城にでも聞いてくれ。ぶっちゃけ疲れてて詳しく話す気力がない」

「……まあ、お前がいらないならそれでいいか。余分なモノがあると楽しめないしな」

 

 でも、いつかなんかやってくるな、この野郎。

 何をいつはともかく、コイツは今『何かを企んだ』。

 今回は純粋に勘だけど、当たっている自信がある。

 どうやら僕への関心を失せさせる策の方は失敗していたか。僕的に肝心な部分は、どちらかというとこっちだったのだが。

 

「またな、左京夢月」

「金輪際ご免だよ、南雲雅」

 

 勿論、僕の本心は言葉通り。

 あー、面倒くさい。また関わってくるつもりだよこれ。自分の属する場所の常識をそれ以外の場所でも通用すると思ってる奴は非常識だからいけない。

 少しだけ早苗が清隆に抱く不信感を理解できた。僕が南雲に感じるのは、似て非なるモノではあるけども。

 

 それにしても今日は疲れた。

 早苗が抱きついた時、たまにほざいてる愛里成分配合・アイリニウムを僕にも摂取させてくれないかなぁ。水着から着替えた後でエロ抜きでいいから、今は心の安らぎが欲しい。

 南雲の後ろ姿を確認して、ようやく気を抜けた僕は座り込みながらそう願った。

 

 笑いを零しながら南雲が去っていくと、今度はB・Dクラスの奴らや野次馬が接近していたが、ゴーイング・マイ・ウェイを地でゆく部員達が軽く散らしてくれた。本当に疲れてるので助かる。

 一応、あいつらの話し声は飛び飛びで聞こえていた。僕の奢りで飯に行くつもりだろう。

 出来すぎた結果になったのは彼らの功績なので、その程度なら軽いものだ。明日は給料日だしな。

 

 僕は、仲間だけになってから存在感を戻した愛里が差し出してきた手をなんとなく握って立ち上がり……なんか自然に握り返しちゃったけど、ラッシュガード着用とはいえ水着の女友達との身体的接触っていいね! 不思議と警戒心が薄い時がある愛里に感謝感激である。

 

 四方や高円寺とささっと着替え、プール入り口で待ちながら考えていたのは、そんな煩悩まみれな思考。当然、鋭い女性陣に察知されるわけにはいかないので、それを散らす為にも野郎共の話に混ざりにいく。

 そして合流した僕達は記念撮影の後、鬼龍院先輩お勧めの食事処へ赴くことにするのだった。

 





 章ラストなので、例によって結果とポイントまとめ。

 1D6で4・5章のルート判定。
 1、四方。2、早苗・佐倉。3、綾小路。4、一之瀬・龍園。5、堀北学。6、南雲。
 結果6だった為、南雲との交流戦で締め。
 勝負内容はキャットルーキー式(酒希回)のよう実要素を2振り。
 勝敗判定は、左京チームの勝利。
※1D100。70以上で勝利。80以上で高円寺・鬼龍院参戦。結果96のクリティカル。悩んだ末、佐倉愛里視点でちょっとした変化を追加。

 今章はCPの変動はないので据え置きのまま下記参照。
 ただPPは高円寺に約3000万、鬼龍院に約2000万が入ってます。
 ちなみに左京については、元々の所持PP&8月(支払いが旅行直前?と途中なので約7万+バイト代10万)の収入が手元にあるだけです。勿論、クラス貯金に3万入れてるので、だいたい残りは15~17万ぐらいでした。
 ラストの奢りでそこそこ目減りしますが、次の日から9月なので気にする事はないでしょう。100万の干支試験報酬が入りますしね。

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