ようキャ   作:麿は星

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118、ハプニング

 

 間がそれなりに開いているとはいえ、本番含めて都合3回も走れば、凡人の僕といえど流石に相方の生かし方がわかってくる。型にはめないように好きにやらせて、僕が合わせるだけの大変ながら簡単な生かし方だ。

 その為、計算外の疲労も怪我もなく、僕と早苗の二人三脚は1位の結果に終わった。

 

 正直、僕は早苗の邪魔にならないように調整して振り回されてただけなので、コンビネーションとかは全く必要ない。単純に早苗のパターンと視線を先読みして、自分の身体をそれに最適化させただけだ。運動というより頭脳活動と言うのが近いか。

 こういう集中力の応用は、まだ四方よりも僕の方が経験値のぶん上回っているのだろう。ドヤれるネタが一つ増えた。

 

 しかし、レースに勝ってすんなりと滞りなくハイ終了というわけにもいかず、一之瀬公認のBクラスが誇る特大困ったちゃん・早苗が『僕と足を繋げたまま』無駄に清隆を煽りに行ってしまう。僕をズリズリと半ば引き摺ろうとお構いなしだ。詳細は省かせてもらうが、何かを試しているような面白がるような厭らしい態度で、性格と底意地の悪さを感じる煽りでもあった。

 それでも幸いと言って良いのか清隆は何も感じてませんよ、みたいなスルー加減だったのだが、問題は清隆の横で聞いてて引火した堀北さんである。

 

「どいて綾小路君……! その無礼者『共』に天誅を下せないわ!」

「下すな! 死ぬぞ!? お前が!」

「しませんよ。軽く返り討ちにするだけです」

「そっちも少しは自重してくれ! 夢月も困った感出して……」

「そーなのかー」

「呑気だなオイ! 夢月も無関係じゃないだろ!? ちょっとはやる気を見せろよ!」

 

 いや、呑気ではなく、ただ現実逃避しているだけだ。

 女子の煽り合いなど好んで参加するモノではない。僕はドMの清隆とは違うのである。引き合いに出される方が困る。

 てか……おまゆう案件の清隆は放置しておくとしてだ。なんだ、堀北さんってどんなヤツなんだ。

 

 早苗の煽りでも順位部分では冷静っぽかった事からすると、学を絡ませてた事で変な地雷でも踏み抜いたか? でも競技前からグルグル目(比喩)だったけど、表面上は冷静を装えてたじゃん。会うたびに性格が違うように感じるのはどうかと思う。

 これホントに激昂直前の「ふぅ、やれやれ。どちらも生徒会長のお兄さんには到底及びませんねぇ。私と夢月さんを相手にするには弱すぎました」って、早苗の言葉がここまで狂乱させたのか? もしそれが原因なら、どう対処すればいいんだよ。爆発物処理班か保母さんの管轄だろ、これ。

 百歩譲って早苗だけが目を付けられるならどうぞって引き渡すけど、あの感じからすると……。

 

「……なあ。ところで共って、なんか僕まで入ってない?」

「あはっ。夢月さんは私と一蓮托生ですよね!」

「やめろ。巻き添えとか冗談じゃねぇわ」

「…………ふふふ。私を無視するとは、どこまでも苛つかせてくれる……!」

 

 これである。早苗と僕を睨み付ける堀北さん。

 清楚な容姿と上辺の佇まいに対して、電光石火のチャッカマンの如き暴走女。これはある意味、早苗に匹敵するかもしれない。

 僕の勘は正しかった。

 一応、偽装や演技の線も疑ったが、それにしては僕達を睨む圧力が強すぎ、なおかつ部分的に支離滅裂で考え方…というか内面が幼すぎる。

 例えるなら、白波や坂柳さん級のリトルガール(それぞれ心技体)だ。勿論、堀北さんが心、白波が技、坂柳さんが体である。

 

「……我が学年の三位一体幼女かよ。3人で合体して真の幼女に覚醒するの? 集めちゃいかん封印の欠片が自律行動するとかやめてくれ」

「だ、誰が幼女なのか明確に言ってみなさい!! 事と次第によっては、孤高な兄さんを捻じ曲げた罪に上乗せしてあげるわ!」

「ぶっほ! あっははははは! 私がやるより夢月さんを連れてくるだけでもっと面白いじゃないですか! いい加減にしてくださ…うふはははっ!」

「お、おう……。これは…………もう。

 てか、他の幼女2人は誰なんだよ。ここ一応は高校だぞ」

「ふむ。よし、帰ろう。多少強引になろうと知ったことか。それには───」

 

 改めて接しても、ひっじょーに関わりたくない相手。迅速に撤退したい。しよう。

 率直に言えば、わけわからなすぎて怖い。まだなんか笑ってる早苗の方が理解できる。

 しかし、いまだ早苗の足と結ばれている紐を外せてないので逃げられない。なんてこった。

 

 大魔王からは逃げられないってことは、逆説的に大魔王以外からは逃げられるってことじゃなかったのか?

 所詮、バ○ン様は戦略的思考のできない超級ブラック上司。部下の離反を一つも防げない時代の敗北者じゃけえ、ってことか。

 それとも早苗か清隆に大魔王判定でも付いてんの。取り消せよ……! その判定……!

 

 僕は何を考えてるんだ……。なんて思いながらも、必死に足に結んだ紐を外す。

 くっ、清隆が封印している間に、なんとか僕だけでも逃げ延びねば……よし! 笑い続けたことで動きが止まったおかげで、ようやく紐を外せたぞ!

 あとは穏便に清隆へ彼女を解き放たないように一言残して去るだけだ。

 

「清隆! ここはお前に任せた! そのまま堀北さんを抑えててくれ。大丈夫、お前なら早苗が加わろうがやってのけられるさ!」

「ふざけんな夢月! オレにだってできないことくらいあるんだぞ!」

「うんうん。頑張れ、清隆♪ んじゃ」

「逃げるなっ! 説明責任から逃げるなァァァ!!」

「生返事するくらいなら、せめて火に油を注ぐのはやめてくれ!」

 

 羽交い締めにして押し留める清隆がいても、堀北さんはどこぞの鬼殺隊主人公みたいな事を言い出す。てか、いや…なんだよ、責任って。関係ない僕を変な扱いにしないでくれ。

 ここまで来ると逆に芸達者なキャラ崩壊に敬意を表し、僕も逃げる前に置き土産していこうって気分になる。

 

「おいおい。せっかく綺麗な容姿なのにキャラ崩壊してるって。もっと冷静になった方がいいよ、堀北さん」

「だ、誰のせいだと……!」

 

 早苗のせいだな。間違いない。

 

「それに私は常に冷静で完璧よ!」

「「「え?」」」

 

 さっきの愛里より冷静じゃないように見えるんだが。疑問の声が揃ったことからすると、そう思ったのは僕だけじゃなく……。

 信じられないほど現実を認識できない癖でもあるのか?

 

「というか、貴方に綺麗なんて言われても嬉しくないわ!」

 

 やべ。一瞬、異次元に転移しちゃったかと混乱した。軽く取り繕っておくか。

 

「……と、ともかく、そんだけ綺麗な外見なら言われ慣れてるだろ。そうじゃなかったら、一度孤高と孤独の違いについて辞書を引くことを勧める」

「───っ!? なんで貴方が兄さんの……!」

「は? 学は関係ない。『畏れ』られて一人な奴と、『嫌われ』て一人な奴じゃ明確に違うだろ。勘だけど、堀北さんはそこを履き違えてるように見えたんでな」

「あ、ああぁ……夢月。ここで踏み抜くとか……!」

「あ、なっ!? この男! またしても兄さんに無礼を働いて……! こ、このっ! どうしてくれようかしら!!」

「どうもするんじゃない! 止まってくれ! 夢月達もだ!」

 

 関係ないっつっただろ。助言したのに、なに勝手にヒートアップしてるんだ。

 これまで早苗の方がヤバいかと思ってたけど、堀北さんも相当な暴走具合だ。僕達はアクセルも入れてないのに、清隆も大変だなぁ(他人事)。

 

「さ、夢月さん。冗談はこれくらいにして戻りましょうか」

「お、そうだな。早苗は冷静だと信じていたよ」

 

 ともあれ、謎に笑って気が済んだのか早苗はケロっとしている。すでに清隆や堀北さんは眼中になく、普段通りになって戻ろうと促してくる。

 自分から赴いてあっさりこうなるということは、おそらく櫛田あたりに何かしら頼まれていたと察しが……つかない。なんかこう、櫛田の用件かなんかのついでに何かを確かめに来て、それが済んで興味なくなった感が滲み出てる。

 でもこれ以上、接触を続けると堀北さんの精神衛生上良くない気がするし、僕も大人しく早苗に乗っておくべきだろう(建前)。もう帰りたいし(本音)。

 それにしても、倫理観も常識もないのが早苗の良いところである。

 

「コ、コイツら……! 引っ掻き回すだけ引っ掻き回しておきながら……! 堀北もいい加減に我を取り戻してくれ!」

「な、なにやってんだ、お前ら」

「須藤、良いところに! 手を貸してくれ、堀北が暴走した!」

「はぁ? なに言ってんだ綾小路。俺じゃあるまいし───ってマジじゃねぇか!」

「じゃ、僕らはそういうことで」

「待ちなさい! くっ、この! 綾小路君も須藤君も離しなさい!」

「ぶふっ…うっく、ふ」

 

 ちょうどその櫛田とペアだったっぽい須藤がレースを終えて現れたので、じきに事態も終息へと向かうだろう。一緒に来た櫛田も事態を把握した途端、目立たないよう必死に笑いを堪えてるし、満足頂けたようでなにより。

 僕的にも全て平穏に片付いて、よかったよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全学年男女混合1200メートルリレー。

 男女3名ずつをクラスから選出し、各200メートルを走破する体育祭の最終競技だ。

 1年Bクラスは、まず1番手に一之瀬。2番手に運動関係の能力バランスが取れた安藤。そこから俊足を持つサッカー部の柴田、圧倒的な集中力と瞬発力を誇る四方、意味不明なまでの身体能力を魅せつける早苗。アンカーに総大将であるがゆえに選ばれてしまった僕、という出走順となっている。

 

 本来、柴田の位置には神崎が、早苗の位置には網倉が、アンカーには柴田が選ばれるはずだった。

 だが、総大将を割り込ませるルールが不意打ちしてきたことが、一之瀬達を悩ませた。結果的に、僕を投入するなら早苗もやってくれるかも? みたいな話が四方から持ち上がり、神崎と網倉は割りを食って現在の状態に落ち着いたらしい。

 

 元々の出走順や、手堅い手を取りがちな一之瀬やBクラス首脳陣を洞察すると、おそらく単純な男女の速度差と結束という強みを考慮し、後半追い上げ型にしたかったはず。

 僕を1番手にして出走順をズラし追い上げるというのもない選択肢ではなかったろうが、あまり前半で離されすぎると追いつけなくなる。

 また早苗をアンカーにするのは賭けの要素が強い。いかに四方がバトンを渡すとはいえ、早苗のペースに合わせるのが困難なのは二人三脚の練習で立証済みなのだ。

 

「委員長、頑張って!」

「一之瀬~! ブッちぎれ~!」

 

 というわけで、一之瀬がスタート位置につくと安藤や柴田、グラウンド外周の奴らが声援を飛ばす。一之瀬も僅かに緊張を滲ませつつ、それに応えるように軽く手を振っていた。

 しかし1番手12人の半数以上が女子ではあるが、須藤や桐山といったこれまでの競技で目立っていたエース級もいることから、先行逃げ切りの戦術を取るクラスもあると思われる。どうも一之瀬は難しい相手に当たる事が多く、リーダーとしてプレッシャーを感じそうで大変だ。

 ちなみに並びは、1年から順に内側になっておりDクラスが最も内側。3年のAクラスが最も外側となっている。

 

 やがて合図とともに走者は一斉にスタートを切った。

 まず真っ先に抜け出したのは須藤で、圧倒的ともいえるほどの走力で後続を引き離す。かろうじて付いて行けているのは2年の桐山くらいだ。それ以外は目算で約10メートル以上の差をつけられてしまった。上級生までこの結果になったのは、混戦に巻き込まれてしまったからだろう。

 

「―――帆波ちゃん!!!」

 

 と、だいたいの走者が一周を終えるかといった時。

 外周から白波の切迫した声が響いた。

 

「帆波っ!」

「委員長!?」

 

 続いて網倉や安藤、クラスメイト達の声。

 一之瀬が転んだのだ。

 途中から見ていたが、運動靴に何らかの不具合があったのかゴール少し手前で脱げてしまったように見えた。一之瀬は急いで起き上がったものの、その間に次々と抜かされていき、現在うちは12位。なんとか安藤にバトンを渡した頃には、11位ともそれなりの差が生まれていた。

 

「ごめんっ!!! こんな場面で! 本当にごめんなさい、みんなっ!!」

 

 痛々しいほどに必死に謝る一之瀬だが、重要なのはそこじゃない。

……たかがお祭りの小さなハプニング程度で、なにパニくって泣きそうな顔してるんだよ、一之瀬。早苗の不敵な笑みを見習え。

 

「あー、んなこといいから。さっさと怪我がないか見てもらってこい」

「そうですね。勢いがありましたし、どこかに傷が残ったら大変です」

 

 だが、とりあえず内心を抑え、現在1位の第2走者の位置を確認した上で、近くにいた走者以外のクラスメイトに救援を呼びかけた。

 

「おーい。白波ー、網倉ー。あとついでに補欠で男手代表の神崎ー。ちょっと一之瀬を運んでやってー。はーやーくー!」

「左京、君……東風谷さん……」

 

 位置が近かったので駆け寄ったが、早苗以外は何故か固まって動かないからだ。一之瀬もバトンを渡すとへたり込んだままで、脱げた靴を早苗が拾ってきても、懺悔する聖人か土下座する罪人の様相である。

 かといって、これから走る早苗や僕がここから大きく動くわけにもいかない。

 

 他のバトン受け渡しに邪魔にならない猶予は……現在トップの3年Aクラスの男子と2年Aクラスの男子が微妙にリードして半ばに差し掛かるあたり。ちなみに、最初トップで引き離していた1年Dクラスと2年Bクラスだが、第2走者が女子だったためか早くも3・4位になっている。

 これを見るに余裕を持てるのは10秒弱、リミットは20秒弱ってとこか。体感ではもっと時間が経過してるような気がしてたけど、思いのほか余裕があった。脳内で時間圧縮でもあったかもしれない。

 

「夢月さん……」

 

 ただ……涙は見えなくても、こういうのは嫌いだ。別に負けても大したことないのに、無駄に責任を背負いこみやがって。陽キャらしく、私は一人じゃない。誰か助けてって、ご立派なお胸様を張って言ってろよ。変な部分が面倒臭い……ああ、もう早苗もなに言いたいんだ。モヤモヤする……! あー、クソ。

 

───やってやるよ! ただし、僕のやり方でな!

 

「誰がついでで補欠の男手代表だ! 左京はいつも……」

「話は後々~。うちのリーダーはお前らに任せた」

「う、うちのりーだー……」

「神崎君! いいから今は帆波を!」

「くっ! 確かにそうだ。だが左京。俺達を顎で使うんだ。おめおめと負けたら許さんぞ」

 

 ハプニングに際しては、経験値がものを言う。

 我に返って?無茶な理不尽を言う神崎は焦っているのだろう。白波などパニクってるし……。いつも不思議と目立たないが良い仕事をする網倉がいたのは、まさしく天佑と言える。すぐ一之瀬に駆け寄って神崎を促し、トラック外へと連れ出した。

 幸いにも、ここは教員達のテントが近い。担任が救急箱を持って向かってくるのも見える。走者の待機場所であるトラック内側以外の場所に一之瀬を運ぶだけで、手早い治療が可能だろう。

 

「夢月、退かないと」

「っとと、やっべ! 四方、ありがとう。確かにここだと邪魔になる。僕達は早急に立て直すぞ」

 

 四方に声をかけられ最終コーナーに次々と入っていく走者達が見えたので、急いで話を切り上げて撤収に移る。

 

「―――左京君! そ、その…頑張ってね! それとありがとう―――本当にありがとう!!!」

「へ~いへい。一之瀬はお大事に~」

 

 なにやら連れられて去り行く一之瀬から声援をもらった。が、もう次の走者の柴田には時間がないので軽く後手を振って反応を返し、僕達は走者待機場所へ走った。

 

 

 

 安藤が最終コーナーに差し掛かった。

 速攻で伝えきるためには、早口でこれから走る『柴田』に必要最低限のバフをかけなくては手遅れになる。

 

「皆のもの! ここはいっちょアンコールにお応えしてやらないか?」

「アンコール?」

「なにを始めるんです?」

「ふははは。決まっている」

 

 周囲にあまり影響されない早苗はいいけど、他は手を打っておく方がいい。

 

「―――輝かしい打開の日だ!」

 

 ふむ。でも、言い放ったらなんか楽しくなってくる。

 他のクラスや学年の奴らも目を向けてたりするが、全く気にならない。自分が笑顔になってるのがわかる。見ようによっては窮地かもしれないが、ようやく自分を取り戻した気がしてきた。

 

「誰かがコケようと関係ない。

 僕の足が遅かろうと未来を変えてやる。

 順位も結果もどうでもいい。

 見えているのは唯一頂点だけだ。

 底辺から頂点へと駆け上がるのはきっと最高だろう」

 

 某少佐の演説にもドM疑惑が掛かりそうな部分があったが、今の僕ならその気持ちも少しわかる。

 確かに超縮小版でも『これ』は勝ち負けを彩る特性スパイスだ。

 

「さて、これから走る走者の諸君! うちのリーダーに責任を感じさせたままでいいのか? いつも世話になってるんだ。体育祭の締めくくりで盛大に借りを返してやろう」

「そりゃ諦めるつもりもないし、そうしたいのは山々だけどさ。これだけ差が付いていると、上位入賞は流石に厳しいんじゃないか」

「ああ。俺も一之瀬を責める気はないが、靴紐が切れたのは運が悪かった。それに尽きる。あまり良い卦もなかったし、この不運を覆すのは並大抵じゃないぞ」

 

 柴田も四方も、本気でそれを受け入れるつもりはないだろう。しかし言霊というモノは案外馬鹿にできない。ゆえに、ここはたとえ詐欺臭くても無理矢理でも、士気を上げるべき場面だ。

 誰もやらないなら僕がやる。

 

「難しい? 不運? 勝負事に難度や運不運は付き物だ。だが、勝者はそれを一要素とすることはあっても、勝つべくして勝つ。なにより、これまでの約半年間"うちで最も重い荷物”を一人で持たせてきた一之瀬を落ち込ませておく?」

 

 だって、ありえないだろ? こんなの僕の美学が許さない。

 

「―――ハッ。それのどこが仲間だ! 落ち込むリーダーのフォローくらい軽くこなしてやろうぜ!」

 

 僕でさえ日頃の感謝をしてるのだ。ましてや、うちのようなお人好し集団のクラスが、一之瀬に責任を感じさせるままにする不義理を良しとするわけがない。ちょっと焚き付ければ、なんとしてでもフォローしてやるって気になるだろう。早苗はともかくとして。

 

「勝率が低いなら難しいことは考えず、ただ全クラスをブチ抜く! それだけを考えて走れ。後のことは後の奴に任せてな!」

 

 そして柴田と四方には全力以上を出してもらって―――できれば、明らかに学や南雲に走力で劣る僕の番の前に大差をつけてくれると助かる。

 

「……はは。簡単に言ってくれるぜ。ただ走るだけのリレーで、それがどんだけ難しいと思ってんだよ。

 だけど―――」

 

 思惑通り、憎まれ口は叩くものの、ようやくいつもの調子に戻った柴田。

 

「俺の心は動いたぜ……!

 任せろ、左京。俊足柴田マンの俺がなんとしてでも後に繋いでやる!」

 

 柴田がそれだけ言い残し、バトンを受け取るために助走し始めたその背に向けて。

 僕は見えてもいない安藤の爆乳大爆走を材料に、男の欲望を振りかけて利用しておいた。追加で馬の鼻先にニンジンを垂らすのだ。

 

「見よ! 我ら、希望の走者を! あの一之瀬に匹敵するとんでもない爆乳を揺らしながら、諦めず走っている安藤を! もし活躍したらパフパフしてくれるかもしれない!

 頼めぇ! 漢の夢がそこに置いてある!」

「……お前、一之瀬や安藤がいないからって」

「某海賊王もこんな引用は思ってもみないでしょうね……」

 

 四方が呆れた声を出しているが関係ない。柴田が少しつんのめったのも問題ない。あんな男を煽りやすい要素を持っている女子共が悪いのだ。

 見えなくとも清隆の視線は感じるし、あえて乳を引き合いに出した効果はあると信じたい。 尤も、早苗や女子達の視線も冷たくなってきたので、真面目方面の声援も後付けしておいたが。

 ちなみに女子の中では俊足の部類の安藤は、最後の最後で11位に追いつき追い越し、柴田へとバトンを手渡した。

 

「さあ、1年Bクラスの結束を全校生徒に知らしめてやろうじゃないか! ぶちかませっ、柴田!」

 

 冗談こそ混ぜたが必要な材料はあと僅か……。ついでに刺激剤もブチ込んどくか。

 

「そう! 全てを屈服させ、征服するのは―――我々であると!!!」

 

 こんな感じで。

 まぁ、僕自身は屈服にも征服にも興味はないけど、こう言う事で釣れる確率が上がるならやり得だろう。

 





 ちょっとだけ必要かもしれないネタバレ。
 原作の学のクラスで起きたハプニングは、ようキャでは一之瀬が吸い取りました。よって、バトンを落とす生徒は出ません。そして学VS南雲を見たい勢、あるいはやらせるな勢にはすいませんが、彼らは次話の裏側でひとまずの決着をみます(予定)。
 ただ左京視点だとそこは描けない部分なので、このような手に踏みきった感じです。ご了承頂けたら幸いです。
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