ようキャ   作:麿は星

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5章、花道へと繋げる日常(5巻)
96、面倒事


 

 僕が心底から嫌悪・忌避するブラックとはなにか?

 情報を集めて僕なりに分析すると、ブラック企業というモノはバブル前とバブル崩壊後の2つに大別される。

 ただ拘束時間や待遇など基本的な内容はだいたい同じだ。

 

 違うのは自分の意思と報われるかどうか。

 簡単に言うと、バブル時代以前の日本企業は粗利の6割を賃金にしていた…らしい。僕の体験ではないのでなんだが、それでも数字が記録されているし『俺』の社員時代の先輩が定年退職する時にも言っていたのを覚えているので、大きく間違ってはいないだろう。

 

 しかしバブル以降は、というか今は平均で粗利の2割程度になっている。これは中間搾取『など』が広く巧妙に横行するようになったからと思われる。

 つまり労働生産性が低下したとか時々言われるのは、労働者が働かなくなったのではなく、働きに対して企業が賃金を払っていないという意味である。

 何・故・か、報道される労働生産性は逆の意味で使われているのがほとんどなわけだが。

 

 ちなみに、このOECD平均の3分の1な現代日本の労働生産性。そのままバブル以降の人件費比率に当てはめられる。

 そりゃ払うもんを払ってもらえなければ、頑張る気なんて出るわけがない。バブル以前のように働いた労力に見合うだけ稼げるならまだしも、自分の意思もなく働かされて稼ぎも少ないのでは、バカバカしくもなるだろう。だから昔はよかったと言う人の一部は、仕事自体はキツくても、少なくとも給料分は報われていた経験がそう言わせるのだと思う。

 

 ここから更に規模を大きくしてみれば『俺』が死ぬ少し前、財○省の増税につぐ増税で毎年GDPの1割ずつを日銀資産に積み上げていくのを見て知っている。

 今もいずれ表面化する予測が僕にもできるほど、同じ道を進んでいる。

 

 このままなら、活用することもなく無駄に溜め込んだ金が、最後に見たGDPの約1.4倍になる日もきっと近いだろう。悪名高き大企業の内部留保も僕が社会人になる前に、GDPを超えるかもしれない。

 そして、彼らはけして放出しないだろう。これまでの例からいっても、中間搾取と未来の為になる支出の阻止だけは断固として継続するという負の意味での信用が山盛りだ。

 

 なんせ二度目の人生でも、大災害が起きてすら逆に復興増税とか前と同じ事をほざいたのだ。しかも現在はまだ10年間限定となっているが、この流れならいつの間にか2037年までに延長しているだろう。もしかしたら更に……。

 また未来に起こるかもしれない話だが、某国で戦争が勃発した時に即決で6000億バラまいてやったのに、上記と違う国内の大災害が起きた時は散々渋って40億しか出さなかった。彼ら彼女らの発揮する国内へのケチさは尋常なものではない。一度、自分達の所属を聞いてみたいくらいである。

 

 しかも、テロで非業の死を遂げる元首相のような拉致問題関連を提起したり、若い奴が宗教に騙されないよう取り締まる法案を作ったりしていた……良くも悪くも、未来を感じさせてくれる政策を打ち出したりするまともな功績のある政治家が、前と比較してもかなり少ない。

 そのくせ、「日本をぶっ壊す」とか「2位じゃ駄目なんですか?」とかのアレな政治『屋』だけは固有名詞が違うだけで存在した。

 

 そして前と同じように(僕の中学時代までの記録を見た限りだが)、聞こえが良い言葉だけで本当に日本の良い部分ばかりをぶっ壊してたり、技術者達が努力して開発した最先端技術を格安で売り渡して……十全に活用できないままほぼ無駄にしていたのだ。

 

 他にも貴金属の「金」を利用した錬金術もある。

 こうした金融取引の錬金術で有名なのは、幕末の日米修好通商条約ででたらめな金・銀の交換レートを教えて、大量の銀と引き換えに多額の「金」をハリスなど外国勢が巻き上げたことだろうか。

 

 これと似たようなことが現代日本にも存在している。

 またもや財務○関連だが、通貨ではないとして貴金属の「金」に消費税をかけたことが原因だ。これにより、海外から「金」を持ち込んで換金すれば消費税のぶんだけ儲かる、という裏技染みた金融錬金術が誕生した。

 しかもこれが国際問題になっても「金」にかける消費税を止めようとしないわけのわからなさ。

 

……海外のエリートや『まともな』人材が、中間まではともかく、この国の政府・官僚・企業の上層部はクレイジー、と相手にする者を厳選する理由が少しわかっただろうか。

 このアレなお偉さんらが根っこにいて、各所に見えるブラックさが僕は本気で大嫌いで忌避している。

 

 20年後、いやもっと先になってもいい。冗談抜きで高円寺や鬼龍院先輩、清隆あたりが日本社会を背負って立ってほしい。あいつらなら『汚染』されなければ信頼できるし、場合によっては全面的に支持するのも吝かではない。

 僕は勿論、四方や早苗、愛里は明らかに政財界やメディア向きの性質でも指向もないからなぁ。

 

 ともかく、これらのアレなお偉いさん達を知ってると、高円寺を筆頭とした天文部関係者の何人かは僕を除いて至極まっとうなエリートの卵にしか見えない。学校の実験的なあれこれで染めようとしてくるなら、阻止してやろうと思うくらいには情も湧いている。

 てか、日本社会を背負う人材の育成云々というなら、せめて妨害はしないでほしい。

 

 だからというわけでもないが、旅行が終わって学校へ戻る車中で、未来のまともなエリートになる可能性が高い高円寺、そして一応は葛城と一之瀬もか。彼らの認識がどうなっているのか気になって、試しに遠回り気味に聞いてみた。わかっててそこに飛び込むなら、僕がしているのは余計なお世話だからだ。

 

 2週間の旅行で、クラス単位はともかく、学年単位で最も手軽で簡単に親睦を深める公式イベントがなかったのは何故か、と。

 

 思い当たるものがなかったのか葛城と一之瀬(まぁこの時はあまり正常な状態じゃなかったが)は判別できなかったが、高円寺は即答してくれた。

 

「夢月が言う、同じ釜の飯を食う、というのはクラスを超えて横の繋がりを強化するからねぇ。それはこの学校では不都合が多いのだよ」

 

 当たり前のように、僕が濁した内容と理由を明らかにした高円寺。

 2週間もあって、キャンプファイアーやレクリエーションどころか、学年全員で集まるだけでできる食事会・交流会などの公式イベントが存在しなかった事実。

 

 小中で修学旅行や林間学校を経験しているなら、あるはずのものがないと普通は不審に思ったはずだ。

 特別試験と明言され、学校の特殊性やらなんやらと誤魔化してても、普段はほとんど交流のないクラスが違う同級生同士で仲良くなる機会すら作らないのは、教育機関としてどう考えてもおかしい。

 特別試験じゃなくて特別『実験』なのかと思ったくらいだ。

 

 この四方や椎名が旅行初日の船上で察していたこと。気づいて即座に諦めて切り替えたこと。

 それは同級生に対し、競争心ではなく敵対心を煽る学校の気に入らないやり方だ。

 無論、僕視点でも、典型的なブラック企業の手法「横の繋がりを極力作らせない」「限られた仲間・上司以外に相談させない」に該当する。黒以外のなにものでもない。

 

 いくつかわざと言葉を抜いてはいるが、学校が明確に意図してクラス内と他クラスを敵対させようとしていることを、やはり高円寺は『深く』理解している。その上で、自由に振る舞っているのだろう。

 それを理解しているのに、僕に手を貸してくれたのは素直に嬉しかった。

 

 この時点ですでにやれることはほぼ終わっていたけど、これにはせめて貸し借りをトントンにしたいと思わされた。清隆は少し特殊な事情込みだけど、鬼龍院先輩も。

……うんまぁ。そんな事を考えていたから、支払い用の天文部のカードをギリギリまで渡し忘れてしまっていたのだけども。

 

 自分を通し、約束したら守る、なんてのは僕には常識みたいなものだが、上記の非常識がまかり通る学校や世間一般はそうではない。だから、それに応えてくれるだけでも信用・信頼に値する。

 それもあって、僕はこの自分が作った天文部を気に入っているのだろう。意味不明なイロモノが集ってくることなど、些細なこととして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 南雲達2年生と天文部の面子で決闘ごっこした次の日、9月1日の夏休み明け。

 学校からポイントが支給され、干支試験の報酬とともに約110万PPが振り込まれた。

 そんな本来ならテンションの上がる給料日だというのに、僕と四方は筋肉痛に苦しんでいる。

 明らかにバレーが原因なので、おそらく愛里も似たような状態だろう。

 息も絶え絶えに午前を乗りきり、早苗に肩を借りてなんとか昼食を済ませた。

 今日は昼から2時間ホームルームらしく助かったが、もしも体育とかなら見学するしかなかっただろう。

 

 ああ、そうだ。この時に、律儀なことに松雄栄一郎君も挨拶と礼をしたいと現れた。

 第一印象は、僕達の間にこれまでいなかった(あえて近い奴をあげるなら平田か?)誠実っぽい好青年である。

 

 そして真摯な礼をされ、部下としてなにをすればいいかと問われた。

 だが、僕はこれまできっかけ作りと指示出ししかやってないし、働きは親父さんへ上乗せしてやってほしいと頼んだ。

 実際、成した事はほとんど松雄の働きによる。それなのに、ただその時の社長が僕だっただけで息子に恩を着せるつもりはないと返しておいた。

 

 そう返したのに、なんか妙に好意的で僕を立てる態度なままなのが落ち着かず、強引に流れを変えてそのまま世間話に移行していたら、結果的に栄一郎と呼ばせてもらうことになった。

 親父さんと紛らわしかったってのもあるが、ほぼ初対面で名前呼びをOKするあたりコミュ強なのだろう。

 

 ちなみに僕はどう呼んでくれてもいいと伝えたら、栄一郎からは「社長」固定になってしまった。

 もう少し落ち着いたら、松雄に社長を譲ると伝達していたのだが伝わってないのだろうか? はたまた伝わった上で、譲った後にまた呼び方が変わるのだろうか? 律儀で思い込みが強そうな性格なだけに、どっちもありそうである。

 まぁ初対面でもわかる真面目な奴でもあるので、変なことにはしないだろう。少し恥ずかしいけど、好きにすればいいかと早々に諦めた。

 

 また世間話で出たが栄一郎はCクラスに配属になったそうで、編入と同時に龍園から従えと言われて即座に断ったらしい。

 ただ初日だったからか時間がなかったからか攻撃や喧嘩にまでは発展せず、まずは上司(僕のこと?)に挨拶や判断を仰ぎたいと乗り切ったようだ。

 

 勿論、自分で判断しろ、僕に情報を流すとか筋違いな真似はするなと忠告しておいた。違うクラスになったとはいえ「息子を頼みます」みたいに松雄から言われておいて、スパイ染みた事をさせるのは不義理にもほどがある。

 ただ一応の立場上、しばらくは部下であり、学校的には競争相手でもあるので、ここに馴染むまではある程度手を貸すのが無難だろう。

 

 

 

 そうしたなんやかやがあり午後の時間ギリギリで席につくと、ちょうどBクラス担任の星之宮先生がやってきて説明を始めた。まだだいぶ先だが体育祭の件らしい。

 

 どうでもいいが、愛里に頼んで天体観測のついでに集めていた文化祭展示用写真は無駄になった。薄々勘付いていたが説明を聞く限り、そもそも文化祭が存在しない。

 まぁ外部接触禁止が『一部』なくなったといっても、ごく最近のこと。外部から客を招き入れるのはご法度だった上、元々開催していない行事をすぐにできるわけがない。実験的に段階を踏んで、少しずつ手を打っていくのだろう。

 と、今は体育祭だった。

 

「資料の通り、私達Bクラスは白組だよ。今回の体育祭は全学年を2つの組に分ける方式を採用してるから、BクラスとCクラスが白組、AクラスとDクラスが赤組になってます。味方のクラスの子とはみんな仲良くしてね」

 

 うちのクラスの味方といえるのはさっきの栄一郎や椎名、龍園のクラスか。

 椎名と栄一郎はまだしも、龍園と仲良くとかジョークで言っているのだろうか? 一之瀬はそれでも頑張るだろうが、向こうが受け入れるとはあまり思えない。足の引っ張り合いにならなければ御の字だろう。

 

「負けた時のペナルティーはかなり重いし、手を抜かないようにね~」

 

 さらりと担任が言ったペナルティー。

 これはおそらく夏休み中の特別試験、その大盤振る舞いの露骨な調整だ。やけにCPもPPも入手機会があって不思議だったが、ほぼマイナスしかない調整行事が控えているのなら、飴と鞭の考え的に鞭も用意しておくのが自然だと思い至る。

 ちなみに配られたプリントに書かれている要点はこんな感じ。

 

 紅白の負けた組にマイナス100CP。勝った組は変動なし。

 学年別でも1位が50CPを得られるだけで、2位からは0CP、3位はマイナス50CP、4位はマイナス100CPというように、50ずつマイナスが増加される。

 つまりCPを得られる結果は、自クラスが所属する組が勝った上で学年1位のクラス成績を取らなくてはならない。

 

 他の説明は一之瀬や神崎、柴田などが質疑応答してたのを聞いていて把握した。

 だいたい上位入賞すればちょっとした報酬、PP入手か定期テストでの加点。最下位はPP罰金かテストでの減点。

 そして所属する組には競技ごとの得点が入る。

 あとはMVP…最優秀と学年別最優秀3人が選ばれることくらいか。

 

 その中で多少は気になったマイナス要素は、最下位の生徒10名が次の筆記試験で10点の減点を受けるというもの。

 ただ知り合いには愛里や椎名などの運動を苦手とする者はいても、10点程度で危機に陥るような者はいない。担任にもどのような形になるかは答えられないらしく、多少は気になったがあくまで多少止まりだ。

 

「それと1年生にはあまり関係ないと思うけど、紅白の組の総大将をそれぞれ選出します。勝った組の総大将には特別報酬100万PPと所属クラスに50CP、負けた組の総大将には同じだけのマイナスが付与されます。総大将の選出は、体育祭開催の1週間前に投票、3日前に集計して通知形式になっているから、それまでに誰か考えておいてね」

 

 担任も言うように、このいかにも取ってつけたような追加ルールは僕には関係ないだろう。

 多分、ホームルーム後半の全校集会で、仮のまとめ役をする3年生か生徒会役員あたりが選ばれるはずだ。学年を超えた繋がり自体が基本ないので、そもそも選択肢がない。

 

 僕は南雲……か会長の名前に決めようとしたけど、彼らはAクラスで赤組か。この後に全校集会があるらしいので、見聞きした上級生の名前でも書いて押し付ける未来を予定しとこう。

 

 また競技のスケジュールについては……う、僕には結構ハードそう。

 プリントに記載されているのは、合計11種目。全員が参加しなければならない種目だけで、性別限定種目も含めて6種目もある。

 

 午前。

 

① 100メートル走(全)

② ハードル競争(全)

③ 棒倒し(男子)

④ 玉入れ(女子)

⑤ 綱引き(全)

⑥ 障害物競争(全)

⑦ 3学年混合選抜騎馬戦

 

 午後。

 

⑧ 借り物競走

⑨ 四方綱引き

⑩ 男女混合二人三脚(全)

⑪ 3学年合同1200メートルリレー

 

 しかも純粋な身体能力を競う競技がほとんどで、運だけでもなんとかできそうな借り物競走は全員参加じゃない。特に午前のプログラムは最後の騎馬戦以外、全員参加の競技が連続していて僕でもかなりキツそうだ。まして愛里や椎名には地獄のラインナップである。

 

「それからここにある参加表には全種目の詳細が書いてあるんだけど、君達が全部決めて記入した上で、担任の私まで提出してね~。ここまで生徒に全部をやってもらう形式は他ではほとんど見ないと思うから気をつけて」

「全部、ですか?」

 

 聞かないでくれ神崎。詳しく聞くほど、一之瀬の話し合いへのモチベーションが上がってしまう。

 まだ体育祭本番までは結構あるんだし、それまでは適当でいいじゃん。

 

「うん、全部。競技の出場順や選抜競技の選出なんかだね。詳しくは参加表にあるから、後でよく読んでおいてね。

 あっ、それと提出期限は体育祭1週間前から前日17時。遅れちゃうと、ランダムで割り振られるし、受理されたら変更も『簡単には』できないからホントに気をつけてね!」

 

 ほら。1ヶ月くらい先の話だ。

 体育っぽい授業が増えるってだけでも面倒なのに、話し合いで体力測定的なのをやろうってなって、その結果を基にまた話し合いを何回もやって、堅実に詰めていきましょうってなるのが目に見える。

 面倒くさすぎる。

 

「あの、星之宮先生。受理された参加表は変更できないって、体調不良になった場合は……」

「基本的に個人競技は失格、団体競技は失格になった生徒と組んでる生徒全員が失格だね」

「き、厳しい」

 

 続いている説明を聞きながら、隣の席から小さな呟きが聞こえた。

 だが、無理をさせてまで出場させるよりはいくらかマシだろう。

 

 実際に『俺』が言われた言葉で、熱が40度を超えようが腕がもげようが出勤しろというのがあった。

 元気な通常時だったら、現実はゾンビゲーじゃないんだよとでも返したいところであるが、惜しむらくは大抵それを言われる場合、意識朦朧かそれに準じる極限状態である。常に体力ゲージ黄色以上にならない社畜の悲しき現実は、たやすくそれを呑み込むものだ。

……筋肉痛の影響か今日は変な方向に思考がずれるな。

 

「ただ全員参加じゃない借り物競争、騎馬戦、四方綱引き、リレーは一応救済措置もあるよ。参加表を覆す代償に1回につき10万PPが必要だけどね」

 

 誰が払うか。普通に欠場でいいだろ。ペナルティも他がフォローしてやればいいじゃん。なんだそのブラック理論。と言いたいところだが、クラス競争に真面目な奴ほど代役を立てたがるかもしれない。クラスの為、とか言って。

 

「だから私も保健医の立場から気を配るけど、自己管理はしっかりとね。どんな状態でも頑張らなくちゃいけない時は、社会に出ると必要になってくることも多いから」

 

 僕としては、そんな状態の生徒を自己管理や自己責任など冷たい論理のもとに頑張らせるなと言いたいが……。

 それはそうと。

 二日酔いで末期のアル中みたくなってても、多少遅刻しても、朝には教壇に立つ担任がこれを言うと説得力があるな。流石、時たま一之瀬や網倉に介抱されながらホームルームとかをやってるアレな大人はひと味違う。

 

「他に質問がある子は~……左京君」

「へぁ!? な、なんですか?」

 

 ビビった。

 考え事をしているのをボーッとしていたと取られたのか、担任から名指しされた。

 

「ちゃんと私のお話、聞いてた?」

「聞いてました。アレですよね。二日酔いでツラくても自己責任だから、やることやらなきゃ駄目だよってことですよね」

「……ホント、君は独特な解釈をするね~」

 

 うっわ、真っ黒ぉ。とか口から出なくてよかった。

 ちょうど二日酔い状態の担任の事を考えてたおかげだ。反射で返したから、もう少し早く聞かれてたらヤバかった。

 

「質問がないようなら、あとは伝達事項なんだけど」

 

 こういう時は、後ろの方の席で助かる。

 一之瀬や神崎、柴田も前に固まってるし、クラスの中心から物理的な距離が離れてるこの席はなかなかの良ポジだ。担任の追及もすぐ止まる。

 僕は安心して、プリントにあった全校集会がこれから行われること。それと、それまで自由時間と言っている担任から目を逸らした。

 

 質疑応答で時間を使ったせいか全校集会まであまり時間がないということで、クラス会議は持ち越しになった。ちょうどいいので、直帰の流れを想定しておく。

 そして四方と…何故か一之瀬と担任が寄越してくる視線を気にしつつ、僕は2通のメールを送る。駄目なら別にいいが、ついでと念の為である。

 だから片方の返答は当然YESだ。

 

 

 

 総勢400名ほどが集まった体育館は、室温は調整されているはずなのにひどく暑くて息苦しい。

 しかし話を聞いておかないと困ることもあるので、いつぞやのようにポッカリと空いている早苗のスペースを間借りしつつ、我慢して拝聴する。

 今回は四方も神崎に肩を借りてて近くにいないから静かなものだ。ゆっくりと聞きたいことが聞けた。

 

 赤組の総指揮は3年Aクラス藤巻で、白組は3年Bクラス石倉、と。

 

 それぞれの組の総指揮を採るのは彼らなようである。

 総大将と何が違うのかわからないが、決定されるまで借り置きした繋ぎ的なものだろうか。

 てか、どうでもいいから、その名前だけ覚えたら一刻も早くここから脱出したい。筋肉痛と暑苦しさ、人混みのトリプルパンチでもはや限界。

 

「話し合いするつもりはないってことかな?」

 

 意識を出口に集中しタイミングを図っていると、珍しく一之瀬が誰かに食って掛かっていた。

 いや、最近は結構僕とかにもああなったりしてるから珍しくはないのか。そう考えると、特定条件下ではそれほど聖人ってわけでもないのかもしれない。年齢的にある意味当然だが。

 勿論、今の僕にそれを気にする余裕はなく、生徒達の注目が集まって道が空いたのを好機とばかりに、一目散に早苗と体育館の出口へ向かっていた。

 

「こっちは善意で去ろ───おい。俺達より早く去ろうとしてやがる奴がいるぞ? 見てみろ」

「はぁ? そんな奴いるわけ―――って、左京じゃねぇか!?」

「しかも東風谷さんまで!」

「お前らのクラスの奴から先に去ったんだ。もう話し合いする必要はねぇだろ。どうせ腹の探り合いになるだけだろうしな」

「ああ~、あの二人はまた……」

 

 なんか柴田や網倉さんに僕の名前を出されてるが聞こえないふり。対峙してる龍園を放ってまで僕らの方には来ないだろう。

 それよりも息苦しさに加えて、こっちに視線を送る南雲と坂柳さんを捉えている。一之瀬達から後で怒られてでも早く逃げないと、面倒事が這い寄ってくるのは確実だ。

 ゆえに、龍園が一之瀬達を引き付けてくれてるうちに消えるのが吉である。サンキュー、ドラゴンボーイ。

 

「ねえ、龍園君。こういう『試験』で協力なしで勝つ自信があるの?」

「さあな。だが、あの野郎は『体育祭』で何かを狙ってやがる。ククッ、それには協力なんていらねぇかもしれねぇぜ?」

 

 クラスのことはリーダーモードになった一之瀬がなんとかしてくれるはず。

 閉まっていた扉を開け放ち、僕は早苗とともに外へと飛び出した。

 

「親切で忠告してやるが、今回は俺達よりあの野郎を繋ぎ止める方法を考えた方がいいぞ。でないとお前ら甘ちゃんどもは、いつか足をすくわれ―――」

 

 だから僕に聞こえていたのはそこまでだった。

 体育館から出ると、熱風に出迎えられてそれどころではなくなったというのもある。

 

 まぁ暑さは一瞬だけのことで、肩を貸してもらっていた早苗から?生じているとおぼしき涼しい空気によって、だいぶマシになったが。

 こういう天然か神様の快適な恩恵っぽいモノを感じる時、少しだけチートが欲しくなるのは内緒である。

 





 今回の独自設定。
 どう考えても原作の9種目を午前だけで時間を割り振れなかったので、全13種目のうち類似競技2つを削り、ついでにいくつか改変・追加しました。競技順や騎馬戦、総大将についてとかですね。

 簡単な内容と理由。
 8:30に開会式、9時に競技開始として午前の部が最低3時間くらいで9競技だと仮定すると、単純計算で1競技20分弱。
 最初の競技を当てはめると、1学年161人/走者8人(一部9人)*3学年分=60試合で1試合20秒ほど。他学年のぶんも含めてです。勿論、20分もかからない競技がいくつかあり、他学年の人数などもあるので多少調整はできますが……。

 これだと最初の100メートル走とかは無理矢理できても、後になるほどしわ寄せがいきます。棒倒し・玉入れ、騎馬戦などで補っても、物理的に時間が足りない。なので気休め程度でも余裕を取って騎馬戦の前後の二人三脚と200メートル走を削った上で、全員同時参加の競技で細かい時間調整をすることにしました。
 ちなみに綱引きの類似競技で四方綱引きを残したのは……やっぱり『四方』と付いてるのは失くしたくないよね、ってだけの理由だったり。

 素朴な疑問。
 原作の運動が底辺近くの奴らって、マジでどうしてたんだろう? 例えば最下位付近で転んでもたついたり、100メートル走20~30秒くらいかかったり、ハードルを全部倒してたりしたら、次の競技の邪魔だからって感じでスタッフに追い立てられたり? そして無理矢理次の競技に出場とかしてたのだろうか?
……身体的にも精神的にも地獄かな? 余計運動が嫌いになりそう。



 あとほぼオリキャラみたいになってしまった松雄栄一郎について。
 栄一郎はCクラスに配属。何もしなくとも、左京との関係もあって龍園からスパイと疑われるのは確実なので、少しは対抗できるようちょっと思い込みと芯が強い性格になってます。
※1D6でクラス決定。Aが1。Bが2。Cが3・4。Dが5・6。結果は3でCクラス。

 一応振った能力値は以下。

 学力   C (54)
 知性   C (47)
 運動能力 B (71)
 判断力  E (11)
 協調性  B+(89)

 学力・知性はまだ許容範囲(退学or入学取り消し経験があるので)だけど、判断力だけかなり低めなのは、ダイスが原作の彼の結末を当ててしまったからなのか。そして代わりのように図抜けた協調性……。
 あ、この能力値は以前に私の活動報告で載せた設定参照です。項目名だけ同じで、原作とは微妙に別物なのでご注意ください。
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