ようキャ   作:麿は星

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 ちょっと長くなってしまったので、2話に分けます。
 後半は数日内に投稿予定。



97、協力

 

「カエルって可愛いよな。特に目が良い」

≪お、わかってるねぇ! 目の付け所がいいよ≫

「あの透き通った丸い目って、見てると純粋さに心が洗われる気分になるというか。あっ、それで思い出したけど、洩矢様が被ってる帽子に付いてるのって“生きてるカエルの目”だよな? あれ、気になっちゃってさ」

≪おおっ! 前に私の帽子をまじまじ見てたのはそういう理由だったのか。人の子としては珍しいんじゃない? 不可思議よりカエルかどうか気にするなんて≫

「いや、結構カエル好きっていると思うぞ。都会っ子には厳しいかもだけど」

≪へぇ~。昔だと見向きもされないことも多かったのにな~≫

 

 早苗の肩を借りて訪れた守矢の分社、その境内にある池のほとりにて。

 小用で早苗が席を外してる際に現れた神様と僕は、カエル談義をしていた。談義というか、双方言いたいこと言ってるだけだけども。

 

 一応、すぐナニモノかは察することができたので最初こそ敬語を使ったのだが、名前を教えられた時に普段のままで良いと言われ、それならいいかと畏れだけは残しつつ普段通りの態度にしたのだ。

 

 勿論、鳥居と湖の絵(あれは諏訪湖らしい)と無人島での御礼は、僕なりにきちんとした。これほどの畏れを感じる神様。けして荒御魂を刺激してはいけない。

 ただ、なんというか少し会話しただけでわかるほど、掴み所のない神様でもある。和御魂との境が酷く曖昧で、見た目に反してとてつもない清濁を併せ持っている存在。

 まぁ、最低限の作法さえ守れば大丈夫だろうとは思うが。

 

「……なんで普通に会話してるんですか。諏訪子様、夢月さん」

 

 洩矢様と話していると、戻って来た早苗は呆れた風にそう言った。

 呆れた『風』であって、何気に嬉しさを隠せていない。余程、神様…洩矢様を好いているのだろう。こういう部分は素直に微笑ましいものである。

 

≪だって私も前に会ってるし、今更畏まるもんでもないでしょ≫

「僕は畏まってはいるつもりなんだけど……」

≪それにお土産にお酒も貰っちゃったし~?≫

「はぁ。神奈子様と仲良く分けてくださいね。奉納をちゃんと偶数本にしてくれたんですから」

≪あははっ! わかってるって。じゃあ、またね~。早苗、夢月≫

 

 仲良さげに話す一人と一柱から僕は自然にスルーされた。

 そして洩矢様は、そのまま地中に沈むように消えていった。

 消える直前に名前こそ呼ばれたが、流石は早苗の神様である。船で会った神様もそうだったが、マイペースこの上ない。

 これは、早苗が戻ってくるまで僕に付き合ってくれてたってことか? それとも……。

 

 

 

 僕達は少しの間、洩矢様が消えていった地面を眺めていたが、早苗がここに来た理由を聞いてきた。

 

「さ、切り替えましょう。これから桔梗さんが来るんですよね?」

「ああ、そうだった。協力がどうとかってことと早苗に伝えといてってメールが来ててな」

 

 おかげで、元々の用事を思い出した。

 ゲーム後に脅された後はなにも音沙汰なしだったのに、今日になって連絡が来たのだ。

 

「協力……夢月さんもするんですか?」

「も、って早苗もかよ。早苗が知ってるなら、なんで僕に伝言頼んだんだ、あいつ」

 

 早苗に僕を連れてくるように言う方が確実じゃないか。

 と、その疑問に答えるタイミングで待ち人が現れた。

 

「そりゃあBクラスを動かせるのは、一之瀬さん以外だと私が弱みを握った左京君だけだからじゃない。前にパレットと交渉した時に言ってたけど、主要人物にアポを取るのは当然なんでしょ? 一之瀬さんには……ちょっと言えないことだしね」

「櫛田……早いな。てか、僕はクラスを動かすなんてできないぞ」

「桔梗さんが言う夢月さんの弱みって、口約束だけなような……? 桔梗さん的にそれで大丈夫なんですか?」

「わかってるわよ。こんなの普通なら信じないけど、左京君は……ねえ?」

「あはは。まぁ、夢月さんって口に出したことは割ととんでもないことでも守りますし、実際に実行さえしてますからねぇ」

 

 そして、またこっちでもスルーされた。

 クラスを動かせるとか過大評価も良いところなんだけど。できて、せいぜい個別に数人くらいが限界だと思う。

 

「それで話を戻すけど、本当に直近の協力はしてくれるの?」

「直近…体育祭か? そこでなんかやるってこと?」

「なんでも堀北さんを活躍させたくないみたいですよ。このままだと、クラスの主導権が握られかねないとか」

 

 協力内容を聞いていたのか早苗が教えてくれたが、あの堀北さんが? ちょっと意外だ。

 

「……マジで? 堀北さんって、傍らに人は無きが若しを地でいく傍若無人じゃなかったの? どう見てもリーダータイプじゃなかったんだけども」

「Aクラスに昇格する為にしかたなく、らしいわよ。1学期や無人島での功績もあって学年内での株も上がってるし、平田君や軽井沢さん、綾小路君とも協力関係を結んだみたいね。……忌々しいことに私を除外した上でね」

 

 ん? それってほとんど清隆の功績じゃ……ああ。いつもの珍妙なムーブで、堀北さんが活躍したように見せてるんだったか。清隆のこれまでから考えると、堀北さんを道具や隠れ蓑として利用してる対価に、多少の手助けはしてる感じなのかな。

 僕の見るところ、アイツは堀北さんを友達寄りには見てるものの、明確に同格と…友達とは思ってない気がする。

 

「桔梗さんを除外? これまでの功績もある縁の下の力持ちをリーダーの集まりに引き入れないって、どういう理由なんです?」

「知らないわよ。ただ四人で集まって話し合ってたから、堀北の意見を取り入れたとかなんじゃない?」

「……嫌い合ってますねぇ」

 

 それに加えて、なにかの要因で誰かにも疑われてるとかなんじゃなかろうか。でないと、外す理由には弱い。

 というか、僕としては堀北さんだけが活躍したみたいになってるのも違和感。

 それを言うなら、干支試験では櫛田がポイントゲッターだったし、普段からクラス内を調整するバランサーだぞ。それを嫌いなんて理由で外し、他にも許容させるか普通。

 

 なんだ、この不自然…とまでいかなくても変な流れ。清隆、あるいは平田か軽井沢さんがなんかしてるにしても、妙に堀北さんが持ち上げられてるような……。

 許容・誘導してるのが清隆なら狙いは……じゃなく、もしかしたら清隆も誰かの都合で動かざるをえない状態?

 

 アイツもアイツで、天才である疑いはないし、人や状況を操ったりは得意でも、他を信じたり頼ったりを基本しないからなぁ。多分、僕や四方も完全に信用されているわけじゃない。だから何らかのリスク?弱味?の可能性が僅かでもあったら、念の為に自分だけで動くかもしれない。

 相変わらず面倒くさくてよくわからない清隆の平穏基準である。

 

 

 

 まぁなんにしろ、今は櫛田か。

 こんな本来の櫛田ならクラス内で話し合ってるだろう状況で、僕や早苗と話に来ている時点で、自分の軽い扱いに内心かなりキていると思われる。

 世渡り上手な櫛田ならまずないだろうが、新しいイベント告知の直後にここに集まってる事が知られたら、新たにスパイ疑惑をかけられてもおかしくないからだ。

 

「…………それで二人共……改めて頼むけど、私に協力してくれる?」

 

 そんな櫛田はそれなりの沈黙を経て、改めて頼み事をしてきた。

 具体的に何かはいまだ予想できないが―――。

 

「私の頼みも協力してくれるならいいですよ」

「念を押さなくとも協力するって言っただろ。何かはわからんけど、友達を物理・社会的問わず抹殺しろとか無茶言われない限り約束は守る」

 

 これはきっと櫛田にとって、相当な勇気を振り絞った申し出だろうと察することができた。それなら真面目に答えるのが、悪友であり友達というものである。冗談めかしたけども。

 

「友達……? 左京君にとって堀北は友達?」

「は? なんで堀北…って、話の流れからすると妹の方か。だったら友達じゃないけど」

「生徒会長は友達だと思ってるの?」

「まぁ一応」

 

 だが櫛田は予想外の部分に突っかかり、矢継ぎ早に詰め寄られた。

 なにかわからなくて困惑しつつ返していると、早苗のフォローが入った。

 

「桔梗さん。夢月さんがこう言っている以上、大丈夫ですよ。適当に聞こえるかもしれませんが、夢月さんの一線は確実に超えてません」

 

 その早苗の言葉がどう聞こえたのか、櫛田は再び躊躇するように少しの間の沈黙を挟んで口を開く。

 

「…………堀北鈴音の退学。それが私の目的、って言ったらどうする?」

 

「え、頑張ってね?」

「誰が応援しろと言ったぁ!!?」

「ぶふっ! すごい反応速度のツッコミ。そして夢月さんの反応が軽すぎる」

 

 あ、これは本当に本音だな。

 ストレートに本命をぶちこんで来るとは考えてなかったから、つい面倒を回避しようとする癖が発動してしまった。

 それでもまだ軌道修正はできるだろうし、疑問に思った事もあるので聞いておこう。

 

「てか、その反応的に、マジでこの目的に協力しろって? 無理とは言わないが、あんまり意味がないんじゃ……」

「意味が、ない……?」

「どういう事です?」

 

 まぁ、僕はまだしも早苗に話を持ってきていたあたりで、排除を視野に入れた誰かへの攻撃だとは思ってたが。

 その対象が堀北さんってのも、考えてみれば納得だ。あんだけ愚痴をこぼしてて実は大好きだったら、櫛田の頭を疑わなくてはならない。

 それはそれとして、普段と比べて視野狭窄っぽいのが微妙に気になるので、軽く指摘してみるか。

 

「いや、だってさ。よく知らないから憶測混じりだけど。

 櫛田の性格と目的、状況を整理していくと、何らかの理由で堀北さんがいるデメリットが大きいからそうなってるんだろ?」

「そう、ね。嫌いだってのもあるけど」

「でも、それって櫛田の才能と努力をそんな風に注ぎ込んでまで達成する価値があるか? どっちかって言うと平伏させて、抑え込む方が櫛田の性質に合ってる気がするんだが」

 

 う~ん。堀北さん関係は僕の印象的にほぼ陰口になっちゃうから言葉を選ぶつもりだったけど、櫛田は彼女を嫌いすぎてむしろ囚われてる感じがする。

 ちょっともったいないし、ここは正直な感想で冷静さを取り戻すのが良さそう。

 

「抑え込む……で、でも堀北は学力や運動、ぐ…じ、実力が」

「いくら堀北さんの基本性能が高かろうが、何をしようが、何を言おうが、情報戦で圧倒するのは櫛田の十八番だろう。それとも堀北さんに、櫛田を上回るコミュニケーションや根回しの能力があったり?」

「それは…それだけはない!」

「つまり見方を変えると、学業成績以外は視野が狭いコミュ障じゃん」

「……っ」

 

 はっきり言って、嫌い合っている?櫛田に真正面から当たったら勝算が低いという情報を落としてるのだから、情報戦では敵にもならないレベルだと断言できる。馬鹿正直に真正面から当たらなければ良いだけのことだからだ。

 

 更に学校の個人成績と付随する知性、あと容姿こそ上位クラスみたいだが、それだけでは一時的にしか人は付いてこない。清隆が付いてるっぽい不確定要素はあっても、櫛田が同じ土俵に上がらなければ放っといても問題にならないだろう。

 ましてその時に―――だったら尚更だ。

 

「で、櫛田はそんなコミュ障が、いずれ成長とか覚醒とかして『櫛田の舞台』で自分を脅かすようになると本気で思ってると?」

「思ってるわけないでしょ!! 勉強や運動で少し劣っても、あんな無駄に偉そうで嫌な奴なんかが言うことよりも、私が言うことを信じさせるわ……よ」

 

 なんだ。やっぱり自分でわかってるじゃないか。

 妙に張り詰めてたから、きっと判断力が狂ってたんだな。

 

「だろ? なら焦るな。櫛田が今現在努力して大事にしてる風評を落とす真似をするまでもない。単純に堀北さんがそのデメリットとやらを使おうとした時に、逆に笑ってやればいい。周囲の信頼度に大差があれば、真偽がどうだったとしても勝手に心折れるようにさえできるはずだ」

 

 堀北さん自体は割とどうでもいいが、自分のクラスの有力な優等生?を退学させるデメリットは櫛田が思うより重くのし掛かるだろう。

 船で見た堀北さんの体調不良を心配していた須藤や、自分の道具を手入れするような目を向けていた清隆。僕が知るだけでも、この二人からは敵対を覚悟しなければならないし、他の印象も悪化する確率が高い。そこまでいかなくとも難しい舵取りを迫られてしまう。

 

 それなら櫛田の資質を存分に活かした罠と逆撃コンボで迎え撃つ方がアドを取れる。

 焦らず機会を狙い澄ませば、性能差があろうと格付け完了させるのも難しくはない。ついでに開き直って「私を敵にまわすなら、クラスごと潰すわよ?」みたいな感じで締めれば、猫かぶりバージョンとの対比も相まって、面食らった奴らのいくらかは櫛田の味方となるだろう。

 

「僕流の情報戦の基本、ウサギとカメだ。自分の能力や評判は日頃から上げつつ、リスク少なく相手の信用を落とす機会は見逃さずコツコツ失敗させる。排除…あー、この場合は退学か。退学は利用価値がなくなってからってな」

「……友達の妹をそんなところへ追いやろうなんて、左京君『も』悪い人だねっ」

「も、って櫛田も自覚あるじゃないか。こういうのは使い方次第なんだよ」

「あははっ。まぁ、ね」

 

 自分で実践したことはないが、これは社会人時代に『俺』が受けた嫌がらせ経験の基本と応用だ。

 これを権力者や人気者にやられると対処が難しくなり、その間に実行者はどんどん上へと登っていく。そうなれば、ほぼ詰みだ。

 

「うっわぁ。夢月さんも桔梗さんも、相変わらずイイ性格してますよねぇ……本当、うっわぁですよ」

 

 早苗は笑って引いたフリしてるが、普通の高校生には受け入れにくいだろう。それに人も選ぶだろうが、櫛田なら問題ない。

 なぜなら、言うは易く行うは難しの典型でもあるけど、僕が見るところ櫛田はこれを成立させる類まれな資質がある。

 また努力と忍耐に関しても、まさに指折りの人材だろう。

 

 ま、この学校の性質から考えて、余程じゃないと堀北さんの利用価値がなくなるとは思えないけどな。なんか変な感じに思い込んでる櫛田には言えないが。

 女の思い込みは一生モノというし、櫛田も例外ではないのだろう。

 多分意味はないけど、普段の猫かぶりに戻って早苗と同類の笑みを浮かべる櫛田を見て、内心そう思った。

 

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