ようキャ   作:麿は星

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 今話は少し短めですが、長くなって2話に分けた為です。
 代わりに次は早く投稿できると思います。



127、遊び相手

 

 目的地に着くと、愛里との表面上穏やかな雰囲気は霧散した。

 まず青娥さんを見て、愛里が駆け出したのが要因の一つ。

 

「あら。お二方、早いですわね」

「青娥さん! すいませんがまずお風呂貸して貰えませんか!?」

「え、ええ。別に構いませんが」

「ありがとうございます!!」

 

 喫茶・芳香に着くなり、ギリギリ7時前なのに普通に出迎えた青娥さんへお風呂の使用を頼んで一目散である。疑問符がないあたり、予想はしていたと思われる。

 ただ正直、ここでようやく察するモノがあった。僕も色々いっぱいいっぱいだったらしい。下世話な想像だけど、愛里には悪いことをした。野郎と一晩くっついてて、身嗜みを整えるのもそこそこにシャワーすら浴びず来るのは、女子としてNGだったかもしれない。

 

「左京さん、もしかして…………勃たなかったのですか?」

 

 そして待ち構えていたかのように開口一番、僕にセクハラしてくるバイト先のオーナーが二つ目だ。

 誰得だよ。思わず、いらん事が口から飛び出てしまった。

 

「なに言ってんです!? 愛里がいなくなった今もギンギンに勃ってますよ!」

「今も!?」

「愛里と手繋ぎ状態だったからか一向に収まらないし、中腰のままここまで来るのマジで精神磨り減らし……あ、待ってください。今のなし。寝不足で言わんでもいいことが口から」

 

 セクハラ返しをしてしまった僕も迂闊だったが、驚きからニヤリとしたこの態度の急変はまさにネズミをいたぶる猫のごとし。

 これは三つ目で話を逸らすが吉。

 

「と、ところで、彼処にいる見知らぬ方はどちら様です? こんな朝早くはバイトに来ない時間だから、僕達以外の従業員ですか?」

 

 愛里は気づかなかったようだが、店の入り口から離れた場所になんかいたので聞いてみる。曲がってないが身体を曲げようとはしてるあたり、柔軟体操?をしているようだ。顔面のど真ん中に貼り付けたお札?が邪魔じゃないのだろうか。

 

「ふふっ。彼女はわたくしの下僕で芳香ちゃん。左京さんは時折話していると聞いてますけど」

「? ……ああ! あの人が『冷蔵庫の人』か! ……外に出てて大丈夫なんです?」

「僵尸ですから。腐ってて可愛いでしょ♪」

 

 微妙に答えからズレている……が、まぁいいか。本当のことにしか感じられないし。

 

「キョンシー……? てことは、ゾンビ? それにしてはやけに血色が良いし、僅かに覗く顔は普通に可愛いけども……」

「そうでしょうとも! わたくしの自信作ですわ! 今は身体が固まってましたので、柔軟体操を勧めているのです」

「へぇ。それでなんとかなるんですね」

「いえ、おそらくなりません。無駄骨ですわね」

「なら、なんでやらせてんですか……」

「怪我を防げるようになるかと思いまして」

「すでにして死体のゾンビにも、怪我の防止なんて概念が存在していたとは」

「してませんよ? なに言ってるんですか左京さん。常識で考えてください」

「非常識の権化に常識云々言われた。ふて寝したい」

「寝る前に結果を教えてくださいね。わたくし、『2つ目』は覗いていないので、久方ぶりに来訪を心待ちにしてしまいましたわ」

 

 2つ目、ねぇ。清隆といた時の違和感はやはりこれの1つ目だったか。

 てか、途中までしてやったりと少し思ってたけど、やっぱりこの邪仙相手に誘導は無理があった。ブーメランのごとく話が舞い戻ってきやがる。

 

「でも青娥さんなら、僕から聞かなくてもだいたい察してるでしょう?」

「その通りですが、他ならない左京さんの口から聞いてみたいのですよ」

「あの、性格悪すぎません? 僕の知る中でトップクラスですよ、その性格と趣味の悪さ……」

 

 少なくとも早苗より上だ。

 そして方向性は違うが、櫛田や坂柳さんとは競るな。競るといっても、遥か高みから見下ろす趣味の悪さを加味すれば、青娥さんが圧倒するが。

 

「あらあら。そういう反応ということは、やはり手は出さなかったと」

「出せませんよ」

「それでいて、左京さんがそんな状態、寝不足。佐倉さんはお風呂。なるほど」

「……何がなるほどなんですか」

 

 なぜなら、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべる様は、いちいち癪に障る昔話の仙人そのものだ。これまでもだいぶ上機嫌っぽかったけど、漆黒に輝く笑顔になったのは隠すつもりがなさすぎる。

 

「───ぶふぁっ!! 制欲の修行でもしてるんですか!? それとも、ぼっ、房中術でも極めるつもりですか!? あっはははは! あのような娘と一晩中一緒にいてそれは、ヘッ、ヘタレにもほどがあります! 大方、わたくしの関与を疑ったのでしょう!? 考えすぎですよ、残念でしたねっ! うふふふふっ!」

 

 つまり愛里との余韻が消失した最後の要因は、全てを察した青娥さんが心底楽しそうに笑い出したことだ。それは限界まで膨らんだ風船が割れたかの如く、非常にイラつく煽りに繋げられた。

 まったく、人をイライラさせるのが上手い。だが、他愛ない会話も相まって収まってきたのは助かったとも言える。

 

「Sorry、悪いが聞こえないよ。耳からバナナが生えてきててな」

 

 なので、それだけ言うと僕は笑い転げる青娥さんと妙な体操をしてる芳香さん?を放置。

 昼までに僕が起きれなかった場合の書き置き(愛里にみんなを迎えに行ってもらえるよう)だけして、店内のソファーで勝手に横になることにした。もはや眠気が限界突破していたのだ。聞いててムカッとくる煽りなどなおさら聞く価値なし。

 

「うふふっ。これで、わたくしと左京さんの契約は『2つとも』満了ですわね。景品として、あらゆる病を遠ざけ金剛の身体を得られる仙丹を差し上げますわ」

「……」

 

 それは桃のような匂いのする果物のような形状の物体だった。

 当然、無視である。そういうのはいらないと言ってるのに、なんでこの邪仙は度々僕を仙人かナニかにしようと押し売ってくるのか。考える前に、僕は振り返るのを止めた。

 万能薬的なモノなら、先天的異常を持つらしい葛城か坂柳さんにでもあげてくれ。言わないし、使う勇気があるかわからないけど、効果的なら感謝してくれるだろう。どっち側も求めてないかもだし、青娥さんからはやらないだろうけども。

 

「あら……うふふっ。これも駄目みたいですわね。次はどうしようかしら」

 

 ウキウキ声で次とか言うの、マジで勘弁して。手軽な限界突破的な手段なら、欲しがる奴なんてリスクはあってもいくらでもいるだろうに。

 邪仙の遊び相手変更申請って、どこで誰にすればいいの? 僕はもう疲れたよ、パトラッ…アイリッシュ。

 ただでさえ疲労してたのに、更にドッと疲れた。

 笑顔で不穏な事を企んでいそうなバイト先オーナーを目を閉じてシャットアウトして、僕は睡魔に身を任せた。

 

 

 

 

 

 体育祭の昼休みに、堀北さんを連れ戻してくれるよう須藤達から頼まれた時、僕は誰に交渉を任せるつもりだったか。

 船旅最後の宴会や南雲との水中バレー勝負、自作ゲーム対決において僕が真っ先に手を借りようとした相手は誰だったか。

 僕が動かなかった場合、船上試験における牛グループのキーマン(リーダーやまとめ役じゃなく)になりうる可能性が最も高いと思っていたのは誰なのか。

 無人島で僕と早苗が言い争う状況で、打開策として助けを求めるのに最適だったのは。夏前に龍園などから目を付けられないよう隠そうとしていたのは。

 ほとんど佐倉愛里である。

 

 はっきり言って、僕と同学年で正式にEQを測定したら、櫛田が断トツ……。そして僅かな差があっての二番手は、愛里と椎名だと確信している。

 EQというモノは交渉能力を測る数値で、言い換えると自分(達)の要求を相手に呑ませる能力に関係する。これは相手の内心を推察、会話の流れを組み立て、信用・信頼に発展させる等々、単純な頭の良さでは測れない。心の知能指数、要は協調性などコミュニケーション関係の能力なんて言われることもあって誤解されやすいが、本来のEQとは認識力や思考力がセットなのだ。

 

 ただその点だけなら、一之瀬や葛城・戸塚の方が高いんじゃね? そう思う奴もいるだろう。

 しかし櫛田や愛里、椎名と一之瀬達の決定的な差は、早苗や高円寺、龍園などの独特な雰囲気のある奴らから一目置かれているか否かだ。

 断言してもいい。EQかIQがそれなり以上でないと、少なくとも早苗や高円寺とは会話にすらならない。一之瀬や堀北さん、平田でも無理だろう。当然、交渉のテーブルにも乗れない。まして僕のような経験値による底上げでなんとかついていける者はそうはいないはずだ。

 彼女らそれぞれの特異な性質によって磨かれて初めて為せる技である。

 

 この中でも櫛田の精神力はマジで尊敬するレベルに高く、早苗や僕とも悪友関係にあり、高円寺さえプリティーガールとか呼んで個別認識していたほどだ。

 そして、おそらく愛里と椎名は、以前どこかで述べたEQが高すぎて周囲から距離を置いたタイプだろう。疲れきる前にそうするのは納得できるし、良い判断だと思う。無理をしすぎると、櫛田みたく歪んだり邪悪になったり、そこまで行かなくとも優しさが削られてしまうからな。

 

 ともあれ、ネゴシエーター的な役に抜擢するなら彼女達だろうと勝手に思っている。この分野なら、四方や清隆をも上回る信頼感があるのだ。

 なんせ説得力が違う。人見知りの内弁慶と活字中毒のコミュ障ではあっても、本当の意味で特殊な特大戦力を動かせるのは、不思議と縁や巡り合わせがあった僕を除けば愛里と椎名、あと本腰を入れた櫛田(入れないだろうけど)くらいだろう。

 

 もしも櫛田が堀北さんに執着してなくて、清隆を最低限は乗りこなす経験があったらと考えざるをえない。

 清隆は遠からず、坂柳さんの同類(いや、同タイプか?)のような手を打って、堀北さんも使いつつ、櫛田を操りきるのが本来の清隆のプランだと思う。少なくとも夏前まではそう感じさせる雰囲気があった。

 ただ、そこに茶柱先生が横槍を入れるように“強引”な何かをした結果、堀北さん…ひいてはDクラスをもり立てるといった些事が加わったことにより、清隆はそれまでの計画の修正を余儀なくされた。体育祭で清隆の言っていた墓穴とはここを指す。

 

 なぜなら『茶柱先生が』墓穴を掘っていなかったら……要は、放っとけば清隆は櫛田や堀北さんをこうして利用し尽くしていたはずだからだ。以前に僕に「オレを葬れるか?」と聞いてきた清隆本人が仄めかすのを素直に受け取ると、深く潜ったまま……。きっと厄介極まりない敵になりえただろう。

 多分、清隆もクラス競争などに関心は向いてなかっただろうが、仲間内で僕達…いや、僕にじゃれつくなら、性格的に僕が『得意に見える』集団戦を選ぶつもりだったのは明白だ。無人島の時のようなイレギュラーがなければ、それ以外にアイツの望むモノを僕は提示できない。清隆がわかってないなどもっとありえない。

 結果として、早苗や四方の一線を超える確率が高い代わりに、Dクラスの最善策を打ってきた可能性が高いだろう。最高傑作って工作員かなにかのだったのか? なんで高1で、きな臭さなんか感じにゃならんのだ。

 

 それにしても茶柱先生は、1級戦力のために特級戦力の不興を買いまくるとか何がしたいのだろう? 先が見えなくなるくらいAクラス(可能性が高いのはこれだろう)とやらに執着しているのかもしれないが、やぶ蛇を地で行く生徒への干渉は理解し難い。清隆風に言うと、合理も効率もない。

 情報が揃ってきた今ならわかるが、リーダーの櫛田に、表参謀の平田、裏参謀の清隆。トリックスターや飛び道具としても使える愛里と高円寺。他にも須藤に池、堀北さん、松下さん等々……。総合力以外の要素で他クラスとは人材層の厚さと種類が雲泥の差だった。クラスとしてのスタートは出遅れたものの、外からは見えにくいDクラスの圧倒的有利な状況だったのだ。

 

 つまり目先の利益か目的、欲望などだけで無駄に動き、そのつもりはなくとも『もしも』を封印してくれていた茶柱先生の功罪は大きい。成績くらいしか判断基準がなかったとはいえ、この挙げたデメリットや生徒達の信頼を失ってでもプッシュする価値を堀北さんに見たとでもいうのか。それとも僕の視点にない何かを見落としてるのか。

 なんにしろ、うちがAクラスになった有力な功労者の一人は茶柱先生で決定だ。色々な意味で余計な真似してくれたお礼に、今度一之瀬か担任に菓子折りでも渡してもらいつつ、「茶柱先生のおかげです! ありがとうございました!」って伝えてもらおう。これが皮肉になってくれると、個人的に少しはスッとする。

 僕? 半分以上清隆を敵に回した奴に会うとか、面倒になりそうな事するわけないじゃん。

 

……ほんっと余計な手出ししやがって。教師なら教師らしく、目先に釣られず最低限自分のポリシーを貫けや。それともそんなのないんか? もしかして半ば錯乱していらっしゃる? もうどれでもいいから、高円寺の爪の垢でも飲んどけっての。

 

 

 

 さて、以上を踏まえた上で、話を変えてもう一例を挙げよう。

 前の人生、どこぞで論破王とか言われていたある意味「無敵の人」がいる。

 彼が主に使用するひ○ゆき論法(ディベートではストローマン論法という)は、議論において相手の考え・意見を歪めて引用し、その歪められた主張に対してさらに反論するという手法だ。メディア系各社で時に用いられたりもしてるから、例に事欠かずわかりやすいと思う。

 ただ勢いや雰囲気に騙されずロジックをしっかり追うことさえできれば、ストローマン論法は全く効果がない。相手が普通の高校生か、あるいはディベートの初心者なら多少混乱するくらいか。

 ここから読み取ってみると、彼の言う「無敵の人」という表現は彼自身を指して非常に的を射た言葉と言えよう。残念を通り越し、捨てるものがない……開き直ってる人、という意味で。表現の作成者が無敵の人を体現しているとは、まことにケレン味の効いた人である。

 

 と、いつもの脱線は置いといて。

 何が言いたいかというと、これはこの学校の教師達も事あるごとに繰り出してくる手法なのだ。

 試験の説明や質疑応答などで、種をばらまきながら生徒に口を出させる。そしてマニュアルでもあるのか、生徒が食いついた部分を歪めて言いくるめる様はあの担任にすら見られる特徴。Sシステムの説明時や、無人島初日での真嶋先生や茶柱先生のマウンティングを思えば一目瞭然だ。1年の担任であまりそれが見えないのは坂上先生くらいか。尤も、僕と大した接点がないので知らないだけかもしれないが。

 併せて考えると、僕や仲間達は余程じゃないと引っかからなくとも、大抵の高校生には有効ということ。つまり目先だけで後先を考えてないので、わかる奴からは現在進行形でどんどん見放されている悪循環に陥っているものの、大多数には効果的な可能性が高い。

 

 まぁ誰かさんの未来の姿っぽい大人連中に関してはいい。ただ論破したいわけではないが、学校も得意とするストローマン論法方式を引っ張り出して無理矢理に応用すると、愛里の朝の発言から一つの懸念が浮かび上がる。

 すなわち、愛里もこの学校に来た事を後悔していたのでは? ということ。少なくとも当初は。

 でも今はそんなことないよな? 楽しそうにしてることも多いし。

 うんうん。今が良ければそれで良いって多分。

 意図せず何故か別の意味で好かれていた罪悪感のせいか、妙な方向にとっ散らかった夢を見る僕だった。

 





 邪道なのはわかってるけど、一回は夢オチをやってみたかったからやった。なんか変な内容になっちゃったけども。
 あ、清隆に関してだけは、あくまで「ようキャ」の理由です。原作とはいくつか前提が違うので混同しないようお願いします。しないと思うけど一応。
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