ようキャ   作:麿は星

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 またしても1万字オーバー。
 読みにくかったらすいません。分けようかとも思いましたが、切り時のなさや展開の地味さを考えると、一気にいった方がまだマシかなと。



109、意味

 

 男女別綱引きの次は障害物競走だ。

 MVPの個人得点としてはおそらく現在はBクラスに候補が多く、他クラスでいえば団体戦であまり稼げなかった須藤、組み合わせに『恵まれている』櫛田、龍園、平田が次点といったところ。団体戦を除外すると、これからは参加競技が少ない者、1位を取れなかった者からMVP争いを脱落していくだろう。

 

 総大将的には棒倒し・玉入れで白組に2ポイント。それと全学年男女6組の綱引きは、3年と1年の女子が勝っただけなので赤組に1ポイントの2対1。

 上手く事が運べば、騎馬戦で勝ちを確定できる。

 

 正直、四方については最後のリレーで目立つように想定しているので、それまではそこそこでいいだろう。トップを狙えとは言っているが、別にMVPじゃなくても目には止まるはずだ。念の為、野球部の奴らにはそれとなく情報を流している。

 後は運を天に任せるのみである。

 

「よう左京。奇遇だな」

「やあ龍園。奇遇って人為的に起こせるから面白いよな」

「クックック。まったくだ」

 

 ともかく障害物競争の一番手はまたしても僕だ。

 そしてそこには、わざわざ自分を僕に当てておいて白々しい事を言う龍園の姿もあった。唯一、僕が1位になれそうな個人競技だったんだがなぁ。

 まぁ他の奴を表裏問わず狙われるよりかはマシだ。

 

 スタートダッシュで出遅れて、基本走力の差で少しずつ離される。龍園と、スタート直前に龍園へ話しかけてた……多分Dクラスの奴にだ。ほぼ無視されてたからクラスは確定ではないけども。

 あとは僕含めて団子状態。

 

 最初の障害物である平均台を危なげ無く突破する頃には、僕は前を行く二人の背も近づいていたが、短距離でまた離された。しかしガッシリした?体格ゆえか次の網をくぐり抜けるのに手間取った龍園じゃない奴は、そこで追い抜かす事ができた。

 最後の障害物はずだ袋で跳び跳ねて進むモノで、僕のすぐ前を跳ねて進む龍園。

 キャラには合ってない真面目さ……かと一瞬思ったが、コイツには他の天才達と違いどこか泥臭い部分がある。だから、おそらく下積みで手を抜く真似はしないのだろう。

 

 それでもこういう変則的な運動だけは、僕の得意としている分野だ。

 ほんの僅かな時間だけ龍園に追いつき、追い越すことができた。

……誤魔化しのできない直線ですぐに追い越されるわけだが、前に人がいない光景はやはり格別なモノ。

 網で手間取ってた奴にもここで抜かれ、最終的に3位でゴールしながら思ったのはそんな感想だった。

 

 

 

 桜切るバカ、梅切らぬバカ。

 桜は切り口から菌が入りやすく腐りやすいから、なるべく剪定するな。逆に梅は剪定してやらないと良い花や実ができないから、適度な剪定をしろ。

 つまりこの諺は、個に応じた手のかけ方には変化を付けろ、という意味である。

 

 僕が手をかけてるのは今のところ四方と愛里のみだが、早苗・椎名・櫛田・清隆なども場合によっては入ってくる。なんなら一之瀬に葛城・戸塚、栄一郎も。

 この中で誰が桜で、誰が梅かは、あるいは全く別の木なのかは人によって判断が別れる部分だろう。

 

 さて、何故このような思考が生まれたかというと、障害物競争の女子で堀北さんとCクラスの女子…木下さんが接触事故を起こしたのが発端だ。

 その時、僕は考える前に事故現場へ急行し、なんとか歩き出していた二人の近くでゴールするのを不審がられながら見守った。その頃には早苗も来てくれて、嫌がる二人を座らせて辻治療(紛いな事)を行った。

 

 すると案の定、二人というか主に堀北さんがグダグタ言い出したので、早苗に二人を無理矢理抑えてもらった。その間に僕がひとっ走りして、念の為に用意しておいた捻挫などに良く効く(山芋をすり下ろしたものを練り込んだ)湿布の作り置きを貼り付けて応急手当し、少し時間を置けば最後まで予定競技には出られるだろうと言っておいたのだ。

 早苗に意見を聞いたら、今回は足を振るよりも大事をとった方がいいとのこと。ちなみに、軽い捻挫なら足をよく振ってしまえば早く治ると教えたら、堀北さんが頼んできたので早苗(流石に女子の足を触りまくるのに僕はNGだろう)が振っていた。

 

 幸い、といっていいのか僕達が応急手当を終えた時には、しかたないなぁという顔をした一之瀬が養護教諭である担任を連れて来ており、やった事を報告。「大丈夫。民間療法だけど、これなら安静にしてれば午後から普通に走れるようになるよ」と太鼓判を押してくれた。

 

 次の騎馬戦や昼休憩合わせて2時間以上ある。昼以降の競技も、始めの2つは特殊系統なので二人三脚までは休めるだろう。

 堀北さんも木下さんも何気にエース級の身体能力だ。休むのに専念した方が良いはずである。……のはずだったのだが、はたと我に返って思い至ることがある。

 

……もしかして、これって僕と早苗、やっちゃった? 桜切るバカになっちゃった?

 

 二人とも軽傷ゆえに、簡単な治療だった応急措置を終えてすぐに怪我人どもを担任に引き渡すと、担任からも責任を持って午後までは救護用コテージで休ませてくれると請け負ってくれた。

 するとその話を聞き、物凄く混乱した感じで狼狽える木下さん。その木下さんを見て、物凄く複雑な顔になった堀北さん。

 

 これは櫛田も手を回し、堀北さんを潰しにかかる龍園の計画の一環だったのではなかろうか? 自爆特攻とか当たり屋みたいな? しかも下手すると、この状況を折り込み済みっぽかった清隆の思惑すら台無しにした可能性がある。

 あまりにおおっぴらで直接的すぎて、つい身体が動いてしまったわけだが……。

 

 考えてみれば、世界大戦でも最初にアメリカが使った時は大した戦果を得られなかったとはいえ、日本の日の丸特攻隊は後世でも有名になるほどの戦果を上げている。

 実行役が優れたエース級なら、自爆特攻は立派な戦術になり得ると龍園は判断したのかもしれない。

 とすると、この後に木下さんが怪我したとかで、強請やら集りやらして堀北さんを本格的に追い詰めるつもりだったのではなかろうか? 違ってたら失礼な話だが、龍園ならやりかねないと思えてしまう。

 

 てか、堀北さんはなんでいつも僕の目の前でボコボコになってるんだよ。これで三度目、いや四度目だぞ。今回は櫛田との約束で彼女は下げなくちゃ駄目だし、普段ほとんど接触ないってのに。

 目の前でこんなになってたら、流石の僕や早苗でもつい手が出ちゃうだろうが。見過ごしたら、寝覚めが悪すぎる。

 

 とまぁ、内心で愚痴を零しても後の祭り。

 堀北さんと木下さんは、一之瀬と担任に肩を借りて治療用のテントへ去っていく。これはもう駄目かもわからんね。

…………でもやっちゃったものは、まぁいいか。龍園にしろ清隆にしろ計画や思惑の邪魔しちゃった時はその時である。

 なんとなく半分くらいはこれに気づいてしまったと思われる早苗と顔を見合せ、暗黙の了解の内に僕と早苗は肩を竦めて全てを水に流しておくことにした。

 

 

 

 綱引きと障害物競争が終了した。

 現時点での総合成績は白組がかなり優勢。その白組の中でも、うちのクラスはMVP輩出確率含めてトップ候補だろう。騎馬戦で勝敗が決する点はまだ残っているが、四方はかなりの上級生から可愛がられていた。これでダメ押しにリレーなどで活躍すれば、引っ張りだこ間違いなしである。

 これにて、事前に考えていた目的はほぼ全て達成である。野球部のみならず、不思議なことに個人の結果を出してない僕まで棒倒し以降、いくつかの部活に勧誘されていることを除けば……。

 

 ともかく今はグラウンド整備や綱引き・障害物競走の片付けで、10分休憩に入っている。

 午前最後の騎馬戦を万全にするためだろう。体力消費が激しい障害物競走を最後に行った2年生への配慮もあるかもしれない。

 どちらにしても、僕達生徒からすれば少しだけ一息つけて助かる。

 

 そんな時間に、四方と早苗の近くでボーッとしていると、柴田や一之瀬達が『打ち合わせ通り』櫛田と清隆、須藤、平田・軽井沢さんを連れてきた。

 

「なぁ左京。お前、高円寺の野郎になんかしたか? 敵クラスのお前に言うのもなんだけどよ、アイツのダチならまともに参加しろっつってくれねぇか?」

「僕はなにもしてないぞ。ただアイツの性格上、どこかでぶっこみに来てくれるんじゃないかとは思ってたけど、言っちゃ悪いがたかが体育祭だ。アイツが意味を見いださないと、1つ……多くても3つ競技くらいが限度だろうな。そういう話しぶりだった。

 てか、高円寺に必要を感じない参加をさせろって、無茶ぶりすぎる」

「ああ! やっぱり左京君『も』もう言ってたんだね。おかしいと思ってたんだ。なんで高円寺君が突然って」

「言ってたっていうか、夏にはすでに色々見抜かれてたから、ちょっとくらいはノッてくれるかなって思ってただけなんだけども」

 

 挨拶し合い、用件は堀北さん関係かな?などと考えていると、須藤と平田が切り出した話は予想外にも高円寺の件だった。

 しかし、「も」って他に誰かが干渉したのか。ご苦労なことである。

 それにしても、出場競技は教えてくれなかったが、この話なら僕の噂が蔓延してた2日前に堀北さんと清隆が来た時に一度している。情報共有がなされていないのか、ブラフか。

 

 でも、そうか。ここで応えてくれるのか。

 無人島や船での例を考えると、僅かでも興味が湧きアイツに美学を感じさせることができれば、余興程度は付き合ってくれる奴だとわかっていた。

 

 試合の勝率はかなり低下するけど、清隆を押さえてくれるのは僕としてはありがたい。

 こちら側に四方や早苗がいるから能力をある程度以上興味を刺激するのはそう難しくないが、おそらく向こう側には清隆を活用できる奴がいないのがネックだったのだ。僕の知る限りで可能性がある二人……高円寺はやる気がなく、櫛田は状況がそれを許さないしお互い信用もできないだろう。

 でもそのままじゃあ『清隆が』十全に楽しめない。だからついでとはいえ、高円寺が引っ張り出してくれたのは感謝である。

 

「高円寺の性格……。そんなところから逆算できるのか」

「そ。このタイミングで君らが来たってことは、高円寺が出場する気になった競技は騎馬戦だろ。んで、須藤が言ってるのは他の競技も含む。いくら頼もうと、必要も興味もないところでやる気になる高円寺じゃないよ」

 

 ま、高円寺に関してはつまるところ。

 せっかくの機会、つまらない事は忘れて友達全員で楽しもうぜ、ってのを匂わせておいただけだったりする。

 なんか笑い顔とも怒り顔とも言えない妙な雰囲気を出してる清隆からすると迷惑な話だったかもだが。

 

「……私達が来ただけでわかっちゃうんだ」

「そりゃ、材料が揃ってるからな」

「材料……。それなら高円寺君が騎馬戦以外の競技に出なかったのも」

「あー。そっちは多分本当に体調不良か、あるいはさっきも言ったけど必要と興味がないからじゃないかな。やる気がないのにやる奴じゃないし」

「ふざけやがって」

「須藤君」

「わかってる。もうアイツんトコなんか行かねぇよ」

 

 ああ、愛里と居た時に高円寺の居るテントが騒がしくなったのは須藤達が来ていたからか。確かに体育会系っぽい須藤と高円寺みたいなタイプは相性悪そうだ。

……棒倒しと綱引きの流れに加えて高円寺の事もある中で、これ言っても大丈夫かな? 約束だからやるけども。

 

「しっかし、敵クラスねぇ。短い隙間時間で『クラスリーダーの櫛田』が来たのは、本当に高円寺の件なのか?」

「桔梗ちゃんがリーダー?」

「にゃっ!!? 私はリーダーじゃないって前に言ったでしょ!?」

「うん。一応、櫛田さんじゃなくて普段は僕と堀北さん。体育祭では須藤君がリーダーだよ、左京君」

 

 不思議そうに聞いてきた一之瀬や落ち着いて訂正した平田。意外とみんな冷静だな。

 ただ周囲含めて反応自体は予想通りだけど…………櫛田、演技が上手すぎ。コイツの面の皮の厚さは、やっぱり女優とかアイドルに向いてるよ。

 僕も下手打てないな、これは。都合良く堀北さんだけがいないなんて状況はそうそうないだろうし。

 

「ああうん、それはわかってる。ただ悪いけど『僕達』はBクラスを一之瀬クラスと思ってるように、Dクラスを櫛田クラスだと思ってるから。そうだよな、早苗」

「はい。少なくとも私と夢月さんは」

「だからもうすぐ始まる騎馬戦でも、Dクラス内の最優先目標は櫛田だ。つまり頭を真っ先に倒しに行くつもり」

「……っ。わ、私…を?」

「おう。友達だし、女子だからこれは一之瀬と龍園頼みだけどな。野郎で囲んでフルボッコしたらヤバすぎるし」

 

 ちなみに龍園に頼む事はない。堀北さんが欠場する以上、龍園は放っておいてもまず間違いなく櫛田を女子達の標的に設定するだろう。

 

「それを『わかってるはず』の櫛田が乗り込んで来るなんて、いい度胸だな、と」

「わかってないよ!?」

 

 そして総大将の僕、ひいてはB・Cクラスから集中攻撃されるほど櫛田が警戒されている、と露になればどうなるか。

 平田はおそらく変わらないポジションのままだろうが、Dクラスリーダーの風評は堀北さんから櫛田にスライドされる部分が出てくる。そうなってしまえば、櫛田と堀北さんの情報戦で立場が決まる。多少清隆からの援護があるくらいで、ほぼ櫛田の勝ち確の分野で。

 ま、約束がなくてガチ勝負だったとしても、櫛田狙いは僕的に妥当と思われるので説得力はあるしな。

 

「待てよ左京! お前、龍園なんかと組んでんのか!? あんな卑怯者に女の櫛田を狙わせるとか見損なったぞ! 正々堂々俺にかかって来いよ!」

「須藤君……!」

 

 う~ん。しかし、やっぱり須藤は良い奴だなぁ。

 旅行中に早苗や櫛田から聞いたけど、無人島で愛里も助けてくれたらしいし、僕が初日にぶちまけた話にも頭ごなしの否定はせずフォローっぽい事も言ってくれたようだ。

 この上、茶番とはいえ仲間を守ろうとする男気を見せられたんなら、僕も櫛田ヨイショ部分以外は正直に話しておくか。四方や清隆には見抜かれてるだろうけども。

 

「いや、僕と…ついでに四方が倒さないといけない奴って櫛田じゃないぞ。2年の南雲だ」

「……っ」

 

 更についでに早苗は学。そうしてこそ、最大限のリターンが見込める。

 競技の勝ち負け関係なくリターンはあるし、僕自身が十中八九痛い目に遭うのは理解してる。

 それでも目的達成はこれが一番早いと思う。

 

「南雲? 誰だそれ」

「生徒会の副会長で、見てるかわからんけど棒倒しの時に僕と中央で話してたいけ好かないイケメンだ」

「南雲先輩だね。サッカー部は退部してるけど頼れる先輩で、体育祭では僕達の味方側だよ」

 

 ああ、サッカー部関係者だったから、柴田も知ってたのか。てことは、平田もサッカー部繋がりがあるということに……。

 

「うん。だから須藤ともやるなんてのは無理だ。櫛田はあくまで白組が勝つなら倒しておかないと不味いから頼んでおくんだ」

「そうですね。さっき夢月さんも言ってましたが、戦いの基本は頭を潰すことです。なら心苦しくはあっても、桔梗さんを倒さないと勝つのは難しくなるでしょう」

 

 時々してくれる早苗のフォロー。

 少し苦しい方向転換だったので助かる。沈黙は金とばかりに途中から口をつぐんだ櫛田も、今はこれ以上を望んでないだろう。

 

 余談だが、沈黙は金、雄弁は銀という言葉は、金より銀の方が価値が高かった時代・場所で作られている。まぁ、ケースバイケースだからどちらが有用かといったモノではないけど、話題を誘導する場合には雄弁に頼ってしまうのも当然だろう。

 

「……ならいいけどよ、簡単に櫛田はやらせねぇぜ。龍園にもそう伝えとけ。アイツは俺がやるともな」

「おうよ。じゃあ僕も高円寺に一言、ありがとうと伝えといてくれ」

「はぁっ!? なんで俺がアイツに!?」

「ははっ。軽い交換条件だって。須藤が嫌なら平田でも清隆でもいいし、なんなら後で僕からも言うから伝えなくていいよ」

「…………いや。そういう事なら俺が言っとく。左京にやれっつっといて、俺がやらねぇのは格好わりぃ」

「サンキュ。頼んだ、須藤」

「おう。任せとけ、左京」

 

 このへんの関係はよくわからないが、感謝の言葉を無下にする高円寺じゃないし、これで多少印象がマシになれば幸いである。相手が早苗にも近い他人に無関心な男・高円寺なので、須藤への印象はないに等しい可能性には目をつむるのである。

 ここはツッコまれる前に、考えられる本来の用件で話を戻すのが無難かもしれない。

 

「てか、それはそうと堀北さんの怪我についてはいいのか? 僕と早苗はぶつかった木下さん含めて応急手当したし、堀北さんが救護用コテージから戻って来るのを待てないからここに来たんじゃ?」

「ああっ、そうだった! それも聞きに来たんだった! 高円寺や龍園のことがあったせいでカッとなってたぜ」

 

 それにしても、組む事を匂わせただけで見損なわれそうになるなんて、龍園ってマジで天然ヘイトタンク。

 卒業後の龍園は大物か裏街道一直線のどちらだろうな、と思わせる一幕だった。

 

 

 

 堀北さんの話題に移すと一転、心配顔を隠せなくなった須藤。

 だが彼と堀北さんの騎馬戦欠場を軽く話し、昼からは大丈夫だと言うと、あからさまに安堵の顔を見せた。素直というか現金というか……腹の探り合いがいらない奴は、この学校で貴重である。

 

 と、その時。

 発言を遮って、しばらく黙って聞いていた平田がいきなり僕に話しかけてきた。彼の本題、というか聞きたいことは別にあったようで、話にひと段落つく瞬間を待っていたようだ。

 

「は? イジメをなくすにはどうすればいいか?」

「うん。前から左京君には一度聞いてみたかったんだ」

「何故僕に?」

「これまで僕が見てきた中で答えを持ってそうだったから、かな」

 

 内容は脈絡のない話題だ。不自然極まりない。

 この場違いで唐突な問いかけに清隆や櫛田、須藤は……面食らってる? 清隆は小さく驚いてみせたくらいだが、珍しく櫛田や船でも結構声が大きかった須藤が黙り込んだ。

 

 でもまぁ、そりゃそうか。無理もない。真面目そうなのに、平田は暑さに頭をやられてしまったようだ。もう10月半ばだしそんなに暑くないけど、そうじゃなければ非常識な話である。

 てか、流れ弾で彼女(だっけ? あまりそう見えないけど)の軽井沢さんまで深刻っぽい雰囲気を出しているから。イジメにトラウマっぽいのがあるのだとしたら、高円寺に目を付けられるぞ。それに今する話じゃないだろうに……。

 

 僕は平田を紛う事なき変人だと確信し―――いや待て! 愛里、高円寺、須藤。そして今また平田。他もそうだが、周囲の反応からしても、普段の平田は不自然というか場違いな真似をする奴ではあるまい。なら、こうなった理由にはどこかに必然がある。

 

 そう。清隆の仕掛けなのは察しがつくというもの。

 

 高円寺と須藤に関してはおそらく何もせず、流れに乗って利用したのだろうが、おそらく平田は違う。

 これは櫛田を僕や早苗に投げると同時に、非常にわかりにくく援護射撃するための一手だ。援護なのに、普通の奴にはほぼわからないとはこれ如何に。

……馬鹿なんじゃないか。僕に対してやる気を見せてどうする。もっと同格の奴らや掘北さんとかに専念してろよ。愛里まで利用しやがって。

 

 きっと僕が気づいたことに気づいたのだろう。

 チラッとそちらを見ると、周りに気づかれないよう憎たらしく(僕の主観で)満足げな笑顔を浮かべている清隆。と、それを見て何故か驚いている櫛田。

 コイツ、マジで……! 変なことじゃないんなら、不審者ムーブはやめろっつっただろうが! さり気なく気付ける気遣いくらいしてくれっつーの! つーか、基準バグってんだよ!

 

 ふぅ。ともかく冷静になれ、僕。

 まだ人外達の危険な匂いがする非常識よりはいくらかマシなんだ。ひとまず僕まで不自然にならないよう話を続けておくしかない。そうしていれば自ずと明らかになっていくはず。なってくれ。

 

 

 

 清隆にどんな意図があるのか知らないが、さしあたって今は適当な話題(平田にはそうじゃないかもだが)を出されてるから、的外れすぎない案を返しておくのが礼儀か。平田と軽井沢さんだけじゃなく、コイツらを連れてきたBクラスの奴らも意外と真剣な顔だし……。

 なら、大抵は自分主導で動きたがる学生には思いつきにくい解決法の一つを話してみるか。

 

 尤も、対処は厳しくするとか言ってても。ホ○ワーツみたいなこの学校のような環境にいる限り。6月の愛里への対応を知る限り。十中八九、どこかでイジメやそれに準ずる事態は起きているはず。

 軽めだとハブったり、重めになってくると船での軽井沢さんみたいなのをもっと悪化させた状況などだ。きっかけさえあれば簡単に噴出するだろう。

 それらをスパッと解決するような方法ではないが、一応ネタはないこともない。

 

「あー。義務教育まで…中学くらいまでなら高確率でなくせる方法もあるが……」

「! それで……それが知りたいんだ! ずっと自分で考えていたんだけど、なかなかコレだって言う方法を思い付けなくて」

 

……ずっと?

 

「でも多分この方法は、高校生以上や社会人じゃ使えないよ? 親の干渉がそれなりにある状況じゃないと効果が薄いつーか」

 

 しかし、なんなんだろう。平田は教師でも目指してるんだろうか? やけに切羽詰まった何かを感じる。

 イジメられるタイプじゃないと思―――あっ、軽井沢さんかもしくは近しい奴がイジメ経験者? あの深刻そうだった顔は、これが元陰キャが高校デビューをした理由だったから?

 そう仮定して平田に繋げていくと、一貫して不可解な態度や今の必死さは……憶測だが、一之瀬にも感じるなんらかの『現在に至った理由』が原因か。

 

 それでも勢い込んで真剣な顔して、ほとんど見ず知らずの僕に聞きに来ることじゃないと思うが。

 てか、じゃあ以前、無人島で愛里に友達がどうとか聞いてたのは……やべぇ。南雲と同等に信用できない奴が同級生にいたのか。雰囲気や性格は雲泥の差だけど、次から次へとどうしろと言うんだ。

 

 思い至ったことはけして口に出せない。

 なぜなら自覚『させない』為には、一時忘れて雑談?に戻してしまうしかない。平田とは少し話しただけだが、南雲と違って基本善良な性質と見た。藪をつついて蛇を出すことはないだろう。

 それなら軸をずらして、関係ないという感じの無表情を浮かべながら聞いている清隆に繋げやすい話の種を仕込んでおく。

 

「えっと、じゃあ…『親に』犯罪だって理解させるのがおそらく一番手っ取り早いな」

 

 これは義務教育というものが、本来は生徒じゃなく教育を受けさせなくてはならない親側の義務だからだ。

 

「えっ、犯罪? いや、僕が聞きたいのはイジメのことで」

「いやいや。子供のイジメは立派に犯罪に繋がるからな?」

「え?」

「ふぅ。逆に聞くが、イジメが横行してる集団で有効な手段ってなんだと思う?」

「それは……」

 

 休憩時間は残り少ないが、できるだけ考えさせる。考えているうちは懸念が表出してこないからだ。

 そしてギリギリまでタイミングを図ってから、僕が思いつく一つの答えを薄~く切り出した。

 

「……まぁ、僕にまで聞いてくるくらいだからわからないだろうな。

 親と子供を集めて本職の検事・弁護士などの専門家に、損害賠償請求について語ってもらうんだ」

「は? べ、弁護士と損害賠償?」

「そ。懐が痛むとなれば親は本気で対応する確率が高い。こんな対応をする学校は少ないと思うが、実際にやった学校では本当にパタリとイジメがなくなったっていう例はそれなりにあるぞ。裏がどうなのかは流石に知らんけど、興味があったら調べてみるといい」

「そんな方法が……」

 

 だから、何通りもの考え事の種も蒔いておこう。

 平田も高校生である以上、興味があるなら得た情報の真偽を調べなければならない。そこで僕が言った事例が出てくれば、更に深く知ることに意識が向く…といいなぁ。

 

「……………………左京君。答えてくれて、ありがとう」

「あ、ああ。どういたしまして? 少しでも参考になったら幸いだ」

「そんなことないよ! 僕にはない視点だった! 綾小路君の言った通りや……」

「平田」

「あっ、ごめん。つい気が高ぶって……都合良いけど、忘れてほしい」

「ん、了解。聞かなかったことにする」

「……それでいいのか」

「いいんだよ。なんとなくわかってたことだし、平田からすればテコ入れに良い機会だったみたいだからな」

「あははっ。なんとなく……かー。これは想像以上だったよ、本当に」

 

 はいはい、テンプレ乙。

 長めの沈黙を挟んで、パッと見は元の爽やかな笑顔に戻った平田は礼を言ってきた。その際、口を滑らしたかのように『わざと』漏らした事も、清隆が止めに入った事も忘れるから、そっちも忘れてくれ。神崎達もだぞ。これ以上の面倒事は御免だ。

 善人に見せて、とんだ食わせ者である。

 

 しかしこの感じだと、なんかまた僕に接触してきそう。清隆の方が的確な事を教えてくれると思うが、日常的に不審者ムーブをする変人を信じろ、というのはすぐには無理筋か。

 自分のクラスのリーダー?なんだし、清隆から動いてくれたら全部解決なんだけど……やらなさそうだよなぁ。

 だって僕だったら絶対やらない。

 同じように清隆も、面倒事を避けようとする性格であの頭の回転があるのだから、やらなくていいなら限界までやらないだろう。

 

 それに今は堀北さんのフォローをしている節もある。

 また高円寺が本気で動いている場合、それどころではないはずだ。愛里が最初の100メートル走の直後に僕の元へ来たことも考慮に入れると、その可能性は決して低くない。

 元々、騎馬戦では僕が四方の馬役予定だったから、その想定を高円寺がしていたとしたら―――。

 

 清隆と高円寺のタッグ成立はありえてしまうからだ。

 

 まぁ、どの競技、どの役割になるかは清隆と高円寺の気分次第だったとはいえ、僕が狙って材料まで提供した状況がコレだから文句はないけどな。

 見抜いて最短距離で急所を狙いに来てくれてありがたいくらいだ。

 

 堀北学。高円寺六助。綾小路清隆。

 同世代・同学校では、これ以上ないほどの天才達相手にデバフ抜きで真っ向勝負。

 勝利可能なのは四方と早苗で、得る物が最も多いのも四方と早苗だろう。

 

 四方は対抗心を燃やせるレベルの……あるいは敵わないほどの好敵手を。早苗は多少の名声とそれに付随する神社の知名度を。そして僕は四方の新しい物語を間近で見れるようになり、早苗と守矢神社に人が集まれば僕が勧誘されることはなくなる上に恩返しもできる。

 三者三様のWINWINである。

 

 しかも勝っても負けても、彼らの未来に必要充分なモノは手に入るはずだ。負ける想像はしてないが、学校行事なんだから敵味方・勝敗に関係なく目的達成になるよう調整するのはおそらく間違いじゃない。

 これは言うなれば、勝手やりまくった僕にしてくれた借りに対し、またしても自分勝手な恩返しなのだ。

 僕以外から見て『意味』を見いだせる奴がどれくらいいるかはわからないけど、少しは喜んでくれるだろうか?

 

 問題は、コイツらに加えて南雲雅。

 南雲だけは…できれば櫛田も、倒しておかないとこっちが食われかねないわけだが。味方である龍園の行動予測も間違っていないことを祈るばかりだ。

 

……あと一之瀬、変態なだけじゃないって信じてるからな。

 

 思考に落ちも付いたところで、平田達Dクラス組が帰ったら、ちょうど一之瀬達Bクラス首脳陣も来てるしさっき四方が言ってた騎馬戦の指揮は僕に、という発言を確かめておこう。

 これが本当なら、多少は手間が省けるからだ。

 

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