ようキャ   作:麿は星

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 今回でようキャの5章及び体育祭は終了です。
 例によって、後書きにまとめや解説を載せておきます。

 そしてようキャの完結まではあと数話予定ですが、よう実の本筋部分は今話がエピローグ(実質前話が最後話)のつもりなので、完結設定にしました。



121、明日

 

───伊達にあの世は見てねぇぜ! スピードの向こう側ってヤツはよくわからなかったけどな!

 

 ってなわけで、全ての競技が終了した。

 いまだに早苗のテンションが高いせいか、結界でも張ってあるかのような空白の地帯で、僕達は終了の合図を待ちながら駄弁っている。

 

「あー、しんどー。明日は筋肉痛確定か……憂鬱だ」

「身体を鍛えてないからそうなるんですよ。なんなら私と一緒に修行します? 愛里さんからも神社のお役目を手伝いたいって言われてるので、もう一人増えると助かるんですよねぇ。夢月さんなら、空も飛べるようになるかもしれませんよ?」

「いいじゃないか。夢月も少しは努力しないとな」

「……嫌だ。努力なんかしても報われない。それでもするのは必要がある時だけだ」

 

 早苗はどんな時でもブレない。コイツの勧誘癖はどうにかならないのか。作戦は失敗気味だったとはいえ今なら勧誘成功できそうな奴がたくさんいるだろうに、手を変え品を変え、狙うは友達ではあっても受ける率の低い凡人。

 もっと他に目を向けろ。さすれば道は開かれん。

 

 というか、早苗から空を飛べるように云々を言われると、どういう形かは知らないけど本当に飛行が可能になる気がしてちょっと心が動く。

 なんせ実際に浮遊している神様方を何度も見ているのだ。早苗自身がそれを可能とするかはわからない(できても不思議じゃないくらいには早苗は色々逸脱してる)ものの、知らない人と同乗する可能性のあるエレベーターを使わずに、5階の自室までひとっ飛びなチート妄想は僕を誘惑してやまない。

 

 くっ、邪神よ去れ! 僕がOKと口に出してしまう前に……早く……あっ! てか、それなら四方に取り憑けよ。素質と頑固さは確実に僕以上だから、勧誘欲を四方へ誘導できたらもっと楽ができる?

 これは、一考の余地がある有意義な発想だ。なんでこれまで思いつかなかった? 清隆が櫛田や堀北さんを封じてるなら、四方が早苗を封じるというのもアリ寄りのアリではないか。

 

「むー? しかしそれを達成するには条件が……いや、時間的に厳しくなりすぎるか?」

「また変な事を考えてますね」

「ああ。コイツはこんなにわかりやすいのに、なんで着地がいつもああなるのか」

「頭のネジがぶっ飛んでるんですよ、きっと」

「お前ら……上級生のトップ二人+αからなんとか逃げ切ったソルジャーになんて事を。少しは心配したらどうだ」

 

 せっかく早苗を四方にぶん投げる計画を考えてるのに。

 勿論、口に出せないから体育祭の話題でお茶を濁すが。

 

「そのソルジャーはゴールした直後に、ライバル達を称賛した上で「トイレッ!」とだけ言い残して、バトンごと雲隠れしようとしたがな」

「あはは。あの漂う小物臭には笑いましたねぇ。駆け寄ろうとした一之瀬さん達まで固まってましたよ」

 

 あれは……しかたないじゃん。一之瀬達はともかく、不思議なことに凄い形相の南雲や堀北兄妹が話しかけに来てたんだから。あの3人との差はマジで僅差まで縮められたので、リレーよりもゴール後に逃げるのにかなりの体力を使わされた。おかげで筋肉痛になる可能性がほぼ確定した。

 いや、ただ話かけられそうってだけならよかったのだが、迫ってくる奴らに三者三様のなんかよくわからない迫力があって、面倒事センサーが反応したのだ。ゆえに、すれ違い様になんとなく鬼龍院先輩に僕が持ってたバトンを渡して逃亡を図るのはしかたのないことだろう。

 

 ちなみに結果は、学が1位、僕が2位、南雲が3位、堀北さんが4位だった。最後は堀北さんが僅かに後ろだっただけで、ほとんど横並びにまで追い上げられ、ほぼ同着。ついでに伊吹さんは6位でゴールしていた。

 やはり個人能力においては、あれだけの差があっても逆転を許す性能差があったのだろう。共にゴールした時は、思わず3人を褒め称えてしまった。

 

「あの差があってこれとか学も南雲もやっぱすげぇんだな! 実質、僕の完敗じゃん! 確かにそれぞれ天才に相応しい人達だ! 堀北さんも含めて心から称賛するよ」と。何故か彼らはそれに呆然としてたが……。

 お前もまさしく強敵(とも)だった。とかの方がよかったかな。握手した時の南雲なんか「お、おぅ……」とだけ漏らして、いつもの自信家な振る舞いがキャラ崩壊してたし。僕視点でようやく敵対状態も解除できたし、もっと元気に返してくると思ってたんだが、勢いのわりに意外と大人しい反応で逆に僕が面食らった。

 

 でもこれだけ色々な才能を持つ奴(ら?)だ。僕達で『争った事後にする』意味はわかっているはず。南雲とかの仄暗さを感じる系とは、仲直りまでいかなくとも喧嘩状態を継続しないことが肝要。そして規模は桁違いだけど、戦後処理のような後始末は仕掛けられた側であっても自分から動かなければ始まらないのである。

 

 まぁ、元々よくわからない奴らだし、たまにアストロン状態になりたくなることもあるのだろう。

 特に学のような善人や夢想家の人間が現実性のある考えに変わる時……開き直る時は予測が立てにくい。そういう奴は経験上、いや歴史を顧みても明らかに別人。非常に手強くなるからだ。

 南雲はこれに当てはまらないので謎だが、学や一之瀬、葛城などはなんかの要因でその過渡期にいて、時折異常が発生してるのかもしれない。

 と、理論武装しながら、人混みも迫っていたので、この直後に最強の逃げ文句・お手洗いの術で事なきを得た。

 ただちょっと四方と早苗含むクラスメイトのおかげで圧倒的に勝ってたのに負けたバツの悪さを思い出したし、雰囲気を切り替えよう。

 

「いやー。それにしても、アイツら速すぎワロタ」

「速すぎワロタ?」

「笑うなよ、学には競技でも勝負でも負けたんだぞ! ほら、慰めて! 僕が落ち込んでるんだよ!?」

「は? 寝言は寝て言ってください。夢月さんのどこが落ち込んでるんです?」

「むしろ夢月に落ち込んでる素振りが全くないだろうが。あんだけ差があったのをひっくり返されたってのに……」

 

 まぁ目的は達成したし、僕が落ち込む必要はないんだよなぁ。でも人から見て、実は落ち込んでるのに明るく振る舞ってると思ってもいいのではなかろうか。

 

「まったくだなぁ。一時はどうなることかと思ったけど、二時にはこうなっちゃってたね」

「はい、逆転に次ぐ逆転でしたね」

「負けた方は言わないことだけどな」

「夢月さんって、やっぱりどこかおかしいですよね! 二三矢さんもついに到達しましたか───この領域に」

「お前らなぁ……」

 

 言ってくるやん。しかも早苗だけじゃなく、心なしか四方もなんかいつもより浮かれてるような……?

 てか、なに追い打ちしてんだ。友達なら励ませよ。

 

「あはっ♪ 二三矢さん───ようこそ常識では測れないこちら側の認識へ」

 

 それにしてもなんなんだ、今日の早苗のハイテンションは。

 いつまで持続するんだよ。

 というか。

 

「おい待て。ニュアンスが変だ。僕まで早苗側のように聞こえる。僕は『こちら側』じゃなくあっち…常識で測れる側だよな?」

「そんなわけないでしょう。人の道を外れてる振る舞いを何度も披露しておいて」

「こち―――『早苗』が言えたことか? とはいえ、言わんとすることはわかる。あそこまで小物ムーブでボロクソに煽っといて、なに普通に称賛して握手求めてるんだよ。しかも満面の笑顔で。そりゃ、競技前後で急変した態度を取られればあの先輩達も戸惑うわ」

「普通に頭おかしいですもんねぇ。180度反転って…ふふっ」

「君達、さっきから辛辣すぎない? 一念発起したんだから応援をよこせ」

 

 もしかして、前よりコイツら仲良くなってない? コイツらにタッグ組まれたら勝ち目なくなるじゃん。別に構わないけど。

 おっ、でもそれならあのムーブの出番だな。実演してみよう。

 

「応援……お前なぁ」

「煽りまくった上であの差を覆されておいて、全く堪えてない夢月さんに他に何を言えと?」

 

 それはごめんて。

 ふむ。結果はわかりきってるけど、一応聞いておこう。

 

「……ふっ。それ、僕の前で同じことを言えるのか?」

「お前に言ってんだよ」

 

 だって見えてなかったけど、予想以上に学と南雲が速かったらしく───。

 

「『―――また勝てなかった』」

 

 端的に言うと、これなのである。今の四方と早苗にもかかってるけども。

 

「『どうして勝てないんだ』『僕は』」

 

 でも……おおっ。なんだこれ? 滅茶苦茶決まったんだけど(僕の主観)。

 信頼できる友情・無駄な努力・意味のない勝利。あのとんでもない先輩とは微妙に違うけど、僕のモットーを貫くに相応しい言葉だからか? 最高すぎる。

 

「ある意味勝ちまくったと思うんですが」

「いきなり球磨川先輩ムーブするなよ。付いていけないだろ」

 

 はい、ついていけないいただきましたー。

 それならこの話はもう終わりだな。これもまた四方達の気遣いなのかもしれない。

 

「そうか。ということで話を変えよう! 今年の体育祭もようやく終わったな。ふ~疲れた疲れた」

「え……っと、お…お疲れ様、でした?」

「早苗ですら困惑する切り替えの早さ。頼むから、夢月はもっと常識に囚われてくれ」

「我が校きっての常識人に何を言う。そのセリフは君達にそのままお返しするよ」

「「……ふふっ」」

 

 しかし、やはり本気で責める気はないようだ。これなら、僕も本気で謝るより普段通りの振る舞いの方が気楽だろう。話をぶった切ると、四方と早苗は顔を見合わせ小さく笑った。

 そんな感じで“遠巻き”に囲まれながら話してると、電光掲示板に結果発表される時間になった。

 

 

 

 勝利は白組で、総大将対決も4ー1で僕らがもらった。100万、ゲットだぜっ!

 続けて学年ごとの順位は。

 

 1位、1年Bクラス。

 2位、1年Cクラス。

 3位、1年Dクラス。

 4位、1年Aクラス。

 

 また最優秀選手は東風谷早苗。出場可能な競技全てで1位な上に、団体競技でも大活躍だったので順当だろう。

 学年別MVPは、3年は学、2年は南雲、1年は須藤だった。柴田は悔しげな顔を晒し、須藤は心底嬉しそうに雄叫びを上げている。途中、色々大変そうな事があったりしたみたいなので、喜びもひとしおなのだろう。他クラスながらあっぱれと祝福しておこう。

 てか、最優秀と学年別って同じ人じゃないんだな。

 

 ところで、この時の僕達3人は完全に失念していたのだが、この結果が齎すモノはもう一つあったりした。

 CPの変動である。

 なんの変哲もないこれがどう影響してくるのかと言えば、特にとある人物に多大な異変を起こしたようだ。ただその結果の前に、参考として体育祭前からCPの推移を整理してみよう。

 

 Aクラス(葛城) 1014

 Bクラス(一之瀬) 980

 Cクラス(龍園)  696

 Dクラス(櫛田)  420

 

 これに、勝利した総大将特典である+50CPに、敗北した赤組の-50CP。クラス順位成績の+50、0、-50、-100がそれぞれ加減されることで、体育祭前の各クラスCPが関わってくる。

 

 Aクラス  864(-150)

 Bクラス 1080(+100)

 Cクラス  696(±0)

 Dクラス  320(ー100)

 

 そう。考えてみると当たり前だが、AとBのクラス順位が入れ替わったのだ。

 つまり―――。

 

 

 

 日が落ちて夕暮れの色に世界が染まる頃、僕は学校生活屈指の窮地に陥っていた。

 

「あああああああっ!! 助けて! 四方! 早苗! 助けてくれぇえええ!!」

「プ~クスクス! ヤバいです二三矢さん! すごい面白くないですか!? 夢月さんたら、顔真っ青にして超必死なんですけど!」

「コイツ……。ホント、イイ性格してるよ」

 

 それなのに、ゴ巫女の早苗が僕の窮地に友達甲斐もなく某駄女神的な煽りをしてきやがる! 困ってる人を煽るのはマナー違反だって神様に教わらなかったのか? だから邪神なんて言われるんだよっ。

 よし、早苗は後でグラウンドに埋めて帰ろう。

 僕はそう決意しつつ、結果発表からテンションがバグって誰よりも嬉しそうになってる担任教師、星之宮知恵に絡みつかれていたのだ。どれくらい出るか知らないが、ボーナスがそんなに嬉しいか。

 

「あら~? 左京君は美人なおねーさん教師のハグが嬉しくないの~? せっかくのAクラス昇格のご褒美なのにぃ~。うふっ、うふふ♪」

「担任は明らかに一之瀬枠でしょうが! 美形喪女同士で仲良くやっててください! 教師と生徒でレズってても生温かい目で見た後、そそくさと去ってあげますから! 僕を巻き込まないで!?」

「!?」

「ん~? 私にその気はないよ~? 生徒だしね~。一之瀬ちゃんはどうかわからないけど」

「とんだとばっちりだっ!? 私はノーマルですから!」

「!!」

 

 成人しているとはいえ女性…と侮ることなかれ。この担任、スキンシップに……人に抱きつき慣れている。単純な腕力ではどうにもできない関節部分を的確に押さえて、脱出を困難にしてきやがるのだ。

 おそらく酔ったふりをして、女郎蜘蛛のように獲物を狩ってきた歴戦の喪女なのだろう。色気は感じると言えば感じるが、到底僕の手に負えるものではない。

 

 オマケに疲労まで加わり、余裕がかなり減少している。白波がなんかビクンビクン反応してるのをつつくこともできないほどだ。ゆえに、今相手にするのはマズい。暗に一之瀬の同等の危険生物と称したのは伊達や酔狂ではないのだ。

 まだ用事が残っているというこの時に……! クソ、なんで場外乱闘で窮地に陥らにゃならんのだ!

 

「左京君は、リレーの時なんかパフパフだなんだって大声で言ってたし、借り物競走ではDクラスの佐倉さんとも繋がってたじゃない? だから喜ぶかなって思ったんだけ……」

「つ、つつつつ繋がってぇ~~!!? 先生! なんてふしだらなっ! こんなおおっぴらに言う事じゃないでしょう!?」

「……担任。このムッツリ委員長はもうほっときましょう」

「ムッツッッッッ……!」

 

 エッチな表現に使用される大量の『ッ』で、自らのムッツリ加減を強調して黙りこむ一之瀬。繋がってというたった一言で、なに妄想の翼をはためかせてんだよ。

 これの何処がノーマルだ。拗らせた喪女ってヤツは本当に厄介。なんかドスケベ妄想癖まで発症してきてる気がしてきた。露出物のAVだって、そんな意味のわからないことはしないだろ。

 まぁ、今は変態より担任か。一之瀬の慌てようにより、僕はなんとか物申す程度までは冷静さを取り戻した。

 

「そしてなにより『敗北者』になった僕を放してください。気心が知れた奴以外には、仮に慰めでパフパフされても嬉しくなく、気疲れするだけです」

「そう? 美人に引っ付かれるのって疲れる?」

「正直、疲労を通り越して恐怖まで到達しますね。僕は」

「う、う~ん。相変わらず変わった感性だねぇ。左京君くらいの年頃の男の子は、こうすれば喜ぶものだと……。もしかして私に魅力とか感じない? なんか自信なくしちゃうなー」

「そうですねー……。はい、感じません。多分、担任の地雷臭がすんごいのが原因だと思います」

「地雷……」

 

 しかし困惑はしても、この結果は僕以外が要因だと敗者という表現で暗に伝えても、依然として担任の間接技が外れない。余程嬉しかったのか、ストレートに心情を明かしたのに、機嫌良さげにユラユラと身体を揺らしながら僕の首と左腕に手を回したままだ。

 本当に僕には心から全く嬉しくない接触を、照れ隠しとでも誤解してるのか? 乳の感触があろうと担任だと思うだけでピクリとも反応せず、逆に萎えてくる系女性だというのに……。

 ならば、まずその幻想をぶっ壊す。

 

「左京君! いくら星之宮先生でも、そうですね(強く同意)はないでしょ! そういう時は嘘でも褒めたり、フォローを入れよう!?」

「いくら!? 嘘でもォ!?」

 

 と思ってたら、不死鳥のごとく復活した一之瀬が横槍を入れてきた。なので、しかたなく言おうと思ってたことの直角方面に舵を切ってみる。

 

「え、えぇっと、フォロー? みんなそう思ってるだろ、なあ? とか。胡散臭さ全開だと大変ですね? とか。1年の担任教師の中でイジられ役ってホントですか? とk」

「私がイジられ役だと思われてるぅ!?」

「悪酔いが減るといいですね? とか。これで死んだ魚の目でどこぞの社畜のように煙草吸わなくてよくなりますかね? とかか?」

「し、死んだ魚の目……」

「確かに私もずっと思ってたけど、フォローにあるまじき問題発言! それは暗黙の了解だから言っちゃダメ! もっと他にあるでしょ!? 星之宮先生の良いところなんていっぱいあるんだから……」

 

 一之瀬視点の担任は少し興味深い。聞いてみよう。

 

「ほう? 例えば具体的にどのような?」

「例えば……た、例えば……あ、あれ…れ?」

「一之瀬ちゃん!!? たくさんあるよ! もっときちんと思い出して! 私達の師弟の絆はそんなものだったの!?」

「に、にゃにゃんと。えっえっ、えと……良い……」

「……一応美人だし、フレンドリーな先生だよね」

「そう! 麻子ちゃんが良いこと言った! 星之宮先生にだってちゃんと良い部分はあるの! わかった左京君!?」

「一之瀬ちゃんの方がさっきからヒドイ! え、嘘だよね? 私ってここまでボロクソなイメージだったりしないよね!?」

 

 だけどアドリブ性能にスペランカー疑惑があるんだから、一之瀬は思うところを溜め込んでる相手に無理にフォローしようとしない方が。網倉にフォローされてるじゃないか。

 ま、援護してくれようとしたみたいだから、担任のトドメは僕が引き継ごう。

 

「嘘なわけないじゃないですか。逆に、一之瀬や網倉に寄りかかってホームルームとかしてる普段の自分を思い出してください。アレが頭をよぎるうちのクラスに、担任に抱きつかれて嬉しい野郎がいますか? ───いません」

「断言!? で、でも酔った大人の女性には色気が」

「そういうのは二日酔いや潰れる寸前、潰れた翌朝じゃなく、ほろ酔い程度に付加される現象です。飲み屋に行けるはずもない未成年には未知の領域ですよ。

 つまり僕らからすれば、いわゆる酒カスのやべー奴でしかありません」

「……」

 

 信じられないのか担任はクラスメイト達を見回すが、一部以外は団結力が図抜けている奴らは、ここでも示し合わせたように全員目を逸らす。当然の結果である。

 

「続いて、もう数点。まず担任の胡散臭さについてですが、年甲斐もなくこういう事をするから無理すんなという意味を込め……」

「……に、にゃあああっ! 左京君、ステイステイ! 星之宮先生のライフはもうゼロだよ!? 何事もなかったように淡々と死体蹴りを続行しないで!?」

「……………………酒カス。せ、生徒に……胡散臭い。無理すんな…………し控えようかな」

 

 消沈してブツブツなんか溢してる担任の力が弱まったのを好機と見て連撃を叩き込もうとしたら、流石に一之瀬に止められた。てか、何回止めるんだ、コイツは。まだオーバーキルってほどじゃないだろうに。限界の向こう側にある限界の先まで撃ち込んどかないと、すぐ復活しちゃうだろ。

 正直、ハイライトを失った酒カスは不気味なので早く離れてほしい。できれば誰か相手を代わってもらえると助かる。僕的にはただ暑苦しく重いだけだし、引き剥がしてくれるとより助かる。

 ふむ。誰か、ね。……ヨシッ!

 

「行けっ、聖獣イチノセン!

 『ゆびをふる』だ! 今ならどんなことが起こっても許容しよう。外見のイメージ的に覚えてるだろ」

「いきなりなに言うの左京君!? ……ゆびをふればいいの?」

「ほ、帆波……そこじゃないでしょ」

 

 いや、大天使ホナミエルの方が『ぽい』か? でも女子に対して名前をもじったあだ名は許されないだろう。第一、そんな親しい関係じゃない。

 それに聖獣なら漢字を変えるだけであっち系への転用も可能だ。夜の『せいじゅう』イチノセンは、あちこちで引っ張りだこ確定である。相応しき二つ名の余地は残しておくべき。

 

≪悲報。夢月、リーダー?をポ○モン扱いしていた!≫

 

 なぜなら今となっては、担任に色気や役得など微塵も存在しない。まさか早苗や櫛田とは別の意味で全く食指が動かない美人がいようとは……って感じで、もはや恐怖すらなく鬱陶しいだけなのだ。心が麻痺してきている可能性を憂慮し、妄想に救いを求めてしまうのもわかるだろう。

 

 現状は、おそらく意地になって僕にしがみついてる担任。その担任が吹き出す不可視の圧力による沈黙に包まれているわけだが───これ、もしかして僕のせい? なわけないか。これもまた運命というモノなのだろう(適当)。

 うん、早く帰りてぇ。

 

 

 

 そのどうしようもない空気を断ち切ったのは、少し意外な人物だった。

 

「ところで…あの、ちょっといいですか」

 

 おお! この空気の中、普通に斬り込んで来るとは、流石は空気を読まない事に定評がある早苗。いつも意味不明な言動でも、決める場面ではきっちり決める。僕のピンチには助けてくれる。それでこそ友達と……。

 

「さっき少し話で触れてましたけど、夢月さんは胸についてどう考えてるんです?」

 

 いや、ただ狂ってるだけなんじゃないか、コイツ。

 

「おい四方。この狂人をつまみ出せ」

「失礼な。私は狂人じゃありません。駄女神です」

「……ついには自分までネタにし出したぞ。俺には無理だ。星之宮先生を剥がす方がまだ可能性がある」

「くっ…四方にさえ制御できないなら誰ができるんだ……なんだ?」

「……」

 

 何故僕を見る? まさか僕に早苗を押し付ける計略か?

 尤も、僕と四方がいかに相手に面倒を押し付けるかといった高度な頭脳戦を繰り広げても、早苗には全く影響がなかったようだが。

 

「で、どうなんです夢月さん。大きいのが好きとか、小さいのに目が行くとか」

「おっ、東風谷さんもなかなかわかってる~! 確かに左京君の好みが関係してるかもしれないしね」

 

 逃げられねぇ。

 しかし世も末だな。これ、神に仕える巫女と聖職者たる教師の言葉だぞ。てか、復活早すぎだろ。誰かザオリクかリザレクションでもかけたの?

 その上、下手打つとせっかく大人しくなりかけていた担任に一之瀬、明らかに子供体型の白波あたりの矛先が向きかねないアレな問いかけだ。

 

 こうなっては、しかたない。そう、しかたないんだ。

 この場の全イロモノを敵に回してやろう。

 もうまとめてかかって来やがれってんだ!

 

「胸の大小だと? ふん、馬鹿馬鹿しい」

「ほう……その心は」

「誰も彼もがおっぱいおっぱい。まったく視野が狭いものだ。なんでもっと見るべき物を見ようとしないのか。そんなものに惑わされるなど、あまりにも愚かしく哀れとさえ思う」

 

 言いながら、どこぞの宗教家みたいに両手を掲げ、さりげなく担任の拘束を外していく。

 

「無論、僕は違う。そんなものに惑わされない。見るべき所を見ているからな。そう───」

 

 何故か白波から尊敬の念を感じる。担任や一之瀬も感心したような声を漏らしており、四方や早苗、男子達すら「おおっ」といった雰囲気であった。

 それに気を良くした僕は、男らしくドンと胸を張って声高らかに宣言する。

 

「───胸よりも尻だろ! 常識的に考えて!!」

 

 ドドンッ!! と。

 

「「「「「……」」」」」

「……どこの常識だよ」

 

 冷たい静寂の最中、柴田がボソッと零したツッコミが響き渡る。

 勿論、ここで彼ら彼女らの視線の色は瞬時に反転した。

 ちょっと様子が違う奴らもいるようだが、こうなることはおおよそわかっていた。その上で、立っていると胸と違って容易に接触させられない(使えない)尻を引き合いに出す。

 現代版・鬼道の策士、モーツァルトとは僕のことだ。音楽家のモーツァルトが策士とかは聞いたこともないが、なんか響きが好きな名前なのでこのままいこう。

 と、そんなんでも予定通りにみんな固まったようだ。今こそ好機。

 

「ふっ。たわいもない。君達はもっとレベルを上げて出直すんだな」

 

 しかし清隆や南雲と比して、なんと手応えのない。固めるのも容易く行えた。

 今度こそその隙を逃さず、少しずつ外していた担任の魔の手から嘯きながら抜け出し、僕は悠々と校舎に向かって歩き出す。

 一之瀬の様子を見る限り目論見は成功はしてただろうから、担任の介入がなければ僕がここに留まる必要は本来なかったのだ。

 

───大嘘憑き(オールフィクション)。一之瀬がコケたのをなかったことにした……なんちゃって。

 

「んじゃ、みんな。『また明日とか!』」

 

 ここまで裸エプロン先輩のマイナスに肖って借りを返したのだから、最後は彼の言葉を残して去ろう。魅力的なキャラクターはセリフも魅力的。やっぱ少佐やこの先輩しか勝たんのよなぁ。

 それに速攻で着替えるつもりだが、着替えてる途中で誰か来ると面倒だし、まだ用事が残ってるので時間稼ぎだ。当然、明日から三連休な事も頭にあるので肖っただけである。

 

 うん。ぶっちゃけ、疲れすぎてて空気読むとか喪女の相手とかが億劫でしかなかったのだ。

……それにしても逃げるためとはいえ、担任にあんな暴言を吐いてたのに、笑って僕に付いてくる四方と早苗はやっぱり異常者だよな。天才ってそういう存在なのかもしれないが。

 そんな中、強いのか弱いのかイマイチわからないメンタルの奴が一人───。

 

「さきょっ───む、夢月君っ!!!」

 

 我らが学級委員長、一之瀬帆波である。

 

「えぇ……っと。ま、また明日とか!!」

 

 裸エプロン先輩に、裸エプロン先輩を返してくるとか、陰キャを馬鹿にしてんのか、このポンコツ委員長。裸エプロンになって出直して来い。どう見ても一之瀬はめだか側の人種だろうが。素直に練り上げたエロい肉体でも見せつけてろ。

 この空気の中で、去り際の僕にそんな挨拶を仕掛けてくる陽キャの思考回路が異質すぎる。そんな性格じゃないのはわかってるのに、煽られてるようにすら感じられた。そもそも明日は休みだし。

 

 まぁでも、変な感じは受けないし、雰囲気もない。それなりに借りも返せたはずだ。なら、疲れてる今はスルー安定か。と、軽く手だけ振って妙に反応してくる勘と違和感ごと水に流す。

 そして再び3人に戻った僕達は手早く着替えを済ませ、それぞれの場所へと散って行った。

 

 いらぬ邪推だと、さして心配はしていないが。

 これからの『雑事』を片付けて、日曜に全て打ち明けても変わらない友達であらんことを。

 そう心から願って。

 





 章終わりのポイントまとめと解説、ついでに後書き。
 括弧内の人名は本編と違い、原作のクラスリーダー名です。

 A(坂柳)クラス  864(-150)
 B(一之瀬)クラス 1080(+100)
 C(龍園)クラス  696(±0)
 D(堀北)クラス  320(ー100)

 本編の通り、AクラスとBクラスが入れ替わりました。
 述べずとも明白でしょうが、星之宮先生や一之瀬の挙動がいつにも増しておかしかったのはこれが原因。きっと夢月達が去った後、再度ハジけることでしょう。
 ちなみに、星之宮がこうしてなかったら夢月は普通にいなくなってました。でもこの場面でそれは、あんまりにもアレすぎると思ったのでこういう形に。

 よう実の原作沿い部分は、前々からこういう形(原作1年生編5巻のラスト付近っぽく)で締めようと思ってたので、少し地味っぽいかもですが綺麗?にAクラス昇格できて満足しました。クラスメイトにもそこそこ信頼を得て、認めさせた風な感じにできましたしね。特に感想で言及されてた一之瀬やついでに柴田からは、下の名前で呼び合いたい相手(四方や早苗みたいな立場になりたい的な?)くらいに格上げになってます。なってるように見えててくれ。



 何気に南雲相手に3競技で滅茶苦茶やりましたが、本来は騎馬戦で(見学なので反論できない)坂柳、リレーで清隆の予定でした。勿論、二人とも回避フラグを見逃さず南雲に全て押し付けてます。
 夢月側の理由は、南雲と坂柳に関しては前話や龍園視点で少し出した噂などで攻撃したから(夢月に喧嘩を売ったこと)で、清隆へはやる気を引き出す目的ですね。
 尤も、坂柳との会話(リレーの最後で南雲も)のように、夢月から煽り中とかでなく『お礼』という条件を引き出せれば煽り回避が可能な性格なので、その気になれば簡単な対処だったんですが。

 対処がわかってもわからなくても実行しないだろう南雲。早めに顔を出すルート選択をした坂柳。関係ないように見えるかもだけど、騎馬戦・リレーで高円寺が参加したこと。などの要素に加え、坂柳・清隆ともに裏で結構動いてたり(例、騎馬戦での戸塚・葛城、堀北妹の焚き付けとか)。
 これらの結果、南雲が夢月の煽りを一身に受ける羽目に陥ったと。
……うぁ、リレーの順位でも3位(1D4で順位決定)だし、流石にやりすぎたかもしれない。

 前書きで少し触れたように、実質『実力至上主義』がよう実本筋部分の最終回のつもりで、元々は1年生編5巻の綾小路VS堀北学をアレンジした感じにしたかっただけ(だから結果が次話になった)でした。
 それが一応夢月が実力を認めているとはいえ、そこまで関わってなかったはずの南雲にあそこまでやったのは……その、ノリなんです。棒倒しや騎馬戦でもそうだったんですが、なんか不思議とノリノリで書き進んでしまいまして。
 別に好きでもないし個人的な意見ですが、やっぱりよう実原作でホワイトルーム関係とは違った部分の根幹を作った南雲雅という人物は、舞台装置として非常に書き易かったってことかもしれません。
……しかし、仮とはいえ最終回の後書きほとんどが南雲関連で埋まるとか。どうしてこうなった。

 ともあれ、あと数話。お盆を挟むので、次は少し遅れるかもですがぼちぼち書いていきますので、よろしければ「もうちょっとだけ続くんじゃよ」にお付き合いいただけると幸いです。
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