ようキャ   作:麿は星

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111、正面突破

 

 正面突破である。

 学と彼が率いる奴らは早苗と鬼龍院先輩、直後に来た高円寺・清隆を四方に任せるまでだったが、ちぎっては投げちぎっては投げの無双気分を味わえた。誰とも当たってないけども。

 

 学に関しては予想外な部分もあったものの、相手は意味不明代表の早苗である。多少の予想外なら揺るがす事すらできないだろう。それこそ白組2年生を置き去りに赤組3年で僕達を速攻包囲・殲滅、なんて博打をされなければ想定内に含めて問題ない。

 

 清隆はともかく、高円寺についても団体競技で応えてくれたのなら、それは僕や四方の何かに興味が湧いたからだろう。もし潰そうとか勝とうという意図であれば、個人競技の方が断然楽だからだ。

 どういう選択が最も美しくなるか? と常に考えている意味不明さは不確定要素ながら、基本的に高円寺は尊重し合えば即断即決してくれるのでわかりやすい。

……清隆や他何人かは見習ってどうぞ。

 

「フッ。夢月。いってくるといい。私は君の判断を尊重するよ」

「一応僕達は敵同士なんだが、そう言ってもらえると助かる。ありがとう高円寺」

「はぁ!? そ、尊重? この男に」

「というかなんでそうなる……?」

 

 だからこのように僕達の進撃を止めた高円寺は、一言会話するとあっさり僕だけを通してくれた。

 馬役同士で気が合うのか清隆と神崎は妙な部分に驚いてるが、スルーして問題ないだろう。悪いけど僕にはやるべき事があるのだ。進ませてもらう。

 

「で、少しは迷いが晴れたかね、テイルマン」

「「迷い……?」」

「ああ、お陰様でな。今回は敵同士だけど、夢月はお前対策も用意している。

───俺が相手だ。楽しんでいってくれ」

「ははは。それだけではなかったけどねぇ」

 

 きっとこの底が知れない男には、参加を決めた時点で看破されている。そうじゃなければ、最初から最後まで不参加だったことだろう。

 僕は高円寺と…それに清隆に対抗できる存在を用意できるか―――すなわち、自分を倒しうる好敵手の存在に興味を持ってくれるような話題を振っていた。夏にはおおよそバレていたが、高円寺だけじゃなく四方や清隆も思いっきりやり合える存在を待ち望んでいたのかもしれない。意外とノッてくれた。

 

 まぁ、クッソ面倒な性質の清隆は微妙なところにいるけど、これで天才達に少しでも張り合いが生まれるならやった甲斐がある。

 四方に任せた高円寺との会話が聞こえたのはそこまでだったが、楽しんでくれたら幸いだ。

 

 それにしても、前に高円寺からの卒業後のスカウト断ったのは惜しかったかなぁ。しかたないとはいえ、女子の鬼龍院先輩や早苗のところみたいな面倒事っぽい匂いがしないから、マジで約束を果たした後に再度誘ってくれたら―――。

 

≪―――ゼッ…イ……さない≫

 

 夢想の最中に突如として聞こえた気がしたそのASMRにも似た囁きっぽいナニかに、ぞくぅっ! とした。

 

「ひっ―――」

「? どうした左京」

「い、いや。なんでもない。ちょっと意味不明な悪寒が」

「近くに騎馬はいませんが、敵地なんですから気をつけてくださいね」

「あ、ああ。すまん。気をつける」

 

 恐ろしいほどの情念が込められたナニかに勘が反応してビクついてしまい、進んでくれている渡辺と浜口に振動が伝わってしまったようだ。

 え、てか…なにこれ。怖っ。

 

 見回しても、四方はまだ高円寺達と話してるし、早苗は先輩と何か話してて……学と邂逅したところか。どちらも僕にこんな背筋が凍るナニかを送る理由はないだろう。他は、観客席からの愛里の無指向性マイナスイオンとどこを見てるかわからないぽわぽわな雰囲気の椎名、あとは総大将に向ける視線しかない。

 なら本当に気のせいか。なんとなく一瞬、早苗の声に聞こえてしまったのだが。

 ほとんど成果を無視してリカバリー用の体力を残してたつもりだけど、意外と疲れてるのかな。どうせなら愛里ASMRにしてくれよ、僕の幻聴。

 

 

 

 

 

 2年Aクラス。

 言わずと知れた南雲の所属クラスだ。

 こうして真っ只中を進むと、自分との器の差を思い知らされる。リーダーと一般人、生徒会副会長といち部活の長、そして────。

 

 まぁ、そんなことはどうでもいい。

 もしも視線で穴が開けられるなら僕はすでに蜂の巣だろうが、そんなことはありえない。南雲が何か言っているのか道を開いて襲ってもこないので、ゆっくりと進むだけだ。

 

 たった6騎。されど6騎。

 馬役含めて2年Aクラスの選りすぐりの男女24名。

 まぁ? 僕達も1年Bクラスの選りすぐりなわけだが? エッリィ~トの一員なわけだが?

 

 そう思えば逆に心地好い視線に思えてくる。少し戸塚がエリートを気取りたがる気持ちもわからなくもない。

 ただ、馬役の3人が尋常ではないほど緊張してるっぽい。しかたないので、軽く声をかけておくことにした。

 

「まだだ。まだ慌…あわわっ、あわあわ…あわわわわっ……コホン。慌てる時間じゃない。じっくり行こう」

「お前がメッチャ慌ててるじゃねぇか!」

「左京が少し落ち着けっ!」

「いや! 左京君の気持ちもわかりますけどね!? 自分達で進んでおいてなんですが、こうも見られると……」

 

 僕に某バスケ選手の真似はできない。しかし自分の中にある僅かな焦燥を、一時的に増幅して表に出すことくらいはできる。

 人とは、他人が自分以上に慌ててると逆に冷静になるものだ。馬の3人がツッコミ入れられるくらい冷静になったのを確認して、僕はいつも通りに自分を戻した。

 

「……ふむ。でも君らは落ち着いただろう?」

「「「───っ!」」」

 

 とりあえず、下がバイブレーション機能を作動させてると座りが悪い。ツッコミやフォロー発言ができるくらいに固さが取れればもう大丈夫だろう。

 でもまだ届くには少し足りない。もうひと押し…できれば南雲への一手になるような何か…………あったわ。僕も知らないうちに緊張して、視野が狭まっていたのかもしれない。

 

 

 

 待ち構えるように整然と僕達を迎える南雲を頂点にした2年Aクラスの面々の前に進み出るが早いか、あえて南雲をシカトして僕は言い放った。

 

「おおっ! 今まさに敵陣真っ只中に突入した僕を祝うが如き美少女!! 母なる海を思わせるソレ、我が双眼にて直々に見聞せねばなるまいて! ささっ、もっと近う寄れ」

 

 距離感が近い女子にセクハラされるのはさぞかし嫌だろう。セクハラとは言えなかったけど、僕も前に愛里へ向けられたからよくわかる。

 人を陥れようとする南雲には、人の嫌がることをやりましょう、って教えを味あわせてやろうという僕からの心遣いだ。

 ちなみに、時代がかっていたのは思い切り苦手なタイプの女子に対して、チャラ男演技するのに緊張したからだ。また母なる云々は側近のような位置にいた女子の乳の比喩である。勿論、そっちを見て言ってやった。

 

「…………なんか私の方を見ながら……すごいこと言いながら現れたんだけど。プールでは女の子の後ろに隠れるような子だったんだけどなぁ」

「なずなにも言っただろう。見ただろう。残念だがコイツ、馬鹿なんだよ。その上でふざける時は徹底的にふざけ倒すヤツだ」

「失敬な。僕はふざけてなどいない」

「なお悪いわ!」

 

 軽くアウェーな雰囲気を呑んで馬役達の緊張をほぐそうとしただけなのに、馬鹿だのふざけるだのと礼儀知らずにもほどがある。

 まったく。自分がやられるのは嫌だなんて、我が儘な奴である。

 

 

 

 南雲が冷静になる僅かな間で、なんとか僕の馬役の3人も通常営業に戻ってくれた。

 僕単独なら気にしなかっただろうが、騎馬戦である以上、今は足が生命線なのだ。パフォーマンスを十全に発揮してもらえるように、ひと手間かけるのは基本だろう。

 ついでに南雲に引き止められていたと思しき他の4騎が、白組の数の暴力で押しまくられてる2年Dクラスの救援に飛び出していった。

 

「……………………ふぅ。

 よう左京。お前が向かって来るなら通してやれとは言っといてやったが……これは流石に予想外だったぜ? たった1騎で俺の前に来るなんてよ。馬鹿だ馬鹿だと思ってはいたが、大馬鹿なんじゃないか、お前」

 

 指示を出し終えて、改めて対峙した南雲はどこか楽しげだ。しかし馬鹿とか言われて不愉快なので言い返してやる。

 

「祭りは馬鹿になったモノ勝ちだろうが。南雲こそ馬鹿なんじゃね? 悪い意味で」

「ふざけてないで、そろそろ答えろ左京。お前の目的はいったいなんだ」

 

 ん? でも雰囲気が変わった? 残していた変身でも使ったのか?

 

「何故俺のところに一人でカチコミに来た? 堀北会長や高円寺を仲間に任せて、お前だけが来たところでどうにもならないだろ。俺と対面することこそが目的なら別だけどな」

 

 ま、冗談はさておき、そろそろ真面目にやるか。無駄に怒らせるのは本意じゃない。

 

「あー? 決まってるだろ。色々あるけど、第一は恩返しだ」

「恩…だと? 俺にか?」

「ちっげーよ! 自惚れんなっ! 橘書記だよ!」

「……は? 橘…先輩? 佐倉や東風谷とかいう女でも四方とかいう野郎でも……堀北会長や一之瀬ですらないのかよ」

 

 実は候補はもう一人いたが、南雲の返しでその可能性は消えた。

 ただどちらも知らないはずの南雲からすれば、確かに僕が橘書記に義理立てするのは不思議かもしれない。でも僕は僕にできなかった友達への借りを忘れない。

 

「すっとぼけるんじゃない。前にお前自身が言ったことだ」

「なに……? 俺としたことがわけがわからないぞ? お前はさっきから何を言っている?」

「―――命名決闘法案は『成立したら俺でも気軽に会長に挑める革命的な案』、だったか? その後の会話含めて、学と決着つけたい欲望がダダ漏れなんだよっ!」

「それの何が橘先輩に関わる。関係ないじゃないか」

「ハンッ。関係ないからこそ狙い目なんじゃないか。南雲こそなに言ってんだ」

「……」

 

 そう、僕がやるべきことはわかりきっている。

 なら、負けの確率が濃厚だろうと実行するだけだ。

 

「前に話した時から考えていた。本気で学と決着をつけたい…潰そうとする場合、どうするかを」

「……」

「南雲の性格を考慮に入れると、心を折る。これが有力な終着点だろうな。

 そしてその為には、あの尋常じゃない努力家相手なら、正攻法に見せかけた絡め手がまず考えられる」

「それはお前の妄想でしかないな」

 

 これが言いがかりと偏見混じりなのは、もちろん理解している。

 それでも理不尽に愛里達の恩人を、学への執着の巻き添えにする可能性を僕は捨てきれない。

 だから思い付いたことをぶちまけて、実行前に封じてやる。

 

「搦め手の内容はいくつか考えられるが、大きなところでは体育祭の変更を『今の生徒会長主導』で行った事が挙げられる。学の信頼を得るのと、裏から意識を逸らす為に派手にしたかった、等々いくつもの利点があるからな」

「……」

「また、取るに足らないはずの僕の意識まであい…佐倉を守らせることに向けようとしていた事を含めれば、7~8割は女子関係だろう」

「…………はは。左京が取るに足らない、な」

「これらの材料から南雲の目的と狙いを逆算すると、可能性が高いのは学と関わりが深い…信頼し合えるほどの関係を築けて、それでいて『守れない』状況を外から作りやすい女子。

 つまり消去法を使うまでもなく、橘書記狙い一択だ」

 

 すでに僕は自分に誓っている。

 だから―――。

 

「―――許せるわけないじゃないか! 何も手を打たず、恩人が曇るのを見過ごしたら僕の矜持が死ぬ!」

 

 その後のことは、その後考える!

 

「だったら勝てる勝てないじゃないだろう! ここで僕はお前に立ち向かわなくちゃいけないんだ!」

 

 きっと南雲は一度ガツンとやらないと止まらない。

 真っすぐ行ってぶっ飛ばす、ストレートにぶっ飛ばす。正面突破に加えて裏技使いつつ、ちょっとセコくな。

 いくつかの賭け要素はあっても、これが僕の思いつく中でわかりやすく丸く収める方法なのだ。

 

「それがリーダーよりも。勝ち負けよりも……優先されるお前の目的か」

「そうだよ? さっき南雲が言った通り、これはただ妄想で勘みたいなものだ。

 でも勝とうが負けようが学に手痛いダメージを与えるには、どう考えても橘書記を潰すのが近道なんだよ。とどのつまり、卒業までの半年間で徹底的に勝つなら、アイツを……学を最も効果的な場面で裏切るとかいうふざけた結論しかない。時間が限られてるからな…………クソが。南雲が僕にちょっかい出してこなければ思い至らなかったのに……! 流石に友達が動けない可能性の高い『ソレ』に気づいちゃったら、やるしかないだろうがっ!」

 

 邪魔をした僕にヘイトが集まる事を代償に、南雲にこの手はもう使えない。

 正確に言うなら、策を弄する者は公言された策と言えないモノを使わない。そうでなくとも凡人に人前でぶちまけられたことを実行に移すなんて、肥大化しかけていたと思われるプライドが許さない。

 ゆえに方針転換するしかないだろう。もっと巧妙で介入余地の小さい……言い換えれば、本人のみを標的にしたモノに。

 

 これみよがしに、無差別に匂わせる非効率なやり方は嫌いじゃない。誰でもいいから向かってこいよ? みたいな挑戦的で傍迷惑なのも、不本意ながら青娥さんで免疫ができてしまっている。

 てか、橘書記が条件ピッタリの位置に居ることに気づかなければ。もしくは橘書記じゃなく『もう一人』の方が有力だったら。学打倒だけなら場合によっては南雲に乗っても良かったし、清隆に一言二言だけして放置も十分にありえた。

 

 しかし、そうはならなかった。

 

 学校の性質。潰すor葬るなどの言葉を意味するほぼ確定された未来。南雲や平田に感じた青娥さんや早苗・清隆とは性質が違う仄暗さ。ハードル走での実験結果。

 判明してきた諸々の要素が、規模を縮小しておかないと僕の嫌悪する理不尽な現実の悲劇になる可能性を記憶から想起させる。

 

 それでも何も始まっていない……学が生徒会長である今なら、南雲が自由に動けない今なら!

 打つ手はあるのだ。

 ならいつ対処するのか?

 今でしょ!

 

「……くはは。ハーッハッハッハ!! 予想通り、いや予想以上に奇想天外! いやいや、規格外とでも言った方がいいか!? 僅かな兆候から俺がやってもいない妄想を膨らませて、ここまで説得力をもたせるとはな!」

 

 ゆえに、僕を無駄に持ち上げる逃げ道も潰させてもらう。

 南雲ならやりかねない。そう南雲の周囲が思い込めば、いくら実行してなくても。僕の妄想に過ぎなくても。人を使うのに制限が付く。ここでもまた規模を縮小せざるをえない。

 

「発言は正確を心がけろよ。『僕が今ここで言ったからもうやらない』と決めただけだろう。それに僕を総大将にしたのも、その後の噂も、僕との命名決闘すらも、なんかの予行演習でもあったんじゃないのか」

「くくっ。根拠は?」

「南雲が体育祭で『本気で』勝とうとしてない時点でバレバレだっつーの!」

「…………そこまでわかるのかよ」

 

 ピースが足りていてここまであからさまなら、多分僕の友達ほとんどがわかるわ!

 

「僕を舐めすぎだ。真面目に勝つ気があるなら、最低でもお前自身が総大将になってる。そうじゃない以上、他に目的がある。それは僕を落とすと同時に、僕を狙うと見せかけて利用しようとしてるとしか考えられない。本命はおそらくさっき言ったことの下準備だ」 

 

 これは龍園も言っていたことだ。

 僕を利用しようとする奴はいる、と。 

 勿論、龍園に返したように、伸るか反るかは僕が決める。

 そして僕がこんな美学に反する事に伸るわけがない。

 

 正直、ああは言ったが、手段を選ばないやり方なら他にもいくつか思い付く。その中でこれを代償を許容してまで封じたのは、機会を狙って仕掛けられたら学の処理容量を越えかねないからだ。

 その上で、ターゲットになる確率が高くなるのが橘書記であれば、ここで僕にできなかった愛里と早苗を助けてくれた恩を返しておくべきだろう。

 学本人に仕掛けられるものなら、アイツがどうとでもする。

 入学直後に受けた恩は、この僕流の正面突破で貸し借りトントンである。

 

「どうだ? 南雲は凡人を舐めてるからこうなる」

 

 僕が本格的に目を付けられる可能性の上昇を考えないようにしつつ煽りで締めると、南雲は沈黙を挟んで口を開いた。

 

「…………ふっ、認めよう。

―――左京夢月。お前は確かに俺や堀北会長に届きうる男だ」

 

 いや待て。

 

「流石にそれはねーよ」

「いや。もしかすると───」

「ねーよって言ってんだろ、聞けよ」

「……………………へぇ」

 

 聞く耳持たずか。ふざけんな。

 唯一南雲が残してたどこかで見かけたような女子や馬役の人達も目を丸くして言葉を失ってるじゃないか。たかが数回まぐれ当たりしたかすり傷程度で、なんで頓珍漢な事を言い出してくるんだよ。理解できない。

 

 でもまぁ、結果的にそう悪くもない着地をした気はする。

 正解を引けたかわからないが、この年齢では異常とも言える冷徹な表情。素早い切り替え。

 これが本来の南雲雅なのだとすれば、だが。というか、これが最終形態であってほしい。

 とりあえず、直近に限っては僕に注意を集める下準備も…まぁ成功と言ってもいいだろう。

 ここからが第二局面だ。

 

 

 

 と、その時。

 

「南雲っ!! 頼む、手を貸してくれ! あっちの3年の勢いが凄くてもう止められない!」

 

 南雲が返答しようとした言葉に被せるように、少し離れた場所から1騎が南雲に救援要請してきた。

 遠目に見える状況は白組優勢。どころか双方多少目減りした白組の3年生7騎で、3騎を囲んでフルボッコ状態だ。

 

「チッ。邪魔が入ったか。

……わかった、すぐに向かう! もう少し持ち堪えろ!」

「ああ! なるべく早く来てくれ!」

「なずな。できれば左京を片付けておけ。お前なら少なくともやられはしない。最低でも時間を稼いでコイツを釘付けにしろ。話ならその後でもできるしな」

 

 いや、まずは鴨がネギ背負ってる僕を倒すのが優先だろ。なんだ、その予想外すぎる判断。錯乱でもしてるのか?

 てか、そのせいでヤバい流れの予感。ここはなんとかマシな方向への誘導を……。

 

「おやおや? 僕を女子に任せて釘付けとは? てか、背を向けて僕から逃げ出すとか正々堂々なんて言ってた人の台詞とは思えませんなぁ。自ら僕に向かってきては?」

「ハッ、抜かせ。お前がなずなみたいな女を苦手としてる事は割れてんだよ」

 

 あれ? なんかまた雰囲気変わった?

 いやに冷静なような……?

 どこか呆然として見えるような……?

 

「なずな」

「ああ、うん。さっきはちょっと驚いたけど、プールでの事もあるし、一之瀬ちゃんからも左京君のことは色々聞いてるよ」

 

 しかも巧妙に隠していた僕の弱点がバレていた? 名前出てるし、一之瀬がなんか言ったのか?

 なんせ昨夜の一之瀬が言っていた気になってる奴。胃がギュンギュンしそうな男という条件に合致率が高い。もしや懸念が的中して早々に悪い男に引っかかったか。

 

 そう―――目の前のこの男に。

 

 容姿やステータス以外、ものすごい悪く感じる男の趣味も最終的にどうなりたいかも全く理解できないが、一之瀬の気になっている人は南雲なのかもしれない。

 その上、生徒会にも所属している同士だし、このくらいの情報は漏らしていてもおかしくない。

 

 だが、甘い。それは僕の数ある弱点の中でもギリギリ致命傷レベルだ。夜に自室でゴロゴロ転がる程度で済む。

……僕も方針変更するべき時がきたのだろうか。できるだけ抵抗はしてみるけど。

 

「待とう? あ、あれだ。えーと、ハチマキを取るんじゃなくて、エロいこと大好きな僕がその人にエロい行為をするかもしれないぞ? 偶然を装って乳とか尻とかを触ったり……」

「いやー、それするんだったら言わないでしょ。なにその斬新な痴漢宣言」

「いきなり情けなくなったな。そこまで苦手なのか」

「……ぐぅ」

 

 上級生二人で呆れた顔しないで? それこそ一之瀬みたく慌てふためいて? こっちは結構必死なんだよ?

 などと、煽りに乗って来なくなった南雲とこの女子にやりにくくさを感じている間に、タイムリミットがきてしまった。

 

「ともかく俺は3年を片付けてくる。数は多いが会長はこちら側だ。あの程度なら、まとめて相手しても問題ない」

「あっ、待って南雲! せめて僕の相手をチェンジしてから」

「……ハッ」

 

 なんて冷酷非情な奴だ。南雲は僕の必死な懇願を鼻で笑っ―――。

 

「ははははははっ!!! 左京! 少し待ってろ! 3年共を軽く片付けたら相手してやるからよ! ふ、ふはははははっ!!」

 

―――たかと思えば、唐突に高円寺バリの曇りない大笑いをしてきて、意表を突かれた。そしてそのまま勝手な事を言い放ち、ドップラー効果を活用しているかのような笑いを響かせてすっ飛んでいった。

 

「…………へ?」

「あんな雅、初めて見たかも」

 

 なんなんだ、いったい。

 ここに至っても、コロコロ雰囲気を変えやがる。落ち着きのない奴だ。思わず呆気に取られて見送ってしまった。

 しかもよりにもよって、微妙に厄介な産廃(僕的に)を残して行きやがって。

 

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