ようキャ   作:麿は星

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106、お礼

 

 作戦なんて上手くいかなくて当たり前。

 だから、それを覆すことのできる奴は有能とか言われるのだ。

 リーダーなど人を率いる者の下に付いた時にこの部分を重点的に見ておくと、一つ一つの成否より広い視点で物事を見定められる。また、自分がリーダーになった時に使える手札が増やせるだろう。

 

 これの類似で、ジョージ・パットンの名言に「来週完璧な計画を実行するなら、今すぐできる次善策を即座に実行しろ」というものもある。これはどうせ完璧に遂行できる作戦なんてありえないという彼の経験から来ているのだろう。

 実際問題、現実で完璧などあり得ない。

 

 別に軍事でなくても同じだ。計画実行は結局人間がやるんだから、完璧な遂行は無理とまでは言わなくとも非常に難しい。

 だから指揮官の仕事は、リカバリーをはじめとしたミスやハプニングへの対応がほとんどなのは経験者ならわかるはずだ。現実とは完璧とは程遠いものなのだから。

 

 ところで、うちのBクラスには他のクラスにない学級委員会というシステムがある。

 総指揮を採る委員長兼クラスリーダーが一之瀬であることは言うまでもないだろうが、当然それ以外の役職もあったりする。

 僕が知っている役割としては、神崎と浜口は書記として勉強会など学業イベントの対策を補佐してたりするし、網倉は副委員長として女子のまとめ役ともいうべき一之瀬のフォローや裏方をこなしていた。

 

 そして無人島や体育祭など運動系でクラス指揮を採るのが、実行係の柴田と女子方面をカバーする安藤である。

 これは無人島の探索・走破班に混ざっていたからわかりやすいだろう。ともかく、身体を動かす事が多い役回りには基本最初に立候補、または選出される。

 

 要するに、Bクラスの体育祭指揮は柴田なのだ。

 女子は一之瀬や網倉(安藤はあくまで実行役)が仕切る事も多いが、特に男子はほぼ彼の指揮下にあるといっていい。つまり行き過ぎた勝手な行動をとれば、何らかの対応を取られるということ。

 

 最初の競技終了と同時に姿を眩ませた者は、その対象に該当するだろう。

 そう……まさに僕とか。

 

 

 

 愛里との逢瀬(過言)を楽しんでたら、高円寺がいるコテージの方が騒がしくなっていた。

 まだ時間はあったが、僕や愛里も見つかると誰かに文句言われそうだったので、しかたなく彼女と別れてBクラスが集まっている場所にやってきた。2種目の競技であるハードル走の準備のため、という大義名分は準備済みである。

 無論、柴田が席を外したタイミングを見計らっている。

 

「待ちに待った時が来たのだ! 僕の理想と証明のために! 目的達成のために!

 1年Bクラスの白組諸君よ! 僕は帰ってきた!!」

「はいはい。左京君はちょっと大人しくしてようね。いつものように消えてたせいで、みんな探してたんだからちゃんとごめんなさいもしようね?」

「ご、ごめんなさい」

 

 そこで有耶無耶を狙ってみたら、なんか勢いで言わされてしまった。

……普段怒らない奴が怒った感じ出してるとなんでこんなに怖いんだ? そんな一之瀬を何度かぶちギレさせた僕が思うのもなんだが。

 

「しかし「すいません」や「申し訳ありません」じゃなくて、子供がするような「ごめんなさい」か。……一之瀬。的確に心を抉る術を身に着けてるな……!」

「夢月……お前な? そういうとこだぞ」

「ぷっ。怒られてますよ。風来坊もいい加減にしないとですね」

 

 みんな誰かを探してる風だったので、和ませようと誰も望んでいない系のセリフを放ちながら合流したら、目が一向に合わない一之瀬から子供扱いされた。コイツはお母さんか。

 ついでに四方に少し、早苗にも煽られた。コイツは子供か。

 

 でも僕に話しかけてるっぽいのに、一心に早苗を見つめている一之瀬はどちらがより問題児かわかっているのだろう。

 ま、一之瀬はともかく、調子に乗った早苗には一撃を入れておくべきだ。

 

「この野郎……自分を棚に上げやがって。一之瀬お母さんの爪の垢でも飲んどけ」

「野郎じゃありませ~ん! 私は夢月さんと違ってきちんとしてますよ。お母さんの爪の垢を飲むのは夢月さんでは?」

「二人共、喧嘩しないの! じゃれ合いだってわかってるけど、体育祭が始まったばかりなのにハラハラさせないで。あと二人が私をどう見てるか詳しく。なにお母さんって……?」

 

 ただあまり一之瀬の心労を増やすのもなんなので穏便にやり合おう、と早苗にアイコンタクト。しかし穏便な論戦張ろうと言葉を抑え気味にしたのに、再度の一之瀬の介入があったので、いつもと方向性を変えることにする。

 

 ふっ。久方ぶりに七色の声色使い・左京夢月の技巧の冴えを見よ!

 論戦はブレインだぜ!

 

「んん゛っん! ……どうしたんですか夢月さん。いつもよりかっこいいですよ。これからは様付けで呼ばせていただいてよろしいですか、夢月様」

「それ、もしかして私の声と真似ですか? あまり不敬だと、おろしますよ?」

「……次から次へと、よく出てくるね」

「一之瀬。スルーされてるうちに、少し離れた方がいいぞ。東風谷はともかく、夢月は流れ弾があるからな」

「流れ弾……はぁ」

 

 早苗の声を真似て僕の称賛&様付けしたら、ズィっと来てドアップな真顔早苗になった件。

 しかしコイツ、自分の声色使われたくらいで、ノータイムでこんな恐ろしい雰囲気になるとか。さっき僕だけ愛里と会ってた現場を見られたのが関係しているのだろうか? 嫉妬乙。

 まぁ四方のフォローもあり、一之瀬が諦めた風に介入を中止したので結果オーライだろう。

 

 

 

 それはそれとして。

 

「怖すぎるだろ!? そんなサ○ジ専用文句みたいな脅迫、リアルで初めて聞いたわ!」

「私にはできないとでも?」

「できそうだからツッコんでんだよ!」

「なに言ってるんですか。神である私がおろしますよと聞いてるんですから、返事は優しくしてね、もしくは喜んでお願いしますのどちらかですよ?」

「ざけんなっ! 返事の選択肢が終わってるだろ!」

 

 冗談でもおろされるのは嫌なので、必死にツッコミ返していて『彼女』の接近に気づかなかったのが。そしてそれが、たまたま一之瀬が離れたタイミングだったのが。あるいはここ数日高頻度で『僕に』使われていたのが。

 

「お久しぶり、というほどでもありませんね、左京く……」

「ちょっと坂柳! 今は―――」

 

 きっと不幸な事故の始まりだったのだろう。

 

「妖怪は口出さないでください! 坂なんとかも退治しますよ」

「うっさいわ、世間を知らないちびっこは黙ってろ! どっちが身体の前後か区別つかない小五ロリは、ママのおっぱいでもしゃぶってバブバブ言ってんのがお似合いだ!」

 

「「「「「―――あっ!」」」」」

 

 炎上を恐れず、ギリギリを攻め続けた者が会得できる究極の現代版北斗神拳───その名を、ジェンダーフリー・北斗百レス拳。

 小さい影だったので、奥義を使うまでもなくこれで充分だろうと放ってしまったのは、幸運だったのか不運だったのか。

 

「え、妖…怪? 前後の区別がつかない? 小五ロリ?」

「そう! 坂柳さんはようか―――えっ? 坂柳さん?」

 

 つい。つい、ね? 早苗のノリで言っちゃいけない相手に致命的な暴言を放っちゃったかなって。

 気をつけよう。口は急に止まれない。

 

 早苗との口喧嘩に飛び込んできた銀髪の子供…に見える御方を確認して、目を疑ってももう遅い。

 なんかなろう小説のタイトルみたいだなぁ―――って、現代の北斗神拳継承者を気取ってる場合じゃない!

 

「おいおい、死んだわアイツ。社会的に」

「おかしい人をなくしちゃったね。社会的に」

 

 渡辺に網倉ぁ!?

 ざけんなっ! まだ死んでないし、「社会的に」って付けときゃいいみたいな雑なアレはやめろ。 

 冷静になれば策はあるはずだ。そう、えっと、例えば……。

 

 ザ・ワールド! 時よ止まれ!

 いや、むしろ巻き戻って? そしたら丁寧に取り繕うから。

 言うつもりはなかったんです。

 神よ、お願いします。

 

≪無理だ。諦めろ≫

 

 無理ですか。そうですか。

…………ところで、どちらの神様です?

 

「「「……」」」

 

 現実逃避は程々にして……でも、本当にどうしよう。時が止まったかのようになってる。渡辺や網倉のように時々、ボソッと聞こえる呟きはあるけれども。

 

「「…………ぷっ」」

「早苗このバカッ! 緊急事態に笑ってんじゃねぇ!」

「真澄さん?」

 

 しかし僕には長く感じた凍れる時間の秘法的な効果は、一瞬の輝きだったらしい。

 唖然としたような者共の中、早苗と真澄さんと呼ばれた女子が揃って吹き出し、再び時は動き出す。

 

「うひっ、あはははは! ちびっことか小五ロリとか……前後の区別ができないとか! ひ~ひっひ! 夢月さんのその罵倒バリエーションはどっから出てくるんですか!? に、似合いすぎっ! ひははははっ!!」

「ちょ、早苗マジやめて!? 取り繕えなくなるから! 何事もなかったように礼儀正しく挨拶し直しても、傷口が塞げなくなるから!」

「ブッフォ! 坂っ、坂柳にママのおっぱいしゃぶってろ……ぶっは!」

「とっくに傷口が腐敗してますってこれ!? あはははっ! やっばぁ…はぁ、はぁ。止まらなっ、はははは!!」

「あ、お。えと……これ、もう。僕は…ど、どう……しようもないんじゃ」

 

 反射的に止めようとツッコんだが、もはやこれまでだろう。早苗はもとより、坂柳さんの連れの女子まで決壊したようにしか見えない。

 僕は一応抵抗しつつも、早々に諦めていた。

 

「ちょ、やめ。あっは! くっ、笑わせないで! ふふっは! だから嫌だったのよ、付いてくるの! ぶっふふふ! さ、坂柳が……バブバブ…結構似合ってるじゃない!? んほぉ! けほっ、ごほっ。そ、想像が暴走して…お腹痛い。くぅっ、静まって私の腹筋……!」

「「……」」

 

 てか、早苗もだが、このくっ殺が似合いそうな女子はなんなんだ。堪らえようとしてるのはわかるけど、失敗してんだよ。仄かに中二臭さを漂わせつつ、文句言いながら笑ってんじゃない。軌道修正できなくなるだろうが!

 ともかくなんとかしなければ、坂柳さんとの争いに巻き込まれてしまう。

 妖怪大戦争は嫌だ。妖怪大戦争は嫌だ。妖怪大戦争は嫌だ。

 

―――そうだ! 人に押し付ければいい!

 

「……………………ふふっ。そうですか、そうですか。つまり貴方達はそんな人なのですね」

 

 背筋が凍るような冷笑。

 本格的にヤバい。坂柳さんのエー○ール面が出てきてしまった。

 早急に誰かに丸投げしなければ、僕まで呑み込まれてしまう。かといって、四方や一之瀬はダメだ。柴田は席を外したタイミングだし、渡辺や網倉さんに投げるのは鬼畜の所業だろう。

 となると奴に頼るしかいない。

 

「ひぃっ! ま、待ってくれ、坂柳さん! ぼ、僕はだな、実は……えーと、左京ではないんだ!!」

「……何を言い出すかと思えば。では貴方は誰だというのですか?」

 

 神崎……にしようかと思ったが、そうすると今度は神崎が敵に回るのは確定だろう。なら、本人以外どこからも文句が来なくて、Aクラス以外の所属でかつ許してくれそうな奴。

 

「僕は…オ、オレは綾小路清隆と言ってだな。本当はDクラス所属なんだ? 今はちょっと用があってここに来ているだけでだな?? さっきのはつい出てしまった本音だったんだ???」

「……………………はい?」

 

 つまり清隆一択になる。

 しかし空回りする思考が現実に描き出した道筋は丸投げではない。自分でもわけのわからない成り代わり?だった。

 結果、坂柳さんは外見相応のキョトン顔になった。

 

 ありのまま今なにが起こったか話すと……な、なに言ってるかわからねーと思うが、僕も自分で何をしているかわかってない。頭がどうにかなってそうだった。

 普通に丸投げするだけのところを自分から難易度を上げただけじゃあ…断じてねぇ。

 もっと愚かしいものの片鱗を味わったぜ。

 

 と、僕の冷静な部分はネタに走っているが、いっぱいいっぱいだった状態で取り繕おうとも土台不可能な話である。

 

「いや、名前を呼ばれているのに、綾小路に丸投げするのは無理がありすぎるだろう左京」

「もう普通に謝った方がまだマシだよ左京君。どんどんドツボにハマってるから」

「ちがうだろー!! 左京言うなしっ! 僕…オレは清隆なんだって! 今だけでいいからマジで話を合わせて!? お願いだから! 妖怪に目を付けられたくないんだよ僕は! だから…だから! ねっ!? ねっ!!?」

「……必死過ぎる。これはもう手遅れだと思うが」

「というか、また妖怪って言ってるし」

 

 神崎や一之瀬達の助言も手遅れ感が半端ない。

 男とは、吐いた唾は呑めぬ生物なのだ。

 だから、昨夜嫌われたのはわかっているのに、それでも一之瀬の善性に期待して縋りつかんばかりに必死に頼み込む。ツッコミや口は聞いてくれるけど、今日は一度も目を合わせてくれないわけだが、この手しか僕には残されていない。

 

 僕と一緒に暴言を吐いた早苗? 坂柳さんの連れといまだに笑い転げてるよ。

 遅すぎたんだ。腐ってやがる。性格が。

 

「…………綾小路清隆?」

 

 しかしその時、奇跡が起きた。

 なんと坂柳さんが清隆の名前に反応したのである。

 冷静に考えれば、本人と会った瞬間に全て理解されるというのに、この時の僕はあろうことか奇跡を背景に倍プッシュしてしまった。

 

「おおっ! もしかしてお近づきになりたい? それならここ数日の『お礼』に喜んで紹介するよ! かなりの変人だけどイケメンには変わりないし、天才だしで、坂柳さんだったら楽しめるかもな! ……櫛田がネックになるが」

「お礼……ですか。しかも、ここ数日の…………ほう」

 

 え、まさか本当に持ち直した? イケメンの効果か? もしそうならイケメンすげぇ。

 

「ああ、もう滅茶苦茶」

「お前が綾小路じゃなかったのか? 手のひらクルックルじゃないか」

「ちょっと待って下さい、夢月さん! 桔梗さんがネックとか聞こえたんですけど!? 綾なんとかが『手強い』のは否定しませんが」

 

 僕の言い分は、すでにボドボドになってるから今更だろう。

 笑いを収めた早苗だって普段言わないこと言ってるし、奴に丸投げすることに異存ないようだ。でなければ、清隆を持ち上げるような真似をする女じゃない。

 

 それに早苗は認めたくないかもだが、邪悪と黒歴史の代表例がお似合いに感じるのは僕だけじゃないはず。

 更には、これまでも清隆は櫛田という邪悪を人知れず封印してきたのだ。きっと古事記にも、彼らは源頼政と大妖怪・ぬえの転生体のような扱いで書いてあるのは間違いない。

 

 しかし今の最優先はともかく坂柳さんだ。

 清隆の名前を聞いてから瞬時に怖い雰囲気を引っ込めた彼女に、有る事有る事を吹き込みつつ全力でプレゼンする。

 

「左京君から見て、綾小路君は『天才』なのですか?」

「そりゃあもう! 弱点こそあるけど、それを除けば学校内でも文武ともに匹敵どころかまともにやり合える奴すら少ないくらいの天才だ! 顔の作りはかなり整ってるし!」

「……」

「えっ。綾小路君ってそんなにすごい人なの? 確かにその片鱗はわからないではないけど」

 

 最初に質問してきた坂柳さんが黙ってしまったからか一之瀬が聞いてくるが、ここは正直に答える。当然、無人島やゲームなんかは伏せるが。

 てか、あんまり容姿に関しての反応がないな。面食いじゃなければ、ただ能力を持ち上げるだけにしておく方が無難か。

 

「すごいっていうか規格外な部分が多いんだよ。僕だと裏技使わなかったら、まずどんな分野でも勝てない」

 

 頼むぞ。四方に早苗、それに姫野と一之瀬もか。僕が運良くやり込めてた事例は言わないでくれ。頼む。ほんっとうに頼む。

 万が一にも清隆の評価が下がったら、坂柳さんの注意をアイツに逸らせない。

 

―――坂柳さんの封印も頼んだぞ清隆。櫛田、堀北さんに続く3人目だが、お前ならできると信じている。

 

 なぜなら僕の考えはこれなのだ。

 だから心の中で祈りを捧げ、坂柳さんの興味が清隆に移ってくれるのを心から願う。良くも悪くも、坂柳さんに興味を持たれるようなことにはなりたくないものだ。絶対面倒くさいことになる。

 僕は遠い目を意識しながら、坂柳さんの意識を清隆へスライドするように投げ捨てた。

 

 

 

 まだ何か話した気な坂柳さんだったが、いよいよハードル走の時間が迫ってきたので、見学の彼女は待機場所へと戻って行った。

 なお一緒に来たのはいいものの、笑いが収まらず口元を引き攣らせたままのお連れさん。彼女を見る坂柳さんの目が絶対零度だったことをここに追加しておこう。

 早苗と一緒になって笑ってるからだ。美人系なのに、残念な笑い上戸とはもったいない。

 ま、坂柳さん共々、なにしにきたか…それ以前に名前も知らないが、ご愁傷さまである。

 

「あ~あ、夢月さんいいんですか? 綾なんとか大変なことになるかもしれませんよ。ふふっ」

「清隆…ドンマイ。この一件はBクラスの秘密とすることにしよう。うくくっ」

「……夢月、東風谷。お前ら、大変とかドンマイとか言いつつ、サラッと清隆を売ってたが。あと笑いが漏れてるぞ」

 

 なんにしろ危機を乗り越え、あとは誘導成功という結果が残っただけなので気楽なもの。

 ハードル走の待機場所に向かいながら、ようやく口を開いた四方の指摘も心なしか良い気分で聞ける。

 

 内容はこんなに効果があるなら、前の時にも使っとけばよかったということか。違う? あれ? てか、四方って僕が夏休みに坂柳さんと会ったこと知ってるのか?

 ま、いいか。どっちでも。早苗を見るとなんか楽しそうだし、たまには悪ノリに付き合ってやるのも悪くない。

 

「しかたない……! しかたないんだ!! これも全ては清隆の為……! 不審者ムーブする清隆と面倒臭そうな匂いをさせてる坂柳さんを掛け合わせたら面白そうだなんて思ってない!」

「そうです! 私達も心苦しいですが、安全圏から綾なんとかや坂なんとかのその後を想像すると楽しくなってきますね!」

 

 僕と早苗は身振り手振りで未来へのワックワクを示す。

 

「ああ! 一瞬で矛盾する言葉が出るくらい心踊るよな! 思惑通り封印してくれるだろうか?」

「ふふふ。どうなりますかねぇ。獄門疆みたいなのを使ってくれると、私にも討伐する理由ができるのですが」

「……隠しきれてないぞ」

「だって別に隠してないしな」

「そうですね」

「ちなみに本当はどう思ってるの?」

 

 僕と早苗の言葉とは裏腹に浮かぶ笑顔のせいだろう。早苗だけを見る一之瀬は疑問を抱いたようである。

 

「「ざまぁ」」

「気に入らない人を陥れるのって楽しいですよね? そういうことです」

「イケメン税の徴収代わりだ。なに、清隆なら滞りなく調伏or封印してくれるさ」

 

 一之瀬への返しは早苗と第一声がかぶった。早苗は日頃の不信感、僕はイケメンへの妬みなので内情は違うだろうが、思っていることはだいたい同じなようだ。

 

「左京君達は……ほんっとに」

「最低だよね、こういうところ」

「……うん。でも素直な性格ではあるよね」

「無理やり良い風に言えばだけどな」

 

 しかし良い奴揃いのクラスメイト達には、賛否両論…よりもほんの少し印象悪めだったらしい。聖人・一之瀬だけはなんとかフォローしてくれようとしていたが。

 でもまぁ、それなら温めておいたネタの出番だ。

 

「問題ない。とある宇宙人も言っている。

―――バレなきゃ犯罪じゃないんですよ、と」

「いや、ほぼ確実に近い未来でバレるけどな」

「というか、その発想は地球人じゃない…つまり実質、夢月はエイリアンって事か」

「言葉の切れ味が鋭利やん(エイリヤン)ってか。やかましいわ」

「でもこういうクソ思考してる夢月さんも私は嫌いじゃないですよ?」

「ああ、お前らは同類だからな」

 

 待った。それは流石に聞き流せない。って感じならいけそうである。

 

「「取り消せよ……! 今の言葉……!」」

 

……まさか、有名なネタとはいえ早苗と一言一句違わずかぶるとは。

 

「息ビッタリ……。打ち合わせでもしてるのかって具合ね」

「つーか、エ○スのそれが被ることあるか!?」

「うふっ。夢月さんは言うと思ってました!」

 

 その状況を打開しようとした僕と早苗のネタかぶり&網倉さんと四方の指摘が、僕にクリティカルヒットした。まさか早苗に読み切られるとは……。

 なので動揺を落ち着かせるためにも、当然話を逸らす。いや、本来は動揺する理由もなかったんだけども。

 

「さ、さぁ~て。気分も良くなったところで次々~。ブワァ~っと行ってみようじゃなあないか。はっはっは」

「そうですね! ふふっ。テッペンの景色ってやつを見に行くとしますか!」

「話の逸し方、揃って雑すぎるだろ」

 

 坂柳さんが帰ってから、何故か四方のツッコミがキツめな件について。

 やっぱり罪のない一般清隆に丸投げしたのがいけなかったのだろうか?

 

 

 

 ともかく茶番はさておき、晴れやかな心持ちになったところで、ここで少し競技の進行状況をおさらいしておこう。

 まずこの学校には、木やネットで区切られているが広大なグラウンドが2つ隣り合うようにある。中央には先程僕と愛里がいた救護、休憩、来客用と思われるコテージが点在しており、それぞれのグラウンドの周囲に白組・赤組できっちり分けられている。

 

 そこで僕達1年生は100メートル走を男子・女子の順で行い、次は2年生の男子・女子、3年生だけ女子・男子の番になる。これは1年生が2種目の競技であるハードル走を、2・3年生は先に行うためだ。そして1年生がハードル走の時は、2年生が100メートル走、3年生は休憩、というようにローテーションされるらしい。

 だから今は1年生が休憩というか隙間時間になっていて、坂柳さんが訪ねる余地が生まれてしまったのだろう。

 

 つまり広大な二つのグラウンドを使った2学年同時進行になっていて、100メートル走とハードル走を行っている。

 そういう部分で時間を短縮しているのだろう。複雑ではあるが効率的では…あるのか? 同じ競技にした方が煩雑にならない気がするのだが。

 まぁ、大変なのは運営だから別にいいけども。

 

 また5種目の綱引きと6種目の障害物競走でも、同じ構成となっている。1年が綱引き、2年が休憩、3年が障害物競走というように。こちらは準備に時間がかかる競技だからだと思われる。

 しかしなんであれ、競技の間に最低1学年は休憩を入れる部分に学校の配慮を感じてしまうあたり、僕もだんだんと認識を誘導されているのかもしれない。

 なので、序盤かつ点数的に勝ちの流れがあって取り返しがつくうちに、ここらで一度実験しておくことにした。

 

 具体的には、僕はこちらでも1番手だったハードル走を完全に捨て、手で全部のハードルを倒しながら悠然と歩いてゴールしてみた。当然、最下位である。

 

 結構な数の罵声とごく少数の笑い声を聞きつつ、注意深く全体を観察してみると、やはり督戦するかのような者達の中に教員やスタッフが混ざっていることに気づく。おそらく生徒は学生のうちからそんな同調圧力を『学習』していくことで、「自クラス以外は全て敵」みたいな認識になるのだろう。

 ブラックなやり方を計算し尽くした仕組みである。

 

「おま、お前なぁ……あれほど先輩達から手を抜くなと言われただろうがっ!」

「そうだよ! それに左京君って影響力あるから変な目で見られてたよ? 男女問わず、何人かは似たような事しちゃってたし」

「それは影響される方が悪い。僕は悪くない。あとこれは手を抜いたんじゃなく、実験だからセーフ。ま、大丈夫。もうやらないよ。大まかにはわかったし」

 

 尤も、そんな事情は他には関係ないのだろう。

 考え込んでいると、ハードル走を終わらせた柴田と一之瀬から怒られた。相変わらず、一之瀬は目を合わせてくれないが。

 後ろでは四方や神崎なども苦笑している。僕の思惑通りに、100メートル走の後の事が有耶無耶になったからだろう。

 

……うん。一応走って全部ハードルを倒した愛里はともかく。

 天啓を受けたかのように。散歩するかのように微笑みながら。いっそ勝ち組の風格を漂わせてゆっくり最下位ゴールした椎名。それと男子にも何人か見られた運動苦手と思われる奴らは勝手にやったのだ。

 だから僕は悪くない。

 

「なにわけわかんないこと言ってんだよ! みんな頑張ってるんだから、次こんなことしたら本当に怒るからな!」

「へいへい」

「へいはいっか…はいは1回だ!」

 

 それでも、ところてん式誘導術は体育会系に効く。

 実験ついでに試しておく価値はあっただろう。

 そして一度怒ったら、それで終わりになるのも助かる。爽やかなスポーツマンは粘着気質な部分があまりないのだ。まぁ、何度も繰り返したら流石にキレるだろうが。

 

 ただ柴田は体育会系の運動部なせいか、真剣にやってないと見られると面倒だ。事実、僕以外のハードル全倒しの奴はいても、真剣だとは見られているようで特に文句はなかった。

 でもこれくらいシンプルな考え方は好みなので、もうやらないことを約束してささっと切り替えた。

 





 何ヵ所かの誤字報告ありがとうございます。
 それと適用できない箇所はすいません。スムース(スムーズ)やルーチン(ルーティン)などは、私の好みであえてああしてるのであのままになります。
※これを後書きで載せるのは場違いかもですが、ここ以外に思いつかなかったので、気になる方は流していただけると幸いです。
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