ようキャ   作:麿は星

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126、成長

 

 あの後、四苦八苦しながら布団を広げ、自分ごと転がって愛里が苦しくならないよう僕の上側に乗せた。あえて無理矢理表現すれば、ト○ロの上で寝転がる某姉妹の様相と言えるだろう。

 こうしたことで、最初は主にアイドル顔負け(いやアイドルだったわ)の顔面どアップと高校生離れしたおっぱいの感触がヤバかったが、時間が経つにつれ自分の下半身の方が暴れて大変になっていったのを覚えている。

 それでも心頭滅却しまくって多少落ち着いた頃には、愛里が僕の上?横?で本物の寝息を立てていた。抱き位置をズラして少し開いていた愛里の太ももの間から戦闘体勢のモノを通し、なるべくソレを接触させないようにしたのが功を奏したのかもしれない。

 つまり……愛里? 僕の横で寝てるよ(寝てるだけ)状態である。

……曲がりなりにも女子と腕枕で朝チュンの夢は叶ったが、同時に辛く厳しい一夜であった。

 

「う、う~ん……んぇあ? ここ、どこっ───!!」

 

 その愛里は6時半頃に目覚めた。

 重要な事なのでもう一度───朝の6時半である。

 8時間以上を……疲れていたのか腕の中で寝た愛里の本寝(唯一空いてた左手で眼球運動を確認したから間違いない)から換算しても約7時間。天国と地獄の境界で幸せな不自由を味わい尽くした。

……あんな安心しきったような寝顔を見せられたら、ヤれるわけないだろ、ド畜生。僕に南雲か清隆の精神性がインストールされてたらあるいは、ってとこだろう。

 

 僕自身は、愛里を起こさず痛くならない強さで抱きしめ続け、気絶した感じに僅かな時間だけ寝落ちしたようだ。襲わない為には、もはや愛里の頭ごと抱きしめて『僕が』動けないようにセルフ拘束する方法しか思いつかなかったのである。

 そんな状態で目が合ったわけだが、こういう時にどうするかわからなかったから、とりあえず至近距離で挨拶を口に出す。

 

「おはようさん愛里。よく寝れたようでなにより」

「ひへぇっ!!?」

「ん? どうした。何か不思議な事でもあるのか?」

 

 すると寝起きの愛里の目が大きく開かれ、奇声を上げた。

 そんなに見つめるなよ、恥ずかしいじゃないか。

 

「へぁっ!? これは夢!? ……あっ、あの後にわたしっ……」

「残念ながら現実だ。隙だらけだったぞ?」

「ご、ごごごっ、ごめんね夢月君! すごく安心したら力が抜けて寝ちゃったみたいで……」

「謝ることはない。役得ではあったし、僕だって愛里といる時間は長い方がいいからな」

「へひっ……!?」

「ただ愛里ってすげぇ可愛いんだから、もう少し警戒心を持ってくれ。正直、何度も襲いそうになった」

 

 挨拶返しは妙な声と瞬間湯沸し器のごとき紅潮具合だった。

 当然のことながら、気づいてしまったのだろう。朝になっても常態化したかのようにギンギンになってるモノ。それが愛里の身体に押し付けられたままだということに……。

 多少は眠たものの、ほぼ一晩中コレである。寝不足と下半身に血が集まってるせいで疑似悟りモードみたくなってるが、もはや諦めの境地と言っても過言ではない。この状態で暴発しなかったことだけが救いである。

……嘘だ。冷静に返せてるようで内心泣きそうなのは言うまでもない。

 

 ともあれ、なんか愛里もへひへひ言ってて落ち着かない様子なので、寝付く前みたく太ももの間に危険物を通す。

 多少の接触はどうしても起こるものの、それがよかったのかソレに意識をチラチラ向けながらも愛里と会話可能になった。こうすると、とんでもない破壊力の羞恥顔とおっぱいが再び僕の顔に急接近するから痛し痒しなのだが。短時間とはいえ、早苗や担任、一之瀬には『そういう意味では』微塵も動揺しなかったのに、我ながら不可解なことである。

 結論。おっぱいは、大小や形ではなく誰のモノかが最も重要である。真理の扉を開けてしまったな。これが……対価か。

 

「わたしに、その……何もしなかった、の? こ、こここっ、こんなになってるのに……」

「当たり前だろ。明らかに様子がおかしい愛里に手なんか出せるかよ」

 

 ピロートークのようでありながら、まったくそんなことはないこれに悲しむがごとく僕の下半身がビクンってなる。

 でも、たとえチ○コがこれで説得力なくても、情けなくても、全部バレたとしても、こればかりは絶対に一線を越えない。

 信頼を向けてくれる愛里を裏切ることはしたくないのだ。愛里を曇らせるくらいなら、他の理由すらも後付扱いである。

 

「っ……」

「ちょ、おい! だから今はしがみつくな! 本気でエロい事したすぎてヤバいんだって!」

 

 ちなみに抱きしめる以外の手は出してないが、愛里の抱きつきから抜け出すこともしなかったのは秘密である。

 力ずくでハグから脱出するのは難しくなかったと思う。愛里の腕力ならなおさらだ。問題はその意思がどうしても生まれなかったこと。

 愛里が起きたらヤバいとはわかりつつ、最高の感触を振りほどけなかった。そのままほぼ一晩中、襲うのと暴発を避けるべく抱きしめていた。

 邪仙が仕組んだ疑惑の引っ掛かりがなければ、僕は確実に愛里で卒業していただろう。

 何をって? 野郎なら言うまでもないことだ。

 

「…………ふふっ。でもホントに早苗さんや青娥さんの言ったとおりだ」

「やっぱりあの邪仙か! 愛里と僕の性欲を弄びやがって!」

 

 その時、愛里が抱きつきながら呟いた聞き捨てならぬワードが聞こえた。

 予想違わず、紛れもなくヤツが元凶か。しかも早苗だと? 奴まで絡んでいたとは……。

 これから愛里を見るたび、この一夜が頭を過るようになったらどうしてくれる。くっついたままとはいえ、いまだギンギンなんだぞ。十二分にあり得る可能性だ。

 と、決壊寸前なので意図的に思考をそちらに割り振り、鬼のような拘束力を持っていたハグから精神力を振り絞って抜け出す準備。

 

「ええっ! せせせ性欲!!? ち、ちち、違うよ!? だって二人とも、本当に大事に思ってるなら夢月君は“絶対”に手を出してこないだろうから、もう少し後にした方がってアドバイスしてくれて……」

 

 なんか愛里がグダグタ言ってるのをさらりと流し、僕の脳内はカチコミ一色に染まった。いや、自ら染めた。

 

「いいから行くぞ。モタモタしてると他の奴らが起き出してくる」

「い、行くってどこに?」

「青娥さんのところ。ヒトコト言ってやらんと気がすまん」

「で、でも…そ、それ……」

 

 肩越しにチラリと振り返った愛里が見ているモノは言うまでもない。

 たしかにこのままの状態で出歩けば犯罪者か変態の謗りは免れまいが、ズボンのポケット側から息子を握っておくことで多少は誤魔化す事ができる。

 こういう時、チ○コがポークビッツ的なサイズだったら誤魔化すのももっと楽だったかもしれない。だが状態は違えど今の愛里や無人島での一之瀬、船の柴田達の反応からわかるとおり、残念ながら僕の戦闘体勢はズボン越しでも…おそらく素っ裸なら通常状態でも、ひと目でわかるサイズのようだ。

 基本目ざとい愛里が指摘してくるくらいだから、隠せない懸念があるのだろうが……。誰か、特に学校関係者に遭遇しない事を祈るしかない。

 

 なにより余所事を考えてないと、マジで止まらなくなりそうでいまだ危険域だ。愛里が可愛く見えてしかたない。

 恋愛頭脳戦をしてた某秀知院学園生徒会のトップ二人曰く、恋愛は惚れた方が負けという法則?があるらしい。しかし男には負けるとわかっていても行かなくてはならない時がある。とはいえ、愛里にその面で負けるのは今ではない。僕自身がこんなどうしようもない精神状態になってる時点ですでに8割方負けてるだろ、などとツッコむことなかれ。

 要はこのままでは埒が明かないので、埒を明けてしまおうというわけだ。それには、なるべく多くのベクトルを他(今回なら邪仙)に向けておくのがベターな手法と言えるだろう。

 

「問題ない。僕の深夜テンションは持続している。このまま突撃だ」

「ちょっ、ちょっと待って! 急すぎる!! せめて下着を替えっ―――せぇっ、せせせせ、せめて顔くらい洗わせ」

「そのつもりだ。1分で支度を済ませるぞ」

「1分!?」

 

 それにはせめて休日の生徒が出歩き始める前、遅くとも7時までに向かうのがいい。小さい意趣返しに、僕達の身支度や食事を喫茶・芳香に負担させてやる。無作法な上に、女子の愛里は抵抗あるかもだが、一刻も早く向かいたい。

 顔だけ洗ったら、朝駆けしてやるから首を洗って待っていろ。

 無理非道な邪仙め。

 

 意識してそれだけを胸に僕は愛里を下ろし、なけなしの矜持をかき集めて立ち上がった───直後、中腰の体勢へと移行した。バレバレなのはわかってても、堂々とコレを見せつけるのは違うのである。

 ものすごく名残惜しい。できればもっとこうしていたい。時よ、止まれ! って気持ちを抑えながらの苦汁の決断であったことは言うまでもない。

 ともかく、夜からずっと握りっぱなしの手を引いて、なんかモジモジしてた愛里も起き上がらせ、洗面台に向かった。

 

……………………この時の僕は寝不足と下半身事情によって、この上なく冷静さを欠いていたのだろう。愛里のとんでもない失言に配慮した気遣いをする余裕すらなかったのだから。

 

 

 

 

 

 長時間ハグしててわかったが、愛里はアレだ。

 ただ乳や尻が大きいとか、腰が細いとかではない不思議な魅力がある。グラビアアイドルをしているだけあって、(分析・比較するのはなんだが)愛里や……ついでに早苗などは、同程度の体格の女子と並ぶと明らかにナニかが抜きん出ている。

 乳やスタイルがじゃない。なんというか、こう…元の骨格からして普通の女子とは違う作りなんじゃなかろうか。

 

 この二人に容姿関係の美しさ・バランスで匹敵、もしくは迫る女子で僕の知ってるのは鬼龍院先輩と堀北さん、あとヤバい奴確定の坂柳さんくらいか。椎名や櫛田、一之瀬あたりも充分以上に美少女だが、ことAPPにおいては人間全体の上位にまで到達してそうな雰囲気がある彼女らには及ばない気がする。

 

 ところで、そんな奴らがこの学校にはゴロゴロいるわけだが、暗○教室であったようなハニートラップ的な授業みたいなのも行われてたりするのだろうか? それとも密かに女子間だけで行われてて、すでに実践する奴もいたりして……。

 いや、流石の学校もそこまで人の道は外れてないだろうし、万が一にでも理事長や校長などに仕掛けて成功するようなら大問題だ。それに処女っぽい奴らがほとんどな以上、考えすぎなのはわかっている。ただ愛里の異変があって改めてその威力を思い知り、少し心配になっただけである。

 何が言いたいかというと、あのディープな方を初っぱなに持ってくる一見ビッチ先生っぽいキスが脳裏をよぎったのだ。

 そう、あれは先週だかにカフェで聞くとはなしに聞いた話。

 

「この子、彼氏との初キスで深い方やってドン引きされてるって~。すっごいよねぇ…プッ、ギャハハハハ!」

「よ、よりによって初めてでそれって……。私も引くわ~」

「言わないでよ! しかたないでしょ! テンション上がっちゃったんだから! あ~、う~」

 

 いや、関係ありそうでないか? 普段の僕なら引かないどころかバッチコイである。……いまだ僕は混乱の極地にいるのかもしれない。

 ともかくだ。愛里がこれを実践してきた事実が何度も僕にリフレインしてきてるせいで、中腰のままポケットに手を突っ込み、ズボンに不自然な膨らみを作りながら歩く事態になっている。しかもちゃっかり着替えた愛里まで付き合って?何故か中腰になってるし、端から見たら怪しい二人組だったことだろう。なんとなく手も繋ぎっぱなしで歩いてるのでなおさらだ。

 ただ、聞いておかないとモヤモヤし続ける事があるので、学生寮を出て少し歩き冷静さを取り戻したあたりで話を切り出してみた。

 

「あ、あー。愛里? 今更聞くのもなんだけどさ」

「な、なに、夢月君?」

「そのぅ、昨日のヤツって……僕をLOVEの意味で好きだって解釈してOK?」

「ら、らぶ……あ、改めて思い返すと、わたし…自分からすごい事を……」

 

 流石にあれが10割愛里以外のせいとは思えなかったのだ。つまり愛里の意思をはっきりさせておきたい。

 なんせ僕視点、物理が効きにくいボスがいるから魔法ステを上げようとしてたら、いきなりイベントが始まってなんかボスが仲間になっちゃった。みたいな心境なのだ。なろう系かよ(錯乱)。

 

「…………はい。わたしは夢月君が好き、です」

「ちなみに、僕も愛里が好きってのは知ってるよな?」

「人前であれだけ堂々と言われたからね! 夢月君は明らかにLIKEの好きっぽかったけど、わたしはもう間違いなくLOVEだよ!」

 

 う、真っ赤な顔して言われると、理性への攻撃力がすごいな。愛里を好きと公言してた僕にあんなコトしたんだから、もしかしてとは思ってたが。しかも翌日に……。

 という事は逆説的に、早苗や青娥さんもそこまで道を外した行いをしてない可能性が浮かぶ。名前が出た以上、何らかの関与は確定的に明らかにだし、仕返しはしたいけどな!

 しかし前の時は、自意識過剰ってだけではなかったのか。教えてくれるかはわからないが、そうなった理由を少し突っ込んで聞いてみよう。

 

「そ、そうか。なんとなくそうじゃないかなーとは思うことも一回だけあったけど……」

「え、一回? ……? ね、ねえ、それっていつのことなの?」

「あー……夏におんぶしたことあっただろ。あの時にぎゅってされて、もしかしてってな」

 

 心当たりを考えると、真っ先に思い当たるのはこれだ。理由はわからないが、あの時も告られたと思った。

 気にかかるのは、夏も昨夜も恋愛系のポイント稼ぎは、まだしてなかったはずだということ。なんなら、あれだって体調不良で人が恋しくなる症状の一種である可能性を考えていた。

 

「……それだけ? 他には?」

「他? えっと……何度かナンパ紛いで口説こうとした事とか」

「……」

 

 違うようだ。

 的外れだったと思われる発言に沈黙した愛里は、顔を上げると矢継ぎ早に質問してきた。

 

「それなら昨夜から朝まで、わたしを……その」

「さっきも言ったが、僕には大事な奴の明らかな異変につけこむ真似などできん」

 

 美味い飯を食えなくなるようなことは美学に反する。

 僕の美学は基本的に矜持以外の何よりも優先されるのだ。

 

「大事……い、異変……。ウボァ…じゃ、じゃなくて! 言ってくれた…に、200万ポイントの話なんて、夢月君のほとんど全財産なんじゃ? わたしにそんなに渡すなんて」

「安いもんだ、全財産くらい」

 

 必要なら、だけども。

 

「……プールで守ってくれたし、心を通わせっ……った後! し、しばらく後に櫛田さんにあの話を持ち掛けたのは?」

「船で聞いたけど、愛里はカメラマンや裏方も目指したいんだろ? ならWINWINの関係に持ち込めそうな櫛田に早めに言っとけば、それだけ前に進めるじゃん」

 

 前半は導入だろうし、とりあえず後半の問いに答える。

 事後承諾とはいえ、勿論これは後で了解をとったことだ。

 

「……じゃあ、船でけっ、結婚しよ? って言った時は?」

「ん? えーと、たしか寝起きに愛里が目に入って、可愛いって思ったらつい……だったかな」

 

 2ヶ月くらい前なので、正直そこまで覚えていないが。

 

「かわっ…………コ、コホン。じゃ、じゃあ無人島で必ず助けるって言ってくれたのは?」

「それは愛里には人に迷惑かけないって考えより、助け合いとかお互い様だと思える方が合ってると思ったからだ。途中から笑ってたし、言いたいこと言い合ってる僕と四方・早苗は楽しそうに見えただろ? 僕らの実情はさて置き」

 

 愛里みたいな引っ込み思案が他人の迷惑を気にし出したら窮屈だよなぁ。って印象的だったから、こちらはそれなりに覚えている。

 

「……………………夏休み前、須藤君にドロップキックした時は」

「愛里がヤバいと思った瞬間、頭の中が真っ白になった。それだけだ」

 

 我ながら、あれは動揺しすぎだったと思う。状況的にしかたないし、後悔とかはしてないが、優しい奴らからマークされるきっかけになっただろう。実際、あれから一之瀬を筆頭にそれとなく僕に絡んで来る奴が増えた。

 

「あぅ……。ちゅ、中間テストのすぐ後に起業までして迷いなく助けてくれた」

「いや、あれは愛里にどうしようもないことなのに、躊躇なんかしてられるかよ。知り合って間もなかったとはいえ、友達のピンチにくらい全力を出すさ」

 

 逃げていい場合と駄目な場合の判断はできるつもりだ。

 それにしても、珍しくメッチャ聞いてくるじゃん。意図してじゃないっぽいが、微妙に軸がズレてきてるけども。

 思い出しながら正直に答えてるが、恋愛に関与しないだろう事ばかりで何を考えているのか。強いて言えば、船での結婚発言は口説きに入るかもしれないが……。

 

「───そういうとこだよ!!」

 

 一方。

 プルプル。わたし悪いスライムじゃないよ。って風に身体ごと正面に回り込んだ愛里が唐突な謎テンションで宣言?し出す。

 どうでもいいが、大きく動かれると繋がれた右手にぎゅっ!って感じに力が込められて、なんというか……良い。しかし反対側の手に『握っているモノ』にも影響したせいで、ついぶっきらぼうな返事をしてしまった。

 

「なにが」

 

 ついでに、この勢いでブルンッと揺れた二つのスライムを僕が見逃せなかったからだ───。

 

「夢月君の好きなところ!!!」

 

───が、それ以上の衝撃発言が、愛里の顔に注意を向けさせる。

 

「え……は?」

「6月になる頃にはもう好きで好きでしかたなかったの! それなのに、夢月君は次々にわたしが好きになるところを増やしていくしっ」

 

 6月って……。それに。

 

「あの、なんで僕怒られて」

「怒ってない! 何度も惚れ直させられて胸いっぱいになってるの! わたしが欲しいモノをあんなにくれたら、どんどん好きになっちゃうよ!!」

 

 とんと覚えがないし、そのつもりもなかった。愛里も昨夜以外でそんな素振りを見せたことはない……と思うんだけども。

 しかし、言葉に嘘や誤魔化しが混入していないのはおそらく間違いない。またしても勘頼りだが、これは愛里の生の感情な気がする。

 

「だけどいつも忙しそうにしてたし迷惑かなって思ってたら、体育祭で大事とか好きとか普通に言ってくれて……!」

「あれは」

「わかってるよ! 恋愛とかよくわからないって言ってたもんね!? でも早苗さんや青娥さんに背中を押されるまでもなく、好きって気持ちが溢れて止まらなくなったの!!」

 

 ただ口を挟む隙もなく感情のままに好き好き言われると……なんというか、こう……汚れてる僕には嬉しくも気恥ずかしい。うん、僕が左手をポケットに突っ込んでブツを抑えてる状態じゃなければ。

……あまりに場所と状況が悪すぎる。

 

「……わかったから今はブレーキ踏め愛里。見回してみた感じ人はいないけど、朝の往来でする話じゃないだろ。後できちんと真面目に応えるから」

「あっ! わた、わたたたたっ……あの! ごめっ」

 

 外でノリに乗っちゃった愛里の羞恥の感情、真に美味である。記念にその姿、一枚撮らせてもらっても構わないか? って某悪魔みたく言ったらどうなるんだろう。

……許してくれたまえ(ム○カ風に)。せめて内面だけでもふざけないと、色々ヤバいんだ。それは愛里もわかってると信じたい。誰に弁解してるんだ、僕は。

 

「謝らないでくれ。どっちかと言うと、僕の方がアレだった気もしてきたし」

「…………それは……そうかも」

「愛里も言うようになったじゃないか。ま、調子が戻ったならよかった」

「ふふっ。わたし、身体も心も頑丈になってるのかも。きっと夢月君達のおかげだね」

 

 それでもお互いの精神耐性の高さも相まってか、内側はともかく外側はなんとか取り繕うことができた。

 愛里も上手いことクールダウンできた感じだし、ここで『達』って言えるなら多分大丈夫だろう。

 

「あ、だけど応えるのは、今日みんなの前でする話の後にさせて。少しは関係してくるかもしれないし」

「?」

「騙してたわけじゃないけど、隠してたことはあったってことだ。愛里にだけじゃなく、な」

 

 精神年齢でマウントを取るわけではないが、中身におっさんが混じってるのは事実。普通の女子高生が知ったら、心変わりは不思議ではないと思う。言われた材料から察せられる気持ちと、愛里が普通かはとりあえず置いといて。

 

「だから話を聞いてそれでも、って思うならいつでも僕のところに来て。この話をした後じゃないとフェアじゃないからな」

「隠し事……。夢月君のことだし、予想はできないけど、必要ないことはしないもんね。わかった、待つよ」

「話が終わっても急がなくていいぞー。僕は競争率1倍のフツメンだからな。むしろ愛里みたいな美少女がなんでって不思議まである」

「男は顔じゃない。金だ……だっけ? なんちゃって。うふふっ」

 

 前に僕が言った冗談のアレンジで返してくるようになるとは……。

 ともかく、いつものように楽しそうに話す通常愛里といるとやはり落ち着く。異論はあるかもしれないが、美少女の表情は晴天快晴が至高だ。

 

「これまでのわたし、本当にネガティブな事ばかり考えてたんだなぁって、ようやくわかってきた気がする。やっぱり変わった方がいい、よね?」

「いや、ありじゃないか? 愛里と話してると楽しいし、癒される。多少イロモノっぽいところはあるけど、可愛いは正義だろ」

「……さっきも言ったけど、そういうとこだよ夢月君」

 

 それにしても、この愛里を見る限り、なんかさっき思うところを吐き出したからか開き直っちゃった感じだ。良い傾向…なのか?

 

「陰キャぼっちの変人っぽくない愛里とか、それもう一之瀬や櫛田の同類じゃん。きっと気疲れすごいぞぉ、アイツらみたいになるのは。僕達は僕達らしく行こうぜ」

「そう、かもね。ふふっ。櫛田さん達には悪いけど、それ、すっごくよくわかるかも……」

 

 それと一之瀬はまだしも、櫛田のストレスを真に理解できるとしたら、共通部分が多い愛里かよく一緒に悪巧みしてる早苗くらいだろう。

 性格や能力などを取っ払って大雑把に見ると、彼女らは本当は素を隠したくないけど隠そうとしていた愛里と早苗、素を隠さなくてはならないと思っている櫛田……くらいの違いしかない。僕自身も櫛田の『持ってるのに持たざる者』の思考に近いものの、朱に染まると取り返しが難しくなる。

 だから、せめて愛里が邪悪に理解を示さないようケアしておいた。

 

「あ、あー、でももう半年かぁ」

「入学からか。濃かったよなぁ、ホント」

「夢月君に会ってからだよ。これまでとは全然違ったからね」

「そうなのか」

「うん、楽しかった…………楽しかったなぁ。色々あったし、これからもいっぱいあるだろうけど───」

 

 ただ深く掘り下げる気はなかったのか、今度は愛里が話を変えた。

 それにしても、まだ半年なんだな。何年か経ってるような気さえする。と、思ってたら、僕を真剣に見つめて愛里が聞いてくる。

 

「ねえ、きっと夢月君が学校を変えたんだよね? それは……」

 

 ああ。でもこれは優しい愛里に言わせたくないな。悪いが、軽めに遮って端的に答える。

 

「おう。必要があったからな」

 

 少し心配そうな顔は、おそらく僕が不本意なままここにいるんじゃないか? というずっと引っ掛かりを覚えていたと思わしき……本当に僅かだが懸念を瞳に滲ませているのだ。事細かに話して、ブラック関係への嫌悪感を伝染させたくない。恋愛?の状態異常についてはまだ理解が及んでいないから偉そうに言えないが、学生のうちは理解しない方が幸せなこともある。

 それでも、愛里は乗り越えて一歩を踏み出してきた。

 

「夢月君は……夢月君も、この学校に来て良かった? 後悔とか、してない?」

 

 なら誤魔化しはせず、真剣に応えるのが僕だろう。尤も、マイナスなモノは極力控えさせてもらうが、些細な事で悩ませるのは自称・紳士としてあるまじき振る舞いだ。

 こんな話してるのに、二人してちょっと前傾姿勢なのが、端から見て雰囲気壊してそうなのも含めて非常に僕達らしいと頭の片隅で思いつつ、とある維新志士の言葉を借りることにした。

 

「最初は結構後悔してたけど、今はあんま考えてないな。楽しくなかったら、楽しくすればいい。それだけだって思い直したよ」

「ふふふ…あははっ! わたしも───!」

 

 浮かんだ事をそのまま言うと、憂いを消し去って浮かべる笑顔。

 スッキリした顔で笑う彼女は今、変わった……いや、成長したのだろうか。

 

 まぁでも、楽しそうなら変化とか成長とかどうでもいい。

 生憎、僕が好きなのはそれなんだよ愛里。

 お前にも少しわかってきたんだろう?

 友達でも恋人でもいい。

 どんな形であれ、背中を預けられるほど心を通わせた相手がいるっていう最大限の幸福が―――。

 





 佐倉愛里に関して。
 前話と併せ、愛里の吹っ切り&退学フラグ粗方ぶち折り回でした。
 何気に、原作で綾小路に惚れた事すら何故かよくわかってない恋愛系迷子な私なので、微妙に…いや、かなりおかしい点もあったかも。
 他にいないし恩はわかるけど、心を通じ合わせたい相手がほしいなら綾小路だけはないだろ、とずっと思ってました。まぁ、こうした分野は理屈じゃないかもしれませんが。
 そこでようキャでは、私から見て好感度が上がってもおかしくない件を列挙して、多少は説得力を感じるようにしてみたと。
……マジで今までの事で惚れるか? って疑問があっても、スルーしてくれると助かります。

 また夢月達との人脈、ポイント(金)の所有量、アイドルとしての実績。この三つが揃っても、愛里自身のネガティブ思考が強すぎると万が一があるかもしれないので、そこだけは念入りに手を打っておいたつもりです。
 気づいていた方もいるかもですが、不安要素がハッピーエンドの不純物に繋がるのは個人的にスッキリしないので、『平等』以降から少しずつ準備してました。カラッとした好意の方が好きってのもありますが、多少なりとも夢月や早苗の行動力に影響を受けた感じです。

 ともあれ、これがようキャ・佐倉愛里の出した答えの一つだと見えてくれたら幸いです。
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