ようキャ   作:麿は星

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151、覚悟

 

 約1年の付き合いを通して、一つの答えが出た。

 おそらく、綾小路清隆という男はいわゆる『戦争ボケ』のような精神になっている。平和ボケではない。

 極限状態に置かれ続けた結果、最終的に目的達成すればいい、といった本人の目的以外には無頓着になるアレ。

 

 ゆえに危険の少ない一般社会において自己の存在意義が曖昧になって、心に矛盾を抱えてしまう。時には矛盾によるストレスで暴走したり、押し潰されたりさえする……少し古い映画だが、ランボーがわかりやすいだろうか。

 

 言動でどういう形であれ一目置かれているだろう父親とはある意味対照的に、普段は口数も少なく態度は穏やか。それなのに、清隆は想定する目的だけは虎視眈々と狙い、修正に動くことはあっても完全に叩き折るまで決して諦めない。

 個人的印象ではまさに理想的な軍人や工作員なんかの在り方……いや、いっそ機械的と言った方がいいかもしれない。

 

 僕は『俺』だった頃から、善人・悪人も頂点・底辺もそれなりに見てきたが、清隆のような奴はかなり稀少だ。僕の知る限りでは、分野は違えど月城さんと他数人くらいしか知らない。しかも全くいないわけでもないが、特に歪な形ではあっても十代半ばでそこに至る例はなかった。

 稀少性では、それこそ一之瀬と競るレベル。尤も、一之瀬は大人になると社会にねじ曲げられて変わるタイプっぽいので、僕や『俺』が会ったことなかっただけかもしれないが。

 

 ともかく、これで答えを導き出す材料は揃った。

 2月から? そうではない。体育祭で僕が不自然な内容も混じった噂を流された時から、南雲や坂柳さんに紛れて仕込んでいたのだろう。そう考えれば、しっくりくる。

 あれは無人島で僕がよく知らなかった頃、神崎あたりがやるかもしれないと警戒していた『一之瀬帆波』への思考誘導と精神攻撃だ。

 

 南雲の指向性は利用し、坂柳さんには清隆自身を刺激剤として何らかの誘導策を打ったと思われる。

 勿論、南雲も坂柳さんが本人の意思と目的で動いていたのもおそらく間違いじゃない。そこへ清隆にとって足りない部分を付け加えた、ってところか。

 十中八九、何度かわかりにくいフォローを入れてくれた高円寺は、いつからどうやってかこれを察知して僕にサインを出していたのだろう。さっきの勝負前の言葉が神崎に向けてではなく、僕に向いていたから確信できた。

 

 他に、前々から執拗にも感じていた早苗の清隆への敵意。学が申し出ようとしたナニか。月城さんが口に出さなかった方の助言。綾小路グループが来る前に1人で部室へ来て、清隆とした会話。

 一つ一つじゃなく全体を繋げていってこれだけ揃えば、凡人にもわかる。

 

 あの天才馬鹿は、どんな形であれ自分の想定できない未知を求めている。

 

 僕か誰かがこの答えに辿り着けるように坂柳さんに仕掛けさせたのが、おそらく2月にあった一之瀬の長期休みをもたらした真相、または真意だ。いずれ自分に未知をぶつけに来る存在にだけわかるような示唆を込めた……。

 つまり、またもや人知れず繰り広げられていた討伐される魔王ムーブ。

 

……清隆って、やっぱり馬鹿なの? それかこれがまったくの見当違いな考えで、僕があの天才をいまだに欠片も理解できてないってこと?

 

 まぁ、どちらにせよ、嘘も真実もひっくるめて清隆が言ってたことに整合性を考えて推測を一つずつ繋げていけば、朧気に答えらしきモノは見えてくる。

 それに対抗するために向こうの戦力調整及び正攻法と奇策を組み合わせる想定もした上で、2枚ずつ用意しておいたがどうなることやら。

 

 

 

 

 

 唐突だが、間伐材の使い道として割り箸というものが存在する。

 間伐とは森の成長に合わせて木の密度を調節する作業のことで、自然と共存するためには欠かせない。その過程で出る間伐材を、様々に利用して無駄をなくしていたのだが、昨今ではこれを使わないようにしようという妙な動きがあった。

 

 これだと大物の建材などにする場合はまだいいのだが、割り箸を使わないようにするということは、なるべく作らないようになるということだ。つまり廃材となって捨てるだけになるロスが増える。自然をどうこう言うわりには、無駄に捨てる分量を増やしているのだから意味がわからない。

 

 同じような論でビニール袋もある。前世のトラ○プのように、リターンもほぼなくかえって弊害が多くなったとして元のビニール袋を復活させようとする動きはあっても、その動きが周知されること少ない。

 お偉いさん達なのに、そもそもの目的から離れて目先の利益優先する本末転倒に気づいてない、もしくは気づいても変えた事柄を容易には元に戻せないとは不思議なものである。

 

 資本主義や民主主義は必ず間違う、という言葉もあながち間違ってはいないのかもしれない。いやまぁ、だからといって共産・社会主義が正しいってわけでもないが。

 これらは有用な結果に繋がる事もあれば、かえって事態を悪化させる事もある一例といえよう。

 支配、統率、実力主義によるリストラや切り捨ても見方を変えれば、能力主義を気取り、業績下位の人を目先だけで辞めさせるコロナ前のアメリカ企業を真似た恐怖支配の模倣だ。

 

 それをやった企業がアフターコロナの折りに人手不足になり、時給4000円出してもマトモな人がやって来ないほどヤバいことになっていたのに、実行する企業は後を絶たなかった。ア○ゾンとか、ネト○リとか。

 神様のように、不老不死や常識外れの長寿な存在でこそ僅かに可能にできる……あくまで理想を追求するのが『主義』というものの本質なのかもしれない。

 

 ん? ふと思ったのだが。

 不老不死の存在に現実になれるとしたら、どれくらいの者がYESと答えるだろうか?

 不老不死を辛く苦しい、永遠の退屈…などと言われたりするのは、やりたいことがない者か、もしくは欲深い権力者への戒め、反抗心と言える気がする。

 

 ただそれこそがまさに不老不死へと至る道が存在する事を示している。薬かなんらかの不可思議かは不明なものの、実存性の裏付けになっているからだ。不老不『死』は死の可能性を消すわけじゃなく、生と死の境界をなくす術なのだと。

 このように、生きても死んでもない状態になるのを辛く苦しいと考えるなら、たしかにネガティブな意見になるのもわからなくない。

 それはまさにネクロファンタジア(天国であって地獄でもある世界)の実現だろうから。

 

 何故このような事が頭に浮かんだかというと、僕には…正確には『俺』の頃に、生きてもいないし死んでもいない状態というものを経験していたからだ。勿論、『俺』が不老不死だったなんてことは現在の僕がいる以上ありえないのだが、不老不死の精神状態を疑似体験したような気が今になってしてきた。

 

 そして妄想に過ぎないのはわかっていても、もしもアレが不老不死の入口なら僕自身にも親しい奴にも二度と体験させたくない。不老も不死も御免被るし、『俺』の底だった生きても死んでもないような顔を時々見せる清隆や早苗は、強引だろうと勝手だろうと僕が気づけるうちは引き戻す。

 清隆や早苗にどうも感情のプラス補正をしてるっぽいのは、きっとこの我が儘が影響してるのだろう。

 

 たけど───そう。死ぬまでこの部分だけは変わらず普通の人間でいたいと思うのが、僕の矜持である。

 

 

 

 まぁ、要は考え方次第というわけだ……って、そもそも僕は何を考えているんだ。堀北さんと結構な時間向き合ってるせいで、現実逃避していた。散らばっていた思考を元の路線に戻そう。

 まさに何もしなかったら、こういう路線に舵をきりそうな奴が目の前に1人いるし。

 

「よくもやってくれたわね左京君。兄さんのことも含めて全て叩き返してあげるわ」

「そっか。んじゃ、そろそろ決着しようか堀北さん。いい頃合いだしな」

「どういう事?」

 

 嫌な意味の信頼性抜群な清隆が珍しいやる気を見せてた時点で、こんなこともあろうかと言葉と想定は組み上げ、試験中に微調整して再構成しておいた。

 

「乗ってくるなら、まずDクラスのアナウンスをオンにしろ。僕もする」

「それに意味はあるの……?」

「特にないけど、最後くらいは全員納得できるように全オープンで真っ向勝負と行こうや。それとも自信がないか? それならしょうがない。このまま決めてしまうが」

「調子に乗ってるわね……いいわ。その自信、砕いてあげる」

 

 乗ってきたか。

 これ幸いと、お互いおもむろにアナウンスのスイッチを入れた。ここからの僕と堀北さんの会話は、それぞれのクラスへアナウンスされる。

 僕の隙を突くか、誰か天才や強者の尻馬に乗らざるをえないゆえの弱さだ。堀北さんが、蚊帳の外から内に入るにはこうするしかない。

 たとえ僕から言い出そうと、彼女が『始まり』の位置に立つにはこれが最も効率的である。

 

「逆だ。僕を簡単にブラックな場所に引き込めると思うな『堀北』。完膚なきまでに倒すための最短経路にもなるとわからないのか」

 

 そしてなによりもこれである。

 

「ブラック? 何のことかしら」

「とぼけるな。隠し玉の投入タイミングだ。あれほどいらん仕事を増やしておいて、知らんぷりなんかさせるものか」

 

 山内には早急に対策を打っておく。

 坂上先生と真島先生の顔に疑問符が浮かび出したが、堀北さんにも釘を刺す。

 

「隠し玉……? 藪から棒になんっ───! まさか“彼”が裏でしていたことに気づいたの!?」

「当たり前だ。こんなことをDクラスはしないと思ってたのに、とんだところで厄介事を倍増させやがって」

「あの左京君がここまで警戒するなんて。いったい何をしたの……彼は」

 

 早苗と山内の勝負前に零した言葉を使うとは、実に白々しい。いや、清隆の秘密主義と隠密性から考えれば、本当に詳しくは知らない可能性もあるか。

 

「ふん、なかなかの攻撃だった。次やる時はもっと工夫してくるといい」

「そちらこそ戯れ言を」

「それともう1つ注文だ。僕に関係ないところで頼む。勘弁してくれ。あっぷあっぷしてるんだ」

「本当に戯れ言…………話を戻すわよ。いいわ。貴方に乗った上で倒してあげる。誰が何で勝負するの?」

 

 たしかに懇願は、堀北さんにすることでも現在すべきことでもなかった。クールダウンだ。炎の煽りと、氷の冷静さを思い出して本筋に戻す。

 そしてお互いのクラスへのアナウンスをオンにした状態で全員が聞いている中、僕は最も“みんな”が納得のいく決着方法を提案してみた。

 

「そちらの準備したモノでいいよ。具体的には、こちらのキングをそちらのキングにぶつける。総力戦だ。Dクラスのキング戦はまだだから温存してあるだろ?」

「……は?」

 

 堀北さんは今日何度目か目を丸くした。

 だが、もうわかっている。山内は目的がわからないので置いておくと、おそらく背後に見え隠れする清隆と……月城さんは、ここのポイントを狙いすましていた。

 

 なら、乗ってやるついでに堀北さんも道連れにしてやる。いい加減、よくわからないことばかりでストレスも限界だ。考えるのが面倒くさい。ゆえに全てなぎ払う。

 Aクラスを目指すだのという目先の目的で僕に喧嘩を売る意味を教授してやろうじゃないか。

 

「どうぞ? 『堀北さん』が万端に準備しておいた策でかかってくると良い。僕とAクラスがそれに乗ってやるよ。責任も当然全て僕だ。喜べ?」

「ふ……ふふっ。甘いわね。簡単に勝てると思って驕ったのかしら? 私達のクラスが用意した勝率が最も高いのは……っ!」

 

 ここまできて、ようやく気づいたか。情弱のコミュ障め。

 情報戦。

 今、誰かの退学という名の犠牲を踏まえて勝つためだけの発言をクラスメイト達の前でしておいて失点してしまえば、櫛田相手にはもう巻き返しできなくなる。うちのクラスとの勝敗関係なくだ。少なくともクラスリーダーの地位は確実になくなる。

 

 なぜなら櫛田は裏事情込みだし、他のクラスメイトは知らないが、平田だけは見ればわかるほどクラスメイトを退学させることに強い抵抗を覚えているのが明らか。誰かを退学へと導いた時点で、平田との仲はギクシャクするだろう。

 

 そうなれば櫛田がその隙を突かないはずがなく、この状態で堀北さんの望むクラス一丸となれるわけがない。おまけに、清隆も高円寺も流石に女子同士のコミュニティへの介入は難しいので対処に時がかかる。

 だから2クラス全員が聞いているこの環境で発言を誤れば、試験で僕達に勝利しようと……仮にAクラスになることがあろうと、付け入る隙だらけのバラバラ。烏合の衆へと成り果てる。

 

「へぇ? 同意するんだ? じゃあお互いのキングを動かして当てるのに賛成ってことだな。それは重畳」

「ぁ、ぐ……。わ、わかった、わ。……4手先ね」

 

 勝てば官軍。

 そういった言葉もあるし、自分の実力でどうとでもなる。なんて考えているなら所詮その程度だ。先が見えていない。

 特に僕達に勝って、龍園や葛城のクラスに次以降の対決で負けたら堀北さんにとって本当に最悪だ。そして清隆や高円寺が万が一その気になったとしても、スタンドプレイヤーが乱立するバラバラの烏合の衆を率いて良い結果を出せるほどアイツらは甘くない。確実に。絶対に押し負ける。

 絶対にだ。

 

「君達のキング防衛戦なら『ちょうど』15人ずつ+僕達で全員が参加できるな? 『戦術的指揮官』としての能力が試されるって考えると、『上手い具合』な現状になったわけだ」

「う、ぐ……」

 

 そこで負けたら、堀北さんは2度と……少なくともしばらくはリーダー的な立場に返り咲けない。何度も言うが、櫛田がその隙を逃すはずがないからだ。1年間ずっと地道に下積みを積み続けてきたあの承認欲求の塊が堀北さんを押し退ける。僕や早苗との縁もフル活用して綺麗に事態を収めるだろう。

 

 更にここで僕達のクラスに負けても、退学者を1名出すことになる。先に述べた通り本人は退学の対象とならなくとも、もはやそんな堀北さんに従うのは何らかの巻き返しがなければ友好感情を向ける少数しかいなくなる。

 生徒会役員という札があってようやく起死回生の目がなくもない、といったところか。

 堀北さん自ら「他にいないだろう」の『他』が舞台に登る機会を作ってしまった以上、勝敗関係なく打てる手が限りなく少なくなった。

 

 要は堀北さんにとって、もしかしたら初めての挫折と長期に渡るかもしれない屈辱の2択というわけだ。彼女が何度か僕に言ってきた努力ではどうにもならない、な。

 その未来が多少なりと読めたからこそ、堀北さんは今、言葉に詰まっている。自分以外の他人を率いる意味を『初めて』自覚したのだ。言い換えるなら、これが人を率いる重さというものである。

 僕は駒を進めながら、あたかも遥か上から見下ろすような態度で、堀北さんを“見上げ”ながら足を掬いにかかった。

 

「覚悟はできてるか堀北さん? 僕はできてる」

 

 勝負を捨てて、お互いに退学者が出ないよう交渉しましょう?

 

 一之瀬の性質をある程度理解して初めて辿り着けるこの答えをここで言い出せる奴なら、そもそも現状にはなっていない。

 信条を柔軟に曲げられる奴なら、反則ギリギリの手やそのもの、もしくは遜ってでも違う着地に至る。

 第3の選択肢を創り出せる天才なら、僕より深い場所で思考を突き詰めるからすぐに次の答えを導き出す。

 

「まだっ……まだ、勝負自体は着いてないわ! 同数でならこちらにも分がある!」

 

 つまるところ、学と近い善性と努力に寄った判断に拘るなら堀北さんは詰んでいる。ズルい横紙破りができるほど悪辣な精神性でない以上、あとは最悪の選択肢を選ばないことしか彼女にはできないのだ。

 それにしても、鍛え上げるなんて言ってた清隆と同レベルと想定した誘導術をかけてみたが、幸いにも交渉能力は低めで助かった。この面は以前とほとんど変わっていない。

 おかげで覚悟した場所まで辿り着ける。

 

「そうか。じゃあ、ボチボチやろうか、最終決戦」

 

 それなら背伸びした子供をイジメるものじゃない。正直、同級生なのに一歩間違えば事案発生の匂いがしてきそうで、大人としての精神がソワソワしてきた。この場では、玉虫色の結論で誤魔化しておくのが無難だ。

 一度は『大人』を経験しているのだ。なら、感情の好き嫌いで物事を決めつける愚もわかっている。

 

 最高値をあたかも決まった未来のように仄めかして過剰反応気味に脅してしまったが、兄の学のよしみで少しは先を読む補助をしとけばアイツも安心して卒業できるだろう。

 僕は借りと義理はなるべくトントンで返す主義なのだ。

 

 昼の食事休憩を挟んでからが事実上最後の対決になるので、少し早いが忘れないうちに真嶋先生と坂上先生にお礼を言って、僕と堀北さんはそれぞれの陣営の指定待機場所に向かい、用意されていた仕出し弁当に舌鼓を打った。

 最終戦はおそらく誰かさん達の予想通り、キング同士の決戦になった。いや、そうした。なんて、なんとなく考えながら。

 

 

 

 試験が再開される13時30分の格技場。

 ぶっちゃけ直前まで確信はしていなかったのだが、改めてヤツが不審人物と呼ばれる所以を思い知った。

 格技場内が少し珍しい装いに変わっているのを挟んでDクラス側。昼食を挟んでも大騒ぎになってるDクラスの面々を他所に、遠くから謎に僕を見ている友達が1人。

 そう。清隆である。紛れもなくヤツだ。

 

 それも、おそらく何か勘違いをしている。なぜなら清隆がそんなわかりやすい意思表示をするなんてありえない。僕の思考予想もできてるだろうし、これは必要のない行動である。

 結果、表情は変わらないものの、浮遊してるのかというほど滅茶苦茶周囲から浮いている。まるで浮かれポンチだ。

 

 公共空間で奇行を見せて「誰か察しろ!」をやったら、一般社会だと警察が駆けつけてきて職質されるだろうに。

 早苗はだいぶ気楽になってきたっぽいけど、清隆の浮世離れした振る舞いはなかなか治らないな。

 

 ここから読み取れるのは高円寺はともかく、山内には清隆が何かしらの手を加えた可能性が高くなったということ。……そういえば数日前にスケープゴートがどうとか言っていた。

……ああ、うん。この点については、早苗の判断が正しかったと認めざるをえない。うちが勝利した場合の試験後に、順当な結果になれば確定か。

 

 今回の『チェス』試験の裏で起きていた原因、その6~7割程度は清隆の仕業だと、ここにきて僕の勘が異常反応している。

 

 え、マジかアイツ。クラスメイトを自爆特攻(推定)させるとか、どんな思考してればそんな手に至るんだ? なに食わぬ顔で気軽に他人の人生狂わせてんじゃねぇよ。平穏だの普通だのはなんだったんだ。頼むから言動を一致させてくれ。

 だが今更気づいても、ここに至ってはもう追加の手は打てない。考えてもどうしようもなく、僕の手の届かない範囲だ。無理矢理でも忘れて、再犯しないようにまた一撃は入れておく必要ができたが。

 

 今回、攻め込んだのは僕達のクラスなので、Dクラスが設定した勝負内容だ。

 双方の生き残りの生徒16人全員による1人各10個のペイントボール(うちは赤、Dクラスは青)を使った雪合戦もどき。範囲は目算で約300㎡の大きな格技場内全域を使うらしい。また弾除け用の障害物がいくつか設置されていた。

 

 そしてペイントボールに当たらず、最奥のAもしくはDと書かれた旗が立っている指定エリアに到達した生徒の多いクラスが勝ちである。勿論、指し手の僕と堀北さんも1人分に換算される。当たり判定は、服の『胴体部分』に一定以上の範囲で直撃判定が出た者がアナウンスされて脱落していく。顔面や手足は場合によってはセーフである。

 

 ちなみに自陣のエリアへ戻れば、ペイントボールが入っているザックごと交換・補充可能。防御用の盾なども大中小の3種から選べる。余談だがペイントボールの中身は簡単に水で流せ、洗うのも楽で目に入っても安全な塗料らしい。

 

 また相手陣地のエリアに到達した数で競うといっても、最奥のエリアに到達した者は以降は攻撃にも妨害にも参加できない。例えば極端な話、誰も倒さずに15人が相手エリアに到達し1人が何もできずやられたら、相手の16人が全員生存することになるので負けとなる。

 

 攻撃、防御、支援、妨害など意外と戦術要素を掘り下げれば奥深そうなゲームだ。ボールを投げ合い突破するだけと油断すると、痛い目を見ることになるだろう。

 ま、攻略法が明確なので本当に最後の決戦用だったと思われる。おそらく早苗一人のビショップで攻め込んで、タイマンに持ち込んでいれば楽勝だったはずだからだ。そんな勝負に流石に清隆は選出できなかっただろうし、早苗対策と思われた愛里と高円寺は僕との対戦ですでに脱落している。

 

 ただ、こうした下準備は用意しておいてくれると思っていた。頭が良い奴は勝手に先を想定して、最悪の展開を避けようとするものだからな。これなら戦犯さえ用意するだけで、格段にリスクを下げられる。

 当然、『清隆』にとっての最悪は自分の退学……ではない。おそらくいくつか透かしてきた目的達成が不可能になることだろう。これは清隆自身での修正込みでだ。

 

 だから、そこへ落とし込むように堀北さんを誘導すれば、迎え撃つ態勢で待つ構えになると想定していた。

 事前に何故か月城さんの思惑に加担させるような、僕を敵に回したいような誘導をかけられたが、それに乗るわけがない。僕が清隆を葬る…退学させて何の意味があるのか。天才の考えは相変わらず意味不明な部分が多い。

 

 しかし完全に興味本位だが、清隆には一度、事業計画書的なモノを作って実行してみてほしいものだ。一言で言うと、出す言葉と実行する行動を一致させたらどうなるのだろう。

 ああいう環境適応型の天才にありがちなのだが、これはこうなるからこういう計画になり、実行にはこれが必要。つまり見積もり出して、仕事する。終わったら見積もりと相違点がないかチェック。みたいな普通の会社ならやっていることを、清隆が本当に『チーム』でできるのかと何気に疑問だった。なんでも単独実行するか、他人・駒を利用する手法に慣れきってる感じがする。

 

 似た性質を持つ奴に堀北兄妹や坂柳さんも存在し、上司であるうちはまだマシでも部下的な立場になると、学以外は僕の経験から考えて結構面倒だったりする。あんまり人のことは言えないけど、勝手に事態を進行させたりするからだ。

 

 

 

 と、とりとめもない事を考えているうちに、うちのクラスは試合前ミーティングの最終決定に歩を進めていた。

 

「じゃ、じゃあ運動が苦手な人を中心に私や麻子、柴田君が援護しつつ右翼方面から突破を目指す、って方向性でいいかな?」

「あ、あぁ。俺はそれでいいぜ? 須藤やできれば平田も引き付けておく」

「だったら俺は一之瀬と柴田をフォローできる遊撃に回るよ。どっかの僕はパンピーだぜ、って顔になってる変人にもすぐ駆けつけられる位置だしな」

 

 誰だよ変人って。ほぼ悪口を言わない四方に言われる奴は相当だぞ。少しは自重したり、協調の姿勢を見せろよ。まったく迷惑な奴もいるものだ。まぁ十中八九、早苗だろうけども。

 なぜなら、まず僕は違う。きちんと言うこと聞いて、前に立つ一之瀬に視線を向けてクラスメイト達の横に並んでいる様は、客観的に見て真面目そのものだ。模範生徒といって過言ではあるまい。

 現時点でみんなを仕切っているリーダー・一之瀬に背を向けるように、何故か僕と向き合ってる常識のない早苗とは違うのだ。

 ともあれ。

 

「おいっすー、了解。まとめると、進路は僕と早苗が左翼方面、四方や姫野達が中央、右翼方面が一之瀬率いる本隊ってことだな」

「なるほど。夢月さんとならまぁ二人でもなんとかなるでしょう。暴れますからね」

「「「「……」」」」

 

 しかし、なんだろう? さっきからやけに、一兵卒の僕に向かう視線を感じる。早苗だけではなくだ。

 僕と早苗の進路上には櫛田と綾小路グループ(先んじて脱落してる愛里抜き)が、四方含む4人の中央には平田を加えた軽井沢さんや松下さんが、一之瀬達本隊の先には堀北さん含む残りのDクラス戦力が固まっている。

 

 大人数同士を当てるのは、中央や右翼側に身を守る障害物が多いという要素に加え、団結と連携において最高なうちが優位に立てる確率が高いからだ。

 ゆえに、発言自体は妥当と思われるのだが。

 

「…………おい左京。お前、なに自然に使われる側に回ってんだよ」

「あん? 最初から総力戦になった場合の指揮は、クラスリーダーの一之瀬って決まってただろ。なら、でしゃばったら駄目だろ。僕は一般生徒なんだし」

「うん、たしかにね? たしかにそう決まってたよ? でもさ」

「さっきは左京君が率いるみたいな話の流れだったじゃない!」

 

 指し手を合わせて16対16のクラスの半数弱同士の対決だ。僕達のクラスで一之瀬も生き残っているんだから、指揮は一之瀬以外ありえない。むしろリーダーの一之瀬だけは何があっても生き残らせるために、機動力最高のクイーン配置にして四方まで付けてたんだ。

 つまりここまでくれば、僕のクラスでの仕事は終わったと言えよう。あとは清隆にトマトのごとき紅き液体が入ったボールをぶちまけて、野となれ山となれ作戦を遂行するのみである。

 

 ちなみに、わかりやすいよう僕達の使うペイントボールの中身は赤、Dクラスは青となっている。

 今にも飛び出して行きそうな早苗も僕に付いて来てくれるみたいだし、本人の言う通りなんとかなるだろう。僕は避けることに関しては自信があるのだ。

 なので、柴田達の言いがかりは適当にいなしておけば充分だろう。

 

「ああ、きっと気のせいだ。でも明言した責任(退学)は僕が取るし、誰かに押し付けたりもしないから安心しろ」

「軽ぅううういっ!! そうじゃないでしょ!?」

「ふ、ふふっ。気のせい……夢月さんの平常運転が何故だか妙に可笑しい……あふっ、はははっ」

「はぁ、コイツら……。だが、試験では案外これが最適解かもな。幸村と長谷部はともかく、清隆と三宅を放置するのはまずい気がするし」

 

 Dクラスの布陣を確認しても、あれは明らかに防御重視だ。身体能力の高い者を中心に迎撃して数を減らし、それまでは弾幕を途切れさせないようペイントボールを補充しに行く兵站部隊を編成しているのだろう。だからかなり後方寄りに固まっているのだ。

 個人的には、須藤あたりに補助を何人か付けて突撃させ、隙を作り出してから突破する戦術になるかと思ってた。纏まりがなく攻撃偏重気味なDクラスの性質にも合っているしな。

 

 でも誰が決めたか知らないが、ある意味で逆の戦術同士になったのは楽になるかもしれない。この状況なら、一之瀬の指揮に四方の遊撃を付けた機動戦術にした方が勝算は高いからだ。人数を揃えた上で、盾を構えたファランクスもどきを即席で実行するに、団結力が突出したうちほど適したクラスはないだろう。

 なので、とりあえずほとんどの戦力を一之瀬に渡す。とにかく多く生き延びてもらうにはこれが最適解だと今決めた。

 

 終盤まできてようやく清隆の悪癖に思い至り、目的が定まったのだ。

 ゆえに、本気で当たった上で何故か敗北を望んでいる奇妙な友達にわからせるため、僕『達』は開始の合図とともに挑みかかった。

 

 まぁ、覚悟を決めた後の僕はただ突き進む進撃の夢月になるだけなので気楽である。

 ただ勝つだけなら、弱くても勝てるものだからな。

 弱さの自覚と挑戦する覚悟・心意気を忘れなければ、突破口は見えてくるだろう。

 

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