ようキャ   作:麿は星

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 龍園翔視点。

 微妙に納得できる出来にならなかったので、後で書き直すかも。



P、龍園翔

 

 ソイツの印象は、初対面から一貫して異質。

 巫山戯ていて、小心なのが明らかでありながら挑発的で、なによりも目的だけ打ち出し、後から中身を考えるような大雑把すぎる男だった。

 むしろ周囲から浮きすぎて、見えなくなるほど遠く高い場所に浮いているようにさえ見えた。

 そしてそれは現在も───。

 

 

 

 

 

 左京がCクラスを訪ねて来たのは、体育祭1週間前だった。

 

「よっ、龍園。これあげるから、今回は栄一郎と……櫛田の事は見逃して?」

 

 そして開口一番、他人の命乞いをしながらプリントを差し出す。

 

「……あ? なんだこれは」

「Bクラスの出場表(予定)だ。うちはみんな正攻法にばっか目が行ってる感じだったし、栄一郎からもちょっと話を聞いちゃったから、そのお詫びも兼ねてる」

「あぁ?」

 

 松雄の漏らした「ちょっと」は詳細に聞き出している。松雄自身の運動能力と俺がDクラスを潰す『つもり』という情報とも言えない大して意味もない内容だ。

 

「あっ、勿論栄一郎にはキツく言っておいたぞ。この学校で自分のクラスの情報を漏らすのは裏切り行為だから止めとけって」

「しゃ、社長……た、確かに言われましたが。その……龍園君に直接話しに来るのはどうかと……」

「いや、栄一郎はまだここの流儀わかってないんだから、最低限のフォローはいるだろ。龍園に〆られるようなことになったら、僕は松雄…お前の親父さんになんて言えばいいんだよ」

「つまり、てめぇは松雄の尻拭いに来たってことか」

 

 それと『ついでに』桔梗のやつの分もか。

 やはり馬鹿なんじゃないか、コイツ。自分が率先して情報を漏らしてるだろうが。

 

「それだけなわけないじゃん。お互いの主力がかぶらない根回しついでだよ」

「……ククッ。そういうことか。お人好しどもの中じゃあ随分と動きにくそうだなぁ、おい」

 

 いや、BとCでは連携が取れないと見て、一方的に情報を差し出すことで『俺に』調整させる気か。手渡してきた出場表には、どこで上位を狙っているか、誰が主力かといった個人的な所見付きでメモもある。

 やはりコイツは甘いだけじゃない。雑魚ではできない判断―――俺に信用を示した上で、互いの損にならない手を打ってきやがる。

 

 更にAやDに情報を売られることも計算のうちだろう。それでもCクラスすら最大限生かす意思表示だ。桔梗が言い出したただの私怨での裏切りとは、似てはいても全くの別物。

 Bクラスで唯一この判断をできる野郎が、生ぬるく傷をなめ合う一之瀬や雑魚共の下に付いているから面白い。あの甘い奴らの中にいるのは、さぞ居心地が悪いだろう。

 

「ぶっちゃけ事前準備くらいしか僕の頑張りどころってないし、本番ではただのいち生徒だからこれくらいはな」

「てめぇがいち生徒とかまた馬鹿言ってるな。見る目のない雑魚以外は、こぞっててめぇを利用したがるだろうよ」

「したければすればいい。伸るか反るかは僕が決める」

「……っ」

 

 軽くでも。一度でも。松雄を利用していたら、はっきり敵と判別できるのにしない。してこない。させない。俺がそうすることを読んで…いや、わかってやがる。ギリギリのラインをはみ出さない。

 しかも、Cクラス内に交流はある『奴ら』がいてもスパイ染みた真似はさせないと、明確に行動で示して全体を信じさせた。

 

 コイツは俺と―――龍園翔と話すのに恐怖心を持っている。暴力をちらつかせるように、石崎達(アルベルトにだけは恐怖心を持っていないようたが)をこれみよがしに囲ませたから当然といえば当然だ。

 それでも、たとえ唐突にボコって脅そうと。死ぬ寸前まで痛めつけようと。

 

―――左京夢月が屈することだけはありえない。

 

 負けることはあるだろう。

 勝つこともあるだろう。

 無様に助けを求めることだってあるだろう。

 だから倒すだけなら可能だろう。

 

 強固な守りの裏から暗殺染みたやり方で潰すことも、正面から突然襲いかかるのも。こうした暴力は依然として強い力だ。『少々』の小細工なら暴力の前に屈さざるをえない。

 だが、それではコイツの心を折ることはけしてできない。暴力であれ権力であれ、左京が何らかの力に屈している姿を想像できない。

 そう確信できるほどに、周囲から浮いている。少なくとも暴力で地に落ちてくることはないだろう。

 

 これまでそれなりの修羅場をくぐってきたが、俺がこんな印象を持つ奴は見たことがない。

 暴力もない。権力もない。勿論、支配や恐怖を使えるわけでもない。

 堀北鈴音の後ろに見え隠れするDクラスの策士のような俺と似た匂いをさせる奴でもない。

 どう考えても単独ならなんてことない野郎のはずなのに、『恐怖』を克服した……俺の悟りさえ覆してきそうな異質な存在。

 

 異質な存在はどんなモノであれ、多数から敵意を向けられる。

 少なくとも、俺には内にも外にも敵が大勢できた時期がある。

 時には大勢に囲まれひたすらボコられたこともある。

 抗えない力の前に崩れ落ちたことも一度や二度じゃない。

 

 それでも俺は恐怖しなかった。

 どうやって復讐し、逆転するかを考えていた。

 そして最終的には、全てを実現させてきた。

 

……コイツは俺とは全く違うやり方で、それを実現させた馬鹿野郎かもしれない。

 

 

 

 その疑問の答えは、体育祭3日前から学校中に広まった馬鹿げた噂の中心で僅かに明かされる。

 左京は、明らかに、どう考えても。嫌がらせのような悪評そのものと捻りを加えた報復を楽しんでいた。

 

「ん? ああ、エサって楽な仕事だよな。だから栄一郎を離してくれてありがとう」

 

 これは意味が薄いと、囲ませた奴らごと松雄を追い払った時の反応。Cクラスで数少ない左京を味方する可能性のある松雄だが、またしてもコイツがそれを許さない。

 

「楽な仕事…だと? てめぇ」

「コレがキツい奴は、無理して今の僕に寄らない方がいいってだけだ。馬鹿にするとかじゃなく、向き不向きだからしかたない。龍園なら少しはわかるだろ?」

 

 ああ、口には出さないがわかるさ。

 なんせ周り全てが敵の状況を覆すなんて、俺がすでに通った道だ。 

 俺と違うのは、左京が復讐も逆転も打開すら大したことと考えず、そこらの雑魚のように自然な態度のままで。チョコパフェを食いながら。読書を続行しながら。悪意に気づいていながら、覆したことさえ意に介さず。

 ひたすらナニかを見据えている在り方。

 

 うちで最も接触があり、思考力・洞察力に優れたひよりにさえ、対応を読めるかどうかは半々と言わしめただけはある。

 コイツの境遇からすると、普通は逆だろう。

 くだらない重責に悩んで、周囲の期待に押しつぶされそうになりながら、甘ったれたBクラスの雑魚どもと傷を舐め合うように馴れ合い、励まし合って勝利を目指すもんだろう?

 

 当初、俺はそれを横から邪魔しつつ利用して、掻っ攫うだけでいいと踏んでいた。正攻法しかできない奴らを嘲笑い、旨味があるうちに『回収』する手順を踏んでいたつもりだった。

 

「ハッ。狂人か、てめぇは」

「そんなわけないじゃん。凡人と自覚してるとこうなるんじゃね?」

「クックック。暗に俺を凡人認定してんじゃねぇよ」

「そう受け取るってことは、龍園だって少なからず自覚あるんだろ。要は、お前が言うな、だ」

「クハハハッ。運悪く今回は一応味方側になっちまったが、てめぇだけは俺直々にいつか潰しに行ってやる。全クラスを潰しきったら―――最後のメインディッシュは左京、てめぇだ」

「できればそれはやめてほしいけど、だったらそれ以前に油断するなよ? 多分、龍園が思うより面倒で厄介なモノがあるからな」

「言ってろ。最終的に俺に敵うヤツなど存在しない」

 

 しかし直感は確信に変わった。

 何をぶつけようと、恐怖すれども揺るがない。

 俺が俺のやり方を貫くなら、左京だけはいずれぶつからなければならない相手だと。

 コイツに限っては、どこぞのヤツが潰してくれる、などという甘えた考えは通用しない。最大限の愉悦を味わいたいなら自分が打ち倒す。

 そう。俺の退屈を。悟りを。覆せる可能性があるのは目の前の存在くらいだろう。 

 

「……はぁ。龍園が羨ましいよ、まったく」

 

 それでも俺のターゲットに確定したと察しているはずの左京は、脈絡のない敬意と羨望の感情を向けてきた。

 倒すべき存在であることには変わらないが、やはりわからない男だ。

 

 

 

 

 

 

 

 そして棒倒し開始直前。

 生徒会長と南雲に宣戦布告した左京は、普通にうちに紛れ込んできた時に探りを入れても全く変わりなかった。

 

「てめぇ、こんな早いタイミングで大賭けして負けたらどうするつもりなんだ」

 

 煽りや舌戦とは本来、こうやって相手の足場を切り崩し、相手の寄って立つ足場を揺らがせるためのもので。勝てば官軍、負ければどんなにお高く止まってようがタコってな。自分の正当性を主張すると共に、相手の正当性を奪う、まさに舌による陣の奪い合い、即ち戦争であることも。

 それをアイツはわかっていて、雑魚どもはわかってない。

 

 お手本にしたいくらいの煽りを再度目の前で見せられ、耳で聞き、肌で感じられた事で、次があれば対応してくる奴はいるかもしれない。

 尤も、代償はいち競技に収まるほど小さい。左京が赤組に齎した混乱は、せいぜい競技中には持ち直せない程度だろう。

 だから俺にしては珍しい興味本位のちょっかいだったが、それを聞いて不敵さを見せたコイツは笑って言い放ちやがった。

 

「わけわからないこと聞くなよ。負けたら終わり。わかりやすくていいだろう?」

「……ククッ。負けたらどうでもいいってか。クラスのことなんか本当はどうでも良くて、てめぇにはてめぇの目的を達成する以外は些事なんだな」

「ああ、そうか。僕が負けたら龍園も負けてしまうとか思ってるのか。だから僕と縁がある栄一郎を付けてまで保険をかけたってことか。安心しろ。きちんとそのへんにも手は打っておいた。龍園が手を抜かなければ、もう『Cクラス』に負けの目はない」

 

 それがどうだ。ついさっきまで散々槍玉に挙げられ、鍵にされた自覚を持った上で、こうしてヘラヘラ笑っているのだ。オマケに、自分のクラスには言及もしない。

 単純に噂にムカついていたわけでもなく、ここまでしておかないとマズいと判断した何かがあるのだろう。

 

「卑怯と罵る相手が卑怯な真似をしないなんて誰が決めた。規則・秩序・横紙破りがなんだ。正攻法とずる賢さだけで勝てると思ってるなら随分幸せな奴らだよ、馬鹿馬鹿しい。僕に喧嘩売った以上、あからさますぎるやり方じゃなきゃ手痛いしっぺ返しを受けると教えてきてやるよ」

 

 その何を見据えているのかわからないくせして強さを感じる目に、知らず怖気を覚え―――俺が……怖気? こんな暴力どころかまともな『力』さえ持たない奴に?

 

 コイツがやったのは、自分の力を積み上げるのではなく、相手の力を封じ込める、そう言う戦い方だ。

 そこだけ見れば極当たり前の戦法だが、コイツのそれはわざと歪めつつ正攻法でもある。

 

 おそらくこれには俺以外に気づける奴は“ほぼ”いない。

 そういう思考や経験をしてきている奴はいても極少数だろう。

 喧嘩や殴り合い…突き詰めれば暴力を主に使う奴は普通、もっとシンプルに、もっと速く、もっと強くといった力を突き詰めていく。

 

 コイツは、これまであれだけ向こう見ずを繰り返しているくせに、ここまで先を見通すことができるのか。いや、本質はそれではなく、ここまで勘所を見抜く直感と思考力を持っていながら、どうしてあそこまでの博打をやってのけられる。

 

 この時、俺は改めて確信させられたのだろう。

 何でもありの同条件で左京と潰し合いすることになった場合、十中八九は俺が勝つ。確かに能力自体もそこそこ高い部類だが、これまでコイツよりも手強い奴はいた。俺との勝率だけなら左京を超えうる奴はいるだろう。

 

 しかし……俺にとって最も潰し甲斐がある男は左京夢月だ。

 

 ただ本気になる前の左京になら10割で勝てる。俺に対してさえ敵視しないほどに面倒事を嫌い、かつ仲間に甘い性質を利用すれば、逃げ道を塞ぎ潰しきることも可能だ。

 更に野郎がもし本気になったとしても、9割近い確率で潰せる。

 だが、それでも―――左京の僅か1割強の勝利は、俺に『完敗』しか予感させない。

 

 9割の勝利と1割の完敗。

 非合理的で、ただの勘としか言えないありえない予感。

 これは俺に生まれた新しい欲だ。どんなに危険な賭けになろうと、結果を見たいと思わされた欲。

 俺はこれまでになく湧き上がってくる『ソレ』の衝動を抑え、所詮は茶番でしかない棒倒しへと無理矢理意識を向けた。

 

 

 

 まるで昼下がりのコーヒーブレイクを満喫するかのように、散歩気分で俺達に紛れて向こうのクラスの攻撃役を素通りし、中央で松雄を背後に置いたままど真ん中待機。

 棒倒しの喧騒に紛れつつも、時折笑い声が聞こえるくらいで明らかな格上相手と談笑してやがる。

 そしてそれだけで、左京は口に出したことほとんどを実現させた。

 

 学年の中心人物を何もない場所に引き付けたことが原因か、2・3年の陣地はあっけなさを感じるほどに脆かった。藤巻とかいう向こうの総大将が指揮をとる3年と"葛城”が纏めている1年も芯が弱く感じられ、特に中心がいない2年は僅かしか持ちこたえられない。

 慣例の枠を超えた学年間の連携、ワンマンや独裁の欠点ともいうべき『王』がいなければ役立たずしか残らない……それらの部分を突かれたからだろう。

 

 俺からしてみれば、これは策略ではない。勿論、暗躍でもない。

 ある意味で正攻法の正しい使い方だ。

 正攻法を半強制されるあのクラスで、ここまで学校と一之瀬の方針を『同時に』応用する左京は油断できない。思考を止めれば、俺ですら絡め取られる可能性がある。

 

 だだ、いまだ底は見えてこないが、これだけはわかった。

 左京の武器は、暴力でも権力でも実力とやらでもない『言葉』。力と金の“使い方”がわかっているともいえる。つまり、だいたいの場合において交渉の余地があるということ。

 

 それ以外を武器に戦おうと、あの男はけして屈しないだろう。

 汚れ役だろうと、過程でいくら無様に這いつくばろうと、必ず最後まで渡りきる。

 そう考えれば、感情に任せて文句を言うだけの『仲間』とやらや、やかましく付き纏うような雑魚どもは甘ったれた奴らでしかない。使い方も知らない武器を振り回す雑魚どもに、左京が芯から屈するものか。

 

 と、そろそろか。

 目の前でぶつかり合うCクラスとAクラスに意識を戻し、そこそこ上手く手を抜き離脱していく橋本を確認する。

 あのコウモリの判断は参考になる。船でやり込められていた時も、その後の対応まで利用して稼がせてもらった。

 それは今回も―――。

 

「倒せ」

 

 完全に従わないヤツを確認する為、あえて好きにやらせていたがもう充分だろう。

 総攻撃の号令とともに、石崎と運動部の奴らの更に後方からアルベルトを暴れさせて督戦代わりにする。

 一気に決めなくては、じきに2年を下した勢いのまま上級生に獲物を掻っ攫われる。それはつまらない。オマケ程度だが、葛城は踏み潰しておきたい。

 そうするつもりはなかったが、意味不明に引っ掻き回された気分を紛らわせるように、俺は意外でもなんでもないAクラス防御陣に開けられた穴に突っ込んだ。

 

 そうでもしなければ、笑い出してしまいそうだったからだ。

 全校生徒を口車に乗せ、普通ではありえない結果に導いた。

 いち競技とは言え。限定的とは言え。

 早々にAクラス打倒を成し遂げやがった馬鹿野郎だ。

 勝利への道筋を整えられた以上、乗ってやるのもたまになら悪くない。

 

 

 

 2戦目も赤組の攻守を入れ替えられたくらいで、特段の変化はない。

 唯一、1年Dクラスの須藤が吠えているが、2本目の試合は2・3年の防御が1本目より更に脆くなっている。しかも、またしても左京が生徒会長と南雲を中央で足止めしたことで、纏まりを欠いている。

 

 それのため、戦力の集中運用を模倣されて赤組3学年の総攻撃を受けた"左京”クラスも、左京抜きでなんとか持ち堪えた。無闇に攻撃人数を多くしすぎたせいで、サボったり浮いている奴らを無駄にさせたからだろう。

 しかも藤巻も2年の代理リーダーも葛城も、攻撃は苦手なのか指揮に余裕や遊びがない。攻撃の要になり得た須藤を防御に回したことといい、適材適所を知らないようだ。

 もしくは―――。

 

 まあいい。

 Dクラスの攻略法はすでに伝達済み。

 普通に押しつつ、今回はAクラスとは逆にアルベルトと他数名を先に突っ込ませ、棒にへばりつく須藤を痛めつけさせる。あとは膝を折った須藤を、タイミングを見計らった俺が踏みつけて終いだ。

 

「がっ!?」

 

 流石に須藤は一撃では沈まず、二撃目でようやく倒れ込んだが、手間をかけさせてくれるぜ。

 これから最も脆いと見えた2年の棒を取りに行くってのによ。

 

「てめぇ! 反則だr」

「うるせぇ。カスがピーチクパーチクと。ぶっ倒れたまま言っても負け犬の遠吠えなんだよ」

 

 須藤が囀るのを馬鹿にするのもいいが、俺とコイツではバレないようにやるテクニックに雲泥の差がある。パワーだけの単純馬鹿に構うより、俺と同等以上の権力を持つ奴らの隙を突く方が今は『愉しい』だろう。

 

 その後、2年共を蹴散らし、今日の総計3本目の棒を倒して、余裕を持って状況を見渡す。

 最後に残った赤組2年を潰しきっても、白組の棒は全て残っていた。

 2回やってこちらは全生存、あちらは全滅。

 文句なしの完全勝利。

 オマケに赤組の生徒会トップの2人には何もさせず、それどころか煽りまくったのか遠目にも歯噛みさせているのがわかる。

 

 有言実行。開会式の宣言通りにしやがった。

 呆れたものだ。

 後で松雄から詳細は聞き出すが、ハッタリにかけては左京の敵はないな。最後の最後まで、開いている穴の存在を相手方に意識させなかった。

 

 1本目はまだしも、2本目は左京ごと無理矢理押して攻撃参加すれば、少なくとも勝敗はわからなくなっていた。他にも打つ手はいくつか思い浮かぶ。

 おそらくコレに近いネタバラシをしたのが、生徒会長と南雲が歯噛みしている理由だろう。1本目の時に俺の負けはないと左京が明言したのも、俺が松雄を付けさせたのも同じ理由だからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 それにしても……頼んだ、か。

 よりにもよってそれを俺に言えるヤツ。

 

「只今戻りました、龍園君」

 

 待機場所に戻りながら考えを整理していると、松雄が合流してきた。

 

「ああ、ご苦労。あの野郎をしっかり見てきたか?」

「……はい。社長は」

「いや、報告はいい。アイツはお前の上司であり、これから先でやり合う『難敵』だと認識しろ」

「……」

「尤も、アイツは敵とすら考えていないだろうがな」

 

 ソイツは今、度を越した度重なる独断専行を冗談交じりに咎められ、情けなくBクラスの雑魚どもに謝っている。完勝したとはいっても、上級生どもを顎で使って容赦なく敵を殲滅したことで、冷静になってから『否』が見えてきたのだろう。

 競技前にアイツも言っていたが、馬鹿馬鹿しい。

 

「クックック。やりたい放題する割には、甘っちょろい奴らに弱ぇ奴だぜ」

 

 ただそれは左京の自然すぎるマイペースさによって、あまりの不遜さを同時に感じさせる舞台装置と化していた。

 巫山戯ていて、挑発的で、なによりも大雑把すぎる謝罪だ。

 むしろ謝罪ですらなく、おちょくっているように見えた。

 自称・パンピーが、クラスを統率する奴らに向けるには不適切にも程がある。

 

 しかしそれがまた―――たまらなく最高であった。

 たまらなく最高で、面白さを予感させてくれる。

 この俺が思わず笑い出したくなるくらいに……。

 

 高度育成高等学校、か。

 暴力を受け入れるくせに通用しそうもない奴に、推定だが暴力も厭わない冷酷な奴。

 いそうもない奴らがいるものだ。

 少数ながら常識から逸脱した存在が跋扈するとわかった以上、これからは愉しくやれるかもな。

 





 ちょっとした余談。
 やべぇ。とあるゲームにハマりすぎて、GW前の三連休が溶け消えた、序盤めっちゃクソゲーみたく感じてたのに。
 本とゲームじゃ少し違うけど、たまたま古い本読んでて見かけた読書の十戒その1に「新刊ほど劣化する」ってあったのは、徐々に面白くなるタイプ(作者・作品ともに)は淘汰されやすいってことかもしれない。
 それがあるから、序盤で投げ出したらもう出会えなくなると思うともう少しだけって精神が働くのか、やってるうちにハマる作品は何気に多い。私だけかもしれんけど。
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