ようキャ   作:麿は星

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 日曜に誤字をチェックしてたら初めて見かけたんですが、同じ人に何度も低評価されるのって、結構キますね。
 今は時間的にやれないけど、完結したら特に1~2章の序盤らへんをきちんと見直すことを考えてしまう。これまでにもあったのだろうか? とか、そんな小説の体をなしてないほど酷い? とか。問題は、評価付けられた該当話を読み返しても、自分ではわからない事なんですよねぇ、その酷さ?が。



116、好きな人

 

 チャイムが鳴り、体育祭の後半が始まる。

 午後は全員参加の二人三脚以外は推薦競技ばかりなので、本来なら気楽な時間になるはずだった。

 しかし、いくつかの要因が重なって借り物競走とリレーにも出場する事態に発展。僕の休息は四方綱引きのみとなっている。なんということだ。

 これも全ては学校と南雲のせいである。南雲にはとりあえず報復を実行したが、ムカつくことに反省した素振りも見せず、むしろ嬉しげだったから、無駄な煽りは止めない方針を続行することにした。

 

 それにしても堀北さんの散髪…というより覚悟がきまったような目は、いったいどうした事だったのだろう。なんとなくの勘では、良くも悪くも個の能力頼みの嫌な奴に見えていた堀北さんが、こんな僅かな時間で覚悟完了?したかのような不可思議。具体的には、早苗や龍園を餓狼のように睨んでいる。清隆が何かしたのか?

 しかし決意表明で早苗はいいとして、僕まで名指しで挙げるとかやめてほしい。そのせいか知らんけど、堀北さんを敵視していた櫛田にさえ生暖かい目で見られてるじゃないか。

 

 とまぁ、昼休憩までには色々あったが、大筋は想定通りといっていいだろう。午後から急に失速してここから全部の競技で最下位、なんてことにならなければ白組勝利と想定するMVPは揺るぎない。全学年は把握していないものの、Bクラス単位では個人・集団で活躍しまくっている上、余力も充分残している柴田と龍園、それを追う奴らの争奪戦になるはずだ。

 

 四方と早苗、神崎も活躍はあるけど、やはり騎馬戦で複数のハチマキを獲得して稼いだあの3人と他との得点差は大きい。

 柴田は破れはしたが5つハチマキを取り、龍園と鬼龍院先輩は3つ取って最後まで生き残った。尤も鬼龍院先輩は騎馬戦のみの参戦なので、MVPには得点が足らないだろうが。

 

 おそらくこいつらに次ぐ総合得点は、取得ハチマキ4つの南雲と、生き残った有力生徒だ。

 なのでこれまでの競技で、当たり前のようにほぼ1位ばかり取っている奴らとの差は騎馬戦が要因。ハチマキ1つにつき50点、生き残っても同様らしいので、他の競技と比べても効率の良い稼ぎ。紅白で学以外は全滅した3年生は、よほどのことがなければ脱落だろう。

 こうなると総大将のハチマキに数倍くらいの付加価値を付けても面白そうだったが、僕のも藤巻さんのも50点である。1年生と3年生の差を考慮に入れたのかもしれない。

 

 総大将になったなら、駄々こねて借り物競走を辞退しておくんだった。1クラス8人(男女4人ずつ)の3学年24レースしかない少数競技なのだから、くじ運で決定した僕が1枠使うよりも運動苦手な奴に使った方が有益だろう。少数ゆえか得点も高く設定されてるしな。今更どうしようもないが。

 

 ところで午前の競技、僕は基本的にどんな競技も第一走者になっていたのだが、午後からは違う。例えば、借り物競走では1~4までの数字が書かれた紙を男女それぞれクラス全員が引き、その数字が出場する奴の出走順になっているためだ。

 僕の引いたくじは「2」だった。

 

「よう。まさかお前らが俺の相手とはな」

「おいおい。龍園だけじゃなく左京もかよ。1人はよく知らないが、なんだこの面子」

「オレは関係ないぞ。じゃんけん運が悪すぎたんだ」

 

 上から龍園、橋本、清隆である。

 順番待ちのところへ行くと、同じ第二レースを走るコイツらに声をかけられた。

……てか、こんなイロモノ競技で集結していい奴らじゃないだろうが。運次第の競技とはいえ、今から辞退するってのはー。はい、無理ですよね。わかってます。やりゃあいいんでしょ、やりゃあ。

 

 龍園も橋本もわざとらしくニヤついてるし、知っててやりやがったな。清隆に至っては、ついさっきカッコよく負け犬の遠吠えったばかりなのに、早々に再会するとかコントに命懸けてる人生なのかよ。

 

 イラッときたが龍園と清隆に効かない事はわかっているので、橋本に八つ当たり。

 目線で隠し事がバレてるよと意味もなく吹いたらわかりやすく固まった。なかなかイジり甲斐のある反応だ。思わず笑ってしまって、そっぽを向かれた。

 でもホント、勘弁してくれ。僕が何をしたっていうんだ。

 

「うおおおおおおおっ!」

 

 内心で嘆いていると、いつの間にか第一レースが始まっていた。そして突如として逆走してきた池が、雄叫びを上げながら借り物を所望する。

 

「綾小路! 足を貸してくれ! あっ、左京もいるのか!? だったらどっちでもいいから足を貸してくれ!」

 

 まくし立てつつ見せてきた紙には「クラスメイトの左足(シューズ)」と書かれていたのだ。

 

「僕はクラスメイトじゃないから駄目なんじゃね」

「てか、オレが貸しても走れなくなるだろう……。走者以外に頼んでくれよ」

「げっ!?」

 

 しかし、逆走して時間をロスしておきながら、この池が1位になるのだからわからない。

 この後、Aクラスの戸塚、うちのクラスの浜口が順にゴールして、Cクラスの石崎が最下位となる。パッと見の運動能力なら石崎が断トツっぽかったのに、パソコン?ノーパソ?なんかを指定されたばかりに……。

 運ゲーここに極まれりである。

 

 

 

 他人事でいられたのもここまでだ。僕を含む第二レースがすぐにスタートした。

 龍園と橋本が先を争い、清隆がその少し後ろを走っている。僕は勿論、安定の最下位である。手加減などせずとも、明らかに手を抜いている清隆よりも遅い。いや、手抜きもしてるので余計に遅れてるんだけども。

 

 4人の中でだいぶ遅れて最後にクジ引き……しようとしたら、何故かくじ箱の前で固まっていた清隆の言葉が漏れ聞こえてきた。

 

「……嘘だろ?」

「真実はいつもひとつ!」

「……」

 

 清隆は、外見詐欺の死神の決め台詞に何か返すことすらできないまま、僕を無視した。

 ととっ、清隆に構っている余裕はない。僕も引かなければ。えっと、この箱だよな。

 そこから取り出した四つ折の紙を開く。

 

『好きな人』

 

…………あー。こういうイベントでありがちなジョーク寄りの傍迷惑なお題か。その想定の中では、比較的簡単なお題と言える。

 何故なら、そこらにいる適当な『好きな人』を連れていく手があるからだ。なんならジョークに理解がある野郎でもいい。だが場が盛り下がってしまうことを考えると、空気を読んで異性から選ぶのが正答だろう。

 それなら、自分が付き合えたら嬉しくて、フラれても「お題だから」で誤魔化せる奴が良さそうだ。

 

───って、愛里一択じゃねぇか!

 

 付き合えたら嬉しい奴はいなくもないが、流石にお祭りだからとほぼ付き合いのない橘書記にこれをするほど頭おかしくはない。椎名と鬼龍院先輩は、誤魔化しが通用する相手じゃない…と思う。そうでなくとも、借りが多大な人に頼むのは気が引ける。

 

 すると、あと付き合いたいのは愛里しか残らない。

 愛里は愛里で借りもあるが、時々すごく可愛く見える場合があるので、逃げ道がある今は当たり得だ。当たっても砕けない道が用意されてるなら、これまでの付き合いと優しさに甘えて当たってみるのも一つの手だろう。

 

 女友達にはまだ早苗と櫛田がいる?

 競技でも冗談でも、あの性格終わってる奴らにこんなカードを渡したら、どんな風に利用されるかわからない。少なくとも、精神的になぶり尽くしてくるのは確実だ。

 なぜなら僕が逆の立場だったら、君が泣く(比喩)までなぶるのをやめないッ、するからだ。

 

 その上、櫛田の場合は彼女とクラスが同じ愛里の目の前で誘う事になる。万が一にも、あの悪魔をLOVEの意味で好きだとか勘違いされたらコトだ。愛里の目の前じゃないにしろ、早苗も同様に。

 このように様々な要因もあり、他に候補がいるなら邪神と悪魔は避けるべきだと算出できている。素直に愛里に頼むのが、情としても理としても僕の美学に沿っているだろう。

 

 一方、清隆は無言で借り物の変更を申し出ていた。

 確か30秒待機とかいう負け確ルールだったと思うのだが、それほどまでに不可能なお題でも引いてしまったのだろうか? しかも引き直しても、もはやレ○プ目と呼んで差し支えないのは変わらない。人のことは言えないが、不運な奴である。

 

 

 

 愛里は友達以外には、上手く空気に擬態?している。

 一応アイドルをやっているとは思えない有り様だ。友達に見せる残念な部分も、あの櫛田にさえかなりの期間隠し通していた。それも最近はだんだん剥がれてきているものの、基本はあくまで僕達の間でしかそうはならない。

 それだけ気を許してくれてるのかもしれないが、某ギターヒーロー染みた奇行は驚くので少し控えてほしい。

 

「うぇっ!? ほぁーーーっつ!!?」

 

 クジで引いた紙を見せて同行を頼むと、人前で大きな奇声を上げる愛里である。

 櫛田に紙を見られると面倒な気がするので、せめて人語でお願いできないだろうか。いや、かろうじて英語っぽい言語ではあるが。

 

「待ってくれ。一応言っておくが、これに下心は……あ、あんまりないはず。純粋に愛里が好きな人なだけだ。付いてきてくれる以外は何もしなくていいし、付き合うとかも特に求めてないから安心してくれ。そして落ち着いてくれ。頼むから」

「おち、おちちちちっ。お、落ち着いてるよ、わたしは!? これ以上なくっ! でもいきなり…す、好きな人って言われ」

「おう。そもそも好きじゃなかったら、友達でさえないじゃん。そんな寂しい想定はしたくないな。てか、どう見ても」

「おおお落ち着いてるって! たたた、多分だけど!」

 

 ふむ。自己申告に反して、愛里のこの慌てよう。もしかして下手な告白よりも恥ずかしいことしてないか僕。正直、LOVEの対象がいないので、LIKEの中から厳選したつもりだったけど、愛里の奇行を誘発しているのが僕自身という疑惑が湧き上がってきた。

 

 とはいえ、感情の機敏や本心を見抜く力は僕達の中でも愛里がず抜けている。つまり僕が言ったように、本当に付き合って欲しかったら確実にエロい目で見てしまうだろうし、愛里もそれを見抜くはずだ。

 だから、単純に好きってのが伝わっただけだと思う。

 

……そんなわかりきった事実で、なんでこんなに動揺するんだ?

 

 謎が謎を呼んでいるが、愛里と僕の場合、付き合えたとしてもイチャつけるのとセックスくらいしか関係に変化は起こらないだろう。これまでの友達付き合いも、多少違ってはきても続行するのが自然な気がしてるし……。

 一瞬、恥ずかしい事しちゃった気になったけど、愛里内部で不可思議な化学反応が起こったか、もしくは人前に連れ出される拒絶反応的なモノと考えるのが妥当か。わかってはいたけど、愛里しかいないからしかたない。運ゲーに破れたからには、運命ごとねじ伏せるしかないだろう。

 それなら。

 

「お、それで落ち着いてたのか。んじゃ、愛里。悪いけどちょっくらゴールまで頼む」

「……落ち着いて、落ち着く───事なんかできないよっ!!」

 

 よくわからないし、荒ぶってるのはスルーして、ささっと借り物競走を済ませてしまうのがいいだろう。注目されないとわかれば、だいぶマシになるかもしれない。

 この際、断られる事は考えない。精神的には、押して押して押し倒すのである。愛里なら頼まれてくれると信じている。

 

「ぁ……あっ? ごーる???」

 

 ついでにここ最近経験値を貯めてようやく耐性(イロモノ女子限定)が付いてきたので、競技のためという大義名分付きの役得として、どさくさ紛れに手も繋ぐ。

 前にしたおんぶによる肉まんの押し付けや膝枕、度重なる一之瀬へのセクハラ、早苗に取り憑かれている経験が生きたといえる。手を繋ぐだけで冷静ではいられなかった数ヶ月前より、僕も成長しているのだ。だいぶやるべきことも消化できたし、リスク低減ができて少しでも目があれば、自分からどんどん役得を獲得しに行くのが吉である。

 

「くっくっく。時が来たらなんか楽しくなってくるはず───時は来た(橋本真也風に)! 我が世の春がきたのだ。そこをのけ、憐れなお一人様ども」

「ふぇええ……?」

「……妙だね。時が来るのが早すぎる。左京君の平常運転だけど。ここは素直に応援しようかな」

 

 また残念ながら早苗やら椎名やらには見せつけられないが、櫛田は近くに…ゴールまでのルート上にいる。いつかの雪辱を晴らす為にも、この好機に煽りまくってやる。

 と思ったはいいものの、あまり悔しそうでなさそうなのは微妙。それどころか堀北さんなどが何か言って来ようとした機先を制して、素直に集まってきたDクラスの奴らを交通整理して道を作ってくれた。

 

「頑張ってね、佐倉さん」

 

 しかも愛里へのエールまで送ってやがる。他クラスの僕を助けるように見えてしまわないように。孤立しないように。自分も応援してるよと。

 裏や邪悪さが滲み出てようとなかろうと、櫛田のこういう部分こそ僕が気に入ってるわけだが。

 でもさりげなくそこまでしてくれるとかコイツ、本物の櫛田か? といつも思いたくなる。猫かぶり状態での博愛主義は、いつまで経っても理解不能なままである。

 

……まぁいい。なんか愛里もふにゃふにゃしてるし、ふわふわしてる。最短距離を進撃させてくれるなら、好意に甘えておくのが愛里のためにはなるだろう。

 流石にこんな状態の愛里とは走れないので気遣いつつ、ゆっくりと手を繋いだまま二人でゴールに向かって歩き出した。

 

 後で聞いた話だが、僕の参加した第二レースは何気に他の借り物も群を抜いて難題揃いだったらしく、清隆が『友達10人』から変更した『好敵手』で四方を連れてギリギリ時間内の最下位。龍園が『生徒会役員』で交渉に難航しつつも学を連れて3位。橋本が『嫌いな人』で、悩んだ末に相談してきたと思しき残念美人(午前に坂柳さんと来訪した人で、名前は神室というらしい)を連れて2位。僕が『好きな人』で愛里を連れて1位という結果になる。

 

 それぞれ手間取るのが確実なお題になっていたおかげで、1位を盗み取れたのは幸運だったのか不運だったのか……。

 下手しなくとも、後に引きずりそうなお題を出すのはセンスを疑う。学校的に今更ではあるけども。

 清隆以外はそんな関係性じゃないからなかったが、参加者全員お題を作った奴にふざけてんのか、と心を一つにしたような共感と疲労感を感じるレースだった。

 

 

 

 

 龍園がゴールするやいなや、学が僕のところへやってきた。

 

「夢月。鈴……南雲のことで言いたいことがある。前にも少し話したが、学校制度にも深く関係してくることで」

 

 堀北学という男。そして橘書記。

 この二人の最上級生は、僕が高度育成高等学校に来た最初期から…愛里や四方達に次ぐ長さの知り合いだ。

 学年が違うこともあって関わりこそそう多くはない。だが僕は学と友達になる前から、月1か2くらいの頻度で話す付き合いはあった。ちなみに愛里は、今でも橘書記と結構頻繁にメールのやり取りをしているらしい。

 

 さて、ある程度の付き合いがあるというのに、いつまでもむざむざと学に説教されるままにしておく僕だろうか?

 断じて否である。

 

「―――学。2年先輩のお前に言うのもなんだが、学は暗闇の荒野へ一歩を踏み出すことを恐れているだけだ。それは感謝とも不安とも微妙に違う」

 

 これぞ話の流れをぶった斬る秘奥義・説教返し!

 近代インドの政治指導者、ガンジーが手紙に残した『貴方達は平和が大事なのではなく、恐怖で戦争を嫌がってるだけだ』という意訳アレンジだ。内容には、あえて南雲や学校制度に関してを採用した。

 本当は妹の変化を聞きたいのに、南雲の策謀やら学校の改革やらのアレコレを口に出して説教に繋げてきちゃう拗らせた『お兄ちゃん』には、武力以外の方法で徹底抗戦を貫いたガンジーの言葉が相応しい。

 個人的に学には、世の中の景気が上向いた時に人手不足倒産させるようなお偉いさんになってほしくない。僕の想像だが、この学校の流儀にどっぷり浸かりきった者の行き着く先はおそらくそこだ。武力を整えられない中、非暴力・非服従を貫いたガンジーの思想を混ぜることで気づいてほしいという祈りを込めておいた。

 

 組織を守るためとか不況とかを理由に下を必要以上に締め付けるブラック企業ほど、景気状況の好転で一気に人手が逃げ出すのは当たり前である。

 尤も、これはひと昔前にブラック化を防いでた要因なので、現在はブラック化しても気にしない経営者は多そうだが。

 これで何か変わるとも思わないが、説教回避のついでに僕の考えに一理あると思って心に留めてくれたら幸いだ。何が作用して影響が出るかわからないなら、こまめに友達を悪い方向から遠ざける配慮くらいはすべきだと思う。

 

「誰のためでもない。僕は僕自身のために行動する。

 学にはそういう意思や覚悟があるのか? 自信を持ってあると言えないなら、まずは断固たる柱を手に入れないとな」

「───っ。俺は……」

 

 さっきまで隣であわあわしてた愛里が良いとも悪いとも言えない微妙な表情をし出したが、逆に短めの説教風味で出鼻を挫くことで説教させない。これが普段の学相手には効果的なので、呆れられようと止めるつもりはない。本気で軽蔑されそうなら軌道修正するが、この調子なら大丈夫だろう。

 

「とりあえずなんか聞きたいことがあるなら、素直に『ソレ』を聞け。学は変に回りくどく話したりするから誤解されるんだ」

 

 そして改めて学に意識を戻し、隠せてない隠し事を自分から言い出すように促す。

 能力の高さは明らかなのに、清隆や南雲に似て挑戦経験が少ない。だから僕程度の誘導にも引っかかる時があるのだ。

 

「……………………お前は、夢月が……鈴音に『あの』成長を促したのか?」

 

 ふた呼吸ほどの沈黙を挟んで、学はようやく自分の疑問を口にする。

 当然、真剣に踏み込んだ友達には、僕も真剣に正直にわかる部分を返す。

 

「いんや? まず髪以外、具体的にどう変わったのか僕にはわからない。どういう種類かはさておき、覚悟を覗かせる視線や発言を聞く限り、早苗や僕も関係してはいるっぽいけど。

 でも多分、堀北さん…妹さんの変化した最も大きい要因は、妹さん自身と……あー。知ってるかわからないが、綾小路清隆って奴だろう」

「えっ? 綾小路君が?」

 

 アイツの普段が色々アレなせいで愛里が思わずといった風に小さく零すが、ここで清隆の存在を伏せることは不義理に当たる。学にも清隆にもだ。

 だから、よくわかってないこともあって、学の言う成長とやらを変化に置き換えたのである。

 

「あの男か……。勿論、知ってはいる。1学期と前の天文部室で数度話をした程度だが、鈴音の成長を手助けしていたようだったからな。不自然に実力を隠すのが面白いと思い、夏前には一度四方と共に生徒会へ勧誘したこともある。普通に断られたが」

 

 ただ勘が働いてるのもあり、なんとなくこのどこか似ている学と清隆の縁を太くしといた方が良い気がするのだ。出会う以前の早苗と櫛田みたいな相性の良さを感じるといえばいいか。大した手間でもないし、できるなら機会や動機付けなんかを後押しするのが、僕含めた三人共が楽しいかもしれない。

 

 それにしても、この感じだと学は妹を嫌ってる風じゃないな。言外に感謝の念が見える。

 ゆえに、なんらかの事情で本人に直接ができないなら、真相の近くにいるだろう清隆と話すことを勧めてみる。これで交流ができれば、少しは安心できるようになるだろう。

 

「だったら、ちょうど清隆がゴールするところだ。気になるなら、ある程度腹を割って自分で話してみろ。あの意味不明な天才の考えも、学なら理解可能かもしれない」

「意味不明……天才……。そうか。夢月にそれを言わせるか……」

「あ、あの。堀北会長。夢月君って、よく友達みんなをそう言ってるから、あまり本気で受け止めすぎない方が……」

「失敬な。僕がおかしいんじゃない。周囲が天才ばかりな状況がおかしいんだ。愛里もその一人である自覚を持て」

「……わたしを天才なんて言う夢月君の自己評価が凡人ってのがまずおかしいんだよ」

「ははっ。それこそが正当なる評価というものだよ、愛里君」

「はぁ……わたしは逆だと思うけどなぁ」

 

 逆? 愛里が凡人?

 それ、ジョークか? 面白いコト言うなぁ、この不思議生物は。

 口に出して「やめろっ。お前が出てくるとややこしいことになるから」なんて返されたらキャラ崩壊しそうだから、ネタは自重するけども。

 と、そんな風に余裕ぶっていられたのは、学が愛里に助力?するまでだった。

 

「佐倉愛里だったな。お前には言わずもがなだろうが、夢月は天才や凡人、『好きな人』といった評価や上っ面に実はあまり重きを置いていないぞ? この男の言葉を常識的に受け取ると思い悩むことになるから気をつけるといい」

「なんてこと言うんだ。そんなわけ───」

「ああ、はい。それは重々承知してます……」

「愛里!?」

 

 そうかそうか。君達はそういう認識してる奴らなんだな。

 てか、学はともかく、リアルのギターヒーローになれそうな愛里にそう思われてるとか、何気にショック。周囲に比べたら、僕など常識人以外の何者でもないはずだが。

 どうして(彼らの認識は)こうなった?

 

「ふっ、なかなか面白いコンビじゃないか。

 さて、俺は助言通りに綾小路と話してくる。鈴音の『変化』には、アイツが関係している可能性が高そうだからな」

 

 と、小さく笑って暗に爆弾を投げ込んできたので、なに勝手に良い雰囲気っぽくして去ろうとしてるんだよとばかりに、僕は爆弾を投げ返す。

 

「ああ、学。最後に一つだけ。

 南雲が心配なら、自分で当たれ。気づいてんだろ。多少猶予はできたかもだけど、このままだと拗れるぞ」

「……心に留めておこう」

 

 そう言い置き、考え込むようにテンションを落とした学は、ゴールしたばかりの清隆と…四方の方へと去って行く。

 勿論、僕は愛里にこんこんと自分がいかに常識人であるかを、根負けするまで諭し続けるのを再開するのだった。

 だいぶ機を逸した感はあるが、学なら大丈夫だろう。

 

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