ようキャ   作:麿は星

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147、強敵

 

 双方のクラスメイトが待機する控え室に併設される形の格技場っぽい場所の扉を開けて中に入る。

 

「夢月君!!!」

 

 すると振り向くなり謎に飛びかかってきた人型生物がいたので、ヒラリと身をかわしてスッ転ばせ、勢いで滑り出す前にいつかのように踏んづけた。

 

「にゅや~~!! むぎゅっ!?」

 

 指し手の生徒以外はジャージだからこそできる流れるように御機嫌な対応だ。パンツが見えようもないからな。

 なんのつもりかわからないが、おそらくはホワイトデーに策を返されて、なし崩しに和解へ持ち込んだ事が原因だろう。一之瀬の謎理論によって導き出された新たなナニかの謀略と思われる。その手には乗らない。

 

「……よし。拘束に成功したな。この局面で、なんなんだコイツは」

 

 きちんと動きを封じたことを確認し、僕は安堵の吐息を漏らす。

 今は敵方でそこそこ距離があるとはいえ、愛里が見ている前でこのポンコツの奇行に付き合うわけにはいかない。僕には想像もできない策略を更に仕込んでいるかもしれないが、ここはスルー安定だ。

 それと何気に、ここしばらく変な態度を取られていた一之瀬を倒せてスッキリした心持ちになれた。

 

「姫野、いきなりメンバーに入れちゃって悪い。本来は安藤か南方さんだったんだけど、見ての通りだったからさ」

「え、と…いや、それはいいんだけどさ。一之瀬さんを……おもっきり踏んでるわよ……?」

 

 ただ、姫野が僕の足下を見ながらどこか心ここにあらずな感じだったので、急遽メンバー入りさせたことと合わせて一言弁明しておく。これから少しだけ指示に従ってもらうわけだし、精神のケアは必要だろう。

 うちのクラスで運動系トップ層の女子である安藤や南方さんは、残念ながらついさっき高円寺のルークに脱落させられているので、姫野は網倉と同様に貴重な戦力に昇格したからだ。

 

「気にするな。大事の前の小事だ」

「気にして!? こんないきなり退学を賭けた勝負に自分からって……心配で心配で居ても立ってもいられなかったのに! しかも相手は高円寺君だよ!? 勝つ自信はあるの!?」

「って、一之瀬さんは言ってるけど?」

 

 僕の退学程度で今更なに慌ててんだコイツ。最初から賭けてたのは言ってたし、一之瀬もわかってただろ。

 それがたった今になっただけじゃないか。動揺する理由なんか何もないと思うのだが。

 

「うむ。わからないことはわからないままで行く方針にしよう。

 さておき、姫野は王さん、一之瀬は愛…佐倉を頼む。勿論、僕が高円寺を担当するが、僕が負けたらすぐ降参してくれ。勝ち目がないからな。わざわざ痛いかもしれない目に遭いたくないだろう?」

「わかったはわかったけど……」

「さておかないで聞いて!!? こんなの公の場じゃなくても完全アウトだからぁ! みんなの前でこれは恥ずかしいし、なにより絵面が酷すぎるから! ちょっと嬉しくなっちゃったけど複雑だから!」

 

 指示と注意事項を意識して淡々と紡ぐ。

 僕の足の下で、段々ズレてきた意味不明なことを言いながらジタバタと暴れる絶滅危惧種がいるからだ。体重移動を駆使して、起き上がろうとする一点を崩しているので神経を使う。

 ぶっちゃけ僕は味方からもたらされた予想外に動揺し、内心で大混乱を起こしていた。つまり一之瀬をうっかり者な妹系奇行種に脳内変換して、愛でつつ弄る事で対応したのだ。

 

 先週まで避けられまくっていた相手が突如としてフレンドリー?になれば、それは誰でも驚く。だから物理的に解放していいのか心配で、一之瀬が起き上がるのを阻止してしまう。

 しばらくそのまま踏みつけていると、やがて力ずくで起きるのを諦めた一之瀬は嘆くような言葉を漏らす。

 

「なんで私は……いつもこんな扱いなの……?」

「それはね? 一之瀬が坊や…じゃなかった。覚悟を決められてないお子様だからさ」

「か、覚悟……わ、たし……が?」

「あんた、それ好きよね……さりげなく使ってたりするし」

「初期の3部作は、泥臭い戦争がガッツリ描かれてやられ役まできちんと味があるから至高。人間ドラマやルックスに振った新しい話も嫌いじゃないけど、どうしてもな。異論は認める」

 

 ゆえに強引に話をねじ曲げて、試合開始までなるべく一之瀬を意識しなくて済むよう姫野と雑談することにした。

 一之瀬の間の悪さは、間違いなく知り合い連中の中でも群を抜いて僕との相性の悪さを助長している。僕も大概、間の悪い方だが、警戒態勢が常態になる奴はマジで転生前を含めても初だぞ。

 なにしても動揺させてくるんだから、同じクラスになってしまったのはもう運命というものだろう。無論、悪い意味で。

 

 ともかく更なる冷静さを取り戻すため、ここで僕達のクラスがキング戦用に準備していた勝負内容とはどんなものなのか改めて思い返そう。高円寺達も僕達の方をチラチラ見ながら、フィールドの反対側でうちのクラスが作成した説明書を受けとって読んでるしな。

 簡単に言うと、ずばり騎馬のいない騎馬戦だ。

 

 キングに接触してきた駒の人数・性別と同数を生き残りから選出して、鉢巻きを取り合ういたってシンプルな競技で、反則は人体急所の攻撃のみ。何気に、足払いなどで転ばすこともOKな荒っぽいルールだ。ただ転倒しただけでは不充分で、無力化するには鉢巻きを奪取する必要がある。

 

 あと制限時間も通常の勝負と同じく10分だが、3対3の鉢巻きの取り合いでそんなに時間はかからないだろうと、どちらかの全滅が勝敗条件になっている。

 だが……打開の鍵になるのは、良くも悪くも高円寺ただ1人だろう。

 

 

 

 ところで、東洋の武士道が個人の思想なのは周知のことと思うが、西洋の騎士道は帝王学とほぼ同列だとご存知だろうか? つまり王族や貴族など、為政者のための教育法的な位置付けだ。無理矢理に当てはめるなら、マキャベリの君主論やクラウゼヴィッツの戦争論などと同じカテゴリーともいう。

 ここからわかる通り、生き方や共存すら視野に入れられている思想が主な武士道と、人・環境を支配やコントロールする方法を主とする騎士道では、言葉や響きは似ていても全く中身が違う。

 

 何故こんなことを突然語りだしたかというと、高円寺がこの2つの道を使い分けるのが美学だと考えている節があるためだ。

 僕が四方や早苗に頼らなかったのも。愛里に一之瀬を当てたのも。高円寺や堀北さん(清隆)の誘いにわざと乗ったのも。高円寺の美学を考慮に入れると、おそらくこれが最もお互いが楽しめ、高め合うことすら可能とする方法だからである。

 それに分の悪い賭けは嫌いじゃない。時期尚早な気もなくはないが、せっかくの機会なのだから無粋はなしにして煽られた挑戦に乗るのも一興だろう。

 

「ふっふっふ。私は理解できるよ夢月。君は十中八九ノックアウトされるとわかってここに現れた。真正面からこの私の挑戦を察知し受けられるのは、おそらく君だけだろうねぇ。誇りたまえ」

 

 単純に能力だの実力だので見たらもう少しいると思うが……高円寺が言ってるのは、そういうことじゃないんだろうな。

 

「ま、なんだかんだでお前とだけ勝負してなかったからな。しびれを切らしたか?」

「そんなことはないよ。ただ、目の前にちょうどいい行事があったのでね。自分でも体験しつつ見極めようと思いついたのさ」

「神崎達とのことといい、今日は随分と親切だな。野郎には興味なかったんじゃないのか?」

「進撃を阻む者の撃退ついでさ。私が知る金を操る者に比べて、彼らはあまりに拙かったものでね」

「……少しは甘く見てやれよ。わかってやったんだろうけど」

「ははは。つい気を昂らせてしまったよ。私にもまだまだな部分があると発見するのは、いつも向上心と好奇心を刺激するものだ」

 

 あー、忘れそうになるけど、高円寺も一応は同級生だもんな。そういうこともたまにはあるか。

 高円寺に乗せられかけてるのは自覚してるけど、ちょっとテンションが上がって僕も楽しくなってきた。

 

「好奇心は猫を殺すと言うぞ?」

「いいじゃないか。猫にとっては本望だと思うよ。好きに生きた結果なのだからね」

「同感だ。言ってはみたけど、僕だって人のことは言えんしなぁ。お前も言ってたけど、今まさにこの現状が僕を好奇心に殺されそうになってる猫だと証明してるし」

 

 特に負けたら、クラスごと敗北になるって部分が。

 それでもやりたいことはやってしまうんだから、我ながら救えない性質だ。

 

「ははははっ! 挑戦を躊躇わないその姿勢は、私にとっても好ましい部類だよ夢月」

「ああ、僕もだよ。真っ向から全てをねじ伏せるお前の在り方は、眩しさすら感じるほど美しく楽しい。その友達が本気で誘うなら僕も応えるのが道理だろう」

「……友、か。ふっふっふ。やはり私の勘に間違いはなかった。

───今月今夜は赤い月だ。永い夜になりそうではないかね」

「赤い月か。ははっ、そうだな。

───楽しい夜になりそうだ」

 

 ま、僕が楽しく、高円寺も楽しそうならなんでもいいか。

 無理ゲーを楽しく変えるのも、だんだん慣れてきた。

 こんな序盤戦で敗北するのはもったいない。

 変わった比喩表現を使ってまで宣戦布告し合った高円寺には悪いが、そうならないために是が非でも勝つ心意気で行かせてもらう。

 

 

 

 開始の合図が鳴り響くと同時、僕はさっきの神崎のように高円寺に向かって突っ込む。攻撃目的じゃない。まずは小手先の誘導返しからの奇襲だ。

 

「「夢月君!?」」

 

 愛里と一之瀬の声が聞こえた気がしたが、気にする余裕はない。ただでさえ、対峙する高円寺は怖いのだ。策を用いて壁を乗り越え、全力で集中しなければ立ち向かうことさえ僕には難しい。

 だから、まずは一歩を踏み出すことが肝要だ。

 

「散るか夢月……私の想定内であれば、だが」

 

 かかった。

 コイツらしく余裕をもって迎え撃ってきた。

 

「―――むっ!」

 

 ウッソだろコイツ!

 鉢巻きを掴もうとしてくる高円寺の手が『僕の』顔面に当たるように動いたのに、直前で軌道を変え、囮にした右手と本命の左手を払いのけやがった!

 これでどうにかなる想定はしてなかったが、見よう見真似の南雲流がこうもあっさりと……。対応速度が尋常のものではない。

 

「空手? ボクシング? それにあの動きは反則狙い……? いや、違うか」

 

 しかも呟きからすると、手の内といくつかの可能性を一瞬で読み取られただと。知ってたけど……なんだ、この才能格差。

 

「ふっふっふ。大したものだ。私との差というにも烏滸がましい隔絶した頭脳と身体能力に対抗するため、油断を突く。実に正しい判断だよ夢月。だが―――」

 

 ことごとく。僅かな断片からことごとく読みきられていく。

 本当にとんでもない男だ。驚く余裕もない。

 なので一旦切り替えて、次の手だ。

 

「それでも甘い。肉を斬らせて骨を断つtacticsが私に通用するとは思わないことだ」

「……多分、一撃で決める方がエレガントで美しいよ? strategy的にも」

「君が相手でなかったらそれもありえたかもしれないけどねぇ。ま、この私の油断など期待するだけ無駄というものさ」

「わかってるけど、それ以外の手が邪道しかないんだよ。命乞いとか懇願とかな。はっはっは、って笑うしかねーよ」

「相変わらず掴みどころのない男だねぇ。窮地を理解した上で普段とまったく変わりない」

 

 駄目だ。言葉でも揺るがせない。誘導の取っ掛かりすら見えない。

 やっぱり四方か早苗に頼むべきだったか? でももはや遅いし、仮にそれで高円寺を倒せたとしても先が続かない。

 神崎や安藤が無理だった以上、他の候補は元から相当限られている。少しは対抗可能と思われる柴田の対抗カードは決めてるし、一之瀬含む女子達を無理矢理に高円寺へ当てるには不確定要素が多すぎた。

 

 そもそも王さんを相手にする姫野はまだしも、愛里と一之瀬は何が理由か珍しくお互いを当ててほしいと頼まれてるので配置変更はできない。

 なら早苗とタイプは違えど、かろうじて速さに対応できる僕だろう。どうせキング戦に敗北すれば負けなのだ。

 それにしても、あの無駄に転がされまくった日々がここにきて役立つとは思わなかった。

 

 いっそここは───正攻法に切り替えるか。

 

 僕の知る『天才』はみんな、孤高ではあっても孤独ではない。

 たしかに自分自身のみを信じ抜くという性質上、何らかの目的に向かって突き進んでいる時は周りを顧みない場合は多い。しかし少なくとも友達や仲間に対しては、進み始めるまでは支え、支えられ、自分の認めた繋がりを決して軽視しない。

 顕著なのが、目の前にいる高円寺だ。この天才は孤高を体現したような在り方だが、孤独とは無縁の男である。

 

 そんな奴の前で、そんな奴を相手にして、この僕が無様を晒す?

 冗談ではない。

 実力など関係ない。

 負けられない状況を整えて『自分に挑ませた』高円寺に借りを返さなくては、僕の美学も矜持も口先だけになってしまう。

 ならば、やるしかないだろう。今がその時だ。

 

「ほう? 目の色が変わったか。何か思いついたのかね?」

「どうだろうな。一番通用しそうな手は初手で潰された」

「それにしては諦めを感じさせない目だ」

「取り返しのつく範囲でいい。お互いに背負うモノの大きさで競うというのも、なかなか乙な勝負じゃないか」

「素晴らしい……! その目。君が最高に面白いのはいつもその目になった時だ!」

「できるだけ楽しく、可能な限界まで愉快に、手段や目的を選り好みして。僕がそういう奴だってお前にはわかってるだろう?」

「ふふふ…ふはははっ!! あーっはっはっは!! わかっているとも! 来たまえ夢月! 私の全力をもって応えて魅せよう!!!」

 

 本来の騎馬戦がそうであるように、多少の荒っぽい攻防も問題ではないし反則でもない。

 笑いの余韻で僅かでも身体にブレが残っているうちに、またしても僕は高円寺に挑みかかる。何の技術もないただのパンチ擬きは、意外なことに直前まであっさり高円寺に当たるような気がした。

 

「奇襲を狙ったにしてはお粗末な拳だ。腰に力を入れるのだよ───こんな風にね!」

 

 それなのに、残像拳でも使ったかと誤認するようにスウェーバックした高円寺はぬるりとかわし、逆に反動を利用する勢いのカウンターが飛んでくる。

 

「がっ……つぅ~!」

 

 それは咄嗟に身体を捻ったことで僕の腹に浅く入った。これだけでHPバーがあればおそらく3割は削れたのが、ホントふざけている。

 尤も、鉢巻きを取れたはずなのに、僕と似た鉢巻き狙いじゃない手の動きだ。明らかに着弾位置が低い。とはいえ、舐めプというよりも僕の何かを見極めようとするための攻撃にも思える。

 

 そしてその試しの一撃のおかげで覚悟と準備は完了した。これなら見える。戦える。

 僕は早苗に対していつもしていたパターン作りを、即興で高円寺用に合わせて再構築していく。

 するべきことがお互い明白ゆえに、これ以上の言葉を返す余裕も必要も今の僕にはない。

 細い勝ち筋を渡りきることに集中───。

 

「ほう……集中してきたか。沈めるつもりではあったのだがね」

 

 高円寺は狙った一撃を決して外さない。その一撃は凄まじく速い上に、威力だってこれまで僕が食らってきた南雲や須藤を確実に上回っている。高円寺のパターンについても試行回数が不足している。おまけに僕の底を見切っている。

 

「だが───もう夢月を格下とは思わない。

 この私がその精神力に敬意を評そう」

 

 だが見切られているからこそ、攻撃方法と着弾予測はかろうじて導き出すのが可能───正解は真っ直ぐのストレートだ。

 

「どうなろうと次で決着だ。覚悟を決めたかね、夢月?」

 

 ならば恐れず、目を逸らさずに見極めろ。あとはタイミングだけ……!

 これまで早苗との組み手…という名のサンドバッグ役をこなしてきた経験値を総動員で今この時に昇華させろ。

 神経を針の先のように研ぎ澄ませ。

 僕ならできる!

 

「───掴まえたっ!」

 

 ほぼ同時に動き出しながら、身体能力の関係で先の先になった高円寺の手が頬に掠めていく───僕の鉢巻きへ伸びる瞬間まで集中力を切らさなかった。

 瞬きすらさせてくれない速度だったのだが……それでも覚悟を決めて全力で集中した成果なのか、思ったよりも自分の身体は動いてくれた。目を見開いた高円寺が不思議とわかる。

 

 伸びきる前の高円寺の腕を取り、たった数回の成功例をなぞるように態勢を崩す。だからか思うよりも軽く感じた高円寺の身体が、ほんの僅かに浮く。

 それは本当にセンチメートルにも届かない程度のものだったが───最初で最後の好機。僕は早苗へのパターン構築を参照しつつ応用した投げを実行する。何度も『僕が』やられてきたムカつく技だが、背に腹は代えられない。文字通り身に染み込んでいる。

 

「ぐぅっ……!」

 

 高円寺の背中を地に打ち付けると同時に、押し殺した呻きが僕に届く。

 そして唯一それだけが、様々な才能に恵まれた天才をひっくり返すギリギリの道筋だった。

 続けて手を休めず、ここから先に進む気概をもって、僕のできる限りで最速の最善策を打つ。

 

「ぐっ…く、まさか、天地返し……とはね。だが、意表は突かれようと私にはこの程度」

「だろうな。単純に凡人が偶然の奇跡で千分の1、万分の1を引き当てただけだ。それでも───」

 

 具体的には再度動き出すまでの間に、高円寺の頭に巻かれた鉢巻きを剥ぎ取った。

 お互いにすっかり忘れてた(僕だけかもしれない)が、鉢巻きを取った方の勝ちってのがルールだ。幕を下ろすには、これが正当なやり方だろう。

 

「───今日はこれで終いだ。敗者復活とリベンジは特別試験の制度的に受け付けてないらしいぞ?」

「…………ははっ、認めよう。君は誇り高き凡人だと。ゆえにこそここで『終わらせて』しまうのは美しくない」

「それに次を待つ楽しみはあるだろう?」

「ふっ。ああ、非常に面白い一戦だった。期待以上どころか、期待の斜め上を外して飛んで行ったよ。良い意味でね。

 だから───夢月の勝ちだ」

 

 ほぼ運勝ちだから、偉そうにはできないけどな。本来の能力差から鑑みても、勝てたのはマジで奇跡だ。

 友情と称賛を万感の思いに乗せて、僕は心から高円寺へ言葉を返す。

 

「───強敵と書いて『とも』と呼ぶ。お前もまさしく強敵だった」

「友、か……」

「ああ、お前もそう感じたなら嬉しい」

「は……ふははっ。サンクス───友よ」

 

 本音でそう思える奴にこれが言えて満足だ。高円寺もノリ良く返してくれるし、やはり良い奴だよな。

 テンションの上がるやり取りでようやく終わったことを実感できて、僕は一気に気を抜いた。僅かな時間だとわかってても、ずっと気を張り続けるのは疲れてしまう。

 

「ふぃ~、冷や汗かいたわ。でも僕もサンクスだ、高円寺。普段ならリベンジも受けるから、したいならいつでもどうぞ。多分、お前なら次は楽勝だけどな」

「楽勝、ね……。ふっ。そうかもしれないし、そうではないかもしれない。夢月がどうするのか、久しぶりに強い興味と関心が湧いてきたよ……」

 

 ただ、話し始めても珍しく立ち上がらなかった高円寺に違和感を覚えて、念のためにとりあえず起き上がらせようと僕は手を差し出す。

 

「っと、そういや、どっか強く打ってたり、痛めてないよな? 痺れとかがあるなら言えよ? ほれ。立ち上がられないなら、僕の手を取れ」

「……っ。もちろんだとも。あれしきのことでダメージを受けるほど私は柔ではないさ」

 

 しかし、高円寺は何故か瞬きして戸惑うような僅かな間ができた。でも手を握り返すのを見た感じでは本当に心配が要らなそうだったので、一言を入れつつ名残惜しいが話を締めさせてもらう。

 高円寺とは決着したが、まだ『チェス』試験は始まったばかりなのだ。

 

「そっか。無用の心配だった。縁があったらまた遊ぼう六助」

「はははっ! 縁とは自ら繋ぐものだろう夢月」

「そうかもな。そっちの方が断然楽しい」

「……ははっ、はぁ~はっはっは!! 違いない!」

 

 その後にはすぐいつものように笑い出したが、コイツにも僕の清々しい気持ちが移ってくれたなら幸いだ。

 やはり勝負事は後味スッキリの楽しみ方が一番である。

 

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