ようキャ   作:麿は星

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149、盾

 

 前にどこかで述べたが、西欧人──特にキリスト教徒の自文化中心主義には『多神教は原始宗教、一神教が先進的』という価値観が広まっている。いっそ怖いくらい狂信的に、だ。

 しかも一神教でも多神教でも自然を支配して従わせる=人間は神の子孫という原理主義的な意識も強い。また支配しようとしてできず、結果的に壊してきた事例も多く、彼らの言う『自然保護』というのがどれほど傲慢かという事実にも気づいていない。

 

 一方の日本やマヤ、東南アジアなどが自然と共存する思想を持っていたところへ、ことごとくそれを都合よく改変する動きしかしてこなかったあたりがその証明になるだろうか。

 もう一つ、物質文明で昔から言われる『資源を使い切らない』も、正しくは『使い切る(独占欲の現れ)』の裏返しだ。

 例えば、これをイスラム教の人達はこう論破している。

 

 人間が神様の用意した資源を使い切ることは決してない。なぜなら使い切るより前に新しい技術が出てくるから。

 石器時代は石を使い尽くす前に終わったし、鉄器時代も鉄を掘り尽くしていない。電気の時代に入って電線を作る銅が足りなくなると言われたけど、掘り尽くす前に光ファイバーが出てきた。

 

 枯渇した時に備えて自国の銅山に手を付けなかった愚かな国はあれど、今となっては掘っても採算割れに陥る。更に次世代の技術である光ファイバーの原料は、使い道のなかった砂漠の砂。

 だから石油をまだ十分に掘れるうちに新しい産業を育てておかないと、新しいエネルギー資源が出て石油が売れなくなった時に国が破産する、と。

 

 精神性以前に目先しか見えてなくて、物質至上主義の中で先が見えなくなってる人は詭弁だと思いそうだが、これは良いところを突いている真理の一つだと思う。

 まぁ知性を感じられない報道が妙な危機感を煽ってるという事情もあるわけだが……。

 

…………うん。夏に啖呵きった時に坂柳理事長が言ってた『先』って、確実にこのどちらかか、あるいは悪魔合体・類似バージョンですね。ありがとうございます、ふざけんなっ。

 

 先日会った月城さんもさりげなくこの事に触れてたし、あの人も完全にこの学校を内心馬鹿にしてんじゃん。それだけでなく、試験中の高円寺のいつにない気紛れのような動きや最近の南雲の件も、多少なりともここに彼らが触れたからだろう。

 やめてくれよ、僕まで引きずり込もうとするの。そういうお前なら気づくだろ、って見てるっぽい匂わせがおそらく僕を指し手にしたんだよ? 勘が勝手に反応して。

 

 だって万全じゃないっぽい今の一之瀬に、これをやらせるわけにいかないじゃないか。十中八九、勝っても負けても心が折られるように学校側が仕組んでいる。なら、少なくともそれを自分から望んでるらしい堀北さんに押しつけるほかない。

 

 ゆえに悪いが、ここからは本気で打開に移らせてもらう。

 僕が気づけるうちは、僕達をブラックな『先』へ誘導できると思わせたくない。

 さあ、黒幕気取り(推定)の山内とやら。

 お前が“用意”した次はどんなものだ?

 何を利用しようと、全てぶっ飛ばしてやるよ。

 

───それができる奴を用意して!

 

 

 

 というわけで、改めて情報を更新して問題がない事を確認。堀北さんが精神を立て直すためか長考する合間に、再び席を外してクラスの控え室へ行くと、予想通り早苗が人を寄せ付けない雰囲気でぬぼーっと突っ立っていた。

……やっぱりか。念のために来といてよかった。まずはコイツだろう。

 早苗には独自のルール的なモノがあるのか、自分がやらかしたと思い込んでしまうと謎の落ち込みを見せることがある。そこをまずケアしておかないと、個人的に落ち着かない。

 

 普段なら愛里がこういうのを発散させてくれるのだが、残念ながら別のクラスでいない。四方や姫野も本人が話しかけるなオーラを出してると放っておくことが多く、一之瀬達も早苗は遠巻きにするのがほとんどだ。まぁ、こんなわけのわからない奴の機微を貫通して口を開かせるのは、年齢的にどうにもできないからしかたない。

 結果、こういう場合に勘でなんとなくわかってしまう僕が対応することになるわけだが。

 

「はぁ……落ち着け早苗。誰もお前を責めたりしねーよ」

「夢月さん……? 何故ここに」

「んなことはどうでもいいだろ。

 僕が言うまでもなく誰かに言われてるかもだが、むしろこういう時こそ調子に乗れ。タガの外し方が甘いんだよ、お前は」

「でも、私は……また感情に任せて」

「それの何が悪い?」

「え? だってやりすぎだって先生から怒られ」

 

 コイツは、また意味不明に変な部分がクソ真面目だな。根が常識に囚われてるのか、周りのことも考えてしまう。能力はあるから期待に応えようとして、本当に実現してしまうのだろう。

 この真面目さが普段に反映されてくれたら……やっぱそんな早苗はつまらんな。却下で。

 うん、そんなの適当な奴へ投げておけよ。こっちが僕の好みだ。

 

 だいたい早苗みたいな鬼才ってのは、周囲のフォローあってこそ十全な能力を発揮できる。だから、できない部分をフォローしてもらうのが基本だ。

 そこをわかってるのは、なにも僕だけじゃない……多分。普段からして主張さえ早苗がしてくれれば、穴埋めするのを嫌がる奴なんてうちのクラスにはあんまりいない、と思う。

 

「ハッ、だから僕含めた友達がいるんだろうが。何度も助けてくれたお前を助け返しもフォローもしないとでも? てか、山内とやらにあんだけやって病院送りにすらしなかった手加減をもっと誇れ。最高に最強な振る舞いだっただろ? 自分でそうは思わないか?

───お前らしく常識なんか蹴っ飛ばしてやれ」

「ぁ……」

 

 だから、要因と思われるモノ全部を笑い飛ばす。

 なぜなら、コイツに常識という型を当てはめるなんてとんでもない。

 それで浮かない顔をさせるのは、僕の美学が許さない。

 どうかすれば空だって自由に飛べそうな奴が、つまらない理由で小さく縮こまるなんて馬鹿馬鹿しい。

 いつか愛里に言った恥ずかしい言葉を付けてでも平常運転に戻してやる。

 

「そういう場合は僕が早苗の『盾』になるから、思うままにやれ。自分が信じるように好きにやるのが最も楽しいもんだろ?」

「信じる……楽しい……あぁ、そう、かもしれませんね」

「それでも気になるなら、僕としてた組み手だと思え。総計なら山内が受けた何十倍も僕は食らってんだぞ」

 

 そう言うと、いまだ小さくはあるが早苗は笑みを零して頷いた。

 遠慮なく、迷いなく、躊躇いもないいつもの僕の友達が戻ってきた感がある。

 時折見せる神々しささえ感じる、ひたすら強い風祝の東風谷早苗だ。

 

「…………ふふっ。ありがとうございます夢月さん。以降そうしますから覚悟してくださいね? これはちょっとしたお礼です───癒しの奇跡」

 

 早苗は沈黙した後、お礼だと言いながら僕の腹に手を当てて何かを呟いた。すると、高円寺に食らった時から実は我慢していた痛みが和らいだ。回復魔法的なモノまで実現可能とは、本当に早苗には常識が通用しないのかもしれない。

 なら、やる気を直球で刺激するだけでいい。コイツは高円寺と似て単独で立てる女だ。神様や四方も付いてるし、躓いた時だけフォローしてやればいい。

 

「ありがと早苗。……見に来てる神様方にも伝えといて」

「……っ。はいっ!」

 

 まぁ、コイツは変に沈んでるより元気な方が落ち着くように調教されてしまった。何気にこうして時々は助けてくれるしな。

 少し自分で整理する時間を置く必要はあるかもだが、調子が戻ってきたみたいだし、これ以上の補助はいらないだろう。

 

 

 

 しかし……チッ、早苗は持ち直してきた感があるが、いつもとクラスの奴らの雰囲気が違う。捨て身の計略が、男女に小さな溝を作ったのだ。

 こうした場合の要点は基本的に5つ。

 戦意があれば戦い、足りなければ守り、守れなければ逃げる。逃げて捕まれば降伏と死。無論、そんな物騒な選択は現実にあまりないが、何かを競う時にも応用できたりする。仲間同士を疑わせる……戦意を砕く、などだ。

 

 おちゃらけてふざけた風に見えても、山内の謀略の本質はA・Dのクラス間ではなく、両方のクラスの男女に溝を作る目的な可能性が高い。うちの仲の良さや団結があるとはいえ、万全と断言できるか微妙な以上、僕も手を打つべきである。

 更に高円寺と試合してた時の神崎の様子や、おそらくノーマークだった愛里と引き分けた一之瀬の内心も考えるに、こっちにも最低限のフォローは必要だろう。

 

 してやられた時こそ笑え。

 ピンチの多くはチャンスでもあると思い出せ。

 早苗を完全に持ち直すついでに、僕の想像力と口先で未来の早苗と一之瀬の可能性の一つを合成、実演してやろうじゃないか。

 時間ももったいないし、所詮は紛い物で凡人が実行する模倣に過ぎない強引な力押しにはなるが、本物達の踏み台程度はこなせるだろう。

 経験値というのはこういう使い方もあると教えてやる。

 

「おいおい。クラスメイトども。勝勢になにそんな湿気た面してやがる。ここから先を僕に丸投げするつもりか? クックック───やなこった」

 

 まずは口調をわざと崩して道化になりきりつつ、一之瀬のやり方を自分流にトレース。語りかけるように雰囲気を変化させる。

 

「あらかじめこれだけは言っておく。僕は何かを変えるつもりは元々ないし、勝利も最優先では狙わない。それでも本気で頑張ってる奴の邪魔はしないから、『変わっていく』様は目の当たりにするだろう」

 

 俯いていた一之瀬と神崎が顔を上げる。

 そうだよ。何を疲れてるのか悩んでるか知らないけど、これを本来やるお前らへ向けてんだよ。との念を込めて、これ自体にはなんの意味もない演説をブチかましておく。

 

「そうだ。『争い』じゃない。『競争』ってヤツだ。誰もがレースのように前を向き、上を目指せる理想の環境作りが僕の役割で目的だ。だが、リソースの奪い合いや他を蹴落としたいってんなら、僕はそいつの敵に回る。誰であろうと確実にだ」

 

 一呼吸を入れて、これが本来誰の目指す先かを考えさせ浸透させる。

 

「この『変化』じゃない『進化』を邪魔したい奴はいつでもかかってこい。ああ、意味わからない奴のために一応補足しとくが、生物学の進化じゃないぞ。精神的な話だ。成長とも言う。これが実感できてからが始まりだからな。自発的に成長しようとする奴から変わっていくだろう。具体的なやり方がわからない奴はー……」

 

 早苗や四方には僕が転生したことを明かしてあるし、なんとなく雰囲気で言いたいことはわかるだろう。後のフォローは四方と一之瀬に任せた。

 

「うん、一之瀬あたりに相談してくれ。僕はわからん」

 

 何人かコケたのを確認し、演説の転章を無理矢理に齎す。

 相談しても解決しないなんてザラにある。だから一定程度でも解決すると人の印象に残りやすいのだ。

 こういうマメな人気取り手法に、前の人生で培ったそこそこ経済人達と渡り合ってきた交渉や調整の手法。政財界にも稀にいる本物の実力者な人達のノウハウ。説き伏せ、時にはたらしこむも可能とするカリスマを持つ奴らの模倣。

 

 それらをゴチャ混ぜに応用しつつ一之瀬に投げ込み、序盤から山あり谷ありだったうちのクラスの奴らを、引き込み、巻き込んで、僕の言葉で意識をすり替えてやろう。

 

「きっとなんとかしてくれるさ。だから僕は何も要求なんかしない。今まで通りに、いつも通りに、前を向いて歩いてれば、どこかで変わっていく部分に気づくはず。ゆっくりかもしれないが、だからこそ確実だ。なんか失敗しても焦る必要なんかない。それが理不尽じゃない自然なことなんだからな。

 僕の目的で願いはこれだけだ」

 

 長じた一之瀬や早苗をトレースした悪辣な大人の手段だがな。

 一度紛い物を見せとけば、勝手に学んでくれるだろう。一之瀬や早苗の先を考えると特に重要なので、これを聞いてしっかり自分を持てるように。アイツら、能力や影響力のわりに、めっちゃ気分や雰囲気に乗せられるからマジで頼む。

 

「ただ今回は僕に任せろ。責任は全て僕が持っていく」

 

 最後の問題対策も当然考えてある。

 理論武装ならぬ議論武装の殺し文句。大勢に何かをブチ上げた場合は、聞かれなくても聞きたい事が大抵は明白なのだ。

 つまり責任を取れるのか聞きたい相手に対し、では問題が拡大したらお前が責任を取るのかと返す。そこへ僕はその責任を取ると言っている、と続ければいい。

 これに反論してこれる奴はまずいない。学生なら尚更だ。

 

「希望者は僕に乗れ。地獄行きかもしれんから、抜けるんなら今しかないかもよbaby? 良い子は良い子でお利口さんらしく固まってな」

 

 ここで改めてクラスメイトに向き直り、勢いに『だけ』乗せる。本当に多数が乗ってくると僕が退学になった時に大変だから、ならず者ムーブも忘れない。ハードボイルドは僕の心の師匠である。

 その暗に問いかけたふざけた提案に。

 

「乗りかかった船だ。俺は夢月に乗るよ。放っておくとどこ行くかわからんからな、コイツ。それに何が悪いか悩むより、何が正しいかで決める方が建設的ってものだ」

「そうですね。夢月さんがいなくなる可能性は考えたくありません。取り乱しちゃいましたけど、ここからは私も本気で乗りましょうか」

 

 まず四方と早苗が理解を示してくれる。ありがたい。

 

「勝手なことばっかりする奴だが……ああ、俺も賛成する。付き合おう、左京」

「ここで見捨てるかよ、馬っ鹿じゃねえの。そんなの格好悪すぎんだろ」

「まぁ、左京君ってリーダーとしてはアレすぎだけど、間違ったことはあんまり言わないしね」

「女子にもたまには良いところ見せねぇとな。勢いもあるし、勝てるだろ」

 

 神崎や渡辺、姫野、柴田が。何人か脱落してはいるが、他もだいぶ雰囲気を持ち直してきた。

 大半が男子なのには思うところもあるが、こういう時に必要なのはええかっこしいの勢いである。答えのない話で無駄に時間を浪費するなら、多少強引でも言いたいことを言い切ってスキップしてしまうべきだ。

 だからクラスメイト達の野次のような減らず口を聞いて、僕は安心してぶちかましておいた。

 

「おっしゃ、いつもの馬鹿丸出しなお前らで安心した。だが、柴田の言う通りだ。勢いでもって殲滅しよう。なに、Dクラスの主力をどうにかしてあちらさんのキングを討ち取る簡単な試験だ。総合力と練習量で勝ってるうちなら楽勝だろ?

───『盾』の役割は僕に任せろ」

 

 返事は頷くのみだったが、上手いこと良い表情にできた。

 向こうがどう対処するか不気味ではあっても、さっきの男子全体の評判を下げる山内の諸刃の剣的な計略はなんとか吹き飛ばせたはずだ。

 懸念対象の1人であった一之瀬も発言こそしなかったものの、自分を取り戻した目になっている。ここまでくれば、もう大丈夫だろう。

 ここから反転攻勢だ。

 

「んじゃ、試験中で悪かったけど、ご清聴ありがとう。

 僕はもう戻るが、あと少し僕の駒として働け? 下僕のようにな。ふはははっ!」

 

 一拍の間を置いて、僕のジョークに罵声と笑いとなんとも言えない視線が浴びせかけられた。だが、目的達成を確信した僕は笑って手を振り、普通にいるべき場所に戻った。

 四方と早苗、ついでに神崎と一之瀬が笑っていたからだ。元々、そこさえクリアしていればなんとかしてくれる、と考えての行動だった。

 

 勿論、対局ルームから直帰予定の僕にもなんら影響なく、もう今日はクラスに合流しないと思っていたからこそできた振る舞いでもある。

 でも山内とやらが起こした暴風のせいで、いらぬ仕事が増えた借りは返させてもらう。

 

 

 

 ただまぁ、予想外ではあれど、情勢の急変に寄与したことに変わりはない。考え方を変えてその後を見れば、山内が『うちのクラスに』最も貢献したMVPに認定するのも吝かではないほどだ。

 対戦相手ながら、一歩間違えば試験中に自分の所属するDクラス崩壊まである恐ろしい手を打つ相手である。

 

 ここまで潜伏しておいて突如として自分が嫌われる手を厭わない奴なら、退学を押し付けられる枠に入らない保険も用意してあるかもだし、その山内を落とした以上は堀北さんの参謀に就かれると厄介。

 

 高円寺の動きまで利用?して躊躇いなく盤外から心を攻めてくる奴がいるなら、僅かな油断も許されない。坂柳さんや龍園と同等レベルの警戒をするべき相手だ。

 クラスの勝ち負けはともかく、後にまで爪痕を残すような策を使う奴がいるなら僕も本気で封じにかかる。

 

 なら、ここで手堅く小さく纏めるよりは、いっそタガを外して正攻法の全ブッパするのがいいだろう。

 取るべき選択肢は五分の状況に持ち込んでの全面攻勢である。

 ゆえに対局ルームに三度戻ると同時、現在の盤面を俯瞰し、把握しつつ、勘で比較的弱い部分に当たりをつける。使わないのになんか鳴ってる僕のインカムは放って、景気の良いアナウンスを流して堀北さんにも煽りの一手。

 

『僕からAクラス各員に伝達。

 さっき言ったことから察してるかもだが、これより総力戦に移行する。各員、いつでも行けるよう準備してくれ。総合力の高さを多面作戦で十全に活かす采配で追い込んでいく。

 遠慮も加減もするな。全て喰らい尽くせ』

「……っ」

 

 息を呑む堀北さんへ不敵に見える笑みを向け、更に追加で圧力をかけ、精神を引っ掻き回す。潜んでいた策士が目を覚ますまでにできるだけ戦力を削り取ってやる。もう最後以外は何もさせるものか。

 どうしようもない部分だけ僕が盾になれば、平均能力値の高いうちのクラスには充分だろう。

 

 高円寺は仮に脱落してなくても、先程の勝負の真意から考えて動かない。まして今の状況ならなおさらだ。

 堀北さんの背後に清隆の匂いは感じようと本人じゃないし、清隆の性格なら現状では相互連絡も簡単ではない。山内はまだ寝ているはず。

 

 いかに堀北さんが僕より格上で優秀でも、参謀不在で社会人経験を持つ僕が手を抜かないなら負ける気はしない。言ってはなんだが、PLやPM(プロジェクトリーダー・マネージャー)を務めた身からすると、彼女自体は打ち筋も思考もかなり粗が見える。

 

 加えて、クラスメイトの長短や性格は把握してるっぽいけど、真っ当に運用する程度までしか到達していない。つまり堀北さんはリーダーや指揮者としては、オマケしてせいぜい中堅レベルといったところか。

 

 通常のチェスであれば、詰めを任せられる奴(清隆とか?)がいるなら問題はない。だが、この『チェス』試験において最重要といえるのは、予想外が発生した時のリカバリーだ。

 堀北さんはお世辞にもこれが上手いとは言えない。

 

 Dクラス内の雰囲気も、堀北さんの表情を観察する限りではおそらくそんなに良くない。諸刃が裏目ったのだ。

 こういう策こそ櫛田の根回しが光るから心配していたが、どうも手を借りたり対策があった風ではない。動くとしても櫛田独自か清隆の介入ありだろう。

 高円寺にしろ、山内にしろ、二の手三の手を備えるなどしておけば、僕の反撃を抑えることも可能だったはずなのに何故か対応が遅いからだ。

 

 だから席に戻ってからは、堀北さんが駒を動かした瞬間に合わせて別の勝負を展開させ、急かすようにして頭を休ませない。清隆などに助言させる余裕を削り、付け焼き刃のメッキを容赦なく剥がす。

 

 運が絡む以上はこちらにも損害は出ているが、運悪く不得意な分野が当たってしまった白波のナイト、それにポーン1騎で済んだ。柴田・網倉・二宮のナイトも、池、篠原、市橋のナイト同士の的当て競技で苦戦はしたものの、勝ったのでオールOKだ。地力が相対的に高めなので、士気さえあれば多少の無茶は通せる。

 

 山内のルークが撃破されてからは、士気などのリカバリーの有無もあって形勢は逆転し、続いてビショップ、ポーン2騎、ナイトの勝負をほぼ同時にぶつけて落とせた。

 白波のナイトを落とした小野寺、前園、西村のビショップを落としたのも大きい。もし動揺がない彼女ら3人に、特に小野寺さんに得意分野のパフォーマンスを発揮させていたら、安藤や南方のいないこちらは少し不味かったと思わせるほどの運動能力だった。

 

 また前に出て来ず落とせなかったクイーンや綾小路グループ(愛里抜き)のナイト、軽井沢・佐藤・松下のビショップに、ほとんど何もさせなかったのは消耗を抑える点でも悪くない。

 

 個人的には、櫛田・平田・須藤のいるクイーンを動かされるか、綾小路グループの残り4人がいるナイトを倒すのはヤバいと思ってたので上々の成果だ。

 狙ってなかったのは友達だからとか情とかでなく、清隆か櫛田に本格的な参謀として専念されると、ここからでも巻き返しされる可能性があったためである。

 

 結局、この勢いはナイトの三宅の奮闘、弓道の勝負でポーンを落とされたことによって、落ち着きを取り戻させてしまったわけだが。

 攻勢を短時間にされたとはいえ、戦力比は五分に戻せた。

 まぁそれなりに望ましい結果に導くついでに戦果も獲得できたのではなかろうか。

 

 よし、事前準備は完了した。

 輝かしい打開の時だ。

 全て関係なく“盾”で薙ぎ払ってやる。

 

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