ようキャ   作:麿は星

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143、清濁

 

 偏向報道やフェイクニュースとはなんだろうか。

 まぁ誰かの利益や目的のために人為的に引き起こされる現象なのは確定しているのだが。得られる情報などが異常に偏ってしまう弊害はよく知られている……と思う。

 

 弊害の例を挙げるなら、温暖化がわかりやすいかもしれない。

 30年くらい前には65000箇所あった観測所を徐々に減らしていき、気温が比較的高めな所を残した結果、気温が上昇している『っぽい』という偏向された温暖化のデータは得られたものの、正確な気象データは取れなくなった。

 

 なんせ僕が最後に確認した時は、65000箇所が1000箇所台になっていたのだ。温暖化ビジネスを拡大させるためとはいえ、それだけ減らしたとなると、ここ何十年かのデータは未来で役に立たなくなっている可能性もある。

 誰かさんに都合のいい少量のデータ『だけ』を残せば、温暖化は間違ってるといった声を潰せ……少なくとも反論する者の説得力を激減させられるからな。

 

 正解なデータを取得させたくないとは、温暖化してるってことにしたい奴らはよほどの利益があるんじゃね? みたいな邪推や陰謀論を考えたくなるのも順当な流れにすら思える。

 ま、まぁ脱線はともかく、偏向における弊害として顕著にわかる例とはいえるだろう。

 

 また日本の一人あたりのGDPがOECD最下位という政府発表だ。

 ただし、これもまた事実からはねじ曲げられていた。国によっては国民1人あたりではなく、労働者1人あたりだったり、労働人口1人あたりだったりと物差しが違っていたのだ。

 都合の悪いものを外して、数字を都合よく見せたいのはどこの国でもよくあること。反対に先に挙げた温暖化や財務省とかの本当はそうでもないのに赤字と言いまくってるように、悪い数字にしたがる変な奴らもいるが。

 

 ちなみに労働人口1人あたりのGDPは、実は日本の30年間で世界最高の伸びを示していた。つまりGDPが低迷してた要因は、高齢化が進んで非生産人口が急増してたからなんだろう。

 あと年間7兆円が、とも言ってたが、『俺』が生きてた当時の日本政府には年間400兆円を超える特別会計が存在していた。しかもそこで発生する使途不明な予算が、毎年13兆円も発生してるという話付きだ。

 

 当然のことだが、温暖化にしろGDPにしろ、自分で調べない限りほとんど周知されないから知ることはない。しかも見てるとメディア業界は専門家やコメンテーターと名乗る者でさえ政治経済や理系知識に疎い人が大多数なので、本当に自分で考えることのできる有名人は相当少なそうだ。

 

……ところで上記とは関係ない前々からの疑問なんだが、元自衛隊幹部とかってなんなんだ? なんで元の階級や守秘義務などをスルーできるんだ? 本当にそうなら、まずそこを明らかにしてもらわないと眉唾物にしか見えないんだが。なんであんな不審さしか感じない人とかが、物知り顔でなんか解説っぽいことをそれらしく言ってたりするんだ?

 

 正直、それっぽい肩書きで偉そうにズレた内容を宣うだけでは世間知らずか無知な奴しか乗せられないし、出来の悪い偏向報道やフェイクニュースと言われてもしかたないだろう。もしくは一般人とやらをあれで騙せると馬鹿にしてるかだ。

 現実の悪人とは、こうやって事実をねじ曲げて表に出てこない奴らなんじゃないかとすら僕は思う。

 

 ああ、そう思う根拠はもう一つあって、ライトノベルやおとぎ話などで時折見かける悪い魔法使いや悪の組織、悪役、悪代官などだ。

 実際に何か創作したりするとわかりやすいが、これらは物語を現代の現実に寄せようとするほど、誰の目にも見える『暴力』や『理不尽』を使わなくなっていく。

 

 なぜなら、その『悪役』が現実的・効率的じゃない下策だと理解している……つまりそれなりの頭脳があることが前提になってくるからだ。

 頭の悪い悪役が使う暴力や理不尽などファンタジーか世紀末覇者的な環境でない限り、ただの乱暴者や無能権力者でしかない。

 ゆえに例えば権力者へのアプローチなら、下剋上や反乱は『頭のおよろしい』エリートやロマンチスト、直情的な奴がやることがほとんどとなる。

 

 しかし、真に悪い奴は違う。

 悪とは、本来権力者に従わないほどに強いという意味。ブラックな場所で時折見かける洗脳やたぶらかし、巧妙な詐欺という一般には見えない部分で謀を進めるのが常道だ。

 僕の考える現実的な悪とは、暴力や理不尽をここぞという場面でしか使わないものである。

 つまり、そんな『悪』が周到に進める計画は───。

 

 

 

 

 

 無駄に深刻な思考を思い浮かべて、手早くテンションを下げてみた。以前の無人島で対一之瀬用に開発した思考切り替え法だ。今はまさに使い時だろう。

 最低限失礼のないよう自分を整えて社務所を出て境内に行くと、ビシッとスーツを着こなした細目のおじさんがいた。

 この人はたしか…夏に理事長のところまで案内してくれた……。

 

「お久しぶりです、左京夢月君。私を覚えておいでで?」

 

 そのどこか底冷えする口調で、記憶が薄っすら呼び起こされる。

 

「監査の……月城さん、でしたっけ? えっと、左京夢月です。お待たせしてすいません。お、お久しぶりです」

 

 え、予想外にもほどがある人がいるんだけど。

 

「用件の前に改めて。現在は監査ではなく理事長代理を務めています月城常成です。以後、お間違いなきようお願いしますよ」

「へ、代理? あ、あぁ、それはその、御愁傷様です」

「……ククッ。御愁傷様、ですか。違いありませんね」

 

 うぁ、勘だけど……多分この人、元は僕と同類だ。凄く濃い社畜の匂いが漂ってる。しかも、ごく少数しかいない『働ける』上級官僚っぽい雰囲気まである。

 てことは、何か押し付けられてここに来た? そうなると用件も聞きたくないがしかたない。

 

「それで本日は、あー…僕に?何の御用でしょう?」

「おや。坂柳『理事長』のことは聞かないのですか?」

「は、はぁ、坂柳理事長……だと外聞的なモノが悪くなる何かをしに月城代理が来たのでは? ほ、ほら、時々ある急病につき、とか、不正行為により名目上は一時謹慎中、みたいな段取り的なアレなんじゃないかなぁと」

「ほう? 根拠はなんです?」

「懐刀はこういう風に使うものでしょう? 表にいるお偉いさんの多くは泥を被りたくないから、大きな変化を起こす時には大抵は使える仕事人にやらせるものですし。僕が言うのはなんですけども」

 

 実際、こんな時期に代理なんて名乗られたら、こういう想像しかできない。偏見混じりなのはわかってるけどな。

 

「ククッ、はははっ! そこまで言うなら私の所属まで予想できていそうですね、左京君?」

「あくまで勘ですが」

「勘ときましたか。なるほど。あの方が踊らされるわけです」

 

 笑顔を見せた月城さんに、僕の直感が囁く。

 あ、ヤバいこと言ったかも、と。

 なら、“当たり障り”のない答えに切り替えよう。

 むー? 社畜、官僚、仕事人。そして学校の制度改革。これらの材料から、この学校に派遣されるような職務で不自然すぎない間違いは。

 

「内調関係、じゃないですかね。目的は僕の排除か取り込みですか?」

 

 内調とは内閣情報調査室。平たく言えば、国の調査機関のトップの1つと言っていいだろう。ま、当たってなくてもそれはそれでいい。僅かでも妥当性があれば、質問の返しにはなっているはずだ。

 正直、学校制度に介入させた時に総理大臣の主流派閥を動かしたんだから、僕が学生であろうといずれ何らかの動きはあると思っていた。思ってはいたが……なんかえらくアクションが遅くなったな。松雄に社長の席を譲ってからになるとは思ってなかった。

 

「いえいえ…ふふっ、君は本当に不思議ですね。その年齢で清濁を知っている。更にはそれをされる自覚がありながら、よくもまぁあっけらかんと……。個人的にはかの最高傑作に」

「さ、最高傑作っ!? って、やべ」

「……正直な反応をする脇の甘さも、ですね」

 

 つい口が滑った。反応してしまった。

 でも、こっちは本命じゃない感じか? ならまだ助かった、と思うには早いか? 駄目だ、まだ読みきれない。

 てか、清隆の父親の関係者でもあるのかよ。まぁ、政財界の上の方なんか複雑怪奇なのが常態だけどさ。

 

「ふぅ。さて、まずは仕事の話を。

 私の目的の1つは、綾小路清隆君の退学です。初手を乗りきるようであれば、来年度の新入生には懸賞金2000万『円』をかけますので、よければ左京君も奮って参加してください」

「……き、機会がありましたら」

 

 目的の1つとか初手とか真っ黒すぎるだろ。せめて口止めしてくれよ。誰にも言わない…言えないけどさ。デメリットとリスクが大きすぎる。

 だけど……うげぇ。この流れって、絶対アレじゃん。

 

「その嫌そうな顔からすると、左京君も話の先を察しましたか。やはり天才とやらや彼の居た『彼処』の後輩、『毛色』の違う子供よりある意味で有望かもしれませんね」

「いえ! 僕は普通の一般高校生ですから! 高円…清隆の方がずっと有望ですよ!!」

「ははっ、ご冗談を。左京君は普通じゃありませんよ。私とこうして会話になっているだけで、坂柳有栖嬢よりも『わかっている』ではありませんか」

 

 冗談じゃねぇえええ! って、全てを有耶無耶にできたらどれほどよかっただろう。勿論、僕にそんな豪腕は振るえない。てか、連想できちゃうから、そんな情報をさらっと流さないでくれよぉ。

 

「そして───そう。普通では坂柳理事長に面と向かって啖呵を切るなどできません」

 

 あああああっ、それになんかめっちゃ買い被られてるぅ!

 やめて! 僕のライフはもうゼロよ!?

 

「大企業や政府を操ることもできません」

 

 いや!? すぐは無理でも、可能とする奴ならいるんじゃないか? 高円寺に早苗(神様付き)、清隆ならワンチャン…って、流石にこんな話は丸投げできないよ、コンチクチョウ!

 

「では前置きもしたところで、そろそろ本来の用件を伝えましょう。

 左京君、私は君をスカウトしに来ました。何処からかは……すでに察しているでしょう。答えは決断した時まで取っておきますか」

 

 ノ、ノォオオオオ!! やっぱりぃ! と、内心慌ててはみたものの、どうしてかそこまで危機的状況とは思えない。僕の勘も逃げろとは言っていない。

 ふむ。礼を失なわないよう断っても大丈夫ということだろうか。試しに、早苗や高円寺、鬼龍院先輩、あるいは南雲と近い枠に入れて考慮してみよう。

 

「僕は自分のためにしか生きられない人なんで……」

「ふっふっふ。今どきの学生が、そのために学校の理事長に啖呵を切り、信じられないほどの変革を成したと? しかも欲の皮が突っ張ったお偉方を選定して多数動かした上で、です。私もそれなりのキャリアはありますが、そのような学生は聞いたこともありませんよ。左京君はいずれ必ず大成するでしょう」

「過大評価ですよ。きっと運が良かったんでしょうね。能力的にはそこまで達しないと思います」

「ですが、他の方からも言われませんでしたか?」

「……っ」

 

 駄目元でやってみたが、やはり同じようにはいかない。

 月城さんは薄目を開け、鋭い視線で僕を覗き込んで問いかけてきた。

 当然、僕は言葉に詰まる。似たような言葉をかけてきた何人かの顔が浮かんだからだ。

 

「私も『この業界』ではまだ若いつもりですが、後継者を育てるには早い方がいいに決まっています。そしてどうせなら、力を持つ者を育ててみたい」

 

 突然だが、婚約数というものがある。

 1と自身を除いた約数の総和が、互いに他方に等しくなる2つの数字の組だ。代表的な最小婚約数は48と75かな。これが何故に婚約数と呼ばれてるかというと、現在見つかっているすべての組が偶数(女)と奇数(男)のペアだからだ。

 

 そして現在でも解決されてない数論問題の婚約数に、奇数同士のホモ数、偶数同士のレズ数、というペアが存在するかというのがある。

 これは子供にも挑戦できる問題なので、数論の分野では時々小学生や中学生が学者たちの見落としてたものを発見したりすることも……。天才や鬼才という存在は、そうしたことを発見できる奴らなのではないかと僕は……。

 

 お、おぉう。一瞬、現実逃避してた。

 なんか月城さんからすごい本気度を感じるせいで、意味不明な反論をしようとしてた。

 ヤバいな。これは僕も本気で断らないと絡め取られる可能性がある。

 

「い、いや、だからって僕はどうなんです? 正直、僕以上の能力を持つ天才や鬼才なら、この学校にも結構いますよ?」

「かの最高傑作や坂柳嬢、それに高円寺君もですか。確かに彼らは優秀です。ですが、内面が『できているか』はまた別問題でしょう。今はまだ才能に振り回されているようにも見えます」

 

 その後もしばらく、僕はなるべく色々な方面の話題に出して丁寧に断りを入れ続けたが、月城さんはなかなか諦めの色を見せなかった。

 それでも僕の信条的にも義理としても断る選択肢しかないし、そもそも志向があったとして伏魔殿のようなブラック業界にこの年齢で飛び込むなんて即決できるモノではない。

 結局、月城さんとは何度か押し問答を繰り広げた末、ようやく退いてもらった。

 

「……私としたことが焦りすぎましたか。しかたありませんね。しかし私の言葉は頭の片隅に置いておいてください。左京君がこうして上からも注目される価値のある人材だということをね」

「見込んでもらえたのは嬉しいですが、その……僕はおそらく『月城さんの』期待には添えないと思いますが」

「そういうところですよ、左京君。その真意を見抜く目は日頃から鍛えておくといつか役に立つでしょう」

 

 褒め言葉か助言かわからないけど、そういう言葉をくれるなら鋭い視線で見透かそうとしないでほしい。

 

「おっと、思わぬ長居をしてしまいました。左京君がその気になった際はこちらの連絡先に」

「あ、ご丁寧にどうも。僕の名刺もあるので、遅れましたがこちらをどうぞ」

「……ふふっ。それとご友人を放置させたお詫びとして、些少ですがお納めください」

 

 恐ろしく早い社畜仕込みの切り替えと名刺交換。僕でなきゃ渡しそびれちゃうね。って、ふざけてる場合でもないか。

 癖のように常備していたケースからマナーに沿って僕の名刺と交換すると、月城さんが小さく笑ってなにやら端末に似た機械を操作する。その直後、僕の端末から通知音が鳴った。視線を誘導されたので確認してみれば、振込先不明な場所から10万PPという振り込みがあったとのこと。

 額はともかく、僕は目を見開いた自覚を持ちつつ、戦慄した。

 

 こ、これっ…………完全に裏の意図を隠した口止め料じゃねぇかああああっ!

 

 なにこれ!? マジの勧誘意思しか感じないんだけど! これって月城さんの勧誘を大人の誰かに言うなってことでもあるよね!? 僕ってそんなに月城さんみたいな立場の人に目を付けられてたの!? しかも他にも目を付けてる人がいるって証明にもなるじゃん! 今日一番の衝撃なんだけど!

 あぅあぅあ~、勘弁してクレメンスぅ……。僕の許容量はとっくにパンパンだよ。

 

「もちろん快く呑んでいただけますよね?」

「……はい」

 

 しかも、それは有無を言わさない雰囲気だった。

 大人って汚いよな。PPから円に変わる直前だからか、微妙な額のどうとでもできる絶妙なラインで一石何鳥も狙ってくるし。

 まさに『できる』官僚って感じだ。何も言わずに受け取って呑み込む以外の選択肢を潰されている。

 

「結構。明言もいただいたことですし、私はこれで失礼します」

「本日はお忙しい中、色々ありがとうございました。まだ肌寒いのでお体に気をつけてくださいね」

 

 月城さんが用は済んだとばかりに社交辞令を述べてきたので、僕も最低限の礼儀に沿って気遣いの言葉を返す。

 向こうがいきなり訪ねてきた上に位攻めされたんだから、学生としてお礼を言うのはおかしいかもだが。社交というのはこういうのもある。礼儀一つで意外と心象は変化するものだ。

 月城さんは一瞬呆気にとられたように目を開いて……姿勢を正し、最短距離を描く手の動きで敬礼を返してくれた。

 

 僕が学生だからだろうか? 特徴的な右手の三指の形はボーイスカウトの敬礼だ。それが敬意、礼儀、親密を表す挨拶と知っている僕には洒落が利いている。

 にわか知識で申し訳ないが、僕もなるべく再現した敬礼を返しておいた。わけはわからないが、礼儀には礼儀を、敬意には敬意である。

 

「……ククッ。これは私が言うことではありませんが───綾小路清隆君の件は気にかけるだけ無駄でしょうね。時間を置いてじっくりと思考を巡らせてみることです。左京君なら『可能』とするかもしれません」

「それはなにが……」

「つい独り言を零してしまいました。いけませんね、年を取ると。では改めて」

 

 目を細めて笑い、見送る僕から身を翻しながら、月城さんは小さくそう口にした。

 何を思ったのか去り際に唐突に助言っぽいモノをくれた人だ。窘められた、と感じた僕は大人しく口をつぐむ。

 そして今できる精一杯の感謝を込めて頭を下げ、月城さんが去りゆくまで見送り続けた。

 

 ≪夢月は悪い子だね~。そんなだといつか怖~いお化けに食べられちゃうよ~?≫

「どっちの意味で!?」

≪アハハッ、なに言ってんの~≫

「……洩矢様も早苗のとこ行く? 多分、堂々としてればバレないよ? それと……………………ありがとうございます」

≪ふふんっ。これでも神だからねっ!≫

 

 と、月城さんの姿が見えなくなったあたりで、早苗の神様が声をかけてきた。見守ってくれてたのは気づいていたし、御礼を言うのは当然だろう。

 しかし何故、僕の周りにはこう一筋縄ではいかない存在ばかりが跋扈しているんだ。別にそれに対してどうということじゃないけど、気まぐれにいきなり現れると驚くので前フリとか入れてほしい。

 

 なにはともあれ、知る限りにおいて最も清濁を併せ呑んでいる神様と冗談を言い合いながら、僕達は待たせていたカオスな顔ぶれの友達のいるところへ混ざりに行った。

 余談だが、僕の席がきちんと空けてくれてて感動した。滞りなく日常に戻れた感じですごく安心できる。

 

「クラスでもそうだったけど、帰っても自分の席を取られてたってのがないとか……。お前らって良い奴揃いすぎるな」

「夢月さん、それ普通の人にはわかりにくいんじゃ?」

「でもわたしはちょっとわかるなー。お手洗いとかに行って戻った時に席が塞がってると、どうしようってなっちゃう」

「陰キャの解像度が高いですよね、左京君達って」

「話しているとそう感じないがな。おそらく根本の感性が一般的ではないのだろう」

 

 だから僕がそれを称賛すると、陰キャあるあるで思いのほか盛り上がった。橘さんはともかく、学は見込んだ通りにこの資質も高いのだろう。

 まぁ予想外はいくらかあったものの、何事もなく平和な1日だった。

 それなら、細かいことは抜きにして、まったり過ごすのが人生を楽しむコツだろう。

 僕はそう信じているのだ。

 

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