ようキャ   作:麿は星

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150、好奇心(綾小路視点)

 

───アホか。できてもやらねーよ。何が悲しくて友達を葬らにゃならんのだ。

 

 これまで夢月から何度か放たれた平等と対角にある裏表のない言葉を、オレは今でも鮮明に記憶している。

 オレの最初の明確な敗北として。

 まぁ、その前にも色々な点から薄々感じてはいたが。

 以降も有言実行し続ける予想外にあれだけ巻き込んでくれば、もう認めざるをえない。

 

───前例は作るためにあるようなものだろう? 躊躇う必要などない。やってやろう。

 

 左京夢月は良くも悪くも『平等』だ。

 外から見てどんなに善行でも悪行でも区別なく、やるべきだと思った事の実行を躊躇わない。

 

───え、どうもしないけど? 聞かれたから答えただけ。

 

 クラスの勝ち負けなどにも興味はない。それはオレも夢月も同じだろう。ただ物事を隠すか隠さないか程度は傾向に違いはある。そして理解できないモノに対して、大抵の人間は避けるか攻撃的になるものだ。

 他人に理解されない事すら隠さないのは、龍園以上に敵を作るかもしれないと時には忠告もした。

 が、そうはならなかった。

 

 結果として、少なくともオレにとって夢月という男は、味方であれ、敵であれ、普段はどうであれ……。ホワイトルームすら超えかねないレベルで、いつの間にか“好奇心”を満たせる存在になっていた。

 何かで見た「頭はクールに、だけどホットに」を本能で実践している。

 

───ハッ、策に溺れて溺死しろ。

 

 体育祭前に、櫛田を手駒にする下準備をしていた時もそうだ。

 櫛田に堀北を攻撃『させない』ことで、櫛田に存在していた付け入る隙を潰してきた。しかも後にオレと櫛田が『契約』する布石まで整えた上で。

 気づいた頃には先々を見越したような……オレにさえ手遅れの一手を無数に打ってくる男だと、脳裏にチリチリとした電気が走っていたのをよく覚えている。

 

───聞けぇ!!! 僕の叫びを! 僕に注目しろっ!

 

 観察してわかったが、夢月は勝った時は意外と冷静だ。代名詞になりかけている煽りはする場合もあるものの、必要でなければあまりしない。

 反対にあまり例はないが負けた時は、心の底から楽しそうに振る舞う。周りが沈んでいようとお構いなしだ。そして、いつしか周りまで本当にそうなっている。

 

 なにより負けても『次』を…先々までを見越した土産を残す。

 夢月が勝てそうな場合でさえ、安易にその道を選ばない。自分か相手の片方、もしくは両方の『次』に繋がる手を好む傾向があるのだ。たとえ一時的に自分が敗北するとしても……。

 だから勝ったと思った瞬間こそがこちらのチャンス、という勝負の鉄則は夢月に通用しない。そういう原理で動いていないからだ。

 

───埒が明かない? では埒を明けてしまおう。相手の利益や逃げ道を用意したWINWINな関係が僕の好みだ。

 

 最初はオレにも理解できなかった。

 現時点でも真に理解できているとすれば、おそらく四方二三矢と高円寺だけだ。だが、幾度も予想を覆し、ついにはオレが認めざるをえないところまで持っていった夢月をより深く知りたいと思うのは、『人』として当然の好奇心だろう。

 

───舐めるなよ、綾小路篤臣!

 

 実力がある。天才といえる。こういったわかりやすいモノとは違うナニか。搦め手や謀略に瞬時に対応し、信頼できる味方を増やしていく。

 裏表すら利用して、ありえない相手でもどうにか『交渉』に漕ぎ着け、全てを明らかにしていく夢月の発想と行動力は恐ろしくも頼もしい。

 

───そう自分自身に問いかけてみろ。

 

 敵を真正面に捉え、怯えを見せながらも衰えることの無い勇気と知恵、そして理の力。

 大層なことをするでなく、論を否定するでなく、自分が正義だと肯定するでなく……夢月はいつも通りに自分のやったことを述べて判断を他者に委ねるだけ。

 

 人伝に聞いて繋げた推測だが、夏の干支試験で最後に愛里や椎名などの牛グループにも見せたという手法の応用。

 選択肢を与えた上で、どちらが得かを選ばせる。

 そこへそっと自分の意見を乗せることによって、聞いた人の心に己の望む方向を付けて。

 どんな相手でも、どんな状況でも、望む方向へと捻じ曲げる。隙か、亀裂か、不和の芽か、ナニか一つでも切片があるだけでだ。

 それがオレには、非常に興味深い。

 

 冷たくなれるモノでなければ、いつか指揮は滞る。

 非情になれるモノでなければ、人の上には立てない。

 それでも夢月の行う人心掌握技術は、人として恐ろしいと感じて当然のモノ。

 オレが学んできたことから判断すると、夢月は統率者や参謀とは違うナニかだと思った。

 

───Happy Birthday清隆。これが僕からお前への『要らないだろう』誕生日プレゼントだ。良い夢見れたかよ?

 

 敵ではないが、夢月は強敵だ。

 矛盾するようだが、知識ではなく知恵を活用する賢さと、最適解を選ばないUnwiseness(賢くなさ)、利益を事も無げに他人に渡すFoolishness(愚かしさ)がある。

 あえて理性『以外』のマイナスを持つことで、自分の身を滅ぼすことを無意識に回避している。

 

 だから目的も見誤ることはない。必要とあれば手段も選ばないだろう。しかも一之瀬率いるあのクラスは全体平均値が高い。ソイツらを確実に巻き込んで突き進んでくるはずだ。

 それでいて夢月自身も、なんだかんだでお人好しの部類ではある。

 なんせ本人があえて制御していない直感で首を突っ込んでくるからな。そして成果を上げ、使える奴認定。いざという時に頼られる。

 

───左京夢月。普通の一般学生だ。

 

 ただ、見方を変えると良いように利用されているとも取れ、形になるようなモノは全く得られていない。ヤツがよく言っているやりがい搾取なブラック企業がやるようなナニか。オレにも何度か降り掛かったが、夢月の近くでも見ることができる。

 そう、茶柱や星之宮のことも含む大人の世界だ。

 だが、あの男はやる。そういう信頼感を築き上げてきた。

 

 夢月の最大の長所は頭脳や身体能力といった単純なモノじゃない。

 明らかに自分よりも強大な力を持つホワイトルームや学校にさえ、真正面から『NO』を突きつける在り方。

 オレの想定の更に先を行く異質極まる発想。

 

───意地と言うならこれが僕の美学というものだ。敗者には譲らないよ。悔しかったら、いつかリベンジしてみな?

 

 なりより、どんな窮地に陥ろうとも目が死なない信念と笑って楽しむ強靭な意思。自分が望む未来へと現実を引き込んでゆく吸引力だ。

 夢月は相手にとって……オレの■■にするに不足は―――ない。

 

 

 

 

 

 高円寺やみーちゃんとともに愛里が一之瀬との激戦を終えて戻ってからは、怒涛のような急変具合だ。山内のアレから少し間を置いたが、雪崩れのような勢いの攻勢だった。

 堀北がフォローを入れられないタイミングで勝負を同時展開し、一定以上の戦力を持つ駒を次々と削っていく。

 

 高円寺だけならまだしも、山内の暴走があった中で堀北はよく抗っている方だろう。一旦は勢いを止めることができた。

 それでももはや覆せないポイントに、ギリギリまで追い詰められかけたのは大きい。何を想定して実行したのかAクラスの士気が異常に高く、その上に隙あらば容赦なくそこを狙ってくる。

 間違いない。予定通り、今のAクラスの『流れ』を作っているのは夢月だ。

 

 しかもオレには状況を覆す策もいくつか浮かんでいたが、それを実行可能な堀北へ伝える術が欠けていた。唯一の連絡手段である子機は山内の暴走によって周囲を女子で固められ、男子は近づけない。以前の無人島で起きた男女の溝がくっきりと浮き上がった形だ。

 

 平田と軽井沢がなんとかフォローしようとしていたが雰囲気も良いとは言えず、異性に親しい者が少ない生徒はなんとも居心地が悪い。

 幸い、といっていいのか何組も勝負で出払っているから部屋内の人口密度は低下しているが。

 

 こんな状態では、男子だけ、女子だけの駒はともかく、それほどお互いを知らない男女混合の駒は目も当てられない結果になるだろう。そしておそらくDクラスの現状を読み取った瞬間、夢月はチェックメイトまで最大限に利用してくる。最低限の連携が取れるように手を打つことは急務だ。

 

「みやっち、ないす~!」

「運が良かったな。俺達の数少ない勝ち筋の勝負が当たって」

「謙虚だね~」

 

 愛里を除いたオレ達のグループは影響が少ないこともあって安定している。明人が得意とする弓道で、とりあえず向こうの勢いを止められた。

 

「しかし、これはヤバいな……」

「ああ。高円寺の勝手は今始まったことでもないから、止められたのはまだいい。だが、山内の件からの一連の攻勢は本当に左京なのか?」

「経験者がいない相手でポーンだったのに、集中力が半端ない。冷や汗が出るほど的に当ててきやがった。これをやったのが左京だとすると、侮っていい相手じゃない。夏の特別試験といい、体育祭の時といい、マジで予想外の塊だよな、あいつ」

 

 オレの呟きに横にいた啓誠と明人が反応した。

 まだ危機的状況には薄っすらとしか気づいていないようだ。

 

「間違いない。夢月は柔軟に打つ手を工夫してやり方を変化させる奴だ。高円寺との一戦を見ていただろう? あいつは攻め時と見たら誰が相手だろうと、最短距離を効率的に詰めてくる」

「う~ん、あのはぐりんがねぇ……。なんかそう思えないから、逆に不思議かも」

「実は俺もそうなんだよな。つい油断しちまうっていうか」

「……それがあいつの手かもしれない」

 

 波瑠加と明人に反論する幸村も、言うほどの悪感情は見られない。そうと見られていないのに、あれほどの事を成し遂げるからこそ誰よりも異質なのが夢月なんだが。

 待機ルームで先程一之瀬と堂々たる引き分けを演じた愛里と合流して話してみると、一面では答えと言える話を聞けた。勿論、身だしなみも整えて眼鏡も再びかけている。

 高円寺? 愛里やみーちゃんとともに脱落してからは、姿見の前で何やらポージングに勤しんでいていつも通り意味不明だ。

 

「夢月君は普段と緊急時が全然違うんだよ。やる気になっちゃうと突き進んで、気づいた時にはなんか変な着地してるんだ。本当になんとなく……」

 

 それにしても、夢月と“付き合いだして”からの愛里の成長は目覚ましい。能力面でこそさほどの伸びはないが、いざという時の性格や行動力は誰かさんの影響を最も受けていると言える。

 

 逆に夢月の方は一緒に過ごしたいだけの愛里をよそに、妙な思考に常に支配されている恋愛や女心のわからない男(……)だ。波瑠加が言ったようなに、いずれすれ違いや喧嘩とかか起こるのではなかろうか。まったく困った奴(……)である。

 

 まぁオレとしては、愛里は男女関係よりも友達関係で刺激した方がより成長するタイプだと見ていたため、夢月の打ってくる手はやはり興味深いものが多い。一之瀬に挑み一矢報いる存在になっていたとは、天文部の奴ら以外は誰も思っていなかっただろう。

 波瑠加が愛里と話している内容からもそれは読み取れる。

 

「おっ、愛里。さっすが彼女だねぇ。長い付き合いだけあって左京君の考えもわかっちゃう?」

「そ、そんなことない…と思うんだけど。多分、わたしと当たってたとしても手加減してくれない人だから、波瑠加ちゃん達も気をつけ」

 

 その愛里が少し興味深い夢月の評価を話そうとした時。

 男子にとっては救いの手が差し伸べられた。

 

「が~んばれっ♥️ が~んばれっ♥️ みんな、ふ、ふいんき悪いよ~♥️」

「「「…………は? 櫛田?」」」

「こ、こんな女の子にも怖い顔するなんて、みんな情けないね♥️ ざこざ~こ♥️」

 

 櫛田が紅き衣(ただのジャージ)を纏いて金色の野(ただの他より明るい場所)に降り立ち、ぎこちなく言い放ったのだ。

 

「「「う、うぉおおおおっ!!! 櫛田ちゃん、サイコー!」」」

「メスガキ助かる!」

「たまらんっ!」

「「「櫛田! 櫛田!! 櫛田!!!」」」

「あ、あれ? やる気を煽って渇! ってしたつもりなのに、助かられちゃった? こうすれば男子が奮い立ってくれるから、ピンチに使ってみろって言われてたのに……」

 

 それは奮い立つの意味が違うんじゃないか。なんてツッコめるわけもなく。

 櫛田も妙な部分で抜けてる場合があるな。唐突すぎたこともあって雰囲気はだいぶマシになったものの、演技の可能性はあるが。

 

「…………なにあれ? キョーちゃんって、あんな事を言うキャラだっけ?」

「……おそらく夢月に吹き込まれたんだろう。以前にも似たような事があった」

 

 まぁ可能性というか、実は夢月が言いそうな事をオレが吹き込んでおいたんだがな。たまにはアイツに投げるのも仕返しにはなるだろう。

 

「うん、多分そうだと思う。何度かわたしも見たことあるもん」

 

 愛里も前例からナイスな同意をしてくれた。ありがたい。夢月の普段の行いのおかけで、より説得力が増す。

 

「左京夢月……恐ろしい奴だ」

「いや、これ恐ろしいか? やっぱりあいつ紙一重の境界を反復横飛びしてるんじゃ?」

「……否定はできないな。他のクラスを手助けするような真似は、どう考えても非合理的だ」

「きよぽん、冷静~。今日はあっちに乗りに行かないの?」

「…………いい加減忘れてくれ波瑠加。あれはいまだに悪夢となってオレを苛んでいるんだ」

 

 しかし、結果としてDクラスの立て直しに成功したんだから、普通とは何か改めて考えさせられる。てか、考えを深めて自分の黒歴史を改めて消去したい。

 このたった一言により、男子はおろか女子まで櫛田の突然の奇行に呆気に取られて、男子への敵対心を忘れた事実を含め。

 

 

 

 坂柳の東風谷への攻撃ついでに山内を消す策を利用させてもらった。

 つまり「仲間以外には興味のない東風谷『が』山内に興味を持っている『らしい』」という誤情報を山内に流して、先程の『アレ』を誘発させたということだ。また櫛田にも最低限の根回しをしてもらって、夢月に本気を出させる予定になんとか修正できたか。

 危うく珍しく親切だった高円寺に全て食い破られるかと思ったが、夢月が食い止めてくれたことで実験の結果は上々だ。

 

 だが、A・Dの両クラスのヘイト役を、高円寺が自分から買いに行くとは流石に考えていなかった。予定外のハプニングでどこかの段取りが狂い、もしも夢月が退学になっていたらどうしたものかと柄にもなく一瞬心乱され、まさかの高円寺相手の正面突破に再び乱されてしまった。

 

 高円寺ははっきり言ってシンプルなポテンシャルが他と桁違いだ。量や質ではある程度オレが勝っている自信もあるが、総合的な実力の絶対値ではオレと比較しても遜色ない。しかも規格外は高円寺だけでなく、二三矢や東風谷もそうだ。

 

 自称・凡人がそんな奴らと正面から相対して、並外れた直感だけでなんとかしてしまうのだから予想外にもほどがある。思えば無人島や体育祭、それ以外にも何度か夢月を見て、時にオレともやりあってきたが、いまだにオレの予想を超え続けてくる。

 あの試合を見ていた者達は、その結果にオレも含めて唖然としていたことだろう。

 男子の何人かは、愛里と一之瀬の対決(の一部分)に釘付けになっていたが……。

 

 ただ、やはり夢月は予想以上や予想外に関しては即座に対応してくるものの、予想以下、それも遥かに下回る何かにだけは僅かながら反応が狂う。おそらく一定値以下の思考や言動を理解できないのだろう。表示されていた盤面を見ている限り、堀北や櫛田より多少早い程度の対応能力で収まっていた。

 本来ならそれでも充分なのだが、夢月が優先すべき何らかの余波が発生すると今回のように掘北に立ち直る隙を与えてしまう。明らかな弱点だ。

 

 性質上こちらのダメージも大きくなりやすいので、おいそれと突けるような隙ではないものの、最小限に抑える手を別に打っておけば問題ない。オレに繋がらないように隠蔽しつつ誘導する手間はそれなりにあったものの、山内は『最後に』なかなか良い仕事をしてくれた。何人か存在するイエス・キリストのごとき働きだった。

 

 ちなみに余談だが、歴史的な文章記録によると、イエスとしての活動は最低4人が確認できる。記録に残っていないイエスも含めて、歴史に残るほどの偉業を成すには相当数の目的達成を目指すイエスが存在したのだろう。

 

 ともかく今回の『実験』で確信に至った。

 夢月が本気になる場合は、友達か貸し借りのある誰かが危機に陥る道筋が確定した時か、飛躍する見込みがあって手助けする必要性が発生した時。

 意識してか意識せずなど関係なく、問題解決の最短距離を駆け抜けてくる。

 過程でいくら間違おうと、必ずと言っていい確率で答えに辿り着く。

 

 今回でいうと、『オレ』という元凶を倒しに。

 

 そもそも夢月の性格的に、指し手に自ら立候補した時点からおかしかった。

 あれは2月からの一連のトラブルが、一之瀬を万全の状態ではいられなくさせていたからこそ起きた異変だ。本来なら一之瀬は指し手として、いま夢月のいる場所に立っていたはず。

 

 つまりあれは思いつきでもクーデターでもなく、アフターフォローの一種だ。万全ではない一之瀬帆波というリーダーを破壊しかねない裏を見抜いて、無意識に自分を防波堤代わりにしたのだろう。

 

 前々から策謀を巡らせていたのは坂柳だが、その策謀を情報操作に利用しようとしていたのはオレだ。

 ゆえに元凶の1人ではあると言える。更に坂柳にはこの試験で手を出せないとくれば、打倒する対象はオレで固定される。

 

 念のため、坂柳が警告してきた月城という理事長代理が夢月にしただろう提案に乗せようともしてみたが、こちらは逆に絶対に乗っていないと確信させてきた事で返された。

 普段と立ち回りの割には、他人への敬意と気遣いを忘れないからこそオレさえも気が緩むんだけどな。

 

 もしも高円寺が終わらせていたら夢月も辿り着けなくなっていたかもしれないが、奇跡のような突破口で食い破り、おそらくAクラスの士気向上まで繋げてみせた。

 ならば、次に夢月が打ってくるのはオレを討ち取る手段と目的に繋がるモノ以外にない。それに的確なのはDクラスのキング防衛戦、しかもキング同士をぶつける通常のチェスではありえない抜け道を狙ってくるだろう。一之瀬に仕掛けられたような心を折る仕掛けを堀北に返しつつ……。

 

 一度でも『そう』と信じた夢月を相手にできる者はそういない。堀北でさえだ。現状がそれを証明している。

 あらかじめ櫛田を誘導しておかなければ、今この瞬間にはDクラスの敗北が確定していたはずだ。

 

「清隆、どこか嬉しいそうだな」

「ん、そうか?」

「あぁ、笑顔じゃないんだが、なんというか雰囲気が」

「よくわかったな。十中八九、これから全力の夢月が来るぞ。きっとだからだろう」

「はぐりんがっ!? 彼女のいるクラスにちょっと容赦なさすぎない!?」

「は、波瑠加ちゃん。それが夢月君だから……」

「それよりどうやってだ!? 指し手はキング戦以外では……ま、まさか!?」

 

 グループのみんなにはオレの現在の気分が察せられたのか聞かれたので、近い未来を話しておく。啓誠以外は打ってくる手が想像できないようだし、心の準備ができるように指でオレ自身を指しながら。

 

「その通り。堀北を乗せてくるだろう───ここに向かって」

 

 夢月と堀北には表面上の共通点がいくつかある。しかしその完成度とプラスαは段違いだ。現段階で当たれば堀北に勝ち目はない。まず戻ってくる堀北を立て直しておこう。

 敗北することこそが堀北の始まりに繋がり、初めてスタートラインに立つことを可能とするだろう。オレ自身のリスクはあっても、これくらいなら許容範囲だ。

 勿論、ほぼないと考えているが、今のDクラスに夢月が遅れを取るようなら、それはそれでプランを修正するだけでいい。

 

 少し前まで何をしても動かなかったオレの心が、いま未知の可能性を発端として踊り出そうとしている。

 果たして夢月はホワイトルームのやり方を打ち破り、『次』の敗北を運んでくれるだろうか。

 そしてもしも本気のオレを上回るようなことがもう一度あるようなら……。

 

───オレもアイツの創り出す未来の可能性に賭けてもいいかもしれない。

 

 それは十中八九、オレのほとんど動かなくなって『いた』心が躍るナニかを齎してくれるだろう。

 

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