ようキャ   作:麿は星

15 / 198

 誤字報告ありがとうございます。

 あと前回の更新、段落最初のスペースを消すのを忘れていましたが、時間ができたら消しておきますのでそれまで見逃してください。



14、世間話

 

 水泳の時間の後、水泳部顧問の東山先生は約束どおり天文部顧問を兼任してくれる事になり、天文部は晴れて正式な部活動となった。

 その際、東山先生から水泳部に誘われたのだが僕はアルバイトがあった為に断り、四方と東風谷も特に理由なく断っていた。なんとなく不義理を働いたように感じてしまったので、何か返せる機会があったら返したいと思う。

 

 しかし何気に競泳の男女1位と男子2位を天文部が独占する結果だったが、今回は運がよかったのだろう。

 水泳部のエース級みたいな奴がいなかったことに加え、四方・東風谷という限定的ながら規格外の成果を出せる人材がいたことがこの結果を弾き出したのだ。

 僕だけだったらおそらく柴田に負けて終わっていただろう。

 

 柴田といえば、この件がきっかけになったのか少しだけ話しかけてくるようになった。連絡先も交換したので、これでBクラス内では連絡先3人目、青娥さんや佐倉、会長に櫛田を含めた全てでは7人目となる。

 

 僕は人付き合いが苦手だと自己認識していたが、半月と少しで7人もの連絡先交換という交流をこなし、交換や接触こそほとんどしていないが橘書記や葛城・戸塚などの縁があった人物もいる。

 これは自己認識を改める必要が出てくるほどの快挙といっても過言ではないだろう。

 

 というようなことを、偶然天文部の屋上に集った部員2人と外部協力者の佐倉(入部届けを受け取っていない為)に語ったところ東風谷と佐倉は大きく頷いてくれた。

 だが四方は微妙な顔で自分のアドレス帳を見せてきて、そのずらりと並んだ件数で僕を含めた3人を圧倒してきた。

 

「いや、入学したばかりなんだし、普通にしてれば連絡先なんて自然に増えるものだからな?」

「いやいや! 僕は普通なのに増えてないだろう。東風谷のヒキニート気質や佐倉レベルの内弁慶ならまだわかるが、あの領域にまでは到達していないはずだ!」

「……ヒキニート気質」

「……内弁慶」

 

 視界の端で東風谷と佐倉に流れ弾が直撃して落ち込んでいたが、強く生きてほしい。

 

「左京は、多少愛想は良くても付き合いが悪すぎるんだよ。さっきだって柴田に誘われてたのに断ってただろ」

「しょうがないだろう。カラオケとか1人で行くような場所に、なんで連れ立っていくんだよ。わけわからないし、楽しくもなさそうじゃないか」

「……よくわかった。まず根本から色々おかしいな」

 

 四方は頭が痛そうに額を押さえているが、早くも復活した東風谷や佐倉も僕に賛同寄りの意見を上げる。

 

「そうですね。宴会中に歌うならわかりますけど、歌いに行くだけなら一人が定番でしょう」

「わたしも一人なら行ったことあるよ。自撮りの為だからあんまり歌ってはないけど」

「ほらみろ。僕ではなく不適切な場所に誘った柴田がおかしいんだ。それほど親しくないうちは奇をてらうのはやめておいたほうが無難なんだぞ」

「……お前ら」

 

 3対1になったからか、自分でもそう思っていたのかはわからないが、いよいよ返す言葉もなくなった四方。

 フッ、またつまらぬ論破をしてしまった。敗北を知りたいものだ。いやごめん、やはり好き好んで知りたくない。

 

 四方を撃破した事でまたもや悔しがらせてしまったかと改めて四方の顔を見ると、何故か悔しさの色はなく、なんとも形容しがたい微妙な表情で僕を見ていた。いや、僕と東風谷と佐倉の3人を見ていた。なんというかこう、どうしようもない奴を見る目というか、手の施しようのない患者を診る医者のような目というか……。

 

 何故そんな目で見られているのかは不明だが、加速度的に居心地が悪化の一途を辿っているのは感じる。この現状を受けて、僕は解散することにした。

 しかし解散のきっかけがわからなかったので、そのまま散開するわけでもなくしばらく4人で見つめ合う無言の空間が形成されていたが、真っ先に堪らなくなった僕は3人に声をかけて逃げるように屋上から出る。すると両隣には東風谷と佐倉も付いてきていて、彼女らにとっても居心地が悪かった事を無言で伝えていた。

 

 結局、屋上扉近くの階段を下りたところで僕は図書室方面、東風谷は玄関方面、佐倉は特別棟方面に散らばっていった。

 電話の切り時などもだが、集団がスムースに解散する為の流れとはどう作るのだろう?

 こういう時、僕はその答えを希求してしまう。

 

 

 

 

 元々なかったような用事が完璧に消え失せた僕は、仕方なく本を返却するとともに新しい本を借りる目的で図書館に向かっていた。

 

 図書館ということで油断はいけない。いかに早く返却箱に借りていた本を突っ込み、速やかかつ効率的な動きで新しく借りる本の貸し出し手続きを終える。司書にも図書委員っぽい生徒にもなるべく気づかれないように素早く全てを終えなくてはならないのだ。

 この行為自体に意味は特になく、あえて言えば僕の癖みたいなものだったが、今となっては必要な行動であったと確信している。

 

 なぜならあの図書館には、最低でも二人の洞察力が鋭く目ざとく動いてくる人物がいて侮れないのだ。特に司書と銀髪の生徒は、タイプこそ違うものの住んでるのかと思うほどにほぼ常に存在する脅威だ。例えるなら司書の方は不動からの流水、銀髪の方は神出鬼没だろうか。僕が本を探す途中で接近を感知して撤退した回数は、そろそろ片手の指で足りなくなっている。

 おそらく、あの二人には百貨店や服屋、本屋などで店員に声をかけられる恐怖が理解できないのだろう。少し言い方を変えるなら、ファミレスで後から来店してきた客を目で追うタイプと見ている。ん?こっちは少し違ったかもしれない。

 

 そんなわけで油断せず今日は無事に本の返却と貸し出しを済ませることができた。この学校で過ごしていて安心する瞬間の一つである。

 僕が三冊の本を持ってきていた本の専用袋に入れ、達成感を感じつつも図書館を後にしようとしていた時、久しぶりの知人を見かけたので思わず声をかけていた。

 

「葛城、戸塚。久しぶり」

「む? 左京か」

「左京! 久しぶりだn」

「ばっか! 少し静かにしろって」

「わ、悪い」

 

 一応背後に図書館の扉はあるが、場所柄大きな声は厳禁なので慌てて戸塚を注意する。

 万が一、誰かが寄って来ようものなら折角の偶然をフイにすることになっても逃げ出してしまう可能性がある僕は、葛城と戸塚に声を抑えて少し外で話さないか提案してみることにした。

 

「ここだと落ち着かないし、どこか場所を移して話さないか? 入学以来、葛城にも戸塚にも遭遇しなかったから、ちょっと気になってたんだよ」

「俺も左京とは話してみたいと思っていた。弥彦もいいか?」

「勿論ですよ葛城さん! 昨日、雰囲気が良い喫茶店見つけたのでそこに行きましょう!」

「いや、別に急がなくてもいいぞ。ここに来たって事は図書館に用事とかあったんじゃないのか? 少しぐらいなら待つから済ませてきていいよ」

「そうか。では悪いが返却だけしてくる」

 

 用事があったのは葛城だったようで、一言断って僕と入れ替わりに図書館の中に入っていった。

 ちなみに戸塚も葛城に付いていこうとしていたが、この素で声のボリュームが大きい奴が本人の用もなさそうなのに図書館へ入るのを憂慮した僕が引き止めるというミッションも発生したが、葛城が思ったより早く戻ってきたので助かった一幕もあったりした。

 

 

 

 

 

 戸塚お勧めの場所は、おしゃれっぽいカフェという未知の場所だった。

 二人と雑談しながら付いていくとここに連れて来られ、僕としてはおっかなびっくりだったのだが連れの二人が慣れた感じで注文しているのを見て、すかさず乗っかることで事なきと平静を得ることができた。「つ、連れと同じもので」と「お勧めでお願いします」は万能の言葉である。

 

 二人とは、初日に少し話しただけの関係ではあったが、久しぶりということもあってお互いの近況をだったり連絡先を交換したりしているうちに、いつの間にか打ち解けて話せるようになっていた。

 

「しかし戸塚って、結局葛城にはさん付けと敬語に落ち着いたのか。同級生に畏まるってどうなんだ?」

「これは敬意の表れだ! 別にいいだろ」

「いや、僕はいいんだけどさ、葛城的にはどうなのかなって」

「俺は普通にしてくれと言ったのだが」

 

 やはり葛城は苦労人でなおかつ良い奴だ。なんだかんだで戸塚の好きにする事を許容しているし、あまり人と話すのが得意ではない僕へも色々気遣って話題を振ってくれようとしているのがわかる。自分で言うのもなんだが、僕も戸塚も付き合うのに苦労するタイプだろう。

 

「葛城さんはリーダーになるべき人なんだ! だから俺が敬意を示すことは大事なんだよ!」

「……葛城、好かれるのも大変だな」

「……わかるか。戸塚がすまん」

「とりあえず恥ずかしいから、あいつの声のボリュームを下げよう」

「そうだな。俺がなだめるから左京は話題を変えてくれると助かる」

「了解だ」

 

 戸塚が演説ばりに葛城の賞賛を始めて店から注目を浴びてしまったので、僕と葛城はそれぞれできることで戸塚を平静にさせるべく協力することとなった。

 

 

 

「そういえば葛城達に聞いておきたいことがあったんだ」

「おん? なんだ?」

「……ああ。何でも聞いてくれ」

 

 葛城がなだめたことで戸塚が平静を取り戻した機を見逃さず、僕は以前から疑問だったことを話題に出した。些か葛城がなだめ疲れしているようだったが、葛城の犠牲を無駄にするわけにはいけない。

 

「PPとは別にCPっていうのがあるのは知っているか?」

「CP?」

「ああ、残高照会ページにあったやつだろ。俺も何に使うのか気にはなってた」

 

 葛城は知らないみたいだったが、戸塚は存在だけ知っている状態のようだ。

 

「そうそう。もし戸塚達があれの使い方を知っているなら、聞いておきたかった時があったんだよ」

「そう言うってことは、もう必要ないのか?」

「ああ。さっき言った天文部を作る時、顧問を雇う為に使えるかなって生徒会長に聞いてみたんだよ。結果はダメだったけど」

「へぇ。何に使えるんだろうな」

「待ってくれ! CPとは何だ!? 左京はともかく何故弥彦が知っている?」

 

 戸塚と話していると、疑問顔だった葛城が待ったをかけてきた。

 確かに知らない事を目の前で話されるのはあまりいい気分とはいえないだろう。まして戸塚は知っているようだから尚更だ。

 僕は実例を見せたほうが早いと思い、端末を取り出してPPとCPが表示されているページを葛城に見せて説明した。

 

「ほら、このPP表示の横に数字とCPってのがあるだろ。これ、今は810CPだけど、入学した日には1000CPだったんだ。何かに190CPを消費したと思うんだけど、その何かがわからなくてなぁ」

「俺は結構端末を弄ったりしてたので、なんかの拍子に見つけてました!」

「こんなものが……。PPはトップに表示されるから残高照会など気にもしていなかった」

「あれ? 俺の端末だと960CPになってるな。

……ってか、よく見たら左京のPP残高3万切ってるじゃねぇか!? 大丈夫か?」

「これは天文部関係の出費が多かったんだよ。……天体望遠鏡の4万は高かった」

 

 葛城はショックを受けているのか無駄に深刻な顔をしているが、戸塚の方は知っていた余裕があったのか僕のPP残高を見て心配してくれた。

 葛城同様にやはり律儀で良い奴だ。葛城が大変そうだと思いかけていたが、こういう場面を見て案外良いコンビなんだなと思い直した。

 

 

「……俺の端末も960CPだ。偶然弥彦と同じポイントになった可能性もあるが、CPというのはクラス単位のポイントである可能性が高い気がする。左京と弥彦はどう考える?」

「葛城さんの言うことだったら間違いないですよ! 絶対!」

「葛城と戸塚のポイント見ると、やっぱりそっちかなぁ。……会長の言い方からそんな気もしてはいたんだよなぁ」

 

 しばらく考え込んでいた葛城だったが、顔を上げるとクラス単位仮説を口に出した。

 一応仮説としたが、葛城は確信を顔に滲ませているし、僕も会長地獄での発言から薄々そんな気がしていたので異論はない。戸塚はもはや言うまでもあるまい。

 そしてそのことに思い至ったらしい葛城は次々に仮説を具体的にしていった。

 

「個人単位ではなくクラス単位という仮定の上で、まずはおそらくそれぞれの授業態度。それからうちのクラスでは、まだやっていないがテストやスポーツ大会。あるいは部活や何らかの活動実績で増減すると見た」

「流石です葛城さん! じゃあ、少なくとも左京のクラスやC・Dよりはうちが上って事ですよね!? ちょっと覗いただけですけど、BはともかくC・Dクラスは滅茶苦茶うるさくて、もう学級崩壊レベルでしたよ!」

「……それって、僕個人じゃほとんどどうしようもない事柄なんだけど」

 

 いつの間にか世間話が考察披露の場へと姿を変えていた件。

 やはり頭が良い奴らは、何かのきっかけであっという間に具体的な答えに辿り着いて細部を詰めていくようにできているのだろう。葛城や戸塚が整理した情報や考察を得ても使いようがない僕のような凡人ではこうはいかない。

 

 

「左京、今日は有意義な話ができた。礼を言う」

「どういたしまして。僕からすると、特に何かしたわけじゃないけどな」

「もしポイント足らなくなったら言えよ? 友達だし、バスでの借りを返しがてら俺が貸してやるからな」

 

 別れ際、葛城から律儀で真面目な礼を受けていると、僕のポイントを見てしまった戸塚が心配してくれていたのかえらく義理堅く感じる申し出をしてくれた。

 

「ああ、ありがとう。まぁ来月の10日にバイトの給料も入るし、たぶん大丈夫……だと思う」

「バイト!? この時期にもうやってんのか!?」

「まだ言ってなかったっけ? そうたいしたことでもなかったしな」

「……左京とはこれからも話してみたいな」

「そうですね。左京、葛城さんもこういってるし、また今度遊ぼうぜ!」

「おうよ。ただ直接・間接でもメールでもいいけど、電話以外で誘ってくれ。僕は電話に出るのがもの凄く苦手なんだよ」

「了解だ! それじゃあな」

「また会おう」

「じゃあな」

 

 二人と別れてからは、いつものように部屋に戻った。

 久しぶりに会って話した二人と友達にもなれた気がしていた僕は、月を見上げ満足してお茶をすするのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。