ようキャ   作:麿は星

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136、Tレックス

 

 面倒な事態が発生したのは合宿3日目の夜、その大浴場でのことだった。

 たまたま近くでやっていて、新たな王者となっていたアルベルトが小さく呟くのが聞こえてくる。

 

「Oh My Got」

 

 須藤が慄くように言葉を漏らす。

 

「おまえ、本当に人間かよ」

 

 戦うステージにさえ登れなかったその他大勢の生き証人からは声すら漏れない。

 高円寺の持つ一本の剣は、浴場にいる男子達にそれほどの衝撃をもたらしたらしい。現在の浴場は静寂に支配されている。

 

「……ああ。須藤や葛城をライフルとするなら、アルベルトはバズーカだった。しかし───」

「き、清隆?」

 

 そんな中で、コイツはいきなりナニ言い出したんだ?

 

「高円寺はバズーカさえ超越している。あれはさながら」

「さながら……?」

 

 戦局を分析する将校のような極めて真剣な表情で清隆は宣う。

 

「───戦車だ」

 

 早苗とは違う意味で、コイツは落差が凄い。

 本気で混じり気なしの馬鹿なんじゃないかとことあるごとに思わせてくる。生粋の常識人たる僕が思わずツッコミを入れてしまうほどだ。

 

「いや、真面目な顔してナニ言ってんだ清隆。頭がバグってんのか?」

「あの圧倒的な火力の前では太刀打ちできる者も稀だろう。火力と装甲、巨大さをもって全てをなぎ倒す」

「ナニ言ってんだパート3。せめて迫撃砲とかに例えろよ。戦車じゃ動かすのに何人も必要だから適当とは言えない」

「……夢月もなにを言っているんだ。そこじゃないだろう」

 

 四方にツッコミ入れられた。

 だが勿論、何故かノリに乗っている清隆の口は止まらない。彼こそが戦車だと言わんばかりにひたすら突き進む。

 

「もはや、高円寺の進撃を阻む者など存在しないだろう。なぜならこの大浴場(激戦地)にはバズーカに敵う者さえ存在が疑われているからだ」

 

 アルベルトをバズーカに読み替えてやるなよ。本人はそれどころじゃない雰囲気を醸してるが。それに。

 

「大浴場に変なルビを振るな。てか、いつからここが戦場だと錯覚していた? 風呂は所詮風呂でしかないだろうが」

「夢月……これは無理だ。清隆にも変なスイッチが入っている」

「…………そもそも、なんでコイツらはここまでおかしくなってしまったんだ」

「珍しく高円寺が妙なノリで混ざったからじゃないか? アイツもやる時はやる男だからな」

 

 誰がアクセルかブレーキって以前に、誰も彼もがアクセルのベタ踏みする異変ってことか。

……ここをやる時だと見定めるなよ、高円寺。

 

「クク。待てよ高円寺」

 

 その時、ゆっくり湯船に浸かっていたこの男までが乱入してきた。

 コミュ障四天王であるCクラスの王・龍園翔だ。ちなみに他の四天王が早苗、清隆、堀北さんだというのは僕の中で常識となっていた。

 

「ほう? 君に私の相手が務まるのかね?」

「いやいや、流石の俺もソレには勝てないさ。だが、まだ勝てるかもしれない奴らが潜んでる可能性はあるだろう?」

「Hmm……」

 

 その龍園の言葉で周囲を見渡しだす者共。

 あっ、なんかスッゲー嫌な予感。と、どこからか飛来した電波を受信した僕は、高円寺が言葉を返すのを待たず最も広い湯船へ密やかに移動して飛び込み、潜水してなるべく遠くへ───っ!?

 

「逃がさん、お前だけは……!」

「ひっ! 清隆ぁ……! 追い詰められた七英雄かお前は!?」

 

 この天才馬鹿、自分が逃げられそうにないからって僕を巻き込もうとしてきやがった!

 水場でお互い素手なために滑るからか、ギリギリいうほど力の込められた清隆の左手が僕の逃走手段を完璧に防いでいる。

 しかも……くっ! 四方のヤツ、忍んでる忍者のように密やかかつ最小限の動きで、すでに浴場の出入口から離脱するところだ。

 

「四方……! 僕も連れて行ってほしかった……!」

 

 僕は行動の選択を誤った。むしろチンコ比べが始まった時点で浴場から出て行った栄一郎や神崎のように……遅くとも四方のように風呂から上がっておくべきだった。

 だが、なんらかの示唆はあってもいいだろうが、四方よぅ……。

 

「諦めろ。オレはもう諦めた」

「諦めたんなら、僕まで道連れにすんなよ。このままの流れだと2人揃って晒し者だぞ。自らの快楽のためだけに、清隆を巻き込もうとしている悪しき者共の煽りに乗ってはいけない!」

「どちらも悪しき者定期……とはいえ。ふっ、オレ達は友達だろ? 共に戦車である高円寺に立ち向かおう」

 

 駄目だコイツ。すでに逃走を諦めてやがる。

 

「なんで僕を巻き込む……! 僕は逃げたい!」

 

 だが、少しでも悪目立ちしないよう同じく場から逃げ遅れた清隆と小声で言い合う。

 先伸ばししようと、なるべく静かに風呂の水面を叩いて嘆く自分の腕が虚しく感じた。

 

「ククッ。コイツら、やる気みたいだぜ? 雑魚どもと違って戦意が萎えてねぇ」

「ほう? 夢月と綾小路ボーイか。たしかに圧倒的なこの私が目に止める価値はあるかもしれないねぇ」

 

 戦意とか価値がどうというか、そもそもどうでもいいんだがそれは。

 だが、清隆に押し付け……逃げる手段はまだ───。

 

「決まりだな」

 

 僕と清隆を嘲笑いつつも、視線を逸らさず。極めて冷徹な龍園の煽りが業火を吹き上げる。

 対抗策は……これしか思いつかない。僕は嘯きながら、清隆とアイコンタクトを交わす。

 頼む、伝わってくれ……!

 

「は? なに言ってるかワカリマセンね。僕、日本語不自由デ~ス」

「……夢月。お前、それは無理があるだろ」

 

 伝わった?

 よし、それなら一か八かの策に打って出る。

 

「きっ、清隆ならどうなってもかまわない! ただ僕は見逃してくれ!」

「なんてこと言うんだ! お前がそういうつもりならオレにも考えがあるぞ! 表へ出ろ!」

「いいだろう! では可及的速やかに浴場から出て」

 

 僕も清隆も素直に火に巻かれるつもりはない。即席コンビのアドリブ喧嘩で脱出手段を導き出し、構築する。

 以心伝心できたし、死地から脱出まで清隆と決闘するかのような雰囲気を醸せば───。

 

「───いや、もう逃げらんねぇから、お前ら」

 

 石崎とアルベルトが回り込んで来なければ、あるいは逃げる目もあったかもしれない。しかし素っ裸のタオル一枚で詰んでる状態から逃げおおせる要素が皆無であった。僕も。清隆も。

 

「お前ら、コールしてやれ。コールを」

 

 オマケに龍園は手を弛めない。

 将軍が采配を振るうかのように煽る龍園の統率力の前に、グループを作る時はあれほど不信感満載だった奴らが一致団結して従い、囲いを狭めて鬨の声を上げる。

 

「「左京! 左京! はーずーせー!!」」

「「綾小路! 綾小路! かっ飛ばせっ!!」」

「「「うおおおおおっ!!!」」」

 

 てか、かっ飛ばせ、とは? なんだこのノリ……。

 

「聞こえるかね夢月……。私というパーフェクトな男に対抗する者として自ら立ち上がり、信頼し、応援をする彼らの声が」

「ああ、お前らとやり合うことになった時からすると、よくもまぁここまで至ったものだぜ。わかったらさっさと湯船から立ち上がれ」

 

 あ、駄目だこれ。高円寺はともかく、龍園が確実に刈り取りにきてる。周囲から外堀を埋めてじっくりと。

 清隆は早々に諦めて遠い目になった。それでも一縷の望みを賭けて僕は最後まで抗う。

 

「ざけんなっ! 自分が立てよ龍園! てか、僕はそういうイロモノとは違うから!」

「やかましい。風呂で騒ぐな。俺はお前らが負けるところを見たいだけなんだよ。それに、たかが自分の武器を見せ合うだけの気概もないのか? ダセェな、お前ら」

 

 龍園、コイツ……!

 コミュ障四天王の筆頭なくせに生意気な。

 

「てか、左京は夏に船でやっただろ。あの時に見た感じ、隠すようなサイズじゃなか」

 

 まぁ、それはそうと。

 

「いてぇ!」

「それは秘密です☆ お口チャックだよ柴田君」

 

 風呂から身を乗りだし、素早く転がっていた桶を掴んだ僕は龍園……ではなく、余計なことを言い出そうとした柴田へ全力投球。桶は見事にクソイケメンの顔面に直撃した。

 とりあえず不都合な事を言いかけた曲者の口を、某魔族のお約束通りに人差し指を立てて封じたのだ。桶も追加で。

 下手だから嘘はつかないが真実も教えたくない。なので、嘘以外では誤魔化せないなら口を塞ぎ、また塞がせる。

 

 別にチンコを見せること自体はどうでもいいが、あの時とは僕の心情が違う。愛里の中に入れる時はもの凄く苦戦したのだ。あれで、大きければいいものではないと僕は学習している。

 それが万が一、戦闘態勢でもないのに清隆から戦車とまで例えられた高円寺のモノと比べ物になるレベルだったとしたらどうだ? 僕はそんなモノで16歳の胸以外は小柄な女子の初めてを貫き、継続してソレで身体を慣らしている鬼畜ということにならないか?

 考えすぎかもしれないが、最近ようやく彼女の反応が良くなって楽しくなってきたこの時、懸念と気遣いが発生しそうな真実はあまり知りたくない。

 

「てか、さっきから夢月だけなんか違うことを考えてないか? どうもズレてる気がしてならないんだが」

 

 清隆はいったい何を言っているんだ、そんなわけがない。

 僕は真剣だ。真剣に高円寺は勿論、葛城や須藤、アルベルトの時もモノを見ないようにしていた。おそらく僕ほど、状況に合わせて自在にチンコの大小を変化・変形、または魚類のように格納させるチートが欲しいと思ってる奴はそうはいないだろう。

 我流奥義の現実逃避『思考自己改変』である。

 

 だがしかし、それは彼女と付き合った経験のある男に大なり小なり存在する一般的な願いなはずだ。ズレてるなどということがあろうはずもない。清隆ほど位相のズレた存在にはそれがわからんのだ。

 チンコの話題は、それほど今の僕にとってナイーブな問題なのである。

 しかし───。

 

「「「左京! 綾小路! 左京! 綾小路!」」」

 

 浴場にコールが響き渡る中、物理的にはもちろんのこと、空気的にももはや逃げられないことを悟る。

 僕はなんでこうなった、と現実逃避気味にほんの少し前までの平和な入浴時間を思い返しながら、自信満々に佇む高円寺と……ついでに謎の決意を示す清隆を見て諦めた。

 

 

 

 事の起こりは、男子の浴場でゆったり風呂に浸かっていたところ、何人かが盛り上がりだしたことだ。

 聞き耳立てずとも聞こえてくる内容は、チ○コの大きさ。まずは石崎から、体格の割にはと指摘された金田が王者にのし上がった。しかし、自ら参入した須藤が新たな王者となり、彼に対抗するため戸塚が葛城を推薦。ほぼ同率の脅威を知らしめた。

 

 そこで話が終わるかと思いきや、誰もが頭に思い浮かべながらも無意識に除外していたと思われるアルベルトを石崎が喚び出す。ソレは黒人ハーフにふさわしい巨砲であるらしく、それまで王者だった須藤に膝をつかせることに成功する。

 今度こそ決着だろうと浴場にいた全員が納得したその時───。

 

「はっはっは! 君達はチルドレンのような愉快なことをしているようだねぇ」

 

 僕と四方の近くで湯船に入っていた高円寺が自信満々に高らかな声を上げる。

 勿論、僕は即座に気配を消して場所を移動した。巻き込まれたくないからである。四方も付いてきたのを見ると同じらしい。

 そして僕達は清隆の近くに身を潜めて、成り行きを眺めることにしたのだ。

 

 現在は1年生の入浴時間なので他の学年はいない。なんか時々話しかけてくるようになった南雲が確実にいないため、この時間は僕の憩いの場となっていた。

 なので、夕食の時に早苗や愛里と話したキラキラ光るモノについて話している中での出来事だった。

 

 ちなみに、校門付近でキラキラ光っていたモノの正体は、早苗が教えてくれたところによるとペットボトルらしい。実際に見るまでは確定できないが、漂白剤と水を入れて太陽光を乱反射させることで光度を上げる照明アイテムだと思われる。

 これは本来、アメリカのMITで発展途上国用に日中の室内照明として広められたものだ。たしかフィリピンをはじめとした国に作り方が伝授されたという話を聞いたことがある。

 

 現在はどうなのか知らないものの、昼間に家にいる場合の多い途上国の女の勉強や労働に重要な役割をなし、しかも安価で作り方も簡単なために重宝される発明品なのだ。

 そんなモノがあちこちにある理由は、おそらく獣避けだろう。早苗達と話して出した結論がそれだった。

 その後、僕達は色々な応用法を出し合って限られた時間で大いに盛り上がった。実に有意義な一時だった。

 

……ふむ。あのキラキラ。チンコを隠すモザイク替わりに使えないだろうか?

 

 野郎の局部を比べ合う意義がわからなくて、つい記憶から意味不明な理論を導き出してしまった。完全にノリに乗り遅れたというのもある。

 もはや、ここから僕が相乗りを申し出るのは難しい。どの結果だとしても憂鬱を呼び起こす可能性は高いだろう。

 

 

 

 よって開き直って、切り替える。

 それが唯一の冴えたやり方だと信じて進撃を開始する。

 いまだ僕と清隆の名前と「タオルを外せ!」コールをしてやがる馬鹿どもに、使い込みが甘いだろう僕の聖剣伝説を打ち立てるのだ。

 

「ふっ、いいだろう(ヤケクソ)。

───我が聖剣をとくと見よっ!!」

 

 思考を切り替えた僕は、おもむろにそう言い放って自分と……清隆を引っ張って立ち上がらせつつ、自他双方のタオルを剥ぎ取った。虚を突かれた表情で清隆が息を呑んだ。

 そもそも僕を巻き込んできたコイツだけは逃がさん。

 

「おい見ているか高円寺。お前を超えるかもしれない逸材はここにいる。それも……2人もだ」

「……あ、てぃ……Tレックス……!!」

 

 まずは一番近くで痛がっていた柴田(桶をぶち当てたので)と橋本のモテそうなコンビへ堂々と局部を晒す。どうも錯乱してるようにも見えるが、ネタに走った柴田が漏らしたのは安西先生のお言葉だ。問題ないだろう。

 他人としっかり比較したことはないが、剥ぎ取る時にチラッと見えた清隆のモノと大差なかったから、僕のモノもちょっと人より大きめ程度なはずだ。それならアルベルトという外界の巨人をも凌駕する高円寺には到底敵わない……はずだ。

 騒がしかった浴場がいまや静寂に包まれているのも、きっと大げさなリアクション。嫌な予感が膨れ上がってくるが、全ては錯覚か勘違いである。そうに違いない。

 

「マ、マジかよ。綾小路はまだしも、左京のヤツまで……」

「アンビリーバブルや……! ヒー・イズ・アンビリーバブル!」

 

 しかし僕の期待とは裏腹に、全然潜められてない話し声で野郎どもは再び好き勝手に騒ぎ出す。なんか某バスケ漫画の彦一みたいになってる戸塚弥彦がいるが。

 

「これはこれは……。正直感心したよ。まさか一部分とはいえ、この私と同レベルに達するほどの人間がいるとはねぇ。ここまでの領域に至れば、私達に存在する僅かな差などないも同然。誇りたまえ。夢月、綾小路ボーイ」

 

 挙げ句、高円寺まで歩み寄ってきて、ノリノリで確定してしまった傷を抉ってくる。

 

「お前ら! コールだ! ここに新たな伝説が生まれた!」

「「「う、うおおおおおっ!!!」」」

 

 まだやってんのかよ、コイツら。

 追い打ちにしかならんから、もう勘弁してくれ。

 そんな僕の内心をよそに、それぞれに冠された謎の異名コールが浴場の壁に反射しながら響く。

 

───綾小路・T~れぇっくす!

───高円寺・モサ~サウルス!

───左京・波動砲ジャ~ッカル!

 

「おい待てっ! 陸最強のティラノサウルスと海最強のモササウルスはわかるが、なんで僕だけ異質な第3陣営なんだよ!?」

 

 ただ高円寺の異名とやらまでは、どっちかというと水陸が逆じゃね? と落ち着いて聞いてられたが、僕のモノだけは聞き捨てならない。もはや陸最強の恐竜が、実はティラノサウルスじゃないこともどうでもいい。

 

 どこからまだ開発されてもいないAmong Us(2016年現在)のMOD役職が出てきたんだ。

 清隆のHPが少なそうだから追放か? 追放されるのか僕達? そして僕が第3陣営ってことは、清隆と高円寺はインポスターなのか? インポスターは恐竜だった? たしかにあのゲーム、KILLモーションの一部は明らかにオカシイが……わけわからん。

 

「わからないくてもいいさ。そして考えなくてもいいのだよ夢月。ただ感じればいい」

「高円寺はまたなに言ってんだ!? 僕は誰かをサイドキックすればいいのか? それとも弾にして強化波動砲でもブッパすりゃいいのか? クソ、僕はなにを言ってるんだ!」

「お前がわからなければ誰にもわからないだろう……」

 

「まるで怪獣大決戦のような光景だな……」

 

 どこか呆然と零す橋本の呟きが聞こえたのだろう。高円寺が笑いながら言って聞かせる。

 

「ははは。君達は歴史の生き証人となったみたいだねぇ。せいぜい語り継ぐといい」

「語り継がせるなァ! 恥でしかない!」

「そうだ! 語り継ぐと言うなら高円寺と清隆だけにしてくれ! 僕は関係ない! 白旗を上げよう! お前らの戦力には到底敵わない!」

「夢月、お前もか!? お前までオレの敵に回るというのか!? 謙遜するな、夢月のソレは高円寺に勝るとも劣らない波動砲だ!!」

 

 清隆の野郎、また引きずり込もうとしてきやがる!

 そっちがそう出るなら僕も本気を出すまでだ。

 

「そんなわけないだろう! お前らが異次元の存在なんだ!

 そう───水陸最強の恐竜の名を冠された男達という、な?」

「ばっ、馬鹿野郎!! お前、夢月! ここでそんなこと言ったら……!」

 

 もはや何を言ってるか自分でもわからなくなりながら、僕はより知名度の高いと思われるTレックスを懸命に称える。

 これこそが収まりの良い着地に繋がると信じて……!

 

「清た……いや、悪い。Tレックスよ。お前こそ謙遜するんじゃない。胸を張るんだTレックス・キング。

 お前が高育のゼンラーマンになれ」

「キ、キング!? 全裸!?  冗談じゃない!!

 てか、悪いと思うならやめてくれ……本当にやめてくれ! このままだと」

「お、おお……キング。それはある意味コレにふさわしい……。ストリーキングってことか、なるほど」

「違う!! オレは変態じゃない!! あ、嗚呼、流れが…流れが定まってしまう……!」

 

 それにしても、橋本までなに言い出したんだ。今日はみんながオカシイ。

 ま、今はそのノリを利用して、清隆を発奮させるが吉だろう。

 僕は“さりげなく”方向転換しつつ、清隆へ名声を集める策を提案した。つまり三手先の詰みへ向けてだ。

 厳かに大衆へ語りかけることにより、僕のチンコはTレックスに及ばないと証人どもの印象を擦り付ける。どこぞの総統閣下の演説を応用した煽動手法だ。そして高円寺とともに、さりげなくフェードアウトするのが僕の最適解だろう。

 

「橋本、それに歴史の生き証人となった者達よ。ここに新たな伝説が打ち立てられた。その名も綾小路清隆。Tレックスを冠されるにふさわしき男だ。

 称えよ、キングに至った者の名を……!」

「Tレックス……!」

「そう、それでいい。この場にいない者にも教えてやれ。誰がソレを持つかを詳細にな」

「「「うおおおおおおっ!!! キング! 新たなキングの誕生だぁあああ!」」」

 

 よし。龍園を真似したり、橋本の言葉を引用したりで、上手いこと清隆へ注意を集められた。あとは適当なこと言ってこの場だけでも清隆の思考を乱せば、いかに天才級だろうと事態を収束させるのには時間と労力が必要になってくる。

 

「コ、コイツ! 流れの掌握と議論誘導が段違いすぎる……!」

 

 そうやって火を灯すのは訓練された社畜の応用スキルだ。これができないと際限なく割りを食わされるからな。

 この天才サマは意外とこういう部分が抜けている。

 なら、容赦なくそこを突くべきだろう。

 

「そしてもしもこの話が女子に広まったら、ストリーキングして話題を独占してくれ清隆。それか全校集会とかで、人生を擲ち、女を大量に侍らせ、その上で南雲あたりのモテ男に喧嘩を売りまくるプランもありだ」

 

 今はハッタリに過ぎなくとも、情報発信能力の高い奴の前でことあるごとに擦り倒せば、それもやがては何らかの真実へと進化するはずだ。僕の部分が忘れ去られて、な。それには清隆が適材適所であると信じて勇気の出る言葉をかける。

 

「───自信を持て清隆。お前なら……できる!」

「アホかぁあああっ!! やらんっ! 松代までの恥になるわっ!! 伝説の犯罪者かよ! オレを社会的に葬るつもりか!」

 

 わかってるくせに、まったく我儘な。ここはしっかりと『説得』しておくか。

 察した態度で静かに湯の中に身体を下ろした高円寺を横目に、僕は周囲に更なる薄い誘導をかけつつ撹乱しておく。

 

「安心しろ清隆。その手の女には大人気になれるかもよ? 僕は御免だが」

「オレだってそうに決まってるだろ!」

「でもムッツリなお前にはちょうどいいんじゃないか? ヤバい女によく好かれてるし……」

「ムッツッッッッッ……!!」

 

 どこかの誰かさんのように、エッチな場面で使用される『ッ』を多用して自らのムッツリ度を強調する清隆。やっぱり図星なんじゃないか。だったら、これが広まってもそれこそ誤差だろ。

 清隆の本領である桁外れの固有スキル・超級デコイは、こういう時に使ってこそ最大限に役立つ。せいぜいそのイケメンなご面相とTレックスでヤバい女ハーレムを築き上げて、その上で封印するのを頑張って欲しい。

 

「自ら大々的にムッツリの証明乙」

「とんでもない風評被害きた! てか、夢月が言うな!」

「僕のはいわゆるコラテラル・ダメージというヤツだ。本意ではない」

「オレもだわ!!」

 

 ふむ。このくらいで充分だな。

 僕や高円寺よりも清隆に声をかけやすい状況は整った。これ以上の深入りは身を滅ぼす。

 高円寺か龍園の近くなら人避けの結界が貼られているし、そこへ行けば平穏な入浴時間を取り戻すこともできるだろう。あとは立つ鳥跡を濁さずに立ち去るのみ。

 時間稼ぎの撹乱でおちょくっておいた結果、立ち直った須藤や池が清隆に近寄ってきてるのを確認して、僕はスマートに別れの言葉を残す。

 

「ふっ、もう僕から言うことはない。さらばだ」

 

 言い換えるなら『王手』である。

 

「おまっ……それが狙いか! 待て!」

「待たん。んじゃ」

「またかよぉおおお! むぅつぅきぃいいいいっ!!」

 

 いつかのように騒ぎ出した清隆が須藤達に捕まって、称えようとする男子達の只中へ放り込まれていく。

 僕は勿論、人気がなくなってきていた龍園の近くで再びゆったりと湯船に浸かることにした。湯冷めしたら面倒だしな。

 それに陽キャや女どもの只中もそうだが、フルチン野郎の只中で称えられるとか真っ平だ。ならば、僕を逃さなかった清隆に後始末を任せるのが妥当だろう。

 

 途中から我関せずな態度で状況を俯瞰して見ていた高円寺や龍園あたりは当たり前に気づいてそうだけど、察した瞬間に意図して場の注意を清隆にほとんど流したのは秘密である。

 なぜなら面倒くさいからだ。

 

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