ようキャ   作:麿は星

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138、歴代最高

 

 試験が全て終了してしばらく経ち、初めて見る初老の男がねぎらいと合宿の結果を発表している。

 

「先に結果に触れることになりますが、全校生徒・全グループは学校側が用意したボーダーラインを越えており、退学者は0というこれ以上ない締めくくりとなりました」

 

 退学者なし、という結果にあちこちから安堵の声が聞こえてきた。

 まぁ“悪用”しなければこんなものだろう。最初から基準がかなり甘めの設定だったと思われる。

 

「3年Bクラス───石倉君が責任者を務めるグループが総合1位です」

 

 その後も個人的にはそう大番狂わせもなく、淡々とグループの順位が発表されていく。3年生の責任者名だけが名前を呼ばれ、報酬のポイントは後日振り込まれるらしい。

 ともあれ、この結果は一応喜ばしい。石倉のグループは僕も所属するグループだ。龍園や……南雲もいるが。

 

「やったな南雲。この面子で流石だ!」

 

 桐山が南雲をわざとらしく称えている。聞こえてくる話からすると、どうも南雲は主力の面子じゃないグループを組んでいたみたいで、2年生の小グループで目立つのも南雲と桐山くらい。

 おそらく桐山はこのグループが勝つと思っていなかったのだろう。動揺と混乱を隠す演技が甘い。

 

「俺の勝ちですね堀北先輩」

「ああ。見事だった南雲」

 

 そんな桐山をさり気なく流し、学に話しかける南雲。

 ちなみに学のグループの責任者は二宮という生徒で、2位の成績を収めていた。同グループだったのか藤巻さんも悔しげに南雲を見つめている。

 女子達も合流し、あらかたの発表が終わると学と南雲が対峙していた。昨夜に僕も聞かされた勝負の話だろう。

 

「それでお前は俺に何を望む?」

 

 学の短い問いに、南雲は一見意味がわからない答えを返す。

 

「ふっ───堀北学。あなたに『遊びの』命名決闘を申し込む」

 

 それって、夏にプールや体育祭でやった決闘ごっこ、か? 予行演習的な意味合いもあるとは察していたものの、ここでそのカードを“本番の学相手に”使うのは少し驚く。

 ああ。昨夜、彼らの正式な命名決闘は学年末ということで今回はお試しの二戦仕立てとは聞いていたが、僕は内容までは聞いていない。一応、合宿のグループ順位の方は合宿初日におおっぴらにやってたから知っていたけども。

 

「ゆめゆめ逃げるなんて言わないでくださいよ? もう俺が堀北先輩に挑める機会はそうありませんから、小さなことでも逃したくないんですよ」

「…………なに? この合宿がそうではなかったのか?」

 

 おや? 何か考え違いが起きていたのか? 盛り上げる演出の演技? そもそも盛り上げる必要性もあまりないし、学がそういうことする印象はないんだが。

 

「堀北先輩もすでにご存知の通り、元々はその為の下準備のつもりでしたけどね。どこかの奇人変人にことごとく邪魔されまして」

「奇人変人……」

 

……なんだよ? 南雲も学もこんな会話の途中で僕の方を見るなよ。なんか僕がそうみたいに聞こえるだろ。少し動いて立ち位置をズラしたのに、わざとらしく目線を追尾させてきやがって。

 

「で、前哨戦で思い付いたんですが、自分以外に2人を選んで短時間で決着する───『そういうお前はどうなんだ』というゲームはどうです? 先輩が知ってるかわかりませんが、必要な道具は用意してあります。といっても、適当なカードだけですが」

「む、以前に橘や夢月、東風谷とやったことはある。状況証拠だけで犯人をでっち上げるボードゲームのことだろう?」

「おっ、知ってましたか。そうです。どちらかの陣営に犯人を押し付けた方の勝ちです。数分程度で終わりますし、俺達が本格的な勝負をするのに今は時間的余裕がありませんからね」

「変則的なチーム戦か、なるほど……。いいだろう。自分以外の2人とカードを配る役はどうする?」

「俺達自身をアピールして味方に付いてもらうんですよ。むしろここがこの勝負の肝かもしれませんね。カード配りは……ゲームを知っているなら、橘先輩が適任じゃないでしょうか?」

 

 この「そういうお前はどうなんだ」ってゲーム。

 3~6人用のボードゲームで、設定上の自分の部屋から出てくる怪しい証拠の言いわけをしつつ、他人の怪しい証拠を好き勝手に追求し、滅茶苦茶な推理動線を作り上げて口撃する口が回る奴ほど有利なゲームだ。

 ただし、学へ『遊び』で仕掛けるには適当と思われる。

 

 なぜならこのゲームは、不思議と真面目で善人であるほど犯人を押し付けられる場合が多かったりする。

 秋の終わりに学達とやった時は、最も狙いやすそうな愛里がカード配り役だったのもあって、不運にもヤバいカードばかり引いてた橘さんを涙目にしてしまい、途中から学が本気になって僕と早苗が犯人に仕立て上げようとしてきた。ついでに愛里にも批難するような視線を送られた。

 最終的な勝率も半々くらいに着陸させられたので、南雲の思惑次第では返り討ちになる可能性も結構ある。

 

 しかし学が得意ではなさそうとはいえ、多数の人前でやるには向かないこれ系のゲームを南雲がチョイスするのは少し意外だ。新旧2人の生徒会長が、ゲームといっても犯人を押し付け合うのは印象が変なことになりそうだが……ま、本人達がいいならいいか。

 それにしても、橘さんをカード配りに推薦したのも不正はしないって意思表示代わりだろうし、ホントになんか変な物でも食った?

 

 てか、南雲……コイツ、合宿の勝負の方は一応勝ってるし、勝負にかこつけて学を慌てふためかせたいだけなのでは? う~む、そうだとすれば性格わっる。

 そんな事を考えながら眺めていると、そろそろ始まりそうな雰囲気。まぁ、あとはそれぞれのバスに乗り込んで学校に帰るだけだから、時間を無駄にできないからだろうが。

 

「流石の俺も人望では堀北先輩に及びませんからね。良い人材を勧誘しないと」

「現生徒会長に満場一致で選ばれておいてよく言う。総合で判断しても五分五分といったところだろう」

 

 そう言いながら学があまり見ない不敵な笑みを浮かべれば……。

 

「実際どうでしょうね? ただ俺も自信はある、とだけ返しておきましょうか」

 

 南雲も負けじとニヤリとした口元でその実力を覗かせる。すでに2人ともやる気だ。

 静かに牙を研ぎ、虎視眈々と噛み付く機会を狙っているかのよう。自信の源を見せる瞬間までは計りようのない天才達の頭脳戦。彼ら2人からは、これまでの実績に裏付けられた雰囲気があった。

 と、ところで、さ……。なんか2人が僕の方へ歩いてきてるんだけども。僕って関係ないし、場違いだよね?

 

「さて、残る問題はお前だ、左京。やってみれば……案外楽しいかもしれないぜ」

「そうだな、夢月。お前との勝負・共闘の機会は南雲以上にない。混ざるというのも悪くはないんじゃないか」

 

 あの……それは誘ってるのか。それともどっちかに来い、または行けって意味なのか。ただ、どっちかには加われや、っていう無言の圧力は感じる。

 僕は常識的な凡人だから真意がわからん……のだけども。ちょっと気になることがあるし、これはある意味で僕にとっても好機か。

 

「悪いけど……南雲───」

「ん? おお、お前が堀北先輩と仲良いのは知ってるし、気にするな左京。お前も俺が認める奴の1人だからな。ここで対決するのも悪くはな……」

 

 それにはこれが必要。

 遊びついでに何のリスクもなくやるなら、これが一番早く済む。

 

「───今回、僕は南雲に付かせてくれ」

 

 学にまとわりつく『歴代最高』という呪い。卒業前に祓っておくのが僕にできる数少ない餞別だろう。

 そんなモノは欲しがってる南雲にでもくれてやればいいのだ。

 

「……………………はぁ?」

 

 勿論、真意が伝わるかどうかは賭けになる。結果として学や橘さんの3年生が、僕を敵として見るようになるかもしれない。

 それでも、おそらくこれはこの学校で僕のできる学への最後のフォローになる確信があった。

 並び立つ存在もなく、たった1人で立ち続けた孤高で年上の友達に、最大限の敬意とせめてもの祝福を───。

 

 

 

 南雲なりにかろうじて敬意を払っているのはわかるが、性格や性根のねじ曲がっている南雲は、頭脳戦かなんかで学や僕を屈服させたがってもいる。前哨戦が前例だ。

 ならば僕から南雲の駒になりに行けば、目的は一本化されるだろう。自覚無自覚問わず、学の周囲で鬱陶しい学校の洗脳を手伝っている存在をあぶり出すのにも有効。

 ついでにどちらからも誘われた()し、単純に学を倒す方が面白そうというのもある。南雲と共闘する以外でこのシチュエーションを作り出せる機会は、おそらく最初で最後だろう。

 

 なるべく負けそうな方に付きたい。なぜなら、そっちの方がひっくり返した時により大きな恩を売れるからだ。なんて、偏見混じりの私見だけど、そんな感じのことを南雲からは思われているかもしれない。なんせ櫛田あるいは坂柳さん級の性格悪さを感じる男だ。話した感じで推測しても、打算や損得を主軸に考えるのが南雲の基本になっている…はず。

……こういう事考えてるから、善人っぽい奴と基本相性が悪いんだろうな、僕。

 

 まぁ、こんな適当な作戦ってよりもお祈りゲーミングな考えだ。読まれる心配はしなくていいだろう。

 人任せ・運任せな部分を強調しつつ、目的達成率を0から徐々に上げていこう。

 『学が』考えれば考えるほど、彼にまとわりつく洗脳は解けていく。少なくとも南雲は学相手に勝ちを狙える天才で、なんの意味もなくただ負けるタマではあるまい。なんとなく、そう思う。

 

「堀北先輩! だったら俺が堀北先輩に付いて、この年上への礼儀を知らない後輩をわからせてやります!」

「桐山……?」

「たしかに『コイツは』口だけは上手いですが、それだけで勝負は決まらないと証明してやりましょう!」

 

 ああ、予想通り風見鶏みたいな桐山がまず食いついてきたか。

 学と客観的に見て学を裏切ったように見える僕を利用して、南雲に一泡吹かせるつもりだな。学も自分を慕う後輩を無碍にできない。

 この立ち回りは、スピーチした時に思い返したお偉いさん親子を思い出す。

 

「お、おい左京。お前、本当にそっちについて大丈夫なのか? 南雲先輩とお前ってそんなに仲良くないんじゃ?」

「ん? ああ、これが適材適所ってやつだ」

「なに言ってんだ? わけわからん」

 

 その中にあって、僕の考えを察して……はなさそうだけど、真っ先に話しかけてきた柴田。

 

「そうか。なら簡単に解説しよう。

 僕はこうしてるのがお似合いだ、って意味な?」

「ネガティブな意味で自分にその四字熟語使う奴、初めて見たぞ」

「俺の地元にいる京都人みたいな言い回しだな。自分を対象にしてるけど」

 

 いつの間にかいた清隆のツッコミ。野球部のOB?である藤巻さんから南雲の注意でもされたのか、微妙に遠回しな聞き方をする四方。

 てか、コイツらは人の背後を取りたがる習性でもあるのか。ビクッっとするから自重して欲しい。

 

「……もしお前に何かアイディアがあるなら、オレも加わってもいいが」

「清隆、お前さぁ。あんまり良い想定もできてないだろうに、それをわかった上で指示くれって言う主体性のない奴に僕が丸投げするわけないだろ。混ぜてほしいんならそう言え。だいたい今回の決定権は、僕じゃなくて南雲あるんだっての」

 

 それと何を思ったのか必要じゃない時に、謎の加勢をしようとする清隆。特にコイツの考えはわかりそうで全くわからん。

 言った通り、南雲がどうしたいか、誰を引き入れたいかで話は変わってくる。今から参加を表明するなら、学の方がまだなんとかなりそうなのはわかってそうなんだが。

 

 

 

 ゲーム自体は、全部で3本先取。

 結局、面子は南雲側が僕と朝比奈さん、学側が桐山と堀北さんに決まった。

 関係ないが、朝比奈さんを引き込む際の南雲の手腕は実に見事なものだ。思わず称賛してしまった。

 

「なんでもない世間話から一気に攻めて女を頂く。やっぱりやるな南雲……! 僕も見習うべき箇所があるかもしれん」

「頂かれてない……でも、うーん。この雅へ異様にフィット感のある評価」

「クズ男じゃねぇか! それで褒めてるつもりかお前!? つーか、なずなも人聞き悪すぎだろ!」

「褒め言葉以外のナニモノでもないが」

「……こんな子はこれまでいなかったなぁ。初めて見るタイプかも」

「こんなの初めて、とかって言う時の女子。だいたいそんなことはない説(処女厨号泣クラスの偏見暴露)」

「左京、お前……やめてやれよ。俺はともかく、何人かすげぇ顔してんぞ?」

 

 とまぁ、南雲側は意外と軽口を叩き合えるそう悪くない空気だ。

 だから気楽にやれる僕は、南雲が毎ゲーム狙いに行く学を犯人にする道筋を整える。つまり味方がやり易いよう学と他2人の思考を撹乱しつつ、他が目のやってない攻め場所をやんわり口に出して、南雲と朝比奈さんの補助に徹するのだ。

 

 能力が高い奴らが十全に動けるように人材や策を配置するのが、凡人の戦術における鉄則の一つだ。味方戦力が揃っているなら、出られたとしても自分は前に出ない方がいい。

 最初のゲームで南雲が勝つと、何か納得したような朝比奈さんが一之瀬とバトンタッチしたが、やることは変わらない。押して押して押し倒すのである。

 

 冷静な時は南雲個人がすでに口のよく回る論戦強者だし、相手側の1人は僕も思うところがある桐山だ。

 なにより、なんとなくやってみると南雲と息を合わせるのが可能だったため、学を含む向こうの口撃を封じるのはかなりやりやすかった。あとは南雲が固執してる学を落とせば勝てたので、ある程度は余裕を持って叩き潰すことができる。

 

 きっと桐山と向こう側のもう1人の面子に選ばれた堀北さんは、いつでも自分を仕留められるのに見逃されていたことを悟りながら、守るべき学を落とされることが無念だっただろう。

 勿論、南雲と僕は手を緩めず『学以外を』景気よく煽り散らした。南雲は知らないが、僕は調子に乗ったり攻撃性のモノを意識して抑えたからか、朝比奈さんや一之瀬は呆れた雰囲気で僕達がやりすぎたと見えた時だけブレーキをかけていた。

 

 そして最後になるだろう3戦目が始まる前に、首尾よく心折られた桐山と堀北さんが離脱したので、交代要因に四方と清隆を参戦させてきたが問題ない。

 他の学年は知らないが、ぶっちゃけうちの学年だと龍園か一之瀬、櫛田がこういう遊びでは3強だ。天才どもは頭脳が高レベルだからこそ、意外と足を掬う余地を作りやすい。

 向こうが呼べるのは良くて櫛田だけなので、南雲が主力のこちらはまず負けないはずである。堀北さんという存在の因縁と、学と櫛田の相性は多分そんなに良くない原因らしきモノがあるからだ。

 

……と、思ってたんだがなぁ。

 幸運の揺り返しでもあったのか、一之瀬にとんでもなく都合の悪い暴露カードが連続で配られ、僕や南雲も反論やフォローすらできず、無理矢理と承知の上で交代した狙えそうな暴露カードを引いていた清隆を標的に持っていったりしたが、当然3タテはならず。

 そのせいか一之瀬がちょっと動揺してたので、南雲に肘で突かれた僕が何故か鎮静させることに。

 

「一之瀬。お前はいっつもエロいことばかり考えてそうな腐れ畜生系サキュバス聖人だろ? それかいっそ開き直って、あざとくいつものにゃはは笑いでもしてろよ。絶滅危惧種の生物Xらしくな?」

「私の属性が盛られすぎている!? というか、人前でとんでもない毒舌がきた! それに私はあ、あざとくないもん!」

 

 ただ、元気にはなったが、やり方を間違えた気がしてならない。どうも一之瀬とか苦手な奴が相手だと緊張して、変な事を口走ってしまう。

 

「左京……くく、お前。ふはっ、立て直すにしては不器用すぎんだろ。一之瀬がっ、ぶふっ……エ、エロサキュバス……くっはははっ!!」

「南雲先輩まで!!?」

「うむ。南雲といえども、男ならみんな内心そう思っているということだ。そんなエロボディな一之瀬が喪女となるには、年齢的な問題をさて置いても判断が早すぎる。自分が美少女だと確たる自覚を強く持ちたまえよ一之瀬君?」

「美少っ……全方位すぎるでしょ左京君!? 私、味方の上にクラスメイトだからね! 南雲先輩も笑ってないで言ってやってくださいよ!」

「わ、悪い一之瀬…ふっ、はっ……はぁはぁ。マジで一之瀬相手でも変わらねぇんだなお前……」

 

 いや、変わってると思うが。

 僕がおちょくりに逃げてしまうのなんて、一之瀬の他は担任や南雲、せいぜい朝比奈さんくらいのはず。

 

「ふぅ。ま、一戦くらいかまわないさ。あれは流石に不運すぎたしな。この流れなら次で決めれるだろ」

「そうそう。こっちの大将である南雲がこう言ってんだ。一之瀬も感情ジェットコースターにして騒いでないで、少しは真面目にやれよな。クラスメイトとして恥ずかしいから」

「左京君が……まっ、真面目!? 恥ずかしい!? というか、なんで私がおかしいみたいなことに……!? おかしい! 絶対おかしいよっ!!」

「なに? 絶対犯してほしい? いや、サキュバスすぎる発言「おかしくない! だからっ!!」おかしくないさ。みんな違って、みんな良いんだ。一之瀬のイロモノレベルが限界突破してるのも良い場合はあるって」

「それも言葉の使い方が違うからね左京君!! あとさりげなく私をイロモノ固定するのやめてくれないかなぁ!!?」

「ふっ……はははっ!」

 

 まぁ、方向性は異なるものの、一之瀬も南雲も元気なのは良いことか。

 しかし最近特に感じるのだが、僕のような精神おっさんは高校生達のノリにもはや付いて行けてない気がする。僕は普通に会話してるだけなのに、周りのテンションがおかしくないだろうか? なんかボタンの掛け違いを連想してしかたないのだ。

 こんな非常識がまかり通る雰囲気の中、なんとか付いていってる風な僕を褒めてほしい。

 

……ところで南雲や一之瀬とともに3人で清隆にヘイトを集めようとしたこの3戦目。本人や学側はともかく、離れた位置から重力魔法を放ってるかのような雰囲気でスッゲー目をしてた坂柳さん。

 

 これって、あくまで決闘ごっこであって遊びだからね? 学の妹でさえゲームと現実の違いをしっかり認識してたし、君もね? あとついでに、どれだけ一之瀬を凝視しても君の貧乳力は突破できないからね? 大人しくミルクでも飲んどけって。

 くれぐれも後に引きずらないよう伏してお願い申し上げます。

 念入りに祈ったのでもう大丈夫。大丈夫と言って欲しい。

 

 さて、怖い人からは思考を切り替えて。

 先に述べた通り、3戦目は不運にも落としたものの、4戦目でついに学を犯人にした上で勝つ展開に持ち込む結果に落ち着く。

 曲がりなりにも全校生徒の前での勝負ということで、当初の目的は達成しただろう。歴代最高の生徒会長という呪いも少なからず南雲に持っていってもらえたはずだ。そのぶん、学へ降りかかっていたモノが薄まってくれたら幸いである。

 こうして年始早々の合宿は、実質遊びで幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 帰りのバスにそれぞれ乗り込み、走行し始めると担任が年甲斐もなくはしゃぎ出した。

 おそらく担任の上機嫌はこれが要因だろう。冬休み・合宿後(龍園のCクラスはとあるペナルティの差し引き込み)のCPだ。

 

 A(一之瀬)クラス 1026CP(+46)

 B(坂柳)クラス  961CP(+97)

 C(龍園)クラス  533CP(-163)

 D(堀北)クラス  512CP(+92)

 

 差は少し縮まったものの、いまだにAクラスを維持する現状だ。体育祭直後の担任を思い返せば、そりゃあ期限も良くなるかもしれない。

 ただうちのクラスの生徒から見ると気色悪さしかないので、僕はボソボソと友達に話してそれを少しでも発散していた。

 

「僕達は担任の何を見せられてるんだ……? そうか、駄目な大人の生態を見せられてるんだな。なんてこった。

―――これがVR(バーチャンリアリティ)か……!」

「左京君……殺すよ?」

「ふっ、担任。強い言葉を使うなよ、弱く見えるぞ」

 

 地獄耳にも担任に聞こえてたらしく、教師に或るまじき本気っぽい殺意を向けられたので誤魔化すように嘯く。バス内の決められた席順は名字のあいうえお順なため、席が近いクラスの中心人物な一之瀬・網倉・神崎が固まっている。化け物である担任方面の世話は彼女らに任せて放置が妥当だろう。

 

 うんうん頷いて前の席で騒ぐ者達を華麗に忘れ去っていると、今度は隣に座っている早苗に話しかけられた。ちなみに僕の後ろの席は四方と柴田で、そのまた後ろは白波である。

 

「改めて思いますけど、夢月さんって誰を相手にしても大概動じませんねぇ。神様に対してさえ普通に接してますし」

 

 それは日頃のことを言ってるのか、担任に対してか、はたまたさっきの学や南雲に対してか。

 そうでもないと僕自身は思ってるんだが、早苗にはどう映っているのだろう。聞きたい気も少しする。よし、聞こう。

 

「動じてるだろ、しょっちゅう。普通に。てか、逆に早苗は何すれば動じるんだ? そっちのが疑問なんだが」

「圧倒的に、ヤバいオーラを放ちながら笑顔で手招きする諏訪子様を見た時です。正直、私の生涯で一番怖かった……」

「あー、よく生きてたなお前。ほぼ身内みたいなものとはいえ、あんな強大な神様になにしたんだよ? 滅多に怒らなそうな存在の大きさだと思ってたけど」

「いえ……その、昔ちょっと罰ゲームで、諏訪子様の口に練り山葵一本丸ごと突っ込んでしまいまして」

「……仲良いなお前ら。普通、信仰対象にそんなことできんぞ。やっぱパネェな、早苗って」

 

 なんか早苗とこうして話すのもすごく久しぶりに感じる。遭遇しなかったのは、1週間程度なはずなのだが。

 

「…………それにしてもここ最近、心が落ち着かなかったのが嘘みたい。夢月さんと話してたら、なんだか気を張ったりしてたのが馬鹿の所業に思えてきました」

「は? なに言ってんだお前。元々お前って馬鹿じゃん。バカバーカ!」

「夢月さんって……ホント夢月さん。いつでも変わりませんね。

 でも……ふふっ、そうかもしれません。本当に馬鹿になるのが一番かもしれませんねっ」

「えっ……と、いや。ま、まぁお前がそんな馬鹿だったから楽しくやれるわけで……僕は―――」

「夢月さん? どうしました?」

「なんでもない。それよりさっさと帰って思う存分に寝たいよなぁ」

「ふふっ、そうですね。流石に疲れました」

 

 合宿で何かあったのか、疲れてるのか、早苗は微妙に気の抜けたような変な態度で調子を狂わせてくるが、やはりコイツといるのは愛里と別の意味で落ち着く。

 僕の方は、かなりの人数で野郎まみれのむさ苦しい同室生活だったからなぁ……不満ってほどでもないけど、監獄かよ。って言いたくなったこともある。てか、実際に合宿後半では何人かのグループメンバーが似たようなことを言っていた。

 

 だから、欲望に忠実に言えば溜まりに溜まっている今は愛里一択なのだが、会ってしまったら正直止まらなくなりそうで怖くもある。こんな付き合って数ヶ月ほどで欲望をぶつけまくって、嫌われることは避けねばなるまい。

 こういう時だけは別のクラスで良かったと初めて思った。

 

 うん、その点では欲望をぶつけることさえ考え付かない早苗は最高の相方だ。

 あんまり女を感じさせない早苗でも、性別上は女である。性格の相性も悪くはないと思うし、気の合う友達でもある。

 ちょっと常識に囚われてないことが多々あって迂闊な奴だけど、気楽に接する事のできる女子は貴重な存在……。

 

 僕は早苗の真上に浮かんでニヤニヤと話を聞いている洩矢諏訪子様へ意識を向けないよう、学校へ到達するまで主に対人の幸運に感謝して適当な駄弁りを続行した。

 触らぬ神に祟りなしである。

 

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