ようキャ   作:麿は星

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123、最高傑作

 

「今回、オレは全面的に夢月に乗ろうと思う。合わせるのに必要な部分を話してくれ。助言もできるかもしれないしな」

 

 清隆のこの答えはかなり意外だった。

 なにかというと秘密主義で、自分だけでも達成可能な手を打つ印象があり、尻馬に乗ろうとするような奴ではない……悪く言えば、何物も信じないと思っていたからだ。

 何気に頑な、というか無機質気味なコイツの心境が変化するようなナニかがあったのかもしれない。例えば、坂柳ショックの後遺症か、無人島での一件みたく勝負後の謎テンションがリレー後にも発生していた可能性があり得る。

 まぁ、清隆が乗ってくれるなら百人力だし、深く突っ込む事もないだろう。

 

 それよりも直近のクッソやりたくない雑事を片付けるのが先である。

 僕はこれまで目的地点を細かく刻んできた。

 寄り道や予定外も利用したが、それが入学時に考えていた最終段階に到達するに至り、仕上げと次を考える前にこの雑事を片付ける必要があった。ゆえに清隆の変化はとりあえず脇に置いておく。

 

 というわけで、土曜日の夕方。

 青娥さんから連絡を受けた僕は、綾小路親子の面会している場に乱入すべく、ギシギシいう身体を無視して早足で校舎の一室へと向かっていた。時間的に、おそらく到着する頃には親子の話は終わっているだろう。

 なんか目的地周辺を彷徨いてた坂柳理事長を追い越し、そのままその部屋を3回ノックする。

 

「どうぞ」

「なっ……!?」

 

 すると、昨日の打ち合わせ通りに中から清隆が入室許可を出してくれた。つまり話は“僕達”の想定に違わず平行線を辿ったらしい。

 

「失礼します。若輩者ゆえ無礼はお許しいただけば幸いです。

 そして改めて名乗りましょう。僕は清隆君の友人で左京夢月と言います。綾小路篤臣氏ですよね? はじめまして。ようやく直に御目見えできて嬉しいですよ」

「貴…様が……!」

「清隆君とのお話は終わったようですし、次は僕と話し合いましょう」

「殺されたいのか貴様ッ!!」

 

 うぉっ、予想以上に怖ぇえええ!

 口を挟ませることなく一気に行ったとはいえ、極力友好的に話しかけたのに大人気なさすぎだろ。少しは息子を見習って……息子も似たようなものだったわ。松雄を見習ってくれよ。チビるかと思った。

……よし。失礼は承知してるが、途中で腰が抜けたらコトだ。こうしよう。

 

「ふむ。まずおかけになってはいかがです? ご心配なら…ほら、僕が先に座りますよ」

「ッ―――」

 

 僕は言いながら、立ち話していた綾小路親子の横を通りすぎ、部屋で一番奥のひじ掛け椅子に深く腰掛けた。これで、もしもがあっても醜態は晒さない。

 よって、ダンッ! と机を叩いた篤臣氏にビクついたものの、なんとか持ち堪えることができた。

 

「なに、ビジネスマンの嗜みです。お互い少し落ち着きませんか」

「……そういうことか。貴様の差し金だったようだな。年齢からすれば大したものだ───だが」

 

 内心で怯えまくる僕を見て何を思ったのか、篤臣氏の表面から怒りが沈められ冷たいモノが入り交じる。

 しかし激昂されるよりはまだマシである。バーサーカーじゃなく権力者の攻撃性を露にしてくるなら、対処のしようがある。少なくとも会話になるからだ。

 

「今更貴様が出てきてなんになる。不出来な誓約書にあったはずだ。次に俺の前に姿を見せれば叩き潰すと。わざわざ自分からそうなりにきたか」

 

 これは青娥さんが誓約書に開けておいた穴の事を言っているのだろう。たしかにそう読めなくもない箇所はあった。

 

「今更? ははっ、ご冗談を。これからですよ篤臣さん」

「俺は忙しい。貴様ごときと話す暇はない」

「まぁ、そう言わずに。聞かずに帰れば後悔することになるでしょう」

「後悔だと。くだらん。子供の」

 

 やはり聞く耳持とうとはしないか。なら、強引にこちらのペースに乗せてしまうほかない。

 

「ともあれ、この出し物に遅れるかと思いましたが間に合ってよかった。せっかく今日限りの出会いですし、どうせなら貴方のような大物と話してみたかった。これで幕引きですしね」

「ふざけるなッ!! 貴様のようなガキが散々俺の邪魔をしておいてよくも!」

「もっと余裕を持って振る舞えませんか? いい大人なんですし。

 それに、そう―――」

 

 足と手を組んで背もたれに身を任せ、引きつっているだろう笑みを意識する。少しでも震えを隠すためだ。メッチャ怖ぇ。間に机を挟んでおいてよかった。

 てか、なに父親と一緒になって驚いてんだよ清隆。たしかに具体的な方法は言わなかったけど、こうするってのは言っといただろうに。

 ま、清隆については気にする余裕もないし、今はいいか。

 

「―――篤臣氏はもう負けているのですから」

 

「負け……? いったい誰が……。俺が? ふん、俺が負けるはずもない。まして貴様のごとき子供になど―――決してだ」

「貴方がこれまでに踏みにじってきた人達も、少なからず『そう』だったでしょうね。敗因は小物だと踏み潰そうとした相手にジョーカーが混じってたことです」

 

 ジョーカーが青娥さんなのは言うことでもない。大部分を僕に投げてきたけど、約束は約束だ。

 

「貴様……貴様ッ! 俺に何をした!!?」

「何もかも」

 

 ナニかをされた事には気づいたか。

 しかし遅い。遅すぎる。寝過ごしたウサギよりもなお遅い。

 やべぇと気づいてから、僕にできる手はすでに打ちきった。現時点から対抗策を打ち出そうと、外部接触が難しいこの学校の特性や外にいる松雄の各種防衛策を突破するには、篤臣氏が相当の権力者であっても泥沼を覚悟する必要がある。

 学校や鬼龍院・高円寺の2財閥の介入もあり得るし、最悪なのは最深部に理の外側にいる仙人が手ぐすね引いていること。

……ただまぁ、使わない仕掛けも保険も詰めも奥の手も残したままにするつもりだが、青娥さんをなるべく世間から隠せる程度のつじつま合わせが実に、じつ~に大変だった対価は払ってもらう。知ったこっちゃないだろうけど。

 

「なっ」

「だから何もかもですが? 例えば、あなたの会社や拠点、行き付けの店に至るまで。毎日毎日、警察が訪ねて行って、篤臣氏の名前と用件を連呼させる段取りはできてます。またメディアへの下準備も先月整いました。使える人数も数人なんて規模じゃなく、ね?」

 

 これらは、致命傷に至らずともさぞかし嫌だろう。ただでさえ叩けばいくらでも埃が出る負の意味での打出の小槌なのだ。僕達に構ってる暇はなくなるのは間違いない。

 尤も、メディア関連の策は将来あるかもしれないキャットルーキーの始まりを告げる雄根小太郎の電波ジャックの保険なので、できうることならその時まで残しておきたいが。

 それでも見せ札には充分だろう。

 

「勿論、篤臣氏の行動範囲も『表側』はきっちり調べ上げてます。そしてこれだけでも、貴方の権力基盤に大ダメージを与えるでしょう。楽しみですよ、僕は」

 

 なにより篤臣氏のような人種にとって、おおっぴらに派手に攻撃されるのは、裏で糸を引く者から切られるリスクが付きまとう。当然、これがただの見せ札でしかないこともわかるはずだ。

 

「貴様ッ───左京夢月!! 子供の限度を弁えろ!」

「ふぅ……ようやく本気になりましたか」

「な、に?」

 

 なので破滅ではなく撃退を目的と定めた以上、この札を切る。

 そもそも、ふざけるなはこっちが言いたい。

 高1の僕や本来なら定年の松雄にその息子を、よくもこんなふざけた茶番に巻き込んでくれたな。マジで清隆に感謝しとけよ? ただ叩き潰すだけで済ませることにしたんだからな。

 最近まで本気でそのつもりで、破滅のカウントダウンを刻んでいたんだ。僕はその為に打った悪辣な手段を少しだけ提示した。次は篤臣氏の番だ。

 さあ、お前の罪を数えろ。

 

「───舐めるなよ、綾小路篤臣!」

 

 その想いを今ここで開放してやる。怖いのは後回しだ。

 

「こっちの覚悟も準備も万端だと言っているんだ! その上で、抜け出せないレベルで罠にどっぷり浸かった貴方自身はそれを自覚せず、臆面もなく僕が赤面するような振る舞いをよく堂々とできるな!」

「……っ」

「いいだろう。自覚できるようシンプルな話にしてやるよ。

 貴方は僕の何もかもを奪うことはできるが、僕『達』は貴方の何もかもをなくす事ができると言っている」

 

 やるかやらないかを天秤にかけ、それでも自爆特攻してくるならしかたない。全ての手札を使って戦争してやろう。

 掛け金は僕と松雄親子だけで済むように手配している。幸いにも、愛里には早苗や青娥さんが付いているので安心?だ。

 

「権力も金もそこそこもっている貴方と、現時点でほとんど何も持ってない凡人の僕と松雄親子。

 僕達諸とも破滅する覚悟が貴方にあるのか!」

 

 尤もワンサイドゲームにする自信と根回しはできてるし、学校の性質も利用できる。ゆえに清隆が篤臣氏に付かなければ、どうとでもできるだろう。

 

「そう自分自身に問いかけてみろ」

 

 目を見開いて睨みつける篤臣氏に、僕は同量の感情を込めて睨み返し、ついでにとんでもなく事態を拡大させた邪仙への想いも乗せて叩きつける。

 

「なん、なんだ。貴様は……!」

「左京夢月。普通の一般学生だ」

「普通とは……」

 

 清隆が遠い目でなにか呟いているが……なんだ、なにか文句でもあるのか?

 ともかく、こんなことは僕を一目見れば看破できるが、無駄に手札を晒すまでもない。

 息子とタイプは違うし、今は通常の精神状態ではないっぽいけど、篤臣氏はある種の一流なのだろう。言葉や雰囲気から躊躇いや優しさといったモノを感じられない。

 いや、別に貶す意図はない。人間としてはどうかと思うものの、権力者として一流な部分も見受けられるという意味だ。こうした倫理観がないタイプは、目的を達成するために何を犠牲にしようと止まらない。

 推進力という点において、篤臣氏は僕が…『俺』がこれまで見てきたお偉いさんの中でも指折りだ。流石は清隆の父親。真にリアリストである。

 

「ここで俺をコケにするか! いい度胸だ」

「僕は小心なんですよ。だから一撃で決めるにはどうするか考えてました。そしてそれを『実行』した。その過程でそう見えてしまうのはしかたありません」

「───ッ」

 

 だが、この場合、篤臣氏の打開策はそう多くない。あえてこのタイミングで敬語に戻し、過去形で一部をひけらかしたしな。このレベルなら、これだけで色々察しがつくだろう。

 更に僕という弱者相手ゆえに『ソレ』をすることなく撤退も考えられる。打開の鍵を見つけられないほど焦っていると見た。

 それでも篤臣氏に。ついでに清隆にも。怯えながら啖呵をきった時点で、僕はもう底を見切られているだろう。そんな目障りな小物程度を相手に、そこそこのダメージ覚悟で力押しする利益は見いだせない。推進力のあるリアリストゆえに、現実的な思考こそが足枷となるのである。

 

「これは……手詰まり、だと? 馬鹿な……馬鹿な! 清隆さえそこには到っていないはずだ!」

「馬鹿だろうと、愚か者だろうと、凡人だろうと。世の中にはやろうと思えば可能なこともあるんですよ、篤臣さん」

「「……」」

 

 流石に頭の回転が早い。僕が暗に匂わせた材料を即座に裏まで読み取ってくる。

 しかし……おい。篤臣氏はともかく、清隆まで押し黙るなよ。この構図だと逆に僕がヤバい奴みたいになるだろ。

 てか、最初以外、清隆がほとんど発言しない。マジでコイツの意図がわからない。もう親子の話は終わってるのかもしれないが、今なら清隆の主張をどさくさ紛れに通せないこともないと思うのだが。

 

 

 

 しばらくの沈黙を経て。

 

「勝…った……のか? まさか」

「……なるほどな。話し合いなどそれこそ茶番。罠を張り巡らせた場所に誘い込んだ上で、撃退のみを主眼においた甘いやり方、か」

 

 複雑っぽいけど親子だからか、ほぼ同じタイミングで詰んでいた現状に考えが至ったと思われる。ならば篤臣氏が取るべき選択肢は、おそらく一旦退いて自陣への対策を打ちつつ包囲戦術、または搦め手。忙しいらしい合間を縫ってだ。これならどうにか撃退しつつ凌ぎきる状況は作れるはず。

 

「不本意ながら今回は認めよう。貴様の危険性をな」

「一応言っておきますが、僕達に手を出してこないならこれ以上の危険はないですよ?」

 

 無駄だとも思ってるけども。

 

「戯言を。このイレギュラーが……!」

「周りが天才なんで。僕はどちらかというと、凡人の意地を見せて足掻いただけです」

 

 流れが変わり、ようやく終わりにできそうだとホッとして笑顔で返すと、篤臣氏の表情には言葉通り僅かに僕を認めるような色があった。

 ただ……油断させておいて、冷静に潰そうとするナニかに勘が反応してもいる。

 引き締め直せ。まだ何かがある。

 

「ああ、そうだ。貴様はホワイトルームの最高傑作というモノを知っているか?」

「!」

 

 なんだ? これが……罠? よくわからない発言だけど、悪意を包んだ贈り物っぽい気はする。

 

「は? ブラックじゃなくホワイト?」

「どこから色が変わったかは知らんが……違うか。チッ、清隆も松雄も最低限守っていたようだな」

 

 それかワードからすると清隆が僕のゲームを送ったりしてたのか? それにしては設定への理解が微妙だが……。いや、清隆が反応してることからして何かの喩えかもしれない。

 

「…………ふん。国を動かしたい希望があれば、すぐでなくとも俺の下につけ。貴様にはその資質がある。できるなら清隆を操縦してみせろ」

「!!?」

「申し訳ないですが、興味ないのでお断りします。そういうのは僕じゃなく、息子さんみたいな頭が良い奴とかに勧めた方がいいですよ」

 

 今度は懐柔? 理事長みたいなことを。

 何を考えている? 僕にはそういうのマジでいらないから。

 

「力を持ちながら、それを使わないのは愚か者のすることだ。貴様は愚か者なのか?」

「愚か者でもなんでもいいですよ。僕は自分の美学と矜持を貫くためにしか動きません。少し下品ですが、他者の評価なんかくそ食らえですね」

「他者の評価か……そこの最高傑作はどうなんだろうな?」

 

 あ、これだけ言ってくるってことは、多分知ったら駄目なヤツだ。それにこれ…もしかしなくとも清隆のことじゃね? だとすると、清隆ってマジで僕のゲームの設定みたいな非現実的な裏があったのか。すごい偶然の一致だな。てか、敗勢とみるや情報漏洩を攻撃材料にして方向転換するとかヤバすぎるだろ。

 まぁ、なにはともあれ。通じるか不明でも、当面は気づいてないフリをするしかないか。

 

「さて、なんのことやら」

「……食わせ者が」

 

 ちょ、怖い怖い。え、僕…ヤバくね? 言うだけ言ったらスイッチが切れた。そのせいで、自室を出る直前にトイレ行っといてよかった、って安堵してるレベルなんだけど? 清隆、守ってくれるよね? なんでほとんどずっと無言を貫いてるん? 今こそいつもの空気を寒くする不審者ムーブで注意を引くべき時だろ。

 

「二度会うことはないと“祈って”おけ、左京夢月」

「はい、すでに祈ってます。ついでに部屋を出たら『坂柳理事長』によろしくお願いします。貴方に言う事じゃありませんけど、またがあるとは思えませんので」

「ふん……こんな場所は一度きりで十分だ」

「個人的には同感です」

 

 うん、それは身をもって実感してる。予想より悪い人じゃない…といいなぁ。無理筋なのはわかってるけども。

 

「では、さようなら。綾小路篤臣さん」

 

 僕が篤臣氏を見たのはこれが最後。清隆を一瞥して篤臣氏は足早に部屋から出ていった。

 少々強引な切り上げ方だが、一旦拠点に戻って早急に状況把握に努めるのだろう。僕は扉が閉まると同時に、大きく安堵の息を吐き出す。

 でもなんか自然に見送っちゃったけど、これって本来は息子である清隆の役回りだろ。なにボーッとしてんだよ。

 

 

 

 

 篤臣氏が退室した直後、少しアレなことになっていたのを自覚した。

 

「すまん清隆。マズい事に気づいた」

「…………なに? 今度はなんだと……」

「言いにくいが、昨日の筋肉痛に加え、篤臣氏の最後ので腰が抜けた。動けん。悪いが手か肩を貸してくれ。あんまり長く応接室に居座るのはよろしくない」

「はぁ!!? あれだけ言っといて!?」

「お前の父ちゃんが怖すぎたんだよ。緊張が抜けたら一気にきたわ」

「おまっ……! ……っ」

 

 なので清隆に救援を求めたのだが、何故か大袈裟に驚いて固まった。弱者の僕には当然の理だろうに、まったくわけのわからない奴である。

 とはいえ、一応手は貸してくれるみたいで、清隆は呆然としたまま僕を応接室から連れ出してくれた。微妙に引き摺られたけども。

 ただ通り道でボーッと突っ立っていた理事長(篤臣氏はスルーしたのか)や、通りすがったのか彼の担任である茶柱先生すらガン無視するあたり、清隆内部に異変が起きていたのだろう。広い心を持って引き摺ったのと運んでくれた恩を相殺することにした。

 そのまま中庭のベンチまで運搬され、そこでようやく清隆は口を開く。

 

「……なあ夢月」

「ん?」

「あれは本気だったのか?」

「ああ、勿論───ブラフだよ。本気と言えば本気だったけどな」

 

 アレ以外もいくつか準備していたが、清隆の帰る場所がなくなる可能性も高く、また清隆と松雄親子の意見を取り入れたのもあり、結局昨日は玉虫色の結論に落ち着いていたのだ。その予定を変えなかったのだから、清隆はおおよそ予期していたはずだが……。

 

「くっ───はははははっ!! おまっ、口先であの男を撃退とか……! はーはっはははっ!」

 

 すると、体育祭に続いて清隆2度目の大笑いが中庭に響く。

 関係ないが、最初に会った頃と比べるとよく笑うようになったものだ。

 

「なんだよ。要望に応えて完膚なきまでに破滅させる手法を取らなかったのが、そんなに嬉しいのか?」

「ふはっ、違う。とことん予想外を突いてくる夢月があまりにも興味深くてな…ククッ。自分が井の中の蛙だったと思ったら勝手に笑いがな」

「はぁ? 予想外? 確かに珍しくはあるかもだけど、あれはむしろ対策してなかった向こうが迂闊すぎただけだぞ」

「ぶふ、そういうところだ」

 

 笑いを収め小さく吐息をついた清隆は、独白するかのようにいきなり語り出す。

 

「これまでオレは理解できないまま夢月が負けるかもしれないと侮っていた。オレを理解できる者などいないとも思っていた」

 

 始めは静かに。そしてだんだんと大きな波になってくる。

 こんな語りもできたんだな、コイツ。

 

「それがどうだ。ことごとく予想を外し、ついにはオレの想定しない勝利をもぎ取った!

 わかるか? いや、流石にわからないだろう。あの男が作った最高傑作に『完敗』を認めさせた意味を……!」

「あー? お前、なんで完敗とか言ってんのにテンション上がるんだよ。その前に意味がよくわからない。そもそも僕は清隆には別に勝ってないだろ。ただ篤臣氏の『根本』に細工しただけだ」

 

 いかなる権力者も天才も人間である以上、何事かを成すには理由か意思が必要だ。

 なら僕が打つべきは、理由や意思自体を断ち切る、もしくは別方向に逸らすよう誘導する一手だろう。力押しと違ってわかりにくく簡単なことでもないが、材料を揃える条件が手元にあったのは幸運だった。

……まぁ、その条件の半分以上を占める者こそが元凶でもあったわけだが。

 

「はははっ! 夢月、お前と友達になれたのは望外の幸運だったかもな。勝ってない、か。オレにもこんな感情があったんだな……ははは」

 

 それにしても、話の流れ的にやっぱりホワイトルーム?とやらの最高傑作って清隆かよ。それにコイツにまで早苗や高円寺のように振る舞ってこられると、慣れてないのもあって付いてくのも大変だから勘弁してくれ。

 ここは普通にやればまず勝てるよ、って言っておくべきか。

 

「なに言ってんだ。破滅願望があったっぽく聞こえるからやめてくれ。いいな? フリじゃないぞ? 勝ちたいなら、変に工作せず凡人にもわかりやすく仕掛ければ清隆の楽勝だろうさ」

「オレにもうその気がないことはお見通しだろ、夢月には」

「自分の過去数ヶ月を振り返れ。意味不明なトラブルばかり起こされて、今その気がないと勘が訴えても安心しきれないんだよ」

「はははっ! 夢月が言うなよ。どっちかといえば、お前の持ち込んだモノの方が多いんだ。誰彼構わず『信用』しまくった対価だと思うんだな」

「僕は友達だから清隆を『信頼』したんだ。関わりのない奴は一度たりとも信用してないわっ」

「……っ。くくっ。それをオレに言える奴だから興味深い」

 

 ん? 何か違和感が……。気のせい?

 

「だが―――少なくともアレは最善手ではないだろ? 夢月がやったことはあまり非合理的すぎる。なんでああした」

「馬鹿なの? 僕の美学を貫くだけの行動が合理的であってたまるか。凡人は天才と違って常に合理的に動けるわけじゃねーんだよ」

「馬鹿はお前だ。思いつかないならともかく、思いついて最善手を取らない策士に先はないかもしれないぞ」

「うっせぇバーカ! そんなに最善手が取りたきゃ清隆がやれ。そんで策に溺れて溺死しやがれ。僕は正面の喧嘩に弱いからそうなった時点でヤバいんだよ。だいたいお前が言う『ソレ』って、お前を利用しろってヤツだろうが! 敵ならともかく、友達の騙し討ちなんて僕の矜持が許さないね!」

「……ふはっ。本当に大した奴だよ、そう───」

 

 なに笑ってやがる。清隆を『率いて』打って出るなんて選択肢を僕は取れないし、意見と決断に反してなんになる。

 たかが完全勝利を得られるだけだ。

 敗者に取り分を残さないなんて、ハイエナ行為より醜い勝利に美学などない。

 そんな格好悪いやり方なんか御免である。

 

「───夢月は異質すぎる」

 

 イイ笑顔でディスるんじゃない。

 しかし、コイツはまた変な事を考えてるんだろう。清隆が無駄に深読みするたびに面倒事が増えてるってそろそろ自覚しろよ。

 はぁ、しかたない。疲れてはいるけど、いつぞやのように打って響かせてやるか。どんなに強引でも、一旦、清隆のスイッチをOFFにしてやればいいんだろ? ならスマホ一本と適当な言葉でこと足りる。

 

 ピリリリリッ♪

 

「僕、夢月君! 今、あなたの目の前にいるの!」

「いきなり急変するなよ夢月。……てか、それ昔の都市伝説になかったか? でもなにか違うような」

 

 これが対清隆のデバフ付きおちょくりだ。効果は、デバフ解除とともに謎テンションもなくなる。

 ちなみに電話がかかってきたかのような音を鳴らしたが、ただ自分の端末を鳴らしてセルフで止めただけの演出である。ま、虚は突けたし成果は上々だ。あとは普段通りの会話に繋げれば、頭の回転が早い清隆だからこそ勝手に察して乗ってきてくれるだろう。

 

「本家は背後だが、安心しろ。清隆の背後に回って襲いかかり、返り討ちに遭うのは嫌だから前にしたんだ」

「ああ……って、オレはゴ○ゴ13か?」

「似たようなものだろ。お前ならどこかでレイヴンやってたとしても驚かないぞ」

「なにかはわからんが、きな臭いことだけはわかる。オレのイメージっていったい……」

「ふっ。元気を出せ。帰りに飯を奢ってやるから、今夜は『ヤツ』の撃退を肴に祝杯と洒落こもうじゃないか」

「だいたいお前が原因だけどな」

「はっはっは───うるせぇ、行こう!」

「……っ。夢月…オレはマスコット枠か……? ははっ……オ、オレが…ふははっ」

 

 仲間正式加入の話はどれも至高。異論は認める。

 しかしとりあえず、清隆の妙な雰囲気は消え去ったので結果オーライだ。僕を飯屋まで運んでくれたら、約束通りに奢ってやろう。

 

「あ、待て。まだちょっと肩貸して。もしくはゆっくり歩いて。身体が上手く動かん」

「……でも何故かいつも最後で締まらないんだよなぁ、コイツ。……………………ふっ」

 

 よっしよし。清隆はシステムを完全に通常モードに移行した。コイツの真剣モードは油断できないから、こまめに通常に戻す誘導はしておくべきなのだ。

 飯を食う時は、なんというか自由で救われてなきゃいけない。それが一人だろうと、友達と一緒だろうと同じことである。

 

 だから、なんか妙に勘に反応してくる青娥さんの気配っぽいナニかも邪魔しないでね? アレだったら……そう! 次はこの清隆を遊び相手にしたら面白いと思うよ! だって僕みたいな凡人で遊んでも面白くないでしょ? うん、オススメ!

 

 と、通じるかわからないけど内心で熱烈に推しといたし、不調な時くらい誰かに代わってもらってもいいはずだ。事後承諾どころか何も口に出さないが、2割は冗談なので問題ない。

 

 その後は、二人焼き肉をして、腹ごなしに用意しておいた道具で軽くキャッチボールして学生寮に戻った。

 月明かりの下でのこれもなかなか乙なものである。

 





 残りの展開的に、おそらくもう本編では出せない伏線開示。
 堀北鈴音視点の綾小路との会話は、堀北妹の眼中にはありませんでしたが実は綾小路がわざと櫛田にも聞かせてました。むしろ本命は櫛田で、堀北妹が保険的役割(堀北妹視点なのに)だったり。まぁ視野が狭いって直で言ってるのに、近くにいた櫛田が目に入ってないんだから、流石の綾小路も小さく吹き出す…んじゃないかなぁ。
 ともかく、体育祭の最中に何度か櫛田が夢月のところに来てたのはこれが原因で、綾小路の目的は夢月と早苗の方に櫛田を誘導すること。勿論、言ってたように夢月は察しています。
 それを踏まえて以降の夢月達の会話を見ると、ちょっと見方が変わるかも。



 あと今話は相手が相手ですが、思考様式や性質、スキルが完全に違うと能力差は意外となんとかなったりしそうな感じは出てたでしょうか。
 万能型の高円寺・鬼龍院(ようキャでは四方と早苗も含む)。
 統率型の一之瀬・龍園・櫛田・葛城・南雲。
 特殊思想の環境適応型ゆえに、バフ・デバフ、または積み上げてきたモノなどを駆使して人や状況を操る綾小路・坂柳・堀北兄妹。
 一芸特化型の佐倉・椎名・アルベルト・須藤・外村。
 基本優秀型ながら癖が強い平田・橋本・神崎(あと夢月と、能力や成績はともかく戸塚もここ)。

 個人的にはこれらのタイプ別の奴らも、条件次第で結果を覆せた場面って結構あると思ってるんですよねぇ。RPGで例えれば、戦士系と盗賊系、魔法使い系の関係みたいな? ジャンケンでも可。
……そして何気にDクラスの種類と層の厚さよ。言及しなかった奴も数人いるけど、これだけバラエティーに富んでれば、そりゃ団結とかできるわけもなく、協調も最低限以外はあまり重要じゃないよなって。原作の綾小路が堀北学に、うちのクラスは強くなるって言ってたのも頷けます。
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