長すぎたので分けたオマケ後半を投稿し忘れてました。前後編で合わせて削る前は4万字超えしてたのもあって確認を躊躇ってしまい、気づくのに時間がかかりました。そして1ヶ月くらい中途半端なとこで切ってたことも……その、すいません。
で、せっかく特大でガバったので、読みやすく前中後編の3話にすることにしました。でも、次は前書き・後書きしないつもりなので、中編の位置付けであるここで挨拶失礼します。
最後まで時々抜けていた更新の中で読んでくれた方、本当にありがとうございました。
屋上より場所を変えて、掘り炬燵のあるとある飲食店に僕達は集まっていた。
龍園と清隆の誕生日会である。
僕、左京夢月。そしていつもの天文部(四方、愛里、早苗、高円寺)一同に椎名。清隆と栄一郎を含む龍園達Cクラスの武闘派?4人で2グループ。“他”を合わせて、それぞれ数人ずつ4つの掘り炬燵を囲っている。
ちなみに僕がほぼ文無しなのもあり、僕達と龍園達の支払いは全て言い出しっぺの椎名持ちである。干支試験で全員稼げる結果になっててホント良かった。気兼ねなく頼ることができる。
「……おい綾小路」
「……なんだ龍園」
「これ龍園さんのぶんです!
アルベルト! ジュースも注いでやってくれ! あ、ついでに綾小路のもな?」
「OK」
「…………石崎の馬鹿はともかく、話の前にアイツらをなんとかしろ。コントやってんじゃねぇんだぞ。なんだ黒幕を紹介って。紹介したらあとは放置とかふざけてんのか。挙げ句に誕生パーティーだと? 何がしたいんだ、バカヤロウ……!」
天井から下げてもらった『誕生日おめでとう』の垂れ幕から目を逸らしながら龍園が言う。
「オレに言うな。てか、オレには話なんかないんだがな」
椎名によって龍園の隣に座らされた清隆も、同じように目を逸らしながら返す。
「俺にはあるん…あったんだよ。こんな状態じゃなければな!」
「……まず話し合いしろ、って本気だったんだなアイツら」
「話し合い以外できない状況に無理矢理持ち込みやがってクソが」
「それならここに来なければよかったじゃないか。紹介された黒幕としても…改めて考えると、黒幕ってなんだ?」
「俺が知るかよクソッタレ。ひよりに聞け」
本日の主賓二人はともかく、アルベルトと石崎はケーキを切り分けたり、ジュースを注いだりしながら楽しそうだ。龍園が確信を持ってるのを察した上で、無駄に惚ける清隆の不審者ムーブも健在である。
まぁ、伊吹さんだけ背景に宇宙が見えるような茫然具合だが、女子であるからにはなんらかの特殊な事情があるのだろう。女子とは大変な生物なのである(早苗談)。
手も口も出せないし、話が着くまでそれ以外のイカれたメンバーを紹介しておこう。
まずは僕達の炬燵から見て背面側にいる───僕達を探していたらしい一之瀬と神崎、網倉達B…いや現Aクラスの首脳陣(部活組を除く)も合流していた。
「あぁ~、また左京君は。どうすればいいの、この人達……」
「一之瀬、悟りだ。悟りを開くことで道も開かれるに違いない」
「ちょっと神崎君! 変なことを吹き込まないで!? そうでなくても、最近誰かさんのせいで帆波がポンコツになってきてるんだからね!」
どうしてか龍園と清隆の誕生パーティーと聞いてから、おかしな会話を始めているが。
「ポ、ポンコツ……。麻子まで私の扱いがおかしくなって」
「ああっ! 違うの! す、隙がある方が帆波は可愛い、よ?」
「言い換えただけで暗にポンコツを肯定してるんだがそれは」
「かっ、神崎君は少し黙って!!?」
しかし関係ないが、一之瀬が部分的にポンコツなのは元からだと思う。
褒め殺してやれ。さすればチョロ之瀬への道は開かれん。
「あ、あはは。なんかデジャブを感じる面子だねっ」
「桔梗さん。そろそろ無理があるので、せめてこの場では猫を剥ぎませんか? 率直に言って気持ち悪いです」
「わたしも常々思ってたけど、率直に言っちゃダメだから! 早苗さんも神社で外向きな顔してる時に夢月君に煽られるの嫌でしょ!? その時なんか後から追いかけてたほどだったし、櫛田さんの気持ちもわかるでしょ!?」
「そうですよ早苗さん。女の子は大なり小なり別の顔を持つものです。極端に変わっているからこそ無理させるのは良くないですよ」
「……早苗はともかく、あんたらも言うわね……。特に佐倉さんはちょっと意外だったわ……はぁ」
次に同じく早苗が呼んだと思われる櫛田も、隣側を陣取る龍園達に混じって女性陣同士、和気あいあいとした雰囲気を楽しんでいるようだ。仲良きことで大変結構。
邪悪な二人に清浄な二人。打ち消し合ってニュートラルになってくれると助かる。光と闇が合わさっても現実には最強とは限らないのだ。
「この学校が私を高ぶらせてくれるなら話は別だが、どうやらそれは期待できそうにない。であれば、認めあった友と高め合う。そして己の美を追求し続ける。それだけさ」
「貴方はこの学校の制度には興味がないと?」
最後に斜め後方を陣取るのは、先回りするかのように来店した時に最初からいたA…現Bクラスの葛城達だ。何故か主に坂柳さんが、僕の隣に座る高円寺に絡んできて逆におちょくられている。
「君にもドラゴンボーイ君にも、最初からそう伝えているつもりだがね。君達どころか学校全体として見ても退屈すぎるのだよ」
「……だから左京君、ですか。彼に壁が超えられるかは甚だ疑問ですが」
「ふむ。父娘揃って偏ったモノを妄信しているようだねぇ。これだけ出揃っていまだにその程度の認識とは。やはり君はリトルガールと言うに相応しい」
「聞き捨てなりませんね高円寺君。私どころかお父様が何を見落としていると?」
「落ち着け坂柳! 左京と話しているのを聞く限り、高円寺はこう見えて意味のないことをあまり言わない奴だ!」
「そうだぜ姫様。それにこの変人に喧嘩を売るのはやめた方がいい。なんでその名前が出たかは知らないが、それこそ左京に投げるのが」
「変人、という理解に苦しむ表現は見逃すにしろ、君も的外れだねぇ。常識に囚われない考え方でも教授してほしいのかね? 男色の気はないから謹んでお断りするが」
正直、固定観念や学校のルールに無条件に従う奴は、いくら能力が高かろうと高円寺の興味を引くのは難しい。言っている通り、本人からすれば退屈でしかないからだ。
……どうも僕の名前も出されてるみたいだし、ちょっとくらい助け船を出してもいいか。どっちの助け舟になるかわからんけど。
「高円寺が言ってるのって、デフォルトの設定じゃね? 行動経済学の」
夏に将棋を一局指した時から思ってたが、坂柳さんは清隆と同等に常識がおかしい気がする。というか情緒が育っていない? 高円寺もわざとなのか、異常なくらい過程をぶっ飛ばして(煽り言葉のような)認識に拍車をかけてるものの、単純にアドバイスとして見れば、彼女の思考・知識レベルから考えて答えは導き出せるはずなんだが……多分。
だから口を挟むのもなんだが、このままだと高円寺が誤解されそうなのがなんか嫌でついぶっ込んでしまった。
「デフォルト? なんだそれ」
「っ……!」
「ふっふっふ。やはりわかってるねぇ。そうだとも。あのリスクを見逃す者に、この私と高め合う資格などあろうはずもない」
「だよな? 他もあるけど、無人島の最初では一目瞭然だったもんな」
「あの場や月見ではわざと抜いたんだろう? 当然わかっていると誤解して」
「うっ……。しかたないだろ。高円寺も含めて、僕の周りってだいたい理解してる奴しかいなかったんだから」
しかも普通はしない危ない発想でもあったからなぁ。不特定多数にバラ撒くことで、その後の試験への影響を考えると無人島では下手に言えなかった。
「ちょっと待て! お前らは何を言っている!?」
「無人島だと!? どうしてそれが今になって関係してくるんだ!?」
「……私は旅行自体に参加していないので推測ですが、情報端末、ではないですか?」
「イエスだよ。少しは頭が回るようだね」
坂柳さんは参加してなかったらしいし、気づくのが遅れてもしかたないか。
てか、坂柳さん相手にそんな上から目線で振り回せる高円寺。
……坂柳さんは基本高円寺に任せて、僕は適当な解説してお茶を濁しとくか。
「は? 端末?」
「たしか上陸前に預けた、が……?」
「まずそれこそが真っ黒じゃん。特別試験やらポイントやらがどうとか言って話をねじ曲げてたけど」
「! 体調不良の話か!」
「加えてそもそも外部接触禁止だな。もしもの時にも部外者に助けを呼べない状態って本当に危ないんだ。まして学校所有の無人島。停学した事情がなかったら、僕だって親しい奴ら全員を巻き込んで即リタイアしてたさ」
これがこの学校で二番目に確信した『穴』である。
それに僕が話した奴らだけで限定しても、このリスクに気づいていたのは愛里を除く天文部の面子だけだ。
しかも端末があるとはいえ、学校内ですら外部接触できないのが常態化していたのがなによりヤバい。事情ありではあるが、船でそれとなく話を振った清隆でさえ先鋭化しかけていた。
「だからむしろ高円寺と…Cクラスの大多数の対応が唯一常識的だったんだよ、島では。洗脳ってのは、されないとしても危険なものだからな」
「あの時も左京は洗脳と言っていたな。それほどの危険性があったのか……」
「孤立した人間は簡単に過激化させられるからねぇ」
「どこの工作員やテロリストの養成所だよって感じだよなぁ、あれ」
見た感じ葛城は呑み込めてきたようだけど、橋本はまだのようなのでもう少し詳しく話してみるか。
「……どういうことだ?」
「んー。例えば、端末だけ預けろって言われてたら、多分何人かは対策とか抜け道とかを考えたと思うんだよ。学校のやり方に対応するために」
「龍園や…左京なら考えそうだな」
「でも上陸前、端末どころか電化製品やカメラ、挙げ句に遊び道具にスケッチブックまで預けさせられただろ? 半強制でしかたないとはいえ、生徒達自らが連絡手段を喪失したんだ。もしも深刻な体調不良や急性の病、腕に付けられた機械の故障なんかがあったらマジでヤバかったかもしれないのに。しかも直後に教師による炎天下の下でのマウント取りだ。あそこまでされたら事前準備も意味をなさなくなる」
僕の経験上、芯からブラック企業ならここで各種ハラスメントやDVに繋げて、洗脳やマインドコントロールに利用してきたりする。やべーと思った部分はまさにここだ。
尤も、流石の学校もそこまで実戦形式ではなかった。仕上げ部分以外では教師がほぼ不介入だったからだ。
おそらく全体イベントの一つすらなかった理由も、クラス単位の高校生グループ4つを制御しきれなかったからだろう。
ゆえに放置・セルフ方式で、下地を整えるつもりだったと僕は推測している。無人島の直後、裏切り前提の干支試験を組んでいたので間違いない。
「ともあれ一週間かけて生徒の体力と精神を削って、最後に褒め称えるだけで仲間意識と敵対心の両方を強化でき、生徒の常識を破壊or作り変えるって寸法だよ。
んで、これがデフォルトの設定を応用したリスクだ」
つまり、そういう決まりだと言われると従ってしまう生徒の心理を突いた手法だ。
ただ、普通の人は素直に従いたくない項目があると、不信感や不快感を持ってしまう。そこで目を逸らすために特別性を強調したり、本来の目的とは別の目的を混ぜて全く違う建前を出したのだろう。
こういう風に回りくどくすることで効果アップさせる手法が、経済用語で『デフォルトの設定』である。
という風に説明したわけだが……。
「そんな、そんなっ……あれも、これも! 繋がってしまう……! あの公平なお父様が運営…………ブラック企業で……」
「ちょ、ちょっと坂柳! あんた、大丈夫なの!?」
頭が回りすぎる弊害なのか、高円寺のせいか、なんか坂柳さんが謎に錯乱しだした。気づかない方が良い部分に気づかせてしまったのかもしれない。これだから天才は大変だ。
てか、あれ? さっきから不思議だったけど、反応的に坂柳さんも『運営側』じゃない? ズブズブとは行かずとも多少は関わってると思ってたのに、ショック受けてるのは演技ではなさそう。ということは単純に性悪すぎる性格に目をつぶれば、ただ理事長の娘なだけの頭が良い天才?
……清隆案件だな。龍園の件が終わったら、こっちに急行してもらおう。
「おいっ夢月!! 今なにを考えた!? やらないからな!?」
チッ、龍園と化かし合いしてるくせに雰囲気から察知されたか。
君のような活きのいい牡蠣はフライだよ。
まあいい。気づかなかったふりをしよう。なぜなら、全ては坂柳さんの激重感情の行き先次第だからだ。
尻拭いは頼んだぞ清隆。と、勝手に内心で後の事を任せつつも、僕は僕でできる謝罪とお詫びをしておく。
「すまん。僕は坂柳さんを誤解していたようだ。お詫びに子供に大人気な棒つきキャンディーをあげよう。甘くて美味しいぞ?」
鞄から目当てのモノを引っ張り出し、取り乱している坂柳さんの近くまで行って、たまたま持っていたベストチョイスなお菓子を差し出す。ア○レちゃんで時々見る子供がなめてるアレで、アメンボの名前の由来となった菓子だ。
話途中で接近したせいか、ポカンと僕を見上げている坂柳さんに目線を合わせてペロペロキャンディを手に握らせる。
「はい、イイコイイコ。サンタさんの時期までこれで我慢してな?」
無駄にセクハラ疑惑をかぶる気はサラサラないので、できるだけ慈しむような顔を意識してお年玉をあげる親戚のおじちゃん対応で、6歳の従姉妹への経験を生かしてみた。
天文部で僕を除いて最も常識人寄りの高円寺が幼女認定してたし、それに倣ったのだ。前から妖怪呼ばわりは失礼かと思ってたし、彼女の身体にも精神にも見合った幼女扱いが妥当だろう。有能な常識人を自認する僕は、当然子供への気遣いもできるのである。
関係ないが、保護者っぽい神室さんも横にいたので、手に握らせたキャンディーがなおさら子供っぽさを助長させていた。
「「「「「……は?」」」」」
「「ぶっ───!」」
すると何故か唐突に異次元に飛ばされたような錯覚が訪れた。さっきまでは賑やかだったそれぞれの炬燵に沈黙の帳が降りる。そして早苗と…特に高円寺が珍しく、本当に珍しく何かを堪えるように俯く。
僕が半ば奇行でもしたようじゃないか。過剰反応はやめてくれ。
しかし、きちんと謝罪すべきか迷ったが、子供を宥める対応としては何か口に突っ込んどくのがベターだろう。僕の対処は間違っていないはずだ。
「あ、食べた後はちゃんと歯を磨くんだぞ? 僕との約束だ。
それと子供はよく寝て、よく遊び、よく学ぶ。亀仙流は幼児教育にもピッタリなんだ。坂柳さんも良い子に育つといいな」
おっと、忘れていた。
兄貴に昔言われた注意事項も追加である。これがないと保護者から怒られることがあるからな。ちなみに「よく動き」は坂柳さんの身体的に難しそうだから抜いておいた。
高円寺の隣に座り直し、食事を再開すると、しん…とした静寂に僕の食事の音と、数名が肩を震わせる奇妙な雰囲気が現出した。理由はともあれ、自らの言動を起点として静謐なる静寂に至ると、アウェーにいるかのような居心地悪さと気まずさを感じるものだ。
なので、僕は天ぷら蕎麦ののど越しと風味に全集中しつつ、友達以外の対人モードをそっとOFFにするのだった。
数瞬の後、坂柳さんが激怒した。
それはもう、さながら永久凍土の氷に閉じ込められたかのような錯覚を起こす冷たい怒りで。キャンディーを投げつけて。
しかし、僕にはナニにキレたかわからぬ。僕はただの一般生徒である。以前に“ちょっとだけ”普通じゃない事はしたが、僕視点で大それたことを成し遂げたことはない。坂柳さんからのベクトルもそんな凡人より、これまで天才で因縁があるっぽい清隆へほとんど向けられていた。
なのに現在。
「坂やなむんっ…柳、くっ…だ、大丈夫ようっふ! 前のバッハ、バブバブよりは成長してるわよんっ!! ぐ…くっ、ブフォッ……! げふっげふっ、は、ハァハァ…ゼェ。くっ、流石にやるわねっ……!」
「ひ、姫様……?」
「坂柳……そのなんと言えばいいか…さ、左京も悪気はない……可能性。そ、そう! 友人として俺は先程のげ、言動に悪意がないとだ、断言しよう。だから、な? お前が大人に……」
「───葛城君」
「お、おぅ」
「断言するのですね、貴方は?」
「……」
リアルで輝く息を放つ坂柳さんは、葛城達相手に無双している。
しかしどうでもいいが、神室さんは何と戦ってるんだ? と、笑い上戸の女騎士風味な彼女を観察していると、そこへ疲れた感じで賢者の石を使う聖女が現れた。
「坂柳さん───ようこそ左京君被害者同盟の会合へ。
にゃはは。今日は龍園君といい、加入が相次ぐなぁ~。あっ、加入のお祝いに私から一つアドバイス。左京君と付き合うには諦めが肝心だよ? 私はよく知ってるんだ。そう、本当によく……ね?」
「ほっ、帆波ぃいいいい!! よりによってこんな場面でポンコツにならないで! なにその遠い目! 初めて見たよ!? いつかみたいに錯乱してるの!?」
「…………一之瀬さん、貴女は違うと思っていました」
神室さんや葛城、お人好しなわりに度胸のある一之瀬(はちょっと違うか?)と網倉も駆けつけて必死の消火活動をしているものの、効果は薄いようだ。何人かの笑い声が追加で燃料を注ぐせいでもあるのだろう。
問題は大人しく食事をしているだけだというのに、親戚のおじちゃん的な対応をした僕へ刺すような視線を感じる。これはいったいどうしたことか。
しかも坂柳さんの矛先が清隆ではなく、不思議と僕に向いているような気がして振り向けなくなった。
「ふっ。ここに至ったならば僕も考えなくてはなるまい」
「ほう。勝利の方程式かね?」
「いや? 負けた時の言い訳だが?」
「思考停止してるじゃないですか……」
「それでも煽りたいという本能には抗えないのさ」
「……少しは抗って? 左京君のせいで帆波ちゃんが壊れてきてる……。普段あんなに頼りがいがあってカッコよかったのに今は……」
ところで、僕って高円寺の意図を解釈違いとかしてないよね? この『布石』って好意だよな?
普段のコイツら、読み違えて大惨事の可能性が常に脳裏をよぎってくるんだよなぁ。
幸い、単純な暴力や腕力において坂柳さんの方はチワワにも負けそうなので、心に余裕を持って笑いを抑えた高円寺や早苗、櫛田と何食わぬ顔で会話できているが。四方や櫛田は頬を引きつらせているし、愛里と椎名は微妙に咎めるような目線だ。何か女子的なNGワードを僕が言ってしまった可能性がある。
ただこの間、謀って対応策を練り上げようとして、ふと思った。
───別に坂柳さんの怒りを発散させれば、勝ち負けとかどうでもよくね? と。
高円寺のおかげで終着点が薄っすら見えても怖いから振り向きたくないが、人知れずこれまでの坂柳さんの思考やパターンから、彼女の怒り発散法を算出する僕だった。
キリスト教やイスラム教、仏教の教えは『人間が自然を支配する』こと。神道の教えは『自然と共存する』こと。個人的に、この違いが大きいと思う。
そのおかげで海外の人から見ると、日本の大都市には世界最先端の技術と、古代からの文化と、自然が違和感なく共存しているらしい。
今でこそ西洋でも文化遺産を大切にする風潮が出てきたが、それまでは時代遅れなものは取り壊して新しくするのが当然。まして自然となると、古いモノはかなり少なくなっている。
そして環境保護活動は西洋の方が進んでいても、緑化や土地の再生技術に関しては日本の足元にも及ばないとも言う。日本人の多くは「日本は環境保護が弱い」という上辺情報だけ聞いて、日本文化の特異性に気づかない人は意外と多い。
こうしたことは、以前にどこかで出した食料自給率も似た例だろう。
なぜなら、西洋人や北中国人は『人間が自然を支配する』思想なので、土地開発は自然を破壊するため、都市を放棄する場合そこはほぼ砂漠になる。環境保護も人が最優先に置かれるためか緑化の成功例は本当に皆無に近いほど少ない。
まぁそもそも緑化を言い立てつつ、固有種や稀少な植物とかを観光やら景観やらの理由で駆除・伐採して、環境保護なんて片腹痛いわけだが。
一方、日本やラピュータ(ジ○リのではない)、マヤ、南中国などは元々『人は自然に生かされている(共存する)』という思想である。まず土地を豊かにする事から始めるからか、緑も豊かになり、放棄された都市や集落は広大な森になったりもする。
こちらもアフリカなどで実績を上げてたりするので、知ってる者はいるだろう。
他に、例えば歴史上の事実としても、北の文明が実権を握る時代では黄土高原が荒れて黄砂が酷くなり、南の文明が強いと黄土高原が緑化して、結果的に黄砂が減るという証明がなされている。
これもまたケース・バイ・ケースであるが、少なくとも長い目で見た方が良い分野では、自然や人を支配・競争するより共存共栄が適切な一例ではなかろうか。
現状に照らし合わせれば、坂柳さんの隠しきれていない支配欲と攻撃性は、これらの理屈と状況を応用することで返り討ちなどに転用できるということ。
なぜなら、今回は発散内容の制約が存在するからだ。
この場で手軽にできて、身体を動かすモノではなく、それほど時間のかからない───すなわち、夏に僕が作った『小東方高育桜』というゲームである。
これに乗せるのなら、葛城と一之瀬が苦心してねじ曲げた(元の話題に戻した?)……退学リスクについて怒り心頭で僕に論戦を仕掛けてきた坂柳さんの内心を、一端冷静っぽくさせた上で更に引っ掻き回す必要がある。
ゆえに、皮肉混じりの固有名詞を使わない特殊煽りが適当であろう。
「無能な者はどうあっても害悪にしかなりません。道化や囮にすら使えないなら、早めに切り捨てても問題ないのでは?」
「たしかに問題はないな。合理的だし、無能がマイナスを出す前に切り捨てるのは実に正しい判断だ。何より困るのは足を引っ張る仲間だからな」
「ほう?」
「左京!? お前がそんな」
僕が同意したのが意外、といった反応を示すのは葛城や坂柳さん、一之瀬を含めて数人いるか。高円寺は言わずもがなだろうが、軽く示唆はしておこう。この反応であれば、煽りで撹乱・混乱も狙えるかな。
次に出す言葉で以前の僕の忠告に至れば、葛城なら最善の“フォロー”もしてくれるはずだ。過激な話題をあえて攻撃に使ってくるなら、僕はこう出るしかない。
「その方針を悪く言う気はない。特権階級の思考停止してる奴にはその程度が器の限界だろう。勿論、誰とは言わないが。きっとそいつは己の低能さを恨むしかないんだろうな。憐れな井の中の蛙だ」
そして僅かでも自覚があるなら、坂柳さんも乗ってくるしかない。めっちゃ冷えた目で見られてるから内心ビクビクだけども。
「…………なるほど。私を……ひいては私のお父様をも侮辱しているのですか」
ひぃっ。ついに疑問系が取れた。
恐ろしく冷たい目と雰囲気だ。誰か代わってくれないだろうか?
「さあ? 僕は誰とも明言してないが?」
「そうですね。明言こそしていません。ですので、私も明言しないまま、一つ言わせてください。
これまで公平な判断を下しているところは何度も見てきました。であれば、全てではないにしろ、外部の影響も少なからずあると考えられるのではないですか」
でも、普通にハマったな。やはり彼女は微妙に精神を乱していると確信できた。ロジックにブレが発生している。無理に内容を飛ばすからだ。
なら、揚げ足を取って、一気に終着点に誘導着陸させることもできるだろう。
「───笑止! まさか坂柳さんは責任者が蚊帳の外だとお思いで? ありえないな、そんなことは」
本来の坂柳さんを乗せることは難しいが、今だけは別だ。わかった上で『信じたい』と自分を誤魔化していては十全な能力は発揮できない。
意図せずデハフをかけられて冷静さを欠く彼女には、更なる動揺の素を投入することで徐々に論点をずらしていき、勢い『のみ』で巻き込む算段が僕にはあった。
言わば対一之瀬の誤魔化し戦術の別バージョンだ。興に乗った高円寺が彼女を手助けさえしなければ、冷静さを取り戻す前に決めてしまえる。
地頭が良すぎるからこその落とし穴である。
「では、してもいない悪事や圧力によって追い詰められ、排除されるのが正しいと!? そんなことが罷り通るなら、エレガントの欠片もない自爆特攻が最適解ではありませんか!」
「そんなことは美しくない。自爆に価値は無いさ」
「くっ、なんっ…! 貴方にそんな資格は……!」
「ハッ! 前に君のお父さんにも言った実にシンプルな答えだ『坂柳』。僕の覚悟はすでに示している」
坂柳さんに合わせているようで合わせていない話題と遠くを見つめる視線で、僕は無駄に啖呵をきってみた。決闘ごっこに持ち込むには、勝負前の煽りあいが定番の流れとして美しい。
清隆のように、自分自身のみに信頼を置く幼女妖怪は、こうすれば十中八九乗ってくる。
「僕は普通の凡人・左京夢月だ!
だからこそ、どうあっても言った言葉は守る!!
そして友達をそんな理不尽な目に遭わせはしない!!!」
自信満々に言い切ると、坂柳さんは一息吐いて真剣な表情になった。
「……残念です、左京君。貴方なら現実的な軌道修正をできると思っていたのですが。こうなってはしかたありませんね」
「最初からわかっていたことだろう。君の思想を否定してやるよ」
隠せていない動揺のまま、乗ってきた!
初撃の誘導成功だ。
「真の天才に勝つ最後の機会だったことを───」
「真の凡人と本気でやり合う最初の機会を───」
それにしても、意外なほどノリノリである。
話しぶりから明らかにゲームが得意ではない…なんなら初心者臭く、普段はほぼ運動もできない坂柳さんなのに……。まいっか。
「貴方の遺伝子の奥底に刻み込んであげましょう!」
「君の悪夢に見飽きるまで刻み込んでやる!」
というわけで、いくつか思いつき、ついでに森羅万象を勢いで有耶無耶にする計略がこれだ。
そう。突発的決闘ごっこ、ゲームによる僕VS坂柳さんの開幕である。
何故こんな事になったのか、もはや誰にもわからない。僕も、おそらく坂柳も学生のノリに乗ってしまったのだ。
ただ、わけはわからないが……ここまで堂々と啖呵をきり合っておいて、難易度イージーを選ぶようなプライドの持ち主とは思えない。彼女は最低でもノーマル、あわよくばハードを選ぶと見た。
もしそうなれば、仲間内でもクリアまで最短の四方でさえ4回かかっている高難度のシューティングゲームだ。乗ってきた時点で勝ち確といって過言ではない。
僕のパソコンで起動させたゲーム画面を睨み付ける坂柳さんを見て、突発的な未来予想を大雑把に描くのだった。
後編?は、冷静に見直して整えてから投稿します。
そんなにかからないと思いますが、今しばらくお待ちいただければ幸いです。
ちなみに次で坂柳がプレイするゲーム部分は、『魔法』『小東方高育桜』の要素が含まれています。わけわからなかったら、そちらを御覧ください。