ようキャ   作:麿は星

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99、統率者

 

 おかしい。

 

 本日、2015年9月2日、太平洋戦争終戦の調印から70周年。

 僕はこの日が、日本・中国・韓国以外の国では日本の終戦記念日になっている事がおかしいと思っているのではない。上陸時に漏らした写真を取られたマッカ○サー、ビビリ乙www、なんてのが可笑しいわけでもない。実際、北方領土では笑い事でもなかったしな。

 

 おかしいのはBクラスの雰囲気である。

 龍園なら全校集会で僕と早苗が真っ先に脱走した材料を使って、Bクラスに不信の種を巻いたはずだ。制度上、体育祭は味方のクラスだからクラス間の問題までには発展させなくとも、『僕に』何らかの疑いの目が向く程度の情報操作を行うだろうと想定していた。

 

 それがどうしたことか。

 早苗は元より、僕にもちょっとした注意があったくらいで、疎ましがられたり嫌われてる感が全くない。四方が残ってたし、フォローはしてくれただろうから本格的に嫌われる心配はしてなかったが、厄介者としても扱われていない。

 

 まぁ、要因は考えるまでもない。

 うちのリーダー・一之瀬帆波だ。

 どうやったかはわからないが、自分を含むクラスメイトの不信を根こそぎ消し去ったのだろう。これこそが、最初の学級委員会の時からわかっていた僕が彼女に敵わないと思わせる明確なリーダーの資質である。

 

 信じること。疑うこと。

 信じさせること。疑わせること。

 普通の凡人はこれらを両立させて、ケース・バイ・ケースにバランスを取るもの。

 

 だが稀に片方に特化した奴がいるのだ。そしてソイツらの多くが人の上に立っているのを、僕は経験で知っている。

 すなわち、信じる方面の統率者が一之瀬で、疑う方面の統率者が龍園だ。

 そういう奴は不思議と機会や能力などにも恵まれるから、大抵ひと目でも雰囲気を見ればわかる。今回に照らし合わせれば、疑わせようとした龍園の策を、信じさせることで一之瀬が返したのだろう。

 だから早苗になにもないのは、おかしくないのだが……。

 

 クラスメイトとはいえ、着々と一之瀬ポイントをマイナス方面で稼ぎ続けている僕にまでそれを適用させるのがおかしい。いくらなんでもお人好しすぎる。

 寄らばおちょくり、話せばセクハラ、見せる姿は煽り場面ばかりだぞ。しかもほぼ一之瀬限定の対応がこれだ。その上、先日は尊敬する先輩と言っていた南雲をも目の前で煽り、仲間の威を借りて地を舐めさせた。

 

 これで何故、あの不思議生物は僕を『守ろうとする』?

 もはや一之瀬の僕への評価は、底辺を突き破っている頃合いだろう。見られていたかと思って見返せば、目を逸らされる事があるのがその証拠だ。表面だけなら逆にも見えなくはないが、これだけやってまさか好意を持たれてるとは流石に思えない。

 だからこそ何を考えているのかわからない。メサイアコンプレックス的な強迫観念に近いナニかを感じるのみだ。

 

 早苗…いや、四方か柴田に真意を聞いてもらうか? もしくは月イチの約束をした会話の日にでも聞いてみるか?

 かといって、少しでも知ろうと僕自身で近づきすぎれば灰になってしまう。陽キャのほぼ頂点に位置する一之瀬が強力な聖属性持ちで僕は暗黒属性寄りなので、浄化の危険性が高いのだ。

……まったくもって、色々な点から厄介なリーダー兼問題児である。あっちもそう見てるかもだけども。

 

 

 

 

 

 数日経過し、体育祭準備のために設けられたと思われる最初のホームルーム。週に一度、2時間を自由に使えるそこで、体育祭のクラス方針はあっさり決まった。

 各々の希望で好きに決める案が早々に可決されたのだ。他に能力重視や他クラスの情報重視といった案も出ていたが、僕としては楽ができて推薦競技に出なくていいこの案は賛同できた。

 勿論、全員参加競技以外は出ない所存である。

 

 ただ判断基準がまだあやふやな部分もあり、残った1時間ほどでクラスメイト全員の身体能力を測定することになった。速攻で話し合いを終えた上に、生徒会役員の一之瀬がいた為か、あらかじめ手配していたのか、運動場や測定器具も空いていたのもあって即確保できたのである。

 正攻法を主にするなら、目立ってしまっても時間を無駄にせずこうして動いておくのが最適解の一つだろう。

 

 それと、ペアや組が必要な競技のお試し選定も同時に行うらしい。

 例えば、騎馬戦や二人三脚などだ。親密度や相性もあるので、これらは単純な希望や身体能力だけでは測れない。

 

 というわけで今は、跳躍力や握力などを測定する組と、待ち時間で競技者の選抜をする組に分かれている。時間がないので、走力やリレーとかの連携は体育の時間でないとできないが。

 ちなみに、僕は何故かみんなから組やペアのお試しの方へ入れられた。四方や早苗と一緒に。

 

 それでクラスメイト達の半数が、順番に身体能力を測定している待ち時間。

 まずペアを決める必要があると一之瀬他幾人から思われている問題児の二人三脚のお見合い(仮)が始まっていた。

 なお、当然のように僕の最初のペア候補は半強制的に早苗である。

 

「きゃ」

「おわ―――ぐっふぅ!」

 

 そして、最初の一歩で反対の足を出す息の合わなさを、周囲のクラスメイトと……他はホームルームやってるのに、もう動いたうちを窓から見てくる他クラスの生徒達に見せつける。

 二人して見事に逆足を出して、ビターンとコケたのだ。次いで、勢いよく脇付近に突っ込んできた緑頭の一撃は、僕の息の根を一瞬止めた。

 痛みは左程でもなかったが、衝撃と恥ずかしさを誤魔化す為、僕はわざとだと周囲にアッピールしつつ、早苗に恥を押し付けることにした。

 

「まぁ知らない奴は多いと思うんだが、二人三脚って実は相方を転がす競技なんだよね。

―――どうだ早苗? 自分で動きを制御できない状態で転がる気分は?」

「夢月さん、言ってることとやってることヤバすぎます! 大体、転んだら自分も痛いでしょ!?」

「ふっ、痛いとわかっていてもやりたいことは完遂する。それが僕だ」

「なにカッコつけてるんですか! 信じられないくらいカッコ悪いですよ!」

「何を言おうと抵抗しようと無駄だ。それでもやるというのなら、僕を引き摺って行くんだな」

「わかりました。では遠慮なく」

「えっ、ちょ!? おい! 本気で引き摺ろうとすr───おぁあああ!!」

「そりゃ、東風谷にそんな事言えばそうなるだろうよ」

 

 流石、極悪非道な早苗である。本当に引き摺られた。

 スタート地点で一緒にいた呆れ顔の四方と白波が、だんだん遠ざかっていく。あっちは平和?でいいなぁ。

 

 早苗のペアが僕か四方しか務まらないとみんなに思われていて、もう片方の四方は白波が希望を出して早々に取られたのがケチの付き初め。

 現在、僕は早苗に取り憑かれている。

 って、それどころじゃない!

 

「ちょちょちょちょっ! 痛い痛い! い、いやぁああ! 早苗ぇえああっ!! これは協力が物を言う競技なんだから、そんな事しちゃ駄目だろぉおおお!!!」

「どの口がそんな事言うんですか!」

 

 普通にペースが早い早苗に振り回されて、ガンガン色んな場所へダメージが入る。

 

「はうぁっ! いってぇ!

……こんな…こんな事が許されるわけが……!!」

「うっふっふ。私の無様な姿を笑おうったってそうはいきませんよ? 貧弱な夢月さんなんて、怪我させない程度に蹴散らしてやります!」

「二人三脚で相方を蹴散らすんじゃねぇえええ!」

 

 切実な僕の叫びはどこへも届かない。

 結局、お試しの第一走は引き摺られるだけで終わった。

 

「……二人共、相変わらず仲良いね」

「一見だけだと、息が合ってるのか合ってないのかわからない奴らだよなぁ」

 

 折り返しのゴール兼スタート地点近くで、一之瀬と柴田の陽キャコンビも結成されていたようだ。極めて不名誉なことを言われている。

 これはさっさと終わらせて、これ以上の練習をしなくて良いようにしなくては……。やっと痛みがなくなってきたのに、また筋肉痛になるまで絞られてしまう。なにより何度も練習するのは面倒くさい。

 

「待て、早苗。これ、冷静に息を合わせればいけるって。あんなにキラキラしてる一之瀬・柴田のリア充ペアに負けるのは癪だ。僕が合わせるから、この程度の壁なんか軽く乗り越えて、あいつらを置き去りにしてやろう」

「キラキラってなんだよ、おい」

「……なるほどー。左京君からはそう見えるから、南雲先輩にもああなるんだね。なるほどー」

 

 幸い、近くで試しに息を合わせて走ろうとしているモチベーション向上の材料も転がっている。

 

「そうですね。私達なら乗り越えられると信じましょう」

「ああ、僕達の愛と友情パゥワーならできるさ」

「愛と友情の力……」

「そして二人共聞いてないんだね、やっぱり」

 

 2走目は一之瀬・柴田ペアとも走るみたいだし、僕達が譲歩しあえば普通に走るくらいはわけもないだろう。

 ただで練習を何度もさせられたり、美男美女のリア充ペアに負けるなんて不愉快極まる。少しでも爪痕を残してやろう。

 それには早苗が鍵になる。

 

 この規格外を乗せれば、僕は合わせるだけでいいはずだ……理論上。まぁ、こんな適当なパワーがあるわけもないが。

 だから姿勢がブレないようしっかり肩を抱き寄せ、さっきの早苗のペースを補正・想定して、僕にも合うようパターンを組み直せばあるいは―――。

 

「……ホントに乗り越えられちゃいました。というか、私のリズムに付いて来れるなんて」

 

 そうして走りきった結果を受けて、早苗がどこか呆然と零す。

 僕も同じ気持ちだ。

 初見とはいえ、あの乳でありながら並以上の運動能力な一之瀬はまだしも、おそらくクラスでも1・2を争う走力の運動部所属・柴田のペアを、早苗をよく見ながら合わせただけで追い越せるとは思っていなかった。

 

「今の絶対に失敗する流れだっただろう! 今のでできなくて、いや愛とかねぇから! ってツッコむ流れだろ! 友情はともかく、最初のあの息の合わなさで愛を成立させてんじゃねぇよ!」

 

 僕はなに言ってんだ?

 何故か付いていけてしまったことで錯乱してるのを自覚しつつ、早苗に口喧嘩を仕掛けてしまった。

 成功したんだし、あとは測定の方が終わればいいだけだったというのに……。無駄に寝た子を起こしてしまった。

 

「知りませんよ! 夢月さんが私を好きすぎるのがダメなんでしょ! あらあら、私って罪な女ですね?」

「っざけんなよ、クソ緑が! それは早苗の方だろ! 無人島や船で愛里へするように僕に抱きついてきたことは忘れてないからな!」

「そ、それは関係ないじゃないですか!? よりによって夢月さんに抱きつくなんて、あの時の私はどうかしてたんですよ!」

 

……うん。愛とか言っちゃったせいで、口に出すのも恥ずかしい某ガン○ムの黒歴史的なラブラブなんちゃら~がほんのちょっと頭をよぎったから。

 

「あいつら、勝っても喧嘩になるのかよ。つーか、前から時々言ってるけど東風谷のどこが緑なんだ? 緑要素、カエルの髪飾りくらいじゃねぇか」

「にゃははは……それはともかく、私達、負けちゃったね。もっと息を合わせないと駄目かも」

 

 しかし納得できないが、なんか異様に早く息を合わせる事はできた。これでもう練習しなくていいと思うと、心が軽くなる。

 無人島で振り回された経験が生きたといえるかもしれない。

 

 それはそれとして、最近の早苗はああ言えばこう言うようになってきて、言いくるめるのも一苦労だ。またハイテンションな時も多くなってきており、入学当初の大人しく見えなくもない頃の面影は“あまり”ない。

 元気いっぱいな早苗をお祓いするには、どこへ行けばいいのだろう。

 

「夢月は運動『能力』はともかく、運動『神経』はかなりいいぞ。それに日頃から一緒にいることも多い東風谷だから、無意識にやろうとすることがわかるんじゃないか?」

「……それが以心伝心のアドリブ芸を生んだってか。相当、キツかったけど」

「二三矢さんが言うなら、そうなんでしょうね。私に付いて来られる以上、多分間違いないと思います」

 

 こうして四方か、今は居ないけど愛里がクールダウンさせてくれるまで、暴走特急な性質を遺憾なく発揮し続ける。

 四方が来てくれたおかげで、ようやく足を繋ぐ紐を外せたくらいだ。ローテンションにしたいわけでもないが、時々疲れる。

 

 それにしても……くそぅ。なんということだ。

 一応外見は美少女なのに、まったく役得やエロさを感じないどころか、もはや野郎や櫛田と同等。くっつくことで残暑の暑苦しさ倍増を感じるのみである。これが普通の女子だったら、もっと嬉し恥ずかしのイベントとなったことだろう。

 僕はそのまま早苗を下から見上げ、僅かに生じた男としての嘆きを蒼天に輝く太陽へ放って片付けた。

 

 

 

 さて。切り替え、さくさく場所を移動して次は測定だ。

 これだけでも終われば、面倒はかなりスキップできる。残り時間はギリギリだが、僕達後半測定組は効率良く跳躍力や柔軟性を記録していった。

 

 そのまま問題なく器具などが必要な測定を終わらせ、後は握力を残すのみとなった……のだが。

 不可解なことに測定の間、僕は前後をずっと一之瀬と神崎に挟まれている。ちなみに早苗は四方と一之瀬が前後である。更に周囲には柴田や網倉、安藤に白波まで巡回している。女子に握力測定はあまり必要ないというのに……。

 

「あの……この並び順はなんだ? なんか護送されてる気分になってくるんだが?」

「いい得て妙だな。目を離せない要注意人物の監視を任された神崎だ。一之瀬とともに、よろしく頼む」

 

 誰ともなしに問いかけると、神崎がふざけた返しをしてきた。

 

「よろしく、じゃねーよ! 早苗なら勝手に監視してろよ!」

「左京君も監視対象なのを自覚してない?」

「僕がそんな対象になるわけないだろう!」

「……本気で言っているのか? お前は龍園をも凌駕する同級生…いや、全校生徒の中でもやらかし率No.1の左京夢月だぞ? 星之宮先生からもマークするよう指示があったほどで、むしろ東風谷の方がついでに近い」

 

 あ? やらかしだのマークだのって、神崎はなに言ってんだ?

 いや、それよりも。早苗以外、神崎の発言にうんうんと頷いていて、なんか周囲の空気同調率に危機感を覚えるレベルなんだけども。

 

「ヤバい。もしや、僕の信用度がだいぶ下がってる!?」

「元からだと思うぞ」

「それマジ?」

「胸に手を当てて考えてみろ。思い当たることなんていくらでもあるだろう」

 

 胸と聞いて、背後から一之瀬のおっぱいでも揉んでやろうかと一瞬思ったが、それを実行した時点で僕は終わりを迎えてしまう。なので、普通に答えることにした。

 

「ん? 思い当たること……思い当たる…………特に何も思い当たらないが?」

「っんなわけないだろうがっ! 女子もいる中で全裸闊歩したのは忘れてねぇからな!」

「……柴田君。むしろそれは忘れて?」

 

 思わずと言った風にツッコんできた柴田に加え、神崎とペアになった網倉さんが額を抑えている。これは当然、スルー安定だろう。

 

「夢月さん、もしかして記憶が……。さっきやりすぎましたかね」

「いや、至って健常なままだ。てか、失礼だな早苗」

「健常なら思い至るはずなんだよっ!」

「やはり記憶が」

「引き摺られただけで記憶が消えるわけないだろ。常識的に考えて」

 

 ともあれナイスサポートだ、早苗。柴田も2度も叫んでくれてありがとう。

 プチ痴呆症を演じることで、話題が本筋から逸れた。

 あとは僕の真ん前で、背後霊(前なのに背後霊とはこれいかに)のように佇む一之瀬さえ有耶無耶にできればこっちのものだ。誘導してくれた早苗の為にも、あとは握力測定を乗り切るだけ……勝ったな。

 しかし───。

 

「……みんな、落ち着こう? 左京君のことだから、そういう風に演じた上で、混乱に乗じて色々有耶無耶にしようと狙ってるんじゃないかな? 私にはそう思えてならないんだ。ねえ、左京君?」

 

 その鶴の一声で、ビクッ。と身体に電気が流れたように反応した。

 

「なるほど。た、確かに左京ならやりそうだ」

「だから演技の可能性も考えて。慌てちゃうのは駄目。いつも冷静でいないと。そうだよね、左京君?」

 

 な、なんだこれ。一之瀬にかなり見抜かれてないか? じゃなかったら、必ず最後に僕を振り返って名前を呼ぶのは如何なる意味がある?

 

「あ、これ見抜かれたヤバいって顔だわ」

「左京君って定期的にやらかすよね。流石はNo.1」

 

 気を取り直して僕の顔を覗き込んでくる柴田や網倉さんに、反論とかするのは下策だ。この混乱をきちんと鎮めてからでないと、本当に色々バレてしまう。お口チャックである。

 とりあえず『内心』で吐き出して、少しでも落ち着くことにする。

 

「やらかしたくてやらかしてるわけないだろ!? てか、ヤバいヤバい! 覚り妖怪は坂柳さんじゃなくて、一之瀬だったか!? YESロリータNOタッチ? てか、あのエロい体とか、どう見ても小五ロリになんか見えないじゃん! あと爆乳さとり妖怪が心を読めるなんて、エロ系以外のどこに需要あるんだよ!? 僕はなに馬鹿な事を考えているんだ、この非常時に! と、ともかく本物の妖怪でない限り、正解は沈黙がベストアンサーなはずだ! そう。あの乳でそんな非現実的な能力まである訳がない! 持論を信じぬけ、僕」

 

 おっ、柴田や網倉さんが距離を取った? てか、他の奴らもザザッと後退した。

 なんかわからんが、考え込んでるうちに好機が到ら……。

 

「ふ~ん。やっぱり変な事考えてたんだ。今回は妖怪にエロ、ロリときたかー。

 でも……にゃはは。左京君ってすぐ顔と口に出るから、きちんと対応すれば隠し事はできないね」

 

 妖怪にエロ、だと?

 

「表向き無口なCOOL BOYを装っていたはずなのに、内心を読まれた!? あり得ない!」

「無口なCOOL BOY……。左京君にはあんまり似合わないなー」

「ば、馬鹿な……! 一之瀬! さっきから何故僕の内心がわかる!?」

 

 ことごとく読まれている思考盗聴の謎は、笑顔でズイッと近づいてきた一之瀬が種明かしをしてくれた。

 

「にゃはは。左京君、途中から全部口から漏れてるって気づいてないの? 気づいてないか。私をエロ妖怪呼ばわりするんだもんね!」

 

 口から漏れてた? 妖怪云々が?

 てか、関係ないけど、エロと妖怪をくっ付けるんじゃない。なんか違うモノを連想しちゃうだろうが! エロゲーとか! エロ同人とか!

 

 あれ? でも……怒ってる風に見えて、意外と楽しんでないか、一之瀬。不思議と機嫌良さげにも見える。坂柳さん妖怪説を笑う性格でもないから、自分がそう呼ばれたのが嬉しい? 統率者と言えど、一之瀬も一応女子なんだしそんなわけないだろう。じゃあなんで?

……ああもう、なんで一之瀬にはこう、いちいち複雑な考察を必要とするんだよ。

 

「―――クッソ面倒くさい!」

「……ほら、また。無人島でもそうだったよね?」

「う、ぐ。まさか僕にこんな癖があるとは」

 

 思ったことが口から漏れ出すのを止められない。

 また立証されてしまったのもマズいし、どこかでもやってたら目も当てられない。

 僕はそうなってたら特にヤバい場面を意識して必死に思い出そうとした。ハードラックとダンスっちまった場面を重点的に。

 

「あれ? 意外とショック受けてる!? 左京君が!?」

 

 考え込んだのをショックを受けたと見られたのか一之瀬の雰囲気が変わったがそれどころではない。

 

「もし真面目な交渉時にも発動してたとすれば……後で聞き込みをした方が……」

「いやいや! 私が知る限り、それはないから! 多分、気を抜いてる時だけだと思うから!」

「…………そう?」

「うん! きっと大丈夫だよ。大人っぽい時はしっかりして見えるよ。頼りがいもあるし」

 

 一之瀬というクラスリーダーに太鼓判を押され、元気付けられたことで重大な懸念は薄まったが……きっと今の僕、すっげぇ情けない。

 高1女子に悪癖を暴かれ、立場が逆転して慰めまでされるとか、大人の精神も形無しである。この化け物…包容力お化けめ。同級生の僕に慈しむような目を向けるんじゃない。

 でも、一応思っとく。

 ありがとう。

 

「ブフーーー! あっは! 確かに坂なんとかは子供子供してましたもんねっ! わかります!! あははははっ!」

「わかっちゃ駄目なんだよ、東風谷。

 夢月と東風谷は、なるべく坂柳に会わせない方がいいだろうな。空気を吸うように煽りまくるぞ、この調子だと」

「というか一之瀬に対してもだが、あの坂柳を妖怪扱い。しかも小五ロリって…………左京、恐ろしい奴」

 

 一方、一之瀬以外は坂柳さん妖怪説で盛り上がっていた。

 これは以前に考えていた想定通り、坂柳さん対策をしてくれそうだ。それだけは不幸中の幸いである。

 

 

 

 そんなこんなで、テンションが落ち込んだまま測定した僕の握力は34.8だった。

 クラス内で断トツに低いその数値に手抜き疑惑をかけられたが、生憎とこれが僕の全力である。ただ正直四方が全力を出さなければ、そこまで浮かないと思っていた。

 しかし想定は外れた。

 

「スポーツは速さだぜ! 快速柴田マンの力の源は脚なんだよ!」

「ふっ。負け惜しみを。大抵の男子スポーツはパワーに決まっている」

 

 神崎が現時点での握力最高値をマークし、柴田が次点となった事で珍しい二人で煽り合っていたところ(ちなみに柴田が64㎏で、神崎が69㎏らしい)、二人の陰から小さな体躯の四方が現れて一刀両断したからだ。

 

「スポーツは───集中力さ」

 

 そう言って測定器具を握り込んだ数値は脅威の90㎏。負けず嫌いが発動して大人げなく全力を出したのか、手をプラプラしてなければ僕も驚く周囲に紛れられたかもしれない。

 勿論、僕の感情大半を締めるのは呆れと心配である。

 アイツは故障が怖くないのか、と。

 

 これにはどう対処したものかと考えていると、自分の測定を速やかに終わらせて神崎と交代した一之瀬に声をかけられた。僕の監視の為か、測定が終わったのにいまだに張り付かれているのだ。

 早苗から解放されたら次は神崎、更にその次は一之瀬とか、僕は呪われてるんじゃなかろうか。

 まぁ、言いたいことがあるので二人で話せるのは好都合でもあるが。

 

「左京君は四方君の結果に驚いてないんだね」

「ああ、アイツは色々並外れてるからな。ある程度、的を絞らせてやれば結果は出すさ」

 

 負けず嫌いで頑固な性格的に、それが難関なのだが。

 

「だけど―――。

 一之瀬に頼めることじゃないかもだけど、なるべく四方に無理はさせないでくれな?」

「それは当たり前だよ。仲間なんだし」

「……ホント頼むな? アイツって夢中になった瞬間、無自覚に身体の限界を超えるから結果より故障が心配になるんだよなぁ」

「故障……? 四方君が?」

 

 これまでで痛感しているが、僕や早苗だけじゃ四方を止められない場合が多い。

 だけど、クラスメイトの活躍する場面を選ぶ事ができる一之瀬に助けてもらえれば、四方が無茶する機会そのものを削減できる。今ならアレを確認させるだけで、一之瀬にもその必要性は理解できるだろう。

 

「四方の手を見てみろ。身体の後ろに回して隠そうとしてるから、ちょうどこっちから見える」

 

 手招きして立ち位置を調整し、柴田や神崎と話しつつさりげなく手を後ろに回す四方を静かに指す。

 すると遠目ではあるが僕や一之瀬の目に、無駄に力を発揮しすぎた結果が飛び込んでくる。

 

「え…………プルプル震えてる?」

「身体ができてないのに、いきなり90kgなんて握力を発揮するからだ。あれは少し痛めたかな」

「そんな」

「ま、少しなら多分大丈夫。無人島やプールで僕が無理させちゃう事もあったけど、2~3日で回復できてたしな。それに今は周りがケアできるし」

「早めに知ることができて…よく見てくれてる人がいてよかった。

……それで、どうするのがいいのかな? 左京君はどうしたいの?」

「本人はやる気みたいだし、好きにさせるのが一番だと個人的には思う。ただ『少しだけ』気を遣えば、きっと想定以上の結果を出してくれる奴だ。だから一之瀬が決断する時に、この少しだけを思い出してくれれば充分」

 

 少しだけ、ってのがポイント。

 四方に限ったことでもなく、リスク管理を疎かにするわけじゃないが、助力や手回しは本人にどうしようもなさそうな時だけ、必要最小限でいい。

 例外を除き、僕の友達全員はそんなに柔じゃない。

 

「ぶっちゃけ特別扱いしろってわけじゃなくて、身体能力を発揮させ続けるのと、短時間に何度も連続行使させないように気をつけてくれたら、僕ら的には嬉しいなってだけなんだ。四方に適正な場を選べば、今見た通りに間違いなくエース級の柴田や神崎も超えられると断言しよう」

 

 その僕のちょっとした意見は伝わっただろうか?

 一之瀬はリーダーとして優秀な采配を振るうし、伝わっていると信じるとしよう。

 

「……わかった。競技順を決定する時に参考にさせてもらうね」

「よろしく頼む。信用がない僕じゃ、クラス内の決定に関わりにくいからな」

「そんなことないと思うけどなー。さっきはああ言われてたけど、左京君って自分が思うより信用も影響力もあるよ? 私だって……」

 

 まじまじと僕を見つめながら、言葉を途切れさせる一之瀬。

 しかし言葉や容姿がどうとかじゃなく、統率者&善人特有の綺麗に透き通った視線を受け止めて―――。

 

 意外と僕は彼女に嫌われていなかったのかもしれない。

 

 と、そう思えたのは多分救いだった。

 最近、格好悪いかアレなところばかり見せてるし、内心が漏れてたんなら普通に終わってると考えてたので。

 だから勿論、好かれているなどと阿呆な勘違いすることはないが。

 勘違い男を量産する聖人的な振る舞いは、なにより止めてほしいものである。

 

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