ようキャ   作:麿は星

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 昨日、感想返信とオマケの活動報告したのに、本編投稿を忘れた。
 稀によくある脳がところてん状態みたいになってたのかもしれない。そのぶん、見直しはできたけども。



117、勘

 

 学が去り、ここから次の二人三脚までは少し時間があるので、愛里と共に人混みに紛れつつ校舎の方で身を隠す。

 隠密能力が高い愛里となら、チート級の洞察・探知能力を持つ身内枠か、ストーカーのように僕か愛里を注視している者くらいにしか僕達の行方は追えないだろう。

 

「左京君は、あの生徒会長の頼みを聞くつもりなんですか?」

「佐倉さんをそろそろ返してほしいんだけど?」

 

 しかし椎名と櫛田が当たり前のように追尾してきた。

 特に椎名は、合流するやいなや学とのさっきの話や棒倒しの最中、どころか数ヶ月前の話を知っているかのように聞いてきたが……驚くに値しない。それなりの友達付き合いの中で流石にわかってきている。

 コイツは優れた思考力と肝が座ったやる時はやる女だ。

 

「頼みってアレだろ。南雲が色々ぶっ壊そうとしてるからどうにかしよう的な。断ったに決まってる」

「そこまでは知りませんでしたが」

「そうなん? どっちにしろ僕がやるわけないじゃん」

「でも夢月君はさっき……」

「できることはするさ。学は友達だからな」

 

 椎名は…薄く笑ってるから冗談交じりかもだけど、愛里は納得がいってないみたいだから少し詳しく説明しておく。ないとは思うけど、僕が誰も彼もを助ける表櫛田や一之瀬のような優しい奴みたく見られたら面倒くさい。

 櫛田にはー。悪いが少し待ってもらおう。誤解されたままでは問題だ。

 

「はぁ……。キツイことを言うようだけど、学は事を荒立てたくない。変えたくない。目の前の窮地に陥ってる奴を助けたい。おそらくそれだけしか考えてないんじゃないかな」

「あっ、それって……」

「そう。これこそさっきの暗闇の荒野云々だよ。

 学の言ってる事はパッと見で良いように聞こえるし、実際善行には違いないが、後の事を考えてない。抑止したらそれで終わり。頼みを聞けば平和ではあるけど、南雲…というか学校なんかの仄暗い匂いをさせてる存在がある限り、裏ですぐなにか違う問題が発生するだろう。

 僕はそんなところに飛び込みたくない」

 

 ところで椎名と愛里はそうでもないけど、いつもの笑顔を浮かべてニコニコと無言で話を聞いてる櫛田が微妙に怖い。自分本位な部分を多く持つコイツなら、僕の言ってることも理解できてると思うんだが……。

 

「……あの人が自分でそれを監視するっていう考えは」

「学年が違うことをさて置いても、考えが及ばない。学も改革や実力を発揮させることなんかに実は興味ないから。制度を変えないように、直近の危機に動くだけだ。なぜなら、この学校の方針に忠実に従えば確実にそうなるからな。あそこまで『泥』に浸かってると、できると思えることは相当制限がかかるだろう。

 そして確信を持って言える。力を持つ者の責任は、それでは絶対に生まれない」

 

 だから人を惹きつける人柄や魅力はあるし、努力量も能力も天才クラスではあるが、そうじゃないかなって思った後も南雲を放置気味にしてたんだろう。まぁ学も高3の17~18歳だし、いくつかの意味でわかりにくい社会人経験を必要としそうな思考なので、しかたないとは思うけども。

 学生らしくわかりやすい二元論で乱暴に例えるなら、諸悪の根源である南雲を抑止しようとして、でも動けなかった(動き方がわからなかった)青年って感じだろうか。尤も、僕視点だと諸悪の根源は別だが……。

 

 その証明として、学にとってこの学校最後の体育祭。

 僕の提案を下地に利用した南雲に乗って僕を敵方総大将にできたくらいなんだから、自分と南雲の陣営を分けて公私混同に見えないようにした上で、2・3年の総大将対決…みたいな変更もできたはずなのだ。

 むしろ南雲はその対抗策を期待していたかもしれない。そうなってたら、別の問題が発生するものの綺麗に片付くからだ(南雲的には)。

 しかも葛城や一之瀬、なによりも橘書記を……ついでに僕も、自分で守りながら憂いなく決着をつけられる。これができてこそ、力を持つ者の責任を理解しているといえる。

 

 しかしどこかでその目はないと見たから、南雲は自分が生徒会長になった後の裏工作にリソースを割こうとしていたんじゃなかろうか。鬼龍院先輩も南雲に向けて「気持ちがわからないでもない」みたいな発言をしてた事があったので、これまでにも何かしらがあって確信を得たと思われる。

 そこへ割り込むように視界に入ってきた僕に先手を譲ることになったと。

 

 正直、希望的観測で考えても、もう学は整えられた場で対決するか、多少の手出しはできても見ていることか待つことしかできなくなったように思う。

 僕にも以前の愛里の一件で似たものに覚えがある。ビックウェーブの機会を人任せにしてしまった代償だ。

 

……この辺の問題も、あわよくば清隆に丸投げできないかと思案しつつ、僕達の方へ向かってきている四方と清隆が見えたので、“二人”を促し、話を櫛田が持ち込んだモノへ切り替えた。いや、意識して空気を入れ替えた。

 本人不在の中で、あまり突っ込むような話題ではないのだ。

 

「で、櫛田は愛里を返してってことだったが……」

「うん。借り物を持ってかれちゃうのはちょっとね。ましてクラスメイトだし」

 

 櫛田が追いかけて来た理由は理解できる。

 確かにそれは道理なのだが、愛里をチラ見するとまだここに居たいって微妙に訴える目をしていた。願望が見せる気のせいかもだけども。

 僕としても貴重な癒し枠であるし、もう少しだけ見逃してもらえないだろうか? 櫛田も多分、一応見に来ただけっぽいし。

 それなら、ちょっとおちゃらけてみるか。不思議と機嫌は良さそうだから乗ってくれるかもしれない。

 

「ふむ。……はーっはっはっは! 愛里はすでに僕が頂いた! 返して欲しくば、僕に大福を献上するがいい!」

「素直には返さないってこと? いや、というかなんで大福?」

「……えらく急激に雰囲気を変えましたね」

「…………い、頂かれ……あぅう」

 

 あっ、愛里の頬を見てたらつい大福なんて言ってしまった。ここから軌道修正できるか? てか、相変わらずノリがいいな。椎名は呆れを滲ませ出したが。

 なので僕は自分が最も格好良いと思っている表情を浮かべ、ジョークで落としにかかった(僕視点で)!

 

「ふっ。大福で思い出した?が、今日は特別にセニョリータ達も借りていこうかな、ベイビー。

 勿論、死ぬまで借りてくぜ?」

「「「……」」」

「あまっあああああぁいっ! って、言ってくれてもいいんだぞ? 大福だ…けに……?」

「「「……」」」

 

 渾身の大人ジョーク…しかし、結果は圧倒的沈黙である。対象年齢が高すぎたか……? 三人が真顔になってしまった。

 ちょっと不安になってきた。これは謝っておくのが正解か?

 

「あ、あの。何か、何か反応ないと、その……。すいません、調子乗りました。2割くらいは冗談です」

「ほぼマジじゃない。ふざけてんの」

「ま、まだギリギリ無罪じゃないかな。2割も冗談だよ?」

「法律にも校則にもそんな曖昧な決まりはありませんよ」

「夢月君……そういうとこだよ」

「椎名と愛里が援軍を送ってくれるかと思ったら、撃たれたんだけど」

「撃たれるようなこと言う左京君が悪いと思うんだけど」

 

……死にたくなるほど滑った。

 この直後に四方や清隆、更には何人かも合流してきたが、早苗が来てくれるまでおしゃべりな櫛田でさえ一瞬固まって動けない事態へと陥った。しかも焦って軌道修正を頑張ったら、失言に次ぐ失言で総スカンである。

 何故だ、何故(女友達に)勝てない! 軽くジェ○ドったせいか!? でも少なくとも愛里や櫛田は借り物競走まではなんかこう、いい感じだっただろ!

 マジで女子の感性がわからねぇ。

 

 しかし、これはアレだ。僕に軽薄系のジョークは無理がありすぎる、と悟らざるをえない。というか、何故僕はこんなことを言ってしまったのか。

 後悔しつつも、なんとか普段の雰囲気に戻そうと、孤軍奮闘のアドリブで競技の実況&解説を始めた。

 

 

 

 借り物競走と次の四方綱引き。

 四方綱引きは大して時間のかからない競技だが、借り物競走は出番さえなければそこそこの暇ができる。そうでなくとも最初の方に出場した1年生はだいぶ待たされる。

 

 なんせ3レース目の柴田、4レース目の神崎、女子1レース目の早苗、女子4レース目の一之瀬。彼ら彼女らが終了してもまだ2年・3年が残っている。その上、難度高めだった僕の例を出すまでもなく、1レースに結構な時間がかかるのだ。おかげで、推薦競技に何も選ばれていない一般生徒に出番が回るまでは、小一時間ほど待たなくてはならなかった。

 ついでに言えば運の影響が大きいので、身体能力はそれほど重要じゃない。これはBクラスでは、僕と早苗以外の誰も1位を勝ち取れなかった結果が証明している。まさか柴田と一之瀬が最下位になるとは思ってなかった。

 

 四方と清隆だけでなく、競技を終えた早苗や…何故か鬼龍院先輩や高円寺まで来ており、流れで実況しながらその後の進行をみんなで観戦した。一之瀬や掘北さんにまでここを察知される程度(なんか遠くから見られてる)には人数が増えていたが問題ない。

 清隆だけは、ちょっと話して堀北さんのところへ行ったが。……それを見送る櫛田の目は僅かに猜疑の色を帯びていた。早苗といい、清隆自身が平常運転で不審がらせてしまうサイクルになっているのだろう。

 

 借り物競走とは逆に、四方綱引きはもろに身体能力、パワーに直結する競技だ。

 四方綱引きでは須藤が無双して、物凄く目立っていた。ちなみに須藤が無双できたのは、アルベルトという枠外の強者参戦がなかったからだろう。知り合いは、うちから神崎を筆頭としたパワー系の奴ら、Aクラスは葛城と目立ってた野武士(名前は誰も知らなかった)、Cクラスは龍園と栄一郎が選ばれていたが、ナニかから解き放たれたようにさえ見えた須藤の敵ではなかったようだ。

 

 尤も、声が大きく勢いのあった須藤一人が目立っていたというだけで、彼を支えた平田など残りの3人も良い仕事をしていた。何気に学力や生活態度は別にしても、運動能力ではCクラスやDクラスに優位があるのかもしれない。参加しなかったアルベルトや高円寺、清隆を考えると、C・Dクラスには個人能力が偏って高い奴らが多い気がする。

 勿論、クラスの平均数値で算出すれば、それでもAクラスやBクラスが上回ってる可能性はあるが。

 

 なにはともあれ、絶対的なエースを擁し、そのエースがどれだけたくさんの競技に的確に出場できるかが攻略法の一つだろう。

 四方綱引きの最終結果は、1年男子は須藤・平田が出場したDクラス、1年女子は一之瀬・網倉のBクラスが辛勝した。また2年男子は南雲が出場してなかったのが影響しているのか桐山のいるBクラス、女子はAクラス。3年は学と藤巻が出場してたせいか、男女ともAクラスが勝利をもぎ取っている。

 

 ただ残る競技は、二人三脚と1200メートル混合リレーである。

 得点表示は集計中のままで見れないが、ざっと計算しても趨勢は決しているだろう。仮にここから全敗したとしても白組勝利は揺るぎない。せいぜいMVPとクラス順位が入れ替わる程度だ。

 

 僕はここでようやく、ふぅと一息つくことができた。

 夏前の停学明けにもしたが、クラス全員の前での謝罪はかなり嫌なのでプレッシャーではあった。とりあえず、得点的にそれがなくなったのは大きい。クラス単位ではまだCクラスと競合状態だが、白組勝利は確定的に明らかだろう。

 あとは二人三脚で早苗に振り回されて、四方の活躍を見守るだけである。あ、ついでにリレーは僕がアンカーにされてるから、一緒になりそうな奴らが面倒くさくない奴らであってください、と祈っておこう。総大将の責任は果たしたと思われるので、もう気楽になって大丈夫だ…よね?

 

 

 

 そこで今更にはなるが、Bクラス所属であり天文部のエース達、四方二三矢と東風谷早苗の長所・短所に言及しておく。

 何故かというと、この二人は二人三脚において最も必要と言って過言ではない部分に共通する致命的な欠陥を持っていたからだ。

 練習時に判明したその欠陥とは、他人に合わせるのが下手すぎるということ。

 

 四方は普段は人当たりもいいし、協調性もある方だ。しかし、集中すると周囲の声すら聞こえなくなる。

 勿論、それこそが四方の強みではあるし、瞬間であればコンビネーションも充分こなせる。ただ、最初から最後まで中途半端に他人に合わせるのは不得手なのだ。

 まぁ、パッシブで制御できずに集中してしまうという強みでもある特性を持つ以上、しかたないだろう。キャットルーキーでの成長後を参考・比較しても完成度が劣るのは当然だ。

 

 早苗も四方に近いものの、微妙に違う意味でコンビネーションを苦手にしている。素で身体能力が高いので相方候補が限られる上に、他人のリズムに微調整して合わせると両方の能力がとんでもなく落ちるのだ。これを避けるには、無理にでも早苗に合わせるほかない。

 玉入れでも早苗単独で動いていたのは、一之瀬や安藤のようにスムースに玉を受け取れなかったせいで、あの配置にするしかなかったのである。

 

 また騎馬戦は騎手と馬で役割が完全に分かれている競技だからまだしも、二人三脚のような相方に合わせるのが必須になる場合は単純にいかない。

 試しに短距離男女最速タイムの早苗と四方で組ませた際は、僕と姫野コンビとどっこいどっこいな結果になった。二人とも基本真面目な性格(早苗の言動からはそう見えないが)だけに型にはめるのもできなくはないが、最適解には程遠い選択なのだ。

 

 色々な相方を試しても、四方が集中しないようゆっくり走る事の可能な白波が最もマシなタイム。ここ何ヵ月かで身長が数㎝伸びても、だいたい白波と同じくらいの体格というのもある。

 早苗に至っては、そもそも合わせられる男子が僕と四方だけで、四方の次に組んだ柴田は散々な結果。他クラスメイトを練習すらせず拒否したらしい。つまり、まともに試すこともできないのだ。

 まぁ、四方と苦手分野が被って結果が奮わず、その四方よりも柴田とのコンビがアレだったので気持ちはわかる。何気にその前に僕と組んで、そこそこの結果だったのも影響あるかもしれない。もう僕でいいや、みたいになったのだ。

 

 柴田と組んだ時、何があったって?

 それは早苗と柴田の名誉のために、伏せさせてほしい。ただ僕が言えるのは、たった一度軽く走っただけなのに6回…いや、二人が砂まみれになったとだけ。

 柴田の次に早苗の相方予定されていた神崎が、深く安堵の溜め息を漏らしたあたりでなんとなく察してくれ。

 

 うんまぁ、何が言いたいかと言うとアレだ。

 お試しのペア決めが、そのままスライドしてきたのだ。つまり早苗の相方は僕ということになった。

 よくあることだ。うん、あるあ───ねぇよ、バカヤロウ。

 アイツに合わせるの、どんだけ苦労すると思ってんだ。クソ、愛里か椎名が同じクラスだったら、役得以外のナニモノでもない競技へと変貌を遂げていたというのに……。

 一応、あの最初の練習時以降に、仕上がってきた柴田・一之瀬ペアと再戦したが、僕の疲労を対価にまたしても勝ってしまった。これが早苗の相方を決定づけたといえるだろう。

 

 

 

 というわけで、邪悪四天王の一人、早苗が二人三脚での僕の相方となっている。

 

「それにしても、これって協力し合う競技なんですね」

「なんだと思ってたんだよ」

「相方を逃げられないようにして殴り合う競技」

「アホかっ!? こんなチェーンデスマッチか相撲でもする気か? そんなのお前としたら、明日の朝日が拝めなくなるわっ」

「チェーンデスマッチはともかく、相撲は嫌ですねぇ。上半身裸にならないと駄目じゃないですか。セクハラですよ?」

「わいせつ物陳列罪で普通に捕まるわ! うら若き乙女が話を18禁に持ち込もうとするんじゃねぇ!」

「……というか、何故に相撲が出てきた? 別に繋がれてないだろ、あれ」

 

 ねぇ、本当に大丈夫? 冗談なのはわかってるけど、愛里がいないとコイツの発想がヤバすぎる。ここは効果薄くても釘を刺しとくべきか。

 

「それと練習初回みたく本番でまた僕を引きずったら、穴という穴にうまい棒ねじ込んでやるからな」

「私のファンの性癖を捻じ曲げないようとしないでください! それは本当にR-18演出です!」

「安いもんだ。性癖の一つや二つ……」

「ファンには愛里さんもいますけど、それでも?」

「あ、ごめんなさい。性癖の話はやめよう。僕は愛里に嫌われたくない」

「早すぎる掌返し!? 前々から思ってましたが、夢月さんは私に不敬すぎます!」

 

 さっき集まった時に聞いた話、愛里本人は高円寺とのペアらしく待機場所にもいない(高円寺が出場してない為)が、人伝に僕が鬼畜に見られたらコトだ。話を変えておくのが無難だろう。

 

「てか、佐倉以外の他の奴だったらどうなんだよ? オレや堀北だったらいいとでも」

「そりゃあ勿論いいよね。つーか、清隆も見てみたいだろ? うまい棒が身体の各所に刺さりまくった早苗」

 

 そんな風に言葉のドッチボールを投げつけ合う僕と早苗だったが、近くには何気に一緒のレースだった清隆と堀北さんペアもいて口を挟んできた。

 なので、清隆へベクトルを誘導しておく。清隆はわざとなのか素なのか、鳴いて撃ち落とされる雉の芸風とM気質も持っているので、こういう場合はよく失言してくれるのだ。

 

「……ごくり。怖いもの見たさな興味はあるな」

「そんな非人道的な想像で生唾飲み込むなんて……綾小路君。貴方、どうしようもないわね」

「……サイッテー」

「待て堀北、東風谷! これはつい乗せられてしまったんだ! オレは悪くない!」

「あややっ、また僕のせいにするつもりか? 女子達の前で穢らわしい欲望を見せたのは清隆じゃないか」

「…………本当に穢らわしい」

 

 軽く水を向けると、思惑通りに清隆が失言してドツボにはまっていく。

 やはり普段だと、楽器を弾けないのにバンド入りしようとした某逃げたギターくらいに見通しが甘い。おかげで僕も矛先を逸らすのに重宝している。

 これから大変なのだし、ここで介入し、清隆にお裾分けしつつ他人のふり。もしくは早苗と堀北さん側に付くのが、体力も温存できて一石二鳥だろう。

 

「まったく。綾小路君は恥ずかしくないの」

「そうだそうだ! 清隆の鬼畜外道! 女の敵!」

「…………オレは今、夢月の話術の恐ろしさを体験した。い、いや…体験したと言うか理解を超えているんだが。あ、ありのまま今起こったことを話すぜ。

 夢月と東風谷が言い合いしてたかと思ったら、いつの間にか一言口を挟んだだけのオレが集中砲火を浴びていた。

 何言ってるのかわからないと思うが、オレも何がどうなったかわからなかった。頭がどうにかなりそうだった。丸投げとか誘導なんてチャチなものじゃ…断じてない。もっと恐ろしいモノの片鱗を味わった(後略)」

「またわけのわからないことを……。綾小路君は一度しっかり矯正した方がいいかもしれないわね。身の危険を感じるわ」

 

 しかし、なに言ってんだコイツ。

 キャラ的にポル○レフは違うだろう。どっちかというと、「貧弱貧弱ゥー!」とか、「真の勝利者とは天国を見た者の事だ」とかの方が合っている。そして「ありのまま(略)」なんて言い出すD○O様は嫌だ。

 あまりのミスマッチに、もしかしなくともコイツ、妙な事に血道を上げている悲しきモンスターなのでは? そんな疑惑すら浮かぶ。まぁ、堀北さんに加えて早苗の封印までというのは、流石に荷が重かったからかもだが。

 

 スタートのアナウンスまで、清隆へ兄顔負けの説教をする堀北さん。外見もそうだけど、変わったようでいて案外変わっていないのかもしれない。元々をほぼ知らないから何とも言えないが、今のところは気持ち丸くなったように感じる程度。

 ともかく、反論を開始した清隆と堀北さんの言い合いを横目に、僕と早苗は他人のふりを決め込むことにした。

 まぁ、仲のよろしいことで結構だ。足も大事なさそうと確認できたし、堀北さんが僕達を睨んできてたのも清隆へ流せて万々歳である。

 

 

 

 早苗に合わせる場合、僕の身体能力では限界近くまで集中しなくてはついていけない。ゆえに、スタート直前に自分を鼓舞する必要がある。

 

「ふっ。美少女と野獣のコンビに敵はない!」

「……夢月さん? 誰が野獣だと?」

「僕以外に誰がいると」

「この神である私のどこが野獣───いえっ、待ってください! 流れ的にそこは私が野獣でしょう!?」

「あー? そうしたら僕が美少女になるじゃないか。気色悪いNO性転換は当たり前として、せっかく褒めたのになんで怒ってるんだよ」

「怒っているというわけではなく!」

 

 野獣の身体能力に肖ろうと自分に自己暗示的な鼓舞をしていると、それが耳に入ったのか早苗から物言いが入った。しかし無駄に刺激しないようにわざわざ美少女なんて表現を入れたのに、なんでコイツは自分から野獣役を取ろうとするんだよ。

 中身はともかくガワは美少女に違いなく、その自覚もあるんだから、新たに妙な自覚を持ち始めるんじゃありません。

 

「はぁ。常日頃から自分を美少女って言ってるんだから、人に言われた程度で心を乱すな」

「夢月さんがさらっと言うからじゃないですか!」

「僕だからなんだって言うんだよ。やれやれ……。常識のない奴はこれだから困る」

「そ、そんな! もっと常識ない夢月さんに常識ないって言われた!?」

 

 どこに衝撃受けてんだよ、コイツは……。

 てか、早苗から常識ないって言われるとか、思考回路がショート寸前になりそうな言いがかりだ。明らかに早苗の方が常識外れだろうに。

 今はさらっと流すしかないけど、やっぱりコイツは一度わからせたいなぁ。

 

「さ、そんな事はいいから、そろそろスタートだぞ。守ってもらってる恩もある。なんとか今回も早苗に合わせてみせるから好きにやれ」

「……私は常識に囚われてませんからね!? 夢月さんを信頼して全力で走りますからね! もう後戻りはできませんよ!」

「どんな反論だよ。ま、それでいいんじゃね? なんとなく大丈夫な気がするし」

「また…なんとなく……」

 

 それにしても、体育祭というイベントのせいか普段と違う顔を見せてる奴が多い気がする。どうも女子連中全般に関して、今日は何かを読み違えてるように思えてならないのだ。

 人前でもいつもより大袈裟にわたわたするさっきの愛里や……今も騎馬戦の信者獲得作戦が奮わなかったのに、僕へ向ける雰囲気にほとんど変化がないどころか、上機嫌を持続させている早苗。内心では、信者が増えなかった事に落胆してるかと思ってちょいちょい試したけど、本当に気にした風もない。

 早苗や愛里に限らず、何か僕に理解不能な事態が進行しているのではなかろうか?

 

 まぁ理解不能ということは、思考を巡らす意味もないということ。ポカを連続させないように、目の前に集中するのが有意義だろう、きっと。

 だから、いつの間にか言い合いを止めて僕達を見ていた清隆と堀北さん…というか他の走者ペア共が醸していた妙な雰囲気も振り払うように、僕は『勘』と自己暗示に身を任せる準備をする。

 よそ事はいっか、と脇にうっちゃったのだ。早苗も何故か冷静?に切り替わってるし、これ以上は必要ないはず。

 

 僕自身はともかく、負けることで早苗をMVP候補から脱落させるのは画竜点睛を欠く。

 最後まで早苗がヒーローポジにいられるように手を抜かないのは、友達として当然のことだろう。勧誘作戦失敗の汚名返上にもなるしな。

 ふと視線を感じて上を見上げると、早苗の神様達が見てたので挨拶代わりに軽く手をふり、僕と早苗は二人三脚に挑んだ。

 

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