ようキャ   作:麿は星

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 とんでもないガバをしてました。すいません。
 えー、去年のクリスマスに前後編分けたつもりで、後編の投稿をしてませんでした。
 数日以内に後編を投稿して今話ともども一番後ろに移動しますが、もしまだブクマ・栞などを残してくれてる優しい方はお待ちいただけたら幸いです。
 本当に最後で跡を濁すようなガバして申し訳ありませんでした。
 2025/1/14


EX、日常に帰還する友達(?巻)
EX、日常


 

 H・S様。

 

 もしかしたらこの物語を誰かに見せるかもと愚考し、イニシャルで失礼します。

 夏休みのゲーム勝負の件をはじめとして、数々の恩、本当にありがとうございました。

 まず気になっていると尋ねられたので明言しておくと、僕はこの『ようこそキャットルーキーの前日談だと思ってる学園へ』という本を出版とかして売るつもりも大々的に広める気もありません。

 ですが念のため名前を出さないよう配慮した結果、序文ではイニシャルになった事をご理解頂ければ幸いです。これが恩に報いるに値するかは別として、僕にできる最大限の事をさせてもらいました。

 ただ、いかんせん時間が限られていたので、日記を急いでまとめた書き物になっております。それゆえ、どこかに矛盾や間違いなどがあるかもしれません。また女子にはお見苦しい点なども存在しております。

 あと図々しいですが、できれば四方二三矢・綾小路清隆の二人には『時期』が来るまで、この物語を見せないようお願い申し上げます。

 そこのところをご了承の上、寛容な心を持って許していただければ嬉しいです。

 

 さて、いつまでも堅苦しい言葉は疲れるし、これは本の序文挨拶とほぼ同じだ。くどくなる前に店じまいにさせてもらう。

 こうした理由は培ってきた常識からすると、一番最初だけでも丁寧な言葉でお礼を伝えたかった。それだけである。

 

 続きを読めばわかるし、察していることもあるだろうが、僕自身は天才に分類されないものの多少普通と違うモノを持っている。

 この物語の序文は『大人だった』僕をそれなりに知っておかないと、理解が難しいかもしれない懸念から付け加えたものだ。

 ゆえに、最初の数ページは“君”に語りかけるような構成にしてあるが、次以降はそうではないだろう。

 

 なお、このメッセージは一定時間経過しても消滅しない。

 つーか、紙を自動消滅させるやり方がわからない。

 なので、君に渡してある本に挟んでおくなり、自動発火などを想定して水に浸けておくなり、邪魔なら捨ててしまうなり、君の好きにするといい。

 なんなら製本も僕がしたので、何事もなかったかのような数ページにすることも可能だ。もしそれを望むなら一冊目を持参してくれ。次の日までにはなんとかする。

 以上で前置きは終わりだ。始めるとしよう。

 ようキャの最初と最後を飾る物語がまた1ページ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然だが、ちょっとだけ僕の出す問題を真剣に聞いて答えを考えてみて欲しい。

 

 問い・天才とは?

 

 こういう時、真っ先に上がるだろうIQは指針にはなるが、そこまで当てにはならない。

 なぜなら、友達や知り合いの中で高いと思われる奴でも、僕の見立てのIQはおそらく140~150ほどまでだからだ。世間に間違って広まっているイメージの天才には一歩譲る数値じゃないだろうか。

 整理していくと、まず日本人のIQ平均は105(男103、女107)と統計にある。

 そこから仮に120以上を高IQと定義し、上記の奴らがその数値を超えているとすれば、僕の友達ほとんどは少なくともそれ以上だと思われる。

 ただ学校などのIQ測定で測れるのがIQ135程度が限界なのと同様、勘と感覚だけでは限界がある。正確な数値はわからない。

 

 現時点の僕が高IQの壁すら超える数値と見ている高円寺や南雲、そして特に『理の外側にいる存在達』はそもそも測れない。ゆえに、彼らは天才と自他共に認められるだろう。

 しかし、だからといって敵なしとまではいかない。場合によっては、凡人に出し抜かれることもあるだろう。特に南雲は能力を持て余している面があり、隙も大きいのでまだ経験で対応可能な部類だ。

 勿論、これはあくまで僕の私見ではある。ただ、これまで見て接してきた天才達をなるべく色眼鏡なく分析して導き出される答えからは、IQを絶対の指針にできないということを言いたいだけだ。

 

 ああ、ちなみに一定以上に高IQな者は、それなりの時間と付き合いがあれば比較的簡単に判別できる。

 体調不良など動けない事情がある場合を除き、たとえどれほど辛い状況でも、レベルが違いすぎたり学ぶものがなくて退屈でも、引き篭もったりせず“必ず”授業に参加する奴だ。

 ストーカーに気持ち悪い粘着されても1人で我慢していた頃の愛里、頻繁に僕の勧誘をするようになる前の早苗、周りに話が通じる奴が“ほぼ”存在しない高円寺などが良い例だろう。ダメージは0だったものの、体育祭直前の僕も客観視点ではこの中に滑り込むかもしれない。

 彼女らは生来の真面目さや協調を考えているのもあるが、僅かでも学びたい、挑戦したいという好奇心が強いのだ。IQが高いと学習・挑戦=楽しいとなりがちである。それがまた心の強さに繋がっていく。

 

 僕が入学前にこの学校に持っていた印象は、そういう子供の天才に対して後押しをしてくれる。そんな場所だったらなぁ、という夢想だった。尤も、夢想とはいえ以前は一般的な考えだったという…が、現在ではもうほぼ存在しない。

 知らないかもしれないから補足しておこう。

 昔は才能が抜きん出た子供に対して「国や村、地域がお金や人材を出し合って君達を立派な人物へと育てるから、大人になったら世の中のために働いて故郷に錦を飾ってくれ」っていう教育理念があったらしい。

 子供への投資は、全ての投資の中で最も費用対効果の高い投資と言われていた頃のギブアンドテイク的な考え方だ。

 

 しかし現代ではそこが抜け落ち、ただお偉いさんの野心的な理想論から「天才をこの手で育てたい」といった選抜教育に成り果てている。

 詳しくは語れないものの、僕の友達である某変人&天才が育ったらしい場所や某国オリンピック選手の育成環境、夏休みに僕達が体験したアレなどがその具現化だろう。常識がなくなる代償に能力や考え方を特化させられる可能性の高い手法である。

 特に高IQの子供は学習能力が高いだけに、心を教えなければ簡単に誘導・洗脳できる。と、それらを危惧し(これだけでもないが)―――行動した結果は今の君の知るところだ。

 

 ただ甘い考えなのはわかっていたが、それでも入学当初は学校を信じようという気持ちも持っていた。言ってみれば一之瀬のような性善説だ。でも騎馬戦で鬼龍院先輩に返したように、舐められることになるのが明白だと理解した1学期末の頃から僕は方針を変えている。それを繰り返されるのはムカつくからな。

 それでも、最初に相手を信じてみないことには何事も始まらない。なぜなら、もしも性悪説が全て正しかったら、今のような文明になる前に人類が滅びてると僕は考えているからだ。今は小狡い奴らがあまりにも悪目立ちしすぎてるだけで……。

 

 それに適者生存を考えるなら、勝ち続けるのはリスクが高い。

 弱肉強食での1位と2位は、周りから狙われて短期間で滅びてしまう前例は多い。生き延びるのがほとんどの場合、目立たない平凡な存在なのはよく知られているだろう。

 太古のティラノサウルスも最強だから長く君臨したのではなく、研究が進むほど平凡に近づいている、といった例がわかりやすいかもしれない。

 これまでの約半年で、このリスクについて僕に指摘してきた奴は1人、オマケして2人しかいない事実が、ギブアンドテイクな考え方を持たない者がほとんどだと証明している。

 

 少し生存戦略に逸れてしまったので話を戻す。

 持論だが、学ぶことを楽しいと感じるのは、学ぶ意味をわかってるからだ。だから子供のうちは周りの先人が「○○を学ぶと何々ができるようになる」を具体的に示してやる事が肝要。でなければ、大学などの専門にした分野で研究の楽しさを実感するか、社会に出て学習の必要性と楽しさを痛感する日がくるまで気づくのは難しい。

 本来はこういうことこそ、学校が教えるべきだと僕は思う。

 

 しかしこの学校に限った話でもないが、今の学校制度では『何のため』に教えるのかが『受験のため』ほぼ一択になっている。この学校に至っては、『内輪で勝ち抜くため』に勉強や運動、裏工作を頑張るなどという本末転倒なシステム。

 型にはめて競争させようとしてるのは、どう考えても実社会の訓練じゃない。何らかの実験である。

 ここまで僕達が体験してきた内容から考えるに、あれでは結果を出せたとしてもただ言われるまま覚えるだけの味気ない作業にしか思えないだろう。あって出世欲、金銭欲のモチベーション競争にしかならないはずだ。

 経験から知っているが、そこには成長も楽しさもない。真の意味での天才も生まれず、むしろ『都合が悪い』天才であるほど逆風の環境に置こうとするだろう。

 

 また僕以外に早苗や四方にも聞き込みしたところ、学びの入口である小中学校でさえ、教師が勝手な理屈を子供たちに押しつける『理不尽な採点』が横行しているようだ。3.2+5.8=9.0が不正解だとか、グッスリ眠るが間違いだとか、氏名欄に名前を漢字で書いたら習ってない漢字だからと減点されるとか。僕なら低学年だと「左京 む月」と名前欄に書かないと今の小学校ではバツにされるとか……。

 これはどう考えてもおかしくないか? ああいうのを何度もされたら、普通は学校や勉強が嫌いになるぞ。

 まずは学ぶのが楽しくなるやり方が良いんじゃなかろうか?

 

 ともあれ、このことからわかるように、場所によるかもしれないが狂ってる環境は実はこの学校だけではないのである。実体験を加味すれば、あれらこそ最大級の社会悪なんじゃないかとすら思う。

 それでも人によっては部活動や学外活動があるから、そこで学ぶことの楽しさを見つけられるものの、無理矢理座学多めで『努力させる』システムはその時間を否応なく削る。

 愛里やアルベルト、須藤などの一芸持ちは、退学にならない程度の勉強だけさせて、好きな事をやらせた方が絶対に総合的には伸びる。穴を塞ぐのはツラく厳しくても、長所を伸ばすのが楽しいのは自明だ。

 特殊な事情がない場合、それが最適解だと僕は確信している。

 

……まぁでも、ぶっちゃけ『この部分』に関しては、大なり小なり何処の学校でもぶち当たる問題ではある。

 

 しかし、だ。これから挙げる問題点は違う。

 おそらく類似する学校はないレベルの危険性を孕んだモノだろう。

 それは君と君のクラスのリーダーが持ち込んできたイベントが成る直前の10月20日の話だ。

 君もその場にいたから、もしかしたら記憶に残ってるかもしれないな。

 さて、長々とした前置きをしてしまったが、そろそろ本題とオマケに入ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは体育祭とその後の連続したイベントが終わり、ようやく状況が少し落ち着いてきたある日だった。

 僕達は今、理由あって肌寒くなってきた学校の『屋上』に集まっている。面子は、愛里、早苗、四方、椎名、高円寺、清隆、栄一郎だ。

 その理由までの待ち時間で発せられた、部員でもないのに何故か最近よく訪れるようになった綾小路清隆のプライベートポイント(以下PP)に関する何気ない問い。

 

「そういえば外部との接触や松雄…栄一郎の編入の事情はわかったけど、なんで夢月はPPを円にする事に拘ったんだ? 何気にあれは疑問なんだが」

 

 この時の僕は、隠すことでもないと思って明快に答えた。

 メンバーが集まった理由の副産物による好機に、全員の視線が集中したためでもある。時間を潰しつつ、注意喚起するのにちょうどいい話題だろう。

 

「PPが明確な違法行為だからに決まってんじゃん」

「違法、なの? そ、そこまでかなぁ。普通とはいかなくても、便利だし違法まではいかないんじゃ?」

「何を言ってる。便利に見えるからタチが悪いんじゃないか」

「え?」

 

 とある事情でいまだに話すのが少し照れ臭い佐倉愛里は勿論、この面子のほとんどがPPで各種取引をするのを受け入れかけているのだ。おそらく、何もしなかったら1年も経たないうちに常識を塗り替えられていただろう。

 東風谷早苗と高円寺六助くらいだ。何があろうと曲げられそうにない奴は。

 

「少し考えたらヤバさはわかるだろ。学校独自の通貨を発行して生徒や教師なんかに売り買いさせてんだぞ。敷地外には普通に円があるってのに……」

「でもそれは特殊な学校だからって」

「特殊で見過ごせる域を超えてんだよ。クラスごとに額の変動がある独自通貨───ポイントを毎月生徒に配ってるんだ」

「それの何が……あっ!!」

「───って、そういうことか! なるほど。これはたしかに夢月が動く理由になる……!」

 

 流石の機転。僕達の中でも知識が幅広い椎名ひより、綾小路清隆はこれだけでピンときたようである。

 正直、近代史や政経を少しでもかじった奴なら、確実にここでこの学校をクロだと断定する。それほどのことだ。現に経済にも明るい高円寺は軽く納得する様子を見せている。

 尤も、高校生がそこへツッコミ入れるのは非常に難しい。だからこそ、クラス競争にのみ…あって成績や実力。あるいは出し抜きに騙し、裏をかく手法。こんな人によってはどうでもいいことに未成年の生徒を誘導して逸らそうとする学校は、到底信用できないわけだが。

 ついでだし、ピンときていないと思われる四方二三矢や愛里、早苗、松雄栄一郎にもこのヤバさを伝えておく。

 

「お察しの通り。

 わかってない奴もいるっぽいからこの際に少し詳しく説明すると、独自通貨…ポイントってのはマルチ商法に当たるとして、多くの国で禁止されてたのは知ってるか? これは勿論、日本でもだ。まぁ、アメリカ航空のマイルが認められる1990年頃までだが」

「マルチ商法? それってネズミ講とかのだっけ?」

 

 愛里が首を傾げて聞いてくる。

 マルチ商法というと愛里のようにネズミ講ばかりを連想すると思うが、かつては企業が発行する利用ポイントも独自通貨にあたるとして禁じられていた。当然、取引企業や従業員への給与支払いなどをポイントでやったり、消費者への返金をポイントでするなど、ましてやポイントを基軸通貨に換金などしていたら、今でも完全な通貨発行にあたるとして違法行為だ。

 それができるようになったら、組織にとっては無から富を生み出すシステムを独立して持つのと同義であるから当然だろう。

 

「それが有名だけど、企業とかで発行するポイントも独自通貨なんだよ。つまりこの学校の通貨であるPPも広義ではマルチ商法に相当する。なぜなら、本来の通貨発行権は国や政府が握ってるのが正常な金融というものだからだ」

「通貨発行権……」

 

 とはいえ、富を生み出すのは適切に管理できている間に限られる。無制限にポイントを発行しすぎると、ジンバブエのようにポイントが紙くずのようになって企業を破綻させてしまいかねない。今はそこまで濫用しない限りにおいては、マルチ商法と見なさないことになっているらしいが。

 まぁ、望ましい事ではないのは確実だ。

 

「クラスポイント…CPはともかく、外部接触禁止にこのPPだぞ。しかも各試験で報酬にまでなってたんだ」

「それはマズイことなのか?」

 

 聞いてきた四方のようにこういう分野に疎い奴らは、何が悪いのかはっきりわからないかもしれないが、うっかりここを『突いてしまわないように』強く注意喚起しておく。

 

「マズイなんてもんじゃない。おそらくブラックな試験やSシステム以上に、PPの存在を外に出さない為に外部と遮断してたとしか思えない。夏に理事長含む学校の幹部陣と話した時にも、無駄に天才だの才能だのと僕の意識を逸らそうとしてたから確信犯だよ」

 

 あれをあえてわかりにくく例えるなら、独断で大きく動いた上で仕事用のスマホを紛失。その責任を取るつもりでお偉いさんの只中に出向き、『紛失してしまった場合』の対処を尋ねたら、スマホを紛失しないようにしましょうね、って答えにならない答えが返ってきたようなものだ。馬鹿にしてんのか。

 でも一応、僕以外の意見も聞いておく。ちょうどあの時に話を聞いてた奴もいるし。

 

「あの場にいた高円寺の見解はどうだ?」

「承知の上だろうねぇ。chairman達は」

 

 チェアマン……理事長のことか。

 まぁそれはともかく、いかに国立で政府がバックにある学校とはいえ、生徒に給料のような形で毎月ポイントを支給。

 これがどれだけおかしくヤバい事か、高円寺がわかってないわけがない。当然のように肯定してくれた。

 その勢いに乗ってこの面子の半数には自明だろう危険性を説く。なんか不思議と気分も乗ってきてしまった。

 

「考えてみろ。さっき話したけど、僕達は試験の報酬や毎月支給されるポイントで遊んだり生活してるんだぞ。ポイントを給料みたいな形で支給されたり、円に換金なんかしていたら、現在でも通貨発行に当たるとして完全な違法行為なのにだ」

 

 ゆえに商業施設などでのバイトや1学期にやっていた商売とかで稼ぐのも、本来は違法になるので基本禁止のはず。だから大っぴらに始めた商売もすぐに規制されたのだ。

 また僕と愛里以外で『自発的に』バイトしてる奴を見たことないし、敷地内全域の店にも学校から生徒を雇わない決まりや通達があってもおかしくない。

 それなのに制度や申請法が存在してたのは、労働で稼ぐ奴が極端に少なく形骸化していたためと、学校がデジタル化する前の名残のような抜け道だろう。

 それにおそらく、僕達のバイト先のオーナーによる裏技も関係しているに違いない。初手であの常識を投げ捨ててる喫茶店に雇われたのは、僕と愛里にとって最大級の幸運だった。

 

「流石に限度を超えるほど濫用しなければマルチ商法と見なさない現代だけど、もしこれが可能な場合、学校は無限に金が湧くシステムを独自に持つことになる。

 バイト先で会計してたのと僕が知り得た限りではここは本当の意味で政府公認の学校だし、かなり厳密に管理はされてはいる。それでも学校の裁量次第で無限に儲けられるシステムなんか明らかに真っ黒だ」

「……5月に夢月へ一之瀬達が食い下がった時に、銀行設立はほぼ不可能と言ってたのはそれが理由か」

「当たり前だろ。僕含めて経済知識に不安要素しかないあの時点で、万が一にも設立できちゃったらエライことになってたぞ。自分で言っといてなんだけど」

「ふっ……」

「そんなことまでしてたんですか社長!?」

 

 考えてみれば、鬼龍院先輩が最初に接触してきたのはここらへんも一因かもしれない。先行投資と言っていたが、あの時期の…しかも初対面の僕に10万もポンと貸してくれたのは、先輩の性格からすると明らかに不自然だ。

 悪意はなかったと確信しているが、当初は探りの意味もあったと思う。

 

「ああ。面白そうだったのに、かな…神様が珍しく止めておけと忠告してたのは……」

「問題点を正しくわかってたからだろうな。流石に僕もヤバい提案だったと反省してるよ」

 

 神様の名前をうっかり出しかけつつ早苗が漏らした一言に、僕は口だけじゃなく反省の意を示す。

 あれが本当にヤバい案だったと気づいた時は慌てたものだ。早苗の神社の宣伝目的や金儲けもあったが、急いで商売に向けた動きと人材確保に走ったのは、銀行の話を完璧に吹き飛ばす必要性に気づいたのもあった。

 実行するつもりはなく、学校も支給手順に手間を掛けさせてポイントの濫発に制限をつけてはいたものの、どうにかあの方法で稼ごうとしてたら共倒れしててもおかしくなかっただろう。

 

 また性質的には仮想通貨もマルチ商法の同属性なので、そういう面でも先は明るくないかもしれない。あれは先見性や運があれば一時的にあぶく金にはできる可能性はあるが、どのみち真っ当な儲け方ではないからだ。

 子供時代の僕が『俺』の頃の情報や知識で儲けなかったのは、年齢よりもこれが最大の理由だ。実業ではなく虚業でしか儲けられないなら、下手に稼ぐのは先を見た場合の足枷にしかならない。

 

 なんせ仮想通貨を、英語でなんていうか知ってるか?

 Virtual moneyじゃなくCryptocurrency(暗号通貨)だ。日本での意味合いとしては、それこそ愛里が言ったネズミ講通貨。ビッ○コインを筆頭に儲けられるならやるべきだったんだろうが、こういった儲けは大抵は身にならないどころか身を滅ぼす。

 そういう知識があるだけに、僕はどうにも二の足を踏んでしまう。しかも勘にすぎないし何度も言うけど、どうも株も含めたアレ系は明るい未来がない気がしてならないんだよなぁ。

 

 

 

 僕がいつものように思考を脇道に逸らしていると、早苗が違う話題を持ち出してきた。

 

「……夢月さんって、理数系っぽいわりに経済や歴史なんかにも明るいですよね。実は文系だったりします?」

「あのなぁ、早苗。経済学も考古学も日本でこそ文系みたく見られてるが、ほとんどの国じゃ普通に理数系だぞ」

 

 海外の論文が読めたら早苗もそんな勘違いはしなかっただろうが、コイツの文系適性は堂々のE(最低評価付近)だ。英語も例外ではない。

 流れ弾になったのか早苗の代わりに、今度は驚いたような栄一郎が聞いてくる。

 

「えっ!? そうなんですか?」

「いや、データを収集・分析するのにも、それらを基に研究するのにも計算必須な分野じゃん。そもそもなんで政経や歴史に文系のイメージが付いたか僕にはわからん。ま、実践じゃなく学業や受験なんかの『見せかけ』において暗記ばっかりだからってのは想像できるけどな」

 

 それと、これはおそらく日本に限らず、どこの国・分野の学界でも主流仮説に疑問を持つ人が学者になれないのも要因の一つだろう。畑違いの分野の学者になって外で研究しない限り、主流仮説以外を研究する学者は追い出される。

 だから文系の学者が主流派閥を独占している国では、数字とかで分析しようとする理系学者は問答無用で追い出されるのだろう。

 

 また似た問題で、気象学者や地震学者などが昔の記録を調べるにあたって古語や古文書の解読法を学んでしまい、文系の古文献の学者が面目丸つぶれになってるという話もある。おかげで近年、昔の災害被害者数が見直されたり、桜の開花時期が1200年間記録されてるのが判明したり、600年分の雪の記録がわかったり……。

 まぁ、自分達の専門分野で間違いを指摘されたりするのは、学者としてのプライドを粉砕されるようなモノだからな。頭が固く権力欲やプライドの高い学者なら、追い出そうとするのもわからなくはない。

 

 実例は探せば他にも色々ある。

 どんなに日本から世界最古の石器や土器が見つかっても、1万年前と科学分析された文字の彫られた石碑があろうと、発掘された米の遺伝子の違い、日本の原風景である棚田や里山文化、たたら製鉄等々……。

 これらは日本固有でどこにも見られないという結果が出てきているのに、大陸由来ということにされてたりする、とかな。

 それに疑問を持ったり、異を唱えて学会から排斥される者が吐いて捨てるほどいるのは有名なところだろう。政経でも似たような事情だ。

 つまりこれらの原型がどこにあるのかと疑問を持つ者は、通常の道のりでは学者になれないということだ。この分野に限っては、国内の歴史観がいまだ自虐史観から抜けていない証拠ともいえるのかもしれない。

 それに文系は入り口は狭いがやり方さえ熟知していれば出世しやすく、理系は入り口は広いが出世が至難なのは、それなりの社会経験があれば明白だろう。

 

 ともかくだいぶ脱線したが、以上が僕が教育や暴力、横紙破りに裏切り・出し抜き推奨よりも深く感じるこの高度育成高等学校の『闇』である。

 改めて羅列してみると、闇が深く、なにより種類が多すぎではなかろうか。

 君はどう考える?

 ちなみに僕はナニかない限り、この件について考える事はもうやめた。なので、この時にぶっちゃけつつ丸投げたのである。

 君も含めた天才達、あとは任せた、と。

 

 

 

 そのはずだったのに、こいつらと話していて、ふと思うことが湧いてきた。

 そう。ここに集まっている現状についての疑問である。

 

「……なあ。ところで話は変わるけど、最近僕への無茶ぶり多くない?」

「たしかに。体育祭から連続してるよね……特に夢月君は」

 

 この日は体育祭から約10日後の週明け。

 体育祭、四方との対決、前哨戦っぽいイベント含む生徒会選挙、2学期中間テスト…とペーパーシャッフルの準備関係のアレコレ。選挙に至っては、本来は2年&3年+生徒会役員がメインで僕はほぼ関係ない行事なのにだ。

 これが僅か10日程度の期間に起きたことで、僕はそのほとんど全てに巻き込まれている、と。

 しかし、いくらなんでも体育祭からイベントを詰め込みすぎではなかろうか。そのぶんなのか、あからさまな低難度や1日で終わる5教科の中間テストだったけど、考えなしにもほどがある日程調整である。

 

 ちなみにペーパーシャッフルのペアや出題相手は、すでに決定されている。

 念のため補足しておくと、ペーパーシャッフルとは、期末テストの問題をクラスごとに出し合って点数を競う特別試験だそうだ。

 Aクラスになったうちが愛里達Dクラス、Dクラスが椎名のいるCクラス、Cクラスが抽選に負けて葛城達Bクラス、そしてBクラスも抽選に負けてうちにテスト問題を出題する結果。BクラスとCクラスは、うちと同じくDクラスと対戦希望だったらしい。

 全クラスから申し込まれたDクラス、人気だね。羨ましくない。

 

 また私事では、愛里と付き合う事になったのもある。僕には中身おっさんが混じってると話したはずなのに、全く気にした風もなく、前述した残高を見せた夜にそのまま僕の自室へ訪ねて来て───そういう関係になった。

 前夜の一件が想起された上、ポイント減額の負い目もあり、エロい目で愛里を見すぎないよう取り繕って帰すのは精神的に大変だった。でも流石に付き合うことになった直後に抱くのは美しくないので、二夜連続で死ぬ気で我慢した。

 

 ついでに言っとくと、愛里の誕生日プレゼントにするつもりだった200万は、対決後の宴会、そこでさせられた大盤振る舞いによって半分の約100万に減額された。なんせ週始め時点での僕の残高は324PPである。無い袖は振れない。

 でも、まだ振り込まれるはずの100万が残って助かった。振り込みは来月初めになるとはいえ、これだけ纏まった額があれば優しい愛里なら反古とは見なさないだろう。

 それでも支払いを済ませた宴会帰り、証明のため見せた僕の残高をなんとも言えない雰囲気で覗き込んだ愛里の表情が忘れられない。甲斐性ねぇな、って感じじゃなかっただけ幸いか。早苗や櫛田なら扱き下ろしてきた確信がある。

 

 それと自分から無差別に広めるような真似はしないが、仲間内には付き合う事を話しておこうとした時に愛里とひと悶着あった。なんとか説得できて、部員+αの集まったこの場で発表したのが今日である。

 ともあれ、ここから更に加えて昨日。友達である高円寺が巻き込まれたトラブルが発生←今ここ。

 この学校に来てから僕が巻き込まれるイベントは、やはり妙に多すぎる。

 

「夢月が毎回、なんとかしちゃうからじゃないか? トラブルの方から寄ってくるんだよ、きっと」

「やめてくれ四方……マジで言霊になりそうだからやめてくれ」

「今回もなんだかんだで回ってきた『ネタ』のハードルを超えてきましたからねぇ」

「左京君、悟りの境地に達するのです。楽になれますよ?」

「……持ち込んできた椎名が言う事じゃないだろ」

 

 勘弁して。

 今回に関しては、元々半分が気にしていない高円寺の問題だったのもあって僕も忘れようとしていたのだが、もう半分の要因に少し関係していた椎名が何を思ったのか、なにかできないかと僕に聞いてきたのだ。

 そして今の愛里の前で頼られたら、断れないに決まっている。

 

 なぜなら前述のとおり、新しくできた彼女(愛里)に格好付けたいのと……クリスマスとかには『形の残るプレゼント』が喜ばれると、椎名に助言された…借りが上乗せされたばかりなのだ。

 そのため、現状は密かに椎名とともに待ち人を待っている段階なのである。

 僕と四方と清隆・高円寺で、女子に贈るなら何処の菓子折りが最適かを議論していたら、何故か呆れた感じに教えてくれた椎名には感謝している。聞こえていたのか少し離れた場所で愛里と早苗が何度も頷いてたので、女子視点で的確な助言だったと察することができたのもありがたい。

 でもだからって、ピンポイントで僕に問題を持ち込まないで?

 椎名は平穏をこよなく愛する僕に近い性質だし、愛里以外で数少ない癒しな上、これが初回だから計画には乗るけども。

 

 まぁ、クリスマスとかのイベントなどで女子にあげるプレゼントに、どこぞの名産品やお菓子類の詰め合わせとかを吟味する話題よりは有意義なはずだ。

 椎名に指摘されるまで、僕はヒヨコのアレ、四方は京都銘菓の八つ橋、清隆は詰め合わせアソートパック、高円寺は珍しくとある駅弁を武器に議論に混ざっていた。勿論、高円寺以外はおそらく本気である。

 なお、唯一明確な彼女っぽい存在の七瀬さんがいる栄一郎は、何故口を開けたままで最後まで参加してくれなかった。

 その状況に終止符を打った椎名の助言に借りを感じるのは当然だろう。

 

 

 

 これはちょっとニッチなネタにツッコミすぎたので、空気ごと入れ換えようとプレゼント議論をした後のことだ。

 付き合う事を発表して女子組のターゲットを愛里に逸らしたことで、彼女をもみくちゃにし出した。なので、男子組は男子組で恋バナでもしようと、まず僕の恋愛における自説をぶちまけてみたのだ。

 以下が抜粋部分である。

 

 生物学において、恋愛の主導権は大抵の場合、雌側にある。

 そしてその雌に相手されない…しかし性欲の強い雄が暴走して道を外れたり、犯罪を犯したりする。エ○ゲなどの竿役はこのパターンが多い。

 ただ、雄───特に知能がある程度以上に高い雄は、恋愛という状態異常がコスト的に割に合わないのを理解している。そういう雄は、雌からアプローチされない限り自分からは滅多に動かない。中には鈍感なだけの雄もいるだろうが、こうした分野で最初に動くのは、どの動物でも基本的に雌だ。

 意外と、この本能や原理を理解してない人は男女ともに多い。

 

 別に批判するわけでもないし、少し古い例えかもしれないが、白馬の王様(自分だけを愛してくれる裕福な人からの熱烈なアプローチ)を期待して高望みしている女は、受け身でいる事がほとんどな気がする。

 一方で、浮気性や性欲の強い男はステータスや方法、性質に差はあれど、片っ端から女にアプローチする。好みと合致率が低くても、なんらかの可能性を少しでも感じたらコナをかけておく。

 そういう奴らとは対称に、恋愛や浮気などが割に合わないと悟ってる男は、当然のことながら受け身な女の眼中には入らない。

 つまり多く?の女が夢見る玉の輿である白馬の王様(になりえる可能性の高い男)は、色を好まない…必要なければ、あまりアプローチして来ないと気づかないのである。

 要は喪女の素質の高い女がハマるのは、軟派なヤ○チンになりがちなのだ(偏見)。

 僕が提起する問題点はここだ。

 

「これはあくまで生物学的見地に立った仮説だけど、恋愛という分野においてはなかなか説得力を感じないか?」

「Hmm……レディとのアバンチュールを楽しんでも一定以上の満足感がなかったのは、このあたりにも要因がありそうだねぇ。次の機会に応用して使ってみるとするか」

「そうだとするなら、英雄色を好むってのは、実はあまり正しくない表現なのかもな。対象を依存させるのも、優秀な子孫を広く残そうとする効率的な手法だったのかもしれない。

 これが───恋愛の本質…心か」

 

 それにしても、なに言ってんだコイツ。

 前から感じてたけど、何度目かの交流を経て改めて確信した。

 清隆は頂点を極めた一之瀬と競るレベルの奇人変人だ。

 恋愛については僕も疎いからともかく、清隆は根本的に情緒関係がほとんど発達していない。それでいて深い部分もあるので、理解していない部分に無理やり知識を当てはめて補完しようとしてるとみた。

 

「綾小路ボーイ。君は理解力や思考力を持つわりには、発想の面白さに欠けるねぇ。少しは遊び心を持った方がいいんじゃないか」

「まったくだ。そんな考えで楽しいのか清隆。お前は美学と楽しさをないがしろにしすぎだ」

 

 高円寺がわかってないねぇ、みたいな表情で言うのに完全同意。

 多分、軌道修正できる奴がいないまま一人で恋愛について考えさせたり実行させたら、本人の廃スペックも相まってとんでもなくタチが悪いジゴロが誕生するぞ。特定の女子にとっては南雲すら凌駕する可能性を持つ危険人物候補だ。

 経験ないし、なんとなくの勘だけど、僕は詳しいんだ。間違いない。

 

「そう、か……? しかし恋愛という状態異常において、子孫繁栄は重要なファクターだと思うが」

「状態異常って……。清隆、お前な」

 

 四方が妙な部分にひっかかってるが、そんな当たり前のことよりも話を変えるのが先決な気がしたので、無理矢理ねじ曲げてみる。

 

「そこじゃない。それにたしかに近代まではそうだと思うけど、現代では少し事情が違ってるような気がするぞ。男女『平等』なんて見せかけの価値観が持て囃されるし。僕としては昔ながら公平な男女『同格』が復活してくれると……」

「平等……これも歪みか」

 

 また感情のないラスボスみたいなことを言ってやがる。しかも自覚がない。薄いとかじゃなく…全く見えない。マジで芋づる式に、清隆が育った施設とやらの謎が膨れ上がったくらいだ。

 悪い事に、おそらく高円寺と栄一郎以外は経験も理解もない分野だ。僕には何もできない。あまりの奇妙さに栄一郎(と四方)も無言を貫いてるし、高円寺は薄く笑いながら乗ってるだけな雰囲気がある。義理も興味もないだろうから当然か。

 現状を整理し、これはもしや恋バナする人選を誤ったか? と、一瞬脳裏を過る。藪をつついて蛇を出してしまったかもしれない、と。

 ピンチになる未来が見える活路のある好機と、どうしようもない絶望的な未来。どちらなのか判断に迷うな。多くのピンチは、選択を誤らなければ好機や活路に繋げられる。だからこそ美談や英雄譚が生まれるといえよう。

 しかしタイムアップだ。僕がどうしようか迷った間隙を縫うように、満を持した四方が核心を突いた。

 

「……なぁ。これ、本当に恋バナなのか? さっきから人名すら出ないどころか、学説?のような話ばかりなんだが」

 

 でも、それを言ったらお仕舞いだろ四方。

 僕含めて、そもそも恋バナの定義すら理解してるか怪しい面子なのだ。まずは過去の事例などを絡めて、初級と思われる部分から理解と考察を深めていくのが妥当だろう。掘り出しかけた闇に突っ込みそうになってたかもだから助かったけども。

 

「Simple is Best。

 難しく考えることはないさ、テイルマン。そもそも夢月が会話の発端で現在周囲にいる者を考えれば、常識に囚われる愚かさは明白だろう?」

「佐倉と付き合う事になった、って話が生物学に変わるのも、常識に囚われなければってことか? なんでそうなるのかわからんが……」

 

 ともかく、いない奴らも何人かいるけど、これが現在の僕の主な友人関係である。

 ふっ。紛い物っぽいけど恋バナができる逸材すら複数存在するとは、僕のリアルも入学当初に比べて充実してきたものだ。

 いずれリア充な陽キャに転身することも可能かもしれない。しないけどな。

 

 

 

 そうして駄弁っていると、待ち人がようやく現れた。屋上扉の向こう側から何種類かの話し声や足音が聞こえてくる。

 女子の椎名が“発起人”だからこそ高円寺も待ってくれていたが、少し心苦しくなってきていたので助かった。そして『これ』に関係していない者達への根回しも完了済みだ。

 僕は内心安堵しながら、共犯者である四方と女子組の方にいる“主犯”の椎名に目配せして声をかける。

 

「四方、椎名。来たぞ」

「ああ、わかってる。清隆、ちょっとこっちに来てくれ」

「な、なんだ? おい二三矢?」

「左京君、これです」

「サンキュ。いち、に、さん、で行くぞ。準備はいいな?」

 

 椎名に問いかけると、頷いて行動に出る。

 僕と二人で、あらかじめ作成しておいた横断幕のような布の両端をそれぞれ握り、中身が見えないよう注意しつつ小物の準備。

 四方も所定の場所に清隆を移動させている。屋上扉の少し横、手筈通りだ。

 

「勿論です。ご迷惑をかけてすいません」

「気にすんな。どっちかというとアイツらがきっかけだ」

「二三矢? お前も関わってるのか?」

「いいから清隆はこっちだ。悪いようにはしないから安心しろ」

 

 それにしても「悪いようにはしない」という四方の言葉に、トラウマが軽く刺激される。経験上、この言葉を言われた後は、無茶振りか自分ではどうにもならない事が多発していたからである。四方にそんなつもりはないだろうが。

 ともかく、全ての準備が整ったと同時、屋上扉が勢いよく開かれ───僕達は一斉に祝辞を述べた。

 

「「「ハッピー・バースディ・トゥ・ユー! ディア、綾小路清隆アーンド龍園翔!!!」」」

 

 同様の言葉をプリントした横断幕を椎名と一緒に大きく広げ、僕と椎名と四方のお祝いの言葉が屋上を駆け巡る。

 あ、僕との身長差で幕が傾いてたのを見かねて、栄一郎が椎名と代わってくれた。何気に愛里と同等のどんくささも持ち合わせてる椎名なので助かる。

 憂いがなくなり、次いで小物であるクラッカーの紐を引っ張ると、パァンパァンとけたたましい音が続けざまに鳴り響く。

 

「「……………………おい夢つ(左きょ)―――っ!」」

 

 本日の主賓である龍園と清隆も、無言の後に反応を合わせて雰囲気に華を添える。僕の名前を呼びかけて、横にいる互いの顔を見合う様はまるで兄弟のようだ。

 再び二人同時に無言になるところをみると、意外と相性や仲は良かったのかもしれない。考えも近い部分があるし。

 

「綺麗にオギャリましたね」

「ハモっただよ。早苗さん、なんで幼児退行させたの……?」

「夢月さんを見てたら、つい」

「ああ、それならしかたないね」

「……この人達……佐倉さんまで侵食されてわけのわからないことを」

 

 何気に龍園が来るまで椎名と話してた愛里と早苗のボケに、栄一郎というツッコミが参入する。なかなか珍しい組み合わせだ。

 

「Happy Birthday Boss」

「おおっ、椎名さん! それに左京も! お前らっ、龍園さんの誕生日を祝うつもりで呼んだのかよ!? いいとこあんじゃねぇか!」

「……はぁーー。頭痛い……意気込んできてみれば、なにこれ? これだけ人数いてツッコミ不在?」

「しかもドラゴンケーキまで用意あんのか……! やるなぁ、お前ら……って、それより!

───龍園さんっ、おめでとうございます!!」

 

 一方、龍園と一緒についてきたアルベルトや龍が描かれたケーキの箱を見て石崎も、いち早く状況に適応して喜んでいる様子。素直に龍園の誕生日を祝っている。

 伊吹さんのみ、大きなため息を吐いて混乱中のようだが……。

 

「何がどうなったら、あんたらが龍園の誕生パーティーやろうなんてことになるの……?」

 

 椎名に伊吹さんの視線は向いてるが、椎名が口に出すと角が立つ部分はなるべく僕が言う。

 

「いや、誕生日祝いもあるけど、昨日龍園達が高円寺に黒幕じゃね? って絡んだらしいじゃないか」

「それは本人同士で決着したようですが、人探しを長引かせて被害が拡大すると大変なので、私から左京君に相談してみました」

「……わけわかんないんだけど」

「気持ちはよくわかるぞ伊吹さん。コイツら、ちょうど今日10月20日が清隆と龍園の誕生日だからってことで、な。

……何故か合同で誕生日パーティーもすることになってたんだ。ホント、わけわからんと思うが」

 

 なんか事態から置き去りになってる奴らはとりあえず置いたままにしておいて、僕、椎名、四方の順に龍園達にも聞こえるように事情を説明していった。

 主賓達は嬉しさのあまりかボーッとそれを聞いてるが、それが終わればいよいよ実現・椎名と四方、発案・僕のプレゼント贈呈である。

 僕は龍園と清隆をしっかり見据え、端的にぶちまけた。

 

「というわけで、龍園にはDクラスの真の黒幕・綾小路清隆を紹介しよう! 僕からの『要らないだろう』プレゼントだ!」

「ちょっ……え、は? ……………はぁ???」

「玉座を模したお誕生日席……は作ってもこの時期寒々しいので、掘り炬燵のある店に予約を取っている。龍園に対しては間違いなく清隆が黒幕だし、そこで後ほどじっくり“交渉”してくれ」

「…………おい。ふざけてんのか、てめぇ。だいたい紹介される黒幕ってなんだ」

 

 こっわ。無表情にめっちゃ低い声でボソッと言うんじゃない。

 一方、龍園へのプレゼントであり、本日の主賓の一人でもある清隆は、一身にこの場の注目を浴びて戸惑っているようだ。

 反応的に……サプライズ成功、か? ちなみに後に発生するかもしれない龍園VS清隆の一戦は、いわゆるコラテラル・ダメージである。

 

 龍園の言動から導き出される目的は、おそらくCクラスの邪魔者、もしくは他クラスリーダーを『倒す』こと。潰すことではない。

 ただ、それには対象をはっきりさせる必要がある。一之瀬と葛城というリーダーが存在するA・Bクラスにその必要はないものの、これまでDクラスには表向きのリーダーが誰か曖昧だった。

 しかし僕と四方の対決を見学しに来た時、邪魔者である可能性の高い『黒幕っぽいの』が現れた。鍵になっていた場合の多かった櫛田や掘北さん、ついでに坂柳さんが注目していた点から、元々龍園が灰色に見ていた奴が更に黒くなったのだと思われる。

 

 そう。自分から参加してきた高円寺と―――特に清隆だ。

 

 あの時の清隆を見る人が見れば、僕のケアをしていた司令塔にも見えなくない。キャッチャーは結構な割合でチームの司令塔なのだから。

 勿論、他にも候補はいた。四方と早苗、高円寺である。だがこの面子で、Dクラスなのは高円寺だけ。こちらの可能性を先に潰すために動いたのが、高円寺に絡んだ意図の中身である。

 そして、ほぼ関係ないと確信できていただろう高円寺にアレだ。僕や椎名は、まかり間違って大穴に見えるかもしれない愛里に手を出す可能性を危惧していた。

 

 万が一そうなったら愛里がツラい状況になり、なにより早苗のスマブラ大乱闘編が開幕してしまう。もしくは、某ロックブーケのように「ハエのようにウルサイ奴ね。消えなさい!」とか言い出しかねない。色んな意味でそんなの真っ平御免である。

 だからまずは龍園に他の黒幕候補を巻き込まないように、裏から最もCクラスへダメージを与えたと思われる清隆を知らしめたのだ。

 椎名と話し合い、四方にも意見を聞いて、ついでに贈る龍園のプレゼントはこれに決めた。

 でも楽しみを潰しちゃったみたいだし、一応僕から謝罪もしておくか。

 

「これで他に殴り込む必要性はなくなっただろう。高円寺に絡むみたいな無駄足はナンセンスだからな。でも探す楽しみを失くしちゃったのはマジでごめん!」

「確信は持ってるようだが、ひよりも、か。なんなんだ、コイツらは……。高円寺とは別のベクトルで狂ってやがる」

 

 ほんのちょっとだけ清隆には罰ゲーム要素はあるものの、半分以上清隆自身の蒔いた種だし、天才の上に強い子だから大丈夫だろう。

 交渉の基本は、相手を知ること。そして封じることである。龍園も清隆も『椎名』の手腕を思い知ったはずだ。これからは舐めることなどできないだろう。

 でも怨霊みたいな雰囲気で一瞬僕を睨んできたのにチビるかと思ったので、話を変えよう。当然失敬なボヤキを漏らす龍園もスルーして次だ。といっても次が最後の予定だが。

 

「よし、次は椎名。君に決めた! 行けぃ!」

「はい、任せてください!

 読書家だと聞いている綾小路君には、私からこれ―――『ようキャ』をプレゼントします! 左京君が執筆した作品ですし、私からというのはなんなのですが、私達が入学して体育祭までが書かれた一冊ですよ? 非常に興味深い内容であることは私が保証します!」

 

 椎名のおかげで一気に平和な雰囲気になった。やはり合同にしたのは良案だった。

 でもこれは少し予想外。

 椎名にしては珍しいハイテンションで清隆へ贈ったのは、少し前に仲間への事情説明のために作った一冊の本だ。

 昨日これを僕にねだってきたのはプレゼントにする目的だったか、と今更思い至る。よく見たらラッピングまでしてあるじゃないか。清隆も喜んで……今は嬉しさのあまり? 呆然としたまま受け取ってるな。落ち着いたら改めて喜ぶのかもしれない。

 

「……夢月」

「……ひより」

 

 おや? でも目的達成や趣向に合わせたプレゼントを贈ったのだからそれなりには喜ぶと想定していたのに、何故か僕達の名前を呼ぶ主賓二人の目が濁っている。何か問題があったのだろうか?

 どこかの店だと龍園が来ない可能性が高いと椎名に言われ、殺風景な屋上を会場にしたのはやはり間違いだったか?

 でも清隆と龍園が喧嘩を売り買いするかもしれないから、監視カメラの電源ごとストップする権利も購入して場を整えておくには、ここがベターだったのだが。勿論、そう手配してあることは龍園を呼ぶ時に伝達済みだ。

 

「うふっ。夢月さん、ひよりさん。まずは主賓達を席に案内したらどうですか? せっかくケーキも焼いて準備してきたみたいですし……ふふ、あはははっ」

「ふっ……そうだねぇ。せっかくのレディのおもてなしだ。ジェントルとしては快く受け止めてあげようじゃないか」

「「黒幕……やっぱり綾小路君は……」」

 

 高円寺はともかく、早苗が笑って提案してくると僕や椎名が空気読めてないことをしてるんじゃ? みたいな疑念が湧き出してくる。気のせいだろうけども。

 でもまぁ、変な雰囲気になってしまっているが、早苗や高円寺の言う通りさっさとパーティーを開催するとしようか。みんな配膳は手伝ってくれるみたいだし。愛里と栄一郎には少々刺激が強かったのか、何事か呟きながら清隆を凝視してるけども。

 料理は冷めても美味いモノや、僕と椎名と四方で昼に手分けして作ったモノを保温バックに入れてあるが、早めに食う方が良いおもてなしになってくれるだろう。

 神様へのお供え物だけ取り分けて早苗に渡し、細かいことはうっちゃって清隆を四方が、龍園達を椎名が案内したのを確認。

 目配せされたので、僕が代表して二人の誕生日パーティー開催を宣言した。

 

「───龍園に清隆。改めて誕生日おめでとう!! 今日は好きに飲み食いしていってくれ!」

 

 どういった事情が要因になったのか主賓二人の戦意っぽいのが霧散していて、荒事に発展しなかったのは幸運である。

 

 

 

 

 

……

 

…………

 

……………………

 

 とまぁ、僕達の雰囲気はだいたい伝わっただろうか?

 こんな感じに何事も起こらない普通の高校生による日常物語である。

 もっと語りたいところだが、追加プロローグはこれくらいにしておこう。

 なぜなら長くなりすぎたので、そろそろ締める時間だからだ。

 次のページから本格的に物語が始まるしな。

 

 さて。では、序文の最後に。

 この『ようキャ』という作品、少しでも“君”に楽しんでもらえると嬉しい……なんちゃって。

 

 とある部活動の部長&某社代表取り乱し役、左京夢月。

 





 本文がこれまで最長というね。
 最後なんで許してください。
 今度こそ本当に最後…なはず。

 本編で左京夢月はプライベートポイントを何故ああしたのか。彼女はどこまで情報を開示されていたのか。読み返したらそのあたりが投げっぱなしになってたのと外部接触禁止の云々、ついでにその後どうなったかを少し書きたくなったので、ここに挿入しました。
 読めばわかるとおり、よりによってイブに更新する内容(恋バナ?含め)でもないですが、話数順に並べ替えたら最新話が中途半端な位置にあるのが気になってきまして。
 元々、オマケは本編に入れられなかったエピソードの集合体ですが、私が好きな要素を盛り込みたくてこういう形になってます。



 注意。
 特に初見じゃない方へ。初見さんへもですが。
 完結後に追加した『31、神社』や『48、現人神』、一時的に2代目プロローグだった『104、始まり』など、変則的だと思われるこれまでの更新。それに度々やってた長々とした後書き。特に最後まで長く、色々わかりにくくてすいません。
 それでも、読んでくれてありがとう。
 これは明言しておきたかった。

 では、よいお年を。
 あっ、あとメリークリスマス!

 追記。
 あけましておめでとうございます。
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