ようキャ   作:麿は星

118 / 198
107、龍虎

 

 棒倒し。

 白組113名、赤組110名、在校生男子の総勢223名で各学年の3本の棒を倒し合う体育祭の花形競技の一つである。

 仕込みをしてる時に聞いた例年のものは各学年ごとの試合だったらしいが、今年は誰かさんが何かしたようで全学年競技に変わったという。

 これに関しては、微かな『俺』の棒倒しの記憶でも100名前後でぶつかり合ってた気がするから、本来の形に戻しただけかもしれない。

 

 ちなみに現在は、選手宣誓もしていた赤組総大将の藤巻という3年生が、1年が総大将とはそっちの組に同情するよ。だが、うちの組は優しいからな。胸貸してやるからかかってこい。的な煽りをしてるが、これもそれぞれの学年で計6回戦が全2回戦になったことで空いた時間を、口上合戦にしてしまおうという試みらしい。

 そして合戦ということは、僕もしなくてはいけないわけだ。

 

……わざわざ例年と変えてまで煽られる機会を作るとか、学や南雲も実はMなのだろうか? なんかこの学校、変人とMの割合高くね? 僕のような常識人には理解できない領域の奴が多すぎる。

 

 口上を聞く限り、向こうの総大将藤巻は見るからに真っ当な優等生タイプ。うちのクラスでいうと柴田っぽい3年生。

 選手宣誓といい、言ってはなんだが言葉に毒がなさすぎて、口上としては面白味に欠ける。学か南雲、もしくは高円寺や櫛田あたりにやらせてたら結果は違ってきたはず……ということは。

 

 これって僕へのフリだよな? やるなよ、やるなよ? 絶対やるなよ(やれ!)っていう……。

 それなら男子のみとはいえ、せっかくの全学年競技。

 開会式の僕の約束とリクエストにお応えして、煽りと士気高揚を狙うしかあるまい。

 

 偉い奴らへの面子攻撃を気兼ねなくやらせてくれるとは、なんと親切なお心遣いだろう。開会式と違って仕込みはないけど、これはこれでテンションも上がるというもの。

 さて、そろそろ狩るか♠…じゃなくて僕の番か。一発カマしてやるとしますかね。

 

「初見さんどうも……って開会式が初見だったっけ。じゃあ改めてよろしく。

 毎度おなじみ皆様のアイドル、清く正しい白組の総大将・左京夢月です」

「挨拶が長ぇ! 出やがったな馬鹿野郎!」

「赤組諸君、安心してください。僕は長々と話すつもりはありません。言いたいことは一つです」

 

 マイクを渡されアドリブ挨拶から入ると、どこからともなく野次が飛んできた。

 なので……というわけでもないが、ちょっとした意図を込めて単刀直入に終わらせる。

 

「学校秩序の象徴・堀北学、制度革新の急先鋒・南雲雅。

―――君達二人に宣戦布告する」

 

 これだけでノーリスクでサボれるからやり得である。

 

「僕が怖くないなら、二人まとめてかかって来い。

 僕は諸君らの賢明な判断を期待して、のんびり『真ん中』で待たせてもらうとするよ。そしてかかって来なければ、リア充の頂点に位置する君達を倒すのは他に任せ、安全圏から気が済むまで煽り尽くしてみせよう」

 

 来ても結果は同じだけどな。

 

「では赤組諸君、健闘を祈る! ハァーッハッハッハ!

 あ、以上です。対戦よろしくお願いします」

「って、最後ぉ!? 唐突に素に戻るな!!」

「バッカお前。名前出した二人ならまだしも、向こうの総大将・藤巻さんまでかかってきたらどうするんだ。入れ食いになるじゃないか。あっ、これオフレコで」

「だったらマイクのスイッチ切れやっ! 無駄に上級生煽ってんじゃねぇ!」

「うむ、予定通りだ。柴田君、ツッコミご苦労」

「は?」

 

 赤組に言うことは言ったので、もうマイクはいらないだろう。

 柴田のツッコミが響き渡ったのを確認の後、労いの言葉の前にスイッチを切って、何故かポカンとしてる柴田に渡す。

 あとは自陣に向き直ってなるべく大きな、それでいて赤組に聞こえないレベルの声量で―――。

 

「さて、白組諸君!

 僕は約束通りに諸君らの勝利条件を整えたぞ」

「……はっ! ま、まさかさっきのは」

「学と南雲に理不尽な二択を強いてやった。

 来れば大して戦力にならない僕に拘束され、来なければ1年坊主相手に勝負を逃げたと面子は丸つぶれ…という風に持っていく。

 はてさて、藤巻さんは残る可能性が高いとはいえ、絶対的な指揮官不在か求心力低下のどちらを選び、その状況下であちらの2・3年生はどこまで持ちこたえられるかな? 楽しみじゃないか、なあ諸君」

 

 味方に種明かし。

 向こうがとっさに反論できない状況での、誘引計と煽りを組み合わせた回避困難な理不尽。

 これこそ凡人との経験値差というものだよ、リア充エリート諸君。

 あの不愉快なリア充の各種フラグは僕自ら爆破してやる。

 思いつきさえすれば打破も容易いけどな。

 しかし……いやぁ、捨てられないモノが多いお偉いさんにはツラい状況ですなぁ。

 

「そこまで言うんだ。あの堀北や南雲相手に勝算はあるんだろうな、1年坊主!」

「向こうにいくら特級の戦力がいるとしても。勝負は時の運と言われることはあっても。棒倒しという競技に限っては個人の能力や運などいくらでも指揮で薄められる。まして実質の指揮官への半強制2択。まともな指揮がとれるとは思えない。そこへ2学年による挟み撃ちがあれば―――」

「各個撃破の条件は整うか」

 

 更には、この石倉(だったはず)という3年生とのやり取りには手応えを感じる。

 赤組が例年の戦術をそのまま運用すれば、学年を越えた連携は取れない。そこを加味して、充分な勝算があると見込めたのだろう。

 ゆえに僕は頷いて自信満々に『約束』の履行を宣言した。

 

「そうだ。これが諸君ら待望の完全勝利への道筋だ」

 

 能力的にも容姿的にも、生きてるだけでフラグが立つが如き極悪の輩。

 学は友達でもあるし遊んでなさそうだから何も手を打たせない程度で済ますが、南雲には容赦しない。

 二次元世界を現実に持ち込んでヒャッハーするイケメンに正義の鉄槌を。

 ジャッジメントのお時間ですの(お嬢様風に)!

 

「「「う、うおおおおおおっ!!! 総大将! 白組総大将!! 白組総大将・左京夢月っ!!!」」」

 

 おや? でも完全なる私怨の上、今回は何も仕込んでないんだが、開会式のを覚えてた人達がノッてくれたのか。なんか鬨の声っぽいのが広がっていく。こんなに持ち上げられると思わず木に登ってしまいそうだ。

 なら僕も某少佐殿を最後まで演じることで返礼にしようかな。調子に乗って上級生に指示なんかも出しちゃおう。今の雰囲気ならイケるかもしれない。

 

「総大将の僕から改めて伝達。

 最低限の防衛戦力を残し、上級生2・3学年の攻撃役を集中運用。赤組上級生から総力で順次潰していけ。なぁに、柱が不安定になる上に、最低でも倍近い戦力差だ。あちらにも連携される前に全て挟み込んで押しつぶせばいい。後ろは考えず、速攻でな」

 

 尤も、適正攻撃人数もわからないし、学年ごとに運用して2つの学年で挟み撃ち→3連戦。これが安パイの戦略だ。それを共有できるなら、何か想定外があろうと敗勢の雰囲気に呑まれることはないだろう。

 ま、学年やクラスの枠を外に置ける誰もが考えてるだろうけどな。

 

「これは勝てる! 勝てるぞ! 堀北に勝ってAクラスに上り詰めるんだ! みんな気張れっ!!!」

「南雲に一泡吹かせるのは今しかない! 堀北会長の隙を突くのは心苦しいが、俺達で南雲の快進撃を止めてAクラスに返り咲くぞぉ!!!」

「「「おおー! やってやる!! やってやるぞーーー!!!」」」

 

 うおっ。びっくりした。スッゲー大声だ。

 誰もが考えてることしか言ってないのに、2・3年生のテンションがおかしくなってる? 青春ってやつか。

 しかし、まったく……。決め台詞前なのに勝手な上級生達だ。協調性という概念を知らないとみえる。聞いてなくても無理矢理言うけどな。

 

「さあ白組諸君。

 

―――赤組に地獄を創るぞ」

 

「「「うおおおおおおっ!!! 左京! 左京! 左京!」」」

 

 少佐と言えば、やっぱりこれを入れなくてはナンセンスだろう。

 てか、盛り上がってたくせに聞いてたのかよ。マイクは柴田に渡しちゃって持ってないから、大した声量もなかったのに……。

 ちょっと恥ずかしいけど、手でも振り返しておくかな。野郎がやることじゃないけど、最初にアイドルを名乗った以上、おかしくはないだろう。

 

 まあでも、途中少し不思議な上級生のテンション上昇があったが、決め台詞を言えて大変満足できたし、ノリの良い上級生も応えてくれた。

 あっ……でも勝手に自分達の学年の持ち場へ行っちゃった。落ち着きのない云々って通知表に書かれてるんじゃないか、あの人達。

 ま、いいか。ノってくれて気持ちよかったし。

 

 

 

 とまぁ、さあこれから試合までまったりとしようか、って感じで1年生の棒のところまで行こうとしたら、来るのは黙ったままではいられないこの男。

 

「おい左京。俺はよ」

「んぁ? 龍園?」

「俺達Cクラスにはなんかねぇのか」

 

 こいつまで何を当たり前のことを。

 報連相や確認のつもりか? 性格に似合わないことをする。

 

「龍園に指示なんかいるのか? いらんだろ」

「ククッ。それがわかってんならいい。潰す役は俺達がもらうぜ」

「ん。頼んだ」

「───あ? 頼ん……っ」

 

 ほらみろ。慣れないことするから、変な部分で言葉に詰まる。

 やっぱり龍園ってコミュ障だよな。すぐ立て直せるあたり、非凡ではあるけども。

 

「つーか、そういう話はうちの男子リーダーの柴田か神崎に言えよ。総大将を押し付けられたとはいえ、僕はただのパンピーだぞ」

「てめぇみてぇなパンピーがいてたまるか! いつ下剋上を狙ってやがる。早くしやがれ。予定が狂うだろうが」

「狙ってねーよ!? 自ら貧乏くじ引きに行くのはお前と一之瀬、あとは葛城くらいなもんだって自覚しろや!」

「……クックック。貧乏くじとは言ってくれるぜ」

 

 よく言えるな、コイツ。

 何を使うかは人それぞれだけど、支配とか統率とか面倒事の極みなのは自明だろう。それを自分から買って出る奴じゃないと、アクティブ派のリーダーたりえない。稀に担ぎ上げられるリーダーはいるが、周りが恵まれてないと櫛田みたく浮いてこられないからな。

 僕がどちらでもないのは誰が見ても明らかなはず。

 ここらへんの認識がおかしいのが、コミュ障リーダーたる所以なのかもしれない。

 

「左京。Bクラスへの指示はどうなるんだ?」

「あー? だからなんで僕に聞くんだよ。柴田か神崎に言えって」

「ああ、そういえば夢月はさっき聞いてなかったのか。一之瀬からの指示で、棒倒しは夢月の指示に従ってほしいらしいぞ」

「はぁ!? なに考えてんだよ一之瀬の奴。勝負を捨てたか?」

「おいおい。貧乏くじの方からてめぇに寄ってきたんだ。もっと喜べよ、左京」

 

 龍園……! このコンコンチキの百々彦テンロクロー(意味不明)が! ここぞとばかりに嬉しそうに煽ってきやがって! 味方じゃなかったら……あっ、やっぱ怖いから泣き寝入りしてたかも。

 しかたない。切り替えるか。

 

「何だその顔は?」

 

 うっせぇ。自分がどんな顔になってるか気になってくるだろうが。

 切り替えたんだから龍園は黙ってろ。もしくは自分の持ち場に帰れ。

 

「……柴田と神崎もそれに賛同してるのか? 納得できないなら、今のうちに代わってくれても」

「あ、ああ。俺は賛同…している。というか、上級生に指示出して動かした時点で左京以外の指揮はないと思うが」

「俺もさっきのアレで納得した。元々、人を率いるのは得意じゃないし、左京なら従ってもいいぜ」

 

 神崎や柴田もか。

 それにしても、一之瀬に嫌われるリスクは覚悟してたけど、クラス関係のなんかを投げてくるレベルって判断に困るな。

 好意的だと見れば信用するようになった。悪意的だと見れば僕の苦手っぽい分野を投げて困らせることにした。こんな感じだろうか?

 

 一之瀬の性格だけなら好意的な方じゃないかと思いたくなるが、流石に痴漢された次の日に好意を向けるほど常識外れじゃないはず。ただ、なら悪意かというとそれも違う気がする。いったいどういうつもりだ?

……まあいい。凡庸な指揮しか僕にはできないけど、幸いにも煽った内容を利用できる状況。最低限ならなんとかなるだろう。

 

「はぁ。んじゃ、龍園達Cクラスが攻撃に回るらしいし、僕達は防御。その指示を出せばいいんだな? 誰でも思いつく考えしかないけど、本当にいいんだな?」

「誰でも……ねぇ」

「夢月の思考は致命的なまでにズレてるからなぁ」

「失敬な。普通の指示くらいなら僕にも出せるわ」

 

 そんなに疑うなら見せてやる。僕にもできるってことをな。

 

「えーと、まず防御全体の現場指揮は柴田がやれ」

「おい! 言った端から俺に丸投げすんな!」

「いや、これにはきちんとした理由があってだな。僕がBクラス内に混ざってると、学…生徒会長と南雲が迫ってくる可能性があるから、何もないグラウンドのど真ん中待機が安定するかな、と」

「あ、ああ。確かにそれがあったな」

「そうなると指揮なんかできないじゃん? んで、こういう競技だと背が高くて棒を支える役に適した神崎より、俊敏さと勢いがある柴田を前面に出した方が一致団結できるだろ? 元々は柴田指揮で練習してたみたいだし」

「なるほどな」

 

 うむ。1戦目にしか通用しない言い訳だろうが、この『休み時間』の為に煽ったと言っても過言ではない。

 

「だから大雑把に言うと、柴田が全体指揮とスクラム組んで迎撃。棒に取りつこうとする奴への対応も忘れるな。神崎はパワーのある奴を中心に棒の死守と後方指揮。四方と体格の良い数名は遊撃として力が強そうな主力―――赤組1年なら須藤か…Aクラスは大きな体格の葛城と雰囲気がある野武士っぽい奴かな?―――が突撃してきたら勢いを流し続けて時間を稼いでほしい。

 こんな感じかな」

 

 どうだ! なんて威張れたことじゃないし、僕に指示されるまでもないだろうが、一応全体での方針共有は重要だ。ついでに向こうのエース級が来た場合の対応を四方に任せてしまえば、時間稼ぎには充分。

 だから僕は淡々と必要な手だけ言っとけばいいだろう。

 

「待て! 四方と須藤や葛城・鬼頭相手では体格とパワーが段違いだぞ!? 時間稼ぎなんてできるのか?」

「支点・力点・作用点を意識して出足を挫くことも、おそらく四方なら可能だ。あまり動かず、棒以外の方向へ力を逃すようにすれば、向こうの主力の足止めはできるだろう。できるよな?」

 

 攻撃の要の龍園を名前通りに龍とするなら、機動防御の鍵になる四方はキャットルーキーに因んで虎(猫)である。

 攻守に龍虎が揃って最強に見える。

 僕が好きに配置できるなら、この采配がロマンがあって好みだ。

 

「う~ん。やってみないとわからないけど、要領がわかればなんとかってところかな」

「踏み出す足をなるべく注意して見てれば、身体のどこに力が入るか、そして体勢を崩すタイミングが四方にならわかるはずだ。そこを突け。プールや握力測定の時の集中力があれば難しくない。なんなら僕がやった早苗との二人三脚の練習時を参考にしろ。あれも早苗が力を入れる部分を先読みしただけだからな」

 

 これは本来、キャットルーキー3部の主人公でキャッチャーの寅島がホームベースを守った際の手法の応用だが、この程度の助言をしておくだけで洞察力と集中力が並外れた四方なら充分応用可能。

 

「あ、でも怪我しそうなら無理するなよ? 柔よく剛を制す、剛よく柔を断つというように、相手が強すぎたら退くことも頭の片隅には入れておけ」

 

 勿論、向いてない競技で無駄にふっ飛ばされることもあるまい。なんなら逃げ回ってもOKだ。

 ただ四方がやる気みたいだし、それなら彼に向いた方法の一つでも伝えておけば、なんかの足しにはしてくれるだろう。

 

 

 

 話がまとまって配置に付いたところで競技開始となり、防御役なのに途中まで龍園達Cクラスに混ざって限界ラインまで移動中(紅白の攻撃役同士の接触は禁止、防御役同士は特に規制がないため)、思わぬ人物が声を上げた。

 

「社長! 僕もご一緒させてもらえないでしょうか!?」

「栄一郎? え、でも僕と来ても得られるものはないよ? それに龍園の指示に従わないのはマズいんじゃ」

「龍園君っ!」

「ハッ。勝手にしやがれ。元々、松雄は定数外だ。抜けようが影響はねぇ」

「いや、ボーっと立って向こうが乗ってきたら話すだけの予定だし、栄一郎の身体能力を無駄にするのはどうなんだ? 活躍の機会とかも失くしちゃうぞ」

「活躍よりも、いざという時に僕が社長をお守りしたいんです! だからお願いします!」

 

 最初以外は人がいないから、土埃も上がらない目立つグラウンドど真ん中で危ない状況になるほど、学や南雲は考えなしじゃないと思うが。

……それに保険もきっちり確認済みだし。

 

「僕は臆病な小心者だから、そんな守られるような状況にはならないようにしたつもりなんだがなぁ」

「その割には大胆不敵に宣戦布告してやがったがな」

「つまり行き当たりばったりしかない能力値・計画性って証明だろう。ま、向こうが僕と同程度まで降りてくる場合だけは単独だと不都合が多いから、栄一郎が付いてきてくれるのはありがたくもあるが」

「ハッ。よく言うぜ。何度も直接うちに乗り込んで来る野郎がよ」

「社長!」

「あー、わかった。ただ栄一郎は一応攻撃役だし、よっぽどでない限り手を出さないでくれよ? 学はともかく、南雲は薄暗い面が結構ある。嵌め手を想定しといてくれ」

「はいっ! 了解です!」

 

 でも……野郎とはいえ、こうも真っ直ぐな目で頼まれるとどうも、な。

 低い可能性だけど、仮に上手くカモフラージュされて、僕がどっちかに一撃KO→学と南雲どちらかが即帰還、なんてことになるようなら先がだいぶ楽になるだけだし、理性では僕一人の方がお得だとわかってるんだけども。

 

 そんな事を考えつつ、ギリギリ向こうの迎撃が届く位置……つまりグラウンドのど真ん中に到着するまで少し話した龍園達を見送り、僕と栄一郎のボッ立ちタイムが幕を開けた。

 学と南雲は来るつもりなら、どの配役が適当か想定しているだろう。僕の動きを確認して動くまで、栄一郎とのんびり観戦していようかね。

 

 

 

 栄一郎が固くなってたので、気儘にオススメの夕飯メニューを一人で話しまくってると、まず南雲が、少し遅れて学がやって来た。

 

「やってくれんじゃねぇか、左京」

「……水が流れるように押し包まれて、赤組の棒が倒されていくな。こちらの攻撃は……到底間に合わないか」

 

 ふっ。来る事にしたなら、自分達を攻撃役にしとけばいいものをひよったか。勝ったな。

 

「ご名答。僕への直接行動もオススメしない。生徒会のトップ二人には釈迦に説法だろうけど」

「チッ、攻撃役同士は接触できない。そして防御役同士の接触は禁止じゃないが、防御役はセンターラインを越えてはならない、だろ。クソが」

「そちらのお望み通りにふっかけてやったんだから、感謝してほしいものだな」

「……ふぅ。今回は流石に負けたか」

 

 学が言うように、全方位から囲んだことで速攻で赤組3年の棒が倒れ、主戦場は2年の陣地へ移された。

 しかし我が白組上級生の勢いは疲れを感じさせない。このまま赤組上級生から潰しきるが早いか、龍園達1年の攻撃役が1ーAの防御陣を貫くのが早いか、といった状況。

 また南雲の言うこのルールが僕を守ってくれる。

 場にいる4人の中でセンターラインを越えられるのは、攻撃役であるCクラス所属の栄一郎だけだ。

 

 翻って白組陣地に目をやれば、全学年で攻撃の決め手に欠け、攻めてきた中では唯一突破力を感じさせる須藤は、多少押されているものの四方が巧みに翻弄して時間を稼いでいる。

 清隆が本気で来てたらまだわからなかったが、その可能性を下げるためにあらかじめおちょくっておいた。アイツの性格上、僕か四方くらいにしか本気になれないだろうから問題ない。

 

 高円寺対策も一応いくつか想定してたけど、今日はこれまでずっと救護用のコテージにいる。

 調子が悪いのか、手抜きか、はたまた……まぁ、あの自由人には最大限の対策をいつでも使えるようにしておけば、『競技なら』対応できなくはないはずだ。天才の中でも突出して完璧なだけに、高円寺の信念と美学を貫く姿勢はありがたくもある。

 

 あと赤組のパッと見の印象だが、攻撃は全ての学年で全体的に士気の低めな各Dクラス、防御は優等生的な陣を敷く各Aクラス。これなら、学年内以外での連携はないな。学と南雲を誘き寄せた甲斐がある。

 それでむざむざと煽られに来るんだから世話はない。

 

 ただおそらく対応する時間がなかったのだろう。

 白組上級生の金槌と金床作戦も、龍園率いるCクラスの一斉突撃も見事にハマっている。特に数は互角だというのに、名槍の貫通を思わせる龍園の攻めはとても真似できない。

 やっぱり敵に回したくないな、アイツ。ってのは置いといて。

 

「今回? はっはっは。安心するといい。棒倒しは白組の完全勝利で終わる。学にも南雲にも最後まで指揮はとらせないしな。2回戦もここに来なかったら、栄一郎に拡声器持って来てもらって煽りまくり、士気をドン底に叩き落としてやろう」

「左京、てっめぇ! 正々堂々と勝負できないのか!」

 

……よし、気づいてないっぽい?

 

「おいおい南雲君、嗚呼…南雲君。君こそ現状把握もできないのかい? 今まさに正々堂々たる勝負の真っ只中だろう?」

「ただくっちゃべってるだけだろうが! これのどこが勝負だ!?」

「そうだな。攻める、または守るべき棒どころか、何もないこの場ではお互い時間を無駄に浪費しているだけだ」

「それがなにか? 身体能力が低い僕は一向にかまわんけども。放っとけば他で勝てるし」

 

 正々堂々『口で』戦いたいから、僕に総大将なんてポジションを押し付け、様々な変更を敢行したんだろ。好きに話して何が悪い。

 南雲から場所も材料も用意してきたんだから、僕としては範囲内で最大限のお礼をのし付けて返してやらないとな!

 

「……くっ。冷静になれ。こんな目立つ場所で手を出したら勝ち負け以前の問題だ。左京の口は塞げない。つまり棒の攻防どちらかに急ぐのが最適……だが、かといって左京を無視して競技に回ると、後にまで影響が出るレベルの煽りが全体に広がる」

「手詰まりか。そもそもここに出向かされた時点で、打てる手は潰されていたか」

 

 尤も、二人とも状況は把握しているのだろう。

 打開策にこそ頭が回っていないが、その表情には諦めが浮かび始めている。

 

「いえ~す。だから決着つくまで僕と駄弁ってるしかないよ。気楽にしてくれたまえ。

 てか、あんなあからさまに僕に煽ってくれ、みたいな口上合戦を作ってたみたいだし、そのつもりだと思ってたんだけど? 未然に防ぐなら、学か南雲が総大将になって『あの場』で反論するか、競技内容自体に調整を加えるくらいしかないんだしさ」

「「……」」

 

 実際、『南雲』はどういうつもりで僕を総大将に持ち上げたんだ? 軽いちょっかいにしては大袈裟な割に反撃される想定が甘いし、意外と頭に血が上ってるようにも見える。僕にいい気分でも味合わせたいのか?

 それならご期待にお応えしておくのが礼儀というものかな。思い当たることもあるし。

 

「ああ、それと南雲には礼も言っておくか。僕に情報戦を仕掛けてくれてありがとう♪」

「……っ」

「総大将はともかく、知名度を得られる機会がなかったら、こうも上手く事は運ばなかったよ。まぁでも───」

 

 それにしても、笑いが止まらないとはこの事か。

 反撃できないリア充を煽るのって、何故こんなに楽しいのだろうか。自然と満面の笑みが浮かんできてしまう。

 

「あ~はっはっは!! 悔しいのう、悔しいのう。後輩に自分の策を利用されるってどんな気持ち? ねえねえ、南雲君よぉ? もしかして思い通りになると思っちゃった? 残念無念だねっ!! かっわいそう! ぶわぁ~はっはっは!」

「ぐっ……こ、こいつ!! モンキーのジジイみたいに馬鹿笑いしやがって……!!」

「一之瀬や葛城の報告にもあったが、やはりあの状況は南雲が仕掛けていたのか…………む? つまり赤組や俺は南雲への反撃に巻き込まれた? ……まさかな」

 

 いやぁ、楽しいひと時を過ごさせてもらったよ。

 南雲は言葉を失くしてしまったが、心からの感謝を贈ろうではないか。

 逆に星空のように広大な心を持つ僕にちょっかいかけた幸運に感謝してくれてもよいぞ?

 

 なんか、ひと言も喋らなかった栄一郎と、苦悩するかのように考え事し出した学には悪かったけど、とても楽しかった。

 更にはあともう一度、ノーリスクで休みつつ駄弁る機会があるとか、リア充爆破はこれくらいにしといてやろうという気分だ。

 だから───。

 

 同士達よ、仇は討ったぞ。

 心安らかに。

 と、澄み渡った青空の如き心持ちの僕は祈りを捧げ───全てを水に流して忘れることにした。

 

 なんでか来ている……その青空に浮かびながら、笑いまくってる人ならざる存在達から目を逸らしながら。

 





 今回の独自設定。
 棒倒しで最大40人VS40人って少なく感じてたので、いっそ全学年競技にしました。あと攻撃役同士が接触できないのだけは原作準拠ですが、防御役に関してや3本の棒を倒し合うこと、クラスごとに攻守どちらかの役になるルールをでっち上げてます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。