ようキャ   作:麿は星

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 前話の前書きで早めにと言っておきながら、いつもどおりの土日の境目で更新。
 サブタイトルで半分バレてるかもですが、思ったよりコイツ関係の必要な確認が多くなったため、遅くなりました。すいません。



…………あえて誰とも何とも言わないですが、最悪な人が選ばれちゃいましたねぇ。経済にメチャ弱な猜疑心満載の人だし、また増税とかにならないといいなぁ。
 いっそ操れる可能性の残る頭が弱い人の方がマシだったと思う日が来ないことを、とある片隅から心よりお祈り申し上げます。
 あまりこういうのは載せないつもりだったけど、つい……。できたらスルーしてください。この部分は吐き出したいってだけで、修正時とかに消すかもしれませんし。



128、天文部

 

 僕は昼頃まで寝ていたようで、目覚めると声をかけた全員が店内に来ていた。

 ちなみに、みんな私服?である。

 疑問符を付けたのは、何故か早苗が巫女服(脇が開いてるし、青色が多く使われてるが)を着てるからだ。これを私服というのは抵抗がある。

 

 ついでに、愛里は昨夜着ていたパーカーと履き替えたと思われるズボン、髪型や眼鏡もいつも通りになっていた。さっきの今であのままだったら、無駄に心拍数が上昇する心配もあったのでありがたい。

 四方も休日スタイルなのか僕と似た『動き易そうな』シャツやズボンだ。高円寺はスタイリッシュなジャケットを着こなし、年齢にそぐわない自然な振る舞い。

 だが、下手なモデルよりもモデルらしく輝いている御方が店内に普通にいるのはヤバい。仮眠して多少は精神復活したとはいえ、某時給255円のバイト君みたいになるところだった。

 

「私服がハイネックノースリーブなんて、どんだけ自信あるんですか先輩! 少しは愛里に分けてやってください!」

「後輩の好みではなかったか?」

「……大好きです。目の保養をありがとう」

 

 鬼龍院楓花先輩である。

 てか、なにこの人? 高2でありながら、マジで美女すぎるだろ。スタイルに絶対の自信がなければ、残念な事にもなりかねない服装。それを当たり前のように着こなす凄みがある。思わず、本音を叫んでしまった。

 

「きも」

「脇を出してる変形巫女服を着てる奴にきもなんて言われる筋合いはない!」

 

 それを聞いて言葉の刃で切り裂いてくる早苗。

 つーか、真横に座っているからブラチラしてるのに、ほとんど嬉しくない美少女ってなんなんだ。いや、この場で早苗に欲情するようなら色々な面でヤバいけども。

 

「どこ見てるんですか、きも……」

「いや、これは普通、目が行くだろ!」

「あとこれはうちの正装です!」

 

 駄目だ。正装とまで言ったここに焦点を合わせるのはよろしくない。元の流れに戻そう。

 

「~~~っ! 早苗はともかく、文句なしの美女が自信満々にスタイルを強調してるんだぞ!? なあ、四方、高円寺!」

「たしかに彼女は美しいレディだねぇ。見惚れるだけの価値はあるかもしれない」

「まぁ、目は向くかもな。ただ夢月はもう少し自重しろ」

 

 四方はまだしも、何気に高円寺と先輩は境遇は近いモノがあっても音楽性が違う。周囲かなにかに反発を覚える程度には関心を持っているロックな先輩と、自分自身とひたすら向かい合っているクラシックな高円寺。当然合わないし、口ぶりとは裏腹に美しさにしか興味が向いてないっぽい。

 だけど、流石に高円寺はわかってるな! 四方の感想もだいたい予想通り。

 ともあれ、先輩はさぞかしおモテになることだろう。だから視線が吸い寄せられるのは当然なのだ。

 

「何か勘違いしているようだが、私はモテないぞ? 不思議なことにな」

「またまた。少なくとも最初は同学年160人もいたのに、そんな見る目のない奴ばっかなわけないでしょう。モテなきゃおかしいレベルですよ。メッチャ“可愛い”ですもん」

 

 内心を読まれたのか変な事を言われた。

 ただ自信に満ち溢れた態度にそぐわない妙な謙遜だ。2年の悪目立ちしてた奴らを除いても、アプローチをかける者は後を絶たないに違いない。ただでさえ女子としては高身長の恵体だというのに、軽くお洒落しただけで傾国級になってもおかしくない。その上、比較的話しやすいし、きちんと話せばわかってくれる。人によっては自由人気質がマイナスになるかもしれないが、才色兼備の完璧女子ってヤツだ。

 

「後輩もそう思うだろう? しかし、そのおかしな状況は現実だ。事実、私は誰とも付き合ったことがない。私の可愛いげを引き出せる者と縁がなくてな」

「マ、マジですか……。完全で瀟洒な美女っぷり全開の外見もそうですが、何度か話した感じ性格や付き合いまでいいのに……。あっ、アレですか? 高嶺の花的な立ち位置になっちゃったとか」

 

 なんせ早苗の例がある。いまだに体育祭の昼休みに入信者が来なかった不可思議の謎は完全には解けていない。そこと桐山などへの対応から紐解けば、今の早苗に似た立ち位置に近くなるのはありえなくもない。

 

「ふはっ。その可能性はあるな。……性格。ククッ」

 

 でも笑ってるけど、お世辞じゃないのは察してる、よな? 普通に思った事を言っただけなのだが、なんで機嫌が良くなったっぽいんだ。南雲と同学年なんだし、もっと歯の浮くような台詞も言われ慣れてるだろ。この先輩は相変わらず難解だ。

 尤も、信仰に全てを捧げていない早苗みたいな印象もなくはないし、同級生やクラスメイトにこんな人がいたら、普通の高校生が気後れする可能性は大いにある。

 しかも先に挙げたとおり、早苗や愛里とは方向性が違ってもその美女美女しい迫力は手を出そうとすることさえ憚られるものだ。なので声をかけられる事自体は少ないのかもしれない。先輩の推定スペックなら、やり過ぎて接触が難しくなるパターンはあっておかしくないだろう。

 

「それにしても完全で瀟洒、か───ふっふっふ。なかなか直接は言われない誉め言葉だ。これはこれで気分が良いものだな」

 

 それでも鬼龍院先輩がモテないことはありえないんじゃなかろうか。

 時折混ざってきてるのと接する限り、先輩は1年しか違わないのに大人の余裕を感じさせる。濡れ場関係はなくとも、代わりに鉄火場かそれに似た経験はそれなりにあると見た。他の部員達もそうだが、僅かな知識や経験から自信を得て、『そう』と見せない柔軟性と強さは流石だ。

 つまり頼りにしてる奴もいるはず。それはどんな方法であれ、騎馬戦で騎馬に3人を集められた時点で明白である。まぁおそらく、似た立ち位置にいる高円寺のような手法(コミュ力の高いクラスメイトとコンタクトを取ったか、あるいはなんらかの実力を示したか)を用いたのではないかと僕は考えているが……。

 

 あれ? 先輩の実証した事実をもってこの学校がそういう気風の生徒ばかりだと仮定すると、体育祭でした守矢神社のもり立て方は間違っていた?

……気づかなかったことにしよう。早苗に聞かれる前に、何かの機会で穴埋めする予定を挿入しておく。神様達は気づいてるだろうけど。

 

「鼻の下を伸ばして……きも」

「……夢月君…こういうのが好き……なんだ」

 

 それはそうと早苗。朝までのことで愛里が変なのはしかたないにしろ、テンション爆上げで賞賛しない方が不自然な美しさ。それを言うに事欠いて「きも」連投だと? わかってないな。

……ああ、そうか。

 

「ふっ。嫉妬乙」

「だっ、誰が嫉妬してるんですか!?」

「わかる。わかるよ? ここまで美女っぽい雰囲気の人がいたら、如何に早苗や愛里ほどの『美少女』ですら、もしかして負けてる部分があるかも? みたいに考えちゃうのは……」

「そっち!? え……そっち!!?」

「私が子供っぽいと言いたいんですか! それを言ったら戦争ですよ!?」

 

 早苗が食い付くのはわかるが、そっちってなんだよ愛里。これ以外に何があるというんだ。驚きからジト目に変化するんじゃない。

 

「いや、美しさの方向性が違うって言いたいだけなんだが。言い方は煽りみたいになっちゃったけど、このレベル帯なら嫉妬は不毛…というか、競う意味もないだろ。残ってるのは好みの問題だけだ」

「……む。一理ありますね。たしかに楓花さんはものすごく綺麗ですし」

「早苗さん、これ多分夢月君に乗せられてるよ……?」

「え……あっ! 話を別方向に誘導されていた!? 油断も隙もない!」

「チッ。二人まとめては無理があったか」

 

 愛里がなんか想像以上に手強くなってる件。先輩を褒めつつ、褒められるのが好きな早苗を乗せてみたら指摘された。

 そのせいで、早苗にも反撃の隙を与えてしまった。下手を打ったか?

 まぁ天文部関係の女性陣は、元々誘導とかに引っ掛かり難い性質だったけども。

 

「夢月さん……いえ、変態さん。ごめんなさい、私はもう拳を振るうことを止められないかもです。表へ出てください」

「おい、その前に変態って誰の事だよ」

「あはっ。どこかの綾なんとかの友達のことじゃないですか? 知りませんけど」

「それって……ん?」

 

 なら次だ。

 これだけの条件だと、僕以外に四方も入る。ということは―――話題をぶった切れる。

 

「四方のことか……四方のことかぁあああ!! どうぞ、変態の称号と早苗の矛先を受け取りたまえ、四方君」

「俺を唐突なとばっちりが襲う……」

「超サイヤ人になりそうなセリフかと思えば、一瞬で手のひらを返す丸投げ。相変わらずですねぇ」

 

 ホッ。許された?

 冗談混じりでも、早苗の拳とかもう味わいたくねーんだよ。

 

「わたしは、浮気現場染みた修羅場とかになるかと思っちゃった」

「ああ、それでもよかったですねっ」

 

 珍しい場所ではあるが、この日の僕の起床はこんな感じだった。

 勿論、先輩の美女っぷり以外ほとんど冗談である。断じて愛里のジト目や、口から飛び出した浮気や修羅場なんてまさかのワードにドキッとして慌てて対応したわけではない。

 てか、起きたばかりの僕になにやらせてんだよ。僕が勝手にやった説もあるかもだが。

 

 

 

 呼んでいた面子が集結する昼食時。

 何故か僕と愛里以外はこの店に辿り着けないという問題があって、僕か愛里が連れてくる形で準備していた。そして僕が寝落ちしてたので、愛里がみんなを連れてきてくれたようだ。

 何故こうしたのかというと、何気にかなり前に四方と柴田を喫茶・芳香に呼んだら迷子になったことがある。また愛里も早苗を呼んだ事があるらしい。その時も呼んだ相手がこの喫茶店にたどり着けず、こうして連れてきた教訓から予測・手配していたのだ。

 

 ちなみに、その時も今も青娥さんは奥に引っ込んでいる。自力で到達していない者には姿を見せない、的なルールみたいなものでもあるのだろうか?

 余談だが、喫茶・芳香への訪問は青娥さんの許可が必要な謎空間だと後で聞いた。許可なしで辿り着いたのは僕と愛里が久しぶりだったからこそ、最初に興味を持ったとのことだ。

 

 ともかく、そこからまず昼食にしようという段階で僕は起こされた。

 そして身支度を済ませ、先程の軽い雑談を挟んで、各々店内に散らばって食事(あらかじめ用意だけしておいて僕と愛里で配膳した)を始めた。早苗の教義に合わせた日本食を用意できたのは、日々垂れ流される勧誘話とおすそ分けし合う日常の活用である。

 なんにしろ、誰も何も気にした風もなく自然に自分の好きな場所で寛ぐとは、あまりにフリーダムな面子勢揃いである。

 だが、仲間内で唯一の和を尊ぶ四方がバラバラだったのを嫌ったのか、何か軽い話題はないかと聞いてきた。そこで体育祭で大量に余ってしまった入信書の裏面を使い、試しに適当な話の種を作成してみた。

 以下がその1だ。

 

 問1、10回のコイントスの結果で、最も出る確率の高いものを答えよ。

 

 1、裏裏表表裏裏表表裏表

 2、表表表表表裏裏裏裏裏

 3、裏裏裏裏裏表表表表表

 4、表裏表裏表裏表裏表裏

 

 A、────。

 

「なんですこれ? 意味はあるんですか?」

 

 早苗が不思議そうに聞いてくる。偏りまくった理系脳の早苗なら、こうなることはわかっていた。

 

「まぁ、考えなくても即座に答えがわかる奴にとっては意味がわからない問題だからな」

「ってことは、普通の問題じゃないのか。答えからするとそれも納得だが」

「え、早苗さんも四方君も答えがわかってるの?」

「多分、僕達の中では愛里以外やる必要がないだろうな。でも試しにちょっと答えてみろ。もうすぐ行われる中間や期末で役立つかもしれない」

「……う、う~ん。…………○○○○、かな?」

「正解。少し考えてわかるなら、理系も苦手分野じゃないって感じか。早苗と教えあえば、体育祭での減点を差っ引いてもまず赤点にはならないだろう」

 

 お、考えないと駄目ってことは、やはり愛里は文系寄りか。引っ掛からなかったし、早苗ほど偏ってはないっぽいけど、これまでのテストで教えあってきた成果が出ているのかもしれない。

 

「ほう。思考の方向性を計る遊びだねぇ。筆記の効率化を狙っているのかね?」

「そう。高円寺の言う通り、少しだけ勉強のやり方に関係してくる。スペックが普通でパッとわかるなら理系。すぐ答えられないなら文系寄り。もし何らかの間違いを犯すようなら文系脳だ。単純なひっかけだな」

「ひっかけ?」

「理系的な思考が染み付いてる者は、こんな子供騙しには引っ掛からない。一昔前に流行った脳トレの亜種だよ」

「凡人は色々考えるねぇ。なかなか興味深いモノもあるようだ」

「脳トレか。それを即興で自作する後輩も底が抜けているな」

 

 意外と高円寺が興味を持った。こういう基礎や応用以前の遊びはあまり馴染みがないらしい。

 鬼龍院先輩は……いや、言ってることの理解はできるよ? 僕の底は見抜けてるから、たまに想定から外れたことすると、それが実は『底』じゃないんじゃ? ってなることは。でもさ。

 

「……あの先輩? 底が抜けてって、僕を二段構えの落とし穴かなにかだとお思いで?」

 

 聞こえが悪いよなぁ。

 

「夢月は似たようなものだろ。むしろ落とし穴の底にジャンプ台でも置いてあるんじゃないか?」

「くくっ。落ちたと思ったら飛んでいたと。ヒゲの配管工のゲームにありそうなギミックだ。四方二三矢も冗談が上手い」

「上手くないですよ。夢月には何度もそういう目に遭わされましたから……」

「日々、楽しそうで結構じゃないか」

「楽しくはあっても、大変な事も多々ありましたが」

「それでも私から見れば羨ましくもある。貴重だぞ? こういう男は」

「まぁ、それは俺も同意ですけどね。コイツ、マジではぐれメタルですし」

 

 しかし四方と先輩め。何故、僕を煽るような会話を。

 

「僕がまた希少生物扱いされてる……」

「「ぷっ」」

「愛里君、早苗君。笑った君達もこれからはぐれメタルの同類だ。それぞれキングスライムとスライムナイトの二つ名を授けよう」

 

 僕が肩を落としたところに、二つの笑いが重なる。

 許せん。他人事なんて許せはせんぞ。お前らも引きずり込んでやる。実際、愛里は一部キングスライムだしな。

 勿論、自覚している八つ当たりである。

 

「え、ええええっ! なんで!?」

「ふむ。色的に私はスライムナイトですか。まぁいいでしょう」

「いいの!? 早苗さんはダークドレアムとかの方が似合ってるよ!?」

 

 さしずめ、櫛田はバラモスで、清隆がゾーマか。愛里自身は……なんだろう? 外見だけならゼシカやマルティナが近い(主にスタイルが)けど、境遇を加味すると4の女勇者って線もなくはない。

 てか、愛里もなかなか言うな。さりげなくあんな筋骨粒々な魔王に早苗を当てはめるとは、地味に毒舌のセンスがある。

 

「鍛え上げ、裏ボスすら圧倒するスライムナイトなんて、ロマンがあるじゃないですか。私はスライム族での地位を登り詰め、いつか全種族最強の座を手に入れてみせます!」

「お、おお。早苗さん……カッコいい」

「ふふん♪ もっと言ってください。早苗さん、カッコいぃ~素敵美人サイコー! って」

「……そこかよ。愛里って、なんかズレてるとこあるよな。そして早苗も普通に付け加えて受け入れるのな」

 

 こっちはこっちで皮肉が通じねぇ。

 でも時間を置いたからか、僕が寝てた間に誰かが何かしてくれたか。あるいは自力で立て直したかわからないが、愛里は無理をしていないようだ。少なくとも表面は取り繕える精神状態なんだろう。

 冷静さを取り戻した今の僕は、羞恥と手を出さなかった後悔によって発作的に転げ回りたくなったりしてるのに、心が強くて羨ましい。

 目立たないように胸を撫で下ろしつつ、僕は愛里や早苗を羨むのだった。

 

 

 

 しかし改めて疑問に思う。

 自分で呼んでおいてなんだけど、なんでこんな天才兼変人達が集結することになったんだ。ほぼ全員が来てくれるとはちょっとしか思ってなかったのもあるが、常識人って僕だけじゃないか。

 

「ははは。シンデレラガールは大丈夫だよ夢月。彼女はそんなに柔じゃない」

 

 と、その高円寺が笑いつつ、一見意味がわからないフォローを入れてくれた。持ち前の洞察力で、しっかりと僕を見抜いていたのだろう。こういう奴がいてくれるのは本当にありがたい。

 

「あっ……愛里ちゃん!」

「ちゃん付け!? 早苗さん、なんで今、わたしの呼び方変わったの!? そしてなんで抱きつくの!?」

 

 それを証明しているかのように、さっき適当に作った問題をやりながらじゃれ合ってる奴らを見つつ、僕は思った事をしみじみ漏らす。

 

「シンデレラって愛里のことか……。はぁ、高円寺はおおらかで良い奴だよな」

「私が……良い奴?」

「よく仲間を見てる奴は良い奴。はっきりわかんだね」

「…………仲間、か。初めて言われたよ。ここまで真っ直ぐ正確に受け取られたこともね」

 

 あの成り上がり復讐劇の主人公と愛里は個人的にあまり重ならないが、懸念点自体はだいぶ小さくなったと解釈すれば、必要なら手を貸してやると遠回しに伝えてくれたとも取れる。僕のような小賢しい立ち回りをしなくてはならない奴とは別格の心強い言葉だ。

 だから高円寺の見立てを聞いて安心した。元々の洞察力がある愛里なので、周囲を読み取って自己犠牲かそれに類する暴走に駆られる可能性を排除できなかったのだ。高円寺が二重チェックしてくれるならまず大丈夫だろう。

 

 ただ高円寺は余程でなければ精神を乱さない寛容さや独自の器のデカさはあっても、自分を利用するような発想を嫌う印象があった。……のだが、意外なことを言われた、みたいな反応だな。これだけの要素を出してるなら、時々は指摘されてそうなんだが。

 折角の機会だし、一歩踏み込んでみるか。

 直前に見た夢のせいか、なんかそんな気分になったのだ。

 

「いつからか知らんけど、それはお前が傍若無人な道化を演じてた…演じてるからだろうよ」

「ほう、演じている? この私がかね?」

「お前ほどの奴が全て真面目にやったら、説明しろとか、参加しろとか、面倒事が押し寄せてくるのは明白じゃん。必要な時だけ口出しできる程度の能力さえ示しとけば充分…って考えそうだなと」

「ふっ……」

「それに周囲と思考レベルが違いすぎる何かを違和感なく実行するにはその立ち位置が一番楽だろ? まぁ素も混ざってるっぽいけど、お前ほどシンプルな天才なんだ。伝え聞く高円寺の評判と何度か遊んだ感触も加味すると、あえてそうしてるって方がしっくり来る。

 それなら大抵の奴は素直にお前の言葉を受け取るのが難しくなるよ、多分な」

「ストレートに言うねぇ」

「ま、あくまで僕の想像だけどな。全くの見当違いだったらごめん」

 

 納得するように頷き、笑みを深める高円寺の様子からすると、当たらずとも遠からずといったところか。

 僅かな沈黙を経て、僕がおおよそ何が言いたいか見当が付いたと思われる高円寺が笑みを零しながら容赦なく核心をついてくる。

 

「……ふっふっふ。それで夢月。今度は私に何を頼もうというのだね」

 

 一応、質問の形だが、すでに断定している。まぁ僕も誤魔化しや引き伸ばしをするつもりはなかったけども。

 

「お前には必要ないだろうし、僕達もそんなの作ってないけど、保険の一手だ。『数』をお前の手札に入れてみないか?」

「数?」

「有り体に言うと、お前にグループ的なモノを作ってもらえるだけで安心できる。メンバーは高円寺が認めるナニかがある者だけでいい。それだけで格段に楽ができる場面が増えるはずだ」

 

 他クラスや学年の生徒よりも、学校対策として数はそれなりに期待できる。普段は何もしなくてもよく、いざという時に集まるグループ。こういった保険は基本考えない奴だし、役立つ……といいなぁ。

 

「僕が知ってる奴だと愛里、清隆、あと掛け持ちになるだろうけど櫛田になら口添えできる。繰り返し言うが、必要ないだろうけど」

「hmm……。たしかに私には必要ないが…………それをすると、夢月のクラスに不利ではないかね? 『敵』に塩を送るなどというレベルではない結果に繋がる認識は?」

 

 らしくない発言は試しているつもりか、あるいは過去が原因か。

 これは知能が高い方が低い方に合わせれば解決、みたいなことを昔の親か教師か…誰かに言われた事があるのかもしれない。こうした繰り返しによって、頭の『良すぎる奴』は容易に人を信じられなくなるのだ。

 レベルは違えど『俺』にも似た経験がある。現実をわかってなさすぎてムカつくんだよな、アレ。

 なぜなら、そんな事を言う奴も周りも十中八九理解する気がない。仮に高円寺が合わせても、相手が理解するのは不可能だろう。もしいたならナンセンスな奴、と分類して放置が適切である。

 

 まぁ想像するのはとりあえず置いといて。

 微調整も面倒だし、僕も可能な限り高円寺に追い縋れる思考レベルまで自分をもっていく。3倍界王拳だぁーー!

 

「当然あるが、それになにか問題はあるか?」

「ははは。ないねぇ」

 

 というわけで、要点を端的に聞き返す。

 実現すれば、メンバーの安全度、プリティーガール(笑)の価値、想定が多すぎていちいち挙げられないほどの各種機会。これらの向上が見込める提案である。話の持っていき方次第では、どの方向にも得のあるグループ結成だと説得もしやすいことだろう、と。

 

 というか、出した名前は全員、高円寺含めて数が弱点にもなりえるのだ。それをDクラスにおいては櫛田と清隆に最低限協力する形を作っておくだけで、弱点を突かれる僅かな懸念を小数点以下にまで下げることが可能だろう。やらなくてもいいが、やっておくと後々楽ができる……かもしれない策というわけだ。

 これは特に愛里への恩恵が大きいものの、他のメンバーの保険としても機能する。高円寺ならこの話を持ちかけた瞬間に深い部分まで察したはずだ。だから利用するつもりはないと仄めかしつつ、彼に選択を委ねる形にした。尊重し合うのが、独自の価値観を持つ高円寺への最低限の礼儀である。

 尤も、言ったように高円寺にはほとんど必要のない保険ではある。ゆえに、この天才がどう捉えるかが判断の分かれ目となるだろう。

 

「なら、とりあえずグループって形を作っておくのはいいんじゃないか?」

「グループか……。まさか私にねぇ」

 

 でもこの感じだと、あと一押しして受け皿とするには多少強引になっても名称含む『ナニか』があった方がいいか。気の利いたのは無理だが、オマケを付けて提案しておく。

 

「ああ、そうだ。名前とかどうでもよければ、わかりやすく『高円寺グループ』なんてどうだ? なんなら僕や四方、早苗も入れといて『天文部グループ』でもいい。他クラスの情報源の一つにするってサブ案にもなるからな」

 

 何か欲しいモノがあるなら、学校やクラスなんて括りに頼るんじゃなく自分で掴み取るものだ───早苗や愛里のように。

 それでこそ僕も足らない部分を補えたらな、みたいな気になる。逆に言うと、他人に組まされた集団に貢献する、もしくはさせるしかできない奴を助ける気にはあまりならない。これに加え、敵味方や善悪……些細な事柄の認識は僕達の間では共通だろう。問題ないと返してきた高円寺がそれを証明している。

 やはり最初に頼むなら高円寺にするのが道理だ。

 だから言うだけ言ってみた。

 さて、結果や如何に。

 

「……ふふっ」

 

 え、笑った?

 

「ははっ……はーははははっ!!」

 

 常から不敵な笑顔の絶えない奴だが、歯を見せるほどの大笑いは意外と珍しい。店にいる他の奴らが勢いよくこちらを振り向いたのも、驚いたからだろう。

 僕が言ったことは至極単純な頼みだったはず。この反応はどう転んだんだ? どっちかというと良い方に転んだっぽいけど、高円寺や早苗は予想外な思考してる場合があるのでイマイチ読みきれない。

 

「はっは……あーはっはっは!! そう、そういうことか! なんて、なんて……! ふははははっ!」

 

 しばらくそうして笑っていた高円寺だが、衝動が収まった頃にはいつも以上に……。

 気を抜くと、あっさり呑み込まれそうだ。というか、すでに醸される雰囲気に呑まれかけてる自覚がある。

 

「まったく―――夢月は私の遊び相手としては『役不足』だねぇ……」

 

 自信に満ち溢れ、けして揺るがない態度。そこから詳しく読み取れるほど彼は甘くない。

 しかし話の方向性は変えられたものの、高円寺に限って誤用の可能性はない。目には興味深げな輝きも見える気がする。前向きに検討してくれているのか、またはわざとだと見るべきだ。

 以前の高円寺コンツェルンへの勧誘といい、意外と僕はこの完璧な天才からそれなりに認められているのかもしれない。

 

「眩しささえ感じるよ。ただひたすら自分に正直に……そして歩みを止めない君は時に面白くてしかたない」

 

 なぜなら真の意味は―――ま、推測で詳らかにするのは無粋か。

 信念と矜持を感じさせる率いる者のカリスマ性は、僕の考えにも影響があった。

 他人にもわかりやすい形ある実績や功績を求めてしまうのが凡人だ。四方や高円寺、清隆のような『男の』天才はそんな俗な価値観を必要としない。

 僕は心からその在り方を格好良いと思う。

 

「それはお互い様なんじゃないか。僕から見ると『六助』の生き様は美しい。これだけで通じるだろ?」

 

 しかも早苗や高円寺は理解能力の高さや話しやすさもあって、つい気安くなってしまうのだ。だから、つい名前を『呼ばされて』しまったのもしかたない。

 

「フッ……フハハハハッ! 満点の回答だよ夢月!

―――いいだろう。君が矜持を貫く限り、私も貫いてみせようじゃないか。それが最も美しい選択のようだしね」

「こんだけ言っといてなんだけどさ、好きにやろうぜ。シンプル・イズ・ベストだよ、六助」

「違いないねぇ! はははっ」

 

 なにより僕のような下駄を履いていない、最高に格好良い友達の姿がここにある。

 能力依存の事ならいざ知らず、なるべくコイツに格好悪いところは見せたくない。気の合う友達と駄弁るのに、余計なものは必要ないはずだ。

 敬意には敬意を返すのが、友達として当然のことだろう。

 

「少し目を離した隙に……嘘だろ、アイツ」

 

 途中から四方達が僕と高円寺の方を見て呆然となんか呟いてたけど、もう話は終わったし、無関係だろう。

 まぁ、久しぶりに天文部員+αの揃った昼食時はこんな和やかな感じだった。

 ちょっとタイプ別のお綺麗な女子達や天才比率が異常だが、僕に問題はない。

 食休みしたら長めの話をして、それから―――するだけだからである。

 





 高円寺六助について。
 私から見ると、高円寺と鬼龍院って立ち位置と表向き以外あまり似てない気がするんだけど、原作では綾小路や桐山から似てるって言われたり思われたりしてるんですよねぇ。2年生編後半あたりからは知らないけども。
 本編では、夢月がどちらかというと高円寺寄りの思考なので、こうなりました。一応、筋は通してるつもりです。
 それと1年時の合宿や2年時?の高額商品の購入、宵越しの金は持たない云々の発言などから推察できる原作・高円寺の考えいくつかについては、故意に微妙な変化をさせてます。具体的には、彼の使う店とかですね。
 話数でいうとだいぶ前に3000万ポイント渡しておいて今更ですが、多分詳しく出す機会がないので気づいた方は軽く流してやってください。

 あ、ついでにもう一つ。
 途中にちょっとした問題文を一問だけ出しましたが解答や解説は割愛しました。
 ただこれは無人島の『石ころ』で夢月がやったイカサマ(サイコロの出目)の応用問題ですし、解き方もその話の一之瀬の発言とほぼ同じなので、もしモヤったらそちらをヒントにしてください。
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