「で、早苗は櫛田に何を協力してもらうんだ?」
櫛田の話はひと段落着いたし、いくつかの目的の為に予想はできるけど早苗にも話を振っておく。コイツの考え次第では、話の方向性を慎重に選ばないといけないからだ。
「私ですか? 私は守矢教に夢月さんを入信させる手伝いを頼むつもりでした。だから夢月さんが素直に入信してくれたら、手間がはぶけますね」
「本人の前では、そういうのは少しくらい隠してくれ。てか、何度も入らないって言ってるだろ」
やっぱり勧誘関係かよ。
予想に違わないけど、違ってほしかった。
「そんなこと言わずに、ちょっとだけ…先っぽだけでいいですから」
「それは男の台詞なんだよ! しかも下ネタ系のな!」
「こんなに誘ってるんだから、もう左京君も入ってあげればいいじゃない。何が不満なのよ」
「面倒」
むしろ、これ以外の理由を言うのも面倒になってきたまである。
「面倒って、あんたねぇ」
「これですよ。夢月さんがいつも面倒くさがって逃げるから、私を超絶面倒くさくしてるんです。責任取ってください」
「ヤリ○ク野郎の次はメンヘラかよ。引き出し多いな、早苗」
「……それをすぐわかっちゃう左京君も同類だと思うなー」
笑みが生暖かくなってきた櫛田に本腰入れられると面倒では済まなくなるので、ちょっと強引だけど少し前から考えてた逆勧誘に変換してしまおう。こっちでも判断する材料は入手できるだろう。
本人には突然かもだが、櫛田の資質にはもう一つ適正があるしな。
「あ、話を変えるけど櫛田。さっきの協力は約束するから、できたら僕の提案も聞いてほしいなって。……エロいことじゃないぞ?」
「え? なに? 今更、左京君がそんな頼みをするとは思わないから、聞くだけ聞いてあげる」
「お、おう。ありがとう。で、あー、その…だな。
櫛田、アイドルに挑戦してみないか?」
アイドルという職業である。
微妙に僕も信用されてるっぽいのが少し意外でどもってしまい、ただでさえ怪しい話なのに更に怪しく聞こえただろうことが難点だ。
愛里への借りをそれなりに返せて、櫛田の言う協力にもなる妙案だと思ったけど、唐突すぎたかも。まぁ、話を早くしておくに越したことはないだろう。
「えっ! それってまさか」
「……あんた、本気?」
「もちろん本気。早苗は気づいたか? 最近思いついたけど、性格的に櫛田ほどアイドルに向いてる奴って居ないんだわ。あと本職が神道系だからあまり関係ないけど、早苗が次点かな」
「それじゃあ愛里さんは……」
「どうしてそこで佐倉さん?」
「ああ、悪い。察したかもしれないけど、愛里に関しては本人と話すまで伏せさせて。ただ、もし櫛田が承諾してくれたら、カメラマンは愛里になるとだけ覚えといて。腕は確かだと言っておく」
話しておくのが礼儀だろうが、呼び出しが急だったので、愛里には匂わせくらいで根回しが完全に済んでいない。しかしまだ早苗が口を滑らせただけで、櫛田の性格も計算に入れると修正は利く。
「あ、ああーー! あの時の集合写真ってもしかして」
「ふっ。高円寺が認めるレベルだ。箔付けにはもってこいだろう?」
「今度は高円寺君……?」
ただ当然のことながら、アイドルという表舞台じゃなく、裏方系の仕事がしたいという愛里本人の確認は取っている。
尤も、愛里がグラビアアイドルを辞めるとかではなく、あくまで将来的な夢らしい。船でフォロワーが激増したことを知ったタイミングで、嬉しさよりも困惑っぽい感情を大きく出していたのが不思議で聞いてみたのである。
すると、できれば将来はカメラを扱う方面でやっていきたい、と返ってきた。
だからそれを見越して、旅行途中から高円寺には厳し目の採点も頼んでいて、愛里の天体や風景の写真を見てもらった上で及第点に達したと聞いている。今は正規の勉強が不可能な状況なので、良いモノを見分ける目を持つ高円寺の及第点は指標になるだろう。
また仕上げにプール後の記念撮影で認める言質を引き出せ、鬼龍院先輩からもお褒めの言葉をもらっていた。
余談だが、プールに僕達全員を呼び込んでこの機会を確定させてくれた南雲への借りは、勝利報酬を求めない形ですでに返している。
あの時は疲れてて一之瀬や葛城に説明を投げたが、二人なら僕が小さな借りでも返すことに拘ってるとわかっているから、細かい部分以外は説明できるはずだ。
「……夢月さん。私には干渉するなって言った癖に」
「うはははっ! どうなっても良いように準備することにかけては、まだまだ小娘共より上のようだな。策とはこう打つのだよ早苗君?」
「小娘て……」
「…………すっごい調子乗ってる。左京君って人生楽しそうだよね」
ともあれ、この愛里の技術とセンスに加えて、櫛田という素材。更には、あわよくば高円寺・鬼龍院の2財閥から後援すら得られる可能性もあるかもしれない。
あそこはかなり特殊な業界ゆえに、しっかりしたバックと逞しい処世術が必須なのだ。そして現時点でも、現役アイドルの愛里以上にほとんどの条件が揃ってる櫛田。
これは愛里のカメラマンとしての実績作りと、櫛田の承認欲求を満たしつつ目的達成を両立させる奇跡的なWINWIN関係なのではなかろうか?
クラスも同じだし、もはや天の采配にも思えてきた。
そして櫛田がそんな背景を僅かでも使いこなすことができたなら、たかが学校の1クラスで上位程度の堀北さんなど羽虫同然である。
なんだそれは! ゴミのような言い分だ! ハハハハッ! とか堀北さんを笑うことさえやり方次第では可能だろう。
まぁ流石に、こんな怪しい話をすぐに受けないだろうが。
だからせめて僕が心から楽しんでいる様を見せつけておいた。挑戦したいと櫛田が僅かでも思ってくれれば儲けものである。
と、あえて懸念を考えないように話していたら。
「でもさ。その話に乗る余裕が今の私にはないのよね。だから、今回だけは堀北潰しに協力して……くれないかな?」
「え、でもさっきの話からすると、それは止めておいた方がいいんじゃ」
「だから元々こっちを先に言おうと思ってたんだけd」
「そういうことだったのか! ようやく合点がいった!」
再度の協力、それに余裕がないという言葉で、思わぬところが繋がってきた。
更には早苗の考えも確信できた。
やはり根は悪い奴ではなく、僕にも近い。それがなんとなく嬉しかった。
「夢月さん?」
「びっくりした。いきなり大声出さないでよ」
でも、ともかく今はぶっこみの時間だな。
「───龍園だな」
「は? なんで椎名さんのクラス…でしたっけ? あの長髪の人が出てくるんです?」
「……馬鹿と有能の間で反復横跳びしないで、左京君。せっかく最近、馬鹿なんじゃないこの人、って思えてきたところだったのに今日で台無し」
疑問符を浮かべる早苗と呆れたような櫛田だが、考えてみれば堀北さんよりも櫛田の方が材料が揃っている。狙われないわけがない。
「失敬な。僕は有能に決まってるだろ。凡人だけど」
「はいはい、凡人凡人。
で、何に合点がいったんですか?」
「櫛田の方は干支試験の結果と…ガチャや無人島でのこともちょっとは影響してるかな。アレらが現状に繋がってるってこと」
「もっとわかりやすく言ってください。夢月さんは、ただでさえ意味不明なんですから」
お前が言うなよ、意味不明代表。
「端的に言うと、櫛田は龍園のターゲットに選ばれたってことだ。それと多分堀北さんもな」
「どうしてそうなるんですか」
先にうちかAクラスを落とすかと考えてたけど、慎重なのか体育祭はうちが形式上の仲間になったからなのか、龍園はまず『潰せる』ところに仕掛ける事にしたようだ。
しかも、ちょうどいいターゲットも目星が付いている。
「龍園の視点で考えてみろ。
2つの特別試験、自分の一人勝ちかBクラスを利用できて万々歳。と思って蓋を開けてみたら、無人島では嵌められそうになり、干支試験では指名を取り合う羽目になっている。原因の首謀者と思われるのは、『僕達』を除けばどっちもDクラスの奴だ」
「それって」
「そう。無人島では堀北さんらしいし、干支試験では櫛田だな」
「……っ」
正直、無人島に関しては清隆だと僕達は確信してるが、風評では何故か堀北さんということになってるので、龍園が目を付けるとすれば、おそらくまずは堀北さんだろう。尤も、彼女の裏にいる存在には気づいてそうだけども。
「あれ? ちょっと待ってください。だとすると、桔梗さんが狙われたのは船で二三矢さんが見つけた法則を横流しした夢月さんも原因の一つ?」
「うむ。そうとも言う」
「なにシレッと言ってるんですか。マッチポンプスレスレですよこれ」
「人聞きが悪い。櫛田はあの時点ですでに龍園と接触してたから、どのみち目は付けられてたさ」
「ですけども!」
「ああ。そういう考え方もできるんだ。……早苗、あれがなかったらもっと足元見られてたかもだし、結果的に良かったとは思うわよ」
「それならいいんですが、なんかモヤモヤしますねぇ」
笑顔を浮かべつつも、微妙に不自然ではあるが上手い『サポート』だ、早苗。コイツとはそれなりに考えが一致しているのだろう。この調子なら話を締められる。
そう考えながら、僕は龍園に話を戻した。
「ともあれ、この情報を得て攻撃的なアイツならどうする? Aやうち、僕達の前に、どっちかは…いやいや、アイツならどっちも潰しておこうとするはずだ。だけど現実的なプランを考えれば、解はまた異なってくる。
その結果起こる事態はというと、干支試験でアイツと交渉していた櫛田になら『次の機会』を作る可能性がある。両方いっぺんに潰そうとすると、二兎を追う者は一兎をも得ずになりかねないからな。上辺だけでも窓口がある櫛田は、とりあえず利用する方向で考えておくだろう」
また確信まではいかないので言えないが、清隆の思惑もどこかで絡んでいるはずだ。龍園だけでは不自然な部分が多すぎる。
無人島から……いや、もっと前から意味のわからない動きをしているのは、着々と何らかの布石や手札を揃えているから。もしくは誰かが清隆の邪魔か妨害をしていてその対抗、といった可能性もあるのだ。
「むー。あの人からすれば攻撃しやすいのは桔梗さんですが、それだと堀北さんを見逃してしまうリスクがある。桔梗さんは暴力的に狙われるのは避けたいし、堀北さんも潰したい。
結果、両者の利害がそれなりに一致して、狙いを堀北さんに流したってことですか」
まぁ、清隆関係は足がつく情報がなさすぎて、どうしようもないから後回しだ。
それを抜いても、櫛田の発言から繋がってくる事柄は、早苗がまとめたように考えるのが妥当なので問題ないだろう。
「そんな感じかなと。龍園はかなり周到な考えをする奴だったし、狙いを絞って確率を上げられるならそれもありだろう」
「船でも思ったけど、よくそれだけで繋げていけるわね」
「僕、凡人なんで。思いつけるモノは考え尽くしておかないとな」
「着地点がおかしくなることも多いですけどね」
「うるせぇ。着地くらい各自で適当にやればいいだろうが」
「そのへんが適当なせいで色んな人が苦労してるんだけどね」
「僕は楽だからセーフ」
「……夢月さん。私や二三矢さん達にもそうしてるから、仕返しされるんですよ?」
「え? なんだって?」
「「……」」
話が変な方向に行きかけてたので、ひと昔前の難聴系定番セリフでやり過ごした。さぞ、イラッときたに違いない。初めて使ってみたが、なかなか便利な煽り言葉だ。
「ともかく話を戻すと、だから現在は龍園が堀北さんを狙うようになってるわけだな。上手い落とし処だと思う」
龍園の思考は外れ気味ではあっても、今のところ学校のやり方には沿っている。
それは根っこは近いが清隆とも似て非なるやり方で、リスクを可能な限り排除する清隆に対し、ギリギリの一線で綱渡りするような博打を平然とした顔で打ってきそうな怖さ。
なら櫛田から見て本命の堀北さんを龍園に狙わせつつ、自分の保険も用意しておきたいだろう。僕と早苗がそれだ。
「ただこれに力関係を考慮に入れると、当然条件が付く。
僕が知る龍園の考えを予想するなら、Dクラスと次にぶつかる機会とかで堀北さんを含むクラスの情報を渡せと迫り、それを呑む代わりに櫛田は見逃す、とかかな。直接的ではないけど、これが協力…というか保険が欲しい事情なんじゃないか?」
底をある程度見切った上、どちらからでも自分のクラスを裏切る話まで出たら龍園は櫛田を見抜けた、と思うだろう。つまり櫛田の脅威度の低下。龍園的に、真の理由はこちらかもしれないが。
「…………ふぅ。あんたらってホント、馬鹿なのか有能なのかわからない。だいたいは正解よ。脅されはしてないけどね」
呆れてるのか感心してるのかわからない風に、櫛田はそう零した。
脅されてないとは言ってるが、ああいうタイプはクレバーに暴力や恐怖を利用してくるから恐ろしいのだ。仲間にならずとも、敵対はしたくないものである。
まぁ、自分の危機回避でもあるとはいえ、そんな奴と繋がってまで堀北さんを潰す目的を忘れない櫛田も十二分にヤバいわけだが。
ともあれ、この日は具体的な行動は求められず、龍園とは微妙に別方向の堀北さん対策(櫛田の評判を上げ、堀北さんを下げる方法など)と、龍園が櫛田を裏切った場合の保険をふんわりと話しあった。まだどこのクラスも何も決定されてないから、当然といえば当然だ。
しかし色々と邪悪な奴ではあるが、冷静になってとりあえず堀北さんの早期退学を思いとどまってくれてよかった。協力すると言っちゃったからには堀北さんを『倒す』のには協力するけど、流石に故意な退学を狙うのは僕的にNGである。
尤も、早苗の納得したような笑顔からして、わざと僕が退学云々の部分から逸そうとしていたのは、ほぼ確実にバレてるけど……櫛田には教えないだろう。
だって僕も早苗も、櫛田の友達だ。
なにより友達と思っているからこそ。決定的に道を踏み外しかねない道なんて。誰かを退学にさせようとする目的なんて。
―――勿論、断固阻止に決まっている。
それなら意固地にさせないよう、それとなく別方向に誘導するのは当たり前だろう。
もし本当に堀北さんを退学させてしまったら、良くも悪くも櫛田の精神バランスは大きく崩れる確信がある。
だから会話を誘導しつつ、櫛田の性質に沿って彼女が楽しい気分になれる案を出せてホッとしている。今は話すつもりもなかったアイドルの件まで出した甲斐があるというものだ。
いやまぁ、人の機微に敏い櫛田のこと。その上、感情や考えが顔に出やすい僕と早苗なので、櫛田が騙されて『くれてる』だけかもしれないが。
でも時間は稼げそうだし、きっとあとは早苗か清隆あたりがなんとか片を付けるだろう。
こういう状況で、こういう奴らがいたら櫛田はこうするかなと。
何気に、原作のメインキャラで最も『人に頼る事ができる奴』って、櫛田だと思ってます。原作では、お世辞にもやり方が上手いとは言えませんが。
佐倉愛里関係については、『人生』『美学』『チカラ』あたりに伏線っぽいのがあるので、よければどうぞ。