ようキャ   作:麿は星

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119、いつも通り

 

 龍園がレースに参加していないから引っ張れるか微妙だったが、心配するまでもなくあっさり釣れた。

 南雲と学が煽りに来てくれたのだ。何故か二人三脚の後とは打って変わって、借りてきた猫のようになってる堀北さんも来たが。

 

「今回は残念だったな左京。さっきの颯への発破はなかなかだったが、これじゃあ勝負にはならない」

 

 颯? 柴田の名前だったっけ? やはりここに繋がりがあったか。ただ───。

 

「ははは。南雲はわかってないな。僕の前に誰が走るのか失念していると見える」

「四方と東風谷はそれほどだと?」

「早苗と直接対決した学も疑うか。たかが数十メートルの差『程度』を……」

 

 話してる間にも柴田がグングン追い上げている。流石は記録を出さない規格外を除いた1年生で、最も速いタイムを叩き出すらしい俊足柴田マン。結果を先に言うと、大した強敵がいないのもあって、最終コーナーまでに5人抜いて更に前に追いすがることになる。

 てか、心做しか練習の時より速くね? 柴田ってここまで速かったっけ? 本番に強いタイプってヤツ?

 

 見る限り現時点で勝機を感じるクラスは、トップ争いをしている2年と3年のAクラス。

 第2第3走者と連続で女子(ちなみにDクラスの第2走者は小野寺といい、第3走者は櫛田だった)を出場させて順位を落としたものの、いまだ勝ち気を見せる1年Dクラス。

 

 そして龍園や栄一郎などの知り合いがいないから僕的に目立たない(一応、第1走者だった木下さんとアンカーの伊吹さんは名前だけ知ってるけど)が、地味に俊足を揃えて2年Bクラスを押し退け、現在3位まで上がってきた1年Cクラスか。

 ただ勝機は感じても、勝ち気は微妙で…これは先の成長?を睨む為の一手? こちらは龍園でなければ、それなりに僕の事情を『知っているはず』の椎名の癖が見える気がする。

 

 その中で気になるのは勿論、高円寺・櫛田経由の推薦をしてもらった清隆がいる1年Dクラス。どちらがどうやってか、あるいは清隆本人自らかは知らないが、あのナチュラル不審人物をリレーメンバーにねじ込む工作を成功させたのには称賛を贈りたい。

 そして逃げ切り型だと思われたDクラスが女子二人をここに置いたということは、待機する人が減ってようやく準備している姿が見えてきた清隆と高円寺で───うえっ、高円寺!? ナンデ高円寺? らしくもなく愛里のような気配断ちしてたから、今まで気づかんかったわ。

 てか、そこは平田だろ。常識的に考えて。なんでまたお前がいるんだよ。頼むから空気読んで?

 

……とととともかく! か、彼らでもう一度抜き返して、アンカーの堀北さんに繋げる戦術と見るのが妥当。なんか四方や早苗じゃなく『あの3人』の視線が僕に向いてるのも気になるが、幸いにも規格外達の対戦相手は四方と早苗である。怖いけど。

 怖いから、ちょっと同じアンカー仲間の南雲達で遊んで心を落ち着かせよう。

 

「ふっ。学や南雲にはわからんか。僕の全てのプレイスキルを持ってすれば───前の奴がコケるのを祈るのも容易いことだ」

「PlayじゃなくてPrayかよ!? 他がコケるのを祈ってるんじゃねぇ!」

「発音うっま! 南雲の得意科目英語かよ」

「「そこじゃないだろう(でしょう)」」

「兄妹で声が揃った!?」

「そこでもない。よくその卑怯を察したなという意味だ」

「うっ……!」

「学も心配するな。当然、ジョーク100%の冗談だ」

「おちょくってんのか、てめぇ!!」

「よくわかったなぁ。流石は次期生徒会長」

「コ、コノヤロウ……!」

 

 会話内容に意味はない。南雲の言う通り、ただのおちょくりだ。思わず口を挟んでしまったと思われる堀北さんは、何故か小さく呻いて俯いてしまったが。

 でもこれで僕は少し落ち着いた。初心に帰れた。

 だからこそ、このタイミングで振り返る事ができた。

 

 現状とはあまり関係ないが───勝ち負けなんてどうでもいい。

 これまで心底そう思っていた。

 だからもしも一之瀬がコケなかったら。

 全力は出しても全力以上は出せなかっただろう。"奇跡”を起こすことは不可能になっただろう。“みんな”をその気にさせるのも難しかっただろう。

 

 ただそれがあったから。学も南雲も僕達に勝ちの目がないと思ったから。ここに……僕の反応を確かめに来たのだ。

 そしてそれは、この二人が不可能だと断じることを覆す奇跡を起こす可能性が生まれたと同義であり。僕達や清隆とは違うモノを重視してる証でもあり。僅かにこびり付いていた敵視する『本気の方の理由』が完全になくなったことをも意味する。南雲は相変わらずイラッと来るが。

 ともあれ、それゆえにもう正直に心情を打ち明けても問題ない。どうせ四方と早苗、あとは清隆や高円寺にしか真の意味では伝わらない。

 

「なんにせよ、僕はもうアンカーで全力を尽くす以外はなにもしないよ」

「あぁ?」

「一之瀬が転んだとはいえ、見た感じひどい怪我はせず、安藤も柴田も精一杯走って差を詰めている。正直、柴田が乗ってくれてホッとしたんだ……。それまではまだ僕にもできる『役割』が残ってたからな」

「夢月さん……」

「夢月、お前の狙いはまさか」

「でももう出番が来たら走るだけの役割しかない。口や策なんか必要ない。あとは前を走る奴らを信じて頼るだけだ。僕はそんなに足が速くないから───」

 

 ぶっちゃけ残る懸念点は、清隆が本気を出してくれるか……だった。

 これまででそれなりにわかってきたが、僕達の中で清隆だけは正面から頼むのが悪手になる場合が多い。何故か“負けたがってる”くせに、勝率が低いと見た勝負から降りようとする……それでいて最終的に勝とうとする矛盾を抱えている気配がする……要はわけのわからない意味不明な奴なのだ。

 だけど、僕は笑って告げる。

 

「だからってわけじゃないが…なぁ? 四方、早苗。

───焦らず、気負わず、気楽にいこう」

 

 いつも通りに。

 

「っ、はい!!!」

「ははは! なんだそれ。諦めて高校野球精神かよ。悔いのないようにってか! 全力だの信頼だの甘っちょろい言葉だけでこの差を覆せるわけないだろ? お前、やっぱ基本的には馬鹿だよな」

「「……」」

 

 神様達に向けるような珍しい早苗の良い返事と、当然だが理解できなかったらしい南雲の言葉。仲良く沈黙する堀北兄妹。

 他はともかく、友達にはこれで充分だ。

 日常の中で“奇跡”を起こす条件は整った。いや、間接的に南雲(それと学もか?)が整えてくれた。コイツらが来たおかげもあって、十中八九清隆なら頭をよぎる。

 

 一之瀬のハプニングを利用して、想定された勝負の舞台の一つを整えた、と。

 

 見なくても。話さなくても。確認しなくたってわかる。

 ちょうど良く、ほぼ同順位に追いつきつつあるBクラスと少しずつ後退したDクラスの走者が四方と清隆である、という結果から導き出せる解答は明白だ。

 

 つまり「楽しく勝負しようじゃないか」って僕の意思表示。

 

 無人島の勝負で言い放った言葉がこうして回収されていく考えに至り、清隆は今間違いなく『あの顔』になっている。おそらく思いついていたとしても、すでに切り捨てている可能性。

 この『勝利ではありえない目的』をもって条件を揃え、判断基準がかき混ぜられた状態に持ち込んだ時点で心配はいらない。

 たとえそれが偶然でも、清隆視点で未知数な可能性を示すだろう一手は、アイツの矛盾だらけの勝負師魂を引きずり出す材料となるのに必要充分だろう。

 

「───夢月! まさか……まさか『これ』だったのか!? おまっ、お前……!」

 

 面倒な性質の清隆に加え、今は半ば狼狽えて見えるものの、あの場にいた四方が察してくれれば問題ない。冷静になれる材料とともに改めてネタをバラす。

 

「だから昨夜にあらかじめ言っといただろう。フルベットしておいた、って。四方以外に賭けても勝てないだろ、って」

 

 野球部の元キャプテンで5番手の走者である藤巻さん、現役野球部員のクラスメイトである源……なにより野球部の会計処理に骨を折って支持を得ていると聞いていた橘書記。

 四方二三矢という存在が、桁外れだという確信がある本気の清隆とやりあえるほどの能力を持つ───と、それぞれの方向から野球部に関係するこの3人に魅せつける目的。

 

 その目的の為に、前々から愛里と学を通して橘書記にも四方の宣伝をして───学から生徒会にも勧誘されてしまったようだが───まず別方向の道を開いておいた。

 また正攻法として、ガチャの頃から情報収集しておいた藤巻さん含む野球部員達と接触して(僕の噂を心配して食堂で話しかけてきた時に)四方の能力の欠片を話して野球部勧誘に思考誘導しつつ、さりげなく藤巻さんの走る順番の推測を固める。

 次に四方を藤巻さんの直前の順番にねじ込んで、確実に特等席で見られる手配。最後に好敵手となってデッドヒートする適正が最も高い清隆本人以外の周りを根回しして外堀を埋めた。

 

 言ってみれば、事前に僕が打っていた基本の手はこれだけだ。あとはだいたいアドリブの力押しである。

 まぁ、櫛田の件やら噂の的やら総大将やらにされたせいで、開会式の仕込みとかもついでに便乗させることになったが。

 

「っ……。なんてヤツだ! こんな、こんな事のために……! ハハッ…ハハハハハッ!! 好きでやってるとか、なんて滅茶苦茶なんだ…ははは。なんて……!! ───これはやるなんてもんじゃないだろ夢月!!?」

「そうか? 僕は凡人らしく、必要な時に必要な分だけ必要な手を打ったつもりなんだが……」

「アンカーならまだしも、こんな部分でそれをやれるのがそもそもおかしいんだよっ! ハハハハハッ!! お前のどこが凡人だ、いい加減にしろ!? ふはっ、はははははっ!」

 

 ここまでくれば、気づくのは清隆だけじゃなく。初めて見るような吹っ切れた笑顔になった四方にも意図はバレバレで……。

 

「ふぅ。ははっ、久しぶりに大笑いさせてもらったよ。

 ああ、それと南雲先輩───馬鹿はそっちだったみたいですね。仮に『クラスが』負けることはあっても、もう『夢月の』負けはありませんから」

「なんだと……? それはどういう」

「俺『達』がいるからです」

「……っ」

 

 1から10まで理解が及んで、集中力スイッチ・オンってか。

 残ってた南雲への、僕の友達を舐めるなよ? ってのも笑いを収めた四方が言ってくれた。これ以上の返答を返すつもりもなさそうな本人が言うなら無粋だし、スルー安定である。

 だって前夜の約束通り、僕は僕にできる手を尽くしたと言い切れる。

 これならどうあっても目的は達成できるだろう。

 もはや懸念点は存在しない。

 ここから良きも悪しきも全てを掻っ攫いに行く。

 

───四方と早苗がな!

 

 楽観しつつ、四方と清隆が一瞬本気の目を見せて───ほぼ同時に助走する後ろ姿を僕は目に焼き付けた。

 これが天才達の花道に繋がる第一歩になることを祈りながら。

 

 

 

 

 

 四方は柴田から、僅かにリードした清隆は櫛田からバトンを受けとるやいなや。二人は矢のような速度で走り出す。

 速い。評するならシンプルにこの一言だろう。まるでルート2走法でも実現しているかのように、他とは隔絶している。リアルタイムアタック、RTAを目の当たりにしているようだ。早苗や高円寺も同じように速かったら、すぐに僕の番になりそうである。

 

「おいおい。四方の野郎、あんなに速かったのか? 言うだけのモノは持ってたってことか。確かにプールの時からなんでそこにいやがる? って動きはしてたが……」

「四方もだが、僅かに前を走る綾小路も相当だ。あれだけ周囲を置き去る四方に負けていない」

 

 南雲と学が、四方と清隆を褒める声が心地好い。

 そうだ。僕の友達はすごいんだぞ、って自慢したくてしかたない。まぁ、もう宣伝するまでもないからしないけど。

 聞きたいことは聞けたので、話している学や南雲から微妙に距離を取って、次の走者である早苗の近くで待機。

 

 不本意ながら、今は早苗の傍の方が落ち着く。

 勘だが、今は見えないがまた近くに子供の頃からちらほら見かけていた変な裂け目がある気がしてならない。一度、いきなり背後に出現して反射的に手を突っ込んでしまった時の妙な感触と声はトラウマなのだ。以来、付近に感知した瞬間、神社仏閣へ逃げることにしていた。

 なので、この感覚がある間だけでも神様方の視界に入る可能性の高い場所に居たい。できるなら早苗や四方あたりに教えて調伏?捕まえ?たりとか対処したかったが、その余裕がある場合に限って近くに気配が現れないので、後手後手に回るのもしかたないことだろう。

 

 まぁ、神様の視線を感じて多少安心できたところで、脇道に逸れるのもほどほどに体育祭に思考を戻そう。

 現在、四方はコース半ばあたりで、4位にまで追い上げている。残すは3位の清隆と、元々かなり離されていた2年・3年のAクラスだけだ。ディスアドバンテージはこれで消えた。

 柴田が6位まで上げた時も「速ぇ! すげぇ!」みたいな歓声があったが、今度はトップ層を相手に追い上げたのだから更に凄まじい。他の同級生や上級生達も決して遅くはないのに、遅く感じる不思議。

 やはり特別なナニかを持っている奴なのだろう。

 

 そして、その四方にバトンが渡った時の僅かなリードを守りきり、先を走り続ける清隆もまた天才の名に相応しい。並ばれないだけでも相当な速度域にある事がわかる。

 しかも四方と違い、身体への負担まで計算し尽くしてやがる。流石に余力はないみたいだが、これ以上の出力を出したら壊れるギリギリを攻めるとか、マジでアポロみたいなバックがあるとか某国スパイの訓練でも受けてたんじゃないだろうな。

 

 でも、ここまで来たら僕は気楽に観戦するだけだ。やれることはそう多くないしな。

 そうして早苗の横で、楽しんでるといいなと思いながらレースを眺めていると、高円寺がやって来て独り言っぽく零してきた。

 

「綾小路ボーイが予想内でも、テイルマンの底力まで見抜けているのかねぇ。短時間のことだし、半々といったところか」

 

 それに早苗も混ざって、いつもの会話のような感じになる。

 

「私としては綾なんとかが二三矢さんに負ける姿をこの目で見たいですが、高円寺さんはどうです?」

「ふっ。おそらくそうなるだろうねぇ」

「ほう。高円寺さんもそう予想しますか?」

「ははは。あくまで確率が高い結果だけどね、『グリーンガール』」

「えっ……! 高───」

 

 あ、やっぱり高円寺もそうだったんだな。愛里の髪色にも気づいてたみたいだし。

 僕や早苗だけじゃないとは思ってたが、言ってなかっただけで高円寺は理の外側にも理解があるらしい。

 

「しかしここまで夢月の言う通りになると、逆に呆れてしまうよ」

「あの、僕はそんな正確には言ってないぞ? それに高円寺には話してないはずなんだが。当然のように見通さないでくれ」

「それは無理な相談だ。パーフェクトな私は自然と答えが推察できてしまう存在だからね」

「ああ、それもそうだな。わかっちゃうものはしかたないか。見えすぎるのも色々難儀だし、つまらなくなったら言ってな? 高円寺には借りもあるし、僕にできることなら可能な限り返すからさ」

「……この私に自然にそう返せる者がいる時点で、おそらく『そう』はならないだろうねぇ」

 

 聞くとはなしに話を聞いてたら水を向けられ、思わず口を挟んでしまった。

 後半は考えたら当たり前だった事以外はイマイチわかってないが、前半は多分前に四方だけに話した清隆の弱点についてだろう。

 どうも清隆は安全マージンを取りすぎる癖がある。

 無人島然り、ゲーム然り。その時その時の言動から推察できる思考パターンは、確率の高いモノを採用し、確率の低いモノは非効率だと切り捨てる、というものだ。

 基本能力が高いから大抵はそれで片付くが、同格近くの相手や新しい挑戦をするには足りなくなる場合がある。その僅かな隙を突くのに適しているのが四方二三矢だ。

 

 それを踏まえて現状に投影すると、高円寺はゴール付近で限界を超えてラストスパートをかける四方に対し、清隆は限界を超えられず抜かされると予想していると思われる。

 ちなみに、リレーの途中走者なのにラストスパートをかけなくてはならない理由は、早苗にバトンを渡す為。勿論、これはBクラス内の機密事項である。

 

 しかし、うちのクラスや清隆とどれほどの関わりがあるか知らないが、なんで高円寺がそう予想できる? 前も僕の言わなかったことから先を読み切られてしまったし、身体能力のみならず思考力や洞察力が並外れている。

 性格はかなり違うが、もしもキャットルーキーの九條数真が目の前に現れたら、僕は高円寺を想起してしまうかもしれない。それほど、どこに底があるかもわからない。

 相変わらず面白い友達である。

 

「フッフッフ。それにしてもあそこから、濁った水を新しい光で澄み渡らせていく…美しい状況に変えるとはね。騎馬戦といい、やはり私も参加しておいた甲斐があったよ。お誘いThanks、とでも言っておこうか」

「……そっか。そりゃよかった。僕も改めて礼を言っておくよ。ありがとう、高円寺」

「ふっ、久しぶりにやる気になった返礼だよ、夢月。私も面白くするのに一輪の華を加えてあげよう」

「おう。早苗次第だけどちょうど良いんじゃないかな」

「グリーンガールなら心配はいらないさ」

 

 ま、競技中だし、細かいことはいいか。

 今回相手するのは早苗だし……ん? 早苗といえば、やけに静か───。

 

「あっはははははははは! 散々探し回ったのに! うふふっ、こんなところに居るなんて!! それも今日だけで三人も! ひはははは!!」

 

 そうでもなかったわ。

 平常運転でわけのわからない元気な早苗である。

 

「あ~おかしい! というか夢月さん!! ただの人が奇跡を乱発しないでください! 奇跡の風祝が形無しになるじゃないですか! ……ふふっ、でも積み上げられたものをぶっ壊していく夢月さんはやっぱり最高ですね!! あ~っはっはっは!」

 

 でもなんだ、コイツ。ここで邪神スタイルを再起動する意味がわからない。

 唐突に異常なまでにテンションが急上昇している。スカ○ターで計測したら、爆発する勢いがあるんじゃないか? PL法はどうした。

 

「夢月さん、『六助』さん。

───全力でやります。覚悟して楽しんでください!」

「……あー、早苗の相手は大変かもしれんが、よろしく頼む高円寺」

「気にするまでもないよ。グリーンガールなら相手に不足はない。私の進撃を止めさせるかは別だけどねぇ」

 

 今日何度も見た上機嫌にどこか黒く輝く笑顔の早苗だ。

 コイツのツボはどうなってるんだよ。ナニでスイッチが入るか、いまだに読みきれない。

 てか、呼ぶ名前はこれから競う高円寺だけでいいだろうに、僕にまで戦意を向けるなよ。感情っぽいモノが僕の方まで漏れてきて、勘が異常反応してるから。

 

「そうはいきません。私“も”六助さんを真に認めたからこそ今倒すと決めました、この私がね!

───OK?」

 

 非常に早苗らしい無茶苦茶な論理。

 だが、長く引っかかっていた事が思わぬ解決を見た時のような晴れ晴れとした良い表情。

 こんなモノを見せられたら、高円寺はきっと……。

 

「ふっ……。ハーッハッハッハ!

───OKだ! できるものならやってみるといい、グリーンガール!」

 

 だろうな、って返しになるのも当然だろう。

 正々堂々、早苗の宣戦布告に対して受けて立った。

 それだけ言い合うと、早苗と高円寺はレーンの方へ歩いて行く。

 これから競うお互いではなく、不穏にも何故か僕を一瞥して。マジで妙に思わせぶりなの勘弁して。

 なんか早苗の全力って言葉まで、もしかして高円寺との競争だけじゃなく、僕にバトンを渡すのも入ってんじゃ? みたいな邪推をしたくなるから。僕だけバトン受け渡しが最初にして最大の正念場になりそうとか、なんだこのクソゲー。

 

 だから僕は理解を諦め、ただ結果を受け入れることにした。

 わけのわからない天才理論なんて、もうそういうものとして受け入れるほかない。

 常識に囚われない友達と接する際にこうするしかないのは、きっと仲間内の誰もが共感できる事柄だろう。

 

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