正直、半信半疑(信9:疑1くらいだけど)なところはあった。
清隆や松雄、理事長は本当の事を言ってるのかと。
なぜなら、他はともかく───松雄に対しては疑いようもなくヤクザやマフィアのやり口だろう、あれ。つまり表向きの権力を指向する奴がやることじゃないのだ。
だから中高生である栄一郎や七瀬さんには、そこまでの理不尽な“八つ当たり”はしていないと思っていた。
「どんなに大好きでも会えなくなってしまったら、思いを伝えることさえ二度とできなくなるんです……! だからっ……エイイチロー。私の考えすぎかもしれないのは重々承知の上で言います。
今が楽しそうで本当に良かった!!」
「翼……」
しかし、松雄との面接時の絶望。そしてこの七瀬さんの様子からは、本気で松雄以外にも不幸をばらまいていたとしか思えない。
我ながら単純だけど、少し前の某国かってくらいに三族…どころか九族まで転がそうとする勢いすら感じてしまう。ガラパゴス権力者、ガラケーかよ。
だからこそ、僕のような経験と地の利しかない奴が対抗できるというのは皮肉だろうか。
「だからっ……だから本当に感謝しています!
ありがとうございました、左京先輩」
「……ほとんど翼に言われてしまいましたが、僕からも改めて。
父を…僕を助けてくれてありがとうございました」
くっ。一之瀬ほどじゃないけど、この二人も聖属性を操るのか。一之瀬みたいに焼き尽くすレベルではなくとも、動揺を掘り起こしてくる。ここは一つ、小粋なジョークで僕を見損なってもらわないと肩が凝る。
「お、おぅ……は、はは。わ、我を崇め奉りたまえ?」
「「ははぁーーー!」」
「え、待って! ホントに崇め奉らないで。つい口から出てきちゃった冗談だから。僕は大したことしてないし、松雄の功績の方がデカいから! なんなら僕がいなくてもなんとかしたかもしれないし!」
「そんなに慌てるなら言わなければよかったのに。まぁ夢月さんですし、しかたないんでしょうかねぇ」
「…………社長がいなかったら、か。考えたくもないな」
うぁ。早苗に言われて気づいたけど、どういたしましての一言でよかった。それならこんなみんなに微笑ましげで生暖かい目で見られなかっただろう。
真面目な場面で冗談に頼ってしまったからか、もの凄く座りが悪くなってしまった為、よく知らない部員の奴ら含めてはしょりながら事情説明。
どの道、このへんも明後日にするつもりだったし、七瀬さんは今日しかここにいない。四方と椎名はほぼ関係ないが、然りとて仲間外れにするほど秘密にしなければならない話でもない。
というか人外関係以外は隠してたわけでもないから、聞きたいなら教えてあげるのが世の情けだろう。
「そんなわけで、僕はきっかけを作っただけだ。真の功労者は松雄の…栄一郎のお父さん自身だよ。時間がないから今はこれ以上の説明できないけど、ここ数ヶ月の獅子奮迅の働きはマジですごかったんだぞ?
栄一郎は良いお父さんを持ったな」
それにしても栄一郎も七瀬さんも大げさに感じるほど好意的だ。勿論、恩に感じるのはわからないでもないが、それにしたってなぁ。
思考が子供すぎるわけでもないのに、読みきれない。片方は微笑ましげに、片方は初対面で年下のはずなのにニコニコと楽しげに。
これまでにないタイプの二人である。
「そんな。夢月さんがモテるなんて…年下の女子受けするなんてあり得ません」
「東風谷は今、真顔ですごい酷い事を言ったぞ……」
一方、その早苗の暴言に、横で力強く頷きまくってる愛里や椎名も含めて、仲間内の女性陣は終わっているな。
とか普段なら反論したいところではあるが、正直言って同感だ。
栄一郎はまだギリギリわからないでもない。もう返してもらったとはいえ、父親の松雄に恩を売った事があるからだ。義理固いし、真面目に恩を返したいとも言われている。それは父親に返せと言ったが、なかなか割りきれるものでもないのだろう。
しかし七瀬さんの方は、栄一郎の関係以外で僕に好意的になる理由がない。
いかに栄一郎が好きだったからといって……もしかして、それほどまでに酷いモノを見てしまったのだろうか?
最初の面接で松雄がしていた顔が脳裏をよぎる。『あの顔』の松雄を、あるいは栄一郎がなっていたかもしれない時期を知っているなら。多感な中学生に与えた影響は小さくないかもしれない。
ここまで真摯な礼は愛里以来だったので面食らっていると、新たな来客が駆け込んできた。
「左京っ! 鈴音が…堀北が来てないか!?」
須藤だ。
てか、堀北さん?
「まぁ須藤、少し落ち着いてくれ。何があった?」
あと30分ほどで昼休憩が終わる。そろそろ撤収準備しないといけない時間に、またもやトラブルか? 堀北さん関係なのに、ここに来たあたり切羽詰まってる匂いがする。
「飯食ってから医務室行ったら姿が見えねぇんだ!」
「それにもうすぐ午後の競技が始まるのに、まだ戻ってないんだ。幸いにも堀北さんの出場競技である二人三脚までは、時間的猶予はあるけど……。左京君に心当たりはないかい? 今、何人かで手分けして探してるんだよ」
須藤に補足するように追い付いてきた平田が早口に事情を説明してくれた。
だが、あのプライドと責任感が強そうな堀北さんがいなくなった? 一応みんなに聞いておくか。
「悪いけど僕にはないな。昼はほとんどここにいたけど、見かけてないし。
誰か知ってる奴いるか?……あ、七瀬さんと…栄一郎や椎名も知らないかな。堀北さんはDクラス所属のロングで涼やかな感じの清楚な美少女。えーと、障害物競走で『事故』ってた人って言った方がわかりやすいか」
あれが龍園の仕組んでた事なら、椎名はまだしも栄一郎は知ってると思うが、本当にたまたまの可能性は残っている。須藤や平田の為にもならないし、ここは事故で押し通す方が無難だろう。
まぁ、ここにいる全員が行方を知らないみたいで、首を横に降っているが。
「なあ頼む! 手伝ってくれ、左京! お前なら卑怯なことだけはしねぇ。俺は堀北にでっけぇ借りがあるんだ!」
いや、結構卑怯な手段を取る方だと思うぞ、僕は。って、茶化す雰囲気でもないな。
はぁ。一応、最後まで信者到来を粘りたかったけど、この状況じゃしかたないか。須藤の発言が支離滅裂なぶん、余計に心配してるのがわかってしまう。
「敵クラスの左京君に頼むのは図々しいけど、僕からも頼めないかな?」
「一度来た時、騎馬戦でまたカッとなっちまった俺を引き止めてくれたんだ! そんな堀北が逃げるわきゃねぇ! どっかで龍園に喧嘩でも仕掛けられてたらやべぇ。午前中、集中的に狙われてたからありえるんじゃねえかと!」
「……あー、わかったよ。僕も手伝うから頭冷やせ。そんな勢いだとせっかく見つけても見落としたりするぞ」
「助かる……! 行くぞ、平田!」
あ、居ても立っても居られなかったのか、手伝うと口に出した時にはすでに走りだしてる須藤。
気持ちはわかるが、平田を置いてくなよ。
「報酬もきちんと払うかr」
「それはいらん。取り越し苦労の可能性もあるんだし、平田がそこまでする必要はない」
「で、でも……!」
「単純に須藤に心動かされたってだけだから気にすんな」
取り残された平田から報酬がどうとか言われた。でも平田からなんかもらうのは筋違いだ。なんなら怖いし、次に会った時にでも須藤の飯奢り程度でチャラにしたい。それに思うことがあるので、動いておいた方がいい気がしている。
てか、須藤が直情的に行動しないのはおかしいと思ってたが、僕のところに来たのは平田か、あるいは清隆の差し金かもしれない。
平田は戸惑ったようになりながらも、見つけたら連絡してほしいと連絡先交換を申し出て……交換が終わると須藤を追いかけて行ってしまったからだ。うっかりでなければ、これこそが平田の目的だろう。
しかし真面目に推測してみると、堀北さんの性格上、逃げるとは思わないが、かといって龍園も流石にそんな真似はしないんじゃなかろうか。
龍園以外の心当たりは……一つあるな。でも南雲ならともかく、須藤にも平田にもあっちに伝はなさそうだ。それなら僕は外れていた時のことを考えて龍園のところを優先し、次にそこを訪ねるのが合理的か。念のためだけども。
それに必要なのは……。
「というわけで、早苗。ここの後始末を任せてもいいか?」
「構いませんよ。今度あんみつ3つで手を打ちましょう」
「お安いご用だ。すまん。四方にも」
「ああ、わかってるさ。気にせず行って来い」
まず出張所の片付け。まるで僕がどう答えるかわかっていたかのように、即座に頼まれてくれた。
「愛里と椎名は僕に付いてきてくれないか?」
次は最低限必要な札の根回し。
「え? わたしとひよりちゃん?」
「うん。ちょっと怖い事あるかもしれないけど、この場にDクラスの奴が愛里しかいない。万が一堀北さんを見つけたのが僕だった場合、連れ戻すどころか話すのも難しい。だから堀北さんが罠や誘いじゃないよって100%確信できる愛里がきてくれたら助かる」
「……仲があんまり良くないもんね、左京君達。わかった。元々わたしのクラスの問題だし、役に立てるかわからないけど行くよ」
むしろ愛里が役に立つ状況にならないことを願っているが、全体の予想が半分以上合ってるなら、その時に愛里の存在は助けになってくれるはず。
「……私は龍園君に会いに行く為ですね? わかりました」
この様子なら椎名もだいたい理解済みか。
珍しく毒花じゃない両手に花になるし、役得役得。
あとは―――。
「社長! 龍園君のところへ行くなら僕も」
「栄一郎は駄目。七瀬さんが今日しかいられないんだから、できるだけ一緒にいてやれ。僕は馬に蹴られたりしたくないぞ」
妙に手伝おうとしてくる栄一郎の説得または誘導。
だって七瀬さんの心配そうな顔。それが栄一郎が僕もって言った瞬間、結婚記念日の夫に急な仕事が入った妻のような顔になったから。これで連れてったら、馬じゃなくて七瀬さんに蹴られるだろう。
「……よかったら栄一郎と七瀬さんは、早苗達の片付けを手伝ってやって」
なんとか口実を作り出してみたがどうだ?
「エイイチロー! 二人で片付けは大変そうですし、人探しでは私が役に立てません。こっちを手伝いましょう!」
「翼……。四方君、東風谷さん」
どうやら許されたようだ。
「手伝ってくれるなら助かるな。歓迎するよ」
「報酬に守矢神社謹製のお守りをお二人に進呈しましょう。身内用にまだ6組しかできていませんが、御利益と込めた力は保証します」
早苗はそう言って、栄一郎、七瀬さん、愛里、椎名、僕ときて、最後に四方へお守りを渡す。無駄に恨みを買いたくなかったから、栄一郎以外のナイスフォローである。栄一郎はもっと状況と空気読んでどうぞ。
どこか既視感を感じるお守りを僕達に配り終えた早苗は巫女の顔をしていた。七瀬さんも嬉しそうに受け取ってたし、これは信じていい早苗。
たまになんか神聖っぽい雰囲気を出すんだよなぁ、コイツ。
「あっ、栄一郎」
「! はい!」
「悪いけど、体育祭終わって七瀬さん送った後に時間あったらもらえるか? ちょっと相談がある」
ともあれ、これが伝えられたし、あとは野となれ山となれだ。
さて、一度情報を整理しておこう。
何度か話した堀北さんを思い起こす限り、おそらく彼女の視界に入っているモノは相当限られている。その中で冷静じゃいられなくなるほど感情を揺さぶる候補は「兄さん」の学と……あって「綾小路君」。それなら姿を眩ませた理由も学か清隆が妥当だ。
そこから紐解いていけば、堀北さん自身の危険性は低くなる。勿論、悪い方向で考えたら須藤の言うように闇討ちやらリンチやらの可能性もないことはない。しかしそれは龍園という男を見誤っている。櫛田もだ。
なぜなら、心折らせて屈服させたい対象に打つ手じゃないのだ。
つまり堀北さんは何らかの目的しか見ずに、自分から行動した可能性が高い。
というように、歩きながらいくつか固有名詞をぼかして二人に問いかけてみる。発想と思考回路が僕とかなり違うから、愛里と椎名の意見は参考になるのだ。
「確かに。私もこれに龍園君は直接関与していないと思います。先程から違和感はありましたが、左京君が堀北さんという方からそういった性質を感じるのであれば、十中八九危険はないでしょう」
「危険は…ない? で、でも須藤君達は」
「須藤や愛里の心配も、それはそれで間違いじゃない。完全にないとまでは言い切れないからな。けど、多分今の龍園にとって堀北さんは二の次三の次だと思う。堀北さんが怪我した現状なら、利益の確保と真の狙いである堀北さんの後ろに見え隠れする黒幕を見つける方が優先度は上だ。多分な」
「……左京君『も』わかってたんですね」
「そ。目的を端的に言えば、俺の邪魔をしたヤツ、見ているか? お前が出てくるまで堀北さんを痛ぶり続けてやる。早く出てこないと取り返しがつかなくなるぞ? ってのが伝えたいんだろ」
要は趣味や櫛田の件も利用して、ついでに『清隆』を炙り出そうとしているわけだ。
何かの要因……堀北さんの怪我や南雲戦に引っ張り出した事などで、龍園の優先順位が変わったのだろう。
「だから、再起不能になるまで潰しきるような闇討ちやリンチは、まずないと言っていい。龍園の視点で予測すると、精神や経済…ポイントなんかの方面で追い詰めるのが有力だ」
「そうですね。私としてはあまり賛同できないですが、龍園君は力の使い方をわかっています。使い時は間違えないでしょう」
「ホンマ、コミュ障だよなぁ」
「……ぷっ」
あまりに生きてきた世界が違うせいか愛里が唖然として沈黙してしまったが、アイドルをそれなりの期間やっててこういうのに遭遇しなかったのは幸運でしかない。カメラマンに転向するにしろ、このままグラドルを続けるにしろ、他人事のうちに予防接種しておいた方がいい。危機管理能力は鍛えて損はないだろう。
「ついでに言うと、須藤達は龍園を敵視しすぎてるように見える。これまでを考えると、無理もないけどな。ただ話してみるとわかるが、龍園はもっとクレバーだぞ。こんなタイミングで隠すことなく暴力を前面に押し出すような奴なら、自分から警戒されまくるリーダーなんかになってないよ」
「うふふっ。左京君から見るとそうなんですね」
「笑い事でもない気がするんだけど……ひよりちゃんも結構アレだよね」
この推測は、龍園に話を聞きに行っても間違っていなかった。
訝しげではあったし、人手を対価なしに貸してくれるとかも当然なかったが、裏で動いてて惚ける演技ではないだろう。
龍園に会えた以上、もうクラスに戻っても何も言えない椎名からもお墨付きが出た。しかも付いてきてくれるという。
「水臭いですよ、左京君。私達三人は友達であると同時に同好の士じゃないですか。乗り掛かった舟には最後までご一緒させてください」
だそうだ。これはCクラスで集まってた場所から次の目的地に向かう際、何故手を貸してくれるのか聞いたら返ってきた返事。
龍園の思考予測でさえ結構な借りなのに、椎名も愛里も自分に直接関係なくてもやっぱり優しい奴らだ。
「椎名にも愛里にも関係薄いのにありがとう。その、なんかあったら言ってな? 前の借りも合わせて大抵のことなら返すから」
「わたしのクラスの事なのに、二人ともありがとう」
「……ふふっ。どういたしまして。でも本当に関係ないのは誰でしょうね?」
いやまぁ、僕なのはわかってるんですけども。
実際、堀北さんに関してはどうでもいいとまではいかなくとも、そこまで考えていない。愛里や櫛田、高円寺に清隆がいなければ、須藤の熱意に押されたとしても自分が動こうとはしなかっただろう。突っかかってきて僕個人としても感じ悪いし、櫛田とも協力する約束をしている。
ただ引っ掛かる事がある。
だからというわけではないが、次にもう一つの心当たりである学と橘書記がいる3年Aクラスに訪ねた時も、彼女の情報を聞くより藤巻さんなどのほぼ知らない人に僕がした無礼を謝って回った。こちらは野球部の根回しに影響するからだ。
藤巻さんが柴田と似たタイプなんじゃないかとの見立ては間違ってなかったようで、内心はどうあれ多数には笑って許してもらえた。
ちなみに、学はたまたま席を外していて不在。なので、安心して(気質的に学と愛里の相性が微妙なので)橘書記には愛里と椎名から話を聞いてもらった。椎名は初対面だろうが、相手が橘書記で愛里もいるので大丈夫なはず。
それにしても、喧嘩売ったような棒倒しや騎馬戦の直後なのに快く謝罪?を受け入れてくれるとは、うちとは違う意味で雰囲気が良いクラスだ。学はきっと信頼されているリーダーなのだろう。
と、3年生に囲まれつつ、愛里達をたまに見て目の保養をしていると、平田から連絡が入った。堀北さんが戻ってきたらしい。時刻を見れば、午後の競技開始準備まで10数分のあたりである。やはり取り越し苦労だったようだ。
椎名と愛里を送ったら、急いで待機場所に向かわないと……。
そして───。
椎名は伊吹さんが迎え?に来てたのでそのまま別れを告げ、Dクラスの奴らが集まってたところに訪れた。
すると空気を読む事にかけては他者の追随を許さない櫛田が、さりげなく愛里を匿ってくれる。まだ愛里には苦手意識があるかもしれないが、正直こういう気遣いをしてくれる奴は櫛田しかいない。多少邪悪さを感じようとも、櫛田が手助けしてくれる有り難さは伝わっていると信じたいものだ。
しかし面倒事を掻き回す不協和音のせいで、愛里と櫛田から他に思考を切り替えせざるをえなくなった。
「どうしてここに他のクラスの者が来ている?」
「―――あんたが原因だったのか」
…………ああ、そういうことだったのかと、繋がったからだ。平田に須藤、堀北さんにも…いや。もっと前からか。清隆に不自然な動きをさせてた最大要因はこのDクラス担任だったということ。ようやく尻尾を見せたな。
僕と愛里が来た時は注意せず、愛里を櫛田に託して須藤や清隆に一言伝えようと足を向けた瞬間に現れたのがその状況証拠。目先の目的、もしくは1か0でしか物事を考えられないタイプだろう。
どんな理由か知らないが、堀北さんや愛里・須藤などについてが僕への第一声になるはずなのだ……普通なら。
クラスメイトを探して、他クラスや3年生のところまで出向いた愛里などがいて。なにより小一時間とはいえ姿を消して…えっと何故か体育祭の最中に“散髪”しに行ってた堀北さんがいるんだぞ。
ちなみに堀北さんは午前までのロングじゃなく、櫛田くらいの髪に変貌している。散髪理由は、周囲が質問してるのが聞こえてきた。いや、堀北さんの声量からすると、わざと聞かせていたのかもしれない。
「もう左京君や東風谷さんを侮ることはしないわ。これはその決意表明みたいなものよ」
らしい。
僕や早苗よりまず足元を固めるのが先決かと思うが、堀北さんも南雲みたく学に変なベクトルが向いているっぽいので、プライベートな何かがこの選択をさせたのだろう。
ともあれ堀北さんにそんな問題があった状態なのに、監視カメラとかで捕捉してたとしても、外野の僕に対して安否を気遣うふりさえしないDクラス担任。
ここまで来れば、清隆が自分からはまずしないだろうクラスの為?の不自然も、茶柱先生が噛んでいたゆえと推測できる。そうでなくとも、手を出した確率大だ。
更に目線と隠せていない動揺からは、須藤ではなく清隆に接触させたくないと見える。
僕にこんな迂遠な誘導を使ってまで清隆が状況を整えたのだとすると、脅迫紛いのなんらかの取引で縛ろうとした可能性が高い。僕を嫌がらせの共犯にするほどのナニかを。
「? 何を言っている。それと教師には敬語を使え。
もうすぐに借り物競走が始まる。左京は早く自分のクラスに戻りなさい」
そう考えれば情報が足らなくて繋がってこない部分はあれど、これまでのいくつかに説明がつく。
下手に手出しはしない方がいいのもわかるから茶柱先生の流れに従うが、たわけ者にはもういっぺん釘刺しとかないと気が済まない。
ふむ。でもついでに、コイツに『も』嫌がる事を後ろ足でぶっかけてやるか。
「はーい、すぐ戻ります。その前に……清隆、ちょっとこっちへ」
「ククッ。なんだ」
疑問符つけずにわざとらしいんだよ、この不審人物代表が。と万感の想いを込めて、寄ってきた清隆の後頭部に平手で一撃。素直にツッコミを受け入れるあたり、全て計算済みかこの野郎。
茶柱先生含むDクラス各員が呆気にとられる中、僕はどうしてもヒトコト言ってやりたくて、他に聞こえないよう、聞こえてもわからないよう注意して小さく怒鳴った。
「もっと早く、わかりやすく言えよ清隆! 天才のくせに馬鹿なんじゃねぇの、お前!?」
「―――くっ。はっはっはははは!! 盛大な『墓穴』だったってことだ。くくっ。だが夢月以外にこの解答は導き出せないだろうな」
「コイツ……! 嬉しそうに笑ってんじゃない。で、懸念は?」
「ない。夢月はわかってるだろ。てか、片手間でも気づくかもしれないと思ってはいたが…はははっ。『友達として気に入った男』なら見抜かれるのがむしろ楽しいとさえ感じるとはな」
このポイントに導くための平田と須藤、そして堀北さんかよ。
約束通り愛里と櫛田を利用まではしても、切り捨てなかったから怒るに怒れない。今更、乗せられたのに気づいても遅いのもある。
せいぜい所属クラスのみんなの前で大笑いしたのを珍しがられるがいい、と負け惜しみをするのが精一杯だ。
「クッソ、てめぇ……。話がある。体育祭の後、遅れてもいいから部室に来やがれ。戸締まりの時間までは待つ。僕直々の呼び出しだ。拒否権はないと思え」
「ああ、わかった。どんな話か楽しみにしておこう」
「呼び出しだっつってんだろうが! 覚えてろよ、清隆」
多分、清隆にも内容予想は難しいだろうが。
怒ってはないけど、ムカつきはしたので負け犬の遠吠えにヒントは混ぜてやらない。せめてもの意趣返しである。
盛り上がりに水を差されて、差し返しちゃった僕は逃げるように自分のクラスが集まってる場所に戻った。少し離れた位置になんでかいた学とは別方向から……。
あ、須藤がやけに大人しいんじゃないかとか、この時点の堀北妹が引き留めるとかウッソだぁなんて疑問があるかもですが、これは仕様です。
プールの時の呪、せっかくだし体育祭で須藤の血の気を抑え気味にする為に利用してます。何気に須藤だけでなく、池や山内もかなり沈んでたり(清隆と外村は数ヶ月までなら多分そこまで影響しないかな、と)。その影響もあって微妙に粗暴さが薄まっており、流石の堀北妹も調子がおかしいのに頑張ってた須藤が荒ぶってたらスルーはしない…んじゃないかなぁ。
それと堀北妹がこうなったのは、この須藤の引き留め、何度かの早苗・左京との接触、清隆のフォロー、なにより堀北兄と堂々と渡り合う早苗を見たことで、今のままでは届かないとある意味悟ったからです。
この彼女の衝撃はだいぶ先取りな判断(原作と比べて)をしてしまうレベル。少し強引でしょうが、兄と対等に渡り合える同級生・同性の存在は、堀北鈴音をふっ切らせるには充分だと思います(願望)。兄の好みに合わせていては、自分が並び立ったり手助けできないって感じの内心なので、原作とは少し違うふっ切り方ですが。
ちなみに、この体育祭で早苗以外の誰かがすわかなを上機嫌にできたら、プールでの呪を全員解呪って裏設定にしてました。上機嫌にさせたおかげで『境界』の御方まで顔を出してしまいましたが。