流石にちょっと長すぎる(約18000字)気がしたので、もう1話増やしました。
次話というか、EX最終話は後書きを書き終えるだろう夜頃に一緒に投稿します。
世の中にはどうしようもなく悪の印象を持ってしまう者がいる。
これは仏教的な悪の意味ではなく、誰にも制御できないほど強いという日本本来の『悪』の意味でのことだ。
ゆえにこそ善も悪も関係なく強い者を、何らかの力で逆にねじ伏せる姿や決して屈服しない者は美しく映るし、魅力がある。
だから能力や性格、アライメントで『悪属性』なのは別として、早苗や高円寺、櫛田、龍園には悪の美学を感じるのだろう。見知った目的や暴力を躊躇わない姿勢は怖さを感じることもあるものの、彼ら彼女らの目的へ向かう意思は本物だとはっきりわかるから僕も話してて楽しい。
しかし一方で、似て非なる奴らもいる。悪とは違う『負』属性を感じる者達だ。
相手の強さや状態を無視して利用、もしくはねじ伏せようとするのは……あえて偏見たっぷりに言えば、ただのイジメだ。僕の逃げ腰や忌避感が高まる───深淵をのぞいて、深淵にのぞかれているような気持ちになるのも理解できるかもしれない。
何が言いたいかというと、少し前までの清隆や坂柳さん、堀北さん、南雲には、きな臭さや性質の悪い匂いを感じているということだ。
よく知り、深く付き合うほどに服毒しているような感覚があるのだ。この中では清隆しか友達じゃないにも関わらずである。
勿論、僕が僕である限り、卑怯やら外道やら言われようが。矜持や美学など勝敗には関わらないと暗に擦られようがどうでもいい。別にそれが原因で嫌いになったり、友達やめたり、敵に回ることもない。
だが、ただ自分の目的や利益、嗜好のためとか、面白半分の暇潰しなどが理由で他者を攻撃しようとする奴を美しいとは欠片も思わない。エレガントに美しくコトを進めたいのなら、対峙するべき相手を間違えないのが肝要である。と、僕は思っているからだ。
勘でしかないが、もし僕や誰かが毒を喰らわば皿まで精神を実践して、いずれかの毒に呑み込まれるようなら天文部の誰かにきっと討伐されるだろう……。
今回は、まさにソレをしそうだな、と見てた幼女に対して友達が軌道修正っぽい事を試みていたので、ついでに乗ってみただけだ。
興が乗った友達に応えるなら、妥当な対価かと願ってささやかに。
さて、坂柳さんに限った話でもないが、何らかのハンディキャップを持つ者には、共通するある偏りが発生する。
思考能力が高かったり、コネが強かったりする場合は余計に顕著で、技能習得の『守破離』においてどうしても達成できない項目ができるのが要因だ。
守破離を簡単に説明すると、それぞれ基本、応用、基本+応用だが、これだけでも守と離に必須の下積み経験に制限が付くのはわかるだろう。
学生では分かり難いから会社で例えると、「守」は新人・若手が基本の仕事を叩き込まれる段階。「破」は叩き込まれた基本を応用して管理職ができる段階。「離」は守と破を独自性に変換・昇華可能な優れた経営側や指導者など人の上に立ってたりする段階。
このうちで「守」の習得段階においては、思考能力を使わないのが鉄板だという処世術がある。
理由は、言われたこと・指示されたこと以外をやらないのが重要な段階だからだ。たとえ間違ったことだと判断できても、ここで自分らしさを出してはならない。環境や教育係にもよるが、社畜になりきるのが敵を作らないコツなのだ。
翻って坂柳さん、ついでに僕や清隆なんかは、これが身体的・精神的事情か、はたまた何らかの理由か、周りから見て不自然にこれを『できない』場合がある。体育に参加しろ、クラスで何らかの役割して、って言われてもできないとかだな。
できない部分が明確な坂柳さんは、まずこの「守」に穴があり、そこから派生する「破・離」の一部もカヴァーするくらいしか経験する術がない。その上、自分の才能に絶対の自信があるから、やろうと思えば付け目を作り出すことも可能だ。
逆にいうと、清隆や坂柳さんなど特殊思想の環境適応型や僕のような生まれ直した適当な性格の奴にしか、こうしたピンポイントな誘導攻めは通用しない。下積みを漏れなくやる性質の櫛田か龍園に使えば、逆撃されるだろう。と、大雑把にこういった材料が入手できる。
ゆえに僕は、何度かの会話の材料からインドアなモノでありながら坂柳さんが未経験なゲーム勝負を思いつき、学校関係も使って感情方面を揺さぶって乗せることができた。
だから『小東方高育桜』というゲームは、明らかに結果を覆しえない坂柳さんに不利な勝負だった。
それでも彼女は、1~2ステージの僕と椎名のパートまでは会話文に呆れを見せる余裕があった。天才の風格は伊達ではなく、安全地帯を即座に判断する的確さ、効率の良い攻撃方法を編み出す思考力は流石と言える。才能や反射神経のごり押し感がなくもない奴らとも違う頭脳全振りプレイである。
ただ、3ステージボスの葛城が必殺技である『ヘッドライト太陽拳』を放った瞬間、初見の何人か吹き出し、気が散ったのか坂柳さん自身も小さく吹き出しながら連続被弾。なんとか葛城を撃破したものの、次の道中であえなく最初のゲームオーバーである。
急激な方向転換で意識の死角を突いたのだ。無理もない。
ちなみにゲーム内の葛城の必殺技は、「俺の涼しげな頭の活用法はどうなのだー?」の台詞とともに、光らせたスキンヘッドの頭を使って全方位拡散レーザーを放つ超絶イケメンな技だ。
しかも何かに使えるかもと、現在ではずん○もんボイス付きのソレに改良してある。合成音声もなかったのに、何気に初見時は四方も早苗も清隆も落としている実績があるので、見込み通りの戦果といえるだろう。
「改めて引っ掛かったが、涼しげなのは普通は目元とかだろう左京!? たしかに涼しげかもしれないが、頭にその表現を使うんじゃないっ!! 珍妙な合成音声まで付けるとか、なにを考えている!?」
「か、葛城君…や、やめてくださ、ふふっ。ツ、ツッコまれると余計に……ぷふ、ふふふふ、うふっ」
本物の葛城もナイスツッコミ&フォローだ。坂柳さんの怒りの表情が和らぎ、笑顔を見せるまでに持ち直した。これで坂柳さんをあしらいつつ、激重感情の方向を逸らす道筋は整った。
込み上げる笑いを落ち着かせた後、泣きの1回(勿論、僕は余裕綽々な態度で、何度でもどうぞ? と言ってやった)を承諾してリベンジした坂柳さんだったが、清隆の証言が真実なら次の一之瀬ステージこそが坂柳さんの精神的な鬼門となることだろう。
「───っ! ぉ……」
結果、問題の『あの台詞』のシーンで、しばし静止する坂柳さん。復活するやバッと清隆を見て何か言おうとして、またしばしの静止。
幼気な顔がようよう赤く染まりゆく様は、後ろからプレイ画面を見ていた二度目の羞恥責めを食らった誰かさんのようである。
当然のことだが、ゲーム説明のついでに清隆含む何人かが『夏休み中』にプレイ済みなのは小声で伝達しておいた。おそらく現在の彼女には、自分のやらかした過去がプレイバックしているのだろう。知らんけど(すっとぼけ)。
反対に彼女に見られた清隆は───僕の真の思惑が読めたのか目を見開いて僕へ視線を送ってくる。ただ、ここまでくればもはや何もかもが手遅れなので、あとは一本道を進むのみだ。勿論、自覚のある僕は清隆と目が合わないよう顔ごと逸らす。
ともあれ、坂柳さんは赤くなった顔のまま無理矢理立ち直り、高速メッセージ送りで飛ばし対応。反射神経や操作技術は並程度なのに、流石の思考力で安全地帯を発見。ボムを駆使しつつ、2機を残し、5ステージボスである高円寺まで辿り着いた。
尤も、得意分野から遠い上、ここまで連続で精神を掻き乱されては、いかな頭脳的天才であろうと正統派ハードモードの5ボス・高円寺を突破することは叶わない。
トドメの物理的な鬼門によって、尽く撃沈のゲームオーバーである。これにより最終到達点が決定した。
頭脳と才能だけでは、できてここまでだという予測は間違っていなかった。
自分に自信がある奴ほど、ほぼ負け確の対戦をした後は別方向に意識が行きやすい。逆にギリッギリの勝負を演出して、限界まで屈辱を与えつつ弄ぶと血眼になってリベンジしてくるので、坂柳さんみたいなのには絶対やらない方がいい。花を取って実を残すのが無難だ。
なんにしろ悪くないあしらい方ができて、マジでホッとした。こんなんでもおそらく清隆にどう向き合おう……重力すら独自に発生してそうな激重感情を『昇華』しよう、なんていう結論に誘導できた可能性はある。
十重二十重に張り巡らせた緻密な機略。
狼狽する挑戦者、満面の笑みを浮かべる勝利者。
完全無欠な理に、隙を作った慢心と油断。
一点の綻びを突く不測。
清隆の父親曰く、Irregular(イレギュラー)による誤算の運用戦術。
これこそが名付けて…真なる社畜の処世術、もしくは天才には天才を当てる対決誘導法だ。
……良いネーミングを思いつかないのに、ノリで「名付けて」とか言うとこうなる。みんなも気をつけような。なんちゃって。
ゲームオーバー画面の静かな音楽が流れる中。ついに諦めた坂柳さんを横目に、最終地点が見えた僕はおもむろに堂々たる勝利宣言モドキと高笑いを響かせた。
「僕の最も忌避するブラックな奴らよ。見ているか? お前らの教えで、お前らより更に上に行くかもしれない利発なお子様を、可哀想な目に遭わせてやった! はぁーっはっはっは! ざっまあみろっ!」
「お子様っ───ぶっふぅ!!」
「……神室。お前、いい加減にしといた方が良いんじゃないか? 姫様の顔を見ろ」
さようなら社畜だった『俺』。
そしてこんにちは一般学生の僕、となんか楽しそうな神室さん&苦労人っぽい橋本。
地味に、いかに『今』勝ちきるかよりも、『未来』に繋がる道筋を考えるか否かも明暗をわけたな。利害やメリット・デメリット、タイパ・コスパなどを重点的に考える者の限界といえよう。
能力差なんて、やり方次第で覆せる場合もあるのだ。最初は怖かったけど、やってて楽しかった。ついでにトラウマを吐き出してスッキリさせてもらった。
でもこのままだと坂柳さんに悪いから、喜びそうなお詫びもちゃんと考えている。
なに、清隆としっかり目を合わせて思いを託すだけだ。そのために必要事項をサラリと伝達しておく。
「ふぅ~! スッキリした~。
それはそうと清隆。んじゃ、龍園の次に坂柳さん追加でよろしくな。僕のためにも頑張って。あ、他も追加するかもだから頼む。それと、これがオフレコなのは言うまでもないよな?」
これ見よがしに、つい漏らしてしまった独り言っぽく。
「待て…待ってくれっ!! 夢月っ───おまっ、お前ぇえええ!! 嘘だろおい!? ここまで引っ掻き回しておいて、まさかこのままオレに!?」
「あ、早苗~。この栗をもらってい~い?」
「いくつでもどうぞ…ふふっ、うふふふふ」
とりあえず早苗を絡ませて上機嫌にさせとけば、勝手に加勢してきて嫌いな“奴ら”をオーバーキルには持ってかれないだろう。気持ち程度は巻き込んでおいた。
「聞けよ!? なんで完全な他人事体勢に入れるんだ!? お前マジふざけんなよ!!」
「うんうん。旬だからかこれもなかなか美味い。頼んで正解だな」
「でしょう? 美味しいですよね」
「オレの話も少しは聞いて!!? てか、お前が発端なんだけど!?」
坂柳さんの挙動という要素もあって、全体を読みきったのだろう。シンプルにいうと、体育祭後に『僕に』投げたぶんを投げ返されたということに。
ただ、慌てふためいた半分演技で謂れなき容疑に僕も巻き込もうと悪足掻く清隆だが、もう何もかもが遅い。勿論、すでに手は打ち終えている。王手飛車取りだ。これまでの彼らの舐めプにつけ込んで取った金銀角を合わせると、もはやお相手は丸裸で言いたい放題である。
なので僕は聞き流しつつ、外の声を気にせず料理に舌鼓を打つ。
「あ、綾小路君。冷静になってください!」
「冷静になってる場合か! 慌てるとこだろここは!! なに言ってるんだオレは!?」
「言ってることがおかしいですよ!? 社長にはきっと何か考えが……」
「複雑骨折させた面倒事の丸投げだろ!? なあ夢月! そうなんだろっ!? 答えろ…いや、その前にやらないって言っただろうが! なんてことをしてくれたんだっ!!」
「龍園君! 山田君、石崎君! お願いします! 手を貸してください!! この力……! 僕だけじゃ抑えきれない!」
物理的には、栄一郎の抑えと救援要請だ。
救援をきっかけとしたCクラスの武闘派4人がかりで抑え込まれると、流石の清隆も動けなくなった。呆気に取られたようなアルベルトと石崎はともかく、なんともいえない表情で僕と椎名をチラ見してから、存在X(椎名曰く、Cクラスではこう呼ばれてたらしい)の狂乱を抑えるのに加わった龍園は誠に御愁傷様である。
まさか本日の主賓のもう片方にご足労いただくとはな。お礼とか言ったら、拳か蹴りが飛んできそうだから言えないが。
ま、でも間接的に黒幕を倒したようなモノだし、棚ぼたじゃん? そのわりにはあんまり嬉しそうじゃないけども(確信犯)。
しかし龍園や石崎もさることながら、主に体格と腕力が圧倒的なアルベルトを動かした栄一郎のナイス呼び掛けである。移動時間に清隆を逃がさないよう密かに頼んだ上で、座る場所を調整しといた甲斐があった。
清隆は何度か『自分だけ』逃走した実績があるからな。あらかじめ手を打っておくのは、対策としても意趣返しとしても当然だろう。早苗と櫛田の初対面だった月見後を僕は忘れていない。
「はぁ。僕は何も口に出してない(嘘)のに、なんて騒がしい奴だ。まったくなっていない」
「思いっきり顔と口に出てんだよォオオオ!! ホント…ホンットふざけてんのかァっ!!!」
「え、ごめん。聞いてなかった」
「オレはっ…オレは怒ったぞー! 夢月ぃーーー!!!」
「れっ、冷静に! どうか冷静にお願いします綾小路君!! というか、いつもと口調も態度も違いすぎますって!」
「栄一郎もゴチャゴチャ言うな! オレを困らせたいのかっ!!」
スーパーブラック人・綾小路清隆が覚醒したのか?
ふむ。悟空ネタを使うなんて、まだまだ余裕ありそうだな。
なら、あわよくば一之瀬達もなんかこう、良い感じにしてくれないだろうか? 機会が作れたら、試しに投げてみるのも面白そうである。
「どんなキャラですか!? すいませんが僕にはわかりませんっ!!」
「……これが黒幕の存在X、か。ままならねぇな、クソがよ」
「「…………はい(Oh)……」」
「あ、あれが綾小路……? なんかアイツ、夏と全然雰囲気が違うんだけど」
龍園達も取り押さえつつ、稀代の不審者が織り成すアレコレをやるせなさそうに、伊吹さんなど信じられないモノを見てる感じで何か溢している。しかし、そこまではフォロー対象外である。椎名に頼るか、なんとか折り合いをつけてくれ。
僕は僕でタイミングを図るのに忙しい。
「怒っても結果は変えられないぞ清隆? 諦めて受け入れるが吉だ」
「エフッエフッエフッ! 面白いことを言う───わけないだろうがっ!!」
今度は範馬勇次郎かよ。
部室に置いといた漫画本を頻繁に借りていくと思ってたら、コイツいつの間にかネタの宝庫になってやがる。せっかくの学習能力を全力で無駄遣いしてるな。
あまり変になられても困るし、少しは真面目方向に舵を切っとくか。まだ坂柳さんの『わからせ』は完了していない。次を担当することになる清隆にも、誉めて伸ばすなどモチベーションの材料は必要だろう。
「ナイスノリツッコミ! 引き出し多いね、キ・ミ☆」
「───ほぐっ! こんな…こんな変幻自在に心中を垂れ流す男に……!」
「ん? 僕がそんな間抜けな失敗するかよ。前に一之瀬に指摘された自分の悪癖を逆用したわざとに決まっている。じゃないと、清隆が自分から面倒事を受け入れないじゃないか。普通に常識で考えろよ、非常識人め(誉め言葉)」
「お前っ、マジで……! 普通、常識……ウニョラー! トッピロキー!! キロキロー!?」
そしたら、なんか人語まで怪しくなった。何気に僕の自室にしか置いてない某魔方陣グルグルまで履修済みとは、清隆の好奇心は留まるところを知らないようだ。
もう一声、主語が本人達以外わからないようにお世辞を述べておくか。清隆の人生に不具合が発生しているのか、いつもより不審度合いが高い気がする。
今のコイツには暖かい言葉が必要だ。
「でも改めて昔からの、って考えるとロマンチックだよなー。流石、イケメンの天才リア充。うっわ、羨ましぃー(棒)」
「くぁwせdrftgyふじこlp───!!」
「お願いですからブレーキ踏んでください社長! 綾小路君が、綾小路君がキャラ崩壊してしまいます!!」
栄一郎、すまん。手遅れだったかもしれねぇ。
こんな愉快なツッコミしてくる奴じゃなかった気がしてならない。しかも意味不明な言語を炸裂させるとか……。てか、後半はどうやって発音してんだよ。流石、チート疑惑すら湧く天才は常人とはひと味違う。
坂柳さんとの決闘ごっこ……からの清隆への意識誘導&着地が、まさかここまで闇の衣を剥がす光の玉(比喩)になるとはな。
構想にじっくり数分もかけて可能な限界まで考え、なんとなく多重の策を積み上げておいたのはある意味正解だった。これだけ積み上げとけば、いかに清隆といえども詰みを理解せざるをえないだろう。坂柳さんと同様、コイツは徹底して対策しないとマジで容赦ないからな。
まぁ、高円寺のクッソわかり難いパスがなかったら、ここまで綺麗にエスコートはできなかったから偉そうには言えないけども。
坂柳さんが…幼女が、あからさまではないにしろ清隆に激重感情を向けてるんだから、受け止めさせてやるのが紳士というものだ。
それになにか感じるモノがあったのか高円寺が妙な目配せをしてたので、僕が途中から坂柳さんのエスコートを引き継ぎ、更に清隆へパスを出したのである。
これでこの2人ともが、十中八九『一之瀬』に陰湿な策略的なナニかを仕掛ける可能性をかなり軽減できたはずだ。よって仕掛けるなら、ヘイト的にまずは僕、次点で早苗へ向けるだろう。
……助力してくれるなら、頼むからわかりやすいヒントとか出してくれ高円寺。チラ見した限り、機嫌良さげな笑顔を浮かべてるから及第点には達してるみたいだけど、読み取った『好意』に正解してるか確信が持てなくて不安すぎる。
なんせ、なぜ高円寺が一之瀬を? という部分が不透明なのだ。女子である点とたまたま人が揃ってて読みきっちゃった結果の気まぐれ…程度しか推察できない。でなければ───高円寺に作ってもらった天文部グループ唯一の『負』確定要素である清隆への何らかの牽制目的か。
ぶっちゃけ友達や知り合い連中の中で、サークルクラッシャーの気質を感じるのって個人的には清隆と坂柳さんが断トツなんだよなぁ。見たまま義理堅い高円寺がそこに目をつけるのは充分ありえる。
ま、下手の考え休むに似たりという。どうせわからないなら、今は単純に好意とだけ受け取っとけばいいか。もう僕やっちゃったし、それに害と決めつける考え方はよろしくはない(華麗な手のひら返し)。忘れよう。
副産物で清隆の感情がめっちゃ揺さぶられたみたいだけど、こちらは何も問題ない。
それにおそらく、清隆の狂乱状態(仮)も長くは続かないだろう。パッシブの凍てつく波動もさることながら、常の冷静さを取り戻せば、清隆と頭脳方面で全力勝負できる相手が追加された側面もあるからだ。清隆は何故か自分を上回る可能性がある勝負や競争を嬉しがる面があるので、面倒事だと思う部分さえ目を瞑れば徐々に楽しい気分も湧いてくる…といいな。
さて、なにはともあれ、ようやく状況が整った。僕にとってのメインイベントの時間か。
急遽決まった誕生日パーティーからの連環計、ついでに高円寺の余興?を締め括るに相応しい言葉は用意して…ないが、多分ノリでなんとかなるだろう。
現状は、いまだ僕の近くでなにやら葛藤している坂柳さんと、拘束されつつも最高にハイになってる清隆。こんな機会は滅多に起こりえない。
ゆえに、決闘ごっこの最後はこの二人へ仕上げのネタバラシだ。
「清隆~、っと、坂柳さん。僕から勧告とアドバイスだ。
───君らがお望みだった敗北感は美味いか? 遠慮せず喰らっていけ」
僕が唐突にぶち込んだ言葉に反応する天才二人。
懸念を忘れてする煽りは、自然と満面の笑みが浮かぶくらい楽しい。いや、ホントに今日イチで最高の気分である。
だって僕一人じゃ、こんな状況はなかなか作れない。実は僕がやれたのは、ただの論点と怒った内容のすり替えなのだ。
天才だろうと、能力が高かろうと、ここにいる奴らは高1でそれを活かしきる知識や経験、情緒のレベルが足りておらず、一時的に同格付近にまで登ってきた他人との議論に慣れていないのは明白だった。加えてほとんどの優等生は誰かの意見や雰囲気に流される程度には純朴で、善悪を真剣に考えるくらいには善良。
となれば目的ついでに、ちょっとくらい上から目線で天才共を煽っても罰は当たるまい。
ただまぁ、最大限に高円寺の好意?に甘えた以上、きちんと清隆を便乗させつつも釘を刺す。いや、高円寺もこんなつもりじゃなかった気がしてきたけども。
「敗…北? 私に湧き上がるなんともいえない感覚のこれ……が?」
「ぉ……!」
それでも、坂柳さんに見え隠れしていた邪魔なブレーキはたった今、叩き壊してやった。
坂柳さんは、次の機会を清隆と存分に楽しむといい。当初は、清隆を坂柳さんの望む舞台に押し上げるための前座・ゲーム勝負でもあったのだ。少なくともその下地は整ったはず。
って言っとけば、稼いでしまった清隆と坂柳さんのヘイトも、多少は水に流せるかな……流石に無理か。
「敗者はいつも手遅れになってから、自分の惨状を振り返って後悔する。今の君らみたいにな。だけど、こういうやり方ならそればっかりじゃないんだぜ? 人生を楽しみたいんなら『倒す』相手にも次を用意しとくのをオススメしとく。それと───」
だからいっそ二人に声が届かなくなる前に、ダメ押しの煽りを贈った。四方との対決時にも僕は似たような言葉を言ったし、天才級のコイツらなら自分に照らし合わせて上手く適用させてくれるだろう。
正直、高校生でこんな殺伐として悟ったような思想は流石のこの二人も持ってないだろうが、これは負けた経験の少ない早熟の天才が至りやすい結論の一つだ。
マジで敵対者を容赦なく潰しきりそうなコイツらになら、釘を刺しとく意味はあるだろ……ん? 呆然としてるけど、コイツら聞いてる? 聞いてなくても言うけど。なんか他からもえらく注目されてるし、そこまで特別な事は言ってないはずなんだが。
ま、いっか。残りの最重要項目をもって締めとさせていただこう。
「Happy Birthday清隆。これが僕からお前への『要らないだろう』誕生日プレゼントだ。良い夢見れたかよ?」
「は───っ、──────ぉむっ! 夢月……夢月ぃ!!」
そうかそうか。言葉を失くし、言葉を取り戻してすぐ何度も僕の名を呼ぶほど嬉しかったか。一瞬ガバったかもと思ったからよかった。だが、是非とも覚えずに忘れてくれ。なんかクールな天才キャラをぶち壊しちゃったかのような罪悪感が湧いてきたから。
といっても、これ以上言葉にして返すと僕も巻き込まれそうなので、ここは黙殺させてもらおう。
では、ささやかながら栄一郎達に全身を拘束されて再び引き摺られだした清隆へ素朴な祝辞を。