ようキャ   作:麿は星

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 偶々ですが、このタイトルなら4月1日に投稿したい、ってなって突貫で書き上げました。見直しが不十分っぽいので、後で修正するかも。



101、嘘(前半、堀北学視点)

 

 それは夏休みの最終日、夕暮れ時の生徒会室。

 

「会長……! どうか、どうかお願いします!」

 

 その地を吐くような嘆願を俺にしてきたのは、なんと南雲雅。俺の後輩で2年の副会長だ。

 南雲は俺とは違い、何事も行動する事で道を切り開くタイプの人間。これまで俺にも幾度となく挑みかかるかのように突き進んできた。

 それがどうだ? 左京と幾度か接触した事で南雲も少しは変わったのだろうか? 含むものがある雰囲気そのままに、どこか必死な姿を見せている。

 

「会長が会長である間に、あんのクッソ生意気な左京夢月ともう一度だけ真剣勝負を……!」

 

 聞けばプールの開放日に命名決闘を申し込み、団体水中バレーで返り討ちに遭ったらしい。そこまではいい。

 問題はそのビーチバレーの前後で南雲を散々に煽り散らし、これまた2年の鬼龍院楓花を一時呼吸困難に陥るほど笑わせた事だ。

 数度会っただけだが、あの他者にほぼ興味を持たない女子をそこまで笑わせる煽り。それが南雲の自負とプライドを酷く傷つけたのは想像に難くない。

 

「アイツが前に提出した提案の中に、体育祭の提案があったはずです! そこには総大将の設置、また3学年合同リレー以外に全学年男女選抜騎馬戦と全学年男子棒倒し、全学年女子が的あてという提案もありました!」

 

 以前に『あの男』が学校相手に改革を齎した時の提案を言っているのだろう。

 たしか「応援合戦とか創作ダンスとかがないと華やかさや盛り上がりに欠けるので、イベント限定の目玉を作っては?」とか、「学年ごとより全学年の方が効率的で派手になる」とか、そうすると玉入れのままでは女子が溢れるので「的あて勝ち抜き戦とか面白いんじゃないですかね?」などと色々言っていた記憶がある。

 

「なるほど。それなら直接対決ができると」

「はいっ! このままだと学年が違う左京と直接対決できる機会は多くありません。ですので、機会を増やすためにもまず会長の在任中に体育祭の改革を!」

 

 俺は良くも悪くも、これまで事を荒立てないように歩んできた。

 出された課題を淡々とこなし、凪いだ場所で過ごす日々。

『見本』であること。

『規範』であること。

 それこそが正しいと信じ抜いていた。

 なにか行動を起こし、変えることなど考えもしなかった。諦めていたともいえるだろう。

 

 しかし去年。目の前にいる南雲が入学して、気にかかる点はありながらも、次々と新しい道を切り開いていった。

 そして今年、左京夢月という男が入学し、嵐を巻き起こした。

 南雲が切り開こうとしていた道を、強風で強引に道にして舗装するかのような嵐でだ。

 結果だけは南雲の目指す道と近しいものになったかもしれないが、強引すぎたがゆえに先も見えなくなった。あるいは左京には見えているのかもしれないが。

 

「だが、命名決闘で左京にする要求はどうする? 理由がなければ、意味のない決闘に乗る男ではない。ポイントや何らかの優遇でも釣られないだろう」

「それも考えてあります! 俺が勝った場合の要求は左京の生徒会入り。

 そして左京が勝った場合は―――」

 

 俺にとってもだが、南雲にとってはまさしく青天の霹靂だったのだろう。

 学年での争いにほぼ決着が着き、退屈しかけていたところへやってきたイレギュラー。

 まして遊びで集団戦とはいえ、直接当たっていいようにやられるなど南雲のこれまでからはあり得ない。

 左京への悔しさと忌々しさを隠さない態度ながら、僅かに期待と喜びも垣間見える。

 

 南雲に関しては、いまだに疑っているところもある。

 学年を纏める偉業を成した南雲は南雲で油断のならない男だ。

 不確定だが、敵対した生徒を退学に追い込んでいるという情報もあり、表裏を使い分けているとするなら、本質は変わっていない。ゆえに、とても信用できない者だろう。

 だが―――。

 

「あの案を実現するには、去年…例年と比にならないほどの作業量・交渉になるぞ。しかも体育祭の生徒への通知は明日だ。最低限だけでも変えようとするなら、今日は相当帰りが遅くなる。

 それでもいいのか?」

 

 この『本気』は本物だと信じられる。

 

「勿論ですよ! ありがとうございます!」

「そうと決めれば時間がない。まずは作業の優先順位を決めなければな」

「とりあえず明日でないと間に合わなくなる総大将だけでも、突貫で教師の通知マニュアルに加えましょう! なんなら、これからいくつかの競技を整理して時間に余裕を作り、効率化を図ってやりますよ! 細かい部分は9月中に詰めていけば、新人達の実力底上げにも繋がります!」

 

 承認された安堵を平常の不敵な笑みに潜ませ、この信用できない後輩は渇望するようにこれまでにない『健全な』やる気を見せていた。これまで最低限の作業以外、生徒会室に寄り付かなかったが、本気で実現に向けた働きをしてくれるだろう。

 元より勝負事には真摯な男だ。

 その為なら俺も先輩として、責任者として手を貸そう。

 しかし俺を友と呼んだ2つ下の後輩も、厄介な男に目を付けられたものだ。

 

 南雲は手強いぞ、左京。

 

 南雲のここにきての変化の兆しがある原因には、余計なことを除いても俺も当たってみたい。

 この呑気ともいえる判断はそんな感情もあったことに……俺が気づくのはだいぶ後になってからだった。

 

 それは2年半以上も。いや、これまでの人生でも、心から信頼できる友をあえて作ってこなかった事から派生した『過ち』。

 『嘘』を見抜けず傍観しかできなくなるという『後悔』。

 そしてそれが巡り巡って、鈴音の『始まり』に繋がっていくことを俺はまだ―――。

 

───威嚇や脅しを反撃できない者にすることを、会長は軽く考えすぎている。

 

 南雲との作業中、不思議と以前のトラブルで放たれた言葉が蘇る。

 それを口に出した『友』と……『後輩』の変化に言い知れぬ期待を抱いていたからかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 9月は、櫛田や清隆関係で微妙な事こそあったものの、あとは龍園のところへ出向いて栄一郎にお互いの情報とかを流さないよう明言してもらったり、彼のクラスの仲間に受け入れられるように頼んだくらいで、特筆すべき事は起こらなかった。

 せいぜい増えた体育の時間と、長めのホームルームが面倒だっただけだ。

 

 一之瀬が采配を存分に振るえるクラス内は、輪をかけて順調。平穏万歳である。

 四方や早苗が出場する団体競技関係でちょこちょこ話を振られたのと、くじ運のせいで僕が借り物競走にも出ることになってしまった以外は、揉め事もなく終始スムースに話が進んだ。

 また伝えておいた四方の懸念についても配慮してくれた。仮決まり(提出は最終日らしい)となった四方の競技でも、一之瀬はそれなりの余裕を持たせてくれたのだ。

 

 10月に入っても、参加表の提出はBクラス学級委員会の決定であり、体育祭の各組総大将の投票もあったが石倉?とかいう3年生にほぼ決まっているようなものなので、こちらも僕には関係ない。

 

 体育祭3日前、昼休憩後に戻ってきたら教室の前方で担任や一之瀬達が談笑していたのも、日常を証明しているようで落ち着く光景だ。

 

「好きなタイプ?」

「先生にもそういうのってあるんですか?」

 

 まぁ微塵も興味の湧かない話題ではあるが。

 

「……ええ。私よりも年上で落ち着いた雰囲気があって……それでいて、その人がそばにいると幸せになれるの」

「先生よりも年上……? え、誰かいましたっけ?」

「ふふっ。わからないのも無理はないかもね。この学校じゃ、ほぼお目にかからないから」

「もしかして学校内にいない?」

「いえ、いるわよ? よかったら紹介しようか?」

「ええええっ! で、できるんですか!? 本当に!? だったら是非見てみたいです!」

 

 網倉がそう聞くと、担任はおもむろに自分の懐に手を入れた。

 

「内緒よ? あんまり褒められたものじゃないしね。今日は偶然ここにいるから、ちょっとだけ会わせてあげる」

「ここに!!? 電話じゃなければ教室の外ってことでs」

 

 あからさまに怪しい話なのに、根が素直な奴が多いせいでからかわれてるな。普段を考えれば、行き着く先は想像できると思うのだが……。

 そんな聞くとはなしに聞こえてくる話し声をよそに、担任は財布から1枚の紙幣を取り出して、こう宣った。

 

「紹介するわ。私の一番大切なひ・と♡

―――福沢諭吉様よ」

 

 予想通り、いや予想以下の大人としてとてつもなくみっともないカミングアウトである。

 

「………………………はい、撤収~」

「そんなこったろうと思った」

「下手したら常時酔っぱらいの地雷女なのに、金狂いでもあるのかよ。マジパねぇな」

 

 だが約半年ほど訓練されたBクラスの生徒は動じない。素早く切り替え、華麗にスルーしていた。ついでに、会話が聞こえていた僕の口からも本音が零れた。

 

「まぁ、待ちなさい。お金と恋人が人を幸せにしてくれるのは事実。それなら両立できるこの恋人は最高でしょう?」

「「「……」」」

「だから美人のくせして生き遅れかけてるんだなぁ。いや、かけてるんじゃなく、すでに手遅れだったか」

「あと左京君はさっきからボソッと口撃力高い言葉投げかけるの止めようね? 私、泣いちゃうよ?」

「どうぞご自由に」

 

 結構な距離があったというのに、担任はグリンと僕の方を向き、ニヤニヤと可愛さを欠片も感じない事を言い募ってきた。

 

「……私にそんな事言っちゃっていいのかな~? 楽しいお知らせもあるんだけどな~? 止めてくれたら早めにこっそり教えてあげても」

「だが断る。いい年こいてナニ言ってるんです?」

「こ、この、クソガキッ……!」

「ハハッ。僕がクソガキなら担任はクソババアですね」

「こ、こここっ」

「ニワトリの物真似ですか? 鳥頭にはぴったりっすね」

「……っ!  私っ、担任教師! 左京君っ、生徒!」

「今度は片言に退化したんですか。あ、ニワトリからなら進化ですね、一応。どっちにしろアルコール中毒か更年期障害なら、早めに療養行った方がいいっすよ」

「…………キレそう。このガキは何倍返ししてくるのよ、ほんっとぅにもう……!」

「というより。あの、星之宮先生……言葉が」

 

 しかし距離があるということは安全だということ。

 ゆえに、気分でなんとなく担任の猫を剥がしても、すぐにホームルームだし何も起こりえない。

 安全圏から煽れるのは、いつも人生に潤いを与えてくれるものだ。特に年甲斐もなくテンション高くした担任が浮かれてるのを撃ち落とすのは良い気分転換になる。

 僕としては、心安らぐ朝のひと時。言ってみれば平穏である。

 そう。平穏な日常だと考えていたのだが。

 

 チャイムが鳴り、なんとか立て直した担任が本日の伝達事項―――体育祭の総大将の発表に移った。

 最初は先程の煽りの影響かヤケクソっぽく見えていたが、今は一転して再びニヤニヤと胡散臭い笑顔を浮かべている。そういうとこだぞ。

 

「では体育祭の総大将の発表をしま~す!

 白組の総大将に選ばれたのは―――」

 

 それを傍観していたところ、何が楽しいのか担任がウキウキとした態度のまま発表した内容によって事情が変わった。

 

「全学年B・Cクラスから107票を獲得した1年Bクラス左京夢月君で~す! ひゅ~、パチパチ! 次点の3年石倉君は49票、三席の一之瀬さんは37票の文句なしで断トツ得票数だねっ。おめでとう!」

 

 どうやら担任は、ついにシラフのまま酔っ払う特技を発現させたようである。

 常に酔っ払った社会人失格は速やかに帰ってどうぞ。

 いや、まぁ。これは流石に正当なる現実逃避の一環だが。

 

 

 

 

 

 富、名声、力。

 その全てを希求する酔いどれ担任教師・星之宮知恵。

 彼女がホームルームで言い放った戯言は、生徒達をおかしなテンションへと駆り立てた。

 

「僕が総大将だと?

 欲しけりゃくれてやる。むしろ貰ってくれ! 誰かが勝手に押し付けた!」

 

 生徒達はAクラスを目指して夢を追い続ける。

 世はまさに実力主義という名目の騙し合いを奨励する大後悔時代!

 人々が何らかの力を追い求め続ける限り、それらは決して終わることはない!

 

「こいつ、ワンピース好きすぎかよ」

「でも、そう決めつけていいの? 単純に左京君に投票した人が多かっただけじゃ」

 

 見るからに性善説を信奉する一之瀬だが、今回その解釈は無理がある。

 

「特に目立ってもない1年坊主に、白組内の半数…全校生徒の約4分の1が投票するってどういう理由が考えられる?」

「……目立ってないことはないと思うけど」

「でもそれ以外は確かにそうかもな。普通なら、あっても一之瀬への投票が上振れする可能性くらいだし」

「じゃあ本当に誰かが……?」

 

 第一容疑者になりそうな龍園のやり口と明らかに違うので、その誰かは悪意を利用できる者。そして僕はソイツ『ら』に心当たりがある。

 

「ふん。こんな票操作なんて事をやりそうな奴は、すでに二人まで絞れている。奴らのどちらか、あるいは両方が噛んでいると見て間違いない」

 

 ならば逆転の発想。僕もやっていいはずだ。

 心当たり……2年の大半を動かせる(票操作)とかほざいてた南雲と、攻撃的で陰湿な手段(煽動・誘導)を活用しそうな坂柳さんを仮想敵に仕立て上げる。今の段階では言いがかりに等しかろうと、誰もが納得する有力候補だろう。

 

 あくまでこれは生徒なら、という前提条件が崩されない限りにおいての候補だって部分は伏せておくが。だって『それ以外』はやらないだろうし、関与があるならどうしようもないからだ。

 

「こんなに早く絞れてるの!?」

「というか二人だと!?」

「どちらだったとしても次に打つ手は想像がつく。おそらくこれから体育祭本番までの数日間は忙しくなる」

 

 ともかく、実際にやったかどうかは関係ない。

 僕の平穏を崩せばどうなるか見せしめになってもらう。

 それと残りの3日間に僕が動かざるをおえない事情を作ることで、合法的に練習をサボることも可能。

 勿論、後者がこうしてリーダーの一之瀬を差し置いて、無理やりクラスの主導権を握りに行く主な理由である。

 

「忙しく? 左京君が?」

「そうだ。上げて落とすのは基本。なら無意味に僕を上げた以上、次は落としにかかってくるはずだ。いや、すでに落としにかかっている可能性が高い。僕が対応しないと大火事になりかねない」

「落としに……って、ちょっとみんな見て!? 全学年用の掲示板!」

 

 網倉が叫ぶように言い放ち、見つけた『1年Bクラス、左京夢月の実態』というスレを確認してみると。

 

『面倒事は可能な限りスルー』

『楽することに余念がない快楽主義者』

『隙あれば人に丸投げの無責任男』

『一言目には金、二言目には儲けの守銭奴』

『先輩や教師すらおちょくる煽りカス』

『手段を選ばず学校を脅す危険人物』

 

『―――左京夢月は犯罪者だ!』

 

 と、本当にそのようなことが多数コメントされていた。

 

「…………あれ? これ、ほとんど事実じゃん」

 

 ただ、そう。攻撃的なモノはあったものの、誹謗中傷の嵐かと思いきや、僕自身も頷けることしかなかったのだ。最後の方だけ論調が違うし、脅迫や犯罪者云々は拡大解釈だが、夏休みにした事や管理外端末のroot化などを思えばそう言えなくもない。

 

 これってアレか。僕に致命的な情報が得られなくて、しかたなく悪口系の数で押したってことでは? もしくは、お祭り騒ぎの後始末が楽になるよう配慮したとか……?

 

「首かしげてる…つーか、そんなこと言ってる場合か!?」

「なんだこれ!? 昨日の今日でものすごい数だぞ!」

「それにほら! コメントされた時間っ!」

「は? 全て今日の8時以降だと!?」

「まさかこんなタイミングで攻撃があるなんて! 本当に誰なの!?」

 

 内容があまりにもくだらなくて白けてしまったが、そんな風に感じたのは僕と四方、早苗くらいだったようで、ちょっとした騒ぎになっている。

 なにより何故かリーダーである一之瀬が、端末に目を落としたまま俯いているのも大きい。絶対的なブレーキ役がいないのだ。

 でも逆に考えれば、これは気持ち良くなるチャ~ンス! と思った僕は、威風堂々たる態度を意識して立ち上がり、某魔王のように手を振るって人生で一度は使ってみたかった言葉を言い放った。

 

「―――騒々しい。静かにせよ」

 

 別に収まらなくても言えただけで満足だったが、そこは優等生だらけの我がBクラス。ピタッと静まってくれた。ノリの良いことで何よりだ。

 しかし、これは想像以上に気持ちいいな。

 僕は変になったテンションのままの思考の片隅で、大雑把な自分の未来を想定しつつ、普段通りに振る舞う。

 

「魔導王の鈴木さんまでやるんですねっ、夢月さん!」

「時と場合による。やりたいと思ったからやった。それだけだ。

 てか早苗、普通にアイ○ズ様でいいだろ。なんで人間名?」

「こっちの方がカッコいいからです!」

「ははは。それだけの理由で空気を一新する奴は夢月くらいだよ」

「お前らもやろうと思ったらやるだろう? この気分屋共が」

 

 とりあえず今は早苗と四方の援護に笑い合いながら力を得たことだし、強引に話をまとめて―――ついでに。

 

「さ、左京…君……」

 

……よし。なんであれ一之瀬が顔を上げてこっちを向き、なに言ってるかは聞こえないが口は動いた。

 あのクラスの中心が俯いているとろくな事がない。欲求を満たすついでに、内側をまとめ上げられる程度までさり気なく持ち直してもバチは当たらないだろう。

 これで後始末は考える必要はなくなり、クラス内を鎮静化するだけで済む。対応自体は僕だけでも難しくない。

 

「あー、みんなに言いたいんだが、龍園を思い出せ。あのみんなに警戒されまくってるのに堂々とした立ち振舞いを。あれは色々と参考になるコミュ障レベルMAXだぞ」

 

 なぜなら、多少なりと龍園を見て知っているのだから、アイツの在り方の模倣に行き着くのは順当な発想といえるだろう。

 そこへアレンジを混ぜて視点を少し変える考えがこれだ。

 

「そもそも悪い噂だろうと悪名だろうと、知名度を得ることに違いはない。対応次第で名声に転化させるのもできなくはないんだ。コメントのほとんどは真実だしな。だから騒ぐことじゃない。不幸中の幸いだと思うべきだ」

「だけどっ」

「それにこれはむしろ好機とも言える」

「なっ……! こんな根も葉もない…事もないけど酷い噂されてるのに!」

 

 つーか、Bクラス内で僕を批難・排除する方向に話が行かない時点で、流言飛語としては片手落ちである。誹謗中傷や人格攻撃としてもだいぶ手ぬるい。

 言い換えれば、日頃の一之瀬が築き上げた結束力の前に、仕掛けた奴はすでに敗北しているということ。

 これなら黒幕を南雲、流れに便乗したサブ黒幕を坂柳さん……ということにして仕立て上げるのも容易い。プラスαを得るためのボーナスステージと見た場合、全てはひっくり返せるのだ。

 ふっ。自分達の日頃の行いと風評を恨むんだな。

 

「僕が総大将とかいうのに祭り上げられたなら、最低限の上級生との接触は急務。その時、無名よりかは知名度を得ている方が多少なりとも追い風になる」

「「「……」」」

「僕を敵に回した奴らの策を利用して、体育祭本番では煽りまくってやるから安心してくれ。

 くっくっく。想像すると笑えてこないか? 自信満々に準備して打った手を、逆に利用されて歯噛みする南g…坂y……偉ぶってる奴らの姿を。負け犬の遠吠えはいつ聞いても心地良いぞ。ましてやいつも余裕こいてるアイツらのものだ。ふ、ふはははっ! や、やべぇ、めっちゃ笑えてきた! あ~はっはっは!」

「すごいな。完全に悪役のセリフだ」

「推測が当たってるなら、状況的に正当っぽい反撃ではあるんですけどねぇ」

 

 当然、ピンとくる奴にはわかる程度に名前も匂わす。

 特別な適正がない僕だからきっと反撃も手ぬるくなるだろうが、それはお互い様だ。早苗や櫛田の手を借りるなら更に苛烈な反撃もできたが、そもそも仕掛けが手ぬるいのだからそこまではやりすぎだろう。

 

 だけど社会人経験を持つ元おっさんを舐めるなよ。たとえ関係なくとも、僕じゃなければイジメと取られる手を打った代償は支払わせてやろうじゃないか。ま、得票数から考えて、少なくとも関係してない事はありえないと僕の勘は確信しているがな。

 

 それからひとしきり笑い、落ち着きを取り戻した僕は四方と早苗以外が沈黙している事に気づいた。

 なので少し考え、担任を含むクラス中から注目を浴びている居心地悪さと沈黙を振り払う為に、穏やかな口調を心がけて落ち着かせようと試みた。

 

「なに、心配する必要はない。僕は正しく正当な行いでもって対応しよう」

「い」「あ」「げ」

「?」

「今更取り繕っても遅すぎんだよ、この野郎!」

「あと左京君が正当な行いとか何を根拠にそんな事言えるのよ!?」

「今、全員が心配してるのは左京がなにをやらかすかだ! まさかまた何処かへ殴り込むつもりじゃないだろうな!?」

 

 ふむ。一斉に言われたので、なに言ってるかわからん(すっとぼけ)。聞き流す方向性が妥当だな。

 ついでに、殴り込みと聞いて目を輝かせ始めた奴はステイだ。これを真っ先に選ぼうとする早苗には難しいかもだが、それが最終手段一歩手前なのは社会常識といえる。

 ただまぁ、僕が目を付けられた結果、巻き込んでしまったクラスメイト達には謝罪が必要だろう。

 

「それと……えーと、負け組になったらごめん。100万PPは自分で払えるけど、50CPのマイナスは必要経費だと思ってくれたら助かるんだが」

「コ、コイツ! スルーして普通に話を続行してきやがったぞ!」

「それもすっごいツッコミ難い部分を申し訳なさげに……! なんなの、この人!?」

 

 無論、全て計算の上である。

 だが、なんか天文部員と本調子じゃないっぽい一之瀬以外全てで意見を一致させてる気がするので、そろそろ本題に入って話を締めるとしよう。この特別ホームルームは、理由があれば参加・早退自由だと最初の方に決まってたから、時間計算しなくていいのは助かった。

 

「んじゃ、そういうわけだから体育祭までの3日間、僕を自由にさせてな? うん、そう。正義の対策の為に」

「完全にサボる気満々じゃないか! これが本音か!?」

「なんでこう、この人が正義とか言い出すと胡散臭さしかないの?」

「悪く言われてるの左京君なんだよ!?」

「それ絶対口実にしようとしてるだろ!? あっ、待て! 引っ掻き回すだけして、勝手に帰ろうとするんじゃない!」

 

 いつかを思い出すクラス内、総ツッコミである。

 目ざとく気づいた奴もいるようだが、こういう時に輝くのは戦略的撤退だろう。あとは本来のリーダーや首脳陣に任せれば、良きに計らってくれるはずだ。

 

「それでは方針決定も成されたことだし解散だな! 本日臨時の司会進行は僕、左京夢月がお送りしました~。Bクラスのみんな、See you later」

 

 時は来た、ということだろう。

 今こそ話しながらさりげなく準備していた帰り支度を実行に移す時。

 締めの挨拶を早口でした僕は、無駄なく迅速に鞄を掴んで教室をあとにした。

 

「ああー! 嘘でしょ!? ホ、ホントに帰っちゃった! ……クソわよッ!!」

 

 実は僕自身以外は何も決定されてないけど、問題ないだろう。

 清隆や高円寺なら理解できる程度の事は言ってある。それなら一之瀬や神崎もいるし、充分だと判断させてもらおう。

 それに正直、色々飽きた。順を追って説明する意思に、面倒臭さが大差で勝ってしまったのだ。しかたない。

 だから今日はバイトのシフトが被ってる愛里に、体育祭までなるべく僕に近寄らないよう忠告だけして、さっさと帰って寝るとしよう。

 

……てか、おい。うちの担任ってルックスとフレンドリーさが数少ないウリじゃなかったのか? 最後に聞こえた担任の声、異質なお嬢様臭っぽいなんかを感じたんだけども。

 

 と、自然に付いてきた四方と早苗に聞いたら、もうそんな小さな事どうでもいい。確かにそうだ。あっはっは! で全て片付いたのは完全なる余談である。

 ああ……うん。僕は本当に仲間に恵まれてるなって、改めて思った。それだけの余談。

 これから体育祭までの数日間、一之瀬や神崎、柴田などを止めてくれると確信できたので。

 これなら何一つ心配などいらないだろう。

 

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