ようキャ   作:麿は星

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 ここから数話ほど合宿ですが、加筆・調整はしても1万数千字越えの長文はラスト以外もうない予定です。
 ここまで長文ばかりで読みにくかったらすいません。



135、奇術

 

 2016年1月14日の木曜日。

 新学期開幕してしばらく経過した約1週間の合宿は、男女それぞれ別の建物を滞在場所に使った企業研修モドキだった。

 夏の無人島と同じく端末も没収されて、1つの部屋でグループごとの生活をするらしい。南雲や一之瀬が前哨戦で言っていたのはこれだったようだ。

 

 行きのバス内で見て聞いた説明では、禅や駅伝、いつもと少し違う臨時講師を招いた授業があり、飯の支度や掃除的な義務もある。最終日には試験まであって、スピーチなんかも必要になるようだ。

 全学年の生徒が乗るバスを連ねて辿り着いた先でそれとは面倒くさい。

 最初の6つのグループ決めすらも状況把握するのに個人差があって、ボッ立ちタイムに突入するのが僕達の間で後を絶たなかった。

 ちなみに全体的なグループ決めは。

 

 A10人、B1人、C1人、D1人。

 A1人、B10人、C1人、D1人。

 A1人、B1人、C12人、D1人。

 A1人、B1人、C1人、D12人。

 

 とりあえずちょっとしたことを経て、公平に見えるこの4つのグループが出来上がり、残り2つで細かい調整をしようということになった。ここまでは比較的速やかに話がまとまったのだが、問題は残り物どもの集結する2つだ。

 ぶっちゃけ、龍園と石崎・アルベルト+何故か栄一郎を自分のグループに混ぜたくない奴らが多すぎた。

 

 まぁ、栄一郎はともかく、みんな強面か暴力的な雰囲気があるからな。共同生活とか冗談じゃない気持ちはわかる。まして龍園はこういう時に隠してるつもり?のコミュ障が発症するからツラいだろう。自然に敵意と警戒心を煽ってしまうのだ。

 

 というわけで、紆余曲折あって最後に決まった僕の所属グループは、闇鍋のごときヤバさを醸す面子になった。

 ではそろそろ、計13名の僕以外はイカれたメンバーを紹介しようか(ヤケクソ)!

 

 Aクラスは、僕、四方、浜口。

 Bクラスは、橋本、戸塚、鬼頭。

 Cクラスは、龍園、石崎、アルベルト、栄一郎。

 Dクラスは、高円寺、清隆、三宅。

 

───知り合いばかりなのは結構だけど、早々に終わったと思ったわ! 騎士っぽく白い手袋をしつつも野武士っぽい鬼頭だけ知らん奴だが、どんな集まりだよ!

 

 四方と2人でボーッとしてたら、どこからも弾かれたはぐれ物どもが自然に集結していたのだ。

 制御できない奴ばかりを適当に放り込んでもこんな愚連隊にはならんだろ。せめて龍園はCクラスの主力グループに入っとけよ、頼むから……。

 ああ、龍園以外の男子リーダー格は、普通に主力グループに入っている。うちのクラスで言うと神崎や柴田だな。Bクラスの葛城やDクラスの平田なんかもそうだ。ちなみにCクラスは金田がその役を担っている。

 

 これに関しては、何処のクラスもポイントの最大効率を狙う構成にしたためだろう。

 メリットもデメリットもある『責任者』は、軒並みそいつらが担うことになっている。責任者のメリットは、所属クラスの獲得ポイント増加。デメリットはボーダーを越えられないと責任者と『道連れを選択する場合』の2人が退学だ。

 

 僕のグループの責任者は当たり前の話だが龍園になった。

 彼以外だとなり手がいなかったのもあるが、このグループはCクラスだけ4人いてポイント獲得効率が良いためである。なので、次点ならDクラスの誰かになっただろう。パッと見、やりそうな奴いないけど。

 

 そしてとばっちりの原因は、グループ決めの一番最初に元Aクラス…現Bクラスの的場という奴が欲張って墓穴を掘ったことだ。Bクラス14人、他1人のグループを作るとか言い出して、総スカンを食らっていた。

 更に、1人たりともそのグループに入るな、Bクラス以外には得のない愚策だ、グループが作れないまま退学になりやがれ、的に龍園が笑顔で煽りまくったからさあ大変。

 

 一時はあわやグループ不成立(グループには他のクラスの奴が1人は必要なため)で、葛城のクラスから大量の退学者が出かねないほどだった。葛城が慌てて仲裁に入って妥協案を言わなければ、あるいはマジでそうなってたかもしれない。

 おかげで、BクラスとついでにCPトップのうちのクラスは、妥協案として主力グループの人数が2人ずつ減らされている。仮にAやBの主力グループが勝っても獲得CPを減らすというわけだ。なかなかの調整だと思う。

 

 クラスリーダーである龍園が弾かれてたのはこの煽った一件が一役買っており、うちのクラスの浜口、戸塚や橋本がこの闇鍋グループに来たのにも避難と監視目的な遠因もある。ああ、もしかしたら鬼頭もか。

 こうして僕の入ったグループは、わけのわからない愚連隊へと至ったわけである。

 

 とまぁ、見てわかる通り、他は大変そうだったが初日ということもあって僕は何もしなくていい気楽な始まりだった。

 学や南雲の対決だの、3学年の小グループで組む大グループ決め(僕のグループは3年の石倉・2年の南雲)だの、もう1つの穏健派っぽいはぐれ者12人の未定グループの責任者が幸村に決定したなど、コレ以外にもちょっとしたトラブルはあったが、僕にとってどうでもいい。スルーで問題ないだろう。

 

 

 

 何もしなくて良い合宿初日が過ぎ去り、2日目もざっとした授業や生活の流れを説明・体験して、次の日から本格的に始まるぞ、さあ寝ようって夜。

 南雲や体育祭で顔を知った石倉達同じ大グループに所属することになった上級生が、レクリエーションとか言いながら僕達1年生の部屋に訪れた。

 なんでも学年ごとに朝飯の当番をかけたババ抜きをするらしい。数少ないこのグループでまともなコミュ力がある戸塚と栄一郎、橋本がなし崩し的に言いくるめロールされたからだ。

 

 ただ、僕はあまり興味なかったし、視線は向けられたものの南雲にも石倉にも誘われなかったので、見るとはなしにゲームの行方を眺めている(各学年二人ずつで、僕達は栄一郎と戸塚、二戦目から戸塚に変わって橋本)と、不自然な点にどうしても気づく。

……南雲以外の上級生、めっちゃカードを凝視してんじゃん。そこまであからさまではないが、まるで偶然隣に座った爆乳美人の胸元をチラチラ見つめるかのような仕草だ。なんか仕組んでるだろ。

 

「おい左京。お前は参加しないのか?」

 

 二戦目は南雲の合図?でわざと1年生に花を持たせてくれたっぽいけど、このまま続けたらカモにされる。

 今回最下位になった南雲がカードを片付ける(最下位が次のカード配りをするルールだ)のを見つつそう思って、なんとなく僕に手を伸ばさせた───次の瞬間、見計らったように南雲が話しかけてきた。

 

「ん。最下級生だし、決まったら別に朝飯当番くらいやってやるさ。3学年ぶん40人弱程度なら無人島でも経験してるし」

「まるでもう1年の負けが決まったみたいな言葉だな」

「まだ決まってはないけど、確率は高くなるようにしてるだろ」

「どういうことだ左京? またなにかに気づいたのか……?」

 

 だけど特に思うこともなく普通に返すと、引っかかったのか橋本が聞いてくる。

 

「気づいたっていうか……なあ? え、まさか僕だけじゃないよな?」

 

 あれ? もしかして下手を打った?

 龍園は…寝たフリかよ、畜生。清隆と四方は目を逸らしやがる。高円寺は視線は送ってくるけど、どちらの邪魔もしそうにない。他は……栄一郎や戸塚含めて気づいているか怪しい。

 

「クックック。対応できそうなのは左京くらいじゃないのか。

 お前が来いよ。小細工なんか捨ててかかってこい。お前に勝っておくのもここに来た目的の一つだ」

 

 龍園が寝たフリして無視してるからって、笑い方や口調を真似てやるなよ。こんなところで乱闘騒ぎとか冗談じゃないぞ。多分、龍園もここではやらないだろうけども。

 しかし、逃げるのも1週間はこの状態と考えると無理があるか。朝飯当番なんかどうでもいいけど、また訪ねてこられると面倒だ。龍園が対処しないなら、僕でも対処可能なうちに手を打っておくのが妥当。

 

「そういうとこだぞ南雲。誤魔化そうたってそうはいかない。勘だけど、もう確信してる」

「ふっ。勘、か……。それなら尚更お前しか資格はないぞ」

 

 はぁ……。素直に学に専念してろよ。他が疑問顔のままだろ。まったく面倒くさい。

 面倒くさいがしかたない。

 目には目を、歯には歯を。ハンムラビ法典の一説である復讐的行為は相手と同程度に抑えておきなさい、って教えを叩き込んでやるか。

 

「わかったよ。でも不都合な結果になっても後悔したり、駄々こねたりするなよ南雲、と上級生の方々」

「するか。他になにかあるか?」

「じゃ、悪いけど栄一郎と橋本、代わってくれ」

「二人共、ですか社長?」

「うん。申し訳ないけど、僕の相方は石崎かー「俺ぇ? 自信ねぇぞ?」三宅君、だっけ? に交代を……いや、やっぱやめた」

 

 石崎と三宅は条件を満たしてるけど、ほとんど知らない奴だ。

 それなら、もっと適任がいる。

 

「アルベルト。Can I ask you?(頼めるか?)」

「To me?」

「いえ~す」

「……OK」

 

 怪しい英語でアルベルトを誘ってみると、龍園の方をチラッと見て承諾してくれた。

 

「Thanks、アルベルト。龍園は黙認ってことで今夜が」

「今夜が山田、ってネタ使いたくて『山田』アルベルトを選んだな夢月?」

「も、黙認ってことで、こう……一つお願い」

「よ、容赦のなさすぎるネタ潰し……! お前ら、同じクラスなのにある意味すげぇな!? そもそもこんな場面でやるなって話だが!」

 

 馬鹿な。瞬時に四方に見抜かれた……! いつものボーッとした態勢なくせに、ツッコミの切れ味だけは侮れないな。三宅が戦慄してんじゃん。

 視線をさ迷わせ、ふと見た龍園からの返事は返らない。ただのしかばねのようだ。ってことにしとこう。多分『何らかの事情』で龍園は動けない場合があると見た。清隆と取引か何かをしているのかもしれない。

 その清隆含む他の友達や同級生も、ツッコミが入るくらいでほとんど反応を返してこない。観察するような目を向けてくるだけだ。

 

 危険はないといっても僕の窮地に薄情な者達である。

 それか頭の良い奴は揃ってても、何を考えてるかわかりにくい四方や意味のない実力隠匿を好む清隆、遊びが多すぎるせいかやる気の感じられない高円寺と龍園じゃ、まともに動いてくれないってことだろうか。

 

 そうして再び始まった三戦目は、予定調和に1年生が敗北した。

 だが、アルベルトが最下位に『されて』しまったので微妙に困る。しかたなく無礼を働き、下手な演技をしながら手元近くにあったカードをぶちまけて言ってみた。

 

「あ、悪い。僕が片付けるから、おっと。I'm sorry, please forgive me(ごめん、許して)」

「……?」

 

 それにしても、ホントに無口だなアルベルト。目が口ほどにモノ言ってるからなんとなく考えてることは伝わるけど、これまでの僅かな付き合いがなかったら僕の英語力が低すぎか? と無駄に凹みそうだ。

 ただ、アルベルトとは不思議と縁を感じるし、まずは理解しようという心意気を見せるのが友達への第一歩だろう。そこへ似た境遇を経験する者同士の親近感や連帯感が僅かでも発生するなら、誘った意味はあるかもしれない。

 

 ま、アルベルトは置いといても、イカサマを見抜いた上で言及するのではなく別の方法で勝負仕掛けた方が南雲好みだろ。それにはアルベルトが適任の相方だ。おそらく勝てるから、結果で納得してもらおう。

 

 今のところ、6日間ある朝食当番は明日と明々後日の2回が僕達だ。そして明後日は南雲達2年生。

 折返しまで調子よく1年に押し付けてきたんだから、そろそろ反撃と行こう。

 まずは流れを引き寄せることから始めるため、僕は全員にカードを配って全体を見渡しながらひと当てしてみた。

 

「ふむ。準備は完了した。

 これでようやく一矢報いられそうだ。心を乱し、じわじわと追い詰めていこう」

「負けてるくせに調子に乗るなよ、一年がっ」

「ここで調子に乗らないのは僕じゃないですよ」

「ははっ、たしかに左京ならそうだな」

「……っ」

 

 すると、不自然に突っかかる反応したのはやはり1人。

 2年の桐山か……。てことは、これまでのパターン的に候補は2箇所。

 

「ババは……ああ、そこだな?

 アルベルト、『石倉さん』の手札だ。Second from the right(右から2番目)。attention please(注意しろ)」

「なっ、なぜ……!?」

「石倉先輩、落ち着いてください。左京のカマかけですよ」

 

 南雲が冷静に注意を促すが、もう遅い。

 トランプかは別にしても、こういう風に後輩の部屋などへ来て賭けを持ちかけ、負かして仕事を押し付けていく『先輩』は社員寮とかに住むと意外にいたりする。鬼龍院先輩に会うまで僕が先輩後輩にあまり良いイメージがなかったのは、こういうシチュエーションを経験していたからだ。

 そのため、手口はある程度でも観察できれば推測できる。

 

 ここまでのゲーム、2年にババが渡る時は3年が。3年に渡る時は2年が。何かしらの不自然な言動をしていた。

 僕は桐山も石倉達も体育祭で少し話しただけでほとんど知らない(もう1人の3年生・津野田に至っては完全に初対面)が、今夜だけでもこのパターンは何度か見た。またババの大雑把な位置は、視線と注意が向いてる箇所から割り出せる。

 これらの材料から要点をいくつか突いて、一つずつ狙いを絞っていく。

 

「ハンッ、予想が当たってたか。これで勝った」

「なんだと?」

「ああ、言い過ぎた。8割ってとこか? 仕掛けの内容からすると」

「……っ。仕掛け」

「ほう……」

 

 勝利宣言をぶちまけつつ、さり気なく更に掘り下げて深く洞察しつつ、何故かテンション上がってきた南雲に対応する。対抗策を編み出してくるとしたら、十中八九コイツだと僕の勘が言っているからだ。

 ゆえに今回は南雲の発言を待ち、後の先を狙って意思ごと撃ち落とす。

 

「悪くはない策だな左京。だが、それはお前にとっても退路を断つということでもあるんじゃないのか?」

 

 策というモノは、勝ち筋を見つけ、最適の行動を取ることだ。

 南雲が言うのは、僕がジョーカーの場所を暴露したことで、3年の持つジョーカーをわざと南雲や桐山の2年が引いて忖度するのを阻止したことを指す。怪しい場所がわかってそれを引くのは、八百長に見られかねないからだ。

 実は僕やアルベルト以上に、何らかの仕込みをしたい南雲にとって3年との連携ができなくなるのは困る可能性。勘だけど、それがなんとなく見えた。

 

 だから、僕はあえて不興を買いに行った。

 追い詰める場合だけは、自分の退路を考えてはならない。むしろ退路を考えた方が大抵負けるもの。

 勝つと決めたら後ろを振り返らず、真っ直ぐに勝ちに行く。

 これがシンプルで一番わかりやすいだろう。

 

「勝つ策ってのは相手を倒すのを最優先にするってことだろ。

 退路なんか……負けることを考えて勝負する馬鹿はいねーよ」

「……気に入った! 改めて気に入ったぞ左京! その心意気に敬意を評して俺も知恵と運のみでやってやる。

 そして『もしも俺が勝ったら』生徒会に入れ!」

「な、南雲……?」

 

 啖呵切られて勧誘? てか、なんでこれで嬉しそうになるんだ南雲は。僕は人がウッキウキになるようなことは言ってないよな? 言ってることもオカシイ。しかもなんか桐山が不審に思えるほど変顔を晒してるんだが。

 2年には頭がオカシイ奴しかおらんのか。

 

……まぁ、それは一旦置いといて。

 この一戦だけでなく、追撃に次ぐ追撃のノリと勢いをもって動揺を誘い続け、ポカのスパイラルに陥れておく。

 

「ふはははっ! 反撃だ、アルベルト! これから巻き返すぞ! イッツ・ルナティックタイ~ム! 今月今夜、人を呪わば穴二つの世界へようこそ!!

 そう───今夜が山田!」

「結局言うのか、夢月……」

 

 なんせパターン作りは僕の得意分野だ。目の前で即興で変えられないなら、このまま一気に決められる。

 しかし南雲には粗方見抜かれ、見抜いてる状態か。

 なら、プランを微調整。不本意だが、南雲に乗っかる形が最も勝率が高くなるだろう。

 

「クックック。やるじゃねぇか……。最初からやれよ」

 

 いつの間にか身体を起こして観戦態勢に入ってた龍園のツッコミはスルーだ。おまゆう案件である。殿中でござるぞ。

 なんにしろ、上級生達の雰囲気でやってることの当たりを付けたが、おおよそ当たってたみたいだな。更に冷静さを失わせて、1年に仕事を押し付けようとした対価を支払ってもらおう。

 さあ、南雲。お望み通り白黒付けてやる。

 ま、こんなこと言っておいて、すでに2敗してるから1年生の勝ちはないんだけども。

 

 

 

 4戦目以降も南雲以外は敵ではなく、口車に乗せてババの位置を把握、または押し付けることに成功し、残りゲームは3連勝を飾ることができた。これには裏もあるが、アルベルトの表情が読まれにくかったのも勝因の一つだろう。

 これで朝食当番は3年生が後半の3回と、終わってみれば最上級生が『ババ』を引かされる結果となった。ま、元凶だろう南雲のいる2年は1回だから、個人的にちょっと納得いかないがな。

 ゆえに、その納得いかなさを切り替えるため、僕はこれ見よがしに軽い隠し芸をやってみた。

 

「一瞬カードが消えた!? どうやったんだよ!」

「おお~、すげーじゃねーか左京!」

 

 ゲームが全て終わったということで、ササッとカードを拾い集めて無駄に格好付けたカードさばきを披露したら、戸塚と石崎が歓声を上げる。

 長きに渡るボッチだった小中学生時代、1人ポーカーで鍛え上げられてしまった自慢の奇術だ。これまで魅せつけるべき一緒にトランプをやる相手など存在しなかったが、思わぬところで日の目を見た。

 これは決め台詞も言わねばなるまい。

 

「君達の敗因は容量(メモリ)の無駄使い♥️」

「ブフォッ! ヒソカ好きだな左京!? まさかこれを現実で聞くことになるとは……!」

「余計なことをするからこんなことになるんですよ。勉強になりましたね、上級生の方々?」

「ああっ! メモリって何らかの動きを指してるのか! なるほど!」

 

 橋本もツッコミ&解説ご苦労様。他の上級生や四方、栄一郎、三宅なんかの観戦組も驚いた雰囲気で気分が良い。他の協調性皆無な奴らは言うまでもなく、あまり変化なしだ。

 それはそうと……ふむ。アルベルトはわからないが見た感じ、僕の手付きに惑わされなかったのは対戦者では南雲だけか。今のが見えないようでは、またどこかでカモられるんじゃないか。

 

「……そうか。ババのすり替えだな?」

 

 これで全てが確信に至ったのかもしれないが、発言から考えてだいぶ前に気づいてただろうに今更問う南雲。

 もちろん僕はノリに乗った答えを返す。

 

「やっぱり便利。僕の“薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)”」

「うおっ! 今度はそれかよ!? よく繋げられるな、お前!」

 

 どうでもいいが橋本も好きだな、ハンターハンター。なんかキャラに似合わず、やけに興奮してる。実は南雲の言う通りなのでヒソカのアレとは完全に別物だけど、楽しんでくれたなら幸いである。思えば干支試験のクラピカ発言の時もそうだったけど、上級生はほぼスルーしてるのに……むしろ南雲の方がそれっぽいことをしていたからかな。

 

「ババをすり替えた!? イカサマをしたのか! たしかに左京が入ってからのトランプには───」

「違いますよ。いえ、左京がやったのはズルはズルなんですが、不正じゃありません」

 

 一方、いま石倉が言おうとしたことを遮ったな。明言だけは避ける腹か。

……だけど、しかたない。不都合を押し付けてこないなら、僕も流れに乗ってやろう。

 

「不正ではないイカサマ?」

「はい。カードを増やしたわけでもなく、抜いたわけでもない。勿論、『目印』なんてものも付けちゃいない」

「め、目印…だと?」

 

 4戦目以降、カードを見回して動揺を出してた点から十中八九そうだと確信してたが、石倉のこの反応。やっぱり3年もグルだったか。まず『最初のジョーカー』を注視していたあたりでそう考え、手を打っておいてよかった。

 

「どうも一戦目で気づかれてたみたいですね。そして俺達が二戦目をしてる間にもう1枚のジョーカーを拝借されてたんですよ。おそらくですがね」

「そんなものがどこに!?」

「トランプが入っていた箱っすよ。普通は2枚入ってますから」

「なっ……本当だ! トランプの箱に入れておいたジョーカーがない!」

「なんだと!? だが、しかしゲーム中にそれを指摘されたら反則」

「それも違います。新品のトランプを開封したのは石倉先輩、最初にシャッフルしたのは俺。つまり少々強引ですが、俺か石倉先輩のミスと言い逃れることは状況から考えて簡単でした。2枚入っていたから片方を抜いておいた、とかね」

 

 う~む。だが、口を挟む隙もない。実に冷静沈着な論理展開。

 南雲の2年生じゃなく、油断や侮り、動揺を透けさせていた3年生を標的にしといて正解だったかもしれん。この石倉の出している反応からすると、5~6戦目で暴露されてたら面倒なことになっていた。

 

「俺にも……だと。馬鹿な……!」

「そうして全ての準備と保険を整えた左京は、三戦目で橋本・松雄と交代する時にカードを確認。アルベルトって奴の背中を利用して4戦目までのシャッフルのどさくさ紛れに、何の『小細工もしていない』ジョーカーとすり替えた。だからこの部屋で最も体格の大きいアイツをもう1人に指名したんじゃないですかね。

 合ってるか左京?」

 

 3年を『南雲が助けられなくしたこと』には触れないか。

 しかし、なんで僕の策はこうもすぐにバレるのか。そこそこ上手くやったと思うんだがなぁ。南雲の小細工なんか捨ててかかってこい、を実行したからだろうか。

 顔に出てるかもだけど、そのままは言ってこないだろうが。なぜなら、これを深く指摘するということは自分達にも返ってくるからだ。

 

「さあな。でもお互い様だし、サラリと流す年上の度量を示してくれよ」

 

 もし真相究明するために証拠を突きつけてくるなら、その『証拠』で反撃してやろう。僕達1年生の前で、これ見よがしに新品のトランプを開封し、2枚入ってたうちの片方に小さな目印を付けたジョーカー、というこちら以上のズルの証拠で。

 当然、僕のポケットに証拠は確保済みである。

 

「はははっ! やはりお前は大したものだ。他の有象無象とはひと味もふた味も違う。こちらを指摘せず、あえて俺と違うイカサマで返してきやがるなんて生意気極まりない! 俺が戦術を誤っていたと認めてやろう!」

 

 しかし、南雲は機嫌良さげに有耶無耶にした。喧嘩を売りに来たわけではないらしい。

 だから一応、僕も挑発とも取れる忠告をしておく。

 

「上から言ってんじゃない。細かいことはわからんが、南雲達が仕事を投げつけてくるなら投げ返すまでだ。僕を巻き込む……てか、この面子に仕掛けてきたその驕りは控えた方がいいぞ? たまたま僕が優しかったから、こうして手心を加えてやったんだしな」

「たまたま、な……。ククッ、安心しろ左京。今回は挨拶と交流以上の意味はねぇよ。俺の本命は別にあるしな」

 

 以前から言ってる学のことか。南雲のこの感じだと場外乱闘にはなるかもしれないが、案外スッキリしたやり方を考えてそうだ。

 何度か僕が関わった事も少しは影響してるのかな。機嫌が良いっぽいせいか、微妙に陰湿な雰囲気が薄れて見える。

 結局この交流した夜はそのまま解散となり、上級生達の帰り際に僕が連れションに引っ張られて少し話したくらいで何事も起こらなかった。

 そして僕は1年生の部屋に戻って独りごちた。

 

「…………よし、無事にやり過ごせたな。目をつけられないようにした甲斐があった」

 

 本日も平和でなによりである。

 

「「「どこがだっ、明らかに有事だっただろ!!? 頭沸いてんのかてめぇ!!」」」

 

 何故か何人かのルームメイトに突っ込まれたが。

 

 

 

 

 

 合宿3日目は、ババ抜きの結果により1年生が食事当番である。

 ゆえに朝の4時過ぎに起きて支度を整える。

 うちのグループの責任者である龍園があまり口出しして来ないので、自分のペースで動けてやりやすい。合宿中は龍園の足りない部分を補佐する役割の1人として動くのが僕には楽そうだ。

 太鼓持ちは苦手分野だったし、クラスも違うが、そんなモノを重視しない龍園は意外と補佐し甲斐がある。清隆を意識してるっぽいCクラス組のこともあるし、そこさえ少し注意すればそう悪くない面子なのかもしれないと思い直した。

 

 尤も、ピリピリした雰囲気を醸す戸塚や三宅、稀に鬼頭はいるし、単純に真面目な態度を『取れない』場合がある清隆や龍園、石崎はいる。高円寺や四方のように時として自由に動く奴らもいる。

 まぁ、後者は集団行動での必須事項な点呼時には普通に集まってきてるし、そこらへんはわかってる奴らだ。問題ないだろう。

 

 調理場で龍園が教師から渡されたメニューを元に、適当な担当を割り振ってそこそこの量の朝食を作る。

 野菜のカットなどはアルベルトを中心とした物静かな奴ら。何気に清隆や鬼頭もアルベルトと並んで調理していた。

 ベーコンエッグなどの焼き物は四方や橋本が中心となって次々と完成させている。二人ともなかなか手慣れていて、普段から自炊しているだろうことが窺えた。

 

 汁物と飯に関しては僕達だ。量が量なので戸塚と栄一郎に手伝ってもらいながら、片手間で飯を炊きつつ味を調える。料理の場合なら、整えるよりも調えるの方が美しく正しいだろう。

 ちなみに途中まで飯を炊いてた浜口と三宅もここだったのだが、三宅がなんか味見?に来た龍園・石崎と睨み合いを始め、浜口がそこへ仲裁に入ったことにより僕と戸塚が交代した。

 でも今回に関しては龍園や石崎は原因じゃない。彼らの視線は味噌汁に向いてたし、三宅が過剰反応してしまった可能性はある。わからないでもないが。

 

 なので、空腹のせいで早く食いたいのかと思って少し分けた野菜でスティックを作り、味噌や塩で簡単に摘まめるようにして彼らに差し出しておいた。

 手を洗ってから仲良く食えよと言って渡したら、何故か龍園含めた4人から呆気に取られたような顔を向けられたが、料理を作る者の役得とすればこれくらいの融通は大丈夫なはずだ。

 

 ああ、高円寺は最初に僕達が調理している食材を大量に運んでくれてたので、調理は免除するよう龍園に頼んだ。料理の腕前とかが心配なわけではなく、単純に高円寺と折り合いが悪い面子が多そうだから無理に協調しない・させないのがお互いにとってベターである。龍園が特に指示しないので、代わりに調整しておいた。

 ゆえに彼だけは今は自由時間を満喫していることだろう。

 

 高円寺みたいな奴を精神・物理問わず狭い環境へ押し込めるのは、その場はともかく後々に明らかな悪手になる。余裕がある時は解き放っておくのが、誰にとってもいいはずだ。

 なぜなら、締めるところはきっちり締める奴だからな。軽いフォローや口添え程度なにほどのものでもない。必要ならそれまでに空いた穴は、友達である僕とかが埋めれば万事解決である。

 

 ともあれ、そうして作った朝食は上級生にもそれなりに好評だった。

 素材もスティックにしてそのまま食っても問題ないくらいには良かったし、レシピ通りにすればこんなものだろう。

 自然とこうなった適材適所の割り当てのおかげか、3日目からは雰囲気も悪くはなくなっている。

 

 大グループ合同授業でも目立った不具合はなかった。

 不良系の奴らも大人しく?授業を受けている。せいぜい休み時間に2年の桐山が高円寺に突っかかって……全く関心を向けられず遊ばれてた程度だ。なんらかの浅い意図の茶番が外野の僕にさえ透けてたせいか会話が退屈だったのだろう。気持ちはわかる。

 ちなみに僕は先に述べた通り、基本は真面目っぽい態度を保って授業を受けていたので言いがかりを付けてくる奴はいなかった。てか、なんか南雲以外の上級生に避けられてる? 何故だ。

 

 強いて言うなら、南雲が意味もなくちょこちょこ話しかけてきて鬱陶しく、清隆の不審者スキルの一つであるデコイで誘導し、彼に引きつけて躱したくらいか。

 学も絡めて何度も清隆の不自然さをアピールしたために南雲も興味を持ったのか、素直に清隆の方へ行ってくれて助かった。南雲に付きまとわれだした清隆からは恨めしげな視線を送られたが、これはいわゆるコラテラル・ダメージというヤツだろう。

 

 

 

 教室での授業中、外のグラウンドでマラソンする女子達の声が聞こえる。

 教師にバレないよう横目で見てみると、どうも愛里と早苗、椎名は一之瀬のいるグループに入ったようだ。ということは、櫛田もひょっとしたらいるかもしれない。でもアイドルグループじゃあるまいし、そんなことはないか。

 他は知らない奴だから僕達と同じで、はぐれ者グループを一之瀬か椎名が制御しているとかだろう。

 って、そんなことより校門?付近にキラキラ光ってる小さい何かが見えるんだが、アレはなんだ? 好奇心をくすぐられる。

 でも話の種はいくらあっても困らないからな。僕は今日はマラソンの予定がないし、夕食時に女子の誰かと一緒になったら聞いてみよう。

 

 こんな事を考えていても、一応授業は聞いている。個人的につまらないから集中力が削がれるが。

 なぜなら本格的に始まった合宿の授業は、馬鹿の主張に乗る価値なし、といいたくなる偏見にまみれた平等やレディファースト、マナーについての話だったからだ。

 

 先の話だが、これは基本的に次の日以降も同じだったので、最終日のテスト用にいくつか要点を押さえたら、あとは授業態度だけまともに見える手抜きを発動しつつ、それとなく無視でいいだろう。教師を論破することも僕を含めて何人かなら可能だろうが意味がない。

 馬鹿に対する最高の攻撃手段である無視が最適解だ。

 

 そもそも男女平等の平等は何を意味してるのか。

 フェミニストやポリコレは努力や能力、性差を無視した『結果の平等』を求めてるからバカバカしいのだ。少なくとも僕は聞く価値を感じない。

 最近は怪しくなってるが、日本は平等ではなく公平な男女同格の国である。

 最初は全員が一斉に競い合って、その後にあるグループが残らないのなら、改めてそのグループだけのものを作る。それが学校でいう女子大・女子高、将棋や囲碁の棋士でいう女流の始まりだ。

 これが結果的に一番公平になるのを理解できない奴が、男女差別と言い立てたりする。実にナンセンスで馬鹿馬鹿しいだろう。

 

 レディファーストについても、本来はイギリスやフランスの貴族にあった暗殺を警戒して女を先に通して盾にするための風潮だ。言葉だけ都合よく使っても、弾除けにすぎない本来の意味からすると、ちぐはぐで無理矢理すぎて逆に笑えてくる。

 ちなみにオランダでは女が後だ。理由は街が狭く階段が急なため、男が先に登って女のスカートの中を覗かないため。そして降りる時は、男が先に立ってガードをするというわけだな。

 

 総括すると、社会系の教科でも道徳でも一部の人たちに都合の良い、かなり歪んだ内容になっていた。戦後教育は知識だけで心を教えてないとは言うが、まさにそれを実感できる座学授業である。

 普段の学校や小中でもそうだったが、アメリカに押し付けられた新学校制度では、現代でも本当の地理と歴史は教えていない。

 地理は地名や山や河川の位置関係の丸暗記。歴史はそれに至った要因や流れを教えちゃ駄目とでも言ってるつもりなのか、年代や歴史上の人物などの名前や事件の丸暗記でテストの点数を競うのみ。

 

 そして僕が聞いていた授業の中で最大のねじ曲げた例は、戦前の日本に民主主義はなかったという部分だ。

 当時の『民本主義』という言葉を無理にもほどがある『民主主義』と言い換えて、戦前の日本には民主主義はなかったと教えていた。彼らの頭の中では、大正『デモクラシー(民主主義)』がどうなっているのかどうでもいい疑問が僅かに湧き上がった。

 更に邪推するなら、米国にとって民主主義国同士は戦争しないという神話が、米国の存在そのものに関わっているからだろうか。それを現代の教育現場まで引き摺るなと個人的には言いたいわけだが。

 何気にこれはドイツでも同じである点から、本当に牙を抜く意味があるかもしれない。

 断言してもいい。この教育方針は大多数から思考を奪うと思う。GHQの陰謀論が出てくるのもわかろうというものだ。

 

 スピーチは、そこまで心配しなくていいだろう。

 あれは意見を押し通さなくていいプレゼンのようなもので考えておけば、最低限の点以上は取る自信がある。準備期間も1週間近くあるし、ブラックなこの学校にしては難易度が低めだ。

……無茶振りがないだけでホッとしてしまうように調教されてる気もしたが、考えてもしかたないので忘れよう。

 

 禅は何人かが姿勢や言動を注意されていたが、これも無茶苦茶というほどではない。なにより僕や四方はどれも普通に可能だったので休み時間に転用できる。なぜなら、この後がマラソンになる時間割りもあったので、ゆっくり休める禅の時間は有効活用したい。

 他に特筆すべきことはない可もなく不可もない授業だった。

 

 しかし他の授業はともかく、道徳の1人の先生に関しては近年稀に見る真面目に聞く価値のある授業だった。

 終戦の前と後で、日本がどのように変わったのかというような話や、教育勅語、尋常小学校時代、海軍兵学校時代の話等々、品のあるきちんとした言葉遣いで穏やかに語ってくれる初老の良い先生だ。

 

 この先生の考えが全て正しいかどうかはわからないが、話を聞いていると何とも心に染み入るものがあり、清々しい気持ちになったり涙まで自然と出てくるような……なんというか、気持ちの良い生き方をしてきた人のように感じた。

 同じ教室で講義を聞いていた四方や高円寺も僕と近い印象だったのだろう。真剣に渡されるモノを受け取ることに躊躇いない授業態度だった。

 こういうまともな教師は1人でもいてくれると勉強が楽しくなるので、合宿期間の臨時講師とはいえ、最大限の敬意を払って1週間しっかり学ばせてもらおうと思う。

 

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