ようキャ   作:麿は星

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 ようやく騎馬戦終了です。
 騎馬戦だけで4話。直前の話を入れたら4話半。あまり削る部分が見いだせなくて、ちょっと長くなりすぎたかもしれません。



113、コラテラルダメージ

 

 勝負と遊びは、本気でやるからこそ楽しいし美しくなる。

 僕は楽しかったし、美学にも反していない。友達はわからないが、様子を見る限りでは笑ってる奴も多いので楽しめたなら幸いである。

 命名決闘法案は元々こういう場合の為に提案したのだ。

 

 南雲やら巻き込んだ友達関係やら色々な目的はあったが、正直ここに至ればもう目的や動機、結果なんてモノはこれくらいシンプルな方が良い。あとは幕を綺麗に下ろすだけだ。

 

「どうだー! まいったかー!? まいったって言えー! この学園の不敵な巫女、東風谷早苗の名のもとにっ!! 頭を垂れろぉー! あーっはっはっは!」

 

 ふむ。

 いつまでやっとんじゃ、と言いたくなる早苗と学の一騎打ち。

 絶好調に笑っているアイツはいつも平常運転でなにより。神様も微笑ましげに見守っておられる。

 しかし南雲を行かせてしまった白組の3年生はともかく、桐山とかいうまとめ役っぽい奴を含む2年はもっと残るかと思ってたけど、最終的に橘書記と藤巻、他2騎を落とした鬼龍院先輩が残ってるだけか。侮っていたのは僕だったようだ。

 

「はっはぁ! 雑魚はいくら群れようと雑魚なんだよ、このカスどもが! 喰らい尽くしても前菜にもなりゃしねぇ! くはははははっ!!」

 

 ふむふむ。

 早苗同様、龍園もはっちゃけだしてるし、これがワルイモノのガス抜きになれば乗ってくれそう。

 戦況は、アルベルトの巨体の上から景気よく煽り散らす龍園……と煽り散らされて挑発に乗ったと思われる平田・須藤とやりあってて……と、龍園に軍配が上がった。

 見た瞬間、囲んでおいてなんで一騎打ちになってるんだよと思えば、聞こえてきた声からするとそれが真相っぽい。

 

 ここだけを切り取れば数はまだ赤組優勢だが、1年はもうすぐ決着だな。

 女子は一之瀬と櫛田・松下さん、伊吹さんと…さっきうちのクラスに来た笑い上戸の残念美人がやりあってるが、どちらも白組側に天秤が傾いているように見える。

 

 その証拠に背後で暴れ回る伊吹さんと残念美人に気が散った瞬間、それを見逃さなかった一之瀬が櫛田の鉢巻を狙い、かろうじて避けて体勢が崩れたところへ───真鍋さんの騎馬が体当たりする勢いでぶつかり共倒れ。均衡は崩れた。

 

「葛城、戸塚! 柴田をやったらお前らは行け! 龍園は俺達が引き受ける!」

「すまん橋本! ここは任せるぞ!」

 

 残っている男子は、葛城の視線が僕に向いていて、橋本がなんかカッコいい台詞を吐いている。

 一矢報いるつもりなら、まず機動力の高い柴田の騎馬、次いで龍園より遥かに倒しやすい僕を倒しに来るつもりと見た。橋本と連携して柴田を挟み込む形に持ち込もうとしてるから、龍園が体勢を整える前に柴田を仕留め、それぞれで分散して賭けに出ようという腹だろう。

 

「一之瀬! あんたはあっちに行ってやりなっ! 残りの女子2騎は私の獲物!」

「伊吹さん……! ありがとう!」

 

 松下さんや残念美人と1騎でやり合う伊吹さんが、最後には味方になる強敵感を出してある意味橋本に対抗する。お礼を言っている一之瀬が間に合うかどうかで、対応は変わってくるだろう。一之瀬がいるかいないかで、新たな選択肢が生まれるからだ。

 

「はぁ、ぜぇ……っんの、少し手こずっちまったぜ。左京のヤツ、どういう発破をかけやがった。会長の方も…まだどうなるかわからない、か。だが……ははっ。俺を燃えさせてくれるじゃねぇか!」

 

 劣勢をはね除けた南雲は、そこそこ疲労したようだ。南雲以外に生き残った騎馬も1騎しかいない。

 ただ、その甲斐あって白組の3年生は全滅している。学と並ぶという評判は伊達ではなかったのだろう。

 個人能力も知っている中ではトップクラス。疲労しようと強敵には違いない。

 

「ハァーッハッハッハ!! なかなかやるじゃないか、テイルマン!」

 

 四方は間に南雲達の戦場があったのでよく見えてないが、高円寺の高笑いが聞こえていたので楽しんではくれただろう。集中しきって何も聞こえてないだろう四方と、おそらくそれどころじゃない清隆はアレだが、高円寺の笑い声には謎の安心感がある。

 僕の誘いの真意はほとんど見透かしているだろうし、満足してくれれば高円寺自身の矜持に従ってくれると思う。

 

「…………左京君? この光景を見て何を思ってるの?」

「みんな楽しそうでなによりッスね」

「楽しそうって……」

 

 だから朝比奈さんに聞かれても僕にはこうとしか言えない。

 両軍残存戦力は、白組8騎…あ、今しがた柴田が落とされたから7騎。赤組8騎。残り時間は3分弱ってとこか。

 今度こそ最終局面だ。

 

 

 

 南雲、朝比奈さんともう1騎で計3騎。

 僕は彼ら彼女らと対峙していた。

 

「ふはははっ! よくぞここまで来たな、南雲雅とその仲間達よ!」

「来たっつーか、ここは元々俺達2年が陣取ってた場所なんだよ!」

「溝脇。左京のペースに乗るな。コイツに舐めてかかると痛い目を見るぞ」

「なんだよ、ノリ悪いな南雲。せっかくクライマックス的な2対2っぽい対決場面だってのに」

「いつの間にか私が左京君側みたいに!? 違うからね!?」

「なずなまで……。くっ、遅かったか」

「雅までナニ言ってるの!? こんな時に冗談はやめて!」

 

 むぅ。南雲を疲労させたのがマイナスに働いたか? 朝比奈さんと溝脇と呼ばれた男子はともかく、南雲は油断や隙がかなり減少している。軽口には乗った風に見せながらも、思考を回している者特有の雰囲気が感じられた。

 

「左京っ!!」

「左京君!!」

 

「夢月、遅くなったな」

 

 なぜなら駆けつけてきた戸塚(葛城)、一之瀬、四方の3騎が揃うのを待っていたとしか思えないからだ。最終決戦は正々堂々ということだろう。

 

「役者はこれで全部か、左京?」

「まぁ、だいたい?」

「はっ。ふざけた奴だ―――面白い。正面から叩き潰してやるよ」

「それ、僕の台詞だから。叩き潰されるのは南雲。OK?」

 

 開戦の狼煙は南雲―――。

 

「OK、なわけねぇだろ!! 散々コケにしやがって!」

 

 ではなく、溝脇の突進から上がった。

 

「神崎」

 

 といっても、小さい声が聞こえた瞬間、僕の前に割り込んだ四方騎にあっさり鉢巻を取られたわけだが。

 

「なにぃっ!!?」

「いや、溝脇。乗せられるなって言った端から乗せられるなよ。後輩の葛城もわかってたみたいだぞ。まぁ俺の相手が決まったようなものだから、今回は許すが―――次はないからな?」

 

 こちらの最大戦力を見抜いたのだろう。

 南雲は悔しげな表情で去っていく溝脇から僕。僕から四方へと視線を移動させながら、冷酷な表情を浮かべてそう宣った。

 ただ南雲は置いといて、味方が持ちこたえてくれるほど勝ちの目が高まるので、軽めの檄を飛ばす。

 

「四方! もう少し頑張ってくれ! あと少しだ!」

「あいよ、了解だ! 総大将」

 

 四方もそうだが、彼の馬役は見た感じかなり限界近い。高円寺と清隆をまとめて相手するのは相当消耗したのだろう。最も余力のありそうな神崎でさえ息を乱している。

 

「一之瀬! お前もここ一番で重要な鍵だ! もしお前がやられたら、産p…朝比奈さんを止められなくなると思え! 主に性別的な意味で! だから頼むぞ!」

 

 ちなみに、女子同士であることを差し引いても産廃には産廃を当てるのが僕流セオリーなので、一之瀬の相手が朝比奈さんなのは言うまでもない。残った僕の相手が戸塚・葛城であるのも、消去法で当然の帰結である。

 

 朝比奈さんがいなければ一之瀬を南雲に当てて、無自覚ハニトラを仕掛けさせる手もあったが、いくら思い人である可能性が高くても確定していない。それに加え、一之瀬のブラックボックスであるポンコツ加減はいまだに読みきれない。

 やはり順当に朝比奈さんに当てるのが無難だろう。

 

「ちょっと待って! 今、左京君なにを言いかけた!?」

「……朝比奈先輩。左京君ってこういう人ですから……どんな時も、ですよ? にゃはは…はは、はぁ」

「…………一之瀬ちゃん……苦労してるんだね」

「わかってくれますか、朝比奈先輩……?」

「身をもってね。今日だけですっごい実感しちゃったよ」

 

 二人共、元気っ娘な陽キャ的印象だったけど、疲労のせいか目が濁っている。疲れてないはずの朝比奈さんはわからないが。

 でもまぁ、四方と南雲はやる気に満ちているから、トータルでの差し引きはゼロだろう。

 僕と残った最後の1騎は、もとよりニュートラル気味だしな。

 

「待たせたな。どうやら僕の相手は戸塚達みたいだな」

 

 律儀に『勢いに乗った』割り振りを伝え終えるまで待ってくれていた戸塚と葛城である。

 

「おう、いいってことよ! 左京、今回は負けないぞ!」

「それはこちらの台詞だ。勝負な以上、僕も勝つつもりでやるさ」

 

「―――そう……乙女座の俺はセンチメンタルな運命を感じていた! ゆえに俺は…弥彦は左京を倒す!!」

 

 のだが、戸塚は普通だけど、なんか葛城がおかしなテンションになっている。南雲や朝比奈さん方面との温度差で風邪ひきそう。

 早苗か龍園のせいか?

 

「えっ。か、葛城さん?」

「はぁ? 葛城どうしたn」

「乙女座である俺は執念深く、粘着質な男なのだ! 今日の阿修羅をも凌ぐ俺に目を付けられた不運を恨むんだな左京っ!!」

 

 あ、察し。

 違うわ……この台詞、このわけのわからなさ。これ100%坂柳さんが関与してるわ。

 似た匂いがする上に、前と同等以上だもん。

 

「どうでもいいわ! 星座なんかどっから出てきたっ!? てか、なんで葛城までネタ使ってんだよ! ぜってぇ坂柳さんの影響だろそれ!? ホント、あの妖怪! ろくでもないことばっか仕掛けてきやがって!」

 

 止まらなくて、ついツッコんじゃったけども。よく見たら、戸塚はともかく葛城の顔が笑ってんじゃん。

 

「坂柳は関係ない! ほんの少ししか!」

「あの、葛城さん。自分でそれを言うのはどうなんですか」

「語るに落ちてんだよ! 悪即ザン(ネン)ってか!? はい、残念無念また来週!」

「問答無用! 弥彦、突撃だ! 正面から左京の鉢巻をもぎ取るんだ!」

 

 気づくのに遅れたが、これはもう……やり方は斜め上すぎるけど、そういうこと…なんだろう。

 本番前はほぼ確実に僕に情報戦を仕掛けてた側のはずなのに、明らかに坂柳さんによる『南雲の』妨害でござる。Aクラス維持より彼女にとってのデメリット排除を選んだのだろう。ありがとうございます。わけがわからないよ(嘘)。

 てか、助かるは助かるけど不自然すぎて笑いが。

 

「おまっ、ぶふっ」

 

 しかし頭は良いはずなのに、マジで演技や駆け引きが下手な奴…奴らだ。下手というか、世間知らず以外は騙されないんじゃないかと思うほど騙すことに向いてない。

 それに『あえて』乗っている葛城と戸塚の真意は隠せていないのがなんとも。

 

 だって思惑は置いても、南雲への仕返しとかに怖じ気づく坂柳さんでもないから、ここにコイツらの手が入ってないのは道理が通らない。一応はAクラスの浮沈も少しかかっているのに、まったく友達甲斐がある奴らだ。

 最高でおじゃるな!

 とりあえず、できるだけ知らん顔して乗るのが僕に求めている事だろう。

 

 坂柳さんは、もっともらしい事を吹き込みつつ、無駄に葛城達や僕で遊んでるつもりもあるんだろうが……。ああ、さっきの暴言の意趣返しって線もあるか。

……それでも葛城も戸塚も基本真面目で正義気質なんだから、これ系のおちょくりに巻き込んでやるなよ。と言いたい。

 

―――まぁ、騎馬戦という条件下ならば使える材料なので、全てを感謝しつつ許そう。

 

「ふっ」

「何がおかしい……!」

 

 瞬時に楽しい攻略法を思いつけてまたも笑いが零れ、下手な演技を続行する戸塚が警戒しつつ咎めてきた。だが僕はあえて返さず、連想しやすいようにアイツのイメージで馬役達が動いてくれようにも指示を出した。

 

「クックック。お前ら、戸塚に向かってゆっくり前進するぞ」

 

 なにか思うことでもあったのか、渡辺達が素直に指示に従ってくれて助かる。なんせ龍園の真似だ。反発される可能性はあった。

 

「おい弥彦、気をつけろ! 左京が何かを仕掛けてくるぞ!」

「っはい、わかってます、葛城さん!」

 

 見ていた限り、戸塚の身体スペックは僕とどっこいどっこい。ただ協調性と連携では戸塚に、判断力では僕に有利がある。おそらく1対1で正面から当たれば、泥仕合かそれに近い時間を要するだろう。それでは不都合が多く、間に合わなくなる……本来なら。

 ゆえに、おおよそ5歩くらいの距離にまで近づいた時点で、電光石火で一気に片付けるため、僕は喜び勇んでそれを言い放つ。

 

「よくやった龍園!! 前後に挟み込んで潰してしまうぞ!」

「なっ!」

「龍園だと!? どうしてこんな───はっ、いない!?」

「しまっ」

 

 バレバレの騙し討ちでな。勿論、振り返ってもそこに龍園はいない。

 

「ウッソー♪ 悪いな戸塚に葛城」

 

 ただでさえ騙されやすいのに、連戦の疲労に彼らにとっての博打の最中。しかも近くに南雲などの上級生もそこそこいる。おまけに変なネタ披露まで加わって……処世術に優れた戸塚はまだしも、真面目な葛城にいつも通りのパフォーマンスが発揮できようはずもない。

 結果、こんな子供だましに引っかかる。という風に端からは見えただろう。

 

(サンキュ、戸塚)

(頑張れよ、左京)

 

 思わず振り返った戸塚から取った鉢巻を小さく掲げて、激励し合う。

 そこからは勿論、油断せず警戒を強める。これからが本番だからだ。

 

 

 

 ちょうど葛城達を退けた()直後、何か不都合があったのか、四方の騎馬がたたらを踏むようによろけながら後退する。何か、というか騎馬の1人の体力が限界なのだろう。

 

「はぁ、はぁ……わ、悪い。四方、神崎」

「いや。俺こそ無理をさせてすまん」

「流石にここまでのようだな。あとはできる限り動かずに、落馬して残存数を減らさないくらいしかできないか」

 

 あちらにもそこまで余裕はなさそうだが、追撃に出ようとした南雲と四方の間にギリギリで割り込む。なんとか間に合った。

 

「ふふふのふ。そこで、体力満タンの真打ち登場! 四方達は安全圏まで下がってくれ」

「夢月……助けに来たつもりだったが……」

「充分すぎる助けだったさ四方。おかげでなんとかここまで辿り着けた。

 さあ、南雲! 残り1分強、僕と最後の勝負だ!!」

 

 不利な状況は明らかだというのに、いまだ不敵な笑みを浮かべる南雲をしっかり見据える。

 南雲の…というか赤組の逆転の目は、細くはあってもまだ残っている。気持ちで負ければ、それもなくなると承知しているのだろう。

 尤も、それは僕も同じである。

 

「見事なものだな左京。戸塚って奴はよく知らないが、葛城を軽く手玉に取って速攻で片付けたか」

 

 やっぱり見てたか。

 細工は流々仕上げを御覧じろ、ってことにできるかな?

 

「ふっ。僕の人望の賜物だ。羨ましいだろう」

「人望を逆手に取って騙すことも実力というわけか。ますます『俺の』生徒会に欲しくなったぜ」

 

 ま、南雲には理解できないか。

 別にムカつかない。

 

「入らねーよ! 僕の大事なモノは決まってるんでな」

 

 普段の真っ向勝負なら10割で南雲が勝つ。

 それでも僕は啖呵をきる。

 この騎馬戦という競技に限っては、終盤のここで戸塚・葛城が落ちた一方、四方が生き残った時点で圧倒的優位になった。

 

 更にはかなり消耗させた上で、自分だけの力では戦えない騎馬という条件。片方の全滅か、時間切れで残存数が多い方の勝利というルール。

 そして現時点での紅白の総数は、戦力外になった四方騎を含め白組7騎。南雲、朝比奈さん、学……橋本と松下さんの赤組5騎のみ。いつの間にか残念美人はやられている。橋本もいつ落ちても『おかしくない』。

 

 仮に僕を速攻で片付け、四方まで抜かれてしまっても、一之瀬が朝比奈さんに負けなければ引き分け。しかも龍園と橋本、伊吹さんと松下さんなら、赤組騎馬は良くても生存するのが精一杯だろう。

 あとは南雲の生存、僕の落馬という結果にさえしなければ勝ちだ。

 この状況でも南雲が焦りを見せないのは、おそらく勝利への執着がないわけではない。逆だ。

 

「ったく……楽をさせてくれない野郎だぜ。3年どもに四方と、休む間もなく当ててきやがって。しかも四方は仕留めきれなかった」

「戸塚や葛城を四方に当てて、南雲自身で僕を潰すべきだったな。結果論だが」

「少しは先輩を敬えよ。堀北会長にアレを当ててることといい、お前は先輩への敬意がなさすぎるぞ」

「むしろ最大限の警戒と敬意を払ってるさ。じゃなければ、倒せる戦力なんか用意しない」

 

 関係ないけど、南雲にまで早苗がアレ呼ばわりされてる件について。

 やっぱりヤツは誰から見ても、邪悪さを感じざるをえないのだろう。わかる! よ~くわかるよ!

 とか考えつつ、話しつつ、僕は残り時間を計る。

 

「まぁ、流石にもう手はないだろ? お前もついに年貢の納め時が来たってことだ。試合は厳しくなっちまったが、お前だけでもここで潰しておく」

 

 それはどうだろう?

 

「───(残り時間は)ジャスト1分だ。僕に勝つユメが見られるといいな、南雲雅」

 

「───抜かせっ! それが現実なんだよ、左京夢月!」

 

 現実なんかクソ食らえだ。

 徹底的に敗北させてやる。

 競技でも、口でも、命名決闘でも。

 1分耐えきれば僕の勝ち、耐えきれなければ南雲の勝ちっていうわかりやすい決着でも。

 かかってきた南雲を迎え撃って……完膚なきまでに撃ち落とす。

 

 推測だが、南雲は正攻法が苦手……なわけではない。

 ただおそらくは、ほぼ確実に勝てる相手か状況に慣れすぎている。プールや棒倒しの時点で薄々感じていたが、勝つか負けるかといった状況での正攻法に明らかに慣れていない。

 

「はぁ、はぁ! くっ、フラフラと……!」

「うぉあっ! そんなに疲れてて、なんでまだパフォーマンスが落ちないんだよ!? クッソ。手ぇ、いてぇ」

「充分落ちてんだよ、この綿毛野郎!」

 

 かなりの速度と手数で迫ってくる南雲の手を、ギリギリで弾くように次々と受け流す。

 フラフラと姿勢が一定しない僕の弱さと経験に勘、疲労が溜まっている南雲でなおかつ状況に慣れきっていない条件が揃っているからこそできる芸当だ。削りまくった割には、思ったより防ぐのもめっちゃ痛いが。

 

 でも何度か早苗や清隆、龍園に須藤などで、経験・見聞しといてよかった。これなら疲労も相まって、早苗や清隆みたいな手のつけようがないほどのモノにはならない。四方じゃないけど、僕でも集中力を全開にすれば防御くらいはできる。

 

 しかし…あと少しなら耐えきる自信はあるし、成功率も勝率も高いけど……。南雲が納得する勝敗にできるか、っていうと多分できないよなぁ。

 今の状況なら、と一応チラッと意識を向けてみたが、もう一枚の手札は切れると思う。そっちを本命にするか?

 

 問題はフルベットした上で、とある事を覚悟する必要がそうな点だが。じゃないと動いてくれない気がする。

 んー。でも、お祭りならそれもまた一興か。

 どこかの奇術師と船大工も言っていた。

 

 カンペキに勝つ♣️───だろ? 男はドンと胸を張れ! って。

 

 だったら僕もリスクを呑み込んで狙ってみよう。

 なぁに、競技自体はほぼ勝ち確で、総大将の責任は果たした。ちょっとくらい自分の為に挑戦する精神をインストールするのも悪くない。

 

 

 

 体内時間で、残りは20数秒。

 ここらへんが限界点だな。

 

「ようやく…はぁはぁ、本気でやる気になったか」

「僕は最初から本気だっての。ただちょっと攻めに比重を置くことに切り替えただけだ」

「ハッ。俺を落とそうなんて考え、後悔させてやるよ」

 

 僕が賭けに出る事を察したのか、いよいよ南雲もノってきたようである。

 好都合だ。熱を帯びれば帯びるほど、僕を倒すことに集中せざるをえない。

 そこに必殺の策をぶちこんでやる。

 それだけを考えて、ほんの一瞬目を閉じて開ける。そのまま自分の思考とテンションをトップギアに持っていく。自己流の自己暗示みたいなモノだ。

 

 笑え。信じろ。

 僕は左京夢月だ。

 初見殺しを思いつくことにかけては、そうそう高校生に負けはしない。

 

「ははは! その心意気やよし! 僕の最後の策をお見舞いしてやろうじゃないか!!

 あとひと踏ん張りだ、もうちょっとだけ力を貸してくれ! 渡辺、源、浜口!」

「「「おうっ(はい)!!」」」

 

 嘯き、煽りつつ、騎馬に頼み込む。

 そして、南雲の鉢巻を取ることに9割の意識を割いて自分の防御を捨てる。

 これで準備完了だ。

 

「お前らぁ!! こんな1年のリーダーでもないエセ総大将ごときに遅れは取るなよ!? 叩き潰せっ!!」

「雅に突っ込んだ!?───って、ああっ!!」

 

 朝比奈さんが一之瀬とやり合いながら声を上げる。

 予想以上に視野が広い人だったようだが───南雲以外が気づいてももう遅い。

 僕は『ソレ』をかき消すように可能な限界まで声量を上げて、雄叫びのような言葉とともに南雲に突進する。

 

「聞けぇ!!! 僕の叫びを! 僕に注目しろっ!」

「はっ、しゃらくせぇ! 何かと思えば無策で来るならお前は敵じゃねぇ!!」

「ダメッ、雅! 違っ」

 

 3人で1人を支える騎馬という性質上もあって、外野からの警告などが雑音にしかならない場合がある。

 それはまさしく今。南雲は余裕なく勝負に熱中しているのだ。某赤い人の如く、男同士の間に入るなっ、とか思っていることだろう。

 

「おおおあああっ!!」

「左京の鉢巻は俺が取る! 1年に当たり負けするなよ、お前らっ!!」

 

 信じていた。

 南雲は僕がこの手に出れば、正面から油断せず確実に叩き潰しに来ると!

 

「敵わないさ! 僕は凡人なんだから当たり前のことだ!」

 

 これでいい。

 僕だけに集中させる天才の吸引力を……!

 僕ならできると心から信じろ!!

 

「そうだ! 僕は総大将の器じゃない! リーダーでもない!

 

―――僕は左京夢月だ!!!」

 

 鉢巻を取られ、正面衝突してこちらの馬3人ごと崩れ落ちていく中で。

 僕は力の限り叫んで僕に『注目』させた。

 それが……凡人の僕にできる唯一の冴えた勝ち方だったからだ。

 

「左京君!!」

「なん、だと? 本当にこんな破れかぶれがお前の策か? 勝てるはずの道を捨ててまでやるのが、負け犬の遠吠えと大差な」

「違う!」

 

 何度も警告を出そうとしていた朝比奈さんは、カッサンドラの役回りになっていたようだ。一之瀬の呼び声に紛れるようなそれが、何故か僕には聞こえていた。

 栄光に繋がる花道を駆ける存在を見逃している事を確信できる───拍子抜けしたような南雲の呟きと一緒に。

 

「―――雅!!! 後ろっ!」

「ははっ、はぁ~~っはっはっは! 僕の、僕達の───勝ちだ、南雲雅!」

 

 負けながらでもいいから、一度くらいはやってみたかった真っ当でド派手な勝ち名乗り。

 状況的に誰かに聞こえてるか怪しいけども。

 

「わかってねぇな副会長。敵わないと思ってる実力者相手に単純なタイマン張ろうとする馬鹿か、コイツは?」

 

 橋本をどういう方法でか下し、迫ってきていた龍園である。

 

「んなっ!? 龍園───ブラフじゃないだと!!?」

 

 あらかじめ白組の主要戦力には作戦を話した時に言ってある。

 僕が南雲に必ず大きな隙を作る。余裕を失くす。と。

 

「違ぇだろ。コイツは、どんな手を使ってくるかわからねぇ大馬鹿野郎だ」

 

 連戦で体力も精神力もかなり消耗していた上、僕の普段ならありえない叫びで一時的な視野狭窄に陥る。更に周到にも四方の騎馬を上手く隠れ蓑に使い、どさくさ紛れで迅速に南雲の背後に回り込んだ龍園は、あっさり南雲の鉢巻を掴んでいた。

 

「龍園……信じてくれて…ありが…とう……!」

 

 途中で結構な高さから落ちる恐怖を思い出して跡切れ跡切れになってしまったが、なんとか礼を口に出せた。

 その直後、落下して見よう見真似の受け身でゴロゴロ転がる僕に。礼が聞こえていたのか、馬鹿にしたような、面白がるような龍園の言葉が返ってくる。

 

「ハッ。俺が最後に立つ勝者になれるから乗っただけだ。暗に自分を利用して手柄を横取りしろっつー馬鹿極まる提案にな」

 

 一年生全体を数の劣勢から制圧に持ち込み、南雲という2年のリーダーまで倒す快挙。ついでに警告を発する代償に、大きな隙を作った朝比奈さんも一之瀬に狩られた。

 お祭りの遊びではあるが、赤組ほぼ全滅(学と松下さん以外)の完全勝利か、耐久して時間切れ勝利の分岐だったら、僕がやられる程度はコラテラルダメージだろう。

 

 競技終了の合図が鳴り響く中、埃まみれな僕は地面で仰向けになりながら、痛みが引くのを待ち、しみじみと勝利の美酒を味わっていた。それはとてもジャリジャリしていた。てか、砂そのものでしかない。

 それでもこうして見る空は格別に素晴らしく感じていた。

 

 自己満足だろうとこれはいいものだ。

 コレが勝ち、か。

 今日はやけに少佐殿に共感できる日だなぁ。

 





 今回の後書きは、作者の戒めと騎馬戦がやけに長くなった言い訳。読後感を楽しみたい人はスルー推奨。
 ようキャ本編とはほぼ関係ないけど、思うところがあったのでこちらに残しておきます。

 まさか2年くらい前に書いた今話(一度全部消えたから、変更や加筆修正はしてるけど)まで辿り着くのが、こんなに長くなるとは……。
 この話の為に龍園視点などで伏線を張るつもりだったはず(私の性格を考えた推定だけど。何度も不自然に龍園が出てたし)なのに、もはや私自身がそれを忘れかけてて何度か見返し、見返しても最後までどこでどんな伏線張るつもりかわからなかったのは秘密(1敗)。

 一次・二次、プロ・アマ、分野を問わず、創作系をする人はマジでキチンとバックアップを取った方がいい。それと行き当たりばったりオンリーじゃなく、最低限の流れや計画もしっかり作っておいた方がいい、かも? 後者は人によるかもしれない。
 そう思い知らされたここ数話でした。
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