ようキャ   作:麿は星

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129、仲間

 

 僕の持論だが、欲望や野心、自己顕示欲などで動く奴は、振り回されなければ問題ないと思う。それこそ某イカサマストッパーのように金と己を信仰してもいい。欲を無くす事を無私などといった意識高い印象と同列で語られることもあるが、むしろ欲望を失くすと成長も止まってしまうのを前の人生経験で僕は知っている。あれは生きながらの死である。

 だから自分をしっかり持って、周囲や状況を気にかけ、その上で自分だけを優先するような醜い真似をしない事が肝要だ。

 

 はっきりとは教えてくれなかったけど、以前に洩矢様も自分さえ良ければいいとだけは思うな、と忠告してくれた。終始軽い態度であったものの、僕が信じる在り方を認めてくれたのだ。

 勿論、信じることしかしていない神様に手助けを請うほど恥知らずではないが、そんな僕にすら手を差し伸べていたと思われる。高円寺や鬼龍院先輩、松雄の出した結果がその証左だ。少しでも恩を返したいと思うのは人として当然である。

 

 またおそらく早苗や入信したという愛里、櫛田の事もきっと見えない部分で手伝ってくださっているのだろう。1学期の最初に二人が仲良くなった件や愛里のフォロワー急増にも、今となっては少し影を感じる。

 承認欲求や自己顕示欲なら有名になれるように。金を欲するなら清く正しく儲けられるように。信仰を集めるなら道を踏み外さないで人気を得られるように。

 つまりこれは自分を最優先にせず、素直に欲望を発揮していれば、自分も周囲もハッピーエンドを迎えられるということではなかろうか。

 大欲は無欲という言葉もある。欲望が大きくとも大事なモノを普通に大事にしているから無欲に見え、結果として周囲と一緒に幸せになれると。そうしていれば、周囲や神様も手助けしてくれるから。

 助けるだけじゃない。

 頼るだけじゃない。

 ということ。

 

 また何も求めず一方的に与える関係を搾取、頼りきる関係を寄生と言い換える事ができる。これはリーダー格やその周囲に出現する場合が多い。

 メサイア・コンプレックス患者のような奴や、精神バランスが崩れているなどの要因で他人に依存して自分を保つ奴。しばらく観察していれば、目立つ位置で不自然に振る舞ってるのがわかる。

 

 例えば、助ける・頼るのうち片方だけをやろうとしている(いた?)学や一之瀬、平田・軽井沢さんなどだ。

 あの一部の奴らには明確に映る不自然さは、彼らが真の意味であまり人に頼ろうとしないからだろう。アレらはどうも何かを拗らせてる匂いがする。南雲や清隆からすれば、能力の高さも相まって格好の獲物である。

 ついでに言うなら、そういうタイプは深い友達を作りにくいので、『やられたくないなら』事前に手を打っておく必要がある。良くも悪くも、返報性の原理っぽい気質が強めなのだ。南雲や清隆の性質上、飴と鞭を使い分けて道具や駒にする事も視野に入れられている可能性が高い。

 ん? つまり学は難しくとも、誉め殺しすることによって一之瀬はチョロ之瀬へと変化させられる?

……ふむ。僕も説教回避策の一つとしてストックしとこう。

 

 と、ともかく脱線して回りくどくなったが。

 言いたいことは、自分だけでできないならできる奴に頼る。

 そして最低でも頼った分は返す。

 相互で助け合いできてこそ友達であり仲間というものだ。

 これが『二度のこれまで』と……約半年を経て、僕の導き出した答えである。

 

 

 

 

 

 10月11日の正午過ぎ、喫茶・芳香。

 高円寺とのなんやかやがありつつも、その日はいつもより輝いて見えていた。

 本当だ。雑談で口の滑りを良くし、言えなかったことを気兼ねなく言える状況に辿り着いたことで、僕の心情にプラスの効果があったのだろう。椎名に渡しているが、自分で製本した世界でただ6冊の本すら特別なモノに思えた。高円寺の話しやすさも影響していたかもしれないが、雑談の内容に保険が混ざったのはおそらくここも一因である。

 少し前までは心配していたというのに、気の持ちようで大分変わる自分の現金さに苦笑が漏れた。

 晴れやかな気分で心配を吹き飛ばし、四方が落ち着きを取り戻したタイミングで本題の前に確認しておく。

 

「あ、そういえば四方」

「ん?」

「藤巻さんや橘書記の話ってどうなった?」

 

 正午に集まることにしたのは野球部勧誘の結果がどうなろうと、話すのを四方が選択した後だと決めていたからだ。

 元々、四方が今日の午前、上級生達に呼ばれていたのは知っていた。

 なぜなら、仕込みをしたのもあるけど、何故か僕も藤巻さんや源に勧誘されていたのである。運動部の活動をできる現状じゃないから、丁寧に断りを入れた時、四方を今日の午前に勧誘することも少し聞いている。食後の雑談で聞くのは不自然じゃないだろう。

 

「ああ、試しにバッターボックスに立たせてもらったんだが、白球が飛んでいくのが気持ち良かったからな。入部してみることにしたよ。夢月がここまでやりやがったのも、悪い事に感じなかったし。

……夢月はやらないのか?」

「あー、仕組んでおいてなんだけど、会社やバイトもある中で運動部の活動は無理がある。時間が足りない。栄一郎達への責任もあるしな」

「そうか。残念だが、それならしかたないか」

「ただ一つだけ僕がやってやれることがあるから、話が終わったら時間をくれ。藤巻さん達に聞いてるかもしれんけど」

「夕方頃に野球グランドを貸すってヤツのことか? まさかお前だったとは」

「四方が入部するか否かは関係なく、面白いモノを見せてやるつもりだったんだよ。楽しみにしといてくれたらありがたい」

「面白いモノねぇ。意外性の塊だからなぁ、お前……。何してくるか想像できん」

「はっはっは。前々から四方が言ってた事を実現するだけさ。そろそろ決着はつけとこうと思ってな」

「それって……」

 

 ここまで言ったら答えも同じだろうけど、最初からこのつもりだったし、ちょっとくらい引き伸ばしてもいいだろう。

 僕だって格好付けたい時はある。

 

 

 

 ともあれ、前フリは終わった。これからが本題だ。

 そう。約束していた僕のネタバラシである。

 

「よく全員集まってくれた。ありがとう。

 今日は少し長い話を僕が勝手に垂れ流すので、飽きたりつまらなかったら、あっちに用意しておいた飲食物や長椅子で適宜自由に過ごしててくれ。あと作りは粗く短縮版だがこれから話す事のカンペ的なモノを1冊の本にした───『ようキャ』も5冊作ってきたから、こっちがよかったら持ってってくれて大丈夫。基本の流れは話と同じだと思う」

 

 ようキャは椎名にあげた本と違ってだいぶざっくりとした内容だけど、ここ1ヶ月ほどで1冊に圧縮してまとめた内容なのでしかたない。

 

「ああ、信じられないとか馬鹿馬鹿しいと思うなら、途中で帰っても構わない。正直、そう思っても無理はないと思うしな」

 

 呼んだメンバーは、四方、愛里、早苗、高円寺、椎名、鬼龍院先輩。ただ椎名には、その場で自分は“邪魔”になるからと断られている。

 本当は清隆や栄一郎、葛城達に一之瀬も呼んだ方がいいかもしれないが、はっきり言ってほぼ確実に信じられない、または信じられると困る側面がある奴らは呼ぶのを自重した。何気に奥の青娥さんと、場違いに置いてある大型冷蔵庫……の中の人、芳香さんも聞いてるっぽいが、軽く話してはあったし、あれだけ理の外の存在なら問題ないだろう。

 話す準備が整ったので、僕は前置きしつつ、四方との約束通りにここ半年ほど言わなかった事をおもむろに話し出す。

 

「キャットルーキーという漫画をご存知だろうか?

 

 全部で3部作のプロ野球の傑作漫画で、以前とある事情でヒキニートをしていた期間のあった『俺』が読みふけっていたお気に入りの一つだった。

 その作品の連載中は、漫画やアニメといったものをそれほど見られない境遇だったので、落ち着いた状況になって初めてハマった漫画だった。

 

 1部では球界の名物ピッチャーコンビ、2部では四方という野手、3部ではかなり特殊なバッテリーが主役になり、2部からは順に各主人公達がトムキャッツに入団していき、それぞれのワンシーズンを描いた個人的にはとても面白い作品なので読める人にはぜひお勧めしたい」

 

 ざっと探してはみたけど今回の人生には存在していないっぽいので、本当に僕の妄想である可能性も微レ存。

 

「待ってくれって?

 わかっている。以前とかヒキニートとか、あるいは誰一人としてこの作品を知らないはずなのも、『四方』という2部に出てくる野手のことも気になるだろう。

 だが、よければ『俺』の妄想話にしばらくお付き合い願いたい」

 

 それから僕は、入学してからの僕がしてきたこと、考えてきたことをなるべく客観的に聞こえるように話した。

 ぶっちゃけ椎名に渡した自著の作成で、記録や記憶を整理できててよかったと思う。言う事はこれまでに考えてきたとはいえ、やってなかったら昨夜の愛里との件がまだ内心に残っている中で理路整然とした告白は難しい。おかげで、聞き苦しくない程度の語りにはできたはず。

 

 乱暴な話だが、転生やら幻想やらは実体験があろうと他人から見れば所詮妄想の類いである。知らないはずの未来や事実を語ったところで、偶然やまぐれ当たりといった結論になる確率は高い。

 なんせ僕自身は心から信じていても、証拠の一つも提示できないのだ。こういう場合、信じる側に証明の義務があるのは当然だ。それなのに体験と根拠を並べるくらいしかできないのだから、結局は話した相手が信じるかどうかになる。

 特に四方には、はっきりいって失礼な話だし、気味悪がられてもしかたないと思ってはいたが、体育祭の前夜に……いや、実はもっと前から自分に約束していたことだ。約束を違えるのは、僕の矜持を曲げるような行いだと考えていた。

 

 数時間ほど清隆関係や青娥さん関係の企業秘密、それと女子が何人かいるので失礼だったり不快に思われる部分は意図して抜き、昼から始めて現在は夕方前の15時頃。

 内心はどうあれ、みんな静かに聞いてくれた。

 数時間に渡ってのご静聴、感謝である。

 

「さて、『僕』の約半年間はどうだっただろうか?

 話した通り、入学当初こそキャットルーキーの物語に囚われてた感―――四方をキャラとして見ていた部分もあったかもしれないが、もう今ではそればかりじゃない。他の奴らは当然として、四方もきちんと友達として見ている。キャットルーキーと関係ない愛里達の件も含めてな」

 

 ちなみに、キャットルーキーの内容はもちろん話せない。1部の雄根や神童、3部の寅島・三日月の名前も伏せさせてもらった。

 未来のネタバレになってしまったら、四方はもとより僕だって面白くない。原作で『キャットルーキー』と言うワードが出ないからこそ触りだけ話したが、「どんな漫画なのか」という詳細部分はこれからも断固として話すつもりはない。そんな不協和音が影響して四方が野球をやるのは、誰にとっても望むところではないのだ。それと───。

 

「ああ。一応言っておくが、僕は四方にプロ野球選手になれとか、愛里に写真家になれとか強制してるわけでもない。ただその道の入り口を僕が見せられる分だけ見せてやろうかなと」

 

 並々と注がれた成功の美酒を飲み干す者がいる一方で、失敗の泥水を啜るしかない者もいる。

 僕がやっていたことは、美酒を飲むだろう未来が見えているのに泥水を啜りそうになっている奴らの背中を押したこと。一応、それだけは念を押しておく。

……それだけになってるといいなと思いながら。

 

 

 

 全員が話を消化する前に、ノリを利用して雰囲気を作ってしまおう。

 みんな、与太話に聞こえただろうに、意外なほど真剣に聞いてた感じだった。この感触と何度もはぐらかしてた実績があれば、どさくさ紛れの譲歩的要請法・ドアインザフェイス……いける!

 

「じゃあ話も終わったし、実践といこう。

───四方。これから僕との3打席の命名決闘を申し込む。三打席中、一本でもヒットにできればお前の勝ちだ」

「三打席……? 夢月にしては随分な自信だな」

「勝つ気だからな。でも僕が勝ったら負けず嫌いなお前のことだ。きっと野球がもっと楽しく、もっと好きになってるさ。あ、四方が勝ったら僕に好きに命令していいぞ? 話せる事はだいたい話したけど、まだ知りたい事はあるかもだしな」

 

 これは、度々言われていた勝負の話だ。

 船旅の前からその意思は察していたが、そろそろ白黒はっきり付けとかないとしこりができてしまう。清隆の時と同じく、勝ちを見据えられるほどの札はないが…それほど勝敗に拘ってなかったし、勝負が成り立つ札は最低限あるのでまぁ大丈夫だろう。

 

 なぜなら実はこの命令権は、僕の致命傷にもなりかねない可能性を秘めている。体育祭前にすでにフルベットしてることもあり、どうしても勝ちたいって気持ちを引き出すには自分を追い込む必要があった。たとえマッチポンプっぽくても、ここまでしないと僕に天才級相手は難しいのだ。

 

「それと受けるかは任せるし、知ってるみたいだが、野球グラウンドの使用許可も橘書記と藤巻さんを通して生徒会と野球部からもらってる。1時間くらいは自由に使えるけど、勝負自体は数分で済むんじゃないかな。やるなら暗くなる前に行こう。四方を『倒すために』手配していた」

 

 ゆえに、しっかり四方を見つめて僕は宣戦布告できた。

 

「受けてくれるなら各種細かい条件は好きに付けてくれ。ただピッチャーは僕、バッターは四方。これだけは変えないでくれ」

 

 勝負とはあまり関係ないはずの愛里達まで何故か目を輝かせてるけど、これが僕の考えた目的達成への仕上げである。

 以降も人生が続いて行くのは当然わかってるが、椎名にあげた「ようこそキャットルーキーの前日談だと思ってる学園へ」の最終章にはふさわしいだろう。

 身体はまだ万全とは言わなくとも、胸を張って四方にネタを振る。

 

「さあ、磯野…じゃなかった。四方、野球しようぜ?」

 

 某海鮮一家のネタに紛れさせたキャットルーキー最終回の台詞オマージュで。

 

「……こんな場面でもネタ使うのか」

「僕は普通の凡人だからな。こうして底上げしないと、ただ負けるだけになっちまう。少しは面白いモノを見せるっつったろ? つまらなくならないように、こうして工夫しないとな」

「面白いモノ、か……」

「おう。速度・重さ・変化の全てで当然ながら天才やプロ、それに準じるレベルじゃない。でも今の球界からすると珍しいスタイルかもしれないモノだ」

 

 言葉で撹乱くらいはするけど、隠し球やイカサマとかの邪道戦術は『なるべく』使わないから安心しろ。

 

「…………ふっ、面白いな。夢月はいつもワクワクさせてくれる」

 

 特に隠していなかった僕の考えを読み取ったのか、四方が勝負時の目へと変化した。

 

「───わかった、全力で相手してやる。かかってこい、左京夢月」

「───訂正してやろう。返り討ちだ。勝つ気にさせた僕に『挑んできた』意気を打ち砕いてやる、四方二三矢」

 

 勿論、売り言葉に買い言葉。

 身体は完全な状態じゃないものの、この精神状態ならお互い楽しい勝負にできると確信した。

 

 

 

 よし。そうと決まれば、早速グラウンドに行こう。暗くなった状態で勝敗を決しても互いに納得できないからな。

 仙人達を奥に置いたまま、僕達は勝負の舞台へと移動することにした。並べておいた「ようキャ」をそれぞれ手に持った他の面子も一緒に来るようだ。完売してくれたのも何気に嬉しい。

 

 にゃ~。

 

 そうしてみんなで道を歩いていると、何処からともなく猫が寄ってきた。しかもこれから勝負するに最高に───。

 

「おっ、黒猫じゃん。ラッキーだな」

「え? 黒猫って、どっちかというとアンラッキーなんじゃ? よく黒猫に出会ったら不幸なことが起こるって……」

「そんなケチ臭いこと言うなよ愛里。多少運を分けた程度で勝敗まで分けるなら、それはもうやるまでもないじゃん」

「ケチって、なんで?」

「運を……分ける? 黒猫にか?」

 

───縁起が良いと思ったら、愛里と四方が黒猫をディスるような事を言ってきた。その解釈は知ってるが、あまり好きじゃないので軽く蘊蓄を話して意識改革してしまおう。

 

「四方もか……。

 いいか? 古来、黒猫は福猫と呼ばれて可愛いがられてたんだ。縄張りを見廻りながら福をお裾分けしてもらい、主人のところに持ち帰るってな」

「じゃあ不幸の象徴と言われるのは」

「多分、福をお裾分けするって部分を、福を取られて不幸になる、みたいな解釈にしたんだろう。そんなケチ臭く、器の小さい見方はするもんじゃない。素直に誰かがちょっと幸せになるかもと思ってれば、猫含めてみんな幸せだろう?」

 

 小さな神様も元が猫には違いないので、僕は以前に猫関係の情報を調べまくった時期がある。おかげで猫の豆知識的なモノに詳しくなってしまった。それが今になって『キャット』ルーキーにそこそこ関わってくる猫のイメージアップに貢献?できるんだからわからない。

 と、ズボン越しにふさふさな感触があって下を見ると、なんか僕の足に身体を擦り付けている猫。

 

「お? ついてくる?」

「気に入られたんじゃないですか?」

「ま、勝負の時は愛里といてくれたら危険はないか。一応、小魚のお菓子を愛里に渡しとくわ。グラウンドまでついてくるようなら頼む。

……猫、来るなら大人しくしとくんだぞ。終わったら後でご馳走してやるからさ」

 

 それにしても、学校の敷地内に猫というかペット的な動物いるんだな。

 天体観測のスポット探しの時に歩き回ったけど、知る限り敷地にはペットショップや動物カフェなどが存在しないし、普段は滅多に動物を見かけない。少なくとも生徒が飼う手段とかもないのではなかろうか。夏みたく長期で留守になる場合もあるわけだし。

 もしかしたら敷地外から侵入してきた剛の者かもしれない。まぁ猫の子一匹入った程度で何がどうなるわけでもないが。

 

「猫って……。それは流石にあんまりなんじゃ」

「初対面で名前がわからんからしかたない」

「初対面……」

 

 余談だが僕達が話してる間に、興味深げに猫に近づいてはフーッ! と威嚇されてシュンとなる鬼龍院先輩と、普通に軽くモフモフした高円寺の間に緊張が走った気がした。無駄に勝ち誇った笑みを向けるから……。

 

「なあ、お前も猫で良いだろ? 適当な名前付けられるよりはさ」

 

 にゃ~。

 

 良い返事だ。

 何はともあれ、歩く僕の足下にまとわりつく黒猫に一声かけ、返事?ももらえたので小さな同行者が増えた。

 全部終わった後にまだいたら、約束通りコンビニかスーパーで猫缶……売ってなかったらミルクや魚を買ってやろう。

 

 

 

 そういえば、猫の乱入で一つ手を打つのを忘れていた。

 

「おっとそうだ───早苗」

 

 コイツに助けを求めておかないと、僕の失敗が確定してしまう。危なかった。

 

「どうしました?」

「僕を助けてくれ」

「───っ!」

「今回は四方に勝つ必要があるんだが、僕だとどうしても一手足りない。早苗にできる事しか頼まないからさ。急で悪いが入信以外ならなんでもするから頼めないか?」

 

 攻撃気質の早苗を守備専門にするのはすまんと思ってても、最低でも仲間が一人は後ろにいてくれないと戦術の幅が狭くなる。鬼龍院先輩や高円寺への借りは現時点で限界突破しつつあるので、運動苦手な愛里を除外すると早苗以外に頼める奴がいない。

 

「サードかショート…あ、ポジションわからないなら二塁と三塁の間らへんにいて、四方の打球が飛んできたらグローブに収めてくれるだけでいい。反射神経と身体能力、貸し借りを考慮すると早苗にしか頼めないし、助けてもらえない場合は良い予感がしない」

「え、あ……は、はい。それは……か、かまいませんが……その」

「おおっ、ありがとう! 服はその巫女服でいいのか? 今ならまだ店が近いし、僕か…男物が嫌なら愛里の仕事用のがあるはずだから着替えられるぞ。なあ愛里」

「あ、うん。わたしのを貸すのはいいんだけど」

 

 あと受けてくれたお礼を言いつつ、着替える選択肢も提示しておく。巫女服はとてもじゃないが野球やる服装じゃないからな。

 すると、早苗は妙な事を聞いてきた。

 

「……いえ、これは私の勝負服ですので。ただ一つ聞かせてください」

「ん、なんだ」

「どうして勝つ必要があるんですか?」

「は?」

「夢月さんと二三矢さんが勝負するのは別にいいです。私もしたいし、しましたからね。でも、夢月さんって勝つことに拘りはなかったじゃないですか」

 

 正直、勝ちへの執着は今もないが。

 

「え、そりゃ普段ならそうだけど、僕が『勝った先』の方がなんとなく良い結果に繋がってそうなんだよな」

 

 四方の結果だけど。

 その為に必須なのが早苗である。

 なんらおかしなところはない。

 ただし、今回はもう一つ理由がある。

 

「だからまぁ、一肌脱いで頑張るのもたまには悪くないなって」

「この私に借りを作っても、ですか? 高くつきますよ?」

「愚問だろ。勝つと決めたからには、誰が相手だろうと、どんな手を使っても勝つ。僕は決めた事は必ず全力で取り組む男だ。それに───」

 

 それにあからさまではないけど、不思議とやる気を見せてる友達に頼まないのは美学に欠ける。

 早苗の巫女服は、おそらく『僕を』助けるつもりで着てきたんじゃないかと思えるのだ。ここで頼らないのは違う気がする。勘だけども。

 

「僕の前で正装してきてるんだ。頼ってもいいんだろ?」

「……っ。やっぱり夢月さんはすぐ意図に気づきますよねぇ……」

 

 いや、もうそこそこの付き合いなんだから、普通気づくだろ。

 

「なんとなくな。お前“ら”って意外とわかりやすいし」

「それ言えるの、多分夢月さんだけですよ。な、仲間意識みたいなシンパシーすら少し感じます」

「まぁなんだ、そう思った上で声をかけて欲しいんなら、今度からは言ってくれると助かる。ぶっちゃけ読み違えてたら、自意識過剰すぎて恥ずかしいなんてもんじゃなかったぞこれ。かなり勇気ゲージを消費したわ」

「…………うふっ……ふふふ。すいません。次からは遠慮しませんから大丈夫です!」

 

 笑うなよ。冗談じゃないぞ。

 

「いや、遠慮はしろよ。親しき仲にも礼儀ありって言うだろ」

「それと今回のお詫び代わりに。このままでいいのでしたら、この服装のままお手伝いさせてください。

───勝ちましょう、夢月さん」

「聞けよ、聞いてないな。……はぁ。まぁ早苗らしいし、とりあえずいいか。サンキュ。

───勝とう、早苗」

 

 何が理由か一瞬動揺をもろに滲ませて変な反応を見せたものの、早苗は思いの外あっさりと承諾してくれた。

 本気モードな神聖っぽい雰囲気も出してるし、まったくところにより頼りになる巫女様である。

 

「「ほう……?」」

「……」

 

 ただ四方が無言で見ているのとは別に、今まさに不確定要素が生まれたような勘の知らせがあった。

……せっかく珍しく早苗との話が綺麗に纏まったんだから、自由人三銃士の残り二人と愛里は妙な空気感を出さないで? 猫が怯えて僕の身体を登り出しちゃったじゃん。

 





 イカサマストッパー。
 キャットルーキーの登場人物・神童仁志の通称。ちなみに1部主人公・雄根小太郎の通称は罰金ルーキー。後の巻になるほどあまり言われなくなりますが、私は彼の信条含めて結構好きなので使わせてもらいました。今の時代的に微妙かもしれないけど、少しでもキャットルーキーの雰囲気を感じてもらえたら幸いです。



……それと予告通りとはいえ、終章はあまりによう実要素が少ないので、なんかないかとこれを後書きに加えてみました。

 原作1年生編7巻を模した担任(星之宮)のクラス評価。

・夏休みまで。
 問題をいくつも起こす生徒はいたものの、一之瀬さんを中心に“ほぼ”纏まり、理想的な雰囲気で学校生活を送れていたようです。

・無人島試験。
 初日から前代未聞の事態を引き起こした生徒がいたものの、競い合いより楽しむことに重点を置き、クラスで一致団結できていたと思います。また終わってみれば、上位成績という結果も付いてきました。

・船上試験。
 誰かを疑ったり、陥れたりすることが苦手な生徒が多く、大半は苦戦していたようです。しかし、それを逆手にとって被害を最小限に抑え、最大限の利益を得た結果は誇って良いものだと思います。

・体育祭。
 前年度までからは制度一新したこともあり不測の事態が多くあった中、最初から最後まで学内全てを翻弄しつつ話題を提供し続け、ついには所属陣営の白組勝利と学年1位に導きました。あまり仲の良くないCクラスとも要所で連携できていた事は素晴らしいと思います。

 Aクラス昇格した際の星之宮知恵の作者メモ。
 いやっふぅーーー!! チエちゃん大勝利~! なんて思ってそう。ちなみに、昨夜は1年のいつもの担任3人で飲み会してました。
 茶柱先生の酔いがそこそこ回った時にもし夢月がいてお礼とか菓子折りとか渡してきたら、それに便乗して半ギレを通り越してブチギレさせてたかもしれない。
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