ようキャ   作:麿は星

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 前話で述べた通り、ここからラストまではよう実要素が減少します。代わりにオリジナルやキャットルーキー、東方なんかの割合が増加しますのでご注意ください。


終章、挑戦する日常(?巻)
122、知恵


 

 体育祭が終わって17時すぎ。

 壊れた清隆が天文部室に来訪した。

 

「へいYO。

 オレを坂柳紹介、夢月DAYONA。なんてことしてくれたんだYO」

「「……」」

「何を言おうと問答無YO。お前を埋葬したいんだYO」

「OKOK。だいたい事態把握。怖かったよな? あの妖怪になにされたんだYO」

「社長社長。語尾が移ってます。あと自然に妖怪って言ってます」

 

 それまで僕はちょっとした作業をしつつ、清隆と栄一郎を待っていた。

 そして外来客は16時半までだったらしく、七瀬さんを見送った少し後に栄一郎が来てくれたまではよかったのだ。清隆も人と会う事になったから遅れるとメールしてきたので、栄一郎とたまたま部室にあったチェスをしながら世間話していた間は平和だった。

……無表情で平坦に物騒なラップ?を口ずさみながら現れた清隆が来るまでは。ホラー展開かと思った。

 ただびっくりするほど低いそのクオリティゆえに、僕や栄一郎に伝わってないと気づいたのか清隆は態度を通常に戻して用件を切り出した。

 

「…………お前、あのゲームの一之瀬は坂柳を模して作ったのか?」

「はぁ? ゲームの一之瀬って……激重な狂人設定だったヤツ?」

「……そうだ」

「作ってた頃は名前しか知らないよ。だいたいあんなヤツが現実にいるわけ……な、なあ。まさかとは思うけど」

「そのまさかだ。坂柳に出会い頭、年単位の『あのセリフ』を吐かれた。わかって投げてきたのなら、オレにも考えがあるぞ」

 

 それって元々知り合い?だったから、体育祭で話した時の坂柳さんが清隆の名前に反応してたってことか? そんなヤバい奴だったとは……。

 

「いやいやいやいやっ! 流石にそんな……考えてみれば、僕の勘がニゲロって伝えまくってたのってこれか? だ、だとしても違う! そんなの予測できるわけないだろ!?」

 

 あれ? 冷静に思い返すと、その坂柳さんに僕は何を……? 思い出したくない。

 

「あの、話の腰折ってすいません。いったい何の」

「あ、ごめん。栄一郎は知らないか。えっと夏休みに自作したゲームキャラと坂柳さんの話だ。忘れてたけど、栄一郎にも今度あげるからやってみて。そしてそのゲームの『一之瀬』というキャラを見れば、多分わかる」

「は、はぁ……」

「それと栄一郎はもう知ってると思うけど、コイツの名前は綾小路清隆。虚偽慢心傲慢の3要素で構成される新種の悪魔だ」

「悪魔……」

「おい夢月、オレは櫛田じゃない! 紹介の流れで悪魔とか吹聴するのマジでやめろ! ちょっとだけカッコよく思えちゃうだろ!?」

 

 清隆と一対一じゃなくてよかった。栄一郎に紹介したおかげでちょっと精神を持ち直すことができる。あながち間違いでもないだろうし。

 てか、櫛田なら控えめに言って強欲憤怒嫉妬に憂鬱可愛いの5要素の悪魔になるだろ。それか自分にももっと盛って欲しかったんだろうか。お望みなら清隆にもあと4つくらいは追加できるが。

 ともあれ、清隆が悪魔属性なのは間違いないのだ。

 

「しかし、マジか。坂柳さん、恐るべし。くわばらくわばら」

「くわばらって済む問題か? 一応、大部分は夢月に投げ返しておいたが」

「おいっ! なんてことしてくれたんだ! 清隆には人の心とかないんか!?」

「お前が言うなっ! 坂柳の口振りからして、最初に投げてきたのが夢月なのは明白だろうが! そのせいでオレも目を付けられたんだよ!」

「それは御愁傷様。僕と関係ないところで存分にやりあってくれ。後日、坂柳さんへは清隆が「坂柳にオレが葬れるのか?」って言ってたよって伝えて、認識を移しておくから」

「バカ、やめろ! もう似たような言葉は言ってる。つい勢いでな」

「そのままの勢いで封印してくれよ……。とんだとばっちりだ」

「それはオレの台詞だ! なんつーモノを寄越しやがったんだ夢月……」

 

 ふむ。無表情がデフォなのに、この清隆の態度。

 確実に僕よりもドデカい感情か何かをぶつけられたと見える。つまり逆説的に僕は安全圏に到達したようだ。計画通り(嘘)。

 何があったか知らないが、流石デコイとしても最優を誇る清隆である。

 

「でも安心した。その感じだと、激重感情と因縁の方向はどう考えても清隆優先だろう。僕は次から逃げるし、後は任せた」

「ふざけるな! あんな面倒なの相手にできるか! オレの平穏が更に遠ざかるだろ!?」

「僕だって無理。それに対応できるような能力もないしー? 受け止められる天才サマはツラいねー。ま、頑張って」

「他人事! 夢月がそう出るならオレも必ず投げ返してやるからな!」

 

 内心ではわかってるくせに往生際の悪い。

 

「ふっ。僕の前に清隆と決着をつけようとする坂柳さんが目に浮かぶ。つまり清隆を倒すまでは安心で、清隆が倒されることもないから僕はずっと安心って寸法か。少なくとも本気では来ないだろ。いやー、悪いね。守ってもらっちゃって」

「ぐっ…やはりその確率が高いか。しかもオレが倒されないと確信して……? この外道策士が。不覚にも信じられて嬉しくなっただ…いやっ! どんな手を使おうと夢月だけは『巻き込んで』やるから覚悟しとけ」

 

 どこのツンデレだよ。野郎のそれは需要ないからやめとけって。また転げ回ることになるぞ。何が原因か少しだけ素直になったみたいだけども。

 心地よく清隆の負け犬の遠吠えを聞いていると、唯一坂柳さんを知らない栄一郎が独り言っぽく溢す。

 

「坂柳という人はどんななんですか……」

「妖怪」

「おそらく天才信仰の狂人だ───って、ぶはっ。妖怪……くくっ。一言にずいぶん詰め込んだな夢月」

「……もう罰ゲームの押し付け合いみたいになってましたよ二人共。理事長の娘とはいえ、そんなに恐ろしいんですか」

 

 その罰ゲームは、僕が坂柳さんと関わりを持った時点から始まっている。

 

「外見は小五ロリだが、中身は間違いなく妖怪級の危険人物だ。清隆以外は関わらないのが吉」

「小五ロリ……」

「てか、おぉいっ!? オレ『以外』ってなんだよ!」

「大丈夫。これまで櫛田、堀北さんと封印してきた経験と思考力があるんだ。清隆ならやってのけられるさ。片手間に信じといてやろう」

「おまっ、聞こえが良い感じに押し付けるんじゃない!」

 

 当たり前だが、南雲と同じく清隆などに丸投げるのが無難だろう。僕の友達連中でアレ系に対応できる奴は相当限られる。清隆でなければ、周辺被害が拡大する覚悟の早苗か高円寺、あるいはかなり心苦しいが近い思考力のある椎名でないと難しいと思う。

 なら、目を付けられてるっぽい上に対応能力がある清隆が知略系の妖怪退治に最適なのだ。

 

 

 

 そんな風に話ながら、ちょうどステルスメイトしたチェス盤を片付けていると、清隆があるものに興味を持った。

 

「うん? これはなんだ? こんなモノがこの部室にあったか?」

「あっ、ついに触れた……」

 

 まぁ、チェス盤も充分おかしいが、異彩を放つそれに目が行くのはしかたない。しかし栄一郎はマジかよコイツって目で指摘した清隆を見てから目を逸らしていた。

 

「ああ、それは祭壇と御神体だ」

「祭壇と」

「……御神体?」

「うむり。早苗の要望…というか多分気まぐれでな。君らが来るまでに設置したんだ」

 

 着替え終わってさあ解散というところで、早苗が部室に御神体を置きたいと言い出した。

 なに言ってんだ、コイツ。とは思ったものの、ついでだし大した手間でもないので設置を手伝った。元々部室で時間を潰そうと思ってたし、ちょうどよかったのもある。勿論、半分ヘロヘロな四方は早急に寮に戻らせた。

 

 蛇が描かれたマジンガー、カエルのマーク付きゲッター、旧ザク。思いつきだったのか早苗が候補を2体しか持ってなかったので、部室に置いてあった僕のザクを加えて3体を奉ってある。

 すると明らかに1体浮いていたから、急場凌ぎに昼にもらった早苗産の御守りを旧ザクに搭載。今度早苗に言って、御守りの代わりとなるモノを付け替えれば完成である。

 ささやかながら完成を祝して早苗とハイタッチを交わし、そのまま帰るのを見送った。僕が思うことはもちろん決まっている。

 

……これが御神体でいいのか? 神様方に怒られたりしないよな?

 

 一応、何故か聞こえてくる「心配ありません!」という早苗の幻聴を振り払うように、せめて最低限の祀っているモノの中身を考えておく。

 えっと、たしか守矢神社は風神と……水に関係してたんだったか。じゃあ、広義では天と地になりそうなのを早苗の2体に付与すれば……えっと、あと一つ何かはー。学校に置くものだし、知識とか知恵とかが無難かな?

 更に実用性を求めるならこれが良さそうだ。駄目なら今度早苗がなんか言ってくるだろう。と、僕はさらさらっと筆ペンで張り紙を作成し、仮のご利益を記しておいたのだ。

 

 そして現在。

 

「……それで、この3つの形容し難い物体はなんだ?」

 

 どれも有名なロボットだが、清隆は知らないらしい。コイツは本当に娯楽系統の知識が欠けている。

 

「だから御神体の祭壇だが?」

「そういうことじゃなく……」

「部室に?」

「うむ。見ての通り、それぞれ知恵、通気性、加湿を司っている」

「……何でもありにもほどがあるだろ」

「いや、僕の知る限りだが、アイツの神社って風や水を祀ってるらしくてな。なら天体や地形の観測による知的活動の知恵、居心地を良くする風の通気性、同じく乾燥を防ぐ水といえば加湿。これらをチョイスしてみたんだ」

「それ、東風谷さんと話し合って決めたんですか?」

「いいや? それ設置したら満足したみたいで帰ったから、僕が独断と偏見で書き加えといた」

「……」

「…………この発想はオレには思いつかないな。知恵はまだしも、通気性と加湿を祀る御神体(ロボット)とか……なんなんだそれは。科学と宗教の融合体を生み出そうとでもいうのか。何を言っているんだ、オレは」

 

 しかし早苗の2体は勿論、御守りを装着しただけの旧ザクからすら、ほぼ無風の室内のはずなのに微かに風や水の気配を感じる。僕的には非常に適したご利益である。

 暑さ寒さに乾燥をエアコン・加湿器なしで対応可能かもしれないとは、我が部への信仰心はうなぎ登り間違いなしだろう。

 まぁ、本題とは関係ないし、場が暖まってきたのだからそろそろ話を切り出すか。

 

 

 

 

 

 今回の人生では、約十数年前くらいから急速に広まりだしたスマートフォン(以下スマホ)という機械がある。今では誰もが一台は持つ現代人のもう一つの身体と言っても過言ではないだろう。

 そんな必須機器ではあるが、本来のスマホは端末同士を繋げることが可能で主要回線を迂回しても通信ができるようになっている機能は何気にあまり知られていない。そもそもインターネットというモノは、災害や戦争で拠点を潰されても端末同士でリカバリーできる通信手段なので、そういった機能は不思議ではないのだが。

 

 あまり知られていないのは、その機能が日本では制限されているからだろう。法律の問題があって、端末間の通信は基本NGになっている。また警察も犯人の居場所を特定するために、基地局を経由しない通信に制限をかけている。

 結果、近くに基地局がなくても近くに端末があれば、それらを経由して繋がる基地局に電波を飛ばす…簡単に言うと、こういった通信ができなくなっているというわけだ。

 

 こうやって災害対策にもできる便利機能を潰してるのも、きっとお偉いさん達のお役所仕事の結果なんだろうな、と察せられるあたりどうしようもない。日本という国の組織が、それを許さないのだから。

 ああ、稀に大学とかで端末同士を繋ぐ通信実験のニュースもあるが、あれは日本向けに使えなくしてる機能を実験限定で解除してるんだろう。

 まぁ詳しくはアレすぎるからなんだが、抜け道もあったりするってことが理解できればいい。

 

 さて、僕はリスク管理の為、バイト先である喫茶・芳香のみにしか置いていないものの、禁止されていた外部と即座に通信する手段としてroot化(厳密には別物だが、とある事情でこのままいく)した端末を用意していた。

 勿論、これまで使ったのは、動作確認を兼ねた松雄との栄一郎編入に関する打ち合わせの1回だけだ。あくまで手札の一つである。

 

 基本は緊急用として使うので多用はできない代わりに、位置情報や通信履歴なども学校の管理システムを欺けるようにしていた。簡単に言うと、松雄と青娥さん、それと『もう一人』の端末を介して相互通信できるのだ。

……これを可能にしたのは、青娥さんが『玩具』にした元ストーカーにヤバい部分を全て押し付けられたからだ。

 

 ぶっちゃけて言えば、6月に捕まった時点で通常のroot化端末をすでに複数所持していて、押収前に青娥さんがそれをパチっていたのを更に改造したらしい。

 察するだろうが、この端末を持つもう一人で玩具は愛里の元ストーカーである。また押収前にこうしたことで証拠不十分になり、すぐ釈放されて───真の玩具へと変貌させられた彼の未来はおそらくない。

 具体的に彼に何をしたのかは恐ろしくて聞けないが、ロボトミー手術でもしたのかって勢いで激変していて、以前の清隆以上に感情を感じなかった。僕が見たところ感情が少ないとかじゃなく、完全なる『無』だ。

 

 ともかく色んな意味で愛里にはとても言えないが、これが一因で清隆の父親の動きを素早く察知できているのだから何が幸いするかわからない。まぁ、今では手順は必要で面倒ではあっても外部と接触可能なので、必須級の手段からは一段格下げになっているが。

 ただおかげで綾小路篤臣は別としても、松雄親子に類が及ばないよう保険の手も打てた。当然だが情報も十分に集め、破滅に至る罠も万全である。

 

 とまぁ、我ながら長々とした回想をしたものだが、青娥さんや元ストーカーに関してはこの二人にも言えないので、単刀直入に端折りまくって意見を聞くことにした。

 

「さて、改めて。今日二人に体育祭直後に集まってもらったのは他でもない」

 

 だから清隆と栄一郎にこれから切り出すのは、内容こそ簡単なモノだが二人共にそれなりに重要な案件だ。

 

「綾小路篤臣が明日の土曜に『この学校』へ来訪する」

 

 栄一郎には少し難しいかもしれないが、清隆はすぐに冷静に戻っていい感じに話を脳内補完してくれるだろう。

 

「……は?」

「そこで完膚なきまでに叩き潰すか、くさびを打ち込んだ上であしらってしまうか意見を聞きたい。具体的には言えないがすでに手はずは整えているので、あとは松雄…栄一郎の親父さんにGOサインを出すだけだ。

 どちらにするのが良いと思う? それとも他に何か案はあるか?」

「……………………は?」

「社長はどうしたほうが良いと思いますか? やはり綾小路君の父親を破滅させるのは躊躇いますか?」

 

 予想に反して栄一郎から聞かれてしまったが、清隆みたく変にボーッとされるよりはずっといい。まぁ、自分の父親のことだからしかたないかもだが。

 

「勿論、清隆の父親だからやりにくいっていうのもある。しかし栄一郎や栄一郎の親父さんの先を考えると、潰しきってしまうのもそれはそれでリスクがある。もっと厄介なナニかを引っ張り出すことに繋がる可能性があるからな」

「もっと厄介なナニか……?」

「僕の推測だと前置いて聞いてほしい。

 これまでに得た情報から繋いでいくと、篤臣氏の活躍場所は…十中八九、世の中の裏側だと思われる。それなら後ろ盾…というか表側に手を伸ばすためのコネや伝といった存在が必要不可欠。篤臣氏のようなやり方を承認、または黙認していて利用している奴らが居るのはほぼ確実だ。つまりそんな篤臣氏を完全に潰してしまうと、政治家や経済人の中でもそこそこ大物を敵に回すかもしれない」

「社長や僕達のためにも、緩衝材のような役割で残しておいた方が良いと? 彼が存在しているだけで、表側からの干渉を制限することが可能だから」

「簡潔に言えばそうだ。更には篤臣氏がいれば、仕掛けてくる内容に予測が付けやすい。現状、篤臣氏は最もわかりやすい敵で、しかも首根っこ掴んでいるも同然だからな」

 

 昼に見た七瀬さんの様子から察していたが、辛酸を嘗めただけはある。理解にはもう少しかかると思っていた。

 それに危機感や憎しみだけで動くのではなく、きちんと前を向く芯の強さもある。

 本当に上手く噛み合った偶然だったが、この親子を引き入れられたのは望外の幸運だ。だからこそ───。

 

「……栄一郎にその気があるかはまだわかってない。

 憎しみや復讐心がこの世で最も効率的な原動力なのは知ってる。その上、君達親子がされただろう事は想像に難くない。そっちに傾いても無理はないとも思ってる」

 

 これを言っておかないのは誠実ではない。

 

「それでも僕は、善人がそうなるのが嫌いだ。だから」

「社長。父さんも僕も大丈夫ですよ。翼にも言われて気づきましたが、もう保身を疎かにしたりはしません。その『ご厚意』に応える為にも、社長は社長が最善だと思った事をやって下さい。僕達親子は編入前に話し合って、心からそれを手助けしたいと考えは一致しています」

「っ! そうか……そうか。わかった。すまんな」

「……ははっ。社長からすると、そこは違うでしょう? 普段なら」

「ああ、うん。ありがとう栄一郎」

「どういたしまして! 手足の役目はお任せ下さい!」

 

 やっぱり普通に善人だよなぁ、栄一郎。

 

「と、というわけで栄一郎の意見は聞いたが清隆もなにか……清隆? おーい、起きてるか? 残す問題は清隆だけなわけだけども」

「残す問題?」

「あ、うん。栄一郎は松雄に聞いてるかもだけど、そもそも篤臣氏の来訪目的が清隆をどこかに連れ戻す事らしくてな。清隆が篤臣氏に言われるまま退学とかしてそこへ行きたい…戻りたい? って場合、その……清隆を敵に回す確率が高いんだ。で、僕がそれは嫌だし、なんかできるならせめて今のうちに意思を聞いとこうかなって」

「オレの……意思?」

 

 これまでからすると、清隆にその意思はないと思われるものの、本格的に父親を潰すとなったらどう出るかわからない。

 

「撃退にしろ徹底的に潰すにしろ、清隆がどうするかによってかなり道筋が変わってくるってことだ。篤臣氏も油断できないが、はっきり言って本格的に清隆に敵対されるくらいなら多少の融通を利かせた方がまだマシだ。篤臣氏を『倒す』までは決定事項だけどな。現時点ですでにどうしようもなく僕や松雄は敵対状態だし。

……まぁ、今の話だけで何かしらの穴に気づいたら、あわよくば助言や指摘とかして助けてくれないかなって下心もあったが」

 

 ただまぁ、なんだ。僕は清隆を希望や意向が読めないだけで友達だとは思ってるので、明日あるだろう呼び出し前に一言伝えとくのも悪くはないんじゃなかろうか。

 

 

 

 清隆が再起動しようとしている間、栄一郎が当然の疑問を出してきた。

 

「あの、社長や父さんを疑う気はないんですが、綾小路君はそこまでなんですか? そこら辺がいまいち実感わかなくて」

「んー、じゃあ栄一郎、いきなりだが問題。ベルヌーイの定理における揚力や浮力の有用性を簡単に証明せよ」

 

 勿論、これは単純な学力知識でしかないが、即座に示せる例がこれしかない。松雄から少しくらい情報をもらってることを祈ろう。望み薄だけども。

 

「はい? べ、ベルヌーイ? 浮力はともかく……その」

「あー、うん。普通はそうなるから深く気にするな。これを即答できる清隆は最低でも大学レベルの物理知識を持っているってわかればいい」

「……いや、オレはそんな問題を解いてないぞ」

「ありゃ、そうだっけ? こっちは早苗だったかな。でも清隆だって測度論やルベーグ積分とかわかってたし、大学でも専門分野に踏み込んでるレベル以上なのは確定だろ?」

「それを理解している夢月が何者かって問題もあるけどな。高校じゃ普通はリーマン積分すらやらないはずだ。オレはそのへん詳しくないから断言はできないが」

「いや、そんなことはない。たしかに学校ではやらないが、理系を志すんなら早めに研究の基礎くらいは固めとくもんだ。分野はバラバラだけど、僕以外にも早苗や高円寺なんかも答えられたし、やる奴はやれるんだよ」

「……そういうものなのか。普通とは言わなくても、いなくもないと」

「そうだ。研究論文とか読むのに基礎知識はないといけないからな。あとついでに指摘しとくと、こういった大学レベルの問題を正解しといて基礎問題を間違えるのも仲間内ではもうやらない方がいいぞ。これも清隆が不審者に見られた原因の一つだからな?」

「一つ、か……」

 

 僕もこの学校に来て驚いたが、高度なはずの薬品すら精製できる早苗や、政治や経済をミクロ・マクロ視点双方で分析したりする高円寺なんかが普通にいるし、そうおかしなことでもないのだろう。

 それに数学者の父を持つキャットルーキー初登場時に高3だった寅島は別にしても、本気で東工大だのMITだのを目指す奴らは基礎を固めつつも専門知識を得ることに貪欲だ。

 全部でなくとも最近の高校生は進んでいるのである。

 

「いやいや! 社長達は絶対『普通』の基準から逸脱してますよ! 好んで論文読む高校生がどこにいるんですか!?」

「ここに。てか、天文部には案外ゴロゴロいるが」

 

 そして僕でさえ趣味の考古学や博物学、最新の数学論文を読み解くために暇な子供の頃は学び直したものだ。そういう奴はたくさんいるに違いない。

 

「なにあの特殊な人達を基準に設定してるんですか! そもそもなんでそんな問題を解くことに!?」

「え? あー、たしか5月頃の小テストで高校の学習範囲を逸脱したレベルの問題がいくつか出てな。天文部はみんなで学期末テスト対策してたもんだから、真面目に勉強してる中で居心地悪くて。えーと、息抜きか暇潰しに作った『普通の高校ではまずやらない』問題集だったかな……?」

「ああ、夢月はあの時ゲームを作ってたもんな。オレは一度顔を出した際に、問答無用で巻き込まれたんだったか」

「こ、この人達……。やってることが高度なモノもあるわりに、なんて軽い。勉学ってそういうモノじゃないでしょう」

 

 あ、でもこれは風向きが悪くなる予感。ちょっと雑に話を逸らしとこう。どっちかはツッコんでくれるだろう。

 

「ちなみに関係ないし話を変えるけど、小中時代の音楽の評価は特殊な7段階だから難しかったよな。そのせいで僕はこの教科だけいつも4とか5とかそのへんだったよ」

「えらく急に話を変えましたね!?」

「7段階? ……あ、ああ。そうだったな。オレのところもそうだった」

「「え?」」

「き、清隆。お前……」

「……社長。綾小路君の育ってきた環境は」

「お、おう。想像を絶する魔境だったようだな」

「は? 何故そんな反応に……」

 

 そしたら、なんか変なところで清隆の同意を得てしまった。栄一郎が思わず素に戻る衝撃を伴って。

 改めて思うけど、清隆は能力以外も絶対に一般人じゃないだろ。こんな明らかな冗談に知ったかぶりして乗ってくるとか不自然にも程がある。

 

「綾小路君。……7段階評価なんておそらくどこにも存在しません。社長のいつものです」

「……ひっかけ?」

「引っ掛けるつもりもなく、常識なんだよなぁ。

 あ、清隆にわかりやすく言うと、1は怒、2はレーザー、3はミホーク、4はファ!? 5はあっそ、6は楽、7は死だ」

「ただの音階とダジャレじゃないですか」

「……」

「うんまぁ、清隆がまともな小中学校に行ってないのだけはよくわかった。これまで大変だったんだな」

「ふぅ…………またしても夢月に墓穴を掘らされたか、やれやれ」

「いや、自分から埋まりに行っただろ。人のせいにすんな」

 

 なにクールにやれやれ系になって誤魔化そうとしてんだ。手遅れなんだよ、このナチュラル不審者が。

 

「……それにしても、社長達って…なんというか本当に奇妙な集まりですよね。卒業まで真面目に勉強しても範囲に入らない箇所を勉強してたなんて」

「そうは言うが栄一郎。受験テクニック『じゃない』勉強って結構面白いんだぞ? 僕にとっては、高校受験と大学受験の偏差値の中身が違うことよりも興味がある」

「ちょっと待ってください! 偏差値が違う? なんですそれ?」

「え、言葉通りだし、学んだ時間からすれば当たり前だよ。例えば、高校受験の偏差値60は大検の偏差値40とだいたいイコールで結ばれるじゃん?」

「初耳なんですけど……」

「そうなん? 有名だと思ってたわ。ま、まぁ。だから受験に出る問題を半分くらいは学校で勉強して、それ以上を狙いたいなら学習塾とかで超長文問題や初見殺しの解法テクニックを教えてもらったりして偏差値上げるってイメージ。こういうのは学校の授業や自主勉強だけじゃ基本どうしようもないからな」

「……」

「なるほど。そういう仕組みになってるんだな。世の受験生達がわざわざ時間と金を払ってまで塾通いするのは何故だと思ってたが、受験に必須級のテクニックを学ぶためか」

「そ。清隆達みたいにこんなのが必要ないくらいのレベルならともかく、こういうのを知ってるか知らないかでかなり合格率に差があるんだ。あとエスカレーター式の学校では、勉強しない内部組を遠回しな生贄にするって意味で落とし穴にもなってる」

「ただ努力するだけでは駄目なんだな」

「ああ。ここまで言えば気づいてるだろうけど、この学校のAクラス特権にも同質の落とし穴がある。だから少数の誰かが頑張った結果Aクラスで卒業すると、『その先』で井の中の蛙的なエサや生け贄にされるから、栄一郎は特に気をつけろ。高円寺や椎名なんかは理解してるっぽいし心配もしてないが、知ってないと彼らに付いてすら行けなくなるぞ」

「僕は……」

「……パラダイスはやはり幻だったか。夢月が努力嫌いと公言してたのは、こっちの警戒に注意を割いていたからか?」

「それもあるが、僕は努力そのものを信じてないんだ。だけど、努力を無駄にするのをもったいなく思ってもいるからな。必要分は情報も集めとくさ」

 

 意図せぬところで知恵の重要性に気づいたのか栄一郎が衝撃を受けているが、代わりに清隆が通常状態に復帰した。

 もうそろそろ戸締まりだし、話を戻してこっちも締めておくか。

 

「ところで盛大に脱線したわけだが、清隆もデフォに戻ったみたいだし、さっき聞いた清隆がどうしたいかを改めて聞いてもいいか? おそらく清隆は明日呼び出されるから、今のうちに意思確認しておきたい」

「そうだな。オレは───」

 

 そうして口を開いた清隆は、なにやらスッキリした顔になって端的な意見を述べた。

 

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