ようキャ   作:麿は星

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110、益荒男(後半、早苗視点)

 

 南雲という不穏分子がいるなら、2年生同士では当てないのが無難である。

 なぜなら、僕というそれまでほぼ無名だった最下級生を総大将にするくらいだ。最悪、何か仕込まれていても不思議ではない。というか棒倒しを通して、仕込まれてる事には予測がついた。

 かといって、戦力を無駄にするわけにもいかないので、面子を潰さないよう言い方を考えて配置をスイッチしておく。

 

「最優先目標は南雲雅、もしくは赤組2年生の全壊。第2目標はまどろっこしいこと言わずに全て倒す」

「…………南雲、だと? 堀北と藤巻はどうする?」

 

 3年の石倉が聞いてきたので、僕の考えを明快に答える。

 

「打ち破る。当然だ。トップの奴らを残していいことなんかない。手は用意している」

「それで…2年生は……南雲は。というか、何故3年と2年を別の学年に当てるんだ」

 

 次いで桐山と名乗った2年生にも慎重に返す。

 不信の種は蒔かないように、芽吹かないように。

 それでいて警戒は怠らない。

 ジャイアント・キリングする時に、内側の心配をほとんどしなくてよくなる万全の一之瀬がこちらにいる幸運。隠し事をしなくていいって素晴らしいな。

 

「殲滅するよ。南雲は僕がおちょくり倒した後に必ず隙を作る。余裕を失くす。そこを突いて倒せ。

 それとこの配置は、僕が総大将になった理由が理由だからだ。僕に総大将の投票した者が多い2年生を、そう誘導した南雲と当てるのは自分から罠を放置して突撃するのと同じ。当然、対処させてもらう」

 

 すなわち、白組の3年生VS赤組2年生。白組2年生VS赤組3年生というように。

 

「クックック。1年の雑魚どもにはなんかあるか?」

「ない。強いて言えば、葛城と櫛田に注意を払いつつ、龍園に挑戦状送ってきた須藤や他を落とせばいい。どこぞの歌のようにな」

「……どこの世界一格好良いおデブさんですか、夢月さん」

 

 好戦的な龍園と早苗はどうせ好きに動く。だから威勢の良い目的を言って、やる気だけ刺激すれば充分だ。

 

「目についた獲物は片っ端から喰らい尽くせ。そう思い込んでれば、少なくとも精神的に負けることはなくなる。綻びの大きい各学年Dクラスから当たって、圧殺してやろうじゃないか」

 

 大雑把にこれまでの競技を見てきたが、はっきり言ってどの学年もDクラスは基本的に士気が低い。まずはそれらを倒して勢いに乗り、強力な個を集で呑み込めば勝ち目はある。

 そこで問題になるのが、有象無象をまとめ上げかねない南雲と櫛田。あと積み上げていくタイプの学に葛城。まだ結束してからの期間が短いので葛城は除いても、この3人には早急な対応が求められる。

 ただ僕自身は一つ義理を果たさないといけないので、南雲に集中させてもらう。

 

「だから3年生は僕と南雲…赤組2年生を抑えに。四方も途中まで付いてきてくれ。アイツらは必ず僕のところに来る」

「ああ、わかった。清隆と高円寺が来たら、その時は俺が対応する」

「頼んだ。四方と神崎は持ち味を活かせ」

 

 そして忘れちゃならない最強タッグ対策。

 この場合の四方の持ち味とは、並外れた集中力・瞬発力と小さい体躯のことである。高円寺にしろ清隆にしろ体格に恵まれているだけに、四方のような小兵相手は少しやりにくいはずだ。それに神崎なら、食い下がるくらいには清隆に対抗もできるだろう。

 

「2年生は赤組3年生をお願いします。学は早苗、お前次第だ」

「へぇ。私が頭をやるんですか……。

 いいでしょう、任せてください」

「おう、頼む。

 あと淑女の鬼龍院先輩に荒事っぽい頼みをして悪いですが、やってくれるなら橘書記、もしくは総大将・藤巻さんを落とすか、早苗の背中を守ってやってください」

「ふっ。心得た。倒しても構わんのだろう? 軽いものだ」

 

 この先輩も高円寺と同じくこれまで何の競技にも参加してないが、今現在来てくれてるなら頼りにさせてもらう。

 

「「「はぁあああっ!!? ウッソだろおい!!」」」

「この女が淑女ぉおおお!?」

「なんだ貴様ら。私が淑女ではないとでも?

 それに先輩として後輩を助けることは自然なことだろう?」

「自然かもしれませんけど当たり前とは思いませんよ、先輩。ありがとうございます」

「フ、フフッ……わかっているじゃないか、後輩。どういたしまして、とでも答えておこう」

「「「―――っ。……っ!」」」

 

 なんか2年生達が異様に驚いてるが、なんだというのだろう。

 いちいち男前ではあるけど、淑女である疑いはないと思われるから、後輩の僕にはわからない同学年のなんかがあるのかもしれない。

 なんにしろ鬼龍院先輩なら、上級生男子相手は分は悪くとも負けない。それに運が味方すれば、ある意味早苗や僕ではやりにくい橘書記も落とせるはずである。

 

「…………ふふっ。腕がなりますねぇ」

 

 もしくは、実績で片鱗を見せ続け、やる気になってるとはいえ、1年女子の早苗が学を相手することについて信用がないのか。

 しかしこれまで他の競技を見ていた限り、早苗以上の常識はずれ&未知数はいない。それに加えて、学は早苗がやるのが最も早苗の利益になる。歴代最高と名高い生徒会長に挑む女子、東風谷早苗と守矢神社の名を知らしめる絶好の機会だ。

 

 僕達以外から見て、閃光のような短く儚い可能性を断ち切り、早苗自身で奇跡を掴む事ができれば、もはや守矢神社関係は盤石といえる。

 基本的に、信仰は儚い人間のためにあるのだ。それを乗り越えた早苗には人が集まってくるに違いない。

 ならば、本丸攻略はどこにいても目立つ早苗と鬼龍院先輩に任せてしまうのがいいだろう。

 

「さあ諸君。

 勝ったり負けたりしよう。

 煽ったり煽られたりしよう。

 

 せっかくの体育祭―――つまりはお祭りなんだ。

 今この時に確実に勝負を決めてしまおう。

 そして勝利の美酒を味わおうじゃないか」

 

 これで僕の方針は全て晒け出し、賽は投げられた。

 騎馬戦の開幕だ。

 お客様の神様さえ参加したいと思える楽しいお祭りにしようじゃないか。

 

 ついでにこれでようやく、僕の指揮官役は店じまいだ。

 性に合わない役割は、最低限だけ果たして終わりにしたい。

 こんな立ち位置にいたんじゃ内弁慶な愛里が寄り付き難くなる。目的達成&意趣返ししたら、さっさと放り出すが吉だろう。

 

……最後に面倒事の元凶である南雲に諸々ぶつけてな! いやまぁ、僕自身は十中八九痛い目見るだろうけどね。

 

「征くぞ、諸君!」

 

「「「おおおおおっ!!」」」

 

 あ、しまった。余計な事を考えてたから、ちょっと手抜かり。

 

「……すまん。こんなに煽っといてなんだけど、まだ開始準備まで1分くらい残ってたわ。ハハハ、失敗失敗」

 

 うん。コケかけた人達、すまん。わざとじゃないんだ。

 

「おぃいいいい!!! ここまでやっといてそりゃねぇだろっ!?」

「フフッ。相変わらず締まらない後輩だ」

「いや、ホント。わざとじゃないんだって。

 ノリでなんかやると時間配分おかしくなるよね? そういうことだ」

「どういうことだよ!?」

 

 作戦会議の最後でちょっとグダったが、余計な力も抜けて結果オーライだろう。

 友達連中も一之瀬も龍園も上級達すら笑ってる人が多いんだから、良い雰囲気で騎馬戦を迎えられるんじゃなかろうか?

 そんなユルい空気が流れる中、一時解散し準備を終えると今度は本当に騎馬戦が開幕した。

 

 

 

 さて、何故僕が一之瀬や上級生を差し置いて、またしても指揮を執っていた理由だが……。

 僕にもわからん。

 配置に着く5分前まで作戦会議だとか言われ、一之瀬に指揮権の確認をしていたら、上級生達やら龍園(龍園が来たのは木下さんや堀北さん関係の何かだったかもだが)やらが来て「左京。今回はどうする?」とか聞いてきて……なんとなくそれに答えてたらこうなっていたのだ。

 

 元々はこっそり学や南雲を攻める組に僕含む友達連中を紛れ込ませようと考えていたのだが、こういう場を設けられたなら全部ぶっちゃけてしまうほかないだろう。

 特に2年生に関しては、言った懸念もあったので一石二鳥だ。鬼龍院先輩以外は南雲に当てない方がいい気がするし……。

 

 騎馬戦は男女混合かつ各クラスの男女それぞれで3組、計6組ずつの選抜。つまり紅白36騎ずつがぶつかり合う競技だ。

 僕はこのルールを知った時から、早苗を学に、四方を清隆かまたは高円寺に、鬼龍院先輩が動いてくれるなら早苗のフォローに、という大雑把な想定をしていた。

 

 総大将になってしまったことで、僕自身が騎手になって四方の足じゃなくなったが、それならそれで元凶だと確信した南雲を排除するだけだ。僕程度がいなくとも代わりに神崎が四方の馬役に回ってくれたので、戦力に直結するパワー面はむしろ増しているだろう。

 

 神崎が馬役の中心になるはずだった渡辺と騎手交代した僕の馬役には、そのまま渡辺・源・浜口が了承してくれて不足はない。僕が一番の不足なくらいだ。

 残りの男子騎手は柴田で、こちらは速度重視の編成となっている。女子は、早苗と早苗を支える姫野を筆頭とした比較的ハグレ者編成、一之瀬を支える安藤を中心とした精鋭騎馬、参加してみたいと希望を出した者達…網倉が支える白波のエンジョイ騎馬となっていた。

 

 準備が万全なせいか、騎馬に乗った開始直前になんか変な間ができちゃってるし、実行前に中途半端になってしまった方針や確認を取っておくか。引き継ぎ代わりだ。

 

「一之瀬、最初はどうする?」

「……一応、私を立ててくれるのは嬉しいけど、とりあえず左京君の好きにやっていいよ。必要があれば助けを呼んでね」

「りょーかい! じゃ、行ってくるわ」

「え? いって…らっしゃい?」

 

 おお、素晴らしい。快く送り出してくれるとは我がクラスのリーダーには喝采を贈りたい。ほとんど何も言わなくても意図を汲み取ってくれるなんて、優れた統率者はやはり違う。

 このようにきちんとしたバックアップ体勢が整っている確認がとれたので、競技開始の合図が鳴り響いたと同時―――。

 

「リーダーのお許しが出たぞ!

 全速前進! 南雲のいる最奥に向かってひたむきに突撃! いくぞ! 四方、早苗!」

「あはははっ! 夢月さんはそうでなくっちゃ!!」

「やっぱりこうなるのか……」

 

 僕は声を張り上げて予定通りに指揮を放り出し、南雲がいる赤組2年生目掛けてくれるように馬役やってくれている奴らに指示を出した。

 そして四方と早苗を引き連れ、飛び出すように驀進していく。

 

「あ、あれ……れ?」

「帆波、どういうこと!? なにか左京君に特別な指示を出したの!?」

「え、いや……でも、ま…まぁ、勢いはあるみたいだし、左京君も考えなしってわけじゃないと思うから、なんとか……すると思うよ?」

「Bクラスがいきなり半数になったんだが!? アイツ……マジで勝手ばっかやりやがって!」

 

 残った一之瀬・網倉・柴田の声がだんだん遠くなっていく。

 クラスリーダーに、僕の指揮権を返したのだ。

 本来は当たり前のことだし、後のことは一之瀬に全て任せた。これで僕は目的だけに集中できる。

 

「お、おい左京。本当に大丈夫か? 一之瀬、めっちゃ困ってなかったか!?」

「一之瀬へあるべきものを返しただけだ。僕はもう必要ない」

 

 僕の下から渡辺ほか二人が駆けながら聞いてくるが、文句は後で聞く。今はそんな気分だったのだ。いわば学生らしいノリである。何も問題ない。

 そのまま最後方から、1年A・Dに向かい始めていた龍園達Cクラスを追い越し、こちらの3年とあちらの2年がぶつかる直前の最前線に踊り出した。

 

 集まっていた葛城や戸塚、櫛田・須藤に平田など赤組1年生“11騎”と龍園達Cクラスの6騎では多少不利だろうが、後から一之瀬に残した3騎も合流するはずなのでなんとかなるだろう。

 この条件下なら、どんな手でも使う龍園が遅れをとるわけがない。更に、判断次第では確実に龍園の助けに入る一之瀬達が奇襲のような形になってくれる。最上は、ここで早々に櫛田を落とせる結果だろう。

 まったく頼もしいリーダー達である。

 

「なっ………!? 左京! いったいどこまで行くつもりだ!?」

「無論、どこまでも!」

「こうなったら行くとこまで行くしかないぞ、神崎。まさか総大将に単騎駆けさせるわけにはいかないだろ」

「あーっはっはっは!! これは気分いいですねぇ!」

 

 こちらは、四方の下から泡を食ったような神崎の驚き声。僕の冗談交じりの返し。いつもの四方のフォロー。早苗の笑い声。

 うん。いつもどおりだ。

 

「おいおいおいおい!!? いくらなんでも突出しすぎだ1年どもっ!!」

 

 一方で、四方や早苗の声で僕達に目を向けた石倉と3年生が信じられないモノを見たような顔になりながらも、エンジンをかけてくれる。

 棒倒しでは、ほぼ奇襲・奇策みたいな正攻法の戦術だったから誤解していたかもしれないが、今回は正真正銘の真っ向勝負。総大将と言えどもただの1騎ぶんとしかカウントされないし、途中の葛城達のクラスを掠めるように速攻で力押しの正面突破である。

 

「鬼龍院!! 勝手な行動をするなっ!」

 

 知った名前が聞こえたので見てみると、珍しく満面の笑みを浮かべる鬼龍院先輩が合流してくるところだった。桐山とかいう奴に文句言われても完全スルーなのが彼女らしい。

 

 しかし敵陣深くに入る寸前まで来ていたのでありがたい。それぞれでやりあい始めてるから全部じゃないが、ほとんど周囲全てが敵方なのだ。風林弾雨(比喩)の中でワルツを踊るのはなかなか楽しめると知った。

 

「ははは! 手荒い洗礼だな、後輩!」

「舐められたくなかったら本気でやらないとですからね、先輩!」

「違いない! くふっ。やはり後輩は面白いな……」

「それはそれは光栄です。じゃ、後で」

「ああ! 武運を祈る!」

「お互いに! 早苗もな!」

「任せてください! 軽く蹴散らしてやりますよ!」

 

 なので合流してすぐ、早苗を任せてバラける。目標と当たる前に早苗と合流してくれて助かった。

 南雲はいまだに最奥から動いていないが、前方から聞き慣れてきた笑い声を響かせながら悠然と近づいてくる騎馬が1騎……いや右方からも数騎いるからだ。

 

 まず存在感を食われかけているのは、右方から来る数騎。早苗の標的である堀北学率いる…おそらく3年Aクラスの半数である。ちなみにここには橘書記も混ざっている。

 残りは藤巻さんと白組2年生を迎え撃つつもりか。舐められたものだ。

 それとも学の視線からすると、少数で僕を狙いに来たか。生憎と僕じゃ学には敵わないし、敵うとしても早苗に譲るけどな。

 

 もう片方は前方。

 あの筋肉質な高円寺を騎手に、清隆を馬にした一見バランスの悪い―――最強のタッグだ。他の馬役2人で多少薄められているとしても、やり合うだけで至難だろう。

 こちらの狙いは僕達、というよりこちらも僕か。人気者だな……てか、ちょっと煽りすぎた?

 勿論、四方と神崎に任せる以外の打開策はないので、挨拶はまた明日とか。

 

 この場合、強敵は仲間に任せて役に立たない僕が南雲に突撃するのが最適解である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は開会式以降に、二三矢さんとちょっとした賭けをしていた。

 

 このまま夢月さんが指揮権を握り続けるか否か。

 

 『普通』なら。『常識的』に考えるなら。

 はっきり言って、名実ともに総大将は夢月さん以外には考えられない。3年生の人や一之瀬さんのリーダーシップがどうという問題じゃない。

 今のところ、誰がどう見てもクラス内どころか白組全体を牽引しているのは夢月さんだ。二三矢さんは「このままやってほしくはあるな……あまりやってくれるとは思えんが」と肯定気味な選択をしていた。

 

 でも夢月さんは常識に囚われない。

 事前に神奈子様や諏訪子様に聞いていたように、夢月さんが指揮をとる時間はそう長くならないだろう。そして事実、その通りになった。

 

 諏訪子様は言っていた。

 夢月が早苗や友達を大事に思ってるなら、責任を果たした後にさっさと『ソレ』を放り出すよ。あの子にとって、必要じゃないどころか害になりかねないからね、と。

 

 神奈子様は言っていた。

 あの人の子は早苗を信じた上で、できる限りの助力を添えて、最善に繋がる目標を示すだろう。これだけの信仰と恩返しを受けて応えないのは神の名が廃る。できたら、少しだけ早苗の力を貸してやってくれ、と。

 

 能力にしろ権力にしろ、手に入れるために努力する者が多いこの学校の中で。

 それを必要としてる人達に。自分で決めて真っ直ぐ前を見て。

 成すべき事だけを見つめて。迷いなく。惜しみなく。執着なく。

 夢月さんは、人を率いる事を放棄したのだ。

 

 結果的に、私は二三矢さんとの賭けに勝つ事ができた。

 そうなってくれないかな、みたいな感じだったのでちょっと微妙な部分はあるけど、夢月さんをより理解できてるみたいでなかなかいい気分。

 

 加えて、信仰してくれている人からの絶大なる後押しである。

 こんな他に類を見ない人はいないだろう。仮に後で学校の全員が守矢教に入信してくれても、夢月さんがそこにいないんじゃ意味がないとさえ思えるほどに……。

 

 筆頭信者の愛里さん共々、ゼッタイに逃さない。絶対にだ!

 

「おっとと。夢月さんはともかく、これじゃあ愛里さんを怖がらせちゃう。自重しないと……」

「東風谷……あんた」

 

 私を運んでくれている姫野さんに独り言を聞かれてしまった。

 それは置いておくことにしよう。そのうち忘れてくれるだろう。

 うん。私はこれまでになく奮い立っている心を抑えながら、手応えを感じているのだ。ちょっと内心が漏れるくらい当たり前である。

 

 今度は何をするのか?

 また奇想天外な奇策を打ち出すのか?

 あるいは味方をまとめ上げ、宣言どおりに正面からぶつかるのか?

 

 どうするにせよ、ざっと見た全体戦力は多少劣るものの数では当然互角。しかし夢月さんの作り出す意味不明な勢いのおかげで、士気には圧倒的な差が生まれている。充分な勝算がある。

 どれとも違って、それどころか私や二三矢さんの予想さえ微妙に外れ、総大将の指揮放棄&少数突撃だったわけだが、私にとっては倒す相手がわかりやすくなっていい。

 

「なんなんだ、あいつはっ!?」

 

 白組陣営の一番前にいた3年生達がぶつかるのとほぼ同時。

 大方の予想を裏切って、総大将の夢月さんが先頭きって駆け抜けた事で驚きの声が上がる。足並み揃えて赤組2年生と当たると思っていただろう白組の3年生は、慌てて夢月さんを追いかけようと押し始めている。

 誰だろうと、もはやあの勢いを止めることは難しい。

 夢月さんだけならともかく、追いかけている3年生の勢いは相当だ。

 

 子供の頃に神奈子様に聞かされた心躍る戦い。いつか私も、そんな戦いの場に立ってみたいと子供心に思わされた事を思い出す。

 いざという時だけ、とんでもない推進力を発揮する夢月さんが作り出した絶妙な状況で大混乱になる敵味方多数。

 その中で、敵の親玉を討ち取るのはこの私、東風谷早苗!

 

 神奈子様が言うように、普段がどうであれ。

 諏訪子様が言うように、無数の思考を巡らせているのであれ。

 一度決めたら脇目も振らず一直線に駆け抜けていく夢月さんと横に並んでいる二三矢さん。。

 遊びとは言え、あの時の夢は今、叶っちゃったのかもしれない。

 私はそんな風に精神を高ぶらせていた。

 

 

 

 ただ私と楓花さんが僅かにできた手持ち無沙汰な時間にするのは、やっぱりあの人の話。それはそれとして、前にも思ったけど楓花さんは愛里さんや桔梗さんとは別の意味で話しやすい。というか、シンパシーのようなモノを勝手に感じている。

 

「全身に何百の武器を仕込んでも腹にくくった一本の槍には敵わないこともある、か」

「情けなかったり格好悪い時も多々ありますけど、決断したら最速最短で突っ走るから夢月さんは面白いですよねぇ。

 それにしても、楓花さんもワン○ース読んでるんですか。ちょっと意外……」

「ふっ。私だって漫画を読むことくらいはあるさ。後輩ほどではないがな」

 

 そんな楓花さんが唯一人『後輩』と。

 夢月さんが唯一人『先輩』と。

 そう呼び合うことに気づいたのはいつだったか。

 この二人は、私達の中でも特に奇妙な関係だ。

 

「そうでなければ……益荒男とでも言うのかな、あの後輩は」

「うふふっ。とんでもない人ですよねぇ」

 

 ますらお? 言葉の響きからすると誰にも制御できない荒々しい人って感じですかね。

 普段を考えると微妙に合ってないから違う意味かもしれないけど、どっぷり理系に浸っている私にはよくわからない。

 しかし、その言葉を聞いて脳裏をよぎるのは、さっきのやり取り。

 

「だって……貴方は敵じゃない……! それにこの足じゃ、もう兄さんとは……」

「うっせぇ! 敵だの学だの、そんなの関係ねぇ! オッパッピーとか言うまでもなく、目の前で事故が起きたら誰だって手くらい貸すだろうがっ!」

「オッパッピー……って夢月さん?」

「……っ」

「早苗! このわからず屋共を抑えとけ! 捻挫に効く湿布を用意してあるから取ってくる」

「わ、わからず屋、共……? 私は何も言ってな」

 

 気圧されたように困惑している二人を私に託し、背を向けた夢月さんが駆けていった。

 それこそ、競技なんか目じゃないくらいの本気を見せた姿には―――。

 

 

 

 その時に手当した桔梗さんの敵の兄が今、私の目の前で立ちふさがっている。

 

「『夢月』は南雲を倒すべき敵と見定めたか。そして俺の相手には東風谷早苗と鬼龍院楓花を当ててきた……」

「違います。貴方の相手は私、東風谷早苗のみですよ」

「そうだな。私は露払いを頼まれただけだ。学の後ろにいる橘茜ともう1騎。

―――相手になってやろう。かかってくるがいい。東風谷に手は出させない」

 

 この人は確か棒倒しで何か話していたから、そこで夢月さんを友達だと真に認めたのだろう。

 なんとなく。いつの間にか。理由は何でもいいが、喜怒哀楽を隠さず、複雑なことでも単純で裏表をなくしてしまう。一人でいることも多いのに、何故か色んな人を惹きつける困った人。ここにも惹き付けられた人がまた一人。

……なんて私には何故かはわかってるけど。

 

「……お前も面白いことを言う女だな。俺は『思い違い』をしていたのか? やっていることに反して、夢月はそれほど勝敗にはこだわっていないように見えた。南雲の件があるとはいえ、火の粉を払いのけるだけになると思っていたのだが」

「簡単なことです。もう一つ、目的があったからですよ」

「目的、だと?」

 

 生徒会長は気づいていない? ……ああ、そういう人だから夢月さんは私を……。

 それなら尚更負けられませんね!

 

「……よりによって『その目的』に深く関係するあなたが夢月さんの邪魔をするようなら、この私が倒します」

「なに? ……それにハッタリ、でもなさそうだな」

「せめて女だからと油断しないでください。『私を当てなければ』倒せないと思われている期待を裏切るようなら、あっという間に決めてしまいますよ?」

 

 口で言うほど隙が見えてこないこの人を倒すのは難しそうだけど、夢月さんはできない人にできないことを頼む人じゃない。

 私では手を出しにくい茜さん対策を楓花さんに頼んでくれたように。この方法が守矢神社に信仰を集めやすいから、私に『譲って』くれたように。勝ち負けは予想できてないみたいだったけど、私自身を信じてくれているように。

 

―――それがわかるなら、信じる『親友』に応えなくちゃ私じゃないでしょう!

 

 悩み一つもないなんてつまらない―――勧誘にだけは応えてくれない。

 乗り越える壁もないなんて張り合いがない―――私や二三矢さんに美味しい部分を譲ってくれた。

 更に自分は―――全てを巻き込んで自分勝手に黒幕の元へ殴り込んでいった。

 こんな最高な気分は久しぶりで───有頂天になりそうだ。

 

 今はそう思える。

 そう思えるようにしてくれた夢月さんの頼みだ。

 

「それにしても、わかりやすく倒す相手がわかるっていいですね! ……楽しいかもしれない♪」

 

 だからというわけじゃないけど、夢月さんっぽく嘯いてみると、なんかすごく楽しい気分になってきた。

 楓花さんも背中を守ってくれてるし、このテンションの私が負けるなんてありえないだろう。

 

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